「S」と一致するもの

NHK - ele-king

 音楽は世界の無意識だ。ポップ・ミュージックであっても、エクスペリメンタル・ミュージックであっても、それは変わらない。音楽がアートになりえるのは、その一点によってのみともいえる。
 この2015年初頭に、リチャード・シャルティエ主宰のサウンド・アート・レーベル〈ライン〉から発表された2作品は、そのことを強く再確認させるサウンド・アート・アルバムであった。NHK『プログラム』とコンラッド・エッカー『スリープウォーカーズ・イン・ア・コールド・サーカス』である。これらの作品もまた世界の混沌へのアジャスト/アゲインストを音によって実現しているのだ。ミニマル、コンクレート、ノイズ。そして不安定。光/黒。

 NHKはマツナガ・コウヘイとムネヒロ・トシオのユニットである。彼らはソロや複数の名義を駆使しつつ、膨大な量のリリースを行ってきた。このNHK名義でも、〈ラスター・ノートン〉〈パン〉〈インポータント・レコード〉などの世界有数のエクスペリメンタル・ミュージック・レーベルから複数のEPをリリースしている。しかし、意外なことにアルバムは、この〈ライン〉からのリリースが初だ。そもそも〈ラスター・ノートン〉ではなく〈ライン〉からのリリース、というのも注目に値する。意外といえば意外だが、当然といえば当然だ。なぜなら〈ライン〉は、2000年代を通じて、ロウワーケース、グリッチ、ドローンなど「ポスト・デジタル・ミュージック」を支えてきたレーベルである。そして本作は、いわば「ポスト」以降の「ポスト」、つまりは「ポスト・ポスト」を象徴する作品に仕上がっているのだ。じつに「らしい」ラインナップといえよう。
 本作のトラック名はすべて“Ch.”で統一され、匿名性を際立たせている(ユニット名がNHKに、アルバム名がプログラムなのだから、検索すると大変なことになる!)。また、NHK、プログラムなど、どこかTVのアナロジーのようにも感じる(私など本作を聴きながら放送終了後のTVをザッピングするような懐かしい気分すら引き寄せられた)。
 曲は、“Ch.1”から“Ch.10”までの全9トラックだ。曲名すらもグリッチを起こしている点に注目したい。ここにおいて抽象化された剥き出しのグリッチ・ノイズとビートは、純度100%の電子音響サウンドを実現している。静寂と炸裂の取り方が素晴らしく、カキンとした高音ノイズが耳にアディクトする。また、ビート/リズムにはどこかファンク・ミュージックのようなタメも感じる(アオキ・タカマサの音楽を思い出す)。いわば点滅する蛍光灯のようなデジタル・ノイズ・ファンク。しかし同時に、まるでコンセントの接触不良のように不安定なノイズ/音像の揺らぎを獲得しているのだ。そのバチバチと炸裂する電気の火花のような音は途轍もなく刺激的だ。すべての地盤が揺らいでいる感覚。地震のような感覚。ここに私は強い現代性を感じた。サウンド、コンポジション、リズム、ノイズ、揺らぎ、震動。現代のデジタル・ミュージックを聴くならこれである。あのショータヒラマの新作とともに耳に注入しよう。本作もまた現代の「ポスト・パンク」である。

 一方、コンラッド・エッカーはベルリンのサウンド・アーティストである。昨年に〈ジギタリス・レコーディングス〉からアルバム『アイル・フェアーズ・ザ・ランド』をリリースしており、本作は2作めにあたる。またLumisokea名義では、〈オパール・テープス〉からEPをリリースしている。
 NHKの剥き出しのグリッチ・デジタリズムとは対照的に、コンラッド・エッカーは、アナログ・シンセサイザーの淡い音響を複層的に用いることで、どこか現代音楽的なコンポジションを実現している。ときに雅楽のような瞬間もあり、「電子音楽にトランスレーションされた武満徹か?」と思ってしまったりもする。かと思えば霧のようなノイズの中にテクノ的なビートが融解しているようなトラックもあるなど、一筋縄ではいかない音楽性が魅力的だ。素材と素材が衝突し、より響きと運動が、まるでオブジェのように生成している。まさにモノクローム・サウンド・オブジェとでも形容したい作品である。
 どうやら、コンテンポラリー・ダンスのための音楽のようでもあり、そのためか肉体が通常の運動性から脱臼する音響的運動性を獲得している。また、どこかエリックMのサウンドとの類似性も感じる。ミュージック・コンクレート的なサウンド・スケープを、モジュラー・シンセの流行以降の感覚で新生させたような音だ。NHKの音が高音部分を強調したノイズであるのに対して、コンラッド・エッカーは中音域から低域を震動させるような太いノイズ/音響が魅力的だ。アナログ電子機械から発信される音の連鎖と震動とでもいうべきか。個人的には、このような音こそ西欧的な実験音楽の最先端という気もする。石造りの建築、教会の響きの遠い記憶。ミュージック・コンレクーティズム2015。本作は、インダストリアル・ミュージック・ムーヴメントにも合流している作品でもあり、現代的/最先端の電子音楽に共通する「ノイズのミュージック・コンクレート的な応用サウンド」とも言えよう。まさにモダン・ノイズ・コンクレート・ミュージック。

 そう、NHKはグリッチの最先端であり、コンラッド・エッカーはインダストリアルの最先端に位置する音楽なのだ。言い換えれば、NHKはポスト・モダンな状況にアディクトする音であり、コンラッド・エッカーは西欧的なモダニズム以降に存在する音なのである。デジタルの電子音とアナログの電子音という差異もある。その意味で両極の存在なのであるが、同時に、ミニマル、コンクレート、ノイズ、不安定、光/黒というキーワードによって共通もする音でもある。この2作は、たとえば、ヴァレリオ・トリコリのサウンドとも共通する。ちなみに、ヴァレリオ・トリコリがヴェルナー・ダーフェルデッカーとともにジョン・ケージの「ウィリアム・ミックス」のリアライズに挑んだ『ウィリアム・ミックス・エクステンテッド』はかなりの傑作だ。ケージ以降の環境を近年のモダン・ノイズ・コンクレーティズムで上書きしたような作品であり、時代を象徴する一作といえよう。

 ミニマル、コンクレート、ノイズ、不安定、光/黒によって成立するモダン・ノイズ・コンクレート・ミュージックは、ポスト・ポスト・デジタル・ミュージックである。ここにおいてデジタルとアナログの区分は消失する。これこそ新しい時代の新しい電子エクスペリメンタル・ミュージックなのである。新しい電子音楽は、人間が消失してしまう世界を表象する。あの電気の接触不良音も、あのアナログシンセのノイズも、人間が消失しても、そう、電源があるかぎり(それは限られた時間かもしれないが)継続する音のようだ。人のいない世界で鳴りつづけること。〈ライン〉の新作2作は、そんな時代の幕開けを象徴する作品である。
 かつて〈ライン〉はポスト・デジタル・ミュージックをキュレーションしてきた。だが、いまはポスト「以降」の世界に突入している。いわばポスト・ポスト・デジタル・ミュージックの領域が、ここにある。またも、2015年の電子音楽ベストの上位がすでに決まってしまったようなものだ。むろん、明日のことなど誰にもわからないが。

Mourn - ele-king

 カーラ・ペレス・ヴァスのヴォーカルに、ふとファースト・エイド・キットの姉妹を思い出す。彼女はラモーンズのTシャツを着ている女の子にしては意外な印象の歌をきかせてくれる。そう、ガレージーなスタイルが持つ固着したイメージを、その真ん中を行きながら吹き飛ばしていくシンガーだ。スペインのガレージ・バンド、モーンのヴォーカル、カーラ・ペレス・ヴァス。いでたちからすれば、ファースト・エイド・キット=北欧のフォーク姉妹との比較は妙かもしれないけれども、たとえば冒頭の“ユア・ブレイン・イズ・メイド・オブ・キャンディ”を聴いてみよう。おそれるもののない若さとみずみずしさ、のびやかな四肢をいっぱいに張り出したような力づよさがそのままに放射されているこの歌だけでも、二者をつなぐにじゅうぶんな相似性が宿っている。姉妹のうちの、とくにあの不敵で太いほうの喉の、ふてぶてしくも健康的な魅力に驚いた記憶がよみがえってくる。彼女らもまた森をゆくパンクである。何かに対して、いや、何もかもに対して怒っているようなそのチリチリとくすぶるエネルギーさえ、カーラや姉妹たちの無敵の若さの中ではめいっぱいに祝福される。

 モーンはスペインの4人組、みな10代という本当に若いバンドである。英米豪以外の……というかUK以外のヨーロッパのガレージ・ロックにはびっくりするほど古くさいものがごろごろと転がっていたりもするけれど、スペインは〈エレファント〉のように優れたギターポップ・レーベルが存在する土壌でもあり、モーンの音もまた、オーソドックスなスタイルのなかに英語圏マナーとは少し異なるニュアンスと背景をつけ加えているように見える。
 バンドの中心はジャケット写真のふたりで、ジャズ・ロドリゲス・ブエノとくだんのカーラ。ついついとヴォーカルの魅力を書き連ねてしまったが、楽曲制作については全曲ジャズとモーンのふたりの名がクレジットされている。拠って立つところが丁寧に考察・紹介されたライナーによれば、ジャズは父に教えてもらったPJハーヴェイをきっかけに、セバドーやスリーター・キニー、ニルヴァーナ、フガジ、スリントまで、ハードコアからいわゆるオルタナ、90年代のUSインディ・ロックを中心としてその音楽的なアイデンティティを育んだようだ。これはこのバンドのメカニズムを明かすほぼそのままの見取り図でもある。そしてほとんどの曲でヴォーカルをとるカーラには、なるほどPJハーヴェイといわれれば頷かざるをえないような勁(つよ)くて繊細な魅力もあり、かすかなふるえのなかにのぞく男勝りの気丈さにはジョニ・ミッチェルも聴き取りたくなる。美しい出会いだ。出会いのなかに、すでにわくわくするような音楽の予感がある。そして「あなたたちは新しい音楽を参照しないのか?」という問いがためらわれるほど、そこには自らが好んできた音楽への強い愛着と無邪気なあこがれとがのぞいている。

 さて、彼らをフックアップした〈キャプチャード・トラックス〉にも言及したい。その名は、先述の冒頭曲“ユア・ブレイン・イズ・メイド・オブ・キャンディ”において、カーラの歌に導かれて入ってくるギターの音をきけばカチリと符合し納得するものがあるだろう。チルウェイヴというOSをガレージというドライブで走らせたような……シューゲイジンなドリーム・ポップやエイティーズ・マナーなシンセ・ポップに「シットな」ガレージ・ロックを縫合しながら2010年前後のインディ・シーンを象徴した、このレーベルらしい音。しかし、方向はブレないながらも「あのときのレーベル」として彼らがゆっくりと忘れられていくようにも思われた現在、モーンはストレートにして急角度な彼らからのメッセージとして耳目を驚かせてくれる。たとえば2曲めに切り替わるときに、カーラの声もまた一気に表情を変え、わたしたちが知る〈キャプチャード〉とは異なるPJハーヴェイやグランジが立ち上がってくる。“マーシャル”などにも、ダイナソー・ジュニアからぺイヴメント、ソニックユースまで圧縮して押し込まれているような錯覚を覚える。ポストパンクやニューウェイヴ、あるいは80年代のUKインディにより軸足を置くかに感じられた、かのレーベルのセンスはいま、たとえばウォーペイントなどが抱える少し文学的な暗さ(他愛ないようでいて詩の文学性も高い)とともに90年代へとスライドして横すべりしながらも大らかな軌跡を描いている。マック・デマルコの評価がいよいよ高まったのに加え、こうした新しい発掘の矛先をさらに広範囲に向けていることに期待をいだく。このバンドに会っては、10曲20分そこらという短さがわざとらしく感じられず、モーン(哀悼する、弔う)といった名前がむしろ輝かしい。

ASHRA - ele-king

Moduleでの多国籍パーティ「Laguna Bass」でレジデントを務め、同時にトラック制作をスタート。14年NO/Visionist EPでIRMA recordsよりデビュー。09~2年間Jetset RecordsでのDJチャートを担当。6月位から新たにレギュラーパーティーやる予定です。徒然ここをチェック。
https://soundcloud.com/ashra-3
facebook.com/ashradj

3/16(月)TBA@Le Baron
4/25(土)TBA@Solfa
5/16(土)No Surface@ DJ BAR HIVE(小倉)

王道にDJで良くかけている/かけたいTOP10チャート

“ディレイ”対決は加速する! - ele-king

 オウガ・ユー・アスホールとマーク・マグワイヤ。ありそうでなかった貴重なライヴである。両者をつなぐキーワードはひとまずクラウトロック(そしてイヴェント・タイトルのとおり“ディレイ”)だと言えようが、エメラルズを離れたのちのマグワイヤの活動はよりパーソナルに、より自由に柔軟に展開をつづけているし、オウガ・ユー・アスホールも一枚ごとに音楽性を深めひとつところに留まる様子がない。ロックのイヴェントではまちがいなく最高峰のステージを堪能することができるだろう。めくるめくようなディレイ体験を期待したい。

 ということで、ele-kingでは大好きなふたつのアーティストたちの競演を祝福して、みなさんをライヴへご招待いたします。以下のガイドにしたがってご応募(ele-kingツイッターアカウントの該当ツイートをRT)ください!

■応募方法
※twitterサービスをご利用されている方を対象とする企画です

・ele-kingアカウントをフォローし、同アカウントによる本件についてのツイートをRTして下さい
・3月15日(日)24時を締切として、RTをしてくださった方から抽選で3名様をライヴにご招待いたします
・当選のご連絡はツイッターのDM機能を利用して行います。3月16日(月)にご連絡予定ですが、3月19日(木)までにご返信がない場合は無効とさせていただきますのでご注意ください。
・チケットの送付はありません(受付でお名前を頂戴いたします)ので、DMにてご住所をお知らせいただくようなやり取りはございません

本件についてのお問い合わせはele-king編集部までお願いいたします。
(※アーティストやレーベル、UNIT側ではご対応できません)

■"" DELAY 2015 ""
OGRE YOU ASSHOLE × Mark McGuire

オウガ・ユー・アスホール OGRE YOU ASSHOLE
マーク・マクガイヤ Mark McGuire


OGRE YOU ASSHOLE


Mark McGuire

日程:
2015年3月29日(日)
会場:代官山UNIT
開場:17:15 / 開演:18:00
料金:ALL STANDING \4,000(1ドリンク別)
主催:HOT STUFF PROMOTION / UNIT 企画・制作:Doobie / UNIT
協力:ele-king / root & blanch / Office ROPE
INFO:HOT STUFF PROMOTION/Doobie 03-5722-3022 https://doobie-web.com
UNIT https://www.unit-tokyo.com/
チケット:
主催者先行予約受付
1月21日(水)20:00~1月29日(木)23:59
受付URL:https://doobie-web.com
一般発売日:2015年2月7日(土)
●チケットぴあ 0570-02-9999 t.pia.jp Pコード:254-739
●ローソンチケット 0570-084-003 l-tike.com Lコード:79252
●イープラス eplus.jp
●GAN-BAN 03-3477-5701 ●diskunion各店 ●Jet Set Records


Damon & Naomi - ele-king

 デーモン&ナオミのデーモン・クルコウスキーが運営する『イグザクト・チェンジ(Exact Change)』が発刊してきたフリーのジン(iTUNESのアプリで無料DLできる)がなかなかおもしろく、昨年は気がついたら読むようにしていた。『Exact Change』とは、最近ではルイ・アラゴンやアントナン・アルトーなど、デーモンとナオミが心酔するシュルレアリズムやダダイズムを中心とした作家を新装丁による復刊というスタイルで紹介している出版社。デーモンは自身の音楽活動との関連を補完する目的も兼ねてその出版社と同名のデジタル・フリー・ジンを発刊してきたようだが、決してコンテンツは多くないものの、これまでにステフィン・メリット(マグネティック・フィールズ!)やジュリア・ホルターらが執筆してきており、14号にはキム・ゴードンの詩やジム・オルークによるコラムや写真も掲載されていた。東京の風景を撮影したジムの写真などは彼の目線があくまで猥雑な風景を捉えていたりして、デーモン&ナオミと交友関係にあるそうした著名なアーティストもここでは自由に発信しているようでなかなか興味深い。

 さて、そのジンの同じ14号に掲載されていたのが、ナオミ・ヤンが制作した約30分のショート・フィルムと、彼女自身の作品解説。映像作品は30分ほどのサイレント・ムーヴィーだが、ちゃんと主演俳優(ノーマン・フォン・ホルツェンドルフ)を起用したもので、2011年12月にツアーでたずねたイタリアのタリンのヴェニューが古い映画館だったことからアイデアが思いつき、ナオミとその主演のノーマンのそれぞれの父親がともにここ数年の間に亡くなったことを一つのテーマに制作した、というようなことが綴られている。実際に見ると、もちろんセリフなどはなくストーリーもとくにあるわけではなく、バックでデーモン&ナオミによる凛々しく美しいアコースティック・ナンバーが淡々と流れていく、という具合。もともと映像を喚起させる余地を残した、音の空間への侵蝕を描いたような音作りがデーモン&ナオミの魅力ではあってきたが、こうして本人作のフィルムが重なり合うと、何かとサイケ・フォークと評される彼らのすべての作品に共通して秘められたテーマはじつはこの映画そのものだったのか! と気づかされる。

 そのショート・フィルム『フォーチュン(Fortune)』のために作られたアルバムが本作。というより、その映像のバックで流れている曲をそのままオーディオ作品としてパッケージ化したものと言っていいだろう。サントラというよりも、映像と一体になった音楽集と捉えるべきで、とりたててこれまでの彼らの作品と距離があるわけではない。1曲1曲は1分台から長くても5分程度の短めのものが11曲集められており、デーモンとナオミそれぞれのヴォーカル曲もあればインストもあり、そのインストがちょっとしたインタールードのようにもなり、音だけ聴いていても、脳裏が映像へ自然を誘われるような作りになっている。曲はすべて二人によるオリジナル。アコースティック・ギターは時に柔らかに、時にシャープにつまびかれ、エレクトリック・ピアノの瑞々しい音色が、二人の穏やかなハーモニーの中でノスタルジックな色彩を放つ。さらにはドラムのシンバルやブラシによる音のさざ波が遠い記憶を刺激し、最終的にフィルムの中にあった深い森の中で先祖(?)の写真をめくる場面、部屋の壁の肖像写真を見つめるシーンが見事に想起されていくという鮮やかな連動。そこでわれわれは気づくのだ。何かと“家族”を実感させる場面が多く登場するこのフィルムさながらに、そうした家族や仲間とのつながり、慈愛のようなものを過剰になることなくそっと刻み込んでいく作業。それこそが寡黙ながらもかたい絆で結ばれたカップルとして知られるデーモン&ナオミの一貫したテーマなのではないか、と。
 絆が結ばれたり切れたりする営みを、時の流れに逆らわないように受け入れていくかのような佇まい。サイレント・フィルム『フォーチュン』はそうした誰にでも訪れる日常をマジカルにデフォルメしたものでもある。そこに“幸運”“財産”という意味を持つタイトルを与えた彼らのヒューマニズムに、私は静かにノックアウトさせられてしまうのだ。

OG from Militant B - ele-king

港に帰ろう 2015.3.3

ヴァイナルゾンビでありながらお祭り男OG。レゲエのバイブスを放つボムを日々現場に投下。Militant Bでの活動の他、現在はラッパーRUMIのライブDJとしても活躍中。
今回のランキングは初のノンレゲエ、ノンレコードで送る、俺の家にある女性ボーカルCDたちを紹介。やっぱ歌ってる女って最高じゃん?なあ男ども!こうやって並べると自分は分かりやすいものが好きだし、結局男は女に支えてもらってばっかなんだなあと。女の子はイケてる女性を感じてほしいです。You Tubeでも良いし、アルバムgetしてランキングに挙げてる曲以外も聴いたら楽しさ倍増!無限大!そしてお洒落してパーティーにGO!!

3/3 吉祥寺ceeky "FORMATION"
3/6 札幌plastic theater "SOUND TRAP"
3/7 函館cocoa"MUSICALITY DEMANTA SPECIAL"
3/11 新宿open "PSYCHO RHYTHMIC"
3/14 吉祥寺warp "YougonnaPUFF?"
3/15 池袋bed "GRIND HOUSE"
3/20 吉祥寺cheeky
3/21 渋谷asia "IN TIME"
3/25 池袋bed "BED ANNIVERSARY"
3/27 吉祥寺cheeky "MELLOW FELLOW"
4/7 吉祥寺cheeky "FORMATION"
4/10 中野heavysick
4/11 渋谷roots
4/25 那覇loveb

Aphex Twin - ele-king

 だいぶ前にユーチューブで観たDJセットは“ウインドウリッカー”をクライマックスに配置したもので、スタートからBPMが遅く、いってみれば“ポリゴン・ウインドウ”をスローにしたような曲が前半の多くを占めていた。『ele-king vol.14』で予告されていた新作はその頃につくられたのではないかと思う曲が並べられ、これを聴いているとどうしても「ウインドウリッカー」が聴きたくなってくる。“ウインドウリッカー”が例の映像とセットで放っていた雰囲気とはまったく異なった曲に聴こえるのはいうまでもなく、かつて“ディジェリドゥー”が時代とともにどんどんちがう曲に聴こえていったことも併せて思い出されてくる(エイフェックス・ツインの初来日DJで、彼が“クォース”を何度もBPMを変えてプレイし、そのことごとくがすべて異なって聴こえたこともいまさらのように思い出した)。

 一方で、このEPには彼がミュージック・コンクレートを追求していた時期のなごりも強く反映されている。ヤニス・クセナキス『エレクトロ-アクースティック・ミュージック』(1970)を思わせるタイトルしかり、そうした種類の発想を随所で取り入れながら、あくまでもベースによってクラブ・ミュージックに着地点を見出していることも明らかだろう。さらにはいくつかのドラミングでワールド・ミュージックへの関心も露わにしている(偶然、そのように聞こえるだけかとも思ったけれど、エンディングでは明らかにマリの楽器バラフォンが一瞬だけサンプリングされている。『ele-king vol.14』のインタヴューでガンツがトルコ出身だということに過剰に反応していた理由がわかったというか)。ミュージック・コンクレートの追求は、少なくとも発表された音源を通じては一時期接近しただけで、ほどなくして離れたのかと思っていたけれど、彼の興味が持続していたことがわかり、これにワールド・ミュージックを掛け合わせてしまうというのは、やはり彼が時代の編集者として優れていることを示している(『サイロ』ライナーノーツ参照)。少なくともリリースのタイミングに関しては天才的な勘を発揮していると思う。

『サイロ』がリリースされた直後、リチャード・D・ジェイムズは「モジュラー・トラックス」と題されたアルバムをフリーで公開した(後に削除。リンクが切れてなければhttps://www.youtube.com/watch?v=0tnh9cbuRBEに転写されている)。また、このEPがリリースされた直後には「user48736353001」の名義で最初は59曲、1月30日の時点では110曲の未発表曲がアップされている。なかには“レッド・カルクス”や“AFXオリジナル・テーマ、さらにはルーク・ヴァイバートの曲を変名でリミックスして話題になった“スパイラル・ステアケース”など聞き捨てならない曲もけっこうあるし、正規盤のリリースと同時になんだかよくわからない名義を駆使して、ぐちゃぐちゃといろんな音源をリリースしまくった90年代の自己イメージが繰り返されていることは明らかだろう。リスナーとの距離感がいつもこの人はどうもおかしい。

 ランダムにアップされた「モジュラー・トラックス」や「user48736353001」との対比で聴くと、新たなEPが1枚の作品としてどれだけ入念にまとめあげられているかがよくわかる。『ポリゴン・ウインドウ』をビート・ダウンさせたものだと冒頭では書いたけれど、「ウインドウリッカー」から『ドラックス』に至る過程のなかで完成できなかったものがここではかたちになっているのではないだろうか。「Pt 2」と題された意味もここにあるような気がして仕方がない。

José González - ele-king

 どこにも属さないで、しかしどこにでもフィットする音楽。8年ぶりのアルバムだというのに、まるで平然と、どこか超然と変わらない演奏がはじまる。ホセ・ゴンザレスがギターをつま弾いてそっと差し出す旅情は、いとも簡単に目の前の風景に水彩で色をつけていくようだ。大きな音ではないが、だからこそ、いま隣で鳴っていることに安心させられる。

 じっさい、ソロ・アルバムとしては3作めとなる『ヴェスティジズ&クローズ』はシーンのトレンドはおろか世のなかの流れとはべつのところに存在している。エクスペリメンタルな志向を含んでいたフォーク・ロック・バンド、ジュニップとしての活動をひと段落させたゴンザレス個人のタイミングで、この弾き語りはふとはじめられたという感じだ。2004年のヒット作『ヴェニア』のときにはそのチルアウト志向というか、フォークトロニカなどとも緩やかに共振する感性があったし、インディ・ロック・シーンで非西洋音楽からの引用が急増することを予見してもいた。2007年の『イン・アワ・ネイチャー』の頃にはゴンザレスのそんなあり方はまさにインだったわけだが、いま彼の音楽の無国籍的な佇まいを見ていると、そもそもそうした物差しが必要でなかったことに気づく。アメリカーナの新解釈という側面も持っていたコンピレーション『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』(2009年)において、ゴンザレスがザ・ブックスと風変わりなエレクトロニカ・ポップをやっていたことを思い出してもいいかもしれない。アルゼンチンをルーツに持つスウェーデン人というやや特殊な出自も関係しているだろうが、この2015年においていっそう、彼が特定の枠組みに押し込められることからさっと身をかわしていることが眩しい。

 ホセ・ゴンザレスの楽曲はべたっとした弾き語りでない南米音楽的なリズム感覚を擁していることが魅力だったが、このアルバムでもとくに“レット・イットキャリー・ユー”や“リーフ・オフ/ザ・ケイヴ”などに控えめながらもそうした躍動感を発見できる。だが本人が説明するようにここにはアメリカのフォーク・ロックの要素もあれば、アフリカ音楽からの影響もある。また、余韻たっぷりに響くギターのピッキングにはジョン・フェイヒィの名前を連想せずにはいられない。場所だけではなく時間もやすやすと行き来する。“アフターグロウ”ではそうした彼の音楽の多面性が発揮されており、ブルージーなリズムは重たくならずにごつごつとした手触りを伝えてくる。

 “リーフ・オフ/ザ・ケイヴ”のオフィシャル・ヴィデオはゴッドレス・チャーチ(神のいない教会)での集まりをイメージして作られたという。そこでは特定の宗教を持ち出さずに人びとが集い、歌い、そしてゴンザレスの「光に連れ出してもらうんだ」というスピリチュアルな言葉が繰り返される。それがあまりに自然な振る舞いであるために気づきにくいが、しかし彼はそのようにして何かに束縛されないことをかなり意識的に実践しているのではないか。「捨ててしまおう 重荷を捨ててしまうんだ/忘れてしまおう 我を忘れてしまうんだ(“レット・イット・キャリー・ユー”)」。根無し草として、あるいは旅人として、自我を世界に差し出してしまうこと。それは多くの人間が自分の居場所を守るのに躍起になっているこの時代においてあまりに無防備で、しかしだからこそ勇敢な姿勢に思える。だがゴンザレスはあくまで自然体だ。

 本作はまた、全曲オリジナルとなった彼の歌の魅力をあらためて噛みしめるアルバムにもなっている。「よりよい世界を夢見て 時間をかけて 家を建てる/僕らみんなの居場所を作り上げるんだ」と素朴だが尊い理想が告げられる“エヴリ・エイジ”の、名もない歌うたいがどこからかやってきて自然と歌いはじめたような穏やかな時間。あるいは、アルバムの終曲となる“オープン・ブック”はそのシンプルさゆえにメロディが際立つ彼のキャリアのなかでも屈指の名曲だ。「開かれた本のような気持ち」とは、ページを繰れば簡単に過去にも遡るゴンザレスの音楽の自由さを示しているだろう。我を忘れることは自分を見失うこととはちがう……自分ではないものの価値を信じることだ。そのとき、そこには新しい自分がいるだろう。そのメロウさを少しばかり増しながら、ゴンザレスはこんなふうにアルバムの幕を閉じる。「だけど記憶は残る/傷は同じように感じられないけれど/ページを1枚1枚埋めていく/ほかの太陽たちの温かさに包まれて」。

Steinbrüchel - ele-king

 シュタインブリュッヘル待望の新作だ。しかも〈12k〉から初のアルバムである。その音の線、音の粒、音の空間、音の環境。粉雪のような電子音響。雪の情景のようなランド・スケープ/サウンド・スケープ。それはマシンによって生成するもう一つの自然環境のように……。まったくもって素晴らしい。

 ラルフ・シュタインブリュッヘルは1969年生まれ、ドイツ出身・スイス在住のサウンド・アーティストである。その電子音響によるサウンド・パターンをレイヤーしていく作風は、2000年代初頭の電子音響/エレクトロニカの特徴をよく表している。私は彼をその時代を代表するサウンド・アーティストと思っていた。事実、シュタインブリュッヘルは、2000年代初頭に〈ライン〉〈カット〉〈アタック〉〈ルーム40〉〈アンド/OAR〉〈12k〉などの名だたる電子音響及びサウンド・アート・レーベルからアルバムやEPを多数、リリースをしていたのだから。

 まず、1996年に自主レーベル〈ストックヴェルク〉から最初のアルバム『ストックヴェルク』を発表する。つづいて2000年から2004年あたりにかけて自主レーベル〈シンクロン〉でおもにライヴ録音作品などを送り出す。2003年にリチャード・シャルティエのレーベル〈ライン〉から『キルカ』をリリースし、2006年に『ステージ』を発表する。2004年には、〈アタック〉からキム・カスコーン、ジェイソン・カーンらとの作品『ATAK004』をリリース。2005年には〈ルーム40〉からベン・フロスト、テイラー・デュプリー、オーレン・アンバーチ、角田俊也らと『オペーク』、〈12k〉からフランク・ブレットシュナイダーとの『ステイタス』、2006年には〈リスト〉から、ギュンター・ミュラーとの『パースペクティプス』をリリースしている。
 そして、2008年に〈12k〉からEP『ミット・オーネ』を発表する。折り重なる電子音の粒と線が、互いに無関係のまま運動の層をなしつつ、しかし、ひとつの音楽/音響として、結晶のように生成していく。「サウンド・パターンの多層レイヤー的配置による超ミニマルな音響作品」という2000年代エレクトロニカ/電子音響の特質を18分の中に凝縮しているのだ。これは傑作である(近年も2011年に〈ルーム40〉リリースの『ナロウ』をはじめ、〈クワイエット・デザイン〉や〈テープワーム〉などからCDやカセット作品を発表している)。

 また彼は、グラフィック・デザイナーでもあり(むしろそちらが「本職」だろう)、端正なミニマリズムをクライアント・ワークのデザインに見事に落とし込む優秀なアート・ディレクター/デザイナーだ。〈ビネ・ミュージック〉諸作品のアートワークを手がけており、こちらの作品も素晴らしいものだ。デザインに共通するテイストは、清潔なミニマリズム。それは彼の音楽作品にも共通するし、同時に、2000年代初頭の電子音響/エレクトロニカの空気にも共通するものである。モダン・グリッド・レイヤー・ミニマリズム。

 2000年代の電子音響は、そのような「新しいモダニズムを用いた環境音楽」であったと、いまならば思う。アートや建築などの概念を取り込みつつ、具体的な音響によってそれを示した。2000年代初期(以降)の電子音響/エレクトロニカが、サウンド・アートと密接な関係を取り結んでいた理由はそこにある。いわば、ブライアン・イーノの提唱したアンビエント・ミュージックという空間的/抽象的な概念を、テクノロジーとサウンドとデザインによって音響彫刻化し、録音、音盤を含めたサウンド・アートとして実現したのだ。
 そこにおいてラップトップなど、コンピューター上で音響を生成可能なテクノロジーが大きく貢献したのは間違いない。この時期以降、音響生成は、作曲からデザイン的なものへと変化を遂げた。ゆえにシュタインブリュッヘルがグラフィック・デザイナーであるというのも非常に納得できるのである。

 そして、これらが一定の成果を経た2000年代後半以降、すべてが溶け合うドローン/アンビエントへと変化したことは、(これもいまにして思えば)当然の変化でもあった。現在のインダストリアル・ムーヴメントもポスト・クラシカルの流行も、2000年代後半に起きたドローン/アンビエント・ムーヴメントの延長線上にある。モダンなレイヤー/グリッド性に対して、アンフォルメルな融解性への回帰でもあった。いわば「抑圧されたものの回帰」だ。ドローンやノイズへの感性はこの数年で多くのリスナーに深く浸透した。時代の無意識を象徴していたからだろう。
 以降、最先端の音楽/音響は、グリッチ、ノイズ、ドローン、グリッド、レイヤー、コンポジション、ミュージック・コンクレート、現代音楽、インプロヴィゼーション、デザイン、モダン、ポスト・モダン、アンチ・モダン、アンフォルメルなどを包括しつつ、芸術の歴史を高速にスキャンする傾向が強まる気がする。すでにその傾向は、〈パン〉などのリリース作品に表れつつある。

 そのような状況の中、私は、近過去であり、近年の電子音響作品の大きな転換点であった2000年代初頭の電子音響やエレクトロニカを総括してみるのも悪いことではないと思っていた。その矢先、シュタインブリュッヘルの新譜『パラレル・ランドスケープ』がリリースされたのである。『パラレル・ランドスケープ』は、EP『ミット・オーネ』のサウンド・パターン/レイヤーによるミニマリズムを引き継ぎつつも、微かで不確定なノイズ的な音響やドローンなども導入されており、2000年代後半の状況も経由して生まれたことは明白である。2000年代初頭な音響と、2010年代初頭的なサウンドの交錯。
 その緻密にして繊細なサウンドは、まさに真冬の電子音響、とでも形容したくなる出来栄えである。粉雪のように冷たい音の粒が、線が、清潔な音響空間の中で降ってくる感覚。徹底的にマシニックな音なのに、どこか不思議な情感もある。まるで深夜に降り積もる雪の結晶のようなサウンドなのだ。

 本作において、シュタインブリュッヘルの音は、近年の〈12k〉的なドローン/アンビエントを引き継ぎつつも、クールなマシンの叙情を交錯させている。ひとことでいえば、これまでより、かなり「音楽的」になっている。とはいえリズムやハーモニーなどの要素はほぼ皆無で、サウンドのレイヤーと運動性がより複雑かつ繊細になっているから、結果として音楽的に聴こえるのであろう。彼の手法はそう変わっていない。これが重要だ。つまり、マシニックなサウンド・パターンの方法論そのままに「音楽」が生成しているのだ(また、本作の元になった素材は、近年のライヴ・パフォーマンスで用いられてきたものらしいので、本作特有の「音楽的な柔らかさ」は、もしかすると目の前にいる聴衆の存在を意識したものだからかもしれない)。

 シュタインブリュッヘルは最近のインタヴューで「私にとって音楽とは、空間内における3次元オーディオベースの彫刻のようなものです」と語っているが、これは電子音響やエレクトロニカが、2000年代後半以降ドローン/アンビエント化し「過度に音楽化」していったときに消えてしまった環境論的な思考である。この作品は、デザインされた音のレイヤーの複雑なコンポジションによって、過度に音楽的にならずに一種のムードを生み出すことに成功しているのである。つまりサウンドのレイヤーによって「音楽」をデザインしているのだ。私には、何よりその点に、とても驚いた。

 本作はアートワークも素晴らしい。スリップケースの中に、CDとそれを収めるジャケットとともに、60ページに及ぶ冊子が封入されている。このブックレットは、テイラー・デュプリー撮影による冬の情景を捉えた美しい写真、ローレンス・イングリッシュのエッセイ、シュタインブリュッヘルによるミニマルなアートワークによって成り立っており、それらが糸によって製本されている。じつに丁寧に作られた本だ。このブックレットを手にしながら音を聴く経験は、もっとも原始的なサウンドインスタレーション体験ともいえよう。本作は「耳で聴く」ことのみならず、「手で触れる」ことを主題とした「サウンド・アート」だ。できる限りデータではなく、フィジカル盤を入手して聴くべきアルバムである。

Soichi Terada - ele-king

 ようやく、寺田創一のワークが世界中で評価される時代がやってきたようです。
 ここ6ヶ月で、寺田の旧作が3枚リリースされた。2014年末、イタリアのFabio Monesiによる“Do It Again”のリミックスを収録した「The Far East Transcripts」が〈Hhatri〉からリリースされると、今年に入って、Manabu Nagayamaとの共作「Low Tension」がUKの〈Utopian〉からリリースされました。私は、かねてから“Low Tension”を高く評価していたので、やっと再発されて、ものすごく嬉しい。
 そして、今回目玉となるのが、オランダの〈Rush Hour〉からリリースされた「Sounds from the far east」というコンピレーションです。

 寺田は日本人なのに、上記のプロジェクトはすべて海外からリリースされています。

 Far East Recording (FER)のアンダーグラウンド性は相当高いので、知らない方が多いのは仕方がないでしょう。
 FERは、1988年、寺田によって創始されました。アナログからCDへのシフトのピークタイムだったので、比較的にプレス代が低くなっていました。自分の曲をDJにプレイしてもらいたかったが、当時アナログレコードで落とさないとDJがプレイできなかったため、寺田はレーベル活動を始めたそうです。しかし、ディストリビューション先がなかった。当時のレコードショップは個人取引もやっていなかった。なので、自分のレコードを販売できなかった。
 そこで寺田は、その一部をいろいろなDJに直接あげたり、店にこっそりおいたり(いわゆる万置き)していました。
 いま現在、FERのレコードが非常にレアで、高価になっている原因のひとつです。

 本コンピに揃っている曲は、FERの初期音源(1988年から1995年まで)になります。寺田のプロダクションスタイルのひとつの大きいな特徴は、ベースの使い方です。あのころの彼の曲を聞くと、「寺田プロダクションだ!」と、ベースから判明できます。ベースが必ず曲の主要エレメントになっているのです。彼は、ドラムキックと同じように、ビートを刻んでくるスレーミングなベースを使います。“Low Tension”や“Hohai Beats”が良い例です。
 寺田は完全にサンプリングの子供です。彼がプロダクションに入ったきっかけもそうでした。友だちからLED ZEPPELINのレコードをもらい、それが気に入ったからサンプリングして、初めてリミックス作りました。今回のコンピにおいても、“Purple Haze”では、ジミ・ヘンドリックスをサンプルしています。“Saturday love Sunday”ではCherelle & Alexander O’Nealをサンプルしています。、Shinichiro Yokotaの横田“Shake yours”はI.C Love Affairの89年リミックスをサンプルします。
 とはいえ、サンプルの仕方も独特です。カットした分をほぼエディットせず、そのまま自分の曲に使います。あくまでその曲が好きだから、トリビュートする気持ちでそうしています。
 寺田はすごく素直でやさしい人です。自作について語ると、そのサンプルで使った曲への愛が伝わります。ピュアな気持ちがそうさせるのでしょう。
 そして、寺田のスタイルの大きいな特徴は、やはりディープとムーディーな雰囲気づくりです。パッと聞いて「あ! 90sハウスだね!」と思わせるキーズの使い方(“CPM”や“Voices from Beyond”)。Downtempoに近いビートを使った“Binary Rondo”も、パッドのカットでムーディーで懐かしい気持ちを体験させてくれます。

 結論を言いますね。このコンピを見逃したら大間違いです。寺田は日本のアンダーグラウンド・ハウス・シーンを創始した数の少ない人のひとりです。いまでもOMODAKAという名義の下で、まだアンダーグラウンドシーンで活動しています。ジニアス・プロデューサーであり、島田なみの“Sunshower”リミックスは、NYCのParadise GarageとLarry Levanにも影響を与えました。収録曲はすべてオリジナルではアナログ・レコードはとして存在していますが、人生で一度見たら奇跡だと思えるほどレアな盤です。
 今回のコンピは、寺田がプロデュースした、素晴らしい曲をVinylで手に入れる最高のチャンスだと思ったほうがいいでしょう。

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