「Nothing」と一致するもの

Slowly Rolling Camera - ele-king

 英国のバンドやミュージシャンの音楽性を形容するとき、折衷的という言葉が使われることがある。いろいろなジャンルの音楽、複数の音楽的傾向を取捨選択し、その融合の中から自身の個性を確立していくことが、英国の音楽には多い。ジャズ・ロックなどはその最たる例であるし、UKソウルやUKレゲエもそうした産物である。アシッド・ジャズからクラブ・ジャズに至る流れは、そうした英国の折衷主義が如実に表れたものである。スロウリー・ローリング・カメラというバンドは、こうした折衷主義という言葉が実によく似合う。まだマイナーなバンドだが、結成は2012年のカーディフに遡り、女性シンガーのディオンヌ・ベネット、キーボードのデイヴ・ステープルトン、ドラマーのエリオット・ベネット、サックスやトロンボーンのデリ・ロバーツから成る4人組である。メンバーはカーディフの音楽サークルの顔見知りで、それぞれ別のバンドでそれまで10年ほど活動しており、デイヴとエリオットはデイヴ・ステープルトン・カルテットで純粋なジャズもやっている。デイヴは〈エディション・レコーズ〉を2008年から運営し、自身の作品のほかにキース・ティペット、ノーマ・ウィンストンなど英国ジャズ界の大御所の作品もリリースしている。ほかにロバート・ミッチェルのパナセア、カイロス・カルテット、ガールズ・イン・エアポーツなど、英国コンテンポラリー・ジャズの最前線も紹介し、非常に意欲的なレーベルだ。

 スロウリー・ローリング・カメラがファースト・アルバムを発表したのは2013年。ジャズにソウルやファンク、ロックを融合したサウンドは、メンバーのほかにゲスト・プレイヤーたちの力を借りて作られた。デイヴはコズミックでフューチャリスティックなシンセからヴィンテージ感溢れるオルガンやローズまで多彩に操り、デリは管楽器意外にエレクトロニクスも担当。そして、ディオンヌの深くエモーショナルな歌声、生ドラムとプログラミングを併用し、ドラムンベースなどを咀嚼したエリオットのリズムといった構成で、重厚なダブル・ベースによるジャズを基調に、ギターなどに見られるロック的なテイスト、ヴァイオリンやチェロなどストリングスの導入による陰影に満ちて壮大なサウンドスケープを見せている。アシッド・ジャズ~クラブ・ジャズ的な要素とコンテンポラリー・ジャズ的な要素が一体となったサウンドで、リチャード・スペイヴンなどに共通するところもあるが、ディオンヌの歌が個性のひとつになっており、よりソウルフルな印象を与える。メランコリックでダークな色彩を帯びたテイストから、ダウンテンポ系ではマッシヴ・アタックやポーティスヘッドからジェイムズ・ブレイクなどを引き合いに出すUKのメディアもあったが、個人的にはシネマティック・オーケストラ、トゥ・バンクス・オブ・フォー、4ヒーローあたりを彷彿とさせる作品だった。

 それから3年ぶりに発表したセカンド・アルバムが『オール・シングス』である。ゲスト・ミュージシャンでは、ギターにシネマティック・オーケストラでも演奏し、リチャード・スペイヴンともコラボするスチュアート・マッカラムを招いている点が目に付く。基本的には前作の流れを引き継ぐ音楽性だが、全体的にエレクトロニックな要素がより強まった印象だ。“ザ・フィックス”や“ハイ・プレイズ”などがその代表で、クラブ・ミュージックとしてのエモーションやダイナミズムが前作に比べて濃厚だ。“ザ・ブリンク”のリズム・セクションとファンキーなディオンヌのヴォーカルは、明らかにクラブ・ジャズを意識したものだ。ビリンバウなどブラジル楽器も用いた“デルーシヴ”、オーケストラルなサウンドの“シニシレーション”あたりは、『トゥー・ペイジス』や『クリエイティング・パターンズ』の頃の4ヒーローが蘇る作品。ダークな味わいに富むコズミック・ジャズの“オビリヴィオン”は、シネマティック・オーケストラやトゥ・バンクス・オブ・フォーなどから受け継がれるUKクラブ・ジャズの神髄と言えるだろう。USのジャズとは全く異なる価値観や方法論を持つこのアルバムは、折衷精神が強い英国だからこそ生まれるものなのだ。

Foxygen - ele-king

 ツイッターのタイムラインにトランプのツイートが流れてきた。煽り屋の発言を極力目に入れたくないのでフォローしていなかったのに、おや? と思ってよく見てみると、それは「アメリカ大統領」のアカウントからの投稿だった。ああ、そうか……。いやしかし、実際「トランプ大統領」の無責任にも程があるツイートに大企業も各国の首脳もメディアも見事なまでに踊らされていて、いったい何がどうなっているのかよくわからない。虚構メディアがもはや現実に追いつかなくてネタに困っているという。ポスト・トゥルース? 毎日が笑えないスラップスティック・コメディのようだ。

 本作の先行シングルとして発表されたその名も“アメリカ”には、しかし声を上げて笑わずにはいられなかった。仰々しく嘘くさいまでにドリーミーなオーケストラとともに歌い上げられるのは、アメリカに住んでいることそのものの可笑しさ、明るく壊れた狂気である。「だって彼らはアメリカに住んでいるからあー、アーメーリーカーーーー」と朗々と歌われれば、ブラスと弦が同じぐらい大げさにそれに応える。このくだらなさ、バカバカしさ。しかしいっそこれぐらいのほうが、この何もかも嘘みたいな時代にはしっくり来る。時代錯誤のサイケ・デュオ、フォクシジェンはLAを知っている人間の音楽だな、といつも思う。アカデミー賞大本命と言われているハリウッドのカラフルな「夢」をミュージカルに仕立てたデイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』にしても、LAのファッション業界の虚飾を禍々しく描いたニコラス・ウィンディング・レフン『ネオン・デーモン』にしても、ロスでアメリカ製の夢を作り出す産業は頭のネジがどこか2、3本外れているかのようだ。偽物の輝きに満ちた商品が生産され続ける都市からやってきたフォクシジェンは、舞台装置じみたレトロ・ポップをここでもまた繰り広げる。
 20世紀の……とくに70年代のロック・クラシックスを無責任にピックアップして、巧みな編集でミックスするという基本路線は変わっていないが、オーケストラが大々的に導入された通算4作め。前作『……アンド・スター・パワー』はサイケ・バンドらしく誇大妄想が炸裂した2枚組の大作だったが、本作は一転30分少しの尺的には「小品」だ。が、40人編成(!)のオーケストラを導入して20世紀のロックの遺産、ボウイとルー・リード、ピンク・フロイドとビートルズとストーンズとTレックス……をぬけぬけと借用するこのアルバムの「サイズ感」そのものはけっして小さくまとまったものではない。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットを思い出そう。あの大人数感、あの過剰さを、ふたりで夢想したのが本作である。
 8曲しか入っていないが(前作は24曲)、しかし聴き終えたときのボリューム感はその3、4倍くらいに感じられる。たとえば“アメリカ”を通過したあとの“オン・ランカーシム”は3分に満たない曲だが、その間にピアノ・バラッドがグラム・ロック風に展開していき最後には無駄に壮大なロッカ・バラッドになるのだから、それだけで胸やけしそうである。あるいは見世物小屋のショウをそのままドゥワップ調に仕立てた“アヴァロン”、70年代のロック・オペラを5分足らずで繰り広げるような“トラウマ”、そしてスタジアムでのロック・ショウ締めくくりを再現するような“ライズ・アップ”と、どこからどこまでも芝居じみている。いかがわしくて、そしてくだらない。レトロがありがたがられる風潮を知的に批評するサイケ・バンドと言えばMGMTのような存在もいたが、伏兵がそれを完全に乗っ取ったという感じだ。中心人物のジョナサン・ラドーは昨年ホイットニーとレモン・トゥイッグスというUSインディ・ロックのなかで話題に上ったアルバムをプロデュースしていることからもわかるように、明らかに確信犯としてこの嘘くさくてシュールなサイケ・ショウを提供しているのだ。

 サイケが時代的にインなのかアウトなのかももはやよくわからないが、少なくとも『ハング』を聴いている間はクラクラしながらもゲラゲラ笑うことができる。ファーザー・ジョン・ミスティのスタンドアップ・コメディとしてのフォーク・ミュージックと並べてみてもいいだろう。時代は混乱しているから、日々繰り広げられるマーチのような怒りも闘いももちろん必要だ。だが、何もかもがバカバカしくなったときに聴くポップ・ミュージックにもまだパワーが宿っているのだと思わされる。このアルバムを聴き続けていると、いまはとにかくくだらなくて、だけどとびきり知的なコメディが見たくなってくる。

Shobaleader One - ele-king

 続・音楽を破壊すべし――スクエアプッシャー率いる覆面バンド、ショバリーダー・ワンからふたたびele-king編集部にインタヴューが届けられました。相変わらずとても興味深い内容です。
 待望のアルバムは3月8日に日本先行でリリース。4月には来日ツアーも決定しています。東京(4/12)、名古屋(4/13)、大阪(4/14)の3都市をまわります。リリースおよび来日公演の詳細はこちらをご覧ください。
 それでは以下、新たなインタヴュー全文をお届けします。

Company Laser :俺がギグを悪用してるなんて話、信じるなよ。その件で何か聞いてるか?

Squarepusher:ショバリーダーが浮遊しているとかっていう話なら幾つか。でも俺は自分で見たことないから、そいつが本当に良いものなのかどうか確かめたいね。そしてこの馬鹿げたミッションのことは忘れるんだ。

■では、あなた達はフォローアリーダー(※先導者の後を追え)に従うんですね。それでは意味がないのでは? それについてはどう感じてます?

Strobe Nazard:俺がどれほど無意味に感じてるかって?

Squarepusher:自分達が模倣されているかどうかについては、あまり考えても仕方ないと思う。プロテクトが必要なのは、アイディアを自分自身で実行した時だ。ミュージシャンはそれぞれが一定量の仕事をこなしてこそ真似できるようになる。創作の技法はどこにでも転がってるんだよ。

■ですが、ミュージシャンが進歩するにつれ、次のような発言やオリジナリティのある音楽を残せるようになるのは確かですよね。

Arg Nution:オリジナリティを気に掛けるやつなんているのかよ?

■ですが、音楽で表現する様々な精神状態に到達するために、人は特別な技術を用いる努力をしてはいませんか? 様々な音楽の感じ方を体験したり、音楽的アイディアを得る方法の1つとして、睡眠不足があると言いますよね。あるいは意識に変化をもたらすような薬物(サブスタンス)についてはどうでしょう?

Arg Nution:俺の本質(サブスタンス)に変化をもたらしてみるってのはどうだ?

■はい?

Squarepusher:こいつは音楽の良心となるべきものなんだよ。だが様々な薬物の使用というのは、人をそういった主張へと導く建物を取り巻いている神秘性を経験するための安易な手段なのさ。さもなければ、そうあるべきだとされる態度を演じるために、人は危険な心理的領域に踏み込んで、アーティファクト(人工物・芸術品)を持ち帰って来なくてはならない。そこで音楽の気体状態が形成されるんだ。このアーティファクトは、そういった移行サービスにとって申し分のない音楽的な精神状態にすぎない。これはミュージシャンとしてのブラウザの概念だが、俺にとってはむしろプロとしての作品に近いね。

■ということは、もしかしたら私達は、ミュージシャンが自分達の音楽的な努力について語っていても、そういった話を信じるべきではないのかもしれませんね。

Arg Nution:信じられるなら、どんなおとぎ話でも信じればいいさ。

■大抵のミュージシャンが口にすることだけれども、実際には嘘をつく機会がなかったこと、何か思い付きますか?

Company Laser:ミュージシャン達がビジネス会議を開くおかげで、圧力がかかっているテーマについては有意義なことは何も語れないってのはよくあるね。

Squarepusher:そういう厄介な状況では、アーティスト自身が満足するようなことは何も伝えられないんだよ。伝記的な部分に空白状態があるのは忌み嫌われる。そして他の誰かがケチをつけるんだ。それどころか大抵の場合、自分が言ったハッタリやデタラメな話を、他の連中が膨らませる方が望ましいのさ。

■では、このインタヴューでこれまで語ったことの中にデタラメはありますか?

Arg Nution:「では、このインタヴューでこれまで語ったことの中にデタラメはありますか?」だとさ。

■私をイラつかせようとしてるんですね、でも今、現実が段々と……どうぞ、真似してもいいですよ。

Strobe Nazard:俺達の発言は全部デタラメなんだよ!

Squarepusher:Strobeは矛盾してるのさ。今言った一文は「うそつきのパラドックス」(※「この文は嘘だ」という命題は真か偽か、いずれにしても矛盾するということ)の一例みたいだろ。

Company Laser:その問題の方が面白いね。むしろ、自分の作品について語っているミュージシャンの話が真実かどうかなんて、そんなの誰も気にしないだろ? って感じ。音楽業界がこれまで築いてきたのは、常軌を逸した物語を求め、それを聞いたら真偽にかかわらず議論を終わらせるっていう土壌だろ。証明書の有効性を公表せずにいる方が都合がいいって話でさ。それで、人の発言について真実を語るのが難しくなる。事実に基づく報告よりも、大げさに誇張した表現をする熱意の方が受け入れられるんだよ。

■特に現在の政治的意思の状況を考えますと、真実を語るということは重要なんではないでしょうか?

Strobe Nazard:俺達の発言は全部本当だよ!

■それが疑わしくなり始めてきたんですよ!

Arg Nution:俺はこうしてあんたと同じ部屋に腰を下ろして喋ってるってことに疑問を感じ始めているぜ。

Company Laser:この件に関して、まともに話さなくてもいいという権利があることが、事態を難しくしているんだよな。俺達もちょっと冷静にならないと。今の政治情勢は、この宇宙の他のどの場所ともかなり異なってるだろ。もしかしたら政治的な部分では合意が成されていて、正直であることが期待されていると分かれば、あんたもホッとできるかもしれない。地上の問題については、何かの破壊を促し、そいつをぶっ壊しているボーブ(愚かな奴ら)は受け入れられないというのが、あんた達の間で浸透している一般的な考えだろ。互いの結びつきを断ち切り続けているというのは嘘だね。

■でもあなたは先ほど、私が嘘ばかりついていたと言いましたよね?

Strobe Nazard:彼は嘘をついていたね。

■ちょっと目まいがしてきたんですが……窓を開けていただいてもいいですか?

Company Laser:俺は想像の星に魚を集めさせ始めたんだ。そこには何でも加えられる、特定の星の魚(ヒトデ)に関するどんな思い出でも、どういった見た目の魚の星がいいかという例でもいい。俺は収集を始めているんだ。

Squarepusher:俺にも幾つかあるぜ、ちょっと待ってな。

Arg Nution:気分は良くなったかい?

■ええ、大丈夫だと思います。あなたがアイディアを生む際、あらゆるネタを集めまくることが重要なのはどうしてでしょうか? 例えば“50 Cycles”という曲がありますが、詩が頭に浮かんで、あなたのクリエイティブな文体がそのプロセスに寄与するよう、そういった言葉が聴こえてくるということですか?

Squarepusher:でも俺は、テキスト形式の音楽という形で曲を書くのが楽しいんだよ。曲は注意を払わないやり方で書かれるべきだからね。俺はそういうことはしないから。名前を電車の軌道整備士(※ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』に、スクエアプッシャーと呼ばれる軌道整備士が登場)から取った場合、どこまで許されるのかってことを言いたくて書いているのさ。

■正にその通りですね、制約なんて、なぜあるんでしょうか? 冷蔵庫のボトル入りの水をお渡ししても?

Company Laser:あんた、名前は?

■私の名前はスティーヴンです。

Arg Nution:でも俺の名前はインタヴュアーじゃなかったっけ?

 アルバムおよび来日公演の詳細はこちらから。

Laurel Halo × Hatsune Miku - ele-king

 昨年ベルリンのCTMフェスティヴァルで発表されたローレル・ヘイローの新しいプロジェクト、「スティル・ビー・ヒア(Still Be Here)」。これはクリプトン・フューチャー・メディアのソフトウェア「初音ミク」にインスパイアされたもので、Mari Matsutoya、Darren Johnston、LaTurbo Avedon、Martin Sulzerとの共同プロジェクトとなっている。そのスティル・ビー・ヒアが1月31日、“Until I Make U Smile”および“As You Wish”と題される2曲のMVを公開した。

 大きな文化現象となってしまったことで、かえってその勘所が見えづらくなってしまった感のある初音ミク~ボーカロイドだが、近年少しずつ音楽の文脈からそれを捉え直す流れが生まれてきているように思われる。かつてデトロイト・テクノにどっぷり浸かり、OPNことダニエル・ロパティンらと共同作業をおこない、〈ハイパーダブ〉から作品を発表してきたローレル・ヘイローのようなアーティストが、まさにいま初音ミクとがっつり向き合うというのは、何かひとつ大きな突破口になるような気がしてならない。今後の動きに注目である。

https://www.aft3r.us/still-be-here/

Jesse Osborne-Lanthier - ele-king

 ジェシー・オズボーン・ランティエは、ベルリン/モントリオールを拠点とするサウンド・アーティストだ。彼はソロに加えて、バナルディーノ・フェミニエーリとのフェミニエーリ・ノワール、ホボ・キューブズとのザ・エイチ(The H)というユニット活動もおこなっており、2015年にはロバート・リッポックとの『タイムライン』を、2016年にはグリーシャ・リヒテンバーガーとの『C S L M』をリリースするなど、コラボレーションにも積極的。リリースは主にカセットとデータ(リヒテンバーガーとの作品はLP/データ)を中心におこなわれ、〈ホエア・トゥーナウ?〉や〈ハルシオン・ヴェール〉など、知る人ぞ知るレーベルから作品を送り出してきた。そのサウンドは、聴き手の知覚の磁場を不安定に拡張するかのように強烈である。

 そのジェシー・オズボーン・ランティエが、2016年に〈ハルシオン・ヴェール〉からリリースしたアルバムが、この『アズ・ザ・ロウ・ハンギング・フルーツ・ヴァルネラビリティーズ・アー・モア・ライクリー・トゥー・ハヴ・オールレディ・ターンド・アップ』である(以下、『ATLHFVAMLTHATU』)。私には、この『ATLHFVAMLTHATU』こそ、2010年代のインダストリアル/テクノの現在形を示すアルバムに思えた。ヒップホップやグライムをルーツに持っているように聴こえながらも、それらの要素は、ノイズの中に焼け焦げ、まるで残骸のようなノイズとして放出されていたからだ。融解ではなく、焼き尽くされた感覚。まさに、この不穏な時代を象徴するような感性である。その衝動の連鎖のごときサウンドは、メタリックで乾いた感覚をリスナーの耳に残す。まるで鉄屑の美学のように。彼のリズムは、自身の衝動的な律動そのものだ。やや古い映像だが、3年前のライヴ映像を観ても、それはわかる。

 肉体の衝動。そして光の衝撃。この強烈な暴発感覚は、本作『ATLHFVAMLTHATU』でも同様だ。衝動と鉄屑のように乾いたサウンドは、より緻密に、強靭になり、同時に、一種の(奇妙な)ノイズ・レイクエム的な終末感覚を醸し出していた。そう、2010年代のインダストリアル/テクノが、ある種の同時代性を持っていたとするならば、この「世界が終わっていくこと」の意識/無意識を、強く反映した音楽だったからではないか。じじつ、1曲め“ノース・フェイス・キラ”から、まるで「空爆」のような壊れたビート、爆発のようなノイズが炸裂する。まさに「世界の終わり」の感覚である(むろん、それが一種のフェイクであったとしても問題はない)。

 だからこそアルバムの終曲=終局である“ヴェロシティ、バイロケーション、パイロキネシス”は、どこか讃美歌のように響いているのだろう。爆風と瓦礫。その果てにあるハーモニー。なんという美しい構成か。まさに崩壊していく「世界」へのノイズ・レクイエム。そして、その終末感覚こそが、本作を含む2010年代的なインダストリアル/テクノ、最大のテーゼといえる。いわばダークで物語性の強いテクノ。「ダーク・テクノ」。

 しかし、である。2017年以降、それは一定の役割を終えることになるのではないか。ノイズだとか、ミュージック・コンクレートだとか、エクスペリメンタルだとか、アンビエント/ドローンだとか、それら言葉の記号性が有効性を持ちえた時代が終わったともいえるし、より内実を伴いつつ、現実的な応用の時代に入ったともいえるし、そもそも世界は、いったん清算すべき時の直前に来ているのが、いまや明確になったからだ。世界は終わる。ゆえに物語は終わった。では、世界の無意識を反映する先端的音楽に、どのような方向性があるのか。ひとつは、ヴァーグのように、この世界のダークを鏡のように映しだすブラック・メタル・ダーク・テクノへと進む道があるかもしれない。

 もうひとつは霧のようなアトモスフィアがさらに押し進まれていく傾向だ。これはウォルフガング・ヴォイトが2016年のタスク・フェティヴァルで披露したライヴ/映像が、そのモデルとなるのではないか。現象の生成。

 さらに、もうひとつは、より電子音の即物性や生々しさを追及するモードである。近年のモジュラーシンセ・ブームを経由したものだが、より電子音パルスの衝撃が聴覚と体を揺さぶるタイプのものだ。それはもはやモノのように、そこにある。その本年最初の重要な作品が、〈ラスター・ノートン〉からリリースされたジェシー・オズボーン・ランティエのEP『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』になるのではないか、と思うのだ。

 『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』は、パリでのライヴ・セットの2時間前に制作・録音されたものだという。そのせいか収録された全4トラックは、即物的かつ即興的電子音の運動感覚とジェシー・オズボーン・ランティエらしい前のめりのメタリック・リズム感が生々しく横溢しており、シンプルながら、まさにパルスの衝撃のような中毒性がある。このマテリアル・オブジェクト的なパルス感覚こそ、2010年代的なインダストリアル/テクノ「以降」を示す兆候に思えてならない。
 私はこのEPを聴きながら、イヴ・ド・メイがベルギーの〈アントラクト〉からリリースした『レイト・ナイト・パッチング 1』を思い出した(なんとなく名前も似ている)。『レイト・ナイト・パッチング 1』もまた、イヴ・ド・メイがモジュラーシンセを用いて一晩で作り上げた即興的音響テクノである。『レイト・ナイト・パッチング1』は、〈スペクトラム・スプールス〉からリリースされた『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』(2016)のダークで緻密な音響空間と比べると、即物的な電子音の集積による楽曲であり、その評価は賛否両論であったが(たしかに『ドローン・ウィズ・シャドウ・ペンズ』以降の過渡期的音源であるのは事実だ)、しかし、私などは、そのマテリアリズム/テクノに、インダストリアル/テクノ「以降」の兆候を強く感じてしまった。これは『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』にも繋がる感覚である。

 2010年代前半的なダークなインダストリアル/テクノの物語性(世界の終焉のような。つまり『ATLHFVAMLTHATU』的)から、2010年代後半的なマテリアリズム(人間以降のモノ世界。つまり『アナロイド、アンライセンスド、オール・ナイト!』的)への移行である。音楽から「物語性」が漂白された世界へ。つまりはマテリアル・テクノロジカルな電子音楽へと変化(ある意味では遡行、ある意味では進化)しつつあるのだろう。

 ボノボことサイモン・グリーンの新作『マイグレーション』のタイトルを目にしたとき、まず連想したのは空港の入国審査ゲートであり、昨今の話題であればトランプ大統領が掲げるアメリカとメキシコとの間に国境の壁を設けるという公約だ。メキシコからアメリカへの不法滞在者の流入防止、アメリカ経済や労働者の保護、麻薬対策、安全保障などの側面からの施策であり、移民から成り立っているアメリカ社会が直面する問題である。考えてみれば、ボノボの前作『ノース・ボーダーズ』も『北の国境』というタイトルだった。どこの国境か明確ではないが、たとえばアメリカとカナダの国境と解釈すれば、今回の『マイグレーション』からはアメリカの南の国境線が想起される。アメリカだけでなく、こうした移民や難民問題は世界中で勃発しており、ヨーロッパ諸国でも移民の受け入れの是非を巡って意見が対立し、日本も今後どうなるのか他人事ではない状況である。ボノボ自身はアルバム・タイトルに明確な社会的意味を持たせるアーティストではないが、『マイグレーション(移住・移民)』についてはネガティヴな側面からとらえるのではなく、自身の人生と照らし合わせた上で肯定的なものとしてとらえているようだ。


Bonobo - Migration

DowntempoHouseFuture Jazz

Amazon Tower iTunes

 2013年の『ノース・ボーダーズ』の制作に入る前、ボノボは長年生活したロンドンを離れ、ニューヨークへと移住している。明確な移住の意思に基づくものというより、その前作である『ブラック・サンズ』(2010年)のツアーで3年ほど世界中を旅し、そこから帰って腰を落ち着けた先がニューヨークだった。そして、『マイグレーション』は『ノース・ボーダーズ』のツアー後、ロサンゼルスへ移住して作られた。偶然ではないだろうが、ここ数年来のボノボはアルバムを発表し、大掛かりなワールド・ツアーをおこない、その後に新しい土地での生活が始まり、そして新作を作るというサイクルになっている。どこか無意識の中で越境や移動というイメージが彼にはあり、それが音楽を作ったり、ライヴをする上でのモチベーションの源となっているような気がする。そもそも、ツアーのときは一年の大半を旅路で過ごしており、そうした移動や流浪の中からボノボの音楽は生まれていく。ニューヨークにしろ、ロサンゼルスにしろ、長く定住するというイメージではなく、ツアーとツアーの合間に骨休みをし、英気を養う場所という感覚なのだろう。インタヴューでも語っているが、今回ロサンゼルスに移住したのも、今音楽的に面白い街である、いろいろなミュージシャンが集まっている、トレンド・エリアであるといった理由からではなく、自分にとって音楽制作に没頭できる環境があったからだということだ。ロサンゼルスというと、ハリウッドやビバリーヒルズに代表されるセレブなイメージを抱く人が多いかもしれないが、ボノボは静かな東側のエコパークに住み、自宅スタジオでコツコツとトラック制作に励んでいる。そして、彼はロサンゼルスの明るく輝かしい面だけでなく、ホームレスも多くて荒んだ側面、格差社会が広がる問題点も冷静に見ている。

 『マイグレーション』は、こうしたロサンゼルスでの生活が100パーセント反映されたものかというと、決してそうではない。最終的にロサンゼルスの自宅スタジオで完成させてはいるが、作品の多くはツアー中、移動中に作曲し、アイデアを膨らませていった。たとえばライのミロシュをフィーチャーした“ブレイク・アパート”は大西洋を横断する飛行機の中で作曲し、ベルリンのホテルで録音している。チェット・フェイカー改めニック・マーフィーをフィーチャーした“ノー・リーズン”、モロッコの伝統音楽を演奏するイノヴ・グナワをフィーチャーした“バンブロ・コヨ・ガンダ”は、現在彼らが住むニューヨークでの録音だ。アフロ・ハウス調の“バンブロ・コヨ・ガンダ”に顕著だが、ニューヨークでの録音作品はダンサブルな傾向が強い。2ステップ調の“アウトライナー”は、彼がレジデントDJを務めるニューヨークのクラブ、〈アウトプット〉での経験から生まれている。ほかにも香港の空港のエレベーター、シアトルの雨、アトランタの洗濯乾燥機、ニューオリンズのエアボートのエンジンなどさまざまな音をフィールド・レコーディングスで録音し、作品の中に混ぜている。こうした具合に、『マイグレーション』からはどこか旅をしているようなイメージ、どこかに定住するのではなく世界を移動しているような感覚が得られる。

 『マイグレーション』の制作に取り掛かる前、ボノボは近親者を亡くし、その葬儀でイギリスのブライトンに戻り、自身の出身地や故郷について改めて考えることがあったそうだ。彼の父親はブリティッシュ・フォーク・シーンに関わってきたミュージシャンで、その家族や親類は世界をさすらうように生きてきた。ブライトン、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスとボノボが移住してきたのも、そうした流浪の一族だからかもしれない。ボノボは父親の影響でギターやピアノの演奏を始め、幼少期には父親や仲間たちのセッションするところをよく目にしてきたそうだ。伝説的なフォーク・シンガーのピート・シーガーの歌を引用した“グレインズ”は、そうしたボノボの中にあるルーツ的な世界を浮かび上がらせており、今までのフィンクやグレイ・レヴァランドなどフォーク系アーティストをフィーチャーした作品から繋がる曲である。ボノボはタイトルである『マイグレーション(移民・移動)』について、「世界には多くの場所があり、いろいろな人がそこを行き来し、いろいろな人が住む。人間と場所や環境は相互に作用している。人間が移動することで、文化もある場所からある場所へ運ばれ、受け継がれるものなんだ」といった趣旨のことを述べている。彼のルーツにあるブリティッシュ・フォークもまた、異なる場所に運ばれ、そこで新たに紡がれていくのである。

 ボノボの音楽の本質は、世界のさまざまな場所を旅し、そこに住む人たちとの交流があり、いろいろな音楽を吸収し、そうした中から育まれているということだ。もともと彼の中に備わっていた音楽性が、それまでとは異なる場所や人との出会いから化学反応を起こし、新たなものへと洗練されていく。彼の今までの歩みは常にそうしたものだった。〈トゥルー・ソウツ〉からデビューした当時、ジャジーでオーガニックなサウンドを取り入れたブレイクビーツ・アーティストだったボノボ。〈ニンジャ・チューン〉へ移籍してからは、ヴォーカリストたちをフィーチャーするとともに、次第にストリングスなどを取り入れて有機的かつスケールの大きなサウンドを見せていく。『ブラック・サンズ』の頃にはライヴ・パフォーマンスのスキルに磨きを掛け、視覚的にも訴えるシネマティックなサウンドとともに、ポスト・ダブステップやUKガラージを咀嚼したダンサブルなサウンドの両面を見せる。『ノース・ボーダーズ』ではエリカ・バドゥと共演し、USのR&Bへのリンクと影響を浮かび上がらせ、世界的なアーティストとしての立ち位置を揺るぎないものとした。それから4年後にリリースした『マイグレーション』も、ボノボの人生の旅を反映したものであり、だからこそ彼の楽曲はエレクトリックな佇まいであっても、ヒューマンな温もりや感情の動きに沿うような美しさが感じられるのである。

アダム・ホワイトほか - ele-king

 デトロイト市内を中心から北北西に向かって真っ直ぐ延びているメインストリート、通称ウッドワードアヴェニュー(別称、M-1)、19世紀初頭に建設されたこの主要道路を進んで、歩けば20分ぐらいだったろうか、ウェイン州立大学を越えてさらに進むと、グランドブルーバードが交差する。その左手、つまり西に歩けばモータウン・ミュージアムに到着する。そしてウッドワードからその右手、つまり東側に進めば、サブマージがある。
 そのT字を、こんどは大型の書物が綺麗に結びつけている。

 昨年、河出から刊行された『コンプリート・モータウン』は、ウッドワードアヴェニューを左に歩かせる。序文は、ウッドワードアヴェニューを歩けば見渡せる(もちろんオススメはしない)。60年代の暴動の傷跡である。この世代の人たちと話すと、「スティーヴィー・ワンダー」とは言わない。眼を細めながら「リル・スティーヴィー・ワンダー」という。リルはリトルの発音。
 1998年の時点で、モータウン・ミュージアムの売店ではCDよりもヴァイナル、そしてカセットテープのほうが多かった。いまのようなファッションとしてのカセットテープではない。当時驚いたことのひとつに、日本人が当たり前に思っていたCDプレイヤーなる再生装置は、デトロイトでは当たり前のように所有していないということがあった。PCなんて庶民は持っていないのが当たり前、CDのようなすぐに壊れてしまうような……というか、そもそもCDはリアルではなかった。壊れづらい頑丈なレコードプレイヤー、車にはカセット、だからレコード店にヴァイナル、それが1998年の時点のデトロイトの庶民のスタイルだった。
 話が逸れてしまったが、デトロイト(より正確に発語すれば、ディトロイト)においてモータウンは、日々生きるための最高のポップスだった。また60年代を生きた世代にとっては栄光であり、誇りだろう。マイク・バンクスは彼の世代ではおそらく少数かもしれないが、ご存じのようにモータウンを誇りにしている。タイガース・スタジアム移転の際に初代サブマージが市から立ち退きを命ぜられているが、だから彼は新しくサブマージをはじめる場所を、ヒッツヴィルUSAとの対になる住所を選んだのだ。
 また、デトロイト・テクノ/ハウスを育てたラジオDJ、ジョージ・クリントンの友人にしてプリンスの友人、エレクトリファイン・モジョの1995年の著作『Mental Machine』は、フレデリック・ダグラス、マルコムX、キング牧師、マーカス・ガーヴェイ、そしてページをめくってマーヴィン・ゲイの言葉ではじまる。(そして同書の最初のページには11歳の黒人の子供が撃たれた事件の新聞の切り貼りがある)


 『コンプリート・モータウン』が60年代の栄光の日々であるなら、同書とまったく同じサイズの、洋書で販売されている写真集『313ONELOVE』は、いま現在のデトロイトである。サブタイトルは、「A LOVE AFFAIR WITH ELECTRONIC MUSIC FROM DETROIT」で、すべてマリー・スタッガート(Marie Staggat)という女性写真家が撮影してきたものだ。90年代のele-king読者には、中田久美子さんという写真家が撮影した数々のデトロイトの写真(ジェフ・ミルズのミックスCDのジャケにも使用されているし、ドレクシアの写真は、ネットではいまだ彼女が撮影したものしかない)をよくご存じだろうが、マリー・スタッガートが撮影したデトロイトは、ここ最近のデトロイト。ベルリン在住の彼女がデトロイトに初めて来たのは2010年のことだと序文に書いている。この、ぶ厚く重たい大型写真集のなかにはぼくも知っている顔も何人かいるが、知らない人のほうが多い。みんないい歳になっているけれど(いや、ジェイのような若者もいますよ)、写真はセクシーで、そして静かで、美しい。だいたいいまだこれだけたくさんのDJ、ミュージシャンが活動していることはすごい。170以上のポートレート、街の風景が印刷されているがあまりにも豪華で、貴重な記録だ。
 なかには、現在のクラフトワークとホアン・アトキンスとケヴィン・サンダーソンなんていうキラーな1枚もあるし、何枚かの風景写真は、それがたとえデトロイトの写真でなくても、1枚の写真としての力がある。ちなみに、ドイツは、写真印刷に関して世界最高の水準をほこると言われている。『313ONELOVE』はもちろん、ドイツ印刷だ。(また本書はデトロイトの子供たちのサポートを目的としたチャリティー・プロジェクトでもある)

 『コンプリート・モータウン』も『313ONELOVE』も奇しくもともに重量ある大型本で、前者は400ページ、後者は320ページ。時代は違えど、2冊ともにデトロイト・ファンには悩ましい本だ。


※先日マイク・バンクスが、「90年代はアンダーグラウンドのレーベルがプレス工場に音源を持って行けば、数週間でお金を得られたものだった。しかしヴァイナルが流行の現在は、メジャーのアーティストのプレスを工場が優先するため、アンダーグラウンドのレーベルは半年も待たなければならない。これでアンダーグラウンド・ミュージックはやっていけない。レッド・プラネットはすでに工場に出しているがいまだにプレスはあがってこない。Bandcampを使うかも知れない」(要約)ということを書いたらミスリードされ、「URはこれからBandcampで音源を発表する」という情報が氾濫した。ネット時代のこれは本当に恐い……。それはそうとレッド・プラネット、早く聴きたい。

Anohni - ele-king

 アノーニ、怒っています。昨年リリースされたアルバム『Hopelessness』でテロや死刑や環境破壊について激しくかつ流麗に歌い上げ、アメリカという国の希望のなさ=ホープレスネスをあぶり出してみせたアノーニですが、トランプの大統領就任を受け、女性こそが道を変えるというメッセージとともに新曲“Paradise”を公開しました。

 まさに「ホープレスネス」という言葉が何度も登場するこの新曲は、3月17日にリリースされる新作EP「Paradise」に収録されます。同EPはアルバムに引き続き、ハドソン・モホークおよびOPNとのコラボレイション作品となっています。

A N O H N I
ブリット・アウォード2017ノミネートも話題のアノーニが
3月リリースの最新EPより、新曲“PARADISE”を公開!

本年度のブリット・アウォード2017にて「ブリティッシュ女性ソロ・アーティスト」部門にノミネートされたアノーニが、最新アルバム『HOPELESSNESS』に続く、最新EP「PARADISE」を3月にリリースすることを発表し、タイトル・トラックを公開した。

ANOHNI: PARADISE

アルバム同様、〈Warp Records〉所属の気鋭プロデューサー、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとハドソン・モホークのふたりとのコラボ作品となっている“PARADISE”には、電子音と政治的な歌詞の衝突を通して、活動家たちの発言をサポートし、ポピュラー音楽に対する既成概念を破壊しようとするアノーニの姿勢が表れている。

本作には、完全未公開の新曲やライヴでのみ披露されている楽曲など計6曲が収録される。

label: Rough Trade
artist: ANOHNI
title: Paradise

release date: 2017/03/17 FRI ON SALE

[TRACKLISTING]
1. In My Dreams
2. Paradise
3. Jesus Will Kill You
4. Enemy
5. Ricochet
6. She Doesn’t Mourn Her Loss

Brian Eno - ele-king

 ひねりをきかせた言い回しが誤解を招き、まったく別の意味として、ときには真逆の意味として流通してしまうというのは、紙のメディアが中心となっていた時代から散見される事態ではあったけれど、インターネットの普及はその流通の速度と強度をより増幅させるようになった。いわゆる「炎上」というやつである。
 1月23日、英『ガーディアン』紙に「ブライアン・イーノ:『われわれは40年間衰退してきた――トランプは再考する機会である』」という記事が掲載された。それはイーノ本人へのインタヴューをもとに構成された記事で、そこでイーノは、上位62人の富豪をバスに乗せて衝突させればいいなどと痛快なジョークをとばしていたので、これ大丈夫かいなと心配していたのだけれど、どうやら本当に「炎上」してしまったようである。ただし、そのジョークが原因ではない。
 「40年間」というのはサッチャーやレーガンに代表されるネオリベラリズムの支配を指しており、イーノはそれを「(人類にとっての)衰退」だと捉え、トランプの勝利をその衰退の終わり(のはじまり)だと考えている。人類はこの40年間どんどん悪い方向へと進んできたが、いまこそがどん底の状態であり、つまりこれからわれわれは良い方向へ進んでいくしかない――そういうニュアンスでイーノは、ブレグジットやトランプの勝利について、われわれの「ケツを蹴り上げてくれた」という点で「喜んでいる」と発言しているのだが、どうもこの箇所が一部で「イーノはトランプを支持している」と解釈されてしまったようである。要するに、イーノはトランプがわれわれを良い方向へ導いてくれると主張している、と誤解されてしまったわけだ。
 この「炎上」を受け、イーノは1月26日にフェイスブックにステイトメントを投稿している。彼はそこで「絶対に明確にしておきたいこと」として、トランプが完全に大惨事(disaster)であること、そしてブレグジットもまた大惨事であることを強調している。そしてそれ以上に大惨事なのは、われわれがそのような結果を引き起こす政治制度のなかに生きていることである、と彼は続ける。イーノはたしかにトランプの就任をターニング・ポイントだと考えているが、それはトランプが良い政治をおこなってくれると期待しているからではまったくない。トランプという出来事によって、現行の政治制度が根本的に壊れているという事実が明らかになったこと、まさにそれこそがチャンスなのである。それはクリントンが大統領になっていたら(あるいはUKがEUに残留していたら)見えなかったことかもしれない。だから彼は「喜んでいる」と発言したのだ。
 イーノはトランプを支持してなどいない。それはちゃんと記事を読めばわかることだ。「熟考」という意味を持つタイトルの新作『Reflection』をリリースしたばかりのイーノだが、残念ながら世の中はまだまだ「熟考」からほど遠いところで動いているようである。
 以下にイーノがフェイスブックで公開したメッセージの全訳を掲げる。あなた自身の目で、彼の意図を確認してほしい。(小林拓音)

今週のはじめに『ガーディアン』紙からインタヴューを受けたが、その記事の見出しにはこうあった:「われわれは40年間、衰退をたどってきた。トランプは、それを見直す機会だ」。(記事を読んでもらえれば明確だが)私はそのような意味で言ったのではない。この言葉により、私がトランプ支持者であることを示唆していると思っている人たちがいる(特にアメリカの一部のウェブサイト)。私の見解を知っている人ならだれでも、それは真実ではないとわかるだろう。

そこで、絶対にはっきりさせたいことがある。ドナルド・トランプは、全くもって最悪の事態だ。また、イギリスのEUからの離脱も最悪の事態である。このふたつを述べた上で、さらに最悪なのは、アメリカやイギリスに住むわれわれが――そして世界の他国も徐々に――このようなばかげた結果を生み出す政治体制の中に存在しているということだ。

今になってわかるのは、政治の仕事とは、嘘と偽りの上に成り立っており、民衆に本当の情報を与えることよりも収益や視聴率を重要視する、明らかに偏ったメディア機関によって促されているものだということだ。この体制全部が変わらなければならない。政治を引率する者だけでなく、われわれの政治的過程・社会的過程の奥底にある、より根本的なものが変わらなければいけない。民主主義は、情報を得た民衆を前提としている。つまり、腐敗したメディアにおいては成り立たない。トップの顔ぶれを変えたとしても、その下にある仕組み全体がそのままであれば、何も変わらない。裕福なものはさらに富を増し、中流階級は停滞し、貧困層はさらに貧しくなる。

私の望み――まさに唯一の望み――は、トランプが就任したことにより、彼の本性が明かされ、民衆が、トランプ本人と彼が象徴するすべてのものを激しくきっぱりと拒否することだ。彼のひどい政策、好戦的な愛国主義、傲慢さ、幼稚さ、嘘、偏見、視野の狭さ。トランプを拒否すると同時に、われわれは、彼をあんなにも愛し育て上げた、悪質なメディア/政治体制すべてを解体しはじめるだろう。

前に述べたように、私は、トランプが長い衰退のはじまりではなく、衰退の終わりを告げるものだと信じている。転換期だ。この40年間、われわれは、不平等や、恐怖に煽られた愛国主義と保守主義という深まる穴に、ほとんど気づかないまま滑り落ちてきた。トランプの大統領任務は、この状態を変えてくれる可能性がある。トランプが正しいことをやってくれるからではない。今回の選挙によって、政治体制がもっぱら機能していないということに民衆が気づき、今こそ自分たちで何とかしなければならないと活気づいたからだ。先週おこなわれた一連のデモは、この新たな傾向を反映している。

こんなところまで来ない方が、われわれにとって良かっただろう。だが、われわれはここまで来てしまっている。たとえ、クリントンが大統領に就任したとしても、(また、イギリスが「EU残留」を選んだとしても)、それは短期的には楽だったかもしれないが、アメリカやイギリスの政治体制を悩ます根本的な問題は解決されなかったと思う。トランプが選ばれたことによって、体制が壊れていることが疑いようもない事実という証拠になった。だから、これからは修復していこう。

2017年1月26日 ブライアン・イーノ
(翻訳:青木絵美)

interview with The xx  part.2 - ele-king






E王


The XX

I See You (ボーナストラック2曲収録)


XL Recordings/ビート

PopHouseIndie Rock



Amazon

 ザ・エックス・エックスのコアは何かと考えたとき、これまでは“VCR”のミュージック・ヴィデオ(https://youtu.be/gI2eO_mNM88)にもっとも分かりやすい形で表れていたと僕は思う。モノクロームの映像のなか、廃墟のような場所でたったふたり親密な愛を交わす恋人たち。ふいに色づく映像と、誰にも知られることのないふたりだけの感情の昂ぶり。その密室性と緊密さこそがザ・エックス・エックスの「わたし」と「あなた」の物語だった。
 だが、予想外の成功を経て、バンドははっきりと変わった。いま、ザ・エックス・エックスを表現しているのは見事なポップ・シングル“オン・ホールド”のヴィデオにおける淡くも眩い光だろう。そこでは無邪気に笑うザ・エックス・エックスの3人がいて、そしてどこにでもいるような10代の男女が楽しそうに踊ったり、愛を交わしたりしている。ジェイミーが少し照れながらDJをして彼らを楽しませている。インティマシーはザ・エックス・エックスにとってもっとも重要なテーマだが、それはいまより多くの音と感情を手に入れて、ダンサブルに、そしてポップに開かれているのだ。

 それでは、先日女性との婚約を発表したばかりのロミー・マドリー・クロフトのインタヴューをお届けしよう。オリヴァー&ジェイミーといくつか同じ質問を投げながらも、より彼女らのラヴ・ソングが描いているテーマに踏み込んだ会話になったと思う。ロミーもまた、シャイな佇まいを残しながらも、気さくに誠実にひとつひとつ答えてくれた。3人の経験したささやかな喜びや切なさが、『アイ・シー・ユー』には変わらず高い純度で、しかしもっとも鮮やかに封じ込まれている。(木津)

わたしたちが考えていたのは、ただ新しいことに挑戦したいということ。それから姿勢としてよりオープンでいること、明かりを取りこんだような音にすること。だからルールも何も設けない、というのがわたしたちが最初に話し合ったことだったね。


発表前の新曲をプレイする気分はいかがでしたか?

ロミー:今回のツアーはとにかく新曲に集中していて。新曲にどんな反応が来るかわからなかったからすごく緊張していたし不安だったけれど、うまくいって良かったと思うな。

オーディエンスの反応を感じました?

ロミー:ええ、すごく良かったと思う。

観客側から見ていてもそう感じられました。

ロミー:そうだよね。新曲は“リップス”から演奏したんだけれど、すぐに頭を動かしたりしてくれるのが見えて、緊張感がほぐれたよね。

それから、ライヴの終盤の重要なポイントでジェイミーのソロ曲を演奏するのが印象的でした。そうしたことも含めて、今回の『アイ・シー・ユー』というアルバムはセカンドの『コエグジスト』の続きというよりは、ジェイミーのソロ・アルバムの続きなんだという認識が3人のなかで共有されていたのでしょうか?

ロミー:延長線上というよりは、ジェイミーのソロがあったから今回のアルバムがセカンドと全然違うものになったんだと思うな。

野田:ジェイミーのソロとザ・エックス・エックスの関係性についてもう少し説明してもらえますか?

ロミー:前回のアルバムだとライヴでプレイすることを意識しすぎたり、みんながどういうものが好きかを考えすぎたりしたんだけど、今回のアルバムは自分たちの好きなサウンドをエンジョイすることができたんだよね。ジェイミーのソロのサウンドもすごく好きだったから、自分たちの好きなものを音にするっていう意味ですごく大きい影響を受けたと思う。自分たちもあとからそのことに気づいたんだけど、それも意識してやったわけじゃなくて、自然とそういう曲の作り方になってたのね。ジェイミーがソロで自分の好きなサウンドを表現したように、ライヴでも曲作りでもこれまでの「バンドらしさ」に囚われずに自分たちの好きなことができたのが大きかったね。

なるほど。ロミーから見て、ジェイミーのソロ作の魅力って何ですか?

ロミー:ジェイミーってすごく想像力豊かだから、オーディエンスを旅に連れていくような曲を作り出すことができるんだよ。構成もおもしろいし、メロディもすごく魅力的だし、あとは遊び心が曲にあると思う。

なるほど、ではジェイミーのソロを経ての『アイ・シー・ユー』の話をしますね。サウンドにもテーマにも広がりが出て、見事な作品だと思いました。アルバムに取りかかる前に3人で共有していたゴールはありましたか?

ロミー:いいえ、何も考えてなかった(笑)。わたしたちが考えていたのは、ただ新しいことに挑戦したいということ。それから姿勢としてよりオープンでいること、明かりを取りこんだような音にすること。だからルールも何も設けない、というのがわたしたちが最初に話し合ったことだったね。

そうでしたか。では、制作しながら見えてきた曲同士で共通するテーマやモチーフはありましたか?

ロミー:コンセプトやテーマっていうのはあまりなくて、一曲一曲がすごく違う折衷的なアルバムになっていると思うんだけど、それがかえってわたしたちのテイストを表現してるんじゃないかな。どんな音楽に対してもオープンだし、ミニマル・テクノだけ聴くとかニューウェイヴだけが好きとか、そういうことはないからね。わたしたちはジャンルってものが好きじゃなくて……そういうわたしたちそのものが表現されたアルバムだと思う。

では、そのヴァラエティに富んだアルバムをまとめるものとして『アイ・シー・ユー』というタイトルを決めたのはあなたですか?

ロミー:ええ(笑)。

それはどういうところから出てきたアイデアだったのでしょうか?

ロミー:制作の本当に最後のほうだったんだけど、タイトルどうしようって考えすぎて頭がおかしくなりそうだった(笑)。タイトルってアルバムのトーン全体を決めるすごく重要なものだと思うからね。だから歌詞を何度も読み返したりしたんだけど、やっぱり作品を作るプロセス自体がすごく重要だったんだと思えて。そのプロセスのなかでは友情っていうのがすごく大きかったんだ。自分たちが成長するなかでより良い友情っていうものが築けるようになっているし、3人の関係性も以前よりいい状態になって、だからこそいい音楽を作ることができた。あともうひとつは、人間って誰しも「見られたい」っていう願望があると思う。見られることによって理解されていると感じることができるし、それを今回すごくお互いに感じることができたからね。だからそのことをタイトルにしたんだよ。

なるほど。

ロミー:もうひとつ付け加えるとすると、わたしたちはバラバラに過ごした時期っていうのもあったんだけど、このアルバムを制作することによってより近くなることができた。そのことも表現しているね。それから、ファンへのメッセージでもあって……自分たちが若いとき、たとえばジャック・ホワイトのライヴを観ているときなんかに「どうせ彼には自分たちなんか見えてないよ」と思ってたんだけど、いざ自分たちがパフォーマンスするようになると、本当にオーディエンスが「見える」んだよね。だから、ちゃんと見ているよ、っていうメッセージでもあるんだ。

それはすごく納得できるお話ですね。それから、『アイ・シー・ユー』という言葉は、親密なコミュニケーションを描いているという点で、すごくザ・エックス・エックスらしいなと思ったんですよ。歌詞でもつねに一対一の関係というモチーフにこだわっていますよね。

ロミー:ええ。

それはどうしてだと思いますか?

ロミー:自分でもどうしてかはわからないんだけど、愛とか、ひととひととの間に起こる感情を描くことに惹かれるんだよね。ミュージシャンによっては怒りや政治について描くひともいるけれど、それは自分にはあまり理解できなくて。自分が惹かれて、なおかつ描きたいのがそういうテーマなんだよ。


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前のアルバムを作ったときは22歳だったけど、今回は27歳だから、その間の成長ってすごく大きいんだと思うんだよね。それがダイレクトに表れたんじゃないかな。

ザ・エックス・エックスの歌詞で特徴的なのは、三人称がほとんど出てこなくて、かつあなたとオリヴァーでヴォーカルを取っているので、ジェンダーレスなラヴ・ソングになっていることだと思うんですね。それはバンドにとって重要なことなんでしょうか?

ロミー:ええ、ええ。それはすごく意識的にやってる。そうすることによって男性であっても女性であっても、年齢がいくつであっても、すべてのひとが音楽に繋がりを感じることができると思うから、歌の物語を決めつけずに、緩さを設けるようにしているんだよ。

なるほど。『アイ・シー・ユー』はそのなかで、これまで描いてきた感情とは異なるものを捉えようとしたのか、あるいは深めようとしたのか、どちらに近いと思いますか?

ロミー:つねにより良ものにしようとトライしているんだけど、より複雑な感情をよりシンプルな方法で表現しようとしているんだよね。今回もそのことを追求したね。

「シンプル」、という部分をもう少し説明していただけますか?

ロミー:言葉をダラダラと並べて表現するのではなくて、より少ない言葉を使うようにしているかな。シンプルで、美しい言葉だね。

なるほど。僕が今回『アイ・シー・ユー』の言葉に感じたのは、“デンジャラス”にしても“ブレイヴ・フォー・ユー”にしても、「勇敢さ」というモチーフが前に出てることだったんです。

ロミー:ええ、そのことに気づいてもらえて嬉しいな。年齢を重ねたことによって自信がついたということもあるし、そのことによっていい意味でリスクを冒すということに繋がっていくと思えるんだよね。自分たちが大人になっているということがそのまま表現されていると思う。今回、自分たちが心地よいと感じるところから抜け出しんだよね。レコーディングの環境を変えたこともそのひとつだしね。ロンドンはやっぱり自分たちにとって心地いいけれど、いろいろなところで曲を制作したし、ライヴでもさっき言ったみたいにルールを設けず、あまり考えずに組み立てていったし。あと歌詞も、メールじゃなくてオリヴァーと同じ部屋で作ったっていうのも新しいこと、リスクを冒すことのひとつだったね。

「勇敢さ」というモチーフに今回僕が惹かれたのは、これまでは儚さや脆さみたいなもののほうによりフォーカスされていたと思うからなんですよ。

ロミー:そうだね。

その変化って、ザ・エックス・エックスというバンドのキャリアとシンクロしているのかなと思って。たった3人ですごくビッグな存在になって、この間のライヴもそうでしたけど、そのプレッシャーをはねのけて前に進んでいるというか。

ロミー:ええ、わたしもそう思うな。

そのことを表現したいという想いはありましたか?

ロミー:それを敢えて表現しようとしたわけではないよね。もっと勇敢であろうとか、もっとオープンであろうとかいう風にね。それは時間とともに自然と起こった変化で、それがそのまま表現されていると思う。前のアルバムを作ったときは22歳だったけど、今回は27歳だから、その間の成長ってすごく大きいんだと思うんだよね。それがダイレクトに表れたんじゃないかな。

なるほど、すごくよく分かります。もうひとつザ・エックス・エックスらしさでいうと、“オン・ホールド”のヴィデオがすごくいいなと思ったんですよね。さっき「友情」って言葉も出ましたが、バンド3人の親密さがよく表れていて。あれはどうやって出来たものなんですか?

ロミー:ありがとう(笑)。まず、レコーディングした場所に戻って撮りたいっていうのがあって、テキサスのマーファっていう本当に小さい町に行ったんだけど。フォトグラファーのアラスデア・マクレランが監督してくれて、温かさや若さといったような、これまでのザ・エックス・エックスからは連想できないテーマを引き出してくれた。そうやってできたヴィデオだね。いままではミュージック・ヴィデオに関してもっと神経質になってたんだけど、今回は誰かに任せてしまおうと思って、自分たちの親密さと温かさ、光と若さ、それからマーファの地元のひとたちを取り入れてほしいということだけフォトグラファーにお願いして、あとは本当に彼に任せちゃったんだ。

“On Hold”

ただ、ヴィデオがいまおっしゃたように光や明るさが表現されているのに対して、“オン・ホールド”の曲そのものはビターなラヴ・ソングですよね。これは言葉と音のどちらが先でしたか?

ロミー:言葉が先だったね。あの曲に関してはすごくいろんなヴァージョンがあって……ありすぎるぐらい(笑)。なかなかしっくり来なかったんだけど、ジェイミーがサンプルを取り入れたことでムードがガラッと変わって、息を吹き込んでくれたんだよね。

ほんとそうですよね。“オン・ホールド”はシングルらしいダンサブルでポップな曲ですけど、切ないラヴ・ソングが明るい曲調になっていることでどのような効果があると思いますか?

ロミー:ポップ・ミュージックのいいところってまさにそこだと思う。クラブに行くとすごく踊れて楽しめるんだけど、ちょっと止まって集中して聴いてみると悲しい失恋の曲だったりするよね。その二面性を楽しめることができることが魅力だなと思う。

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ええ、大好き。わたしもオリヴァーもすごくよく聴くよ。ジェイミーはもちろんだけど(笑)。ポップスやダンス・ミュージックは本当大好きでずっと聴いてきたんだけど、今回のアルバムはリスナーにもわたしたちのそういう一面を感じてもらえるものだと思うな。

ロミーはクラブ・ミュージックってよく聴くほうですか?

ロミー:ええ、大好き。わたしもオリヴァーもすごくよく聴くよ。ジェイミーはもちろんだけど(笑)。ポップスやダンス・ミュージックは本当大好きでずっと聴いてきたんだけど、今回のアルバムはリスナーにもわたしたちのそういう一面を感じてもらえるものだと思うな。

とくにどんなダンス・ミュージックが好きですか?

ロミー:80年代のシンセっぽいサウンド……ニュー・オーダーだったりオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークだったり、それからイタロ・ディスコ。うん、ディスコ・ミュージックだね。エモーショナルなシンセサイザーが感じられるダンス・ミュージックが好きだな(笑)。

“アイ・デア・ユー”はザ・エックス・エックスのなかでも、ダンスという意味も含めてもっともアップリフティングな曲ですよね。とくにコーラスの「singing…oh, oh, oh」っていう部分に僕はビックリしたんですよ。すぐにライヴでシンガロングになりそうだなって。

ロミー:ええ、わたしもすごく興奮してるんだ。まだ6公演しかやってないんだけど、みんな曲をまだ知らないのに曲に繋がりを感じてくれているようなリアクションなんだよね。だからこれからアルバムが出て、曲をもっと知ってくれたときにどうなるかなってすごく楽しみにしてるんだ。

ええ、きっとすぐ合唱になりますよね。ただ、あそこまで一体感のあるものっていままでのザ・エックス・エックスにはなかったんじゃないかなと。

ロミー:ええ、わたしもそう思う。さっきも言ったみたいに、ああいうところから自分たちはポップなものも好きなんだよっていう、新しい面を見せてられていると思うな。今回のツアーのはじめの3公演では“アイ・デア・ユー”からスタートしたんだ。するとすぐにコネクトすることができたね。“リップス”から始めたときは、ミステリアスなムードを残しつつ、だんだん熱をこめていくセットにできたと思うよ。わたしは“アイ・デア・ユー”から始めるほうが好きかな。すぐにオーディエンスとの繋がりを感じることができるからね。それに、それっていままでのザ・エックス・エックスにはなかったものだと思うから。

『コエグジスト』の“エンジェル”なんかもライヴの映像を観るとアウトロで大合唱になってますよね。

ロミー:ええ、すごいよね!

あれって、あなたたちにとってすごく驚きだったんじゃないかなと思って。

ロミー:ええ! ほんとに。感動したよね。日本もそうなんだけど、いろいろな国や場所でそうやって応えてくれるんだよね。それはやっぱり、すごく嬉しいことだね。

いっぽうで、ニューヨークで45人限定のライヴもされてますよね。そうした小さい会場と大きい会場での親密さや一体感の違いってどういうところにあると思いますか?

ロミー:ええ、あれは2、3回同じ日にショウをやったりとか。それが何日も続いて。それは大きい会場でプレイするのとはすべてが違うよね。それは大きさというよりは、ライヴそれぞれで違った親密さというものがあるんだと思う。ニューヨークでプレイしたときも、入ったらすぐに大きいスペースがあるんじゃなくて、サイド・エントランスからトンネルを通って入ってもらうと3人が真ん中にいて、みんなに角で見てもらうっていう状態にしたんだよね。それでみんなは小さい部屋にはじめいるんだけど、天井がどんどん上がっていって、そこで壁が倒れて……そこではじめて大きい部屋にいることがわかるっていう仕組みになってたんだ。

へえー、おもしろいですね!

ロミー:オーディエンスはそこでちょっと混乱しちゃうんだけど、そうやって旅につれて行きたかったんだよね。そこではオーディエンスとの壁が本当になくなっている。触りたければ触れるっていうぐらいね。それを一度やってみたかったんだ。

『アイ・シー・ユー』というアルバムには、そういう最小限の親密感と、大勢のオーディエンスとの一体感の両方が表現されているように思えますね。

ロミー:ええ、ええ。“パフォーマンス”っていう曲なんかにはそういう小さい会場で演奏した経験がすごく反映されているね。そういう静寂のなかで生まれる関係性に影響を受けて作った曲もあるね。そこからアルバムに適した形、ライヴに合った形をイメージして作っていった曲もこのアルバムには入ってるよ。

すごくよくわかります。ザ・エックス・エックスってすごく緊密なコミュニケーションを体現してきたバンドだと思うんですが、これだけビッグになっても、その親密さをより多くのひとに純度の高い状態で届けようとしているように見えるんです。それがすごくよく表れたアルバムではないかなと思いますね。

ロミー:ええ。わたしたち自身もこの変化にはすごく驚いていて(笑)。わたしはバンドにいることによってどんどん自信をつけることができるんだけど、それをすごく嬉しく思ってるな。

では、ザ・エックス・エックスのもっとも変わった部分と、もっとも変わらない部分はそれぞれどんなところだと思いますか?

ロミー:お互いがお互いをより理解するようになったのが一番大きな変化だと思う。自分たちが何をどう感じるかを理解しているし、そのコミュニケーションの取り方もより良いものになったと思うな。変わらないところは、友情そのものだね。それはまったく変わってないね。たとえば今日もみんなでプールに行ったんだけど、オリヴァーとジェイミーは子どもみたいにはしゃいでて(笑)。わたしが感じるオリヴァーとジェイミーとの特別な繋がりはいまだに変わらないね。

(笑)まさにそれがザ・エックス・エックスだな、と思いますね。

ロミー:ええ(笑)。

野田:最後にひとつだけ。さっき政治的なことを表現することに興味がないとおっしゃいましたけど、2016年はブレクジットであるとかトランプ勝利だったり、政治的不安定さが露呈した時代だったと思うんですね。そういう社会的な出来事というのは、ザ・エックス・エックスの音楽にまったく影響を与えないんでしょうか。

ロミー:もちろんわたしたちも大人になってはいるし、世界で何が起こっているかは把握してはいるよね。で、もしかするとそれが将来反映されることもあるかもしれない。ただ、社会でそういうことが起こっていながらも、バンドや自分にとって何が大事かを考えたときに、自分がリスナーとして音楽を聴くときは自分が抱えているものから逃避させてくれたり、あるいは逆に向き合わせてくれて乗り越えることを助けてくれたり勇気づけてくれたりするものを優先しているんだよね。自分にとって一番関係があって、作りたいと思える音楽はやっぱりそういうものだと思うな。

野田:なるほど。ではUKには偉大なバンドがたくさんいますが、たとえばザ・スミスみたいなバンドは好きですか?

ロミー:ええ、もちろん(笑)! こうやってUKを離れてみると、たくさんの国のひとがUKの音楽を好きだって本当に実感したんだよね。それでますます、いまは自分の国の音楽が好きになってるよ。

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