MOST READ

  1. interview with Carl Craig僕は軍の補佐官だった (interviews)
  2. Various Artists - Mono No Aware (review)
  3. interview with Juana Molina料理はふわふわをそのままに (interviews)
  4. Run The Jewelsラン・ザ・ジュエルズは何がすごいのか (interviews)
  5. Run The Jewelsラン・ザ・ジュエルズは何がすごいのか(後編) (interviews)
  6. Arca - Arca (review)
  7. Lapalux──ラパラックスがニュー・アルバムをリリース (news)
  8. リヴァイヴァルじゃないのだ。 - ──行かないと何かを逃すかもしれない、DYGL(デイグロー)・ジャパン・ツアーは明日から! (news)
  9. ブレイディみかこ──新刊『いまモリッシーを聴くということ』、いよいよ刊行します! (news)
  10. Big Boi──アウトキャストのビッグ・ボーイの新曲が大変なことに! なんと初音ミクが (news)
  11. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  12. RAINBOW DISCO CLUB 2017──いよいよ開催間近、レインボー・ディスコ・クラブの魅力とは!? (news)
  13. YUKKE10 records in my bag now (no particular order) (chart)
  14. interview with YungGucciMane宇宙を渡るヤンググッチメン──インタヴュー (interviews)
  15. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  16. 坂本龍一 - async (review)
  17. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  18. SWINDLE──"Trilogy In Funk" ジャパン・ツアー2017 (news)
  19. Dasychira - Immolated (review)
  20. Bibio──ビビオが新作EPを緊急リリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Jamie XX- In Colour

Album Reviews

Jamie XX

Deep HouseDiscoUK Garage

Jamie XX

In Colour

Young Turks/ホステス

野田努   Jun 11,2015 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
E王

 ハウス・ミュージックは、最高の娯楽、最高の快楽のひとつだ。
 たしかにレイヴ・カルチャーは公共性をめぐる大衆運動にリンクしたかもしれない。また、URやムーディーマン、ザ・KLFやハーバートのような人たちがこのフォーマットに政治的なメッセージを混ぜたのも事実だ。 
 だが、ダンス・ミュージックのほとんどのプロデューサーは、意味よりも機能性を、ムードとグルーヴを重んじている。そして、気持ちE追求の姿勢が切り開いた文化なのだから、それは悪いことではないのだ。
 どんなにご託を並べたところで、基本、ダンス・ミュージックは快楽を目的とする。たとえそれが商業のなかに取り込まれようと、あるいは頽廃と呼ばれようと(深夜遊ぶことが頽廃そのもの)、この音楽が途絶えることはない。トーフビーツのように心配するにはおよばない。ダンスは終わらないのだ。

 きっと、ジェイミーXXの『イン・カラー』を聴く多くの若い人にとって、これが最初のハウス・ミュージック体験になるのだろう。だとしたら、このアルバムは、今日におけるハウスの魅力があまりにも瑞々しく記録されている、入口としてはこのうえなく素晴らしい作品だと断言しておく。ぼくのように、ハウスを何年も聴いてきた人間さえもワクワクさせる。下手したら、ザ・XXの2枚のアルバムよりも良いんじゃないだろうか……と思えてくる。
 ついでながら、日本盤には、最高の曲“All Under One Roof Raving(ひとつのレイヴの屋根の下のすべて)”が収録されているし、その未発表ヴァージョンも入っている。この1曲を聴くために、円安のため高価商品になった12インチを買うかどうか迷っていた人にとって、なんとも嬉しい話だ。

 さて、この『イン・カラー』だが、あまりにも評判がいいためか、UKやUSのいちぶメディアは、早速「おぼっちゃまソウル」とか「新自由主義世代のクラブ・ミュージック」とか言いがかりを付けているのだが、こんなシニカルな言葉は放っておくのがいちばんだ。アンダーグラウンド・ミュージックがメインストリームにまで影響力を持ってしまったときは、だいたい賛否龍論が起きるものだから。誰もが褒めるのも気持ち悪いし、売れたらけなすというアングラ根性もぼくは嫌いじゃないが、この音楽を1992年へのノスタルジーとして批判する向きには反対したい。
 「1992年におまえはどこにいた?(Where Were U In '92?)」という標語に従えば、まさにぼくは「クボケンとその場」にいたのだけれど、はっきり言って1992年のレイヴ・ミュージックはこんなに洗練されていなかった。もっとダサかったし、チープだった。良くも悪くも。

 「美」というものを絶対視するとナチズムにさえも手を貸してしまうと指摘したのはスーザン・ソンタグだったっけ? うっかりナチズムを讃えてしまったブライアン・フェリーの過ちもそこにあったよね。同じように、ただ気持ちEだけでは疑問を忘れ、批評精神を放棄し、管理社会に手を貸してしまうのではないかと、これも昔から言われていることだ。
 が、しかし、実は、あるレヴェルにまで気持ちEが達っしてしまうと、あらゆる管理装置(同調圧力や政治や慣習)から解放されてしまうもので、ハウスではそれを「I've Lost Control」という言葉で表現してきたのだけれど(アシッド・ハウスというのがそれ)、これがどういうことかと言えば、あらためて我が身の不自由さに気がついてしまうのである。人間いちどはそのぐらい気持ちEを追求してもいいんじゃないかね。なるべく若いウチに。
 とはいえ、快楽が産業化したとき、考える余地や休む暇さえ与えないほど、情報がぱつんぱつんに詰め込められて、しかもやたらめったらアッパーになる。で、それはちょっと身体感覚として違うだろうと抗したのが20年前のディープ・ハウス・ムーヴメントだった。
 『イン・カラー』は音楽的にはディープ・ハウスに繫がっている。もちろん焼き直しではない。ベース・ミュージック以降の感性のうえで成り立っている若々しい作品だ。1曲目の“ゴッシュ”の後半からの見事な展開、雲のうえを歩いていくような2曲目“スリープ・サウンド”への繋がり、そしてブレイクビーツのうえをロニーの歌う3曲目“シーソー”と、ここまで聴いてわからなかったら……あなたはダンス・ミュージックに近寄らないほうがいいかもしれない。

野田努