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三田 格 May 21,2012 UP
圧倒的に女性ファンが多かったグルーパーと、背の高い男ばかりが目立っていたマーク・マッガイアのライヴを続けさまに観て少し考えるところがあった。これまで2007年がドローンのピークだと何度か書いてきたものの、それはダブル・レオパードやイエロー・スワンズに代表される男性的な傾向=音圧を高めていくことに拘泥してきた流れが臨界に達したのであって、この1~2年はモーション・シックネス・オブ・タイム・トラヴェルやセラー、あるいはポカホーンテッド以降は加速度がついてバーズ・オブ・パッセージにノヴェラー、さらにサトミ・タニヤマやジュ・シ・ル・プチ・シェヴァリエと、腕づくではないフェミニンな変奏に力点が移っていたのだと(セラーはDJヨーグルトにコラボレイトを持ちかけてきた直後にダニエル・バケット-ロングが死亡)。なかでもグルーパーは『エイリアン・オブザーバー』でもっとも美しいモーメントをつくり出し、バーニング・スター・コア『オペレイター・デッド...』でピークを迎えたある種の強迫観念からは完全に脱却したことが伝わってくる。『ドラッギン・ア・デッド・ディア・アップ・ア・ヒル』(裏アンビエント190)から3年も間を空けたということは、そのような時期が来るのを待っていたということだったのではないだろうか(『ワイド』の頃はもっとヘヴィだったし、ダブル・レオパードやダイアモンド・カタログとそれほど変わるところはなかったのだから(ダブル・レオパードの中心人物は女性で、男性的な傾向を示すサンドラ・イレクトロニクスや初期のUSガールズなども、それはそれで格好いい)。
そのようなフェミニンな価値観のなかでひと際、異彩を放っているのがシカゴのメデリン・マーキーだろう(正確にはマダリンとメイデイリンの中間の発音)。陽光を思わせる柔らかさだけでなく、彼女がとくにユニークだと思うのはイーゼングランのようにアコースティック楽器を増やしたりするわけではなく、手法自体はノイズ・ドローンをそのまま踏襲しているにもかかわらず、これまでとは正反対の効果を引き出したことにある。簡単にいえば「テンションを持続させること」=ドローンだという思い込みから解放されて、むしろテンションをぶつ切りにし、間に多くを語らせ("ネプチューン")、サンソ-クストロのように牧歌的なパーカッションを導入したり("ネクサス")、かつてはグルーパーもダイアモンド・カタログのリミックスで試していたやり方で、アンビエント・ドローンにスクリューをかましたり"サイレン")、ミニマルとのクロスオーヴァーさせるなど("マルチ")、実に発想が自由自在。『香り』と題されたファースト・アルバムには彼女のフロント・ラインが詰め込まれ過ぎていて、僕もその特徴を理解できるまでに少し時間がかかってしまった(彼女が従来のアンビエント・ドローンの作り手としてどれだけ優れているかは、"F2"(http://soundcloud.com/cyndi/inertia)をダウンロードして確認して欲しい。モーション・シックネスの"オート・サジェッション"と互角かそれ以上のできだと思う)。アフリカ系だという情報もあって、定かではないけれど、裏ジャケットではオカッパ頭の白人女性が右手でコードの端末に触れ、左手で花びらに触れているという象徴的な構図が実に印象的。
そのような変化を敏感に察知したデザインだと思わせたオモーリー&レウバーグによる5作目は、しかし、グルーパーやメデリン・マーキーを聴きなれた耳にはやはりとんでもなくヘヴィで、久しぶりに...胃にもたれてしまったw。かつてほどパラノイアックではなく、いい意味で散漫になり、地面を這いつくばろうとする意志の代わりに、虚無感だけがひたすら増幅される。初期作のようにどこかに向かって動き出す予感はなく、"スタディA"では寂寥としたメロディまで奏でられる。ここ数年で観た映画のなかでは(ラース・フォン・トリーアーよりも)デヴィッド・マッケンジー監督『パーフェクト・センス』ほど終末観が剥き出しになった作品もなかったけれど、"フィル1"や"トニー"が訴えかけてくるものも、基本的には同じような時代のサウンドトラックであることは確か。フランスの大統領選を左右した右翼の存在感、イタリアに続いて秒読みに入ったスペインやポルトガル経済、オランダやシリアの政情不安など、いま、ヨーロッパにいて明るい気持ちになれる訳がないとは思うけれど(つーか、それがヨーロッパ精神の専売特許なんだけど)、ローラン・カンテ監督『パリ20区、僕たちのクラス』やグザヴィエ・ボーヴォワ監督『神々と男たち』を観ても、あらゆる努力が無に帰していく感触は嫌でも伝わってくる。しかし、"フィル2"にはどこか甘美な響きもあって、実のところ、そうした危機感が好きなんだとしか思えない面もあったりはする......
アナログは初回限定で"スタディB"から"E"を収めた12インチ・シングル(アルバムのメイン・パートから外したのもわかるほど、情緒的なノイズ・ドローンで埋め尽くされ、スロッビン・グリッスルやSPKではもはやこの世を憂うには不足だということがこれでもかと印象付けられる)をプラスした3LP仕様。
三田 格