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Gil Scott-Heron

Gil Scott-Heron

We're New Here

Xl Recordings/Hostess

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野田 努   Feb 02,2011 UP
E王

 ギル・スコット・ヘロンでもっとも好きなアルバムは、僕の場合は『ウインター・イン・アメリカ』(1974年)だ。コモンをはじめ多くのアーティストに引用されたアップリフティングな『イッツ・ユア・ワールド』(1976年)や名曲"ウィ・オールモスト・ロスト・デトロイト"を収録した『ブリッジ』(1977年)も大切なレコードだし、初期の3枚は言うまでもなく捨てがたいけれど、1枚だけ選べと言われたらブライアン・ジャクソンといっしょにやった"冬"を選ぶ。理由は、9.11直後に初来日を果たしたムーディーマンがライヴにおいてこのアルバムを引用したからで、そのときの強烈な印象がある。世界は本当に冬を迎えている。お先は真っ暗である。シスターズ&ブラザース、この世界は最悪である。ギル・スコット・ヘロンとムーディーマンは執拗にそう語りかける。しかもタチの悪いことにそのダウナーな音楽は、おそろしくユーフォリックである。

 『ウィ・アー・ニュー・ヒア』は、1年前にリリースされた16年振りのアルバム『アイム・ニュー・ヒア』のリミックス盤だ。リミックスを担当したのはザ・XXのDJ/トラックメイカー、ジェイミー・XX。『アイム・ニュー・ヒア』が、『イッツ・ユア・ワールド』のようなジャズ・ファンクのスコット・ヘロンなどではなく『ウインター・イン・アメリカ』的な低空飛行だったから、そのアルバムとザ・XXの音楽を知っている者からすれば決して突拍子のない人選ではない。"私は新しくここにいる"という言葉を思えば、20歳を越えたばかりの才能あるロンドンのDJにリミックスを託すというのは、未来があるという意味において良い企画だと思う。スコット・ヘロンは好きだがザ・XXなど知らないというオジサンたちには刺激が強過ぎるかもしれないけれど、ザ・XXは好きだがスコット・ヘロンを知らない若いリスナーにとっては興味深いアルバムとなっている。実際のところ昨年末、このサイトで"ニューヨーク・イズ・キリング・ミー"の(リミックス・ヴァージョンの)PVを流したらずいぶんと反響があった。「ニューヨークは私を蝕んだ/私は生きながら死んでいた」と回想するその孤独な曲のバックは、ポスト・ダブステップ的な展開のビートに差し替えられ、カウンター・カルチャーの時代を生きた詩人による『アイム・ニュー・ヒア』はブリアル以降の最新の"冬"の音楽と接続した。

 結論から言えば、『ウィ・アー・ニュー・ヒア』は素晴らしい......本当に格好いいアルバムだ。情熱的で、ファッショナブルでもある。ジェームス・ブレイクのデビュー・アルバムにとって最強のライヴァルがいるとしたらこのリミックス盤かもしれない。アルバム冒頭の"アイム・ニュー・ヒア"はポスト・レイヴ・カルチャーの廃墟のなかでずしんと重たいベースを響かせる。"ホーム"の暗いダブ、"ラニング"の重量級のダブステップ、スコット・ヘロンがかすれた声で歌う"マイ・クラウド"ではゲットー・テックめいたビートを試み、"ザ・チャーチ"はブレイクビーツ、"ユア・ソウル・アンド・マイン"ではミニマル・テクノの高揚感を取り入れている。つまりアルバムは、昨年のドミューンでみせた見事なDJプレイそのもので、タイトルが主張するようにすべてが"新しくここにいる"。

 2009年5月の『ガーディアン』に「私たちが忘れた反抗と政治の歌」という記事があった。そのなかの1曲に、スコット・ヘロンのもっとも有名な"ザ・レヴォリューション・ウィル・ノット・ビー・テレヴァイジット"が紹介されている。当時の北米の街中で勃興したブラック・パワーと深く共振したその曲は、本当に切実な民衆蜂起はテレビでは放映されないと告げた。つい先日のエジプト市民による民衆蜂起がリアルタイムで伝えられなかったように......ある意味、いまでもテレビほどアテにならないものはない。およそ40歳も年下の青年の手によって再構築された『ウィ・アー・ニュー・ヒア』を聴いていると、スコット・ヘロンの言葉は21世紀になっても必要とされているのだと痛感する。

いつも走りたくなる
逃げてるんじゃない
逃げ場なんてない
あるのならとっくに見つけていた
なぜ走るのか、走ることのほうが容易いからだ
"ラニング"

野田 努