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Quantic

Quantic

The Best of Quantic

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野田 努   Sep 13,2011 UP
E王

 旅することは音楽的だ。20代後半から30代にかけては、わりと毎年のように海外を旅したものだったが、自分が生まれ育ったところの文化とは違う文化に出会うことは、自分が広がっていくような感覚がある。自分が日本以外の音楽ばかり聴いているのも、自分が生まれ育ったところの文化とは違う文化との出会いを期しているからだ。僕は長いあいだヨーロッパばかりだったが(それはもう、自分が思春期に影響を受けた文化への避けがたい魅力として)、結婚してから何回か東南アジアも旅した。それもまた新鮮な経験だった。南米はずっと憧れだけれど、いまだ行ったことがない。望みは捨てたくないが、もう一生行けないんじゃないかと最近は悲観的になっている。
 クァンティックの名前で知られるウィリアム・ホランドは、もっとも優秀な旅する音楽家だ。太陽の匂いのサルサ、クンビア、レゲエ、生温かいファンク、セクシーなジャズ、ソウル・ミュージック、熱帯地方のグルーヴ......なんとも缶ビールがすすみそうな音だが、UKのウスターシャー州出身のホランドの音楽はそうしたものの混合に関してもっとも頼りになるDJ/プロデューサー/ミュージシャンで、わが国でも評価と人気をものにしている。
 ここ数年はワールド・ミュージックへのアプローチで知られるホランドだが、彼はディプロのようにサンプリングを多用しない。初期の音楽は、ミスター・スクラフ(あるいはDJシャドウ)のような連中と同じように語られていたが、ホランドはギター、ベース、コントラバス、ピアノ、サックス、パーカッションなどの楽器を演奏する。また、ここ数年のクァンティックの作品では、南米や中米の優れたミュージシャンの演奏も聴ける。彼の音楽は洒落ているが、土の匂いがする。レコードコレクターとしても知られる彼は、レトロ・ソウルの追求者でもある。
 2001年に〈トゥルー・ソーツ〉から最初のアルバムを発表しているクァンティックは、この10年ですでに何枚もの名作をリリースしている。ラテン・ジャズ・グルーヴを展開する初期の作品、ザ・クァンティック・ソウル・オーケストラ名義の作品、コロンビアに拠点を移してからのフラワリング・インフェルノ、あるいはコンボ・バルバロ......本作『ザ・ベスト・オブ・クァンティック』は、彼のこの10年の回顧展で、CD2枚組、全32曲、それぞれのCDにめいっぱい入っている(日本盤にはさらにボーナス・トラックが付く)。実に気前の良い、サーヴィス満点のベスト盤だと言えるだろう。

 去る7月にオウィニー・シゴマ・バンド(Owiny Sigoma Band)のリミックス・シングル「Tafisiri Sound」を買った。クァンティックがリミキサーだ。同じようにジャイルス・ピーターソンのレーベルからリリースされたケニア共和国のナイロビの楽団の数か月前に出たシングルでは、セオ・パリッシュとフローティング・ポイントが参加していた。ピーターソンはダブステップ以降の流れ、ここ数年のワールド・ミュージック熱、そしてブソウル・ミュージックとしてのダンス・カルチャーとのクロスオーヴァーをはかろうとしているのだろう。そういえばデリック・メイもクァンティックがリミックスした"Doyoi Nyajo Nam"をかなり気に入っていた。


 追記:昨日は二木信がいきなり有名人になっているのでびっくりした。あの男は原稿の締め切りを守れないタイプの人間だが、間違っても暴力をふるうようなヤツではないし、ましてや人をいたずらに扇動するようなタイプでもない。だいたい自称二木信というのは何だ。彼はこそこそしない男だし、早いところ戻ってくるだろう。原稿を書いてもらわないと。あいつが大好きな音楽についての原稿を。

野田 努