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Oneohtrix Point Never

Oneohtrix Point Never

Replica

Mexican Summer / Software

Amazon iTunes

野田 努   Nov 22,2011 UP
E王

 紙ele-kingの「0号」に載ったダニエル・ロパーティンのインタヴューを読んで、彼がたとえるところの「歯医者の治療音とその場に流れるBGMのソフト・ロック」という言葉のなかに、三田格が文中で指摘する「ノイズとアンビエントも等価」もさることながら、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)のユーモア体質を確認した。フォード&ロパーティン名義の作品におけるシニカルな風刺ないしはその低俗さもそれを思えば「なるほど」といった感じである。ところが、アメリカのあるレヴュワーときたら「『リターナル』が(不確実的シナリオを基礎としたオープンスペースの超認識ヴィジョンにおける)ルソー的作品であるなら『レプリカ』はデュシャン的だと言えよう」などと書いている。最初にこの一文を目にしたときに「ルソー的」というたとえをてっきり「社会契約論」のルソーのことだと思いこんで、「おー、そこまで言うかー」と思案してみたものの、考えてみればデュシャンと対比しているわけだから印象派の画家のルソーのことかと理解した。当たり前のことかもしれないが、「Rousseau record」という欧文だけでは我々にとっては人文学者のルソーのほうが身近だと思える(?)......というか、『リターナル』というアルバムはデジタル・ミュージックにおける新たな社会契約論めいた大きなインパクトとして2010年にリリースされている。

 そもそも......サンプリングが応用されてから久しい現代のポップには「デュシャン的」な展開はずっとある。卑近な例のひとつを言うなら11年前に咳止めシロップと大麻の幻覚とターンテーブルの実験の果てに他界したDJスクリューが発見した"スクリュー"の急速な拡大がある。ジェームス・ブレイクの"CMYK"もウォッシュト・アウトの"Feel It All Around"も、既製品を面白くいじくることが作品のアイデアの中心にある。そしてOPNの新作『レプリカ』も、ガラクタをそれなりにきちんと陳列した「デュシャン的」作品だと言えよう。歯科医院の摩擦音をはじめ、TVゲーム、くっだらない深夜のムード音楽、音楽ファンからは見向きもされないような安っぽいジャズ......とてもディスクユニオンでは買い取ってもらえそうにない価値のない音ばかりが『レプリカ』ではセックスアピールを持った亡霊のように拾われ、ループとなって、エディットされる。
 いかにも欧州的な芸術趣味を押し通すウィーンの〈エンディションズ・メゴ〉でのリリースを経て、どちらかと言えば俗っぽいブルックリンの〈メキシカン・サマー〉傘下に自ら指揮する〈ソフトウェア〉からのリリースということもあるのだろうけれど、たとえば『ピッチフォーク』が収録曲の"Sleep Dealer"を「スティーヴ・ライヒのポップ・ヴァージョン」と形容してしまうように、『リターナル』を起点とするなら『レプリカ』はフレンドリーに聴こえる。低俗さを創造的なポップとして展開することは、それこそレジデンツや中原昌也もすでにやっていることではあるけれど、『レプリカ』という作品はハイプ・ウィリアムスのようなポスト・チルウェイヴ......、いや、ポスト・スクリューという明日に開いている。エイフェックス・ツインの"ウィンドウリッカー"の次を狙っているのは、本当にロパーティンかもしれない。

野田 努