「S」と一致するもの

interview with Kazuki Tomokawa - ele-king


友川カズキ
復讐バーボン

モデストラウンチ

FolkRock

Review Tower Amazon

 お食事中の方にはもうしわけない。
 10年前に友川さんに取材したとき、インタヴューが終わり、川崎駅のホームを東京方面へ歩いていくと階段の影のデッドスペースで中年の男がかがんでウンコをしている。私は彼の背後から追い越すように歩いていたので、突き出した尻の穴から太めのソーセージのような糞が出てくる、まさにその瞬間に立ち会うことになった。ひとは日々排泄しても排泄する自身の姿を見ることはできない。私はとくにそういった性癖があるのではないので、ひとが大便をするのをまのあたりにしたのははじめてだった。尻は白くすべすべしていた。桃尻といってもそれは白桃なのである。
 私がウソを書いていると思われる方もおられよう。ところがこれは事実である。同行したS氏に糺していただいてもいい。事実は小説よりも奇なりという、その奇なりは物語などではなく現実の物事の不可解さなのだと、私はそのとき思ったというと大袈裟だが、友川カズキを思いだせばそのことに自然に頭がいくわけでも当然ない。ただこのたび、友川さんに会って話を訊くにあたり10年前のことを思い返すにつれ思いだした。思いだすと書かなければいけない気になった。その日の友川さんの飄々としたたたずまいとユーモアと訥々しながら不意に核心に急迫するただならぬ語り口に聞き入ったあの取材のそれはありうべき「細部」だったからといったら失礼だろうか。

 今回も、といっても、取材したのは2月21日なので3ヶ月も前だが、友川さんの語り口はむかしのままだった。歌と言葉と音とが三者三様の強さを示すのではなく重なり合うことで見せた、彼のキャリアのなかでもおそらくはじめての作品である『復讐バーボン』をものした友川カズキは代官山の駅の改札をくぐり、こちらにくる途中売店に立ち寄って、ロングコートに身をつつみハットをかぶってやってきた。頭髪に白いものが目立ったほかは時間の経過を感じさせない。取材はその日ライヴをすることになっていた〈晴れたら空に豆まいて〉の楽屋でおこなった。
 内容はご覧のとおりだが、取材後ライヴを観ながら私は友川カズキと同じ時代に生まれた私たちこそ、それを奇貨とすべきだとまた思った。

■友川カズキ
40年以上にわたって活動をつづける歌手、詩人。1975年にファースト・アルバム『やっと一枚目』にてデビュー。〈PSFレコード〉からの『花々の過失』が評判になったのちは同レーベルからのリリースが意欲的につづけられ、なかでも1994年発表のフリー・ジャズのミュージシャンとのコラボレーション『まぼろしと遊ぶ』は新境地として注目される。画家としても活躍するほか、映画出演や映画音楽の制作、海外公演などいまなお活動の幅を広げている。最新作は『復讐バーボン』(2014年)。


私は友川さんを取材させていただくのは10年ぶりです。前回は三池崇史監督の『IZO』に出られたときでした。それ以降、とくにさいきんは友川さんのことを若い世代も聴くようになった気がしますね。

友川:これはね、はっきりいってインターネット時代だからですよね。口コミというかね。むかしだってそんなに人気なかったし、ひとが入らなかったけど、ここんとこずっと満員ですからね。アピア(40/渋谷から目黒区碑文谷に移転した老舗ライヴハウス)なんか毎回満員札止めだからね。それはインターネットの時代だからですよ。あとはほら、ラジオでナインティナインが私の曲をずっとかけたりしてくれて、それがまたインターネットで口コミみたいになったんですね。私はね、インターネットはやらないんですけどね。ケータイもないから聞いた話ですけどね。いまの時代だから世界の独裁者も斃れる。ネットの時代だからですよ。

友川さんはデビューされてそろそろ40年近くですが、インターネット以後お客さんが変わってきたところはありませんか?

友川:私が若かった時分は同年代のひとたちが聴いてくれていたのが多いんですけど、彼らが社会的に地位があがったり家庭をもったりするともう動かないんだね。いつの時代も若いひとたちですよ、行動力と好奇心があるのは。家庭をもったひとは好奇心がないとは思わないけれども、優先順位がちがってくるんですね。ひとを育てているから自分で自分を育てるようなところにはいかないんだ。だってひとりで行動しているということは自分で自分を育てるということだから、優先順位がちがうんですよね。

他者、子どもをまず育てなければならない。

友川:という立場になっているから。大人になったのに私を聴きにくるひとはそうとう家庭不和かその一歩手間か、ほんとうに好奇心があるかですよ(笑)。

私は家庭がありますが友川さんを聴きたいと思いますし家でも聴きますよ。

友川:それはおかしい! 家庭で聴くような歌じゃないでしょ。ああそうか! こうなったらいけないという反面教師か! 私の歌を聴くと家庭はより結束がかたまるということか。隣の家が火事だと家族全員でバケツで水を運ぶあの感じでしょ。

『復讐バーボン』には「ダダの日」とか、この曲には元歌がありますが、こういった曲は子どもうけもよさそうですよね。

友川:子どもがいきなりダダを知るのは不幸ですよ。

ダダは子どもに近くはありませんか?

友川:ない。

あの破れた感じとか。

友川:それはそうかもしれないけど、子どもは破れちゃダメだよ。

歌詞はどのようにつくられるんですか?

友川:説明はうまくできないですよ。ただ今回の“順三郎畏怖”については石原吉郎(1915~1977年、戦後詩の代表的詩人)の歌をつくろうとして、たしかにむずかしくて、私にはわからない詩がほとんどなんだけど、なんか感じていてね。1年か2年ずっとやっていてね。石原吉郎をなんとかかたちにしたいとステージでもよくしゃべったもんです。
 私はもうずっと本は買わなくて図書館なんですよ。年だしいずれ死ぬし、本が部屋にあってもしょうがないから。図書館で借りて本を読むんです。たまたま石原吉郎の仕切りを見ていたら西脇順三郎の本が何冊かあったんですよ。西脇順三郎も読んでいたけどやっぱりわからなくて、でも彼の絵が好きなんですよ。絵が載っている本もちらちらあったから借りてみようと思ってね。そうしたら塚本邦雄が西脇順三郎のことを書いた文章があって、そこに「間断なく祝福せよ」という一行があった。それがあんまりよかったから曲にしたんですよ。

図書館には言葉を探すために通う感じですか?

友川:そんなことない。いちばん借りるのは動物図鑑とか、『世界のホタル』とかそういうのですよ。10冊くらい借りられるんですよ。でっかい美術書とか。無料だから。あんないいことないね。図書館は最高ですね。

『復讐バーボン』をつくろうとしたなりゆきから教えてください。

友川:それは〈MODEST LAUNCH〉小池さんのおかげですよ。小池さんが新しいのをやりましょう。ということで、私はもうつくらなくてもいいかなと思っていたの。年だし、いままでつくったのでいいかなと思っていた節もあるの。前はかたちをつくると元気が出て、次に行けたんですけど、もう大丈夫じゃないかなと思っていたから。

レコードというかパッケージはもう充分だと?

友川:かたちっていうのはよくないと思ったこともあったからね。だいいち時間もないしね。競輪も忙しいし。それがいざやったら元気が出ちゃってね。いいのつくってくれたの。それでまた(次に)行ける感じがしたんですよね。

かたちはもういい、というのはライヴだけでやっていこうということですか?

友川:ライヴもね、もうだいたいでいいなと思っていたの。ただほら、彼らに迷惑をかけているから。歌詞集(友川カズキ歌詞集 1974-2010 ユメは日々元気に死んでゆく/ミリオン出版)を出してくれた佐々木さんがいて、映画(ヴィンセント・ムーン監督『花々の過失』)のDVDも出て、そこそこ売らないとただ世話になっただけじゃ悪いなと、それだけ。私は義理人情にはあつくはないけど、中くらいはあるのよ。あつくはないよ、そういうことは信じないし。絆とか、ああいうのは信じない。「おもてなし」と「絆」は死語ですよ。寺の坊主が暮れにあそこで字を書いたら、その字は全部死語ですよ。いらないですよ。こけおどしだもの。あんなふうに言葉に集約される時代や人生なんかどこにも誰にもないですよ。

清水寺のやつですね。

友川:そうそう。墨を垂らしながね。あれは墨のムダだ。それをまたマスコミが伝えるでしょ。あんなバカなことあります? その字に向かって生きているひとなんかいないし、その字でなにかあったとかなかったとか、そんなひといません。字なんかそんなに重くない。

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それは詩が甘いんじゃないね。人間が甘いんですよ。簡単な話。詩を語ってはダメなんです。ひとを語れば詩になるんです。そのひとに詩があるかないかは、そのひとと語ればいい。詩を真ん中に置いて語ると詩に墜ちる。

しかし友川さんは言葉を生業にしているところもありますよね。

友川:ない(と断言する)。言葉を遊んでいるだけ。蹴飛ばして口笛のように吹いているだけ。生業ではいっさい、ない。寺山修司の名言がありますよ。「詩人という職業はない」詩を書けば誰でも詩人なんですよ。

さっこんの詩については甘いものも多い気がしますが。

友川:それは詩が甘いんじゃないね。人間が甘いんですよ。簡単な話。詩を語ってはダメなんです。ひとを語れば詩になるんです。そのひとに詩があるかないかは、そのひとと語ればいい。詩を真ん中に置いて語ると地に墜ちる。

わかりやすい詩を求めている人も多くいますよね。それを詩と呼んでいいのか、ポエムと呼ぶべきかはわかりませんが。

友川:私も平明な詩がいいとは思っているんですよ。詩も絵もそうだけど、むずかしくするほうが簡単なの。

そうでしょうね。

友川:平明に誰でもわかる言葉で伝えるほうがむずかしい。けっこう気をつかうんですよ。

詩というものは現代詩に象徴されるように難解になっていった歴史というか経緯はありますよね。

友川:現代詩なんて何年も読んだことない。このまえどこかで『現代詩手帖』をわたされましたよ。若いひとでそこに詩を書いている方がいらした。何十年も前に私はずっと投稿していたんですけど一度も載ったことはない。デビューしてからは何度か載りましたけどね。

そうなんですね。

友川カズキ:諏訪優(1929~1992年、詩人。バロウズやケルアックなどビートニクの翻訳者であるともに紹介者であり、レナード・コーエンの歌詞集の翻訳なども手がけた)さんという方と親しくしていたから、諏訪さんが私の詩を2、3回載せてくれたけどね。それだってコネですよね。

諏訪優さんだって友川さんの詩がよいと思うから推薦してくれたんだと思いますよ。

友川:そうそう、私、諏訪さんに助けられたことがあるんですよ。ライヴハウスでケンカになって路上で血だらけで倒れていたところ、たまたま通りがかった諏訪さんが助けてくれたの。私はそのときアレン・ギンズバーグはもう読んでいたけど、そのひとが諏訪さんだとは知らなかった。諏訪さんは学生といっしょで、助けられてどこかに店に入って名刺をもらったら諏訪さんだとわかったのよ。それから何度か連絡をとりあってね。最後は東北の旅をふたりでやりましたよ。彼の詩の朗読と私の歌でコンサート・ツアーをね。彼が死んだときは、私も歌いましたから。福島さんの寺でやったの。

福島泰樹さんですか?

友川:そうそう。

そういう奇縁があるんですね。出会いといいますか。

友川:諏訪さんの場合はあまりにも奇異な出会いだけどね。だからひとですよ、私の場合は。

ひととの出会いでなにか変わるものがありますか?

友川:誰とでもというわけではもちろんないですよ。私は飲んでひとと出会って変わってきた感じがありますね。だってどこも出かけないから。とくにいまは。むかしだって、ただゴールデン街を飲み歩いていただけだから。ああいうところで出会っていった感じがしますね。たとえば中上健次さんあたりにもゴールデン街を連れて歩かれたのよ。嵐山光三郎さんとかね。そういう人間と出会ったからでしょう。

レコードをつくるのもひとつの縁かもしれませんね。

友川:そうそう。ステージとはまったく別の次元のものだからね。

そういうふうにレコードはいいかと思いながらも、『復讐バーボン』が思いのほかよかったから先に進めると思ったんですね。

友川:松村さんも書かれていたけど、はじめて練習したのよ。私、最初小池さんのこと怒ったの。みんなプロなのになんで練習なんかしなきゃいけないのって。それがやったらクセになっちゃってね。ぜんぜんちがうの。私じゃないですよ、まわりがちがうんです。いつもの即興でお願いします、というあれがどれだけ失礼かがわかったの。

長いことかかりましたね。

友川:40年かかったね。いくら技術があってもテンションがあっても、会ってすぐは知らない曲はできないよね。


『復讐バーボン』レコーディング風景
Kazuki Tomokawa "Vengeance Bourbon" Recording Footage

2013.10.11 at APIA 40
歌:友川カズキ“兄のレコード”
共演:石塚俊明(drums)、永畑雅人(piano)、金井太郎(guitar)、
ギャスパー・クラウス(cello)、坂本弘道(cello)、松井亜由美(viol­in)、吉田悠樹(nico)
撮影:川上紀子


トシ(石塚俊明)さんにしろ永畑雅人さんにしろ、彼らの即興はまたすごいと思いますけどね。

友川:彼らはいつでも私に合わせてくれるの。それに私はオンブにダッコだったわけです。バンドにははじめて会うようなひとだっているわけで、曲を知らないこともあるじゃないですか。それを即興で、というのはムリなところもあるし、だいいちつまらない。上っ面をなぞるだけで終わっちゃうから。

そうですか。

友川:曲がわかったうえでそこからのアレンジや即興で壊すと本人が考えるのはいいんだけどなんにも知らないで参加させられた日にはちょっとつらいと思うな。小池さんにはほんとうに勉強させられました。叱った私がバカでした。

私も長らく友川さんの音楽は聴かせていただいていますが、練習することでこれだけ変わるものなんだなとは思いました。

友川:変わる余地は私にはいっぱいあるんです。うぬぼれで生きてきたから。ひとと折り合おうという気はまったくないから。トシとか雅人さんはむかしから会っていて、気心が知れているから合わせてくれていたわけよね。ギターをまちがえたところも、わかっていて流してくれたりしていたんですよ。ところがはじめて会うひとに甘えるのはキツい。それにそれは音楽にも出るんです。

練習というのは友川さんがコード進行を書いてメンバーにわたしたんですか?

友川:歌詞を渡してコード進行をわたしました。佐村河内と同じで譜面は書けないからね。

佐村河内は余計なひとことだと思いますが。

友川:佐村河内は興味があるね。まぁ、MCのネタとしてですけどね。そういう仕込みには怠りないんですよ、私(笑)。文春も毎週のように買っちゃった。

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枷のなかでの飛び跳ね飛び散らかりじゃないと自由じゃない。自由というと手足を伸ばしてだらだらしている状態だと思うひともいるけど、あれじゃあないんですよね。

そうですか。でもそうやってコード譜を書いてバンド・メンバーにわたすというのは、それまではやっていなかったということですか?

友川:それはやっていましたよ。

今回はレコーディングの前にリハーサルをやったということですね。

友川:そう。ふだんドラムのひとやピアノひととも音楽の話はしないから。ライヴの前にラーメン屋に入っていても音楽の話なんて出ませんよ。私が知らないのもあるんだけど、それが今回スタジオで音楽の話をしたりしてね。

具体的にはどういうことを話したのか憶えていますか?

友川:ギターのひとがイントロはこういう感じでいいですか、とかそういうことを活かしたり、いろいろでしたね。そしたらちゃんと技があるんだよなあ。それがおもしろかったですね。

バンドには長くいっしょにやられてきたメンバーも多いですが、それまで友川さんはメンバーのどこに信を置いてお願いしてきたんですか?

友川:お願いするということでもないよね。

それも縁のようなものですか?

友川:そうだね。トシはね、あのテンションだね。私、頭脳警察のファンだったんですよ。前座も何回かやらせてもらってね。トシのコンガがよくてね。バンドをやるならいっしょにやりたいな、と思っていたのがもう何十年にもなっているだけですよ。

テンションというのは?

友川:狂気ね。表現というのは悪魔と天使、大胆さと繊細さがないとダメだと思うんですよ。トシには見事にそれがある。その量が大きいのよ。悪魔も大きければ天使も大きい。それがすばらしいバランスなのよ。すごく凶暴だしすごく繊細。どっちかひとつだったら誰にでもあるのよ。こいつは悪魔は大きいけど天使は小さいなとか、天使はすごいけど悪魔はないなとかね。その量が(どちらも)すごいの。キンタマも大きいけどね。2倍だよ。

なんの2倍なんですか(笑)?

友川:ポイント2倍(笑)。いや、あれは大きい。

キンタマの話はさておき。

友川:いやね、松村さん。話というのは枝葉末節のほうがおもしろいのよ。

おっしゃるとおりです。細部というのはなににおいても大切だと思います。

友川:ディテールね。

なぜ英語でいいかえたんですか。

友川:どこかに英語をいれとかないとね(笑)。

天使と悪魔の配分の話ですが、友川さんとしては一方だけはものたりないということですね。

友川:つまらないんですよ。

友川さんの表現もそういうものだと思います。

友川:私は自分のことはわからないけどひとのことは見えますからね。こうやって話していても見えるでしょ。ただ自分のことって意外とね、見えないからわからない。誰でもそうでしょう。

自分のことは見えないということは自分なりの確たる方法論もおもちではない?

友川:方法論ということではないけれども、さっきからの話を集約すると、またひとの言葉になるんだけど、寺山修司が「枷のない自由は自由じゃない」といっているんですよ。枷のなかでの飛び跳ね飛び散らかりじゃないと自由じゃない。自由というと手足を伸ばしてだらだらしている状態だと思うひともいるけど、あれじゃあないんですよね。

枷というのは、歌をつくるときの枷というのはどういうものだと思いますか?

友川:3分半で歌詞は3番までとかね。20分30分する歌もあるかもしれないけど、生理的に3分から5分が限界だと私は思いますよ。

それが友川さんにとっての決めごとになるんですか?

友川:そういったことは……考えたことないなあ。むしろ自然にやっちゃっている感じがある。ただこの言葉はマズいなというのはあるんです。“一人ぼっちは絵描きになる”という歌があるんですが、これはもとは“一人ぼっちは画家になる”というタイトルだったの。ところが「画家」だと「バカ」に聞こえるのよ。これはマズいと思って“一人ぼっちは絵描きになる”に変えたの。だから歌詞の語呂がちょっとおかしいんだよね。気をつけるのはそういうことだね。書いた詩で読んでもらうなら「画家」でいいんだけど私の場合耳から入る詩だからね。あとはむずかしくてわからない言葉でもいいやというのはいっぱいある。わからなければわからないでぜんぜんいい。さっきの平明な言葉と矛盾するかもしれないけど、わからなくてもいいんです。総合的に感じるか感じないかであって、あの言葉はわからないからこの歌はダメだということにはならない。

書く言葉と歌う言葉は――

友川:完全にわけている。私はいまは書きませんけど、むかしは書いていましたから書く詩はなんでもいいわけ。歌はまずひとに聴いてもらう前提があり、歌うという前提があり、人前に出るという前提がある。書いた詩は人前に出なくても読もうが読まれまいが関係ないという気持ちで書くし、読むひとの顔もみえない。歌は見えるんです。聴いているひとの顔が。コンサート会場ではなくともね。

書く詩はなんでもいいわけ。歌はまずひとに聴いてもらう前提があり、歌うという前提があり、人前に出るという前提がある。書いた詩は人前に出なくても読もうが読まれまいが関係ないという気持ちで書くし、読むひとの顔もみえない。歌は見えるんです。聴いているひとの顔が。


友川カズキ
復讐バーボン

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歌詞をつくるのは時間がかかりますか?

友川:私はなんでも早いですよ。粘ったりしないの。すぐできないのはできないの。絵もそう。できるときはすぐですよ。

でも絵を描くのは地道なコツコツした作業のような気もしますが。

友川:それは絵描きによるし、どういう絵かにもよるね。私は努力とか嫌いだし、地道なんて一刀両断に切って捨てたい言葉だね。

地道に歌いつづけていらっしゃるじゃないですか?

友川:それはちがうな。歌だって2年くらい止めていた時期があるんだから。もういいやと思っていたんだから。飽きっぽいしそういうのはないの。そうしたら渋谷時代の〈アピア〉にあるファンから電話がきて、「友川さんにまた出てほしい」と。毎日のように電話がくるんだっていうのよ。それでまたやることになったんですよ。(お客さんが)10人以下になったらもう止めるとも決めていたんですけどね。それがいつも12、13人だったりするのよ(笑)。これがむずかしいところですよ。

それこそ神の差配なんじゃないですか?

友川:いやいや、神なんかいるもんか。

それでも、すくなくとも10人以上はお客さんはいたわけですよね。

友川:そうだね。これだけ長く歌っているといろんなひとがいるね。

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変わる余地は私にはいっぱいあるんです。

私も〈アピア〉でも何度も聴きました。

友川:滝澤明子さんといういまイギリスに住んでいるカメラマンの方は日本に帰ってくるたびにコンサートにずっときてくれてたんだって。そのときは顔も名前も存じませんでしたが、私がロンドンでライヴをしたときに、彼女がきてくれて、知り合いになった。そういうこともありましたよ。

海外でも友川さんの歌が評価が高いですが、言葉が通じない場所で聴かれていることをどう思われますか。

友川:私だってローリング・ストーンズを聴いたりするわけだしね。しかしどういった感覚なんだろうね。

スタッフの佐々木氏:ロンドンでは〈cafe OTO〉というところでライヴしたんですが、滝澤さんによれば、あんなに話し声がしない〈cafe OTO〉ははじめてだということでした。イギリスではお客さんは演奏中もしゃべっていることが多いらしいんですが、友川さんのライヴはシーンとしていたとおっしゃっていました。

友川:ロンドンでは私は(曲間に)ほとんどしゃべらなかったんですよ。英語しゃべれないから。次々と歌だけ歌ったんです。

それをみんな真剣に聴いていたんですね。

友川:そうそう。

感想は訊かれましたか。

友川:訊くもなにも、話せないから、ただ飲んでいただけ。

私も18、19歳でヨーロッパに行ったとき、友川さんの『初期傑作選』のCDを、当時はCDウォークマンでしたからそれにいれて旅していたんですけど――

友川:つらい旅だ。

いろいろ思うところがあったんでしょうね(笑)。フランスに寄ったとき、知り合った同世代の男性に聴かせたらほしいというもんであげた憶えがあります。私もフランス語はできませんでしたから、いいと思った理由はよくわからなかったですが、言葉の壁を越えて伝わるものが友川さんの歌にはあるのかもしれませんね。

友川:フランスからロンドンに私の歌を聴きにきたレオナルドという男がいたんだけど、彼は私のレコードを全部もっていたからね。ヘンな男だったよ。なんの仕事やってるって訊いたら、無職ですって。アンコールも彼がたちあがってアンコールかけたもので全員仕方なく手を叩きはじめたんだけどね。

そういう熱狂的なファンがいるんですね。

友川:あちこちに、そういった危ない感じのひとがいるのよ(笑)。フランスには多いですよ。

言葉の響きの問題ですか?

友川:関係ないでしょ(笑)。

『復讐バーボン』にも訳詞がついていますし、海外でも聴かれるといいですね。

友川:そうね。

友川カズキ“馬の耳に万車券”
Kazuki Tomokawa "A Lucky Betting Slip to Deaf Ears"

2014年1月29日 in 大阪『復讐バーボン』レコ発ライヴ
友川カズキ、永畑雅人、石塚俊明、ギャスパー・クラウス


言葉にしろ曲にしろ、演奏しても『復讐バーボン』はこれまでの友川さんの作品のなかでも頭ひとつ抜けていると思いました。

友川:それはうれしいね。いつまでも『初期傑作集』じゃね。

初期は初期ですばらしいと思いますよ。前に原稿でも書きましたが、変わっていくもののなかに一貫しているところがあるのも友川さんだと思うんですね。

友川:松村さんはそう書いていたけど、私もそう思う。一昨日の私ではダメなのよ、明後日の私がつねにここに坐っているような感じでないと。なにかないと。

そうありつづけるひとも多くはないと思いますけどね。

友川:いや表現者にはいっぱいいますよ。

そういう表現者がいっぱいいれば日本はもっと住みやすいと思いますけどね。

友川:偉いこといったな、あんた(笑)。ちょっと政界にでもいってきてよ。(ライヴハウスの店員に)じゃあ、ビールとあとカレー3つ。


(後編につづく)


BACK DROP BOMBというBANDでguitarを弾いたり、
歌舞伎町のドープオアシスSPOT BE-WAVEで色々とやっております。
DJ nameはDJ TASAKAと同様の発音でお願いします。
BAND活動20周年を記念してTRIBUTE ALBUMを作りました。
20周年特設サイト(https://bdb20th.com/)

DJ&LIVEスケジュール
6/3 DJ BAKU PRESENTS "MIXXCHA"VOLUME ONE"@中目黒solfa(DJ)
6/7 歌舞伎町be-wave 8Anniversary party@be-wave(DJ)
6/9BACK DROP BOMB特別番組@DOMMUNE(Talk)
6/14 Broccasion Live@六本木ex-theater(Live)
6/15rega「2014tour discuss」@仙台MACANA(Live)
6/22HOLYDAYS@LOUNGE NEO(DJ)
6/27Broccasion Live@大阪BIGCAT(Live)
まだ他にも決まっているlive等有ります。こちらでチェックプリーズ(https://backdropbomb.jp/

最近DJで良くかける曲10


1
PAPER,PAPER... (MxAxD) - BRON-K feat.NORIKIYO

2
Animal Chuki - Capicúa

3
Mastered - A-Trak feat.Lupe Fiasco

4
Rathero - Semilla

5
Buraka Som Sistema - Zouk Flute

6
Dillon Francis - I.D.G.A.F.O.S. (Neki Stranac Cumbia Digital Rework)

7
Liliana (Dengue Dengue Dengue! Refix) - Los Demonis del Mantaro

8
FISSA - UFO!&Hoodie

9
Snake (Neki Stranac Moombahton Mix) - Blasterjaxx

10
Lagartijeando aka Mati Zundel - Doña Maria - El Pescador (Lagartijeando Remix)

Thomas Ankersmit - ele-king

 トーマス・アンカーシュミット。ベルリンのサウンド・アーティストである。1979年生まれ。彼はサージ・アナログ・モジュラー・シンセサイザーを用いて音の運動/残響を作品として提示する音響作家だ。演奏活動をはじめる以前からインスタレーション作品を中心に創作してきたアーティストでもあった。しかも彼はサックス奏者でもある。

 録音作品としては、ジム・オルークとのスプリット盤『ウェールジン/オシレータズ・アンド・ギターズ』(2005)、ライヴ盤『ライヴ・イン・ユトレヒト』(2010)、人気レーベル〈パン〉からヴァレリオ・トリコリとの競演盤『フォーマII』(2011)などをリリースし、電子音楽家としても知る人ぞ知る存在であった。昨年、フィル・ニブロックとともに来日し、ライヴ演奏を繰り広げたことでも知られる。
 今回のリリースは、UKの実験音楽レーベルの名門〈タッチ〉から。ジョン・ウォーゼンクロフトによるクールかつ瀟洒なアートワークに包まれてはいるものの、音の方は極めてハードコアな電子音楽作品に仕上がっており、マニアには堪らない作品といえよう(今回は彼の演奏するサックスは入っていない)。その電子音の快楽は、ノイズ・ミュージック・ファンにも十二分にアピールできるはずだ。

 本作は、2011年から2012年にかけて、ロスアンジェルスのカルアーツ・エレクトロニック・ミュージック・スタジオに招かれたトーマス・アンカーシュミットが、完全復元されたブラック・サージなるシステムを用いることで演奏・録音された。よって、このアルバムには、サージ・アナログ・モジュラー・シンセサイザーの音しか(たぶん)入っていない。ここにあるのは電子音マニアを狂喜させるノイズの横溢だ。アルバムは計36分52秒、長尺1トラックのハードコアな構成となっている。
 この電子音・ノイズの運動/生成が、あるシステムに則ったコンポジションなのか、それともあるルールの上でのインプロヴィゼーションなのか、それはわからない。デジタル・エディットはされていないという。しかし音は複雑に変化と変形を重ね、いくつものノイズが折り重なっていくのである。まるでエディットされているかのように精密に、かつ大胆に。となれば、これはサージ・アナログ・モジュラー・シンセサイザーの機能をフルに活用し、生まれたサウンドだといえるはずである。

 では、この作品はサージ・アナログ・モジュラー・シンセサイザーのパフォーマンスを録音として凍結した一種のパフォーマンス・アート作品なのだろうか。音の実験・実験の音のように、である。だが、電子音楽の聴き手であればあるほど、本作を再生した瞬間から溢れ出てくる、鋭く、透明な電子音の横溢に、これは「ノイズ/音楽」であると確信するはずだ。
 ループされる電子音に、透明で強靭なノイズがレイヤーされ、その電子音が生成し拡張する。何かを握り潰すような音、早回しのモールス信号のような音、暴風のようなノイズ。砂の音のようなサラサラと乾いた音。静謐な響き。ノイズによる耳のマッサージ。さらに後半に差し掛かると、鏡に反射する光のようにさらなる電子音が生成しはじめる。ああ、これは単なる音の運動ではない、音響的聴取を目的とした「演奏」であり、その「録音」であり、「音楽」だ。即興の生成と音の構築が同時に行われているのだから。まさに、電子の「ノイズ/音楽」!

 デジタル・エディットを使わずに制作されたというが、その音の運動には圧倒的な情報量が圧縮されているように思えた。そして、これが重要なのだが、ポスト=デジタル・ミュージック以降の精密な聴取にも耐えうる密度と運動感を備えているのだ。
 そう、1979年生まれのトーマス・アンカーシュミットは、70年代のアナログ・シンセサイザーを用いながらも、2000年代以降の電子音響、つまりポスト=デジタル時代のエレクトロニクス・ミュージックを生み出している。本作が「現在進行形の電子音楽作品」たるゆえんはそこにある。その情報量の圧縮と速度感において(音楽のフォームはまるで違えども)、shotahiramaの『post punk』を思い出した。時代と共に疾走するような「音楽」を生み出すためには、即興と作曲が同時に巻き起こり、ノイズと速度が拮抗しあうような密度が必要になるからだろうか。私見だが、この2作品はまるで兄弟のように似ていると思う。
 もしかすると現在においては、「ノン・エディットによって生まれる情報の圧縮感覚」は重要なタームなのかも知れない。情報の圧縮と解凍の速度こそが、本作を旧来の電子音楽やノイズ・ミュージックを分け隔てる点ではないか。

 さらにはノイジーな音響に挟まれるように、静謐な響きへと変化するパートも素晴らしい。まるで澄んだ空気のような、もしくは美しく乾いた砂時計のような美しい高音の持続。もしくは虫の音のような響き。そしてアクセントのように鳴り響くノイズ。この時間が凝固と解凍を往復するようなクリスタル/ノイズなアンビエンスは、アルバム全体に横溢する電子音の中で特別なきらめきを持っているように思えた。
 同時にそのような持続感覚を楽曲=演奏の中盤に持ってくるトーマス・アンカーシュミットの音楽家=演奏家としてのセンスのよさにも唸らされた。また後半、サウンドがダイナミズムを再生する展開も、単なるノイズの暴発になっていない点はさすがだ。

 もしかすると本盤は、ここ数年の間に〈タッチ〉がリリースした作品の中で、もっともハードコアかつ重要なアルバムかもしれない。あのブルース・ギルバート&BAW『ディルーバイアル』(2013)に匹敵するほどに。つまりは本年のエクスペリメンタル・ミュージックの重要作という意味だ。実験電子音楽に興味をお持ちの方ならば絶対必聴の盤である。

Seahawks - ele-king

 ポスト・チルアウト〜シンセウェイヴの隆盛もずいぶんと落ち着いて、いったん引き波モードに入りつつあるように感じられる今日このごろ。あっちへふらり、こっちへふらり。そんな移ろいやすいシーンのど真ん中にいながらも、太陽よりも高く、海よりも深く、どこまでも孤高に。そして、変わらないバレアリック・オーシャン・トリップで、現実のタガをゆるめ、見たことのない色遣いで、日常をビカビカとテカる極彩色に染め上げるロンドンのベテラン・デュオ、シーホークスの新作が漂着した。

 変わらない、といってもそれは彼らが捕らえて引き延ばした永遠の電子パラディーソ感覚のことであって、そこにたどり着くまでの冒険心はまたもや新しい表情を見せ、今作でも一段上の鮮度を約束してくれる。
 相変わらず深い靄に包まれたノスタルジックなシンセが跳ね回り、水しぶきを上げ、照りつける太陽の光を反射しながらコズミックにクルージング。これまでにもバンド編成で柔らかくも力強い演奏を聴かせてくれたが、今回のフル・バンドは特別だ。ベースとギターにホット・チップ〜LCDサウンドシステムのアル・ドイル。ドラムとギターにホット・チップの初期メンバーであり、現在グローヴスノー名義で活動しているロブ・スモウトン。そして、キーボードにホラーズのトム・ファースらを迎えたサウンドは、前作『アクアディスコ』で披露した「溶けろ! リアリティ〜!!」と言わんばかりの誇大妄想エキゾチカよりも心もち(生音が多いせいもあり)現実味を帯びたアーバニズムを聴かせてくれる。そして、特筆すべきは曲だけでなくアルバム全体のムードを先導するアルのベースである。スペーシーなうわものから独立した、もっこり野太くフュージョンチックなベース。タメを効かせ、スムースに波打つ余裕がじつにいやらしい、この、リズムとねっとり絡みあう魅惑のベースラインだけでも聴きごたえ十分ではないか。

 さらに、もうひとつのトピック。これまでジ・オーブばりのヴォイス・サンプルこそ多用していたものの、情緒あるサウンドのみで胸焦がすドラマを演出してきたシーホークスだが、なんと今作には明確な言葉がある。さまざまなゲストを迎えた歌がある。そしてこれが、シーホークスの世界がもつより具体的なイメージを露わにしてくれるのかと思いきや、またしても靄の向こうではぐらかし、僕たちを未開の海に放り出す。美しい……この手に届きそうで届かないもどかしさがたまらなく美しい。海辺のフィールド音と弾けるハウシーなビート、マリア・ミネルヴァの「rainbow sun...electricity...」というささやきからはじまる1曲め“レインボウ・サン” なんて、その言葉選びと発声だけで眩しくて視界くらくら。つづく、ティム・バージェス(シャーラタンズ)の渋みを帯びながらもふわふわ漂う歌声が心地よい夢想歌“ルック・アット・ザ・サン”は、ヨット・ロックなんてスノッブ気取り(?)ではなく、まるで10ccかロキシー・ミュージックの『アヴァロン』ばりのスメルズ・ライク・アダルト・オリエンテッド・スピリットがもわ〜んと匂い立ち、ホーン、トランペットの挿入からサックスのソロが立ち現れる瞬間なんて止まらないロマンチックに浮揚しながら哀愁にむせ返らぬばかりだ。さらに、ピーキング・ライツの奥方インドラ・ドゥニスをヴォーカルに迎えたエコーたっぷりのサイケデリック・オーシャン・ダブ、“ドリフティング”。これまでのシーホークス節を踏襲したインスト曲にしてタイトル曲“パラダイス・フリークス”など、しなやかな突起もたくさんだ。そして、極めつけは、80年代に2枚のシングルだけを残して音楽界から姿を消した——知る人ぞ知るエレクトロ・サイケデリック・ポッパー——ニック・ナイスリーをフィーチャリングした“エレクトリック・ウォーターフォールズ”である。まるでアニマル・コレクティヴが2005年のEP『プロスペクト・ハンマー』において、60年代に活動していた伝説のフォーク・シンガー、ヴァシュティ・バニヤンをゲストに迎え、再び彼女の存在に光を当てたように(じつはヴァシュティが引退後にはじめてレコーディングしたのはピアノ・マジックの2002年作『ライターズ・ウィズアウト・ホームズ』でだったりするのだが、この際それは置いておこう)、シーホークスはニック・ナイスリーを現代に蘇生させてともに手を取り、光輝くトロトロの電子の滝へとダイヴするのだ。

 シーンの波が引いてすべてが泡になろうが、通りすがりの享楽者が安易な叙情をまき散らし、そこをゴミで埋めつくそうが、シーホークスには関係ない。匿名性の高いシーンのなかで、彼らの一歩は誰もが見惚れる美しいフォームで、しなやかに、そして着実に新しい足跡を残す。水木しげる、田名網敬一らとのコラボレーションも納得できるヴィジュアル・アーティストのピート・ファウラーと、〈Lo Recordings〉を主宰し、80年代後半からクラブ・シーンの最深部でキャリアを築いてきたジョン・タイ。そんなふたりの創造主は、意識こそこちらを遠く離れ、ジ・アザー・サイドで、すすすい~と泳ぎ回っているものの、身体は現実世界にしっかりと足をつけ、いたって沈着に遊泳の舵を握る。
 そう、彼らはくそったれの現実から逃避するのではなく、それを解きほぐしてこちらがわりにたぐり寄せる。こっちの水も甘〜いぞ、と。そんな香りに誘われて、白んだ夜を彷徨う明け方4時ごろのレイヴァーたちは、シーホークスに連れられ、迷うことなく、優しく深いあいまいな海へと還るのだ。

 もうすぐ夏がやって来る。

Arca (DJ set) - ele-king

 「DJ set」というクレジットに不安をおぼえたひともいたかもしれないが、しかし、アルカのそれはまるでライヴだ。プレイ・スタイルは言葉どおり、まさにトータル・フリーダム。彼の進化系ないしは変異体。さながら魔術のようなCDJさばきからはトータル・フリーダムの影響力をまざまざと感じる(じっさい友だちだとのこと)。〈フェイド・2・マインド〉的なヒップホップ/R&Bのミックス感覚でもって音響的悪戯を極めたステージ。出世作のタイトル『&&&&&』はハッタリじゃない。ヴォーグに、ハウスに、アンビエントに、リック・ロスに、R&Bヴォーカルに、スムース・ジャズっぽいトランペットに、…メタル? たしかにミックスは(Tくんがジョージ・マイケルとデフトーンズの曲だったと証言するとおり)カオスそのものだが、一貫してダンス・ビートは崩されない。サウンドの根底には、エレクトロニカやグリッチ、そしてヒップホップがあるようだ(彼がもともとヌーロ/Nuuro名義でエレクトロニカ/エレクトロポップを作っていたこと、『&&&&&』にスヌープ・ドッグが鮮やかに挿入されていたのを思い出してほしい)。

 『&&&&&』からは想像するのがむずかしいほど、リスニングの姿勢で来たら面食らってしまうほど、アルカことアレックスのDJはハードなダンスを志向する。フロアを沸かしにかかる。が、沸きあがる直前でつぎつぎと曲を変えていく。エフェクトの使い方もすさまじく、ピッチもBPMも彼の思うがままに操作され、サウンドはぐにょんぐにょんに引き伸ばされ、ゆがみ、ぶっ飛んで、沈んでいく。DJというより、『&&&&&』のダンス・ヴァージョンをその場で作っていたような感覚だ。かつてのヌーロ名義のクリアなイメージとはほど遠く、ダーティでノーティ。ダークでエレガンス。エクスペリメンタルでありエクスペリエンス。脳は揺れ、身体が音楽をキャッチする。いったい何が彼を変えたのだろうか? 1時間半、彼の集中力と陶酔は最後まで崩れなかった。
 また、アルカとともに怪奇的な映像プロジェクト『トラウマ』を制作しているジェシー・カンダもロンドンから会場にかけつけており(VJはしていなかったようだ)、流暢な日本語でファンと話していた。
 『&&&&&』のヴァイナル化を経て、今年はアルカのアルバム・リリースが期待されている。これはかなり期待していい。再来日公演があれば、絶対に見逃さないでほしい。

 この夜は他の出演者も印象的だった。ゴルジェを牽引しつつ最新EPで「終了」を宣言したハナリ(hanali)も忘れられない。タムを激しく乱打しながら思いっきりダンスのモードで挑んでいて(本人いわく途中からはノープランだったらしい)、これまででいちばんの熱いライヴだった。マッドエッグ(Madegg)も、途中ナイト・スラッグス的グライムの趣味をのぞかせつつ、文句なしのカッコよさ。物販で買ったEP「4」も、疲れた身体にしみるクールな作品だ。

 もしかすると今年いちばんの夜だったのかもしれない。このイヴェントに立ち会えて幸福だった。また、〈モダン・ラヴ〉のショーケースでも感じたのだが、オーディエンスに若くクールな女性が多かったことも印象的だった。リカックスを筆頭に。

 今月24日の深夜にはJ・クッシュとトータル・フリーダムのDJが体験できた。(https://www.tokyoprom.com/2014/05/prom-nite-4.html)。#最高の夏がきた。

■フラッシュバックメモリーズ4D
事故によって高次脳機能障害の症状が後遺してしまったディジュリドゥ奏者GOMA。そのリハビリと復活の過程を独特の手法で描き、第25回東京国際映画祭で観客賞、韓国の全州国際映画祭でNETPAC賞(最優秀アジア映画賞)を受賞し、インディペンデント映画ながら国内で2万人を動員したドキュメンタリー作品、『フラッシュバックメモリーズ3D』。本イヴェント〈フラッシュバックメモリーズ4D〉とは、同作の本編を3Dで上映しつつ、劇中ほぼノンストップで流れるGOMA&The JRSのライヴを生演奏で再現するという異色のイヴェントである。観客は3Dメガネをかけつつ、GOMAの失われた記憶と復帰後のスタジオ・ライヴを3D映画のレイヤー構造によって体感し、さらに「現在」=生ライヴによる4Dの世界を堪能できるという仕掛けだ。
公式サイト https://flashbackmemories.jp/

 デジャヴ? いや、もちろんデジャヴではない。このライヴを目撃するのは生まれてはじめてのはずだ。それでも目の前で展開されている光景はたしかに見覚えのあるものだった。そう、まさに映画のなかで映し出されていたライヴ映像、そのまま。ちがうところといえば服装ぐらいしか見いだせない、曲目や楽器や演奏はもちろん、目配せまでほとんど同じタイミングで過去のライヴと同期していることに、これまであまり経験したことのないタイプの興奮を禁じえないでいた。

 現代映画に疎いわたしが松江哲明監督の存在を知ったのは、元日の東京・吉祥寺を、ミュージシャンの前野健太が歌い歩く姿を74分ワンカットでとらえた衝撃的なドキュメンタリー映画『ライブテープ』によってだった。ライヴよりも生々しいライヴのドキュメンタリーに心酔したわたしは松江哲明監督のこれまでの映画を漁り尽くし、いつの日かまたライヴのドキュメンタリーを撮ってくれることを待ち望んでいたのだ。『フラッシュバックメモリーズ』が公開されることを知ったときには歓喜したものだ。しかし、『フラッシュバックメモリーズ』は見ごたえのあるライヴの記録映像、と言うにとどまるたぐいのものではまったくなかった。ライヴハウスに足を運ぶのと同じノリでわくわくして映画館に足を運んだわたしはしたたかに打ちのめされた。そこに映し出されていたのは、目覚ましい活躍のさなかに不慮の事故で記憶の一部が消えてしまったり新しいことを覚えづらくなるという高次脳機能障害を負い、一時はディジュリドゥが楽器であることすらわからないほど記憶を失っていたGOMAが、リハビリ期間を経て徐々に復活する過程を丹念に追った、数奇な運命に思わず眩暈がしてしまう真摯なドキュメンタリーだったのだ。そして映画のなかでフラッシュバックする、いまはもうGOMAの記憶には残っていないライヴの舞台がここ、〈WWW〉なのである。

 GOMAのライヴの最中ずっと、バックでは映画『フラッシュバックメモリーズ』が最初から最後まで途切れることなく映し出されている。事故前のGOMAの映像と事故後のGOMAの本人をついつい比べ、複雑な気持ちを抱いてしまう。やはり、MCは事故後のほうがどこかたどたどしいことは認めざるを得ない。それも当然のことだ。「久しぶりに昔の映像を観たけどやはり何処か他人のフィルムを見ている様な感覚になってしまった。僕はここに映っている僕を思い出せない。」と映画のラスト・シーンで挿入されたコメントのとおり、GOMAは完全に覚えていない自分のドキュメンタリー映画についてのMCをしているのである。いや、それどころか、昔の自分が「僕はここに映っている僕を思い出せない。」と発言したことさえ、下手をすると覚えていなかったかもしれないのだ。その意味では、事故前のGOMAの完全復活というのはありえない。GOMAはすでに別の人生を歩みはじめている。そもそもGOMAが事故にあっていなければ、『フラッシュバックメモリーズ』も存在せず、『フラッシュバックメモリーズ4Dライブ』は〈WWW〉で行われず、『フラッシュバックメモリーズ4Dライブ』についてのライヴ・レヴューをわたしが執筆することもなかったのだ。それでもこれだけはいっておきたい。GOMAのステージは、事故前も事故後も、何ら遜色のない素晴らしいものであったと。事故によってGOMAの音楽そのものが致命的な損傷をおったわけではないと。GOMAの脳が覚えていなくとも、今日のライヴをGOMAの体はきっと覚えていると。

 唯一、映像で映し出されるGOMAが、現実のGOMAとは歴然とちがうときがあった。ラスト近く、GOMAはくるっと振り返って観客に背を向け、映像の中のGOMAに向かって演奏をはじめたのである。それは奇妙に姿を歪ませる鏡の前にいるようにも、失った記憶と対峙しているようにも、祈りを捧げているようにもみえた。

 音楽やそれを取り巻く風俗を現場の皮膚感覚から言葉にし、時代を動かすアンダーグラウンド・カルチャーをつぶさに眺めてきた人気ライター2人が、これからの音楽の10年を考える連続対談集『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』。

 著者の磯部涼さん&九龍ジョーさんによる、スペシャル・ゲストを交えてのトーク・セッションが開催されます! お迎えするのは、伝説的な"リトル・マガジン"『SUB』とその誕生の背景を追う瀟洒なノン・フィクション『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』などの著作や、数々の音楽本の編集・執筆で知られる北沢夏音さん。そして、高い詩情と文学性によって歌謡とロックの歴史の先端を繊細に掘削するシンガーソングライター、前野健太さん。本書の大きなテーマのひとつでもある「音楽のなる場所」──2010年代に音楽はどのような場所で鳴っているのか、それは政治や社会とどのように関係しているのか──をキーワードに、狭い意味での"音楽シーン"を超えて、わたしたちの生きる場所と、そこに結びつくさまざまな音について思いをめぐらせます。

 アンプラグドな前野さんの演奏も間近く聴ける!? 

 ファンのかたにも、初めてお名前を知るかたにも、素敵な時間をお届けいたします(トーク内容は変更する場合もございます)。

○日時:平成26年6月4日(水) 19:00~ (開場18:30)
○場所:紀伊國屋書店新宿本店 8階イベントスペース 
○定員:50名
○参加費:1,000円
○参加方法:2014年5月20日(火)午前10:00時より7階レジカウンターにてご予約を承ります。
ご予約電話番号:03-3354-0757
新宿本店7階芸術・洋書売場(10:00~21:00)

※当店に繋がる他の電話番号におかけになられてもご予約は承れませんのでご注意下さい。
※イベントに関するお問い合わせも、上記の電話番号までお願いいたします。

※参加料1,000円はイベント当日、会場受付にてお支払いいただきます。
※イベント終了後『遊びつかれた朝に』をお持ちのお客様対象にサイン会を行います。


出演者プロフィール

北沢夏音(ライター・編集者)
1962年生まれ。主にサブ・カルチュアに関する企画・編集・執筆を行う。著書:『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』(本の雑誌社)/監修:『80年代 アメリカ映画100』(芸術新聞社)/共著:『冬の本』(夏葉社)、『音盤時代の音楽の本の本』(カンゼン)、『山口冨士夫 天国のひまつぶし』(河出書房新社)/対談構成:山口隆 『叱り叱られ』(幻冬舎)/書籍編集:寺尾紗穂『愛し、日々』(天然文庫)、森泉岳土『夜のほどろ』(同)/CDボックス・ブックレット編集執筆:『人間万葉歌 阿久悠作詞集』三部作(ビクターエンタテインメント)、やけのはら『SUNNY NEW BOX』(felicity/SSNW)など。

前野健太(ミュージシャン)
1979年埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル"romance records"より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。2009年にセカンドアルバム『さみしいだけ』を"DIW"よりリリース。
2009年元日に東京・吉祥寺の街中で74 分1 シーン1 カットでゲリラ撮影された、ライブドキュメント映画『ライブテープ』(松江哲明監督)に主演として出演。第22 回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞し全国の劇場で公開された。
2010年9月"Victor Entertainment"より発売された『新・人間万葉歌~阿久悠作詞』へ参加。2011年2月"romance records"より3 枚目のオリジナルアルバムとなる『ファックミー』をリリース。同年、松江哲明監督の新作映画『トーキョードリフター』に再び主演として出演。全国劇場で公開される。また主題歌をリレコーディングしたコンセプトアルバム『トーキョードリフター』を"felicity"よりリリース。
2011年末には第14 回みうらじゅん賞を受賞。2012年auの新CM「あたらしい自由」篇に出演。2013年1月、ジム・オルーク氏をプロデューサーに迎え制作された4 枚目のアルバム『オレらは肉の歩く朝』を発売。同年7月「FUJI ROCK FESTIVAL'13」へ出演。
公式HP: https://maenokenta.com/
公式twitter: @maeken_info

磯部涼(音楽ライター)
78年生まれ。主にマイナー音楽、及びそれらと社会との関わりについてのテキストを執筆し、04年に単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版)を、11年に続編『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)を刊行。その他、編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。

九龍ジョー(編集者・ライター)
76年生まれ。ポップ・カルチャーを中心に原稿執筆。『KAMINOGE』、『QuickJapan』、『CDジャーナル』、『音楽と人』、『シアターガイド』、などで連載中。『キネマ旬報』にて星取り評担当。編集近刊に、坂口恭平『幻年時代』(幻冬舎)、岡田利規『遡行変形していくための演劇論』(河出書房新社)、『MY BEST FRIENDS どついたるねん写真集』(SPACESHOWERBOOKS)などがある。

 音楽やそれを取り巻く風俗を現場の皮膚感覚から言葉にし、時代を動かすアンダーグラウンド・カルチャーをつぶさに眺めてきた人気ライター2人が、これからの音楽の10年を考える連続対談集『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』。

 本書の重要なテーマのひとつである「音楽のなる場所」──2010年代に音楽はどのような場所で鳴っているのか、それは政治や社会とどのように関係しているのか──をより発展的に考えるべく、著者磯部涼&九龍ジョーが、スペシャル・ゲストを迎えてトーク&ライヴを開催! お迎えするのは、それぞれに新しい「パーティ」のかたちを模索するキー・パーソンたち。 「新宿ロフト飲み会」等で知られ、日本のポップスにダンスと歌謡のダイナミズムを復権させる音楽集団、〈音楽前夜社〉のスガナミユウさん、「SHIN-JUKE」や「SCUM PARK」で、ジュークやフットワークを切っ先に音楽的にも空間的にも新しい場所をひらく〈オモチレコード〉の望月慎之輔さん、その〈オモチレコード〉になくてはならないバンドHave a Nice Day!の浅見北斗さん、そして、「24時間365日開放」されたスペースで、アーティストを中心にシェアハウスとは異なる共同生活のあり方を実践する〈渋家〉の齋藤桂太さん、としくにさん。

 さらにはライヴ・パートとして、いまもっともパフォーマンスや音盤化が切望される嫁入りランドさん、"ダンスミュージックを使ってブースからプレイするハードコア・バンド”LEF!!!CREW!!!のDJ MAYAKUさんと『Internet Dungeon EP』や『Sekai no Minasan Kon-nichiwa』で注目の集まるSOCCERBOYさん、パーティ・シーンの台風の目NATURE DANGER GANGさんのパフォーマンスも!

 音楽とともに、音楽を超えて、「パーティ」が我々に見せてくれる未来像を探る!

2014/05/27 (火)
19:00~21:00 磯部涼+九龍ジョー
『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』刊行記念
「パーティの現在、日本の未来」

出演:磯部涼、九龍ジョー
TALK GUEST:スガナミユウ(音楽前夜社)、望月慎之輔(オモチレコード)、浅見北斗(Have a Nice Day!)、齋藤桂太(渋家)、としくに(渋家)、寺沢美遊(写真家)
LIVE GUEST:NATURE DANGER GANG、SOCCERBOY+DJ MAYAKU

21:00~24:00 BROADJ Pionner
「Jeminic Records presents Off The Hook on DOMMUNE!!/BROADJ♯1294」
LIVE:Jimanica、RIOW ARAI  TALK: Jimanica、林永子、カワムラユキ

www.dommune.com


■6/4(水)は紀伊國屋書店新宿本店でもトーク&ライヴ!
ご予約受付中!

磯部涼+九龍ジョー+スペシャル・ゲスト北沢夏音&前野健太!
『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』刊行記念トーク・セッション

詳細:
https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/
Shinjuku-Main-Store/20140520100013.html

○日時:平成26年6月4日(水) 19:00~ (開場18:30)
○場所:紀伊國屋書店新宿本店 8階イベントスペース 
○定員:50名
○参加費:1,000円
○参加方法:2014年5月20日(火)
午前10:00時より7階レジカウンターにてご予約を承ります。
ご予約電話番号:03-3354-0757
新宿本店7階芸術・洋書売場(10:00~21:00)


坂本慎太郎 - ele-king

 いままでとは違う。“ソフトに死んでいる”、“空洞です”、“あえて抵抗しない”、“なんとなく夢を”、“つぎの夜へ”、“幻とのつきあい方”、“まともがわからない”、そして『ナマで踊ろう』……、こう来ると今回はいままでは違うぞ、と思わざるえない。極端な話、人生の虚無をただただ受け入れながら、深沢七郎的な「ぼーっとして生きる」人間の歌を歌ってきた坂本慎太郎にしては、ある意味ロマンティックな題名、と言えるだろう。
 そして、そのタイトル曲には、こんな言葉がある。「昔の人間はきっと/音楽がかかる場所で/いきなり恋とかしていた/真剣に」……レーベルの資料によれば、人類滅亡後の地球が新作のコンセプトというが、つまり、未来から見た過去にあたる現在は、本当はもっとロマンティックなんだよと坂本慎太郎は諭しているように思える。まわりくどい表現だが、それが彼の持ち味だ。

 とはいえ、実際のところ『ナマで踊ろう』は、“ソフトに死んでいる”の拡大版というか、いままで以上に、アイロニーというものが強く描かれている。アイロニーというからには、皮肉る対象があるわけで、それは今日の社会ということになろう。英国のメディアからは「scary」という言葉で形容されている安倍晋三のことだろうし、新自由主義ということだろう。ウクライナ情勢に見る世界秩序の崩壊かもしれない。何にせよ、それが、単純な嫌悪感の発露だとは思えない。坂本慎太郎は例によって言葉をぼやかしているものの、いや、リスナーの内面から醸成されるであろう言葉を促すように……、しかし、どう考えても今回は毒づいているのだ。ここには憤怒がある。つまり、らしくない。「決してこの世は地獄/なんて/確認しちゃだめだ」「見た目は日本人/同じ日本語/だけどなぜか/言葉が通じない」なんて、らしくない。

 もちろん、何かを成し遂げたいとか、人生の勝負に出るとか、一発カマスとか、そうしたどや顔のギラついたものとは対極の、言わば勝っても負けても面白くないという坂本らしさは、言葉の随所にも、そしてサウンドにも見える。僕は最初の数回は、歌詞を気にせず、ただ音だけを聴いていた。ただ音だけを。この、ひたすら気持ち良い音だけを。ぼーっとしながら。気持ちよくなりながら。

 オーヴァーダビングされた、70年代の、ゆるいトロピカルな歌謡曲もどき……、たとえば“スーパーカルト誕生”は、いかにも昭和ムード歌謡な曲調をジョー・ミークがミキシングしたかのような曲だ。場末の酒場的で、不自然なほどエキゾティックで、滑らかで、なおかつ巧妙なまでにサイケデリックだ。
 デヴィッド・トゥープは、ミークについて「ブライアン・ウィルソンやリー・ペリーやフィル・スペクターのように、未知の領域からの音楽を具現化したいがゆえに、正気の外側においても音と奮闘したサイエンティストのうちのひとり」と説明しているそうだが、ミークといえば、かつてはチェリー・レッドから再発されたり、最近はジンタナ&エメラルズにカヴァーされたりと、近年とみに再評価されている音響加工の先達だ。
 ウィルソンもペリーもミークも、たしかに錯乱したり、スタジオを燃やしたり、自殺したりした。が、坂本慎太郎がそんなエクストリームな事態になると思えないのは、彼にはヘゲモニー的なるものに翻弄されない、なかば禅的な心持ちがあるように思うからだ。食って寝ればいい、何もしないことが最善だと言わんばかりの、そんな心持ちが。

 だが、今回は、違う。強いアイロニーをもって、何かを訴えている。ネガティヴな感性に居場所を与えない現代を「いびつに進化した大人たち」の社会として風刺する“義務のように”、それから、アイドルだろうと介護だろうと牢獄としての社会の一部だと厳しく描く“あなたもロボットになれる”で、アイロニーは乾いた笑いとともに最高潮を迎える。レトロを装った痛烈な批判者という意味において、忌野清志郎がタイマーズでやったことを坂本慎太郎は彼なりのやり方でやっている、と言えやしないだろうか(“争いの河”とかさ、ああいうのを思い出す)。
 そして、“やめられないなぜか”~“この世はもっと素敵なはず”にかけて、坂本慎太郎は、あたかも世界の瀬戸際から、皮肉に満ち、ウィットに富んだ社会的コメントのオンパレードを展開する。「地震 水害 台風 大火災/見舞われるたんびにもうやめよう/と思った/でもやめられない俺は/あれを」、「そいつがこの危険な/この国の独裁者/歯向かった人間は/すべて消してしまう」、「お前正気か?(あいつらみんな人形だよ)」……。アルバムの最後に彼は、あけすけもなく、「ぶちこわせ(この世はもっと素敵なはず)」と繰り返す。ぶちこわせ。ぶちこわせ。これはパンクでもハードコアでも、ガレージ・ロックでもない。徹頭徹尾ひたすら心地よく、精巧に作られたゆるいポップスでありながら、リスナーを闘争に駆り立てているかのようだ。

 いままでとは違う。坂本慎太郎は、いままで、間違った「あいつら」と正しい「僕たち」という単純な二分法を歌ってこなかった。だが、いま彼ははっきりと、間違った「あいつら」を指さしている。間違いは、死んだ目をした「俺」にも内在する。ともかく、“あえて抵抗しない”と歌った人が、いま、敢えて抵抗しているのだ。逆に言えば、それほどまでに、いま、「scary」な事態が進行している。本格的に。
 
 最後に豆知識をひとつ。いまや日本の音楽は、欧米のコレクターにとって最後の秘境としてある。これだけインターネットが普及して、英米以外の先進国の大衆音楽があらゆる切り口からアーカイヴ化されても、日本の音楽は、ほとんどされていない。いま、まさにされようとしているが、その歴史の長さ、リリース量の多さ、そしてまた、欧米になろうと思ってもなりきれないことの独創性から言っても、いまだ整理されていない大いなる秘境としてある。マヒナスターズがコーネリアスよりも脚光を浴びることになるかもしれない。ま、何にしても、坂本慎太郎は、ここが秘境であることをわかっているひとりである。

DJ歴 1994-2014 祝20周年!まだまだイキマス!!
Facebook : https://www.facebook.com/fumicro

>>DJ Schedule
2014/05/24-25 "Re:birth 2014" @千葉 富津岬
2014/05/31-06/01 "amitAyus" 12th anniversary @福岡 八女 グリーンパル日向神峡
2014/06/21(SAT) "GOKURAKU" @福岡 親富孝 graf
2014/06/28(SAT) "BlackOut周年祭" @福岡 今泉 BlackOut
2014/07/04(FRI) "ウルトラミィグルグル" @沖縄 宮古島 ウルトラミャーク
2014/07/12(SAT) "にわか ゴメンそ~れ" @沖縄 那覇 Mile Stone
2014/07/19-20 "Mind Of Vision open air 2014" @新潟 妙高杉ノ原スキー場

オンシーズン到来! 広大な大自然の中、爆音で鳴らしたい10曲(順不同) (2014/05/22)


1
Equitant - Body Vehement(Canzian Phase 01 Remix) - Black Leather Records

2
TIS - WHAAAATZZZZ(Original Mix) - Verform Records

3
Raphael Dincsoy - It's Fucking Rude(Remute RMX) - Remute

4
Ross Alexander - Broken Translation(Original Mix) - Forte Techno

5
Seri - Lunar(Original Mix) - Elektrax Recordings

6
Alex Jockey - Afrodescendente(Joseph Dalik Remix) - Tekx Records

7
Spirit Catcher - Voodoo Knight(Catz 'n Dogz Dub Mix) - Pets Recordings

8
Lutzenkirchen - Hurt Me(Original Mix) - Doppelgaenger

9
Pascal F.E.O.S. - Overflow(Timo Maas Remix) - Mixmag Records

10
Sunaj Assassins - Creepy Lover(Original Mix) - Cynosure Recordings
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