「S」と一致するもの

Julia Holter - ele-king

 ローレル・ハローは、最近〈ハイパーダブ〉(ダブステップの知性派レーベル)で歌ったそうだが、彼女はその前は、OPNのチルウェイヴ・プロジェクトのゲームスで歌い、それから〈ヒッポス・イン・タンクス〉や〈RVNG Intl〉から作品を出しているので、コズ・ミー・ペインの連中ならほぼすべて網羅しているだろう。ハローが、ミシガン大学に通っていたときのクラスメートにはジュリア・ホルターがいた。
 ジュリア・ホルターはいまときの人だ。彼女のセカンド・アルバム『エクスタシス』の評判が電子空間のそこらじゅうから聞こえてくる。ケイト・ブッシュとジュリアナ・バーウィック、エンヤとジョアンナ・ニューサム、そしてローリー・アンダーソンとナイト・ジュウェルが同じ部屋で歌い、録音し、ミキシングしたら......つまり少々オペラに少々IDM的なアプローチの入ったベッドルーム・ポップ、それがジュリア・ホルターだ。ロサンジェルス在住の27歳の音楽の非常勤講師は、宅録時代の才女、現代的シンガー・ソングライターというわけだ。
 このように書いたからと言って、パティ・スミスやアリ・アップとは対岸にいる高慢ちきな女を想像してはいけない。たしかに向こうのメディがあまりにも「神童(wunderkind)」だとか「アカデミック」だとか言うし(彼女の母が大学教授であるとか)、で、実際彼女のデビュー・アルバム『トラジェディ』は三田格をはじめとするコアなリスナーが目を見張らしているロサンジェルスの実験派を代表する〈Leaving〉から出ているので(三田格によればその〈Leaving〉で売れたってことがすごい、そうです)、まあとにかく、聴く前から先入観を抱いてしまいがちなのだけれど、『エクスタシス』は『トラジェディ』と比較するまでもなく、ポップ・アルバムだ。ナイト・ジュウェルが参加し、そしてアリエル・ピンクのメンバーも参加している。これで少し安心するでしょう。
 が、しかし、これは素人のローファイではない。パンダ・ベアの声の重ね方よりも巧妙な録音、構成、緻密に作り込まれた......、そう、良い意味で敷居の高い音楽。グルーパーがやっていたことを――まあ、良い意味で――エレガントにしたような音楽だ。彼女は言うなれば、ナイト・ジュウェルとジュリアナ・バーウィックの溝を埋める人である。

 ホルターは明らかに、音楽作品、音楽芸術の今日的な価値を問うている。
 1曲目の"マリエンバード"はキャッチーな曲だが、"我々の不幸(Our Sorrows)""同じ部屋で(In the Same Room)""月の少年(Boy in the Moon)"などを聴いたら、――これは決して良い喩えではないが――アニマル・コレクティヴが幼児だとしたらこちらは大学生だと橋元優歩でさえも思わざる得ないんじゃないだろう。声楽風に声が重なり、さまざまな角度からさまざまな電子音が鳴っているというのに、音に隙間すなわちスペースがある。
 "毛皮のフェリクス(Fur Felix)"、ヴォコーダーを使った"女神の瞳・I(Goddess Eyes I)"ではポップスを試みる。シンセ・ポップスだが、80年代の引用ではない。"女神の瞳・II(Goddess Eyes II)"ではしっかりとした、そして押しつけがましくないベースを使いこなしている。"4つの庭(Four Gardens)"におけるジャズとオペラとダブの混合も悪くはない。さしずめ天空のドリーム・ポップといったところだろう。

 『エクスタシス』は、音楽がノスタルジックになるか、あるいはネット時代のポスト・マス社会における素人の氾濫のなかでその価値が相対化されつつあるいま、あらためて美を、そして音楽の進展を主張しているようだ。これはそうした予兆を感じるエレガントなアヴァン・ポップだが、本作が神童の最高作たりえるとはまだ思えない。なによりも慎重すぎる。彼女がベッドルームから出るとき、本物の傑作は生まれるかもしれないが、それでもこれは良いアルバムだ。

ele-king presents Mark McGuire Japan Tour 2012 !! - ele-king

 「すべてを聴き逃さないようにヘッドフォンで聴いてください」とは『リヴィング・ウィズ・ユアセルフ』に記されていた言葉だが、ライヴにおいてすべてを聴き逃さないために、マーク・マッガイアはどのような演奏をやってみせてくれるだろうか。ele-king読者諸氏にはおなじみ、クリーヴランドの電子音響トリオ、エメラルズのギタリストであるマーク・マグワイヤが来日する。
 先日もインナー・チューブ名義によるサーフ調のクラウトロック、『インナー・チューブ』も記憶に新しい......(てか、BIG LOVEとMEDITATIONにしか入荷してなかったんじゃない?)が、ソロ名義では昨年は「入門編」と銘打たれた『ア・ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・マーク・マッガイア』や何枚リリースしようがみずみずしい香気あふれる『ゲット・ロスト』がシーンにあたえたインパクトも大きく、日本での注目度もきわめて高くなった。インディ・シーンにおいてはリスナーからもプレイヤーからもその動向が緊張感をもって意識される存在である。
 寝ても覚めてもギターを抱え、カセットに7"にCD-Rとメディアを選ばず大量の音源をリリースしつづけるこの熱情的なアーティストの演奏をぜひとも体験したい。
 東京公演はミックスCD『サムシング・イン・ジ・エア』が話題を呼びまくっているコンピューマのDJも楽しめる。

東京公演
2012年5月9日(水) 代官山UNIT 03-5459-8630
OPEN : 18:30
START : 19:30
CHARGE : ADV 3,500yen (ドリンク代別)
GUEST : Shinji Masuko (DMBQ / Boredoms) and more
※お客様に心地よい空間でライヴを楽しんでいただくよう
チケットは400枚限定とさせていただきます
チケットぴあ 0570-02-9999 [P] 165-735
ローソン[L] 72923
e+

STORE
[渋谷] diskunion 渋谷中古センター
[新宿] diskunion 新宿本館6F
[池袋] diskunion 池袋店
[吉祥寺] diskunion 吉祥寺店
[御茶ノ水] diskunion 御茶ノ水店


大阪公演
2012年5月10日(木) 東心斎橋CONPASS 06-6243-1666
OPEN 18:00
START 19:00
CHARGE:ADV. 3,500yen (ドリンク別)
OPENING ACT:Vampillia
ローソン[L] 72923
e+
More Info: CONPASS https://conpass.jp/

主催: ele-king 企画 / 制作 : root & branch, 代官山UNIT
協力: Inpartmaint inc., P-Vine Records

Chart by JET SET 2012.04.24 - ele-king

Shop Chart


1

Ogre You Asshole

Ogre You Asshole Dope (Vap / Jet Set) »COMMENT GET MUSIC
2011年にリリースされたアルバム『Homely』には未収録となる、セルフ・カヴァーやリミックス、話題のライヴ・テイクを収録。

2

Tam Tam

Tam Tam Dry Ride (Mao / Jet Set) »COMMENT GET MUSIC
あらかじめ決められた恋人たちへ等が在籍したレーベル、maoが全力で送り出す4人組ヤング・ダブ・バンド。フィッシュマンズ、Little Tempoの活動で知られるHakase-Sunがプロデュースを手掛けた、ファースト・12インチが登場です!!

3

The Eskargot Miles

The Eskargot Miles Evening News / A Night Piece (Wood Luck / Jet Set) »COMMENT GET MUSIC
活動10周年を迎えたオーセンティック・スカ・バンド、The Eskargot Miles。前作『Tour Of Jamaica』超え確実(!?)の強力Ep!新境地ともいえるb面収録のレイドバック・チューン、"A Night Piece"も完璧です!

4

Tom Trago

Tom Trago Use Me Again (Rush Hour Voyage Direct) »COMMENT GET MUSIC
Awanto 3とのユニットAlfabetも絶好調のダッチ・ハウス気鋭Tom Tragoが2010年にリリースした、"Voyage Direct"シリーズ屈指の名作「Use Me Again」のニュー・ミックス2種をカップリング。

5

Eric D. & Justin V.

Eric D. & Justin V. Live In Los Angeles (Ene) »COMMENT GET MUSIC
Eric Duncanが主宰する大人気エディット・レーベル、KeepIt Cheapの第四弾としてリリースされた12インチ「So Good Feeling / Versions」のリリース・パーティーからの一コマをCDカット!自身のキラー・トラックや未発表エディッツなどを次々に繰りだし、絶妙なミキシング/エフェクトに飛ばされること必至の77分を越えるミックスを収録。現場のグッド・ヴァイヴスまでもがダイレクトに伝わってくるかのような珠玉の1枚です。

6

DJ Harvey

DJ Harvey Xland Records Presents Xmix 01 (Xland) »COMMENT GET MUSIC
大好評のLocussolusプロジェクトを経てのリリースとなる本作は、間違いなく今後のダンス・ミュージック史において語り継がれるであろう傑作ミックスを収録。

7

Calm Presents K.F.

Calm Presents K.F. From Dusk Till Dawn (Music Conception) »COMMENT GET MUSIC
Calmがダンス・ミュージックへアプローチしたプロジェクト、Calm Presents K.F.が7年ぶりとなるアルバムをリリース。

8

Battles

Battles Dross Glop 4 (Warp) »COMMENT GET MUSIC
Hyperdub主宰Kode 9リミックス搭載の第2弾も即完売、ご存じポスト・ポスト・ロック大人気ユニットBattles『Gloss Drop』の超限定リミキシーズの第4弾が登場です!!

9

DJ Food

DJ Food Illectrik Hoax (Ninja Tune) »COMMENT GET MUSIC
アンセム"Papua New Guinea"でお馴染みの重鎮デュオFuture Sound Of Londonの変名プロジェクトThe Amorphous Androgynousによるリミックスとコラボ・ワークスです!!

10

Teddiedrum

Teddiedrum Miami / Odd Lovers (Smoking Crab) »COMMENT GET MUSIC
Das Pop + Phoenixなベルジャン・デュオ、Teddiedrumの限定10インチ!!キラキラとまぶしいシンセと甘酸っぱいメロディが乱反射する超キラー「Odd Lovers」を絶対お見逃しなく。

Lotus Plaza - ele-king

 ギター・ミュージックは終わっている、というのはどのくらいの人びとの実感だろうか。『エレキングvol.5』の倉本諒氏のレポートではそのことがさらっと言及されていて、そうだよな、と共感したのだが、しかし「終わっている」というのはよくよくと考えればどういう意味だろう。いまギターをもちいた音楽にたまたまおもしろいものがないということなのか、それとも歴史の針が進んでギターでやれることの可能性自体がほとんどのこされていないということなのか。たとえばマーク・マッガイアの存在と輝きはほとんど後者を証すかのようにみえる。あれほどひたむきにギターそのものと向かい合い、長い時間をギターとともに過ごし、過去の音を学び、清新に胸を打つような演奏であるのに、方法自体にとくに新しいものが含まれていないのは、逆にギターにできることの限界点をあぶり出すものかもしれない。

 ロケット・パントはどうだろうか。彼自身はギターという楽器の可能性を伸張しようというようなアーティストとは異なる。それよりはギター・ロックというフォームを愛し、その引力に寄せられている。もちろん彼の音楽はそうした枠にはとどまらず、アンビエント的な要素や、反復性の強い曲づくりといいモータリックなビートといい、クラウトロックの影響などもあるだろう。それは昨今の流行でもありマーク・マッガイアらとも共有する部分である。しかしこの『スプーキー・アクション・アット・ア・ディスタンス』のB面などを聴けばジーザス・アンド・メリーチェインやベル・アンド・セバスチャンの影までもが浮かび上がってこないだろうか。筆者がこの作品にあえて見出したいのは、ディレイの煙幕の向こう、まるで亡霊のように立ち上がっては消える、グラスゴー的なギター・ポップである。それはディアハンターの名からも、ソロとしては1枚めとなる前作のイメージからも距離があり、両者の音響的な部分のさらなる展開を期待していたリスナーにはあまりおもしろくないと感じられるかもしれない。だが今作は、ソングライターとしてのロケットの愛すべき資質がはっきりうかがわれる作品であると思う。
 ディアハンターにおいても、ブラッドフォード・コックスと彼が何を分かっていたのかがみえてくる。ブラッドフォードの曲は彼の念のようなもので立っている。ロケットの曲は構成力で立っている。ロケットのロマンチックなギター・ワークはとても丁寧なものだ。本作は意外にもすっきりと整ったプロダクションを得ている。ギター ・ポップとはひとつの強力なフォームの名だ。フォームは愛され継承されていくものだ。仮にギターという楽器の可能性がすべて発見しつくされているのだとしても、ギター・ミュージックは消えはしない。ロケット・パントはそうした地平に立っているアーティストではないだろうか。

 ディアハンターのギタリストとして、またソロ名義のロータス・プラザとしても評価を得る青年ロケット・パント。ロータス・プラザとしてはじめての作品である前作『ザ・フラッド・ライト・コレクティヴ』は、ブラッドフォード・コックスらと高校の頃に組んでいたバンドの名だそうで、ブラッドフォードも打楽器で参加するほかいろいろとアイディアを提供していたというから、彼らのバンドやソロ作品全体には、音の上からも強いつながりがあると言ってよいだろう。
 だが『ザ・フラッド・ライト・コレクティヴ』のウォール・オブ・サウンド的なプロダクション、波うつディレイやギター・ループ、そこにまみれて不明瞭なロングトーンのヴォーカリゼーションといったものは、今作ではこざっぱりと払われている。薄暮のような音色は整然とし、ソングとしての輪郭がはっきりとみえ、明瞭なリズムをともなったロック・ナンバーへと変化している。B面の1曲目"モノリス"などから聴きはじめるとびっくりするかもしれない。
 B面を走り抜ける爽快なリズム感はじっさいこのアルバムの個性だといえるだろう。"リメンバー・アワ・デイズ"のくっきりとしたベース・ラインにもびっくりした。"イヴニングネス"冒頭のチラチラとした上ものを聴くまではすぐにロケットの名が結びつかないかもしれない。
 ジャケット・デザインも、白昼夢を思わせる幻覚的な前作のイメージをわずかに引きつつ、風船の束の存在によってこの画面外の、よりひらけた空間への展開を予感させている。個人的にはおおむね後半の曲が好きだが、A面ではよりどっしりとしたテンポで骨の太い楽曲がそろっている。ルー・リードっぽく歌われるヴォーカルも、こんな声だったのかと新鮮な思いだ。"アウト・オブ・タッチ"などは風格すらただよう。
 こうしたアルバムをつみかさね、ライヴも丁寧におこない、多くの人から愛されるソングライターになるというのは、ロケット・パントにとってよい未来につながる選択肢なのではないだろうか。

Miami Angels in America - ele-king

 本誌5号にてドッグ・レザー(Dog Leather)のインタヴューにも名前があがったボルチモアの男女ふたり組、ノイズ・フォーク・デュオ、エンジェルス・イン・アメリカ(Angels in America)の新作テープは(ナイトピープル)よりドロップ。
 エンジェルス・イン・アメリカのエスラ嬢(Esra)に出会ったのは本誌5号でも触れた昨年のSXSWでのハウス・パーティの夜で、その日はもうホント、マジ混沌を極めていた。いや、たしかにロスからオースティンまでの風景がループしているかのような砂漠を僕のバンドのペーパー・ドライバーのふたりと無免許で無職のフランス人(もちろんハイウルフです)を乗せて18時間の運転を経て、スリープ∞オーバー(Sleep∞Over)やピュア・エクスタシー(Pure X)をサポートし、サウザント・フット・ウェイル・クロー(Thousand Foot Whale Claw)として活動するアダムとマットに到着後はじめて出会ったにも関わらず、快く寝床を提供してくれただけでなく、最高に強烈なウィードを大量に御馳走になり(ニューメキシコ、テキサスはメキシコとの国境がすぐ近くにある事ことあり、検問が厳しいので同ふたつの州では違法であるメディカルウィードをロスから持っていくことを僕は前もってキャメロンとゲドに口すっぱく止められていたので、これは効いた)、ロクに寝ずに次の日遊び回った末がこのパーティだったので、僕の疲労と体内に循環するTHCの量は半端じゃなかったことを差し引いたとしても、この日のパーティは狂っていた。
 集合時間にだいぶ遅れ、〈NNF〉主宰のブリットに軽く怒られながら(僕はこの日自分のバンドのサポート・ギターを彼に頼んでいた)、僕はこの日のパーティに集まっていた連中にあんぐりさせられていた。前日すでに会っていたが、サヴェージ・ヤング・テイターバグ(Savage Young Taterbug)のチャールズが引き連れて来たクルーはまるでゴミ捨て場の妖精のようで、洗っていない一線を越えた彼らの服が放つクラスティな甘い香りが部屋には充満していて、「ジョイント吸おうよ。拾ったタバコを混ぜたから味ちょっと変だけど、えへへへへ」と語りかけながら、つねにテンパっているように見えるトレーシー・トランス(Tracy Trance)のタイラーは、カシオトーンで超絶テクを披露し、僕の度肝を抜くものの、何故誰も彼の絶対拾ってきたであろうワンピースとハイヒールにはツッコまない事が不思議でならないし、ソーン・レザー(Sewn Leather)、ドッグ・レザーことグリフィンのママに「うちの息子のソーン・レザーとDJドッグディック(DJ Dog Dick)はご存知なの?」と訊かれた僕とブリットは裏庭でその日のライヴのリフと展開を話していたものの「母ちゃんが犬チンって言っちゃうのかよ!」という思い出し笑いで、練習にならないし、そんな状況だから僕の手もおぼつかなくなり、キッチンの床にまき散らしてしまったビールを拭いていたところをいつの間にか横で手伝ってくれていたエスラのはにかんだ笑顔に僕のハートは一気に持っていかれた。
 彼氏にメチャメチャ睨まれながらも、僕は朦朧とした意識のなか、彼女との会話を弾ませることに全神経を集中した。「PYG(ショーケン、ジュリーのアレ)のレコードをずっと探しているのよ! 見つけたらぜひ私のためにゲットしてよ!」と言われ、何でそんなもん知ってるのかとそのときは思ったものの、(もちろんボリスのカヴァーで知ったのだろうが)たしかに彼女のエンジェルス・イン・アメリカの前作のレコードと今回のテープを聴いていると何となく合点する。冒頭でノイズ・フォークと形容したのは、このバンドは弾き語りではなくシンセ・ノイズだからだが、全身全霊を込めて絶叫する彼女のポエトリー・リーディングをきいて背筋に走る冷たいものは日本のあの時代のズブズブでドロドロの怨念フォークのそれだ。
 そもそもDJドッグ・ディックといいソーン・レザーといい、ボルチモアのこのノイズ+ポエムという方法論は、パンクは楽器を弾けなくてもいい、ヒップホップはビートと哲学があればいい、という流れの最終型にあるんじゃないかと思ってしまうのは大袈裟だろうか? エンジェルスやドッグディックはシンセこそ使っているもののソーン・レザーやまた先ほど話に出たサヴェージ・ヤング・テイターバグなんかほぼカラオケだし、それは本人のポテンシャルがすべてであり、それがショウとして成立しちゃってるのだ。

 話をあの日の夜に戻そう。自分のライヴも終え、エスラともさらに打ち解けてきた僕はようやく彼女の電話番号とアドレスを交換するために自分の携帯を取り出した。そこにブランク・リアルム(Blank Realm)のサラが現れ、「兄貴に迎えに来てもらいたいから電話かりるわね」と携帯を取られてしまった。もう読者は気付いているだろうが、このレビヴューを書いているのも、もし今後ボルチモアに行く機会があり、彼女のところに転がり込む日が来るならば何かあればいいなと期待しているからに過ぎないのだ。
 あの日の僕の最後の記憶はテイターバグの連れであるサムのワンマン・プロジェクト(名前失念)がゴーグルと猫耳、そしてもはやハミチンとかそういうレヴェルではないブーメランを装着し、ステージで絶叫していた。現在ヨーロッパをツアー中のエンジェルス・オブ・アメリカとソーン・レザーはきっとあのような混沌とした日を過ごしているに違いない。あぁ、ライフ・イズ・カオス。

Battles - ele-king

つまり識は「テクノ」にへと 文:三田 格

Battles
Dloss Glop

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 「踊れるサムラ・ママス・マンナ」。それがバトルズの正体だろう。SMMは70年代にスウェーデンで結成されたプログレッシヴ・ロックの4人組で、例によって解散→再結成を経てゼロ年代からはドラムスにルインズの吉田達也が参加している。悲しいかなバトルズは超絶技巧だけでなく、ユーモアのセンスまでSMMを模倣していて、オリジナルといえる部分はレイヴ・カルチャーからのフィードバックと音質ぐらいしか見当たらない。疑う方はとりあえずユーチューブをどうぞ→
https://www.youtube.com/watch?v=yqSmqh-LdIkhttps://www.youtube.com/watch?v=ZYf7qO9_MV8https://www.youtube.com/watch?v=jkWL1lOi1Hg、etc...

 ......といったことを割り引いても、昨年の『グロス・ドロップ』はとても楽しいアルバムだった。バーズやP-ファンクにレイヴ・カルチャーを掛け合わせたらプライマル・スクリームで弾けまくったように、SMMにレイヴ・カルチャーを掛け合わせてみたら、思ったよりも高いポテンシャルが引き出された。そういうことではないだろうか。おそらくはまだロックにもそうした金鉱は眠っているはずである。テクノやハウスだって、どう考えてもそれ自体では頭打ちである。何かを吸収する必要には迫られている。アシッド・ハウス前夜にもどれだけのレア・グルーヴが掘り返されたことか。そう、アレッサンドロ・アレッサンドローニやブルーノ・メンニーなんて、もはや誰も覚えちゃいねえ(つーか、チン↑ポムなんてザ・KLFのことも知らなかったし......)。ためしに誰かブルース・スプリングスティーンにレイヴ・カルチャーを掛け合わせてみたらどうだろう......なんて。

 本題はそのリミックス・アルバム。人選がまずはあまりにも渋い。しかも、様々なジャンルから12人が寄ってたかってリミックスしまくっているにもかかわらず、おそろしいほど全体に統一感がある。シャバズ・パレス(元ディゲブル・プラネッツ)の次にコード9だし、Qのクラスターからギャング・ギャング・ダンスなどという展開もある。しかも、そこから続くのがハドスン・モーホークとは。全員がバトルズに屈したのでなければ、セルフ・プロデュースの能力が異常に高いとしか思えない。

 オープニングからいきなりブラジルのガイ・ボラットーが情緒過多のミニマル・テクノ。マカロニ・ウエスターンに聴こえてしまうギターがその原因だろう。ミニマルの文脈を引き継いだシューゲイザー・テクノのザ・フィールドは、一転してヒプノティックなテック-ハウス仕上げ。続いてドラマ性に揺り戻すようにしてヒップホップを2連発。このところ壊疽=ギャングルネとしての活動が目立っていたアルケミスツはソロで90年代末に流行ったダンス・ノイズ・テラー風かと思えば、昨年、一気にダブ・ホップのホープに躍り出たシャバズ・パラスは彼の作風に染め上げただけで最もいい仕事をしたといえる。ダブステップからUKガラージに乗り換えつつあるコード9はそれをまたコミカルに軌道修正し、2年前に"エル・マー"のヒットを飛ばしたサイレント・サーヴァントやラスター・ノートンからカンディング・レイはそれぞれのスタイルでダブ・テクノに変換と、いささかテクノの比重が高すぎる気も。これは自分たちにできないことをオファーしているのか、それとも自分たちが次にやりたいことを先行させているのか。いずれにしろ、その結果はユーモアの低下とリズムの単調さを招き、チルアウト傾向ないしはリスニング志向を強めることになった(クラスターの起用はまさにその象徴?)。

 後半で最大の聴きどころは、珍しく同業のパット・マホーニーを起用した"マイ・マシーン"で、シンプルなリズム・ボックスに絡むゲイリー・ニューマンのヴォーカルは最盛期の気持ち悪さを思わさせるインパクト。ジャーマン・トランスにありがちなリズム・パターンなのに、ロック・ミュージックとして聴かせてしまう手腕はかなりのもので、思わず、ほかにはどんなリミックスを手掛けているのだろうと調べてみたら、まったくデータが見つからなかった(これが初仕事?)。エンディングはヤマタカ・アイで、トライバルとモンドの乱れ打ちはこの人ならでは。ダイナミズムよりもリスニング性を優先したことで最後に置くしかなかったのかもしれないけれど、それはちょっと消極的な判断で、僕ならギャング・ギャング・ダンスとハドスン・モーホークのあいだに置いただろう(バトルズの意識が「テクノ」に向かっている証拠ではないか)。

文:三田 格

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そして『グロス・ドロップ』の完全なる分解 文:松村正人

Battles
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 アンダーグラウンドのスーパーバンドから『ミラード』で転身したバトルズはタイヨンダイ・ブラクストンは抜けたが、『グロス・ドロップ』で前作をさらに発展させ、そこでは初期のハードコアを構築し直した鋭利な、しかし同時に鈍器のようだったマス・ロックの風情は退き、かわりにポップな人なつこい音が顔を出した。強面だった数年間からは考えられない柔和な表情をしていたが、いまのパブリック・イメージはむしろこっちである。それまでのいくらかすすけたモノトーンはツヤめいた内蔵の色に塗りこめられた。ジャケットがそれを暗示する。有機的であり抽象的であり生理的でもある。私は以前にレヴューを書いてから聴いていなかった『グロス・ドロップ』を、『ドロス・グロップ』を書くために、しばらくぶりに苦労してひっぱりだして聴いたが、おもしろかった。たしかここに書いたレヴューは最初おもしろくないと思ったと書いたと思ったが、聴き直したらやはりおもしろくないことはなかった。私は『ドロス・グロップ』を先に聴いて、原曲をたしかめるために聴いたからかちがいがおもしろさを後押ししたが、オリジナルとリミックスの幸福な相乗効果がうまれたのは、前者が音で語ることに腐心したアルバムであったことに多くを負っている。そこには内面は投影されていない。語るのはあくまで音楽であり、バトルズの連中ではない。それに任せる。タイヨンダイというアイコニックな人材を欠いた逆境がある種のスプリングボードとなり、バンドを、音楽の生成を何よりも彼ら自身がたのしんでいる(たのしまざるを得ない)、陽性の作品性へ追いこんだのだと穿つこともできなくはないが、この結果はいってみれば、往時のダンスカルチャーの匿名性を思わせるものであり、その意味で、リミックスという行為との親和性はいうまでもなかった。
 
 アルバムは先行した4枚の12インチを若い順に並べた。テクノ~ヒップホップ~(ポスト)ダブステップ~ミニマル~ワールド~ディスコパンクなど、ゼロ年代以降のダンスミュージックを巡礼する構成で、総花的なつくりでもあるが、散漫な印象を与えないのは、カテゴリーの遍歴そのものが音楽を前のめりにさせるからだろう。サンパウロのギ・ボラットとストックホルムのザ・フィールド、〈コンパクト〉勢のループは『ミラード』までのバトルズの交響的な――つまり縦軸の――ループを横倒しにしたように、渦を巻き滞留するようでありながら、前方へジワジワと音楽を煽り、ヒップホップ/ブレイクビーツ~2ステップ/UKファンキーのブロックへバトンタッチすることでアルバムのタイムラインは最初の山と谷(もちろん逆でもいい)を経過する。山はすくなくともあとふたつはあるようである。3つかな?と思うひともいるであろう。それはどっちでもいいが、この高低差は現行のダンスカルチャーの地形図であり、すくなくともリミキサーたちは所属するジャンルに奉仕する職人的な仕事に徹することで、楽曲を解体するだけでなく、原曲とリミックスとの間の、あるいはトラックごとの偏差が彼らの特質をあぶりだしもする。なんであれ解釈が生じる場合、ズレがうまれる。その隙間を広げるか埋めるかが、音を仲立ちにした対話では焦眉の問題になるが、原曲はどうあがいても完全な姿で回帰しない。このあたりまえのところにうまみがある。
 私は先に職人的な仕事と書いたが、解釈はいずれも大胆である。とくにクラスター、ブライアン・デグロウ(ギャング・ギャング・ダンス)、ハドソン・モホークのブロックは原作を再定義したというか、たとえばデグロウのリミックスは原曲のリフの音色が喚起するリズムのつっかかりをビートに置き直し『グロス・ドロップ』でいちばんポップでカラフルだった"Ice Cream"をデジタル・クンビア的な疑似アーシーな場所にひきつけることで、スラップスティックかつフェイク・トロピカリアとでも呼ぶべき原作のムードを二重に畳みこんでいく。ハドソン・モホークの着眼点もたぶん同じで、クラスターの作家性とはちがう――しかしそれはこのアルバムのアクセントでもある――が、デグロウ=モホークの視点はバトルズのそれとも同期し、元ネタの笑いをトレースし、さらに展開する、難儀な作業を的確にやっている。もっともそのユーモアはモテンィ・パイソンがミンストレル・ショーを実演するような、ねじれた、くすぶった笑いではなく、現代的な抑制が利いたものなのだが、であるからこそ、LCDサウンドシステムのドラマー、パット・マホーニーのディスコ・パンク調の"My Machine"という最後の山だか谷だかのあとのヤマンタカ・アイの、原作にひきつづきシンガリをつとめた"Sundome"で『グロス・ドロップ』は完全に分解したように思える。そして私は聴き終えたあと、ヘア・スタイリスティックスが聴きたくなった。

文:松村正人

KABUTO (LAIR/FACTOR) - ele-king

LAIR CHART


1
Amir Alexander - Violence - Vanguard Sound

2
Gemini - Revolution EP - NRK

3
BAAZ - Carbon Hair - Slices Of Life

4
Omar-S / Patrik Sjeren - 998 - FXHE

5
Da Sampla - M3 Sessions - M3

6
Pierre LX - Hypothesis (Big Strick Remix) - Initial Cuts

7
Ryan Elliott - Kicking Up - Spectral

8
FRANCO CINELLI - LATIN MORPH - Ilian Tape

9
Two armadillos - Golden age thinking Part 1 - Two armadillos

10
Ricardo Miranda - Round Plastic Archives - Bosconi

Odd Future - ele-king

 なるほど橋元さんの言う通りである。『イナズマイレブン』のことではない。ましてやコロコロコミックのおまけでもない(紙エレキングVol.4 参照)。南アからダブステップを打ち出してきたスプー・マサンブがセカンド・アルバムから〈サブ・ポップ〉に移ったら、これが急にメジャーを意識したような音楽性に成り果てていて、かなりたじろいでしまったからである。どんな必要があって、こんなことになってしまうのだろう。才能がひとつぶッ潰れたような印象さえ持ってしまった。ウォッシュト・アウトに起こったことがまったく同じことかどうかはわからないけれど。

 ウォッシュト・アウトは、しかし、〈サブ・ポップ〉に移る前から僕は受け付けなかったので、そのせいで、チルウェイヴの影響下から現れたクラウド・ラップというシーンもおそらくは馴染まないだろうと最初から僕は遠ざけていたw。しかし、毎週のようにジェット・セットに行くと、たいていのものは売り切れていくのに、クラウド・ラップでは初のフル・アルバムだといわれるメイン・アトラキオンズは1ヶ月を経過してもぜんぜん売れ残っている。訊いてみると、いち度売り切れて再入荷というわけでもないらしい。いくら半年ばかりデータ先行だったとはいえ、3月のヴィンセント・ラジオでも特集され、あれだけツィッターなどで話題になっているんだから......ツィッターで話題になっているとフィジカルはあんまり売れませんよね、そういえば。

 そこで少し考えた。ウォッシュト・アウトは何もかもが受け付けられないけれど、ひとつの要因としてリズムの貧しさがまずは耐えられない。それぐらいのことが......レイヴ・カルチャー通過後にはなかなかクリアーできなくない。レイヴに突入する以前はあれだけ好きだったレニゲイド・サウンドウェイヴもリズムが単調で聴く気が半減してしまったように、踊るための音楽ではないというイクスキューズがどうあっても成り立たなくっている(エディットが流行る理由はそこでしょう)。リズムが貧しい音楽は、ただ座って聴いていても気持ち悪いことこの上なく、それを補ってあまりあるものがなければ、存在価値があるとは思えない。とりあえず僕は聴けなくなってしまった。

 チルウェイヴに端を発しているとはいえ、クラウド・ラップは曲がりなりにもヒップホップの新潮流である。ということは、下部構造には少しは期待していいのかもしれない。そう思って、メイン・アトラキオンズを視聴用のターンテーブルに乗せてみた。......買わなかった。ははは。

 次の週、やっぱり買ってみた。理由はよくわからない。ジャケット・デザインがちょっとユーモラスだったから? クラムス・カジノが1曲だけプロデュースしていたのも気にはなった(https://www.youtube.com/watch?v=WZ57C53bSNY)。家に帰って、何度か聴き直してみると、ジューク(?)みたいな"ヴェジタブル"とかレゲエ・タッチの"モンダー・モ・マーダー"とかいいのもあったけど、基本的にはアンチコンというか、ドーズワンと同じだなーと思い、そういえばしばらくドーズワンのソロは聴いてないなーと思って検索してみたら、ちょうどサウンドクラウドに昨日アップしたという新曲があり、これが半分を過ぎたあたりからあまりにもユーフォリックなので驚いてしまった。チルウェイヴやクラウド・ラップの醍醐味というものがなんなのかまったくわかっていないので、困ったものだけれど、スモーキーでトベるとか、そういうことなら別にドーズワンの新作でもいいような......

 オッド・フューチャーも、そして、クラウド・ラップに数える人がいる。そうなのか。本当にそうなのか(電気グルーヴ風に)。

 タイラー・ザ・クリエイターやジ・インターネットのアルバムが先行したオッド・フューチャーも例によってイーグルスやレズビアンたちと揉め事を起こしながら、11人総出でクルー・アルバムをリリース。当然のことながら曲調も多岐に及び、PVの世界観を反映したようなフザけた曲調からサイプレス・ヒルのパロディ(?)など、シンプルで乾いたムードを浴びせ続ける(ジ・インターネットやメロウ・ハイプは逆に超ウェットで、むしろいいアクセントになっている)。ジャケットが何種類かあるようだけど、スケーターのルーカス・ヴェルチェッティを使ったものが通常盤らしい(?)。

 それにしても、このフザけ方(https://www.youtube.com/watch?v=fN-xq7t6pKw)は、彼らがまだティーンエイジャーだということもあるだろうけれど(なぜか人体の変形ネタが多い)、ウータン・クランの時期=90年代と違って、貧しいのが黒人だけではないという時代背景も反映しているのではないだろうか。ビル・クリントンによって中道政権が誕生したことによって左翼の位置にいることが難しくなったジェシー・ジャクスンが黒人の最下層を支えていたネイション・オブ・イズラム(同時多発テロ以降、統一教会と合体)に金銭的なサポートの打ち切りを伝えなければならなくなったときと違って、経済格差と人種問題はいまやリンクしなくなっている。それこそカニエ・ウエストがオキュパイNYを支持したところ、「お前は1%だろ」といって追い返されたり、ジェイ・Zとのジョイント・アルバム『ウォッチ・ザ・スローン』でも、満を持して復帰したのに人気が回復しなかったジェイ・Zが金では買えないものがあるとラップする傍から、なんでも買えて嬉しいな~と能天気にラップしていたカニエ・ウエストは不評サクサクと、同じアルバムでも聴きたい部分と聴きたくない部分があるなどと『ニューズウィーク』にも酷評され、金がなくても楽しくやるさという気運が共有される範囲はまったく人種とは重ならなくなっている(......といってる沙汰からオッド・フューチャーがカニエ・ウエストとスタジオ入りしたという情報がw)。

 また、L.A.で銃による抗争を続けているのは、いまや「あぶない刑事」ぐらいで、ひと頃のようなギャング・モードではないという話も聞いたので(いまの流行りはツィッターで示し合わせた人たちが同時に同じデリなどを襲うフラッシュ・モブ)、オッド・フューチャーの表現自体がすでにパロディとしてのそれだという見方もある。すべてを笑いに還元できるわけではないけれど、オッド・フューチャーに関する限り、笑いの要素は少なからず彼らの知性を反映していることはたしかで、そのことがシリアスなかたちで曲になったエンディングなど、とにかく多様な聴き方ができるアルバムである。クラウド・ラップとのつながりはよくわからなかったけど......。

*『ジ・OF・テープス Vol.1』はちなみに2008年にリリースされていて、来月CD化されるらしい(?)。タイラー・ザ・クリエイターのサード・ソロ『ウルフ』も5月リリース予定。

Mirrorring - ele-king

 フォークというのは、大ざっぱに言って、情緒的なところに訴えるもっともポピュラーな娯楽音楽のスタイルで、いかなる音をどのように、そしていかなる音楽的主題を追求するのかという音の創作物とは別物だ。それがどんな音楽なのかということ(どんな音色で、どんな音の強度で、どんなパラメーターによるもので......エトセトラ)よりも、どんな意味なのか(何を歌い、どんな言葉を綴っているのか......)ということのほうがが問われ、重視される。そもそも歌というコンセプトが人間にとって、あるいは社会にとっての順応性の高さゆに永遠と言えよう。
 そうした歌の文化に対して、たとえばマウス・オン・マーズ、ザ・ホスト、あるいはコーヘイ・マツナガの音楽には同じような観点での意味があるのだろうか? "アシッド・トラックス"に意味がないように、エメラルズやザ・ホストやコーヘイ・マツナガの音楽にも意味がない。あるのはただ、聴いているさなかに喚起される何か、ある種のムードやアトモスフィア、夢想、さもければ催眠、ふぬけるか、飛ばされるか......だ。
 歌とアコースティック・ギターも使いようによってはこの路線にアプローチできる。たとえばフリー・フォークにはそういう側面があったし、今日のインディ・シーンにおいては、フォーク的なるものとアンビエント的なるものはときに交錯している。そうなったときにフォークは、「平均的な人たち、誰からも愛されたい」というローブローな態度を意識的に放棄する、良くも悪くも。

 ミラーリング......は、リズ・ハリスとジェシー・フォーチノというふたりの女性によるプロジェクトで、これが最初の作品、アルバムだ。
 リズ・ハリスは、いまさら言うまでもなく、グルーパー名義で、何枚もの素晴らしいアルバムを出している。日本でも根強い人気を持っているオレゴン州ポートランドを拠点とする女性アーティストだ。彼女はエレキギターを弾きながら、機材を駆使しながら抽象的な音響のレイヤーを加工して、重ね、ある種のアンビエントめいたサウンドスケープを創出しながら、ときに歌っている。フォークという娯楽型と、催眠的で意味を持たない電子音楽とをまたいでいると言えるが、彼女の作品はアシッド・フォークと呼ばれるスタイルよりは圧倒的にドローンに近い。
 もうひとりのジェシー・フォーチノは、そういう意味ではばりばりのフォーク歌手だ。〈サブ・ポップ〉からタイニー・ヴァイパース名義で2枚の素晴らしいアルバムを出しているが、言うなれば、彼女はヴァシュティ・バニヤン・リヴァイヴァルのひとりである。ミラーリングはこうしたふたりの興味深い組み合わせで、アルバム『異物(Foreign Body)』は、疑う余地のないほど魅力的な作品となっている。彼女たちふたりの方向性は共有され、個性はうまい具合に混合されている。どちらかが欠けてもこの素晴らしいアルバムは生まれなかったのである。
 ジェシーはその声とアコースティック・ギターの音色で、リズのぼやけたアンビエントの世界に踏み入れ、彼女の徹頭徹尾どよーんとした世界に"歌"を届けている。"水浸しの声(Drowning The Call)"はふたりの混合の素晴らしい瞬間のひとつだ。グルーパーの温かみのある抽象的な広がりのなかを彼女たちの綺麗なハミングが流れ、あるいはときおり生ギターの弦がはじかれ、平穏のなかに響いている。"上からの無音(Silent From Above)"のような、愛想の良いフォーク・ソングももちろん悪くはないのだが、クライマックスはコクトー・ツインズをジ・オーブがリミックスしたような9分近くもある"私のもの(Mine)"という曲だ。この曲はぜひ、竹内正太郎のような歌詞マニア、そして1990年代生まれのリスナーにも聴いて欲しい。
 クローザーの"私たちの眠る鏡(Mirror of Our Sleeping)"という曲を聴いていると、本当に眠たくなる。が、この新しい発見がちょっと嬉しいので、すぐに目が覚めてる。ジュリアナ・バーウィックとも、そしてジュリア・ホルターとも何か別の風景が目の前に広がっている。ミラーリングはこの先も続けるべきだ。

interview with Eli Walks - ele-king


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 ここ1~2年は、なんだろうか......、日本の若い世代からエレクトロニック・ミュージックの作品が出てきている......いや、ずっと出てきているのに僕が気がついていなかっただけなのだろうけれど、とにかく顕在化しているのはたしか。15年ぶりだ。作っている人はいまこの波に乗ろう。フラグメントの初めてのインスト・アルバムとほぼ同時期にリリースされたイーライ・ウォークスのデビュー・アルバム『パラレル』もこの機運を印象づけている。
 アメリカ人の父親と日本人の母親のあいだに育ったイーライ・ウォークスは......、なかなか気持ちの良さそうな青年で、そのドリーミーな佇まいは彼の音楽にも繋がっているようだ。イーライ・ウォークスは、『アンビエント・ワークス』時代のエイフェックス・ツイン、『ジオガディ』の頃のボーズ・オブ・カナダ......そしてゼロ年代の〈ブレインフィーダー〉の申し子だ。ビートの太さと遊び心あるチョップからは「フライング・ロータス以降」を感じさせ、ロマンティックなハーモニーや美しい音色、そして風景がゆっくり変化していくような展開からはボーズ・オブ・カナダを彷彿させる。とはいえ、当然のことながら、彼の音楽は、ラスティなんかとも似た、モダンな質感を持っている。音色的にも、そして伸びと伸びとしているところとか。

沖縄にいたころは父親が米軍基地で働いていて、基地の外で日本人が「出てけ」って運動してたりするのを目の当たりにしてた。母親は日本人だから、僕はほんとにどうしたらいいんだろうって考えざるをえなくて......。

『パラレル』に関していろんな説明がありますよね、IDMとかエレクトロニカとか......三田格は「フライング・ロータス以降」と解釈してましたけれど、ご自身としてはどのように思われてますか?

EW:たしかに自分としてはいろんなところからインスピレーションを受けていると思っているよ。たとえばむかしはメタルをやってたり、ギターを弾いてたりしたしね。けれど直接的な影響といえばやっぱりIDMは自分のルーツだと言えるかな。もちろんフライング・ロータスが出た〈ロウ・エンド・セオリー〉もよく通ったし。

フライング・ロータスとエイフェックス・ツインというふたつの選択があって強いてひとつを選ぶとしたら、エイフェックス・ツイン?

EW:イエス! その通りだね。

まずは、あなた自身が音楽制作に向かうことになった経緯をおききしたいんですが。

EW:いい質問だよね! 昔はロック・ミュージックをプロデュースしてたんだけど、そこでは少しエレクトロニックな音のエフェクトが欲しいってなったときに、制作の過程の最後で僕とは違う人間を入れてやらなきゃいけなかったりしたんだ。けれどその違う人の味が自分の音に乗っかって、自分の音を変えていってしまうことがすごくいやだった。曲はすべて自分でコントロールしたい。だからすぐにコンピュータを買って、自分で音楽をつくりはじめたね。たまたまそのとき僕のまわりではエレクトロニック・ミュージックを聴いている人が多かったから、CDをもらったり借りたりできたし。

それは何年くらいの話ですか?

EW:18歳くらいかな。

聴いたところによると、あなたは幼少期からご両親のお仕事の関係で住居を転々とされていたということですが、そうしたあなたの生い立ちとエレクロニック・ミュージックに惹かれたということとはなにか関係があると思いますか?

EW:転々としてるからこそ、いろんなところでいろんな音楽を吸収できたりもしたね。僕自身小さいころから音楽が大好きだったっていうこともあるんだけど、その環境のおかげで音楽に対してすごくオープンになったかな。いろんなものを経験して音楽への愛は大きくなったんだけど、直接的にエレクトロニック・ミュージックの影響を受けたのは東京に来たときのことだったと思う。16歳くらいのときかな。

へえ? 東京ではどんなふうにそういう音楽と出会ったの?

EW:16歳くらいのころからほんとよくクラブで遊んでて、そこでエレクトロニック・ミュージックを聴いたりしてた。アメリカから姉が帰ってきたときに、ボーズ・オブ・カナダとオウテカのCDをくれてすごく影響を受けたり、もうひとりの姉はそのころトリップ・ホップにハマってたりして、たまたま東京にいたときにすごくエレクトロニック・ミュージックを聴く環境が整ってたんだよ。

それはなんだろう、東京という街にそういう音があったってことなんでしょうかね。それともそういう音楽そのものがあなたに強い影響を与えたということなんでしょうか。

EW:そうだな......やっぱりクラブってものの影響が大きかったかもしれない。最初に行ったときは自分がそういう音楽を受け入れてたかどうかわからない。クラブは最初は楽しさがわからなかったけど、通ってまわりを観察してるうちに、「みんなこんなに楽しんでるんだな」って、エレクトロニック・ミュージックの影響の大きさを感じたかな。あと、マッシヴ・アタックも大きいよ。彼らはロックとエレクトロニックとを混ぜた。当時は彼ら以外の人たちもそういうことをやりはじめた時期だったけど、マッシヴ・アタックに出会ったことで、それまでわからなかったものの扉を開くことができたんだ。

ちょうど『メザニーン』のころですね。

EW:イエス。『メザニーン』!......イエス!

そうか、イーライ・ウォークスの音楽を聴いたときに、僕はボーズ・オブ・カナダが好きっていうのはよくわかるんですよね。だけどクラブってちょっと意外で、ダンスというよりはアトモスフィアやムード、アンビエントみたいなものを伝えたいのかなって思っていたので。

EW:当時クラブで流れてたのはプロディジーだったりケミカル・ブラザーズだったりしたけど、そこから入ってどんどん音のエフェクトとかテクスチャーとかに興味を持ちはじめたんだ。たぶん最初にボーズ・オブ・カナダを聴いたときには自分でもまだ難しかったんだと思うけど、だんだんとハマっていって、細かいところや具体的な部分が見えてきたんだ。

話は戻るんですけど、日本に来る前はどんなところをめぐってきたのか、ざっくりと教えてほしいんですが。

EW:カリフォルニアに生まれて、6~7歳くらいは沖縄。で、ノース・カロライナ、沖縄、東京、カリフォルニア、東京......

(笑)じゃ、日本とアメリカの各都市をいったりきたりしてたんですね。

EW:ははは、そうなんだ。だから日本語も英語もあまりうまくない(笑)。

(笑)自分のアイデンティティって考えたことはありますか?

EW:そうだな、むかしから転々としてたから、仲良くなったグループともすぐお別れしなきゃならない。そんななかで自分を見つめ直したりしながら、アイデンティティについて考えることは多々あったね。

ご両親を恨んだりはしませんでしたか(笑)?

EW:ははっ、すごくサポーティヴな両親だったから恨むってことはなかったけど、中学のときにせっかく仲良くなった友だちと別れることになったときは、さすがに言葉で責めたりはしたね。ノース・カロライナのときだった。けど、心では恨んだりしたことないな。

なるほど。それだけ行ったり来ているしてると、どっちにいるかわからなくなったりしませんか(笑)。アメリカにいるのに日本にいるときのようにふるまって失敗するとか。東京と沖縄でもすごく差があるのに、まして日本とアメリカなんて文化土壌がぜんぜんちがうわけじゃないですか。

EW:たしかにね。しょっちゅうそう思うよ。アメリカでは、ごく親切でしてるだけのつもりなのに「この人ほんとに静かだな」って思われてたりね。たとえば日本ではみんな電車でも静かに乗ってお互いを尊重しあってるけど、アメリカでは突然知らない人が話しかけてきたりする。ほんとにちがってて混乱することがあるよ。

カート・ヴォネガット(Jr.)は知ってる?

EW:いや、聞いたことはあるけど......

スローターハウス5』って小説を思い出しました。主人公が訳もわからずにタイム・ワープしていくんですけど、宇宙人に囚われたかと思えば、いきなり第二次世界大戦下のドレスデンでナチスの攻撃を受けてるっていう話でね(笑)。

EW:ワオ! はははは。

自分にいちばんしっくりくる街っていうのはあったりするんですか?

EW:うん、やっぱりそれが理由で東京に戻ってきたっていうこともあって、東京がいちばんだなっていまは思ってる。ただ、ほんとそのときそのときの自分の年齢にもよるかな。沖縄にいたころはまだほかの世界があるってことを知らなかったから、沖縄がいちばんだって思ってたこともあった。けどいまいろんな場所を経験したあとで、東京がいちばんしっくりくるって感じるよ。

ロスには3年でしたっけ?

EW:5年かな。

ロサンジェルスって、ここ10年、いろんな話をきいていると、文化的にすごく盛り上がっているといいますよね。〈ロウ・エンド・セオリー〉しかり、インディ・ロック・シーンみたいなものも含めてなんですが、あなたのその5年間にロサンジェルスから受けた影響について教えてください。

EW:すごくいろいろな影響を受けているよ。ロサンジェルスに行く前は、エレクトロニック・ミュージックといってもすごく実験的なものしかやっていなくって、もう、人には理解してもらわなくったっていいっていうような音作りしかしていなかった。けど〈ロウ・エンド・セオリー〉に行って、エレクトロニック・ミュージックでみんなこんなにもパーティしてるんだってことを知って衝撃的だったんだ。僕の行ってた音楽学校では、自分と同じような境遇の人がいっぱいいて......つまりいろんな国から生徒が集まって実験的な音楽を追究している子たちも多かったなかで、〈ロウ・エンド・セオリー〉の影響はとくに大きかったね。 

それは、なんでしょう、東京にいたころはよりエクスペリメンタルなことをやっていたと。それでロスに行って、もうちょっと自分の幅が広がったというようなことでしょうか。

EW:東京にいた頃はボーラみたいなよりレフトフィールドなものにハマったんだけど、そうだね、もっと、なんていうか......。

ボーラみたいなエクスペリメンタルなものにそもそもあなたがハマっていった理由というのはどういうものなんでしょう?

EW:さっきも言ったボーズ・オブ・カナダはすごく素晴らしい、自分を変えるきっかけになったような音楽なんだ。ふつうの人でもきっと聴けるサウンドなんだけど、自分では彼らの音をより深く聴いていくうちに、もっといろんなテクスチャーやビートを掘り下げて知りたいと思うようになって、それがボーラとかにつながっていったのかもしれない。どんどん好奇心が生まれてエレグラにいったりとかしたんだよ。

それが〈ロウ・エンド・セオリー〉に行ったことによって、オープン・マインドになったってことなんでしょうか?

EW:そうだね、〈ロウ・エンド・セオリー〉に行ったことは自分をひらくものだったかもしれない。あとは学校の生徒たちの存在が大きいよ。まわりの友だちがディーバの音楽をサンプリングしてチョップ・アップしてたりとか、すごくいろんなことをやっていたから、そういうものに大きく刺激を受けたと思う。

なるほど。

EW:そのときにいた環境のパッケージ、というかね。

以前フライング・ロータスにインタヴューしたときには、彼はロサンゼルスの学校時代、クラスメイトたちからはすごく変わり者として思われていたと言っていました。まわりはだいたいメイン・ストリームのヒップ・ホップを聴いているのに、自分だけはDJクラッシュとかデトロイト・テクノとかを聴いていて、そんなやつはクラスにひとりしかいなかったって言ってましたけどね(笑)。

EW:ふつうはそうなんだろうね(笑)。でも僕の行ってた学校はほんとうにエクスペリメンタルなことをみんなが追求してる集団で、いろんなことがやれたんだよ。クレイジーだったね(笑)。

〈ロウ・エンド・セオリー〉って、なんだか日本ではストイックで、渋いアブストラクトな印象が広まっているんですが、カセット出しているような、アンダーグラウンドなロック・シーンとも繋がっているんですよね。実験的だけど、ちょっと享楽性のあるような(笑)。

EW:うんうん。当時思ってたのは、ほんとにクリエイティヴな場所だなってことで、あれと同じようなムーヴメントはないなって思えるようなイヴェントだったね。

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クラブは最初は楽しさがわからなかったけど、通ってまわりを観察してるうちに、みんなこんなに楽しんでるんだなって、エレクトロニック・ミュージックの影響の大きさを感じたかな。


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どんな経緯で今回のアルバムは生まれたの?

EW:ええと......。そうだね、いろいろな要素があると思う。まず自分が聴いていいなと思ったものを、自分の手で再現していきたいと思ったこと。あと学校ではシンセを手作りしたりしてたんだけど、自作のシンセで遊んだりしてるうちに、これをきちんと音にしたいなとも感じた。それからむかしギターで書いた古い曲をエレクトロニック・ヴァージョンにしてみたいって気持ちもあった。そういうものが全部重なりあって、この作品になったと思うよ。

なるほど。あなたのなかでエレクトロニック・ミュージックの魅力とは何なんでしょう?

EW:エレクトロニック・ミュージックって、すごいいろんな色を持ったものだと思うんだ。バンドにはギターがあってベースがあってドラムがあって、そのそれぞれにエフェクトをかけたりすればいろんな音は出せると思うんだけど、エレクトロニック・ミュージックにはもっと無限の可能性があって、まるで3Dみたいに、すごく狂った体験ができると感じるんだ。

僕は今日、ええと、笑わないでほしいんだけど、ブルース・スプリングスティーンをずっと聴いてて(笑)。それで思ったんですが、アメリカのポップ・カルチャーの多くが、ヒップホップにしてもロックにしても、アメリカ社会を反映したものが作品になってると思うんですね。そういう社会との関係性ということを考えたときに、エレクトロニック・ミュージックとはどのようなものだと思いますか。

EW:いまってすごくいろいろなものが変化していて、インターネットが生まれたことで国やジャンルの境界線がなくなってきてたりするよね。そんななかでアメリカでもエレクトロニック・ミュージックのポジションが変わってきていると思う。カニエ・ウェストとかダフト・パンクとかがいろいろやったりして、エレクトロニック・ミュージックはほんとにメイン・ストリームになったなって思うよ。

それはほんとにそう思います。20年間聴いてきたんですが、90年代は、エレクトロニック・ミュージックはヨーロッパ中心のものだったし、アメリカからはあまり聴こえてこなかったですよね。それがこの10年でほんとにアメリカで広がったんだなって思います。

EW:たとえばニューヨーク出身のアーティストでも、まるでUK出身みたいなエレクトロ・サウンドのバンドがいたりするし、そのへんの境界はほんとになくなってきてると感じるよ。

それってなんなんでしょう、アメリカの古い価値観が崩れていくというようなことでもあるんでしょうか?

EW:うーん、そうだなあ......

ははは。もう、昔はね、シンセサイザーの音が入ってるってだけで、アメリカでは「オカマっぽい」って言われたりしたんですよ。

EW:ああ、うんうん。そこはすごくオープンになってきてるんじゃないかな。で、その古い価値観っていうのもすごく残ってはいると思うんだけど、アメリカってすごくメイン・ストリームに左右されるところで、メイン・ストリームがやったことがすごく強調されるんだ。カニエ・ウェストとかがやることは、メイン・ストリームに広がったりするから、たしかに(マイノリティの問題等についての)受け取り方はオープンになってきていると思うよ。ケイティ・ペリーが「I Kissed A Girl」って歌うと、アメリカ中の女の子たちに、あ、それはアリなんだって伝わっていく。メイン・ストリームを通せばそういうオープンな価値観も広がるんだ。

なるほどね。それでいま3年めでしたっけ? 東京に移ってきたわけなんですが、ぶっちゃけ、放射能とか怖くないですか?

EW:はっはっは。あんまり。

(笑)。

EW:そりゃ、現場に行けば怖いだろうなって思うよ。東京でもデリケートな人たちは「水もあぶない」って言ったりしてるけど、飲んじゃってるし。

では、アルバムのタイトルを『パラレル』にした理由はなんなんでしょうか?

EW:アルバム制作にいたるまでに、予期せぬできごとがすごくたくさんあって、いろんな人との出会いとか、このレーベルとの出会いとか、いろんな偶然もたくさんあったんだ。そしてとても立ち止まって考えていられないほど、すべてのことがシンクしてた。僕は頭の中でひとつの線を思い描いていて、ちょっと数学的なんだけど、そうやって線を描きながらものごとを考えたときに、すべてがシンクしていくことがよくわかった。だからこのアルバムは、なにか線で表現したいなって思ったんだ。それで「パラレル」って言葉を思いついたんだけど、平行って、すごくそういうイメージでしょ。

へえ、なるほど。

EW:状況が変わればアルバムの見え方も変わるとは思うんだけど、自分の人生の中にはパラレルなものが多いなって感じるんだ。日本とアメリカのふたつのものの間をいったりきたりしてるのも、パラレルのイメージだしね。

日本にいるととくになんですけど、アメリカと日本をめぐっていろいろと政治的な複雑な関係を耳にすると思います。そういうことは気になったりしますか?

EW:じつは沖縄にいたころは父親が米軍基地で働いていて、基地の外で日本人が「出てけ」って運動してたりするのを目の当たりにしてた。母親は日本人だから、僕はほんとにどうしたらいいんだろうって考えざるをえなくて......。そういう、日本とアメリカとの関係性について考えざるをえない場面っていうのは僕の人生のなかに何度もあったよ。いまはあんまり考えないようにしてるんだけどね。

それは重たい話ですね......ご自身の作品のコンセプトというか、リスナーをどうしたいとか、そういうものはありますか?

EW:とくにコンセプトといえるほどのものはないんだけど、たとえばタワレコとかに行ったときに、はじめて試聴するときのインパクト、それは与えたいなって思ってたんだ。だからこれまで書きためてた曲で好きだったものを選んで、自分でパーフェクトだって思えるまで死にものぐるいで作ったよ。あと、そうだな、最初はコンセプトと呼べるものはなかったものの、いま『パラレル』ってタイトルをつけたあとで目をつむって曲を聴いていると、ふしぎと線だったり形だったりが10曲の中でつながっていくよ。

ではこの音楽のなかで展開される叙情性みたいなものは、あなたのなかのどういうところからくるものだと思いますか?

EW:やっぱりいろんなところに引っ越しているから、友だちとの別れとか、恋愛だったりとか。あとは両親が音楽好きなんだけど、父親がすごく音楽をエモーショナルに聴く人で、レディオヘッドとか聴いててもいきなり巻き戻して「ここの部分聴いてみろ」とか言うんだ。

はははは!

EW:(笑)そんなところにすごく影響されてるかも。

あ、お父さんがレディオヘッド好きなんだ(笑)。レディオヘッドが好きなお父さんてすごいね!

EW:ははっ、父さんはすごいクールだよ!

ははは、じゃ小学校のころに『キッドA』聴かされたりしてるんだね。あの、わりと最近は都内でライヴされたりしてますよね。先日もフラグメントといっしょにやったりとか、あるいはちょっと前にコウヘイ・マツナガくん(NHK)とやったりとか、日本のトラック・メイカーと関係することがあると思うんですが、いっしょにやってみて面白いなって思った人はいますか?

EW:最近同じイヴェントに出てたジェラス・ガイっていう女の子のビート・メイカーがいるんだけど、その子のパフォーマンスがすごくよかった。

へえ、日本人なんですか?

EW:そう、〈ソナー〉にも出るっていう子なんだけど。あとはタナベ・ダイスケさんとかパフォーマンスが素晴らしいって思うし、あとはオオルタイチさんとか。みんなそれぞれ違った要素があって、共演させてもらう人たちからはいろんなことを学んでるよ。NHKはすごい観たかったんだけど、前回は時間が重なっていて、すごく残念だよ。

彼は見た目からして、危険な男ですよ。

EW:はははは!

このイーライ・ウォークスの作品が出たのと同じ時期に、僕はそういう若い日本のトラック・メイカーの作品を耳にすることがすごく多かったんです。ひょっとしたら、まあ、すごい偶然なのかもしれないけど......あなたと同じようなタイミングで、新しい世代が出てきたのかもしれないっていう印象を受けたんです。ご自身ではそういう感覚はありますか?

EW:最近はみんながコンピュータを持っている時代で、「エイブルトン」を使いこなしていたり、「ガレージバンド」でも音楽を作れてしまうから、ここ最近はすごくそういう音作りのブームっていうのが起きてると思うんだ。だからこの数年はほんとに楽しみにしてるよ。

なるほど、ありがとうございました。僕は10曲めの"ミスト"って曲がいちばん好きでした。

EW:(日本語で)ああ、ありがとうございます!

いちばん人気がある曲って何なんですかね。1曲めもすごくいいですけどね。

EW:あ、みんなけっこう"ムーヴィン"はいいって言ってくれるかも。なぜかiTunesだと"フリーフォール"。

ああ、そう。それはおもしろいね!

EW:そうなんだ......

ははは、ありがとうございました!

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