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Derrick May

Derrick May

Heartbeat Presents Mixed By Derrick May×Air Vol.2

ラストラム

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野田 努 Dec 26,2011 UP

 3.11以降、相次ぐ来日キャンセルのなか、むしろ勇んで予定よりも早く来日したことは、実にデリック・メイらしい行動だった。あのいかんともしがたい凍り付くような不安のなか、彼はやって来て、ドミューンへの出演を直訴し、そして「放射能を浴びに来たゴジラか」と宇川直宏をはんぶん呆れさせるところが、良くも悪くもまあ、デリック・メイというDJの魅力にもつながっている。身体と感情が先走ってしまうのだ。理屈はたぶんあとからついてくる。賢明な人なら、普通はあのタイミングで来ないわな。
 震災直後だから当然クラブ営業も停止状態で、自分のスケジュールもキャンセルされたというのに、彼がなぜあのとき来たかと言えば、理由は簡単、好きだから、ただそれだけ。日本びいきと言われる外国のミュージシャンは多いけれど、デリック・メイの場合は本気で、好きなんだと思う、自分が知っている日本とこの国の貴婦人がたを。正直なところいまだに僕には、彼がなぜ、どうしてここまで本気で好きなのかよくわからない。俺らってそんなに良かった? と思う。ただ、彼はとにかく好きなのだ。その証拠に通算3枚目のミックスCD『Derrick May×Air Vol.2』もまた日本でのリリース。
 ライナーノーツにも書いたように、僕はあの気まぐれな男が、まあこう言っては何だが、ミックスCDを、今回本当に出すとは思っていなかった。前回の『Vol.1』のときは13年ぶりという、久しぶりだという価値があったが、今回はおよそ2年ぶり、彼の知名度や評価、実績や人気を思えばこれを出す必然性はなかったように考えるのが当然だ。つまりこれが出たこと自体がいくら「好き」とはいえ、驚きだった。リリースの背後には3.11も関係しているだろう。このミックスの音源のレーベルの方からCDRをいただいたときに、ああ、ホントに出るんだと漠然と思った。

 オープニングは彼のDJではお馴染みのフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの"ウェルカム・トゥ・プレジャードーム"。このセックス賛歌はガラージ・クラシックとしても知られている。ミックスの展開は、もういつものデリック・メイだが、選曲にはクニユキやカイト、ヒロシ・ワタナベといった日本人のトラックが目に付く(かつて日本に住んでいたレニー・フォスターのトラックも収録されている)。それから、流れにアクセントを付けているのはラテン系のハウス(現在のイタリア、もしくはスペイン)、あるいはクァンティックのトライバルなハウス......と、何か特別に懲ったりもしない、ファンには充分過ぎるほどわかっているいつものデリック・メイだ。少々雑だが、思い切りの良さがあり、寛容さと愛情のこもったミックスである。ブースのなかで大汗をかいて身体を揺らしているデトロイトの男にとって、これが最良のやり方なのだ。
 CDは30分を経過したところで、日本語の「生きててよかった」という言葉が入る。デトロイトの〈テクノティカ〉から2004年リリースされたゲイリー・マーティンのトラックのフタゴ・ブラザースによるリミックスだが、その言葉の意味をデリック・メイは知らずにそのトラックを使ったという話だ。それでもこういう具合に、意味深な展開になってしまうのもこの人らしいというか......しかし「生きててよかった」のか「悪かった」のか、まあ、「良かったのだろう」、そういう風に、人をとりあえず前向きにさせる力もいつものデリック・メイ。応急処置かもしれないが、前向きさを感じることは健康に良い。

 彼は年末の〈SOUND MUSEUM VISION〉のカウントダウン・パーティのために来日する。その2日前の29日のドミューンにもデリック・メイは出演する(ちなみにデリックの前のDJはムードマン、意外なことに初共演?)。もし読者のなかにハウス・ミュージックをこれから試しに体験したいと思っている人がいたら、デリック・メイのDJを聴くと良い。生きていることは楽しむこと、rhythim is rhythim, life is life...

野田 努