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アンカーソングを名乗る吉田雅昭は、ロンドンで暮らしながら音楽を活動をしている日本人青年だ。本サイトでもたまにUKの音楽事情をレポートしてくれている。
同じコスモポリタンの都市でも、ベルリンやニューヨークと違って、ロンドンは日本人が音楽活動しやすい場所ではない。世界でもっともポップ文化を産業としている国でありながら、いろいろあそこは大変だ。アンカーソングは彼の地で4年も地道に活動している。
この度、アンカーソングはロンドンのレーベル〈トゥルー・ソーツ〉(クァンティックで有名)を契約を交わし、インターナショナル・デビューを果たした。その作品『チャプターズ』が、彼にとっての初めてのアルバムでもある。
『チャプターズ』は彼の叙情詩だ。トレードマークであるビートの"生演奏"をもとに、ダンサブルな曲からアンビエント調のものまでと起伏に富んだ展開をみせている。高速で飛ばすミニマル・テクノ、ファンキーなダブステップ楽団、深夜の孤独なIDM、メランコリックなダウンテンポ、壮麗なエレクトロニック・ジャズ......などなど。いままでアンカーソングといえば迫力ある生打ち込みのビートでリスナーの目と耳を集めていたものだが、『チャプターズ』ではメロディも光っている。"ビフォア・ジ・アップル・フォールズ"のように官能的なストリングスの音を活かしたメロウな曲も耳に残る。"デイブレイク"のようなグルーヴィーな曲からも平和的な微笑みが見えてくる。
ばつぐんにキラーな曲がひとつ入っている。それは"プラム・レイン"という曲だ。IDMテクスチャーと彼のスローなビート、そしてジャズのコードと美しいメロディが重なる曲で、しとしとと降る綺麗な雨を想わせる。最高の状態のアズ・ワンの曲とも似ている。
ロンドンにいるアンカーソングに話を訊いてみよう。
この国には日本のようなはっきりとした四季の移り変わりがない分、"風情"っていう感覚が希薄なんです。メロディやプロダクションも含めて、そういう日本人特有の繊細なニュアンスがこの曲には含まれているんです。
■いま、どんな感じで過ごしてますか? ギグはどのくらいの頻度でやっているのでしょう?
吉田:アルバムが海外でリリースされたばかりで、その反響を楽しんでいるところです。海外ではデビュー作ということもあり、僕のことを最近知ったという人が多くて、日本でデビューEPをリリースしたときのフレッシュな気分を感じています。ギグは平均だと月に2、3本ですが、来年2月からはツアーに出る予定です。今はその準備を進めつつ、新曲を書き溜めているところですね。
■2011年の吉田くんにとっての最高の思い出を教えてください。
吉田:やっぱりフル・アルバムをワールド・ワイドにリリースできたことですね。活動をはじめた頃から数えると7年近くかかったんですが、自分が本当に作りたいと思っていたものを形に出来たと思うし、それを自分の名刺代わりの1枚として世に送り出すことができたことに、たしかな手応えを感じたので。
■今回がインターナショナルなデビュー・アルバムとなるわけですが、吉田くんのなかではやっぱある程度の達成感がありますか? ある意味ではこれをひとつの目標に渡英したわけですよね?
吉田:そうですね。僕は音楽にのめり込み始めた10代の頃から基本的に洋楽ばかり聴いていたので、そういう海外のアーティスト達と同じ土俵で勝負したいという思いが、東京で活動を開始した頃からずっとありました。渡英を決めた時に自分の中でデッドラインを定めて、それまでにワールドワイドに作品をリリースすることが出来なかったら、日本に戻って来ようと決めていたので、何とか達成できて良かったですね。
■当然、東北の震災と福島原発事故はロンドンで知ったわけですが......。
吉田:地震のあとしばらくはやっぱり落ち込んでいたし、自分が海外で生活しているということに対してそれまで感じたことのなかったような疑問を抱いたりもしましたが、それが作品の制作に影響を及ぼしたということはないと思います。あの時点で作品がすでにほぼ完成していたというのもありますが、僕はあまり自分の個人的な感情や心情を作品に投影するタイプではないので。とは言え、ある程度は無意識のレベルで作品に現れてしまうものなのかも知れませんけど。
■今回〈トゥルー・ソーツ〉と契約するにいっった経緯を教えてください。
吉田:いちばんのきっかけはボノボのサポートを数回に渡って務めたことだと思います。彼はデビュー作を〈トゥルー・ソーツ〉からリリースしていて、いまも親交が深いようなので。それがきっかけで名前を知ってもらって、未発表の曲を聴かせて欲しいと言われて、その時点でほぼ完成していたアルバムをまるごと送ったんです。結果的に内容に手を加えることなく、そのままの形でリリースしてもらえることになったんです。
■〈トゥルー・ソーツ〉の音を特徴づけるのは、ソウル・ミュージックやジャズ、ラテンといった音楽からの影響ですが、それまでのアンカー・ソングの音楽性とは開きがあるようにも思いました。自分ではそのあたりどう考えていましたか?
吉田:曲を送った時点では、正直気に入ってもらえるかどうかというのは半信半疑でしたね。レーベルのコンセプトに沿った曲もあるとは思っていたけど、ちょっと違うものも含まれていたので。
■実際、音楽性はそれまでとは明確な変化がありましたね。なによりも多様になったし、〈トゥルー・ソーツ〉的な音になっていますが、これは吉田くんがある程度レーベルの方向性に合わせた感じですか? 4曲目の"ダークラム"にしても"プラム・レイン"にしても、コードはジャズからの影響だと思うし、それとも吉田くん自身のなかにジャズやソウルの要素を取り入れた洗練という方向性があったのでしょうか?
吉田:先にも述べた通り、彼らと契約した時点でアルバムはほぼ完成していたので、意図的に彼らのカラーに合う曲作りをしたということはないんです。でもレーベル側がとくに気に入ってくれたのはやっぱり"ダークラム"や"プラム・レイン"といった、ジャズのテイストがある曲でしたね。今回の作品のコンセプトのひとつは「ミニマルであること」なんですが、短いサイクルでのループを組み立てる際に、ポップス的なコード進行を使うとどうしても冗長なものになってしまいがちなので、それに対する打開策のひとつとして、ジャズっぽいそれを導入したというのはありますね。
■"プラム・レイン"が本当に美しい曲で、聴いていると綺麗な雨の風景が見えるようです。いま、日本で雨というと原発事故の影響で恐怖があるのですが、"プラム・レイン"は汚染されてない、魅力的な雨を感じます。IDMのテクスチャーと、吉田くんのシンプルなビート、そして素晴らしいメロディがありますね。この曲についてのコメントをください。
吉田:"プラム・レイン"というタイトルは、"梅雨"をもじったものなんです。もちろん実際にはそんな言葉はなくて、駄洒落みたいなものなんですけど。ロンドンで雨模様の日が続く季節に書いた曲で、それが何となく日本の梅雨時の風景を思い起こさせるなって。この国には日本のようなはっきりとした四季の移り変わりがない分、"風情"っていう感覚が希薄なんです。メロディやプロダクションも含めて、そういう日本人特有の繊細なニュアンスがこの曲には含まれているんです。
■日本が恋しくなったことはあると思いますが、今回のアルバムにそういう思慕のようなものは出ていると思いますか?
吉田:とくにないと思いますね。この国に来て4年経ちましたけど、いまはまだ日本のことを恋しく思う気持ちよりも、この国のことをもっと知りたいという思いの方が強いですからね。
■あるいは、ロンドンで活動しながら吉田くんのなかでも変化があったと思うのですが、どのような影響や、考えの変化があったのかなど、そのあたり、詳しく教えてください。
吉田:もっとも大きな変化は「ライヴ・アクトとしての自分」っていうルーツに立ち戻ったことだと思います。それまでロンドンのアンダーグラウンド・シーンの刺激を吸収して、音楽性の幅を広げることばかり考えていたんですが、ライヴを重ねるうちに、自分が伸ばすべきところはやっぱりそこにあると思うようになったんですよね。レコード契約をとるまでには時間がかかったけど、現場での手応えは常に感じていたので。今回のミニマルというテーマも、僕の基本のセットアップだけでステージで再現できることっていう、ある意味自らに課した制限の中から生まれたものでもあるんです。
[[SplitPage]]僕自身はよくクラブにも遊びに行くし、見えにくいところでそういうシーンからの影響も反映させてはいるんです。たとえば今回の作品で言うと、ベースラインにサブベース的な、通常のベースよりも主張の少ない音を多用しています。
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■ele-kingでのレポートをいつも楽しみにしているのですが、たとえばボノボと一緒にやった話などは、今回のアルバムの音楽性にも通じますよね。彼のようなサウンドは、吉田くんにとっては同士のような感じなんでしょうか? とくに今作におけるストリングス系の音などは、彼らと似たものを感じます。
吉田:昔から好きなアーティストではあったし、競演できて嬉しかったのはたしかですが、自分ではそれほど音楽的に接点を見出しているわけでもないんです。彼の音楽はとてもオーガニックだけど、僕はもう少し棘のある方向性を目指しているので。とは言え、ファン層はやっぱりちょっと被っているみたいですけどね。
■ボーナス・トラックの"アムレット"は壮大なメロディが印象的な美しい曲ですね。ボーナストラックにこれを選んだ理由を教えてください。
吉田:個人的にも好きな曲ではあるんですけど、この曲は先に述べた「ミニマル」っていうコンセプトにそぐわなかったんです。でも何かしらの形でリリースしたかったので、ボーナス・トラックという形で収録できて良かったと思っています。
■ダブステップのようなハードなダンスの現場というよりも、より大人びたオーディエンスに向けている音楽だなと思ったのですが、そこは意識しましたか? ミュージックホールのような場所でやっていることがけっこう書かれていますし。
吉田:長く楽しめる作品にするということは意識しているので、そういった印象を与えるのかもしれないけど、僕自身はよくクラブにも遊びに行くし、見えにくいところでそういうシーンからの影響も反映させてはいるんです。たとえば今回の作品で言うと、ベースラインにサブベース的な、通常のベースよりも主張の少ない音を多用しています。あとはリッチなダイナミクスを持つ音と、いかにも打ち込みっぽい無機的な音を同居させることなんかもそうですね。"プラム・レイン"なんかがいい例ですが、あの曲はリンスFMのOnemanとか、現場で活躍するDJからもサポートしてもらって、それがとても嬉しかったですね。
■一時期グリッチが流行ったことがありましたが、ああいう音を汚すことをまったく取り入れない理由は何でしょうか?
吉田:単純に必要性を感じないからですね。自分ではたまにグリッチーなものも聴いていますが、僕の音楽には必要のない要素かなと。たぶんそれはやっぱりライブを意識した曲作りという部分から来ているんだと思います。ああいう音はやっぱりただ「再生する」ものであって、「演奏する」ものではないと思うんです。
■なるほど。ポップということをどのように考えていますか? たとえばクラッシュさんのような人がマグネティック・マンのようなことをやったら、消費されて終わっていたと思うんですよね。アンダーグラウンドだからこそ消費されないで生き延びているといったアーティストはUKにはたくさんいると思います。
吉田:僕はポップなものもけっこう聴いているほうだと思うし、メインストリームの音楽にもそれなりに気を配っているので、とくにネガティヴな印象を持ってはいないですね。やっぱりわかりやすいことというのは、多くのリスナーにとって魅力的な要素だと思うので。とは言え、やっぱりそういうアーティストの息が短いということは事実だと思うし、だからこそクラッシュさんのようなブレない人は長くキャリアを続けられるんだと思います。そういう意味でも、ジェームス・ブレイクが今後どんなルートを辿っていくのかということは、個人的にもとても気になりますね。僕は彼のポップな面もハードコアな側面も両方とも好きなので。
■『チャプターズ』というアルバムには、どんなメッセージが込められているのでしょうか?
吉田:各楽曲にこれといったメッセージがあるわけではありませんが、『チャプターズ』とうタイトルは、各楽曲がそれぞれが異なるストーリーを展開しながらも、全体として大きなひとつの流れを作り上げている、そういうニュアンスを含んでいるんです。作品を最初から最後まで通して聴いたときに、短い旅を終えたような印象を持ってもらえるような、そういう自然な流れのある作品にすることを強く意識しました。
■ゴス・トラッドのように、日本にいながら国際的な評価を得ているミュージシャンはこのネット社会では、今後も増えていくでしょう。たとえば最近では東京の〈コズ・ミー・ペイン〉というレーベルのジェシー・ルインという若いアーティストは、東京にいながら『ガーディアン』で紹介されています。こうしたデジタル・メディアが距離を縮めた現在においても、ロンドンを拠点とする理由は何でしょうか?
吉田:トクマルシューゴさんなんかもそうですよね。先日彼のロンドン公演に遊びに行って来たんですが、ソールドアウトだったし、とても盛り上がっていました。僕がロンドンに拠点を置く理由は、単純に僕がいち音楽ファンとして、この街のシーンに魅力感じているからですね。やっぱり現場でしか養われない感覚というのは確かにあると思うので。先にも述べた通り、僕は見えにくいながらも、そういう同時代性を感じさせる要素を自分の音楽にも反映させるようにしているので。
■ところでUKの暴動についてはどのように思っていますか? いろいろな意見がありますが、吉田くんの意見も聞かせてください。
吉田:報道によってはイギリスの景気の悪さや、保守政権による政策にやり場の無い不満を感じている市民が団結した結果だとされているみたいですが、実際に大きな被害が出たのは貧困層が密集しているいち部の地域だけだし、あれがイギリス国民の大多数の意思によるものではないと思います。ただ騒ぎたい人びとがいて、ひと握りの人たちがそれに便乗したということだと思います。とはいえ、もちろんそういう事態を招いてしまうような風潮がいまのイギリスに漂ってしまっているのは事実だと思います。
■ビョークの『バイオフィリア』は吉田くん的にはどうでしたか?
吉田:個人的には期待していたほどの作品ではなかったですね。マルチメディアを駆使するなど、作品のコンセプトには彼女のアーティストとしての野心が反映されているのかもしれないけど、実際のアルバムに収録されている楽曲郡には、かつてのような輝きを感じることが出来なかったので。
■最後に2012年の豊富をどうぞ。
吉田:やっぱりたくさんライヴをしたいですね。2月からはヨーロッパとUKを回るツアーに出ます。4月には日本に行く予定で、4月21日、22日にスタジオコーストで開催される〈ソナー・サウンド・トーキョー〉に出演することが決定していて、いまからとても楽しみです。
■じゃあ、そのときに会えるのを楽しみにしています。最後に吉田くんにとっての2011年のトップ10アルバムを教えてください。
Top 10 Albums of 2011 by Anchorsong
1. Feist "Metals"
2. Lykke Li" "Wounded Rhymes"
3. James Blake "James Blake"
4. Sandro Perri "Impossibole Spaces"
5. Gang Gang Dance "Eye Contact"
6. Oneohtrix Point Never "Replica"
7. Jay-Z & Knaye West "Watch the Throne"
8. Little Dragon "Ritual Union"
9. Zomby "Dedication"
10. Jens Lekman "An Argument With Myself"


































