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Best Coast

Best Coast

The Only Place

Mexican Summer/ホステス

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竹内正太郎   May 22,2012 UP

 ノスタルジアを受け入れられるか、それは、帰りたい場所があるか、美しい過去を持っているか、という問いと等価なのかもしれない。そして、それがもう二度と戻らないのだということを受け入れたとき、その後ろ向きの感情は酸味交じりの甘味を放つのだろう。南カリフォルニアから届けられた『Crazy For You』(2010)で、当時インディ・ポップ界隈で高まりを見せていたビーチ・ポップ/サーフ・ロックのローファイ・ウェイヴに乗ったベスト・コーストは、本作『The Only Place』において、より徹底したメロウ・アウト、より完全化されたノスタルジック・ポップを披露している。全体的にテンポ・ダウンしたこと以外、何も変わっていないと言えば変わっていない......が、ロサンゼルスは〈Capitol〉のBスタジオでレコーディングされたという音質には余裕があり、ムーディなバラードには艶やかさがある。

 とはいえ、ベサニー・コンセンティーノとボブ・ブルーノのふたりに、たとえばビーチ・ハウスの音楽に通底するある種のナイーヴィティ、ベッドルームに満ちるあの胸に迫る痛みのようなものはない。彼らは極めて実人生的なトピック、つまりはごくありふれた恋愛のいざこざや、思春期における傷つきやすさを、ある程度こざっぱりと歌うことができるのだ。目移りする頼りないボーイフレンドに、自分よりも遥かに可愛い恋敵、無神経で無理解な親(大人)、その隙間でシニカルに割り切りつつも、少しずつ、だが確実に擦り減っていく、イマイチの、中途半端の、はじかれ者の自分......。本心はどうあれ、ベサニー・コンセンティーノはそれを陽気なサンシャイン・ポップに乗せることができる。それはFMラジオの重要なローテーション・ソングとして、DJに重宝されるだろう。そのある種の軽さこそ、彼女らが50~60年代のポップ・ミュージックから受け継いだものでもある。

 しかし、カリフォルニアというのは、いまアメリカで暮らす人びとにとってどんな場所なのだろうか。ごく初期におけるザ・バーズのような爽やかさが印象的なタイトル・トラックで、「ここが私にとって唯一の場所」と歌うのは、キワどいが、恐らくはアイロニーではないのだろう。彼らの場合はバンド名からしてそうだが、熊がカリフォルニア州をかたどった模型を大切そうに抱きしめているジャケット・アートは、ギャグなのか真剣なのか......ちょっとわからない。これは確信的なパロディなのだろうか? あるいは、前作のレビューを担当した野田編集長は言うかもしれない、「ホント竹内の解釈には余裕ってもんがないよなあ」。たしかにそうかもしれない。だが、ベサニー・コンセンティーノがモダン・サイケの出身者ということを差っ引いても、ベスト・コーストのポップ・バンド然とした振る舞いには、ちょっと手が付けられないところがある。良くも悪くも(たとえばガールズのような)濃密さは、ここにはない。

 少なくとも私に言えることがあるとすれば、それはジョン・ブライオン(個人的にはルーファス・ウェインライトとの仕事で記憶している)のプロデュースがバンドのポップ・ポテンシャルンを大幅に引き出している、ということであり(それは同時に、このインディ・バンドのもうひとつの魅力、ヴィヴィアン・ガールズ以降に位置するガレージ・サウンドが払拭されてしまった、ということでもあるが)、ベサニー・コンセンティーノの歌声は、いよいよ抗えないまでの甘さを魅惑的に漂わせている、ということだ。ラナ・デル・レイに浮気している場合ではない......。そう、昨年の夏にSound Cloudにデモがアップされていた"How They Want Me To Be"は、彼女のゴージャスなコーラスが何層にも重ねられ、今や浜辺の夕暮れを喚起させるヴィンテージ・ポップの傑作に生まれ変わっている。そして、なんと言っても透明度の高いストリングス・アレンジ(!)が施された"Up All Night"だ。堂々たる完成度を誇るこれらのミドル・バラード、それは彼女らの成熟とともに、ひとつの季節が過ぎてしまったことを物語ってもいる。

 恐らくはもう、彼女ら/彼らのローファイ・ポップが素朴に称賛されるようなことはないだろう。シーンはいつだって気まぐれだ。そして、彼女らはそれがもう帰らないことを、おそらくは知っている。『Crazy For You』に照りつけたカリフォルニアの太陽には、いまやうっすらと雲がかかる。ビーチの集いもまばらになりつつある。『ローリング・ストーン』誌曰く、「涙目のバラード」。その終わっていく恋のようなメランコリアが、蜂蜜のような甘さを本作のメロディにもたらしているのだとすれば、初夏のリリースとなった本作から聴こえるのは、あるひとつの季節が、すなわち夏という思わせぶりの季節が、終わっていく音なのかもしれない。変わってしまったのは、彼女らの方か? それとも、私たちの方か? 『Crazy For You』に群がった浮気性のインディ・リスナーらに向かって、ベサニー・コンセンティーノは控えめに問いただすようだ。"Do You Still Love Me Like You Used To ?"

竹内正太郎