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木津 毅   Feb 02,2017 UP

 ツイッターのタイムラインにトランプのツイートが流れてきた。煽り屋の発言を極力目に入れたくないのでフォローしていなかったのに、おや? と思ってよく見てみると、それは「アメリカ大統領」のアカウントからの投稿だった。ああ、そうか……。いやしかし、実際「トランプ大統領」の無責任にも程があるツイートに大企業も各国の首脳もメディアも見事なまでに踊らされていて、いったい何がどうなっているのかよくわからない。虚構メディアがもはや現実に追いつかなくてネタに困っているという。ポスト・トゥルース? 毎日が笑えないスラップスティック・コメディのようだ。

 本作の先行シングルとして発表されたその名も“アメリカ”には、しかし声を上げて笑わずにはいられなかった。仰々しく嘘くさいまでにドリーミーなオーケストラとともに歌い上げられるのは、アメリカに住んでいることそのものの可笑しさ、明るく壊れた狂気である。「だって彼らはアメリカに住んでいるからあー、アーメーリーカーーーー」と朗々と歌われれば、ブラスと弦が同じぐらい大げさにそれに応える。このくだらなさ、バカバカしさ。しかしいっそこれぐらいのほうが、この何もかも嘘みたいな時代にはしっくり来る。時代錯誤のサイケ・デュオ、フォクシジェンはLAを知っている人間の音楽だな、といつも思う。アカデミー賞大本命と言われているハリウッドのカラフルな「夢」をミュージカルに仕立てたデイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』にしても、LAのファッション業界の虚飾を禍々しく描いたニコラス・ウィンディング・レフン『ネオン・デーモン』にしても、ロスでアメリカ製の夢を作り出す産業は頭のネジがどこか2、3本外れているかのようだ。偽物の輝きに満ちた商品が生産され続ける都市からやってきたフォクシジェンは、舞台装置じみたレトロ・ポップをここでもまた繰り広げる。
 20世紀の……とくに70年代のロック・クラシックスを無責任にピックアップして、巧みな編集でミックスするという基本路線は変わっていないが、オーケストラが大々的に導入された通算4作め。前作『……アンド・スター・パワー』はサイケ・バンドらしく誇大妄想が炸裂した2枚組の大作だったが、本作は一転30分少しの尺的には「小品」だ。が、40人編成(!)のオーケストラを導入して20世紀のロックの遺産、ボウイとルー・リード、ピンク・フロイドとビートルズとストーンズとTレックス……をぬけぬけと借用するこのアルバムの「サイズ感」そのものはけっして小さくまとまったものではない。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のジャケットを思い出そう。あの大人数感、あの過剰さを、ふたりで夢想したのが本作である。
 8曲しか入っていないが(前作は24曲)、しかし聴き終えたときのボリューム感はその3、4倍くらいに感じられる。たとえば“アメリカ”を通過したあとの“オン・ランカーシム”は3分に満たない曲だが、その間にピアノ・バラッドがグラム・ロック風に展開していき最後には無駄に壮大なロッカ・バラッドになるのだから、それだけで胸やけしそうである。あるいは見世物小屋のショウをそのままドゥワップ調に仕立てた“アヴァロン”、70年代のロック・オペラを5分足らずで繰り広げるような“トラウマ”、そしてスタジアムでのロック・ショウ締めくくりを再現するような“ライズ・アップ”と、どこからどこまでも芝居じみている。いかがわしくて、そしてくだらない。レトロがありがたがられる風潮を知的に批評するサイケ・バンドと言えばMGMTのような存在もいたが、伏兵がそれを完全に乗っ取ったという感じだ。中心人物のジョナサン・ラドーは昨年ホイットニーとレモン・トゥイッグスというUSインディ・ロックのなかで話題に上ったアルバムをプロデュースしていることからもわかるように、明らかに確信犯としてこの嘘くさくてシュールなサイケ・ショウを提供しているのだ。

 サイケが時代的にインなのかアウトなのかももはやよくわからないが、少なくとも『ハング』を聴いている間はクラクラしながらもゲラゲラ笑うことができる。ファーザー・ジョン・ミスティのスタンドアップ・コメディとしてのフォーク・ミュージックと並べてみてもいいだろう。時代は混乱しているから、日々繰り広げられるマーチのような怒りも闘いももちろん必要だ。だが、何もかもがバカバカしくなったときに聴くポップ・ミュージックにもまだパワーが宿っているのだと思わされる。このアルバムを聴き続けていると、いまはとにかくくだらなくて、だけどとびきり知的なコメディが見たくなってくる。

木津 毅