Home > Interviews > interview with The xx part.2 - ポップ・ミュージックの魅力輝く
The XX I See You (ボーナストラック2曲収録) XL Recordings/ビート |
ザ・エックス・エックスのコアは何かと考えたとき、これまでは“VCR”のミュージック・ヴィデオ(https://youtu.be/gI2eO_mNM88)にもっとも分かりやすい形で表れていたと僕は思う。モノクロームの映像のなか、廃墟のような場所でたったふたり親密な愛を交わす恋人たち。ふいに色づく映像と、誰にも知られることのないふたりだけの感情の昂ぶり。その密室性と緊密さこそがザ・エックス・エックスの「わたし」と「あなた」の物語だった。
だが、予想外の成功を経て、バンドははっきりと変わった。いま、ザ・エックス・エックスを表現しているのは見事なポップ・シングル“オン・ホールド”のヴィデオにおける淡くも眩い光だろう。そこでは無邪気に笑うザ・エックス・エックスの3人がいて、そしてどこにでもいるような10代の男女が楽しそうに踊ったり、愛を交わしたりしている。ジェイミーが少し照れながらDJをして彼らを楽しませている。インティマシーはザ・エックス・エックスにとってもっとも重要なテーマだが、それはいまより多くの音と感情を手に入れて、ダンサブルに、そしてポップに開かれているのだ。
それでは、先日女性との婚約を発表したばかりのロミー・マドリー・クロフトのインタヴューをお届けしよう。オリヴァー&ジェイミーといくつか同じ質問を投げながらも、より彼女らのラヴ・ソングが描いているテーマに踏み込んだ会話になったと思う。ロミーもまた、シャイな佇まいを残しながらも、気さくに誠実にひとつひとつ答えてくれた。3人の経験したささやかな喜びや切なさが、『アイ・シー・ユー』には変わらず高い純度で、しかしもっとも鮮やかに封じ込まれている。(木津)
わたしたちが考えていたのは、ただ新しいことに挑戦したいということ。それから姿勢としてよりオープンでいること、明かりを取りこんだような音にすること。だからルールも何も設けない、というのがわたしたちが最初に話し合ったことだったね。
■発表前の新曲をプレイする気分はいかがでしたか?
ロミー:今回のツアーはとにかく新曲に集中していて。新曲にどんな反応が来るかわからなかったからすごく緊張していたし不安だったけれど、うまくいって良かったと思うな。
■オーディエンスの反応を感じました?
ロミー:ええ、すごく良かったと思う。
■観客側から見ていてもそう感じられました。
ロミー:そうだよね。新曲は“リップス”から演奏したんだけれど、すぐに頭を動かしたりしてくれるのが見えて、緊張感がほぐれたよね。
■それから、ライヴの終盤の重要なポイントでジェイミーのソロ曲を演奏するのが印象的でした。そうしたことも含めて、今回の『アイ・シー・ユー』というアルバムはセカンドの『コエグジスト』の続きというよりは、ジェイミーのソロ・アルバムの続きなんだという認識が3人のなかで共有されていたのでしょうか?
ロミー:延長線上というよりは、ジェイミーのソロがあったから今回のアルバムがセカンドと全然違うものになったんだと思うな。
野田:ジェイミーのソロとザ・エックス・エックスの関係性についてもう少し説明してもらえますか?
ロミー:前回のアルバムだとライヴでプレイすることを意識しすぎたり、みんながどういうものが好きかを考えすぎたりしたんだけど、今回のアルバムは自分たちの好きなサウンドをエンジョイすることができたんだよね。ジェイミーのソロのサウンドもすごく好きだったから、自分たちの好きなものを音にするっていう意味ですごく大きい影響を受けたと思う。自分たちもあとからそのことに気づいたんだけど、それも意識してやったわけじゃなくて、自然とそういう曲の作り方になってたのね。ジェイミーがソロで自分の好きなサウンドを表現したように、ライヴでも曲作りでもこれまでの「バンドらしさ」に囚われずに自分たちの好きなことができたのが大きかったね。
■なるほど。ロミーから見て、ジェイミーのソロ作の魅力って何ですか?
ロミー:ジェイミーってすごく想像力豊かだから、オーディエンスを旅に連れていくような曲を作り出すことができるんだよ。構成もおもしろいし、メロディもすごく魅力的だし、あとは遊び心が曲にあると思う。
■なるほど、ではジェイミーのソロを経ての『アイ・シー・ユー』の話をしますね。サウンドにもテーマにも広がりが出て、見事な作品だと思いました。アルバムに取りかかる前に3人で共有していたゴールはありましたか?
ロミー:いいえ、何も考えてなかった(笑)。わたしたちが考えていたのは、ただ新しいことに挑戦したいということ。それから姿勢としてよりオープンでいること、明かりを取りこんだような音にすること。だからルールも何も設けない、というのがわたしたちが最初に話し合ったことだったね。
■そうでしたか。では、制作しながら見えてきた曲同士で共通するテーマやモチーフはありましたか?
ロミー:コンセプトやテーマっていうのはあまりなくて、一曲一曲がすごく違う折衷的なアルバムになっていると思うんだけど、それがかえってわたしたちのテイストを表現してるんじゃないかな。どんな音楽に対してもオープンだし、ミニマル・テクノだけ聴くとかニューウェイヴだけが好きとか、そういうことはないからね。わたしたちはジャンルってものが好きじゃなくて……そういうわたしたちそのものが表現されたアルバムだと思う。
■では、そのヴァラエティに富んだアルバムをまとめるものとして『アイ・シー・ユー』というタイトルを決めたのはあなたですか?
ロミー:ええ(笑)。
■それはどういうところから出てきたアイデアだったのでしょうか?
ロミー:制作の本当に最後のほうだったんだけど、タイトルどうしようって考えすぎて頭がおかしくなりそうだった(笑)。タイトルってアルバムのトーン全体を決めるすごく重要なものだと思うからね。だから歌詞を何度も読み返したりしたんだけど、やっぱり作品を作るプロセス自体がすごく重要だったんだと思えて。そのプロセスのなかでは友情っていうのがすごく大きかったんだ。自分たちが成長するなかでより良い友情っていうものが築けるようになっているし、3人の関係性も以前よりいい状態になって、だからこそいい音楽を作ることができた。あともうひとつは、人間って誰しも「見られたい」っていう願望があると思う。見られることによって理解されていると感じることができるし、それを今回すごくお互いに感じることができたからね。だからそのことをタイトルにしたんだよ。
■なるほど。
ロミー:もうひとつ付け加えるとすると、わたしたちはバラバラに過ごした時期っていうのもあったんだけど、このアルバムを制作することによってより近くなることができた。そのことも表現しているね。それから、ファンへのメッセージでもあって……自分たちが若いとき、たとえばジャック・ホワイトのライヴを観ているときなんかに「どうせ彼には自分たちなんか見えてないよ」と思ってたんだけど、いざ自分たちがパフォーマンスするようになると、本当にオーディエンスが「見える」んだよね。だから、ちゃんと見ているよ、っていうメッセージでもあるんだ。
■それはすごく納得できるお話ですね。それから、『アイ・シー・ユー』という言葉は、親密なコミュニケーションを描いているという点で、すごくザ・エックス・エックスらしいなと思ったんですよ。歌詞でもつねに一対一の関係というモチーフにこだわっていますよね。
ロミー:ええ。
■それはどうしてだと思いますか?
ロミー:自分でもどうしてかはわからないんだけど、愛とか、ひととひととの間に起こる感情を描くことに惹かれるんだよね。ミュージシャンによっては怒りや政治について描くひともいるけれど、それは自分にはあまり理解できなくて。自分が惹かれて、なおかつ描きたいのがそういうテーマなんだよ。
取材:木津毅+野田努(2017年1月26日)