![]() Tickles on an endless railway track MOTION± |
今日の文脈で言えば、アンビエント・ポップ(そしてIDMリヴァイヴァル)に当てはめることもできるだろう。ひと言で言えばロマンティックな音楽で、ベルリンの〈モール・ミュージック〉や〈カラオケ・カーク〉、ケルンの〈コンパクト〉から出ていたとしても違和感はない。トゥ・ロココ・ロットやウンダーの叙情、あるいはクライドラーの室内楽的なエレクトロニカを思い出す。とにかく、このあたりの固有名に反応する人が好きな音である。エイフェックス・ツインのような冗談があるわけではなく、ボーズ・オブ・カナダのような幻覚症状があるわけではないが、オルゴールのようにまとまりをもった愛らしい音楽と言える。わずかな感情の変化にも敏感に感応するような、ピアノ、ないしはトイ・ピアノの音が心地よい。先日、イーライ・ウォークスのデビュー・アルバムを出したばかりの中目黒の〈MOTION±〉が新しくリリースするのは、「かねてから目を付けていた」という湘南在住の鎌田裕樹のプロジェクト、ティックルズの3枚目のアルバム『オン・ア・エンドレス・レイルウェイ・トラック』だ。ちなみに〈MOTION±〉レーベルをやっているのは、〈ワープ〉をライセンスしているビートインクの元スタッフと元『remix』編集部のテクノ担当者なので、おのずとレーベルが好むところの音楽性もうかがい知れよう。
『オン・ア・エンドレス・レイルウェイ・トラック』の帯には、レーベルによる「線路は続くよ どこまでも」 というコピーがある。僕はそのコピーを最初に見たとき、あまりの身も蓋もない表現に「マジっすか!」とレーベルの人に笑ってしまったが、CDの封を切ると中面に手書きの線路があった。3拍子の曲からはじまる『オン・ア・エンドレス・レイルウェイ・トラック』は、ある意味では汚れのないイノセントなアルバムだ。それは牧歌的な情熱によって、リスナーをゆっくりとした旅に連れて行く。
逆にそんな時期だからこそ、音楽というのは感情を逆撫でするようなものではなく、単純にもっと優しさを感じ取れるようなものであっても良いのかなって。みんながみんな怒りや反発の方向を向いていてもそれはそれで芸がないというか......
■インタヴュー前にいったいどんな見た目の人なのかなって想像していたんですが、想像とまったく違っていました(笑)。
tickles:はははは。どんなイメージだったんですか?
■もっとシャープな線の細い感じの人をイメージしていたんですけれど。
tickles:太めです(笑)。
■だははは。いい意味で裏切られたというか、敬意を込めて言いますけど、ひと仕事し終えてきたって感じっすね。ま、ビールでもどうぞ(笑)。プシュ。
tickles:ありがとうございます。プシュ。
■では、さっそくですが、よろしくお願いします。
tickles:お願いします。
■荒井君(レーベルのスタッフ)からティックルズのことを教えてもらって、僕の好みの音楽であるのと同時に、最近、日本のアンダーグラウンドにおいて共通した感覚が増えてきているなという印象を持っていたので、ぜひ話を聞いてみたくて。
tickles:ありがとうございます。
■それを感じることってあったりしますか?
tickles:ライヴではいろいろなジャンルの人とやらせてもらうんですけれど、これまで自分と近いなって感じた経験はほとんどないですね。まあ、あくまで僕の知っている範囲では、という感じですけれども。
■スタイルは違うけど、たとえばフォトディスコとか、彼もある種の穏やかさというか、平穏を表現しているアーティストなんですけれどね。
tickles:興味ありますね。今度、聴いてみます。
■ポスト・ロックやエレクトロニカって聴いていましたか?
tickles:エレクトロニカはそれほどのめり込んで聴いたわけではないですが、ポスト・ロックに関しては20代の初めによく聴いていたし、ライヴもよく観にいっていました。なかでもゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーが大好きでしたね。
■へえ。でも現在のティックルズの音楽性はゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーとは全然別物というか、むしろ対極じゃないですか? 初期のフォー・テットやディラン・グループのほうに近いような気がしますれけど。
tickles:もちろんフォー・テットやディラン・グループも好きでしたよ。でも自分が表現したい本当のところは、むしろゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー寄りというか。もっと激しいものであって、それを自分なりに押し進めていった結果、現在のような音楽性に辿り着いたという感じなんです。
■ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーに強く惹かれたのは、どうしてなんでしょう?
tickles:ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのサウンドは、猛烈にアナーキーでインディペンデントな臭いがして、とにかくそれがかっこ良かったですね。その当時僕はメッセージのある音楽が好きで、音楽っていうものはファッションになってはいけないというか、もっと力強いものでなくてはいけないと思っていたので、ゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのあの強烈なメッセージ性というか、パンク的な要素がとにかく胸に突き刺さったんですよね。
でも、その後、自分で音楽を作るようになってから考え方がちょっと変わってきて。作品をリリースしたあとは、その作品って作り手の手を離れて、リスナーのものになるじゃないですか? というか、僕はそう思っていて、そうであれば、メッセージよりも、聴き手に寄り添うような作品であればいいなと思うようになって。それでだんだんいまのような作風になっていった感じです。
■ゴッドスピードって、もしかしたらレディオヘッドの『キッドA』よりも大きな影響力を持っていたかもしれない......ただ、それらがティックルズとはどうも結びつかない(笑)。
tickles:まあ(笑)。とはいえ、間違いなく自分のルーツだし、大きな影響を受けていることはたしかです。いつかはゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのような大所帯バンドで、いまの音楽をライヴでやってみたいなって思ったりしますね。
■ゴッドスピードには有名な、"ザ・デッド・フラッグ・ブルース"の「車は燃えている、運転手はいない。下水道は孤独な自殺者で溢れている......」というフレーズがあるじゃないですか。彼らはこの世がいかに絶望的か、それをとことん表現したバンドでしたよね。でも、ティックルズは、リスナーに暗い現実を叩きつけるようなことはしないじゃないですか?
tickles:それはそうですね。むしろいまはそうあるべきじゃないと思っています。
■その意味では、対極であるとも言えますよね?
tickles:なるほど。そういう意味では、まさに対極ですね。暗い現実を叩きつけるなんて、やりたくないですからね。
■それはなぜですか?
tickles:いま、時代的になのかもしれませんが、いろんなことに反感を持ったり、強いメッセージを持った曲が多いという印象を持っているんです。自分としてはそればっかりになってしまっては表現としては面白くないなと思っていて。逆にそんな時期だからこそ、音楽というのは感情を逆撫でするようなものではなく、単純にもっと優しさを感じ取れるようなものであっても良いのかなって。みんながみんな怒りや反発の方向を向いていてもそれはそれで芸がないというか。ティックルズとしての表現は、いまはそういうものだと考えています。
■ティックルズの音楽にはパンク的な要素がどのような形で存在していますか?
tickles:サウンドというよりはむしろ活動のスタイルや精神的な部分ですね。これまで2枚アルバムを自分のレーベル〈マダガスカル〉から出しているんですけど、それは音作りはもちろん、流通やプロモーションも可能な限りすべて自分たちの手でコントロール出来るようにやっていました。そうしたDIY的なやりかたで音楽を世に送り出すということが、僕にとってのパンクかなと思いますね。今回は本当に信頼できる仲間たちと一緒にやれるチャンスだったので、〈MOTION±〉からリリースすることになりましたけど。
■本作も制作においては、ほとんど自分ひとりでやっているわけですよね?
tickles:そうですね。
[[SplitPage]]フォー・テットやディラン・グループも好きでしたよ。でも自分が表現したい本当のところは、むしろゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラー寄りというか。もっと激しいものであって......
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■そもそもticklesはいつ頃にスタートしたんですか?
tickles:ファースト・アルバム『ア・シネマ・フォー・イヤーズ』を出したのが2006年。で、2008年にセカンド・アルバム『トゥデイ・ザ・スカイ・イズ・ブルー・アンド・スペクタキュラー・ヴュー』を出して、4年空いて今回の『オン・アン・エンドレス・レイルウェイ・トラック』ですね。
■はじめた当時と比較して、現在はどういう部分が変化していると思いますか?
tickles:最初はメンバーがふたりいて、いまほど生楽器を使わない、打ち込み主体のサウンドだったんですよ。
■時間が経つにつれて、どんどん生楽器が増えて、今回のような温かみのあるサウンドに変わってきた感じなんですね。
tickles:そうですね。
■本作ではどんな楽器を使っていますか?
tickles:ピアノ、ギター、トイピアノ、ピアニカ、ベース......。
■鍵盤が多いんですね。
tickles:家にある楽器は鍵盤が多いですね。あとドラムはサンプリングですけど、ほとんど自分で叩いてます。
■基本的にはご自宅で録られているんですか?
tickles:ピアノとドラムはスタジオで録りましたけど、あとはすべて自宅です。
■『オン・アン・エンドレス・レイルウェイ・トラック』(線路は続くよ どこまでも)というタイトルには、どのような意味が込められていますか?
tickles:アルバムを作っている途中で、僕たちが昔から知っている「線路は続くよ どこまでも」というフレーズを英語にしたものにしようと思っていたんです。英語にすると、字面がちょっと淡白な感じになってしまうんですけど、わりと楽観的な意味合いで、これからも楽しくやっていけたらいいね、というような意味合いで付けました。このジャケットは友だちにお願いしたんですけど、彼が僕に持っているイメージがこんな感じなんだと思います(笑)。
■これは絵なんですか?
tickles:アクリル板を5枚ぐらい重ねて、立体にした絵なんです。それをさらに箱に入れたという。なかなか伝わりにくいかもですけど。
■へー、面白いジャケットですよね。これを最初に見たときに、ある種、宮沢賢治的というか、童謡的なイメージを連想したんですけど、どういうコンセプトで作ったのですか?
tickles:実はこの手法は、ユーリ・ノルシュテインというロシアのアニメーション作家が作品を展示する時に使うやりかたを真似したものなんです。ユーリ・ノルシュテインが童話的な作品を作る人だし、ロシアやチェコのアニメーションが好きだったりもするので、そういう感じは出てるかもしれないですね。
■そうした童話的な世界観とティックルズの音楽にはどのような関連性がありますか?
tickles:そうですね。アニメをアニメイトする(命を吹き込む)という行為と、音楽に自分の魂を吹き込むという行為は似てるのかなって思いますね。電子音楽なんですけど、そこに有機的なものを入れたいというのは常々思っていることでもありますし。
■なるほど。ちなみにピアノをずっとやられていたんですよね?
tickles:幼稚園くらいから、10年ちょっとやっていましたね。
■じゃあ鍵盤は昔から得意なんですね。
tickles:最初に触れた楽器だし、いまでも曲を作るときに最初に触るのは鍵盤であることが多いですね。
■とてもリズミカルな演奏だなって思ったんです。ハウスやテクノのプロデューサーが作るリズムとも違うし、ロックをバックボーンに持つ人の感じともまた違う。とても独特なリズム感があるなと思いました。
tickles:そこは完全に無意識というか、ある種の手癖みたいなものだと思います。シーケンサーにパチパチと打ち込むんじゃなくて、手打ちで打っていくので。メロディ先行で、後からリズムを付けていくので、そういう感じになっているのかもしれないですね。
■ゴッドスピード以外で、インパクトのあった音楽ってどんなものですか?
tickles:いろいろありますけれど、シガー・ロスのライヴを観たときはかなり感動しました。うーん、あとは何かなあ。
■シガー・ロスもゴッドスピードもとてつもなく壮大なサウンドだけど、ティックルズはもっと身近な感じがしますよね。
tickles:そうですね。僕がスタイルだけシガー・ロスやゴッドスピード・ユー!ブラック・エンペラーのようなサウンドをやっても何の説得力もないというか。僕ができる音楽というのは、現在のティックルズのようなサウンドっていうことなんだと思います。
[[SplitPage]]楽観的な意味合いで、これからも楽しくやっていけたらいいね、というような意味合いで付けました。このジャケットは友だちにお願いしたんですけど、彼が僕に持っているイメージがこんな感じなんだと思います(笑)。
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■なるほど。ティックルズ以前にはどんな音楽活動をしていたんですか?
tickles:中学から高校くらいまでバンドをやっていて、その後にパンクのDJをやりはじめました。で、DJをやるようになってから次第にいろいろなジャンルの音楽を聴くようになって、テクノやエレクトロニカをメインにプレイするようになり、自分たちでもエレクトロニック・ミュージックをやってみようということで、ティックルズをはじめたという感じです。
■パンクのDJってどんな感じの?
tickles:基本、自分の好きな曲をかけるだけっていう感じでした。70年代のパンクもかけるし、90年代のハードコアとかも。envyとか大好きだったので。
■なぜDJをやろうと思ったんですか?
tickles:友だちに知らない新しい曲を聴かせたいとか、そういうたわいもない理由だったと思います。
■地元の藤沢のクラブでDJをしていたんですか?
tickles:主に藤沢や横浜のクラブ、ライヴハウスですね。いまもうなくなってしまったお店も多いですけど。
■パンクをやっていた人が、こういう音楽にどうやって辿り着くのかというのが、とても興味あるんですよ。
tickles:自分のなかではまったく別のものをやっているという意識はなくて、表現の仕方が変わったとしか言えないんですよね~(笑)。
■日本のパンクも好きでしたか?
tickles:よくライヴを観に行ってましたよ。それこそenvyとかスメリング・カンツ(toeの前身となるハードコア・バンド)とか。
■めまぐるしくトレンドが変わるこのご時世ですが、新しい音楽は積極的にチェックしているほうですか?
tickles:いや、しているほうではないと思いますが、どうですかね。
■インターネットはあまり見ないですか?
tickles:見ますけど、音楽の情報を得るために使うことは多くはないと思いますね。
■最近、面白かった音って何かありますか?
tickles:〈コンパクト〉から出ているウォールズは好きでした。
■いいですよね。
tickles:あとは〈ニンジャ・チューン〉から出ていたボノボの『ブラック・サンズ』とか好きでしたね。
■なるほど。ああいう音楽を聴くと、自分のやっている音楽もあながち間違っていなかったのかなって思います?
tickles:あまりそういう感じで考えたことはないですけど、好きなので共通するものはあるんだと思いますね。
■曲のタイトルはどのように付けるんですか?
tickles:いろいろですよ。曲を作ってから、それを聴いてみて自分のなかに生まれたイメージを基に付けることもあるし、曲を作っている途中で付けちゃうこともあります。
■曲のタイトルについて重視しているほうですか?
tickles:重視しているほうだと思います。
■なぜですか?
tickles:昔からかっこいいタイトルって好きなんですよね。昔、メッセージのある曲が好きだったと言いましたけど、タイトルってその象徴だと思うんですね。かっこいいタイトルは、もうそれだけで胸に刺さるじゃないですか。だから自分もタイトルにはこだわりたいですね。
■普段はどんな生活をしているんですか?
tickles:CMの制作会社からの発注を受けたり、他の音楽の仕事とかもしてます。
■ライヴはひとりでやっているんですか?
tickles:いまはそうですね。ラップトップにシンセサイザー、サンプラー、エレピなどの音を入れてオーヴァーダブしていくような感じです。
■ティックルズとしてのこの先のヴィジョンはどんな感じですか?
tickles:できればなるべく早く、次のアルバムを出したいなって思っています。もっとシンプルな楽曲のものを出したいです。あと別名義でミニマルなタイプの作品も出してみたいですね。今回はかなり生音を入れているので、まったく別のタイプの曲の構想もあるので、それをかたちにしてみたいですね。
contrarede presents SCHOOL OF SEVEN BELLS JAPAN TOUR 2012
東京・FEVER公演
2012/6/14 (Thu)
Shindaita, FEVER(03-6304-7899) OPEN 19:00 / START 20:00
LIVE: SCHOOL OF SEVEN BELLS, tickles
ADV ¥4,700 / DOOR ¥5,200 (+1drink)
主催: contrarede 企画制作: contrarede
協力: Plancha / Art Union, Shibuya Television
TOTAL INFO: contrarede 03-5773-5061 https://www.contrarede.com














