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The Babies

The Babies

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橋元優歩   Feb 20,2012 UP

 ワックス・アイドルズ、ヘヴィー・タイムズ、〈ホザック〉の新譜2枚を聴いて、なんと陳腐なのだろうかと一驚を喫した。サンフランシスコなどをみるかぎりでは、ガレージ熱はいまだ冷めやらないようだが、この数年来のガレージ・ブームに連なった各レーベルやアーティストたちは、ともにそれぞれの岐路を迎えつつある。ブームの波を乗りこなした者、ブームの側に消費された者、戦略としてではなく時代の気分として共鳴していた者、あるいはただのガレージ道。じつにさまざまなアーティストたちによって彩られた音楽年表的モメントではあったが、2010年前後にガレージをやることの意味について自覚的だったアーティストやレーベルとそうでなかったものとの差が開きはじめていることを感じた。
 前者にとってガレージの意味や必然性自体はかなり明瞭だというべきかもしれない。彼らには漠然とではあるが反グローバル経済的なモチヴェーションがあり、解体されつつある地域性(USインディという名称が背負う歴史や遺産を考えれば、前世紀において土地がいかに強烈に音のアイデンティティを保証し象徴してきたかということがよくわかる)を保守・再興しようという気分があった。ライヴ志向で地元志向。あきらかにダウンロードできない種類のコミュニケーションを照準として活動していることがみてとれる。ガレージ・パンクというフォーマットはそうしたサイズのコミュニケーションにとても適している。7インチやカセット音源を大量にリリースしたりするのも同様の理由である。取扱い店があればインターネットでの通販も可能だが、飽くまでライヴ会場や地元のレコ屋など手渡しできる範囲が想定されている上、アナログ・メディアだからネット・リーキングの抑止にもつながる。サンフランシスコならば、このガレージ・ブーム以前の地元シーンを覆っていたのがフリー・フォーク......あのスロー・ブームの権化ともいえるムーヴメントであったことを考えあわせれば、伝統的に地域密着型の思考フォームが根強い土地なのだと考えることもできる。
 ヴィヴィアン・ガールズとウッズも、ともにそんなバンドのひとつに数えることができるだろう。バンド演奏をみんなで楽しむというシンプルなライヴ力学を尊重すると同時に、オリジナルなガレージ解釈がある。無邪気なレトロ合戦から突出して、ヴィヴィアン・ガールズはシューゲイズ・マナーでガレージ・ロックをブラッシュ・アップした。c86的な楽曲センスやネオサイケ的に微耽美なドリーム感も、素朴なガレージ・スタイルに厚みを与え、アニコレからやがてはチルウェイヴにつながる新しきサイケデリックの潮流を汲み上げるものとなっている。それだけの含みをレイジーな佇まいと旧式なガレージ・ガジェットのなかにスタイリッシュに隠しこんでしまったところが、とてもクールだったのだ。
 いっぽうウッズは、骨子のしっかりとしたフォーク/カントリー調のソング・ライティングを軸としながら、歌ものの枠をぎりぎり守ってギター・アンビエンスの可能性を伸長した。バンドという形態にいま許された音や演奏とはなにか、ライヴという体験の一回性を大切にしながら、音を生む装置としてのバンドをきわどく抉り出し、見きわめる目がある。もちろん〈ウッジスト〉としてローファイ-シューゲイズの一大コロニーを率い、先の10年が準備し、ここ数年に花開いたサイケデリックを象徴する存在としても記憶されることとなった。

 ザ・ベイビーズは、ヴィヴィアン・ガールズのキャシー・ラモーンと、ウッズのケヴィン・モルビーが中心となってはじめたバンドである。昨年ファースト・アルバムをリリースしている。そして本作は2010年から2011年のデモ音源を6曲収録したものである。これだけ長々とした述懐にはいささか不釣り合いな紹介ではあるが、この6曲、このテイクは素晴らしい。おそらくキャシーとケヴィンのふたりだけで演奏したものと思われる、まったくシンプルな弾き語り、まごうことなきデモだ。曲のスタイルはウッズ寄りのフォーキー・ポップ。粗雑でぬくもりのあるホーム・レコーディング風のプロダクションは、ダニエル・ジョンストンやジャンデックなどを思わせ、アウトサイダー・ミュージック的な佇まいをにじませる。そこに少年のようなケヴィンのヴォーカル、愛らしいキャシーのヴォーカルが交互にあらわれて唱和する。隙間の多い音の、その隙間の分だけ、彼らがともに過ごすという小さな部屋の空気が詰められている。
 ローファイなホーム・デモやただの弾き語りがとてつもなくいいというのは、まさにUSインディが築いた物語だ。そして彼らの弾き語りも堂々たるUSインディの紋章、USインディの化身である。異論はあるかもしれないが、ファースト・アルバムよりもずっといい。ウッズ人脈の課外活動といったスタンスを感じるフル・アルバムに比べて、こちらはふたりで曲作りをはじめたという、その原点に立ち戻ることで、音楽としての強度を回復している。それに、自覚的なガレージ表現を続け、シーンや世のなかのムードに鋭敏な感性を働かせていた者たちが、ベッドルームに戻っていったというストーリーも筆者には沁みる。どの曲もほんとに素晴らしいが、好きなトラックは"トラブル"だ。両者の卓越したメロディ・センス、そしてウッズ流にエクスペリメンタルで、穏やかな情熱を感じさせ、祈りのように上昇するギター・インプロがいつまでも心と眼裏にのこる。

橋元優歩