「S」と一致するもの

Aphex Twin - ele-king

 2016年6月21日22時。12歳の少年が監督したエイフェックス・ツインの新曲MV“CIRKLON3”が、渋谷神南一丁目交差点、いわゆるスクランブル交差点で突如として上映された。当然、歓喜と混乱と無視が巻き起こる。いわゆるオン・ザ・コーナー的なカオスの生成。ああ、そんなことは00年代には想像すらつかなかった、やはりエイフェックス・ツインは「復活」したのだ、そう思った。むろん、“CIRKLON3”が収録されたエイフェックス・ツインの新作『チーターEP』は、話題性だけの代物ではない。この2010年代中盤におけるテクノ/IDMリヴァイヴァルの象徴として、欠くことのできない重要なピースである。

 そもそも、ここ最近、われわれの耳が、脳が、身体が、テクノを求めてはいなかったか。マシンのキックとベースがもたらす整合性による快楽が必要だったのではないか。チルウェイヴ、ヴェイパーウェイヴ、インダストリアル/テクノ、ポスト・インターネット、ベース・ミュージック、エレクトロニカ、アンビエント/ドローンなど──ジャンルの細分化が加速した現代だからこそ行き着いた「テクノへの回帰」?
 それは反動ではない。むしろ「分母」が明確になったとすべきだろう。2010年代のエレクトロニック・ミュージックは、すべてテクノが根底にあったとさえ言える。それのうちに内包されていたテクノが、明白な輪郭線を伴う分母のように、あらためて浮上してきたわけだ。

 〈エディションズ・メゴ〉傘下のシンセウェイヴ・レーベル〈スペクトラム・スプールズ〉からリリースされたマーク・フェル以降のテクノ=IDMサウンドを聴かせるセコンド・ウーマンのファースト・アルバムと〈ワープ〉からリリースされたプラッドの新作、〈タイプ〉からリリースされた90年代ドラムンベース・リヴァイヴァルのベーシックリズム『ロウ・トラックス』と圧倒的ヴォリュームで聴かせるオウテカ新作、〈モダンラブ〉からリリースされたロウジャックのアルバムとエクスペリメンタルIDMなペダー・マネーフェルト『コントローリング・ボディ』、ベルギーの〈アントラクト〉が送り出すロウ・テクノと石野卓球のエレガントセクシーでテクノなソロ新作『ルナティック』などが一堂に共存する時代、それが2016年なのである。まさにテクノ復権の時代。

 その契機のひとつをエイフェックス・ツインの復帰作『サイロ』(2014)としてみよう。『サイロ』には魅力的なビート、作りこまれたトラック、リチャードらしい繊細で牧歌的なメロディが折り重なり、フロア対応テクノとリスニング対応IDMが絶妙に交錯している。90年代と00年代の流れを継承しながらも、2010年代のテクノの可能性を探索する──それが、ほかならぬリチャード・D・ジェイムスによって、いきなり完成形を見せつけられたと言える。
 また、たとえばヴェイパー/ポストインターネット的な80年代~90年代頭の企業広報/CM的なクリシェ・イメージの反復は、『サイロ』にもあったし(RDJの世代的なものかもしれない。僭越だが同世代としてよくわかる気がする)、IDM的ともいえる緻密なサウンドは全編において鳴り響いていた。続く『コンピュータ・コントロールド・アコースティック・インストゥルメンツ・パート2 EP』においてはスティーヴ・ライヒ的ともいえるミニマリズム、エクスペリメンタル、現代音楽的な音響を追求し、AFX名義の『オーファンド・ディージェイ・セレク 2006-2008』ではアシッド・リヴァイヴァルともリンクした。
 そう、『サイロ』以降のエイフェックス・ツインは、テン年代後半仕様にしっかり対応・変貌しているのである。

 本作『チーターEP』は、テイスト的には『サイロ』に近い。イギリスのシンセサイザー・メーカーの名を冠する本作は、同社のレアなシンセサイザーMS800を用いている。そのせいか、90年代初頭的な音色が、2016年的解像度と音圧で鳴っているかのようだ、と言えよう。私はクラフトワーク『ザ・ミックス』みたいだと思った。最近までダサいと言われていた90年代頭の音色が、何周かしてイケてる音になったのかもしれない。とくにMS800の生々しさが脳を揺さぶる3曲目“CHEETA1b ms800”と4曲目“CHEETA2 ms800”は圧倒的。いや、どのトラックも、斬新なビート・プログラミングとベースの巧さ、サウンドの中毒性が強烈だ。あわいメロディ、渋く盛り上がる構成の妙技も、ほかの追随を許さない。まさに「作曲家としてのリチャード・D・ジェイムス」の面目躍如といったEPだ。
 全曲通してベースラインがトラック/楽曲の背骨になっている。そこから上のメロディと下のビート・プログラミングが生成されているように思える。彼のトラックメイク/コンポジションの手つきを生々しく感じることができのだ。さらに、80年代の企業広告的なアートワークにはヴェイパーウェイヴ的なフェイク感も漂っている。彼がここまで同時代(若手世代)のイメージに衒いなくアプローチしたのは初めてのことかもしれない。このフェイク感/ポップな装いからは、ポスト・インターネット的な感性も楽しめるだろう。

 近年におけるアンダーグラウンド・ミュージックの細分化を経て、それらの音楽の分母としてテクノが(再)浮上した2016年、エイフェックス・ツインがウソのような自然さで、時代の先端に返り咲くことになろうとは誰にも予想できなかっただろう(カセット版は即売!)。こんなことがあるから、ますます新しい音楽(の状況)を追い続けることを止められない。音楽のサイクルには、抑圧された無意識が解放されるようなスリリングさがある。そう考えると、リチャード・D・ジェイムス=エイフェックス・ツインは、90年代以降のわれわれのテクノ、電子音楽の無意識領域だったのだろうか……。
 そんな妄想がどうであれ、2016年のテクノを象徴する1枚は、間違いなく『チーターEP』である。まさに全テクノ/IDMファン必聴のEPだ。

WALL & WALL - ele-king

 渋谷のコンタクトみたいなキャパのヴェニューって良いよね。あのぐらいの大きさが、うちらみたいな音楽が好きな連中にはちょうどいいい。で、来たるべく9月、表参道にWALL & WALL”(ウォールアンドウォール)が誕生する。最高峰の音響を味わえる、多目的スペースだ。
 表参道駅から徒歩1分という好立地にオープンするWALL&WALLは、総面積70坪、収容人数400名の、2フロアで構成されるイベントスペース。
 メインフロアには、世界初となるアルミハニカム平面駆動ユニットを採用した新機構スピーカーが設置され、サブフロアにはDJイベント、物販スペース等、様々な要望に対応できるよう設計されているとのこと。
 最新鋭・最高峰の音響ではどんなイベントが企画されているのだろうか、注目しよう。

正式名称:WALL&WALL
読み:ウォール アンド ウォール
総面積:233.5m² / メインフロア:89.6m² / サブフロア:33.9m²
所在地:〒107-0062 東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1F
TEL:03-6438-9240
OFFICIAL HP:wallwall.tokyo
お問い合わせ:info@wallwall.tokyo


ANDERSON .PAAK - ele-king

 西海岸の才人が日本にやって来ます。昨年8月に発売されたドクター・ドレーの復帰作『Compton』に6曲参加し、大きく注目を集めたアンダーソン・パークが、渋谷WWWXのオープニング・シリーズに登場、まさに待望の初来日公演だ!
 アンダーソン・パークといえば、今年1月には、シンガー、ラッパー、プロデューサー、ドラマーとして、その才能をいかんなく発揮した『Malibu』を発表。さらに、トラックメイカー/プロデューサーであるノレッジとのスウィート・イルネスなユニット、ノーウォーリーズのアルバムを完成させたということで、今回の来日公演は脂の乗ったパフォーマンスが期待される。
 今回は自身のバンド、ザ・フリー・ナショナルズを引き連れての公演ということで、ゴスペル・ミュージックを通過した、アンダーソン・パークのドラミングにも注目したい。最先端の生のビートを聴かせてくれるはずだ。

KOHH - ele-king

 プレイボタンをクリックすると、聞こえてくるのはナチュラルに歪んだエレクトリックギターのアルペジオ。あなたはニヤリとするだろうか。それとも、狐に摘まれたような表情を浮かべる? KOHHはブルー・ハーツやカート・コベインからの影響を公言している。そして前作『DIRT』の“Living Legend”などで披露していたのは、喉が裂けんばかりのシャウト。繰り返される自分はヒップホップアーティストだと思っていないとの発言。遂にサウンド面でもロックに舵を切るのか。そのように連想するのが自然かもしれない。しかしわずか4小節、16秒ばかりで、そのアルペジオは残響音を残しながら呆気なく途切れる。そして聞こえてくるのは鐘の音だ。半音ずつ高くなったり低くなったり。一体誰のためにこの鐘は鳴らされる?

 かつてないレベルでディストーションがかったKOHHのヴォイスは、同じくらい歪んだギターサウンドを呼び寄せる。トラップ・サウンドとディストーション・ギターのミックスに、彼の歪んだヴォイスはいつになくフィットする。しかし渾身の「ダーイッヤァァーーーーーーンッッ」という叫びのテンションが頂点に達すると同時に、ビートまでもがドラムマシンのTR-808ライクなハットが乱打されまくるトラップサウンドから生ドラムに取って代わられる。そして再び鳴り響く鐘の音。歪んだギターサウンドにラップに鐘の音。この風景には既視感がある。1983年リリースされた映画『ジャッジメント・ナイト』のサントラの1曲目、ヘルメットとハウス・オブ・ペインが共演した“Just Another Victim”に、僕たちはミクスチャーと呼ばれるヒップホップとハードコア/メタルの融合体の原風景を見なかったか。

 イントロの冒頭からわずか1分半のこの間にさえ、僕たちは何度も予想外の展開に裏切られ続ける。そして僕たちは気付かされる。このサウンドは「ミクスチャー」という呼称がいつの間にか纏ってしまった「どっちつかずで中途半端である=ヤワである」ことを言外で示すようなものではなく、ガチであると。『ジャッジメント・ナイト』やアイス-T率いるボディ・カウント以来悲願であった、ラップとハードコア/メタル両者の単なるミックスではなく、ガチな境界の無効化を、彼は軽々とやってのけるのだ。

 そしてKOHHは自身の言葉をも、故意にせよ過失にせよ、簡単に裏切って/乗り越えてみせる。“Business & Art”で「ラッパーなんかじゃない」と歌いながら“I Don't Get It”では変則的な譜割りのラップ・スキルを見せつけ、「I'm not a rockstar」と高レベルでヴォイスコントロールされた地声で呟きながらも“Die Young”のMVでは誰よりもロックスター然とした輝き方をしてしまう。そう、KOHHはかつて降神が「ロックスターの悲劇」で歌った「もう誰も喋れない」状況を見事に裏切ってくれる。才気溢れるアーティストたちは僕らを何度でも裏切る。ラストの「Hate Me」では不敵にもコインの裏表の関係にあるファン/ヘイターの裏切りを称揚している。KOHHの言葉もまたコインの表裏を行き来するが、それが嫌なら「殺せるもんなら二度殺せ」と呼びかける。一度目はコインの表面のKOHHを、そして二度目はコインの裏面の彼を殺せと言わんばかりに。

 イントロ込みで全9曲、32分弱で駆け抜けるディスク1は、生死を歌った楽曲が13曲中で約半数を占めた前作『DIRT』の続編であり、今作でも“Die Young”“Born to Die”といった楽曲群では同様に死がモチーフとなる。“Die Young”は1980年にロニー・ジェイムス・ディオ時代のブラックサバスが残した名曲のタイトルでもある。メタルの持つ様式美を象徴するような同曲。KOHHは自らのスタイルがそのような様式美に陥ることを、徹底的に回避しようとしているようにも見える。自らの露悪的な屈折したリリック群は「ドブネズミの美しさ」のように存在感を誇示し、様式美には回収されない。

 それは、本作で抒情的な旋律やコード進行を捨てていることからも明らかだ。かつての“Real Love”や“I'm Dreamin”のようなメロディアスなビートに乗せたラブソングや身近な生活に見出すある種の抒情を綴る歌はここにはない。不穏な旋律をメインに据えること。不協和音のワンコード/ループで突き進むとは、言葉の自立性を誇示しているに等しい。誰にも媚を売らず、自らをも裏切りかねない言葉の自立性を。ここにはかつて彼が描いていたような生活感はない。彼は音楽に対して、自らを尽くしている。

 さらに、本作を象徴する裏切りの発露は「暗い夜」に顕著だ。この曲を聴いていると、数年前、バンコクのスワンナプーム空港まで向かうタクシーの中、深夜の街並みを背景にローカルラジオ局から流れて来た楽曲群を思い出してしまう。ここにあるのは如何にもオリエンタルな旋律なのだが、それはアジアのどこかの国のカラオケで、現地語で歌われるところが想像されるような、ローカル感溢れるオリエンタリズムだ。もちろん共演のジャマイカン、Tommy Lee Spartaからインスパイアされた部分も大きいだろうが、このメロディの音符を選んだのは確かにKOHHなのだ。彼にとって異国のメロディ、アウェイの音符を拾い上げるのは難しいことではないのだろう。本来アウェイであるはずのハードコアトラックにヴォーカルを乗せるのも「ラッパーなんかじゃない」彼にとっては簡単なことであるように。

 この曲で僕たちに提示される情報量は少ない。“静かな暗い夜”と“お腹にナイフ”の二つのフレーズが先導する文字数の少な いKOHHのヴァース。これはロックなどに比較して言葉数が極めて多いラップ曲のフォーミュラを裏切るものであることは自明だ。しかしKOHHは言葉少なげに朗々と歌い上げ、静かな暗い夜”と不気味に光る“お腹にナイフ”の対のイメージを立ち上げている。あるいは、言語の国境やジャンルのボーダーを軽々超え、アウェイな環境の腹部に突きつける彼の才覚こそが、この「ナイフ」なのではないか。

 締めの1曲“Hate Me”で彼は「俺のこと好きになるなよ/まずあんたに興味ない/好かれるより嫌われたいから綺麗事は嫌い」と歌う。このKOHHのラインから遡ること17年前、Nasは彼のサードアルバム『I Am...』収録曲の“Hate Me Now”で「俺を憎むな/俺の視線先にある金を憎め/俺の買う服を憎め」と歌った。Nasはこの曲において、Puff Daddyをフューチャリングすることで自身の商業的な成功を示しつつ、その成功を齎した彼のリリックと音楽が如何に偉大なものかであるかを誇示したのだ。ポップになった/金の匂いがするといった批判に対して、Nasはある種の開き直りをもって対抗した。

 KOHHの立ち位置はこの延長であると同時に、それが行き着く隘路をも軽々と越えてみせる。Nasのリリックにおいて問題視されていた、成功したMCがどのような現実を歌い得るかという従来の問題設定は、KOHHにおいては「地獄までサイフは持ってけない」というステートメントと共に、無効化される。目の前で、富はひたすらに消費される。もっと言えば、消尽される。古代の部族の長が、自身の力を見せつけるために、敵対する部族に見えるように財産を焼き尽くしたように。

 僕らの目の前で、彼の富は消尽される。僕らの目の前で、彼の才能は消尽される。その危うさを、僕らは見ている。しかしこれも、僕らの期待が僕ら自身に見せている幻影に過ぎないのかもしれない。KOHHはこの後、彼の音楽によって、彼のリリックによって、彼の立ち振る舞いによって、僕らに一体、どんな裏切りを見せてくれるのだろうか。

Wild Beasts - ele-king

 ワイルド・ビースツは、いまもっともロックに懐疑的なロック・バンドのひとつだ。自嘲的と言い換えてもいいかもしれない。それはたとえばポストロックにおけるロックの意味性の剥奪のようなものではなくて、相変わらず死滅しないロックのマッチョイズム、男性性に対してのものである。フェミニンあるいはクィアな男はR&Bシンガーとして自らを解放し、あるいはシルベスター・スタローンのようなひとでさえマッチョな男は『エクスペンダブルズ』(消耗品)だと言って自虐しているこの時代に、ロック・バンドをやろうなんて男(たち)はまだ幻想にすがっているのか? 2008年、「ニュー・エキセントリック」なんてタームが有効だった時代にアルバム・デビューしたワイルド・ビースツははじめからそうしたテーゼを内包しており、しかしあくまでフォーマットとしてはアート・ロックをやるという矛盾を抱えていた。そのねじれ方こそが彼らのおもしろさであり、批評家受けする所以でもあるのだろう。フォールズなどのごく一部の例外を除き、2008年前後にデビューしたアート・ロック・バンドの生き残りとしてワイルド・ビースツは、そうした問いを深めてきた。単純に、いまのUKロック・バンドが5枚めのアルバムを出せるということ自体が快挙だ。
 もちろん、ワイルド・ビースツの息の長さは何よりも音のユニークさによって獲得してきたものだ。とくにマーキュリー・プライズにノミネートされた『トゥ・ダンサーズ』(09)のイメージが強いだろう、金属的な質感ながら妙な粘りけを持った奇妙なファンク・ミュージック。エロティック、と言うよりはいかがわしさすら覚える強烈なファルセット・ヴォーカル。ワイルド・ビースツの纏う官能性は、いまどきのロック・ミュージックとしては生々しくフィジカルであることから来ている。知性的だがじつはバキバキに肉体派でもあり、それこそが自分たちを「野獣」と呼んだ理由にちがいない。

 プロデューサーに売れっ子ジョン・コングルトンを迎えた5作め『ボーイ・キング』は、プロダクションのメジャー感を強めたことによりまさに「ワイルド」な印象を前に押し出している。エレガントな風合いだった前作とは対照的だ。が、フォールズがハードロック化(マッチョ化)したのに対してワイルド・ビースツは、演奏と音色がハードになっても艶めかしさを失っていない。1曲めの“ビッグ・キャット”を聴いてみよう。ゆったりとしてシンプルなシンセとリズムのなか、シンコペートするメロディを歌うヘイデン・ソープの高音が聴き手の身体を撫でる。ビッグ・キャットとはイチモツのデカさに頼るしかない男への皮肉だそうだが、どこかしらその視線には憐憫も含まれているようだ。ぶっといエレキのせいかストーナーめいた質感もあるファンク・トラックの2曲め“タフガイ”もまた、逞しい男を演じることにすがる男の悲しみを異化する。ヘヴィなベースがドラムと地を這う3曲め“アルファ・フィメール”では群れの頂点に立つ女に屈する……。アルバムの前半はとくにそうだが、マッチョを装ったサウンドに乗せて、しかしフェミニンな歌を絡めながら男の存在意義を揺さぶっていく。
 転換となるのは6曲めの“2BU”で、この曲はアルバムのハイライトでもある。多くのひとがアノーニを連想するだろうトム・フレミングが深い声で、ロウなコミュニケーションを情熱的に求めてみせる。その様は両性具有的な佇まいを獲得していると言えるだろう。もう一曲フレミングがリード・ヴォーカルを取る“ポニーテイル”もまた、メランコリックに切実に愛を希求する狂おしいラヴ・ソングだ。そこではエフェクトのかかった声のループやシンセなどもかぶせながら、しかしたしかにヘヴィなロック・サウンドが鳴らされている。そしてラストのピアノ・バラッド“ドリームライナー”。はじめは男性性を対象化していたはずのアルバムは、やがて男(たち)の弱さや情けなさ、頼りなさを晒して幕を閉じる。

 『ボーイ・キング』は旧態然とした男の悲哀を皮肉りつつも、同時に共感と同情を滲ませながらゆっくりと浮かび上がらせていく。それは結果的に、中年化していくロック・ミュージックへの眼差しでもあるように僕には感じられる。そこで男たちはたしかに傷ついている。苦悩もしている。それがいまの時代におけるアート・ロックのアクチュアリティのひとつと言えるのではないか。それをたんなる観念の産物にすることなく、ファンキーかつセクシーなサウンドを遵守するのは野獣たちの意地のようだ。まったくもって独自の道を追求し続けるバンドである。

 ジョン・グラントは、ゲイとして歌うことを少しも恐れていないシンガーだ。その痛み、喜び、孤独、愛を赤裸々にさらけ出し、HIVポジティヴであることも公表し、さらにはその心境をも歌っている。だから彼が日本に来ると聞いたとき、僕が会ってほしいと真っ先に思ったのが田亀源五郎氏だった。田亀氏こそ、日本でゲイとして表現することをもっとも恐れていないアーティストのひとりだからだ。ゲイ・エロティック・アートというのは、ゲイであるということを肯定する、その支えになるはずのものだ。形は違えども、両者の表現にはゲイとして生きることがたしかに刻まれている。
 そうして実現した対談は、想像していた以上に熱を帯びたものになった。ゲイ・カルチャーの現在をヴィヴィッドに伝えるものになったとも思う。僕は立ち会いながら真摯な対話に胸を打たれるばかりだった。

 そして、その貴重な出会いは思わぬ続報をもたらしてくれた。ジョン・グラントは今月のHOSTESS CLUB ALL-NIGHTERで再来日することが決まっているが、その際に田亀源五郎氏がイラストを手がけたジョン・グラントの日本限定Tシャツが発売されるそうだ。田亀源五郎のタッチがたしかに感じられるクールな仕上がり。率直に言って、大手アパレルが手がけたプライド・コレクション系のアイテムよりも、ひと癖もふた癖もある絶妙なものになっていると思う。両者のファンだけでなく、先日の対談で興味を持たれた方にもぜひチェックしていただきたい。

 フロリダのゲイ・クラブで起きた銃乱射事件の数日後、ジョンはコンサートでカイリー・ミノーグをゲストに迎えて“グレイシャー”を歌いあげた。対談でも話題になった曲だ。僕は田亀氏の『弟の夫』の連載を毎月読みながら、その曲の歌い出しのことを思い返す……「自分の人生を生きたいだけ 知る限りのいちばんいいやり方で」。そして『弟の夫』に目を戻すと、そこではゲイたちの「自分の人生」が丹念に描かれている。あらためて、この特別な出会いを祝いたいと思う。 (木津 毅)



坂本慎太郎 - ele-king

 世界は転機を迎えている、それは間違いない。日本は自分が望まなかった未来へと進んでいる。ただでさえ中年になるとマイナス志向になってしまうというのに、せめて清水エスパルスが毎回快勝してくれればいいのだがそういうわけにもいかず、現実は厳しいのう。

 『ナマで踊ろう』よりも反復するリズムをいっそう活かし、さらに空間的で艶めかしい音響をモノにした本作『できれば愛を』(の1曲目)を最初に聴いてぼくが真っ先に思ったのは、カンの『フロウ・モーション』だった。それはクラウトロックの王様が、ハワイアン/レゲエ/ディスコに接近した作品で、老練なゆるさがある。が、『できれば愛を』から見たら、『フロウ・モーション』でさえも、やかましい/うるさい/説明的で押しつけがましいな音楽かもしれない。
 これはまず音響的冒険であり、最高のダブ・ミキシングだ。テンポの遅いミニマルなドラムは魅力たっぷりで、そのリズムに絡まるベースがまた独特な間合いで、しかも絶妙にディレイがかけられている。この、あたかも無重力の別世界で生成しているかのようなドラム&ベース=グルーヴは、唯一無二の素晴らしさだ。舌を巻いてしまう。が、アルバムの脱力感は、いま現在のぼくの無気力さと紙一重でもある。その空しさは、後任も決まらないうちに編集部から姿をくらました橋元優歩さん(長い間お疲れ様でした~)が原因ではない、政治的な理由からだ。
 もっとも坂本慎太郎は、表面上は、『ナマで踊ろう』以上に社会問題に深入りすることはしなかった。「できれば愛を」という言葉は、例によって坂本節というか、ある意味ソツがなくカドが立つ言葉ではない。それは彼の一貫した美学でもある。『ナマで踊ろう』はある意味自ら掟を破った作品だったわけだが、今回は、音楽的には前作をアップデートさせながら、じつは言葉的にも引き続き絶望的な気持ちを代弁している。東京都知事選後のいま聴けば特別な意味を帯びてくるだろう。

自分のしたことが招いている
悲しいくらい俺は
恥ずかしいくらい俺は
さみしいくらい俺は
無力だ “超人大会”

 坂本慎太郎がニヒリスティックなのは、いまにはじまったことではない。彼にユーモアがあるのもわかる、それでも、すべてが馬鹿に見えてしまっている“マヌケだね”のような曲に、いまのぼくはどうしても乗れない、愛想笑いすらできない、本当に落ち込んでくるのだ。自分に余裕がないからだろうか。中年だからだろうか。自分が本当に無力でマヌケだかろうだか。いまはそんなふうに抽象的に、自分たちはダメだダメだダメだと繰り返することに意味があるのだろうか……いや、坂本慎太郎には意味があるのだろう。なにかそれなりに強い気持ちがなければこの作品は生まれない。だが、あまりにも現実がひどいせいだ、いまはその抽象性にぼくは違和感を覚える。

 ディスコというのは70年代の音楽であり、ソウルの発展型だ。2016年、ダンス・ミュージックはいまも動いている。カンはさまざまな世界の音楽にコネクトしようとしたし、『フロウ・モーション』にもその痕跡がある。今年のグランストンベリー・フェスティヴァルにおけるデイモン・アルバーンはシリアのオーケストラを招いて演奏した。それは、世界の転機にいる現在の、彼なりのひとつの回答だろう。もちろんそんなことだれもができるわけではないけれど、音楽にはまだできることがある。わかった! 年末号の紙エレキングの特集はこれでいこう。だったら、いまぼくたちに何ができるのか? ただ本当に無力でマヌケなだけなのか?

Dego - ele-king

 フローティング・ポインツとUKグライムとの溝を埋めることができるのは、ディーゴだ。ジャングル/ドラムンベースの創世記におけるキーパーソンとして知られるディーゴは、まずUKハードコアをデトロイト・テクノと結びつけ、そして数年後にはUKハードコアをクラブ・ジャズとも結びつけた。ベース・ミュージックが成熟と洗練とに向かっている現在、この偉人が再評価されるのはなんら不思議ではない。
 今回は東京CONTACT、大阪CIRCUS、京都METROの3都市をツアー、各地Degoのニッポン・サポーターとの共演です!

Dego & The 2000Black Family - It Don't Get No Better

https://soundcloud.com/2000black

 Joy Orbison とWill Bankheadが運営するイギリスのレーベル"Hinge Finger"のショーケースが、シックなビジュアルで多くのファンを集めるブランドC.E.(Cav Empt) のサポートの元行われる。イギリスのアンダーグラウンドで、独自のテイストとビジュアルで人気を誇るThe Trillogy TapesのWill Bankheadが運営する兄弟レーベルとも言えるHinge Fingerは、"Peder Mannerfelt"を招聘。

 "Peder Mannerfelt"はスウェーデンのアーティスト、"Subliminal Kid"のメンバーとしてMassive Attackにリミックスを提供するなど、10年以上のキャリアを持つアーティスト。EPリリースに際してプレイを行う。

 アナログ機材から生まれるノイズとを印象的なボイスサンプルのカットアップで、新たなソニックウェーブ体験をさせてくれるだろう。さらに、幅広い選曲を見せるJoy Orbisonのプレイにも注目だ。CO/R名義でローなテクノ・トラックを収録した"Gudrun" EPリリースしたかと思えば、先日のNTS Radioではダンスホールからハウスまで縦横無尽のプレイを見せた。また、日本からのDJにはFuture Terror主宰のDJ NOBU登場。

 なにが起こるかわからないエクスペリメントを体感しにUNITに足を運んでみては。

C.E & HINGE FINGER

JOY ORBISON (Hinge Finger)

PEDER MANNERFELT (Peder Mannerfelt Produktion / Hinge Finger)

WILL BANKHEAD (The Trilogy Tapes / Hinge Finger)

DJ NOBU (Future Terror / Bitta)

日時 : 2016年9月10日(土) 23時30分〜

場所 : 代官山UNIT www.unit-tokyo.com

〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西1−34−17 ZaHOUSE

価格 : 前売り 3,000円 / 当日 3,500円

前売りチケット (8月6日土曜日発売開始):

e+ / LAWSON (L Code: 71247)/ diskunion (Shibuya CMS / Shinjuku CMS / Shimokitazawa CMS / Kichijōji) /JET SET TOKYO / TECHNIQUE / DISC SHOP ZERO / Clubberia / Resident Advisor / BEAMS Records / min-nano / TOXGO / have a good time / UNIT / C.E

※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います


白川まり奈 妖怪繪物語 - ele-king

オカルト・SF・怪奇漫画界伝説の奇才・白川まり奈、驚愕の未発表作品を発掘! ここに刊行!!

『百鬼夜行絵巻』から鳥山石燕や
『稲生物怪録絵巻』を経て水木しげるに到る、
絵物語としての妖怪画の伝統を受け継ぐ偉業
―東雅夫(アンソロジスト、文芸評論家)

カバーは前面金箔押し+2色印刷
本文は6種類の紙を使い分けた、豪華特殊仕様!

没後15年以上経過する、このミステリアスな作家の作品のほぼすべて絶版。熱狂的なファンが血眼になって古書を探しているなか、未発表原稿が存在した。この「妖怪繪物語」は、白川まり奈が生前にライフワークとして取り組んでいた、幻の原稿である。ミントコンディションにて10数年眠っていた驚愕の内容が今明らかになる!! 解説はアンソロジストの東雅夫。妖怪研究家としての白川まり奈の魅力を解き明かす。

封入特典:
『侵略キノコ新聞』と題した投げ込み特別付録付き。マニア必読の知られざる白川まり奈の世界を紹介する。さらにここには、90年代にある雑誌に発表された、誰も読んだことのないであろう、超短編漫画作品を発掘し収録する!

■目次
第一話 鬼 
第二話 鉄鼠
第三話 九尾狐
第四話 付喪神
第五話 天狗の呪い
第六話 八人坊主ひとねぶり
第七話 輪入道
第八話 ムジナの祟り
第九話 河童

解説:東雅夫
未発表原稿との出会いから書籍化まで:古書ビビビ・馬場幸治



■著者プロフィール
白川まり奈(しらかわ・まりな)
一九四〇年長崎県生まれ。二〇〇〇年没。武蔵野美術大学を中退した後、漫画家、イラストレーターとして活動。オカルト系、SF系作品を曙出版、ひばり書房(二〇〇四年閉業)から多数発表。二〇一六年、現在多くの著作が絶版であるなか、幻の未発表原稿を発掘。今回、生前にライフワークとして取り組んでいたという幻の未発表原稿『妖怪絵ばなし』が『白川まり奈 妖怪繪物語』として書籍化される。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026