〈エディションズ・メゴ〉のクオリティの高さは折紙付きである。クリスチャン・フェネス&ジム・オルーク、ピタ、クララ・ルイス、トーマス・ブリンクマン、オーレン・アンバーチ、などなど、今年も安定して充実した作品をリリースしてきた同レーベルだが、このたびフロリアン・ヘッカーの新作のリリースがアナウンスされた。どうやら同レーベルは来年も刺戟的な作品を世に送り出してくれるようである。
これまでも主に〈エディションズ・メゴ〉を中心に作品を発表してきたヘッカーは、フランスの哲学者クァンタン・メイヤスーとコラボレイトした経験もあり、ある意味ではいま最も知的なサウンド・アーティストだと言うことができるかもしれない(因みに彼は10年前に〈リフレックス〉からも作品をリリースしている)。
気になる新作のタイトルは『A Script For Machine Synthesis』で、2017年2月24日に〈エディションズ・メゴ〉よりリリースされる。フォーマットはCDと配信の2種類。今回のアルバムでヘッカーはイラン出身の哲学者レザ・ネガレスタニ(Reza Negarestani)とコラボレイトしており、このふたりがタッグを組むのは『Chimärisation』(2012年)、『Articulação』(2014年)に続いて3度目ということになる。
内容はサウンドとテクストから構成されるコンセプチュアルなものになっているようで、アルバムは“Prologue”、“A Script For Machine Synthesis”、“Credits”という3つのパートに分かれている。長さはそれぞれ7秒、57分21秒、3分13秒。現在、3曲目のトラック“Credits”が公開されているが、加工された音声のみから成るこのトラックは、実質的にはアウトロのようなものだろう。はたしてアルバムの全貌はどのようなものになっているのか――とりあえずいまはこの謎めいた音声を聴きながら、じっくりと妄想を膨らませておこう。
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コモンの新譜情報を漁っていて見つけた『ローリング・ストーン』の記事には「先行シングル『Black America Again』のアウトロでスティーヴィー・ワンダーは歌う:『山のような問題を解決するひとつの手段として、人を自分にとって大切な誰かであるかのように思うこと(以下略)』」などと書かれていたので、あれ、これはジェームズ・ブラウンのMC音源のサンプリング部分のことでは、てか『ローリング・ストーン』誌ともあろうものがこんな間違いをするだろうか、とコメント欄を開くと「スティーヴィーじゃない、JBだよ」というどこかの誰かの呆れたような短い一文がぽつんと書かれているだけで別に訂正もされていないところを見ると、ひょっとすると誰もこの曲について大した関心は持たなかったのではないか、と思えてくる。
しかし、いくら何でもJBとスティーヴィーを取り違えたままでいいものだろうか。
シカゴ出身のラッパー、コモンの11作目となるアルバム『Black America Again』がアメリカでリリースされたのは11月4日、米大統領選投票日の4日前である。「(ま、いろいろ突っ込みどころはあるけど)どうせヒラリーじゃね?(盛り上がんねぇなぁ)」といった物見遊山なムードだけを感じつつぼんやり日本から眺めていた自分は日本時間の11月9日頃にはやべえ、やばいけど落ち着け、などと極めて凡庸にうろたえておりました。そんな中でふと、本当に偶々コモンの『Black America Again』を耳にして、ああアメリカにはこの人がいた、とようやく自然な呼吸ができるように思えたのでした。
選挙後、同じくシカゴ出身のカニエ・ウエストが、あたかも面白ポップにひねり過ぎて自分自身を捩じ切ってしまったかのような先月の惨状とは際立って対照的に、かつてカニエと組んで『Be』(2005)/『Finding Forever』(2007)などのヒット作を飛ばしたコモンが見せる姿勢は今作もほとんど揺るがない。相変わらず重層的にメロディアスであることも、生真面目に「一枚目」を務めることなど躊躇わない様子も、先人の遺産への深い敬意と愛着を失わないことも全て含め、何はともあれキャッチーに売れなくては、といった発想ではないのが清々しい。件のシングル「Black America Again」の20分を越すロング・ヴァージョンPVなどはさながら実験映画のようでもあるし。
アルバムとしては自伝的なリリックにTasha Cobbsのヴォーカルで締めくくられる14曲目“Little Chicago Boy”でシミジミと終わる、というのが無難に常道なやり方であるはずなところにボーナス・トラックのごとく足された(奴隷制廃止から現在に至る150年間の連続性を扱ったAva DuVernay監督のドキュメンタリー長編『13th』(2016)で使用された曲とのこと)15曲目“Letter To The Free”が、そんなリラックス・ムードで聴いている人間に軽く平手打ちを喰らわすかのように鳴り響いてくる。
「俺らが吊るされた南部の木、その葉」という、ビリー・ホリデイの“奇妙な果実”を本歌取りした一節から始まるこの曲は畳み掛けるように「The same hate they say will make America great again」とトランプの選挙戦キャッチフレーズを折り込み、「Freedom, Freedom come, Hold on, Won't be long」というチャントで終わる。そんなラスト曲を繰り返し聴いていると、元々は『Little Chicago Boy』にする予定だったらしいアルバム・タイトルを『Black America Again』に改めた彼の確かな危機感も伝わってくる。そう言えば、ずっとクリントンを応援していたアメリカの友人(黒人ではないがゲイの映像作家)のことが心配になり、でも事情を何も知らないジャパニーズがいまさら何と声を掛ければ良いもんやら、と途方に暮れながらも投票日から数日後に短いメールを送ったところ速攻で「今や皆がアクティヴィストになっている。確かに解き放たれた感はあるがしかし、この恐怖はリアルなものだ」とこれまた短い返信があった。
実は冒頭に触れた『Black America Again』について書かれた記事で「アウトロでスティーヴィー・ワンダーが歌う」という記述は間違いではないのであるが、致命的なことにラインが違う。ジェームス・ブラウンの語りに続いてスティーヴィーが10回以上繰り返し実際に「歌う」のは「We are rewriting the black American story(ブラック・アメリカンの物語を書き直すのだ)」というワンフレーズである。果たして歴史なり現実なりが「物語」に回収されていいものだろうか? とは思うものの、何かが危機に瀕しているらしい時に人びとをユナイトさせるのは良かれ悪しかれある種の「物語」である、というのもまた事実である。
真面目な正論っていつだって何だか息苦しい(よね)、という時代が妙に長すぎたせいか、最早ポップなものは多かれ少なかれふざけたアティテュードをまぶさないと拡がらない、といった情勢は末期的ではありつつもまだ今のところ隆盛だ。が、コレ面白いから見て見て見て(聞いて聞いて聞いて)と氾濫する情報に窒息しそうな自身に気付いた時、ド直球にまともな作品に触れることでこれだけ楽に息ができるのだ、という現実はどう考えても未だ経験したことのない感覚である。
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太平洋の両岸で社会的な動乱が続く2010年代なかば、日米はトラップの時代にあると言っていい。一方で現在の東京の地下では本当にさまざまな音が鳴っている。パーティ・オリエンテッドなトラップから本格的なギャングスタ・ラップ、けして懐古主義になることのない職人肌のブーン・バップ…。そんな中でも、KANDYTOWNのメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』は、日本のヒップホップ生誕の地、東京のインナーシティに受け継がれる音楽文化のクールネスを結晶化したマスターピースと呼ぶに相応しい。もともと幼なじみでもある世田谷区喜多見を拠点とする総勢16名のこのクルーは、中心人物だったYUSHIを昨年2月に不慮の事故によって失いつつも、けしてその歩みを止めることはなかった。12月22日にはリキッド・ルームでのフリー・クリスマス・ライヴの開催も告知されている。
ハイプに盛り上がる周囲の喧噪をよそに、KANDYTOWNはあくまで寡黙でマイペースだ。彼らはテレビ番組をきっかけにしたラップ・ブームとも、いまやメイン・ストリームを担いつつあるトラップとも、一定の距離感をキープしている。5年前に震災の暗闇を経験し、いまは4年後のオリンピックにむけてバブリーにざわめく2016年の東京のストリート。マシン・ビートによるトラップの赤裸々なリアリティ・ラップが注目を集める中、KANDYTOWNは1990年代以来の日本のヒップホップの蓄積を正統に継承するサンプリング・サウンドにのせて、強烈なロマンティシズムを描いている。2000年代以降の日本語ラップのリアリズムがつねに時代を切り取ろうと腐心してきたとすれば、彼らに感じるのは、むしろシネマティックな想像力で時代を塗り替えようとする野心だ。考えようによっては、彼らはとても反時代的な存在でもある。
現在のラップ・ブームの火付け役となった〈フリースタイル・ダンジョン〉は、日本語ラップの「ダディ」であるZEEBRAをオーガナイザーに据え、いとうせいこうという先駆者をキャスティングすることで、黎明期から現在にいたるまでの日本のヒップホップの歴史をうまくパッケージしている。しかし、この10年の冬の時代にアンダーグラウンドなハスリング・ラップの台頭を経験し、震災後にはトラップの本格流入を経由した現在の日本のシーンは、より複雑で多層的だ。断片化と呼んでもいいかもしれない。今回のインタヴューでは、コレクティヴ名義での初オフィシャル・アルバムの制作プロセス、そしてほかでもない2016年にこのアルバムがリリースされた意味を探った。参加したのは、IO、YOUNG JUJU、KIKUMARU、GOTTZ、Ryohu、Neetz、そしてA&RとしてクレジットされたOKAMOTO’Sのオカモトレイジだ。
──アルバム『KANDYTOWN』について
本当にいままでどおりライヴが終わったあとに誰かの家に行って曲を書くみたいな、遊びの延長線上で作ったのがこれですね。(Neetz)
最初で最後かもしれないのでお聴き頂ければと思います。(Ryohu)
■まずはアルバムのリリースおめでとうございます。今年2月のYUSHIさんの一周忌にリリースされたIOさんのアルバムを皮切りに、それぞれのソロ・ワークも順調に出していって…ついにKANDYTOWNとしてオフィシャルなデビュー盤ということで。メジャーでのレコーディングにあたって、なにかこれまでとの違いはありましたか?
Neetz:いや、そんなことはまったくなかったですね。
■じゃあレコーディングの日程は順調に進んだ感じですか?
Neetz:わりとスムーズにいったとは思います。
■Illicit Tsuboiさんのところで合宿的なことをしたと耳にしたのですが。
IO:合宿というほどでもないと思います。
JUJU:でも2、3日連続でスタジオを空けておいてもらって、行けるメンバーがその間に行って、途中で家帰ったりするヤツもいればまた来るヤツもいるみたいな、そういう状態だったと思います。
■インディでリリースした『KOLD TAPE』や『BLAKK MOTEL』、『KRUISE』は基本的にNeetzさんの991スタジオですよね?
Neetz:そうですね。基本は991スタジオでやっていました。
■Illicit Tsuboiさんといえば名だたるプロデューサーですが、作業環境が変わったことでの新鮮味はありましたか? 具体的にどういったところが変わりましたか?
GOTTZ:やっぱり全然違いましたね。やっぱり機材が違いますし、Neetzのはベッドルームを開けてやっているスタジオなので宅録という感じなんですけど。全然違ったよね?
KIKUMARU:もう最初初めて声を出したときの録り音が違いましたね。
Ryohu:Tsuboiさんが一人ひとりRECしているときにもうそれぞれのバランスを調整して、EQとかコンプとか全部一人ひとり弄ったりしていて細かいところから違いましたね。
■新たなステージでどんなアルバムになるのかなと思っていたのですが、とくに構成がよく練られていると思いました。まずは派手なパーティ・チューンでスタートして、心地よい横ノリの曲で引っ張って、インタールードでブレイク・ダウンした後はメロウに、そして最後はまたドラマティックに盛り上げていく。こうした構成は最初から頭にあったんですか?
Neetz:最初はなくて、とりあえず曲をめっちゃ録っておこうというところから始まって、最終的にできたものを曲順に並べてああなったという感じですかね。でも最初はできた曲を録りまくろうという話で、カッコいい曲を録ろうという意識でしたね。
■自分で作った作品は完成後に聴くほうですか? 今回のアルバムを客観的に聴いてみて思うところがあれば。
Neetz:普段はあんまり聴かないですね。
GOTTZ:いまはまだ聴いている最中、という感じですね。
Neetz:作るときからあまり意識はしていないので、いまできたものがこれなんだなという感じですね。
■飄々としてますね。
Neetz:これからもそのスタンスは変わらないですね。だから意外とこのアルバムに熱意をこめてというわけでもなく、『BLAKK MOTEL』もそうだったし『Kruise』もそうだったし、本当にいままでどおりライヴが終わったあとに誰かの家に行って曲を書くみたいな、遊びの延長線上で作ったのがこれですね。
■事実上のリード・トラックの “R.T.N.”にはYUSHIさんの名前がクレジットされてます。IOさんのファースト・アルバムの一曲目の“Check My Leadge”でもYUSHIさんのラップがフィーチャーされてたし…すごく象徴的に感じました。
JUJU:あの曲はYUSHIがメインで作って、MIKIが軽く足したくらいだと思うんですけど。二人が留学中に作っていた曲ですね。
レイジ:でもほぼほぼYUSHIって感じがするよね。
JUJU:うん、音的にYUSHIだしね。4年前くらいにはあった曲で、多分覚えていないと思うけど当時IOくんとかが録っていましたね。でも当時からバンクロールでやろうとしていて楽しみだねと話していたんだけど、みんなそのビートのこと忘れていて、アルバムを作り始めようというときにMIKIが「このビートあるよ」と聴かせて、ワーッという感じになりましたね。
■ほかに序盤で印象的なのは、“Twentyfive”はI.N.Iの有名な曲と同じネタで、ただハットの打ち方が今っぽいですね。
Neetz:そうですね。ピート・ロックが使っているやつ。けっこう使われていたので、叩き方を新しくして新しい感じの音にしようかなと思ってああなりましたね。
JUJU:あれはNeetzがフックを作るのに困っていましたね。
Neetz:そうですね。フックがけっこういい感じで決まったというのが大きいし、みんなもラップをカッコよくカマしてくれましたね。
■Neetzさんはいつもどんな風にビート・メイクしてますか? キャンディのトラックは、ビートというよりは上ネタのメロウネスが強く印象に残るイメージなんですが。
Neetz:そうですね。まずは上ネタからですね。まず上ネタを探して、ループしたりチョップしたりして、だいたいそのあとにドラムを付け足してという感じですね。このアルバムではとくに、元の素材を活かす曲が多かったかもしれないですね。
■それは意識して?
Neetz:けっこう意識的かも。
■影響を受けたトラック・メイカーはいますか? このまえレイジくんから、一時期はみんなプリモのビートでしかラップしなかったといういい話を聞いて(笑)。
Neetz:うーん、俺はジャスト・ブレイズとかドクター・ドレーとかけっこう王道なところですね。
■どこかでDJ ダヒがフェイヴァリットだと目にしたのですが。
Neetz:DJ ダヒはそのときにちょうどハマっていたので(笑)。基本はさっき言ったような王道のヤツです。
■日米のいわゆる90’Sサウンドは聴いたりしますか? ニューヨークならプロエラとかビースト・コースト周辺だったり、日本だとたとえばIOさんのアルバムが出たとき、どこかのショップの限定の特典で“DIG 2 ME”のISSUGIさんリミックスがあったと思うのですが。
Neetz:プロ・エラは聴いているけど僕らはそんなに影響を受けたりしてないですね。ISSUGIさんのリミックスは聴いたことないな。
上の世代の人たちとは、俺らはあまり交流はないですね。IOくんはブート・ストリートのときからJASHWONさんたちにはお世話になっていて。(JUJU)
IOがブートで働いていたというのが意外だよね。いいよね。(レイジ)
■言ってしまえば、キャンディはブーン・バップ的な90’sヒップホップの新世代として位置づけられていると思うのですが、いわゆる上の世代の人たちと繋がっているわけではない?
IO:Fla$shBackSのKID FRESINOだったり、FebbとjjjはJUJUのアルバムで一緒にやっていたりしますね。
■ほぼ同世代のFla$shBackSのほうとはつながりがありますね。
JUJU:上の世代の人たちとは、俺らはあまり交流はないですね。IOくんはブート・ストリートのときからJASHWONさんたちにはお世話になっていて。
レイジ:IOがブートで働いていたというのが意外だよね。いいよね。
一同:(笑)
JUJU:めっちゃいい。
■高校を辞めて働いてたんでしたっけ?
IO:はい。
JUJU:グロウ・アラウンドで働いているヤツもいて、そういう宇田川の繋がりがあるんですけどそこくらいだよね。
■じゃあラップについてお伺いします。キャンディといえばワードチョイスが独特だと言われていますが、今回この曲の作詞は苦労したということや、これはこういうトピックに挑戦してみたということはありますか?
JUJU:一切ないですね。
一同:(笑)
JUJU:メジャーに行ってどうだったということは多分みんなないし、トピックをどうしようとかもKANDYTOWNにはほとんどないし、この人に向けて歌おうとかそういうことも言わないから……あんまりないよね?
Ryohu:でも幻のバースとかありますよ。
■カットされたりもするということで。ひとつのビートでラップをするメンバーはどうやって決めてますか?
JUJU:挙手制と推薦制がありますね。バランス制もある。
■そのバランスを判断するのは誰?
JUJU:みんなですね。
GOTTZ:でも基本的にラップに関してはビート・メイカー・チームじゃないですか。
■なるほど。今回のアルバムはビートはNeetzさんにくわえてMIKIさんとRyohuさんがクレジットされてますね。
Ryohu:はい。
GOTTZ:あとはミネソタとか。わりとそっち側で話し合っていたんじゃないですかね。
■Ryohuさんは今回トラック・メイカーとして二曲担当していますが、Ryohuさんといえばやはりシンガーとしての役回りもあります。メンバーのなかにこれだけうまく歌える人がいるのは特色のひとつだと思うのですが。
Ryohu:うーん、欲をいえば、俺は本当は女性シンガーが欲しいですね(笑)。
■Ryohuさんの歌声はフェミニンなやわらかさがあって、これだけバランスよく歌がハマっているのはそのおかげかなと考えてました。
Ryohu:でもJUJUもいいフックを作るし、「ペーパー・チェイス、福沢諭吉」のラインなんて考えつかないし(笑)。IOもフック作ったりできるし、僕はそんなに意識してはいないしあんまり考えていないですけどね。できないことはできないし、できるヤツにやってもらってというのはなんとなくあります。
■みんなソロ活動を活発に行なってますが、KANDYTOWNとして集まったときに自然に出てくるムードみたいなものはありますか?
Ryohu:KANDYTOWNとおのおののソロはまたちょっと違うはずで、それこそJUJU新しいアルバムも違うし。
JUJU:俺のは全然違いますね。多分ショッキングな感じだと思います。
Ryohu:はは!(笑)
■MASSHOLEさんプロデュースの先行シングル“THE WAY”からしてダークでドスのきいた感じで。
JUJU:ああいう系もあるし、ちょっとトラップっぽいのもあるしいろいろあるっす。このあいだ改めてキャンディのほうを聴いて、全然違うと思ってびっくりしましたね。集まるとみんなにとってああいうビートのチョイスが程良いというか、Neetzのビートはみんな出すぎず下がりすぎずという感じが保てますね。
■Neetzさんは他のラッパーに曲を提供する機会は増えてきました?
Neetz:いまのところほとんどないですね。本当キャンディ内だけなんで、これからやっていこうという感じですかね。ただ黙々と作っているというか。
■この1年くらいでいろんなイベントに出演することも増えて、全然スタイルの違うアーティストと一緒になることもあると思います。そのことの影響はありますか?
JUJU:同い年で頑張っているヤツもいるし、ポジティヴに制作を頑張ろうという影響は受けますけど、あんまり具体的な影響はないよね。
Neetz:あんまり影響されないですね。どちらかというと例えばRyohuが4月にアルバムを出して、WWWとかでかいところでライヴをやったりして、そういうところに刺激を受けますね。
[[SplitPage]]──2016年のシーンについて
むこうにいるキッズは、常にヤバいものが更新されていくわけじゃないですか。だからあいつらの世代のスターはリル・ウェインやT.I.だし、ビギーや2パックを追う前に小学生くらいから自分の世代のスターが目の前にいるから、別に追う必要がないというか。(GOTTZ)
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■いま日米問わずトラップの時代みたいなところがあるじゃないですか。アメリカだとそれに対してケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークといった90年代回帰の流れもある。このまえ、アトランタのリル・ヨッティというトラップのラッパーが、2パックとビギーなんて5曲も知らねえよ、みたいな発言をして、それがちょっとした議論になって…。
Ryohu:ヨッティが「そんなの知らなくてもいいじゃん」って言ったヤツですよね。
JUJU:それにアンダーソン・パークが噛みついたんですよね。
GOTTZ:「知らないことをいばるな」って(笑)。
一同:(笑)
GOTTZ:日本に住んでいても俺らは日本語のラップをそんなに聴かないから。ようはむこう(アメリカ)のものを掘っているじゃないですか。でもむこうにいるキッズは、常にヤバいものが更新されていくわけじゃないですか。だからあいつらの世代のスターはリル・ウェインやT.I.だし、ビギーや2パックを追う前に小学生くらいから自分の世代のスターが目の前にいるから、別に追う必要がないというか。そのナウだけを聴いていたらそうなるんじゃないですか。
■じゃあどちらかというとヨッティ派?(笑)
GOTTZ:いや、俺はもちろんアンダーソン・パークの言っていることもわかりますよ(笑)。
JUJU:kiLLaとか日本の若い子もきっとそうなんですよ。一緒に遊んで2パックの曲とかをかけてても知らなかったりするし、いまの若い子は本当にそうなんだと思う。別になんとも思わないけど、知ってたほうがいいとは思うし「カッコいいのになんで?」と思うだけ(笑)。
GOTTZ:ヨッティのあれは、元々チーフ・キーフが言った言葉に対してなんじゃないですか? あれはチーフ・キーフが最初に「俺はビギーも2パックもほとんど知らねえよ」と言ってたんですよ、たしか。
■まあことさらトラップとヒップホップを対立的にとらえる必要もないとは思うんですが、オーセンティックなヒップホップが過去のブラック・ミュージックから続く歴史性を背負っている部分が強いのに対して、たとえばヨッティなんかは韓国のBIG BANGの大ファンだったり、ネット時代というか、グローバル時代ならではのポスト・モダン的な側面がより強く出てる印象があります。日本だとBCDMGは宇田川を拠点として、トラップもやればブーン・バップもやる、ようは断片化したシーンをきちんと俯瞰する王道的な仕事を意識的にやってる。KANDYTOWNは世田谷ローカルの仲間たちで好き勝手にやってきた部分もあるけれど、言ってみれば昔ながらの東京のインナーシティのヒップホップのクールネスをオーセンティックに継承しているところもあって。
IO:俺とJUJUとDONYがBCDMGに所属してプレイヤーとしてやっていて、ああいうところにキャンディがあるというよりは、どちらかというとキャンディは帰ってくる場所というか。
やっぱり地元から愛されているヤツは間違いないと思うから、そういうところを見て俺もやろうと思ったし……(JUJU)
■日本の同時代のトラップ・アーティストを聴いてフィールすることはありますか?
JUJU:そんなに聴いてるわけじゃないですけど、俺は会ったら喋るし普通に仲いいです。曲を作ろうという話はしますし、YDIZZYとかkiLLa組は「曲聴いてください」といって送ってくるからそういうときは聴きますね。(KANDYTOWNの)みんなが聴くというのは聞いたことないし見たこともないですね。みんなが自発的に誰か他のアーティストの曲をかけてるのはないです。
Neetz:俺は日本語ラップだとKANDYTOWNしか聴いてないです。
一同:(笑)
JUJU:そういう感じなんで、そこに関してはみんなリル・ヨッティって感じですね。
GOTTZ:あ、でもRYUGO ISHIDAの“YRB”(ヤング・リッチ・ボーイ)はけっこう聴いてたけどね。中毒性がある感じ(笑)。
JUJU:まあ別にトラップをそんなに意識して聴かないですね。
IO:ポジティヴなことを言うといろんな色があって、聴く人にとってもいろんな選択肢があるなかで俺らにフィールしたら聴いてくれればいいと思う。ただいまヒップホップ・ブームと言われているじゃないですか? それがブームで終わらないで根づいていければカルチャーになるし、先の世代がラッパーになったらリッチになれるという本当にアメリカみたいな文化になればいいと思うっすね。
■BCDMGのコンピレーションではSWEET WILLIAM さん、唾奇さんとジョインした”SAME AS”が印象に残ってます。オデッセイの“ウィークエンド・ラヴァー”のネタで唾奇さんが「時給700と800」ってぶっちゃける感じのラップを最初にかまして、フックで「fameじゃ満ちないpainとliving」とJUJUさんが応えてて…IOさんが時どき使う「チープ・シャンペン」ってワードじゃないけど、単にきらびやかなだけじゃないKANDYTOWNの魅力が引き出されてる感じがしました。
JUJU:唾奇とかはすごくいいと思うというか、いまの時代だとお金があるように見せがちだと思うんですよ。でもああいう感じで来るじゃないですか。沖縄にライヴをしに行ったときに沖縄の人たちの唾奇に対するプロップスがハンパなくて、みんな歌ってたし「おい! 唾奇ぃ!」みたいな感じになっていて、それがすごくいいなと思ったんですよ。やっぱり地元から愛されているヤツは間違いないと思うから、そういうところを見て俺もやろうと思ったし、なによりIOくんが「唾奇とやるからやろうぜ」と言ってきてくれて、IOくんが言ってるならと思って、一緒にやったんですよ。
IO:唾奇は単純にカッコいいんです。俺のスタイルとは違うけど、俺にないものを持ってるし、やろうと思ってもできないスタイルでやっていて、そこにカッコいいと思う部分がある。だからシンプルに一緒に曲をやってみたいと思いました。
■じゃああのコラボレーションはIOさんから持ち込んだ感じですか?
IO:ですね。
レイジ:あとそうだ。シーンとのつながりで言うと、あまり明かされていないんですけど、意外とSIMI LABと仲いいんですよね。いまはもう影響を受けたりしていないと思うし一緒にやっていないけど、俺から聞きたいんだけど、昔一緒につるんでたときは、オムスとかQNから影響受けたりしたの?
JUJU:俺はラップを始めたときにYUSHIとQNくんが一番近くにいてくれたからね。
レイジ:QNが最初にヤング・ジュジュをプロデュースしようとしてたのも、もう5、6年前だよね。
JUJU:そのときは本当に恵まれていたというか、周りの人がスゲえと言っている2人がいつも遊びに連れて行ってくれて、リリック書けとか一言も言われたことないけど、あの人たちは「やる」となったら15分でビートを作って、10分でリリックを書いて、5分で録って、(そのペースで)1日5曲録るみたいな人たちだったからそれに付いてやっていて、音楽への姿勢はあの2人から影響を受けましたね。フラフラしてるんだけど、レコ屋に入ってビートを選んだら家に帰って作り出すまでがすごく早いというか。「バン!」となったらしっかりやるという感じだったり、当時はすごく影響を受けたと思いますね。
レイジ:ちゃんと盤になった音源で、一番最初に世に出たYOUNG JUJUのラップって“Ghost”だっけ?
JUJU:うーん、IOくんたちともやってた曲があったと思うけど、ちゃんと流通されたのはそうかもしれない。
レイジ:QNのサード・アルバムに入っている曲だよね。そこの繋がりはみんな知らないだろうけどけっこう古いもんね。
Ryohu:意外とね。でも感覚的にはKANDYTOWNと同じというか。
レイジ:そうとう近いし、ずっと一緒にやってたもんね。中山フェスタとか一緒に出てたし。
JUJU:YUSHIの家に泊まるときも、オムスくんがいてIOくんがいてRyohuくんがいてみたいに意味わかんない感じだったもんね。
レイジ:オムスとQNが遊ぶのもYUSHIの家だったしなあ。
■黎明期のその時期、相模原と喜多見のコネクションがあったということですか?
JUJU:SIMI LABのマイスペースかなにかに「ウィード・カット」(YUSHIの別名義。ドカット)って入ってたのを俺が見つけて、「YUSHI、SIMI LAB入ってんだ。名前入ってたよ」と言ったら、「絶対入ってねえ。いまから電話する」と言って電話して「俺入ってねえから!」とずっと言っていたことがあったりしましたね。
レイジ:SIMI LABの結成前からつるんでるんだよね?
Ryohu:いまの感じになる前からだね。
JUJU:QNくんがずっとYUSHIをSIMI LABに入れたがっていて「名前だけでもいいから入ってくれ」と言っているのを俺は見てたけど、YUSHIは「俺はBANKROLLだから無理」みたいなことをずっと言ってましたね。
■それはYUSHIさんはBANKROLLでバンといきたいから、ということで?
レイジ:いや、BANKROLLはもうKANDYTOWN内でバーンと行ってたっす(笑)。
JUJU:俺はBANKROLLを見て好きになっていってラップやったり、周りの同い年のヤツや年下のヤツがBANKROLLを好きになっていった雰囲気がKANDYTOWNの流れとすごく似ている気がしているから、みんな(KANDYTOWNを)好きになるんじゃねえかなとほんのり感じてますね。あのとき俺がヒップホップを好きになっていった感じとこの流れの感覚が近いというか、いまこうやってBAKROLLと曲を出したりしているのがなにかあるといいなと俺は信じてますね。
■聞いていると、なにかヒップホップよりも先に出会いや絆がある感じですね。
Ryohu:そうですね。だから表現がヒップホップだったというだけで、というかそれしかできないということもあるんだけど(笑)。いまさらギターとか弾けないし。
■ニューヨークでもクイーンズとブロンクス、ハーレムとかでそれぞれ色があるじゃないですか。東京もそんな感じになってきたと思います。
JUJU:日本はそれがまだすこしできていない部分があるというか、認め合うことがないというか、出てきた人をどうしても蹴落としちゃうような風潮があるんじゃないかなと感じますね。でもやっぱり下から人は出てくるものだし、それは認めなきゃいけないし、それに勝る色を持ってなければいけないし、人のことをとやかく言うよりも自分の色をしっかり持って、いろんな色があるのがヒップホップなんだということを世間の人がわかってくれれば、もっと面白くなると思いますね。
──ラップ・ブームについて
結局自分たちがカッコいいと思うことをやっているので、別にどう解釈されてもいいんですね。リリックにも出てくるんですけど「ホント気にしない」って感じですね。(KIKUMARU)
■いまヒップホップ・シーンを考えると〈フリースタイル・ダンジョン〉という番組の影響はかなり大きいと思うのですが、この前KIKUMARUさんとBSCさんとディアンさんで出演されていましたよね。あれはどういう経緯で?
KIKUMARU:話が来て、3人での出演にルールが変わったと言われたんで、それでやるんだったらあの3人でやるよ、という感じでした。
Ryohu:それこそKIKUMARUはBボーイ・パークで優勝してるんで、キャンディでは一番バトルをしっかりやって成績も残ってるし、ちゃんと実力もあるかなという。
Neetz:シーンに名前が出たのはKIKUMARUが一番早かったですね。
KIKUMARU:5年前くらいですね。
IO:(小声で)それ知らないですね。
一同:(笑)
■いまのバトル・ブームについてなにかあれば。
Neetz:俺はポジティヴだと思うんですけどね。それがヒップホップかと言われればわかんないですけど、そこが入り口になって自分の好きなところに行き当たってくれればいいと思うし、実際みんなフリースタイルしててすごいなと思うし。自分がクールだと思っていることがそこにあるかと言ったらないですけど、あれはあれで俺はすごいなと思う。
JUJU:ある種のスポーツですよね。
IO:俺にはできないことだと思う。それが日本のテレビに映ってて、いままでになかったことだし、色んな捉え方はあると思うけどポジティヴなことだと思う。ブームで終わらずに、根づいていって、ラッパーで成功すれば、リッチになれるというのが当たり前の文化になればいいなと思います。
■レイジくんはどうですか?
レイジ:バトルっすか? あれはラップであってヒップホップではないかなというか、べつにあそこの勝ち負けには興味ないんじゃない。ヒップホップというよりかは、あれはとにかくラップという歌唱法が流行っている感じがする。
■スタイルとしてのヒップホップと歌唱法としてのラップを分けて、だけどいまはそういうヒップホップという言葉の重みが嫌で、意識的にラップって言葉を使う人たちもいますね。
JUJU:うーん、でも、みんなやることやろうって感じですね。
レイジ:俺が見ているとKANDYTOWNというもの自体がシーンみたいな感じなんですよね。ここのメンバー同士で影響を受けあってるし、メンバー同士で盛り上がって成長していってるシーンという感じだから、メンバーが増えたり減ったりすることはないだろうけど、他のひとになに言われても全部「ああ、まあいいんじゃないですか」って感じだと思う。
■たとえばひと昔まえのアーティストがメジャー・シーンに切り込んでいくときには、良くも悪くもヒップホップとか日本語ラップのシーンをレプリゼントしているような感覚があったと思います。だけどシーン自体がこれだけ多様化しているいま、どれだけそういう感覚があるのか。KANDYTOWNはどうですか?
JUJU:全然ないっすよね。
Neetz:喜多見って感じするよね。
レイジ:KANDYTOWNをレペゼンしているという感じですよね。
KIKUMARU:他人を見てなにか思うところがあっても、いざビートがかかっているところでリリックを書くとなったら、そういうのはみんな関係してないと思いますね。良くも悪くも周りじゃないっていうか。ブームがどうとかもとくに考えてないですね。
レイジ:でもこの人たちはずっとこの人たちだけで生活しているから(笑)、周りの影響は生まれないっすよ。誰々がどうでとかもほとんどなくて、違う世界の人たちだと思うんですよね。
JUJU:うまく説明できないけど、俺らはカッコつけるところが独特というか。でもほかの日本語ラップのヤツに会えば「みんないいヤツじゃん」と思うし、「お互い頑張ろう」ってポジティヴな気持ちになるだけっすね。
■今回のアルバムだと”GET LIGHT”のヴィデオはリーボックのCMもかねたタイアップになってます。最近はラッパーがCMに出る機会も増えてるけれど、あれはそういうブームには関係ない感じというか。
レイジ:あれはマジでヒップホップですよね。
JUJU:でも俺らはあれがそんなに超カッコいいとか、特別だとかは思ってない(笑)。そのへんからちょっと違ってると思いますね。
■そのズレが面白いというか、自分たちは全然シーンを背負っているつもりはないのだけれど、結果的にバトル・ブームとは関係のないところで王道的なスタイルを引き継いで、メジャーなフィールドで勝負してるっていう。そのズレについてはどう思いますか?
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レイジ:メジャー・デビューっていっても、ただ単にメジャーのレーベルから1枚リリースしたというだけだと思うんですよ。
JUJU:アルバム作ってても、メジャーだからどうこうってのは一切ないですね。言っちゃいけないこととかダメだとか言われたことないし、全然なかったよね?
レイジ:気を使ってリリックを変えるとか全然なかった。
JUJU:みんないつも一緒にいるから緊張とかわかんないし、仕事が多くなったとかはあるかもしれないけど変わったことはそんなにないよね。
■ある意味でコミュニティ・ミュージック?
JUJU:そうだと思うけどなあ。RyohuくんやIOくんの新曲のほうが100倍気になるし、俺らは元々世に出さない人たちだから。
レイジ:そうね(笑)。世の中では誰も知らないけど、KANDYTOWN内ではマジでアンセムみたいなヒップホップ・クラシックがいっぱいあるんですよ。この惑星の人たちって感じですよね(笑)。ここは外国ですよ(笑)。
JUJU:「Neetzがこういうビート作ったってよ」というほうが「ヤベえ!」と思うし。
Ryohu:NeetzからのGmailが一番アガるよね。
レイジ:それ最高だね。
Ryohu:あんなにワクワクしてメールを開けることはないかもしれない。
一同:(笑)
レイジ:俺はそこが東京っぽい感じがしますけどね。東京のローカル。東京っていろんなところからいろんな人が来てずっとソワソワしているイメージだけど、そんな東京でもローカルはある。だっていわゆる田舎でも、イケてる人ってその地元に根づいてるじゃないですか。結局東京が都会で地方が田舎ということじゃなくて、場所がどこだろうがイケてるやつはイケてるし、自分のローカルをちゃんと持って、そのなかで周りを気にせずやれているヤツはいる。だからKANDYTOWNが周りのシーンを気にしないというのも別にカッコつけているわけじゃなくて、近場に気になる人がいてそっちにしか興味がないから、NeetzからのGmailがブチあがるとか、そういうのはこの世界があるからなんだ、という。だから江戸っ子ってうのかな。本当の意味で東京の雰囲気でやれている感じがしましたね。
■世田谷の喜多見からKANDYTOWNが出てきて、それはそこにYUSHIさんという人間が1人いたからということがあるじゃないですか。街って、たんに物理的な場所というんじゃなくて、人と人のつながりがつくってる。
レイジ:そうかもしれないっすね。
■通常版のジャケットがYUSHIさんの描いた絵になってます。メジャーで勝負するアルバムの中心に、とてもパーソナルな歴史を置いているということが、そのローカル感の象徴かなと思います。
KIKUMARU:そのジャケはめっちゃ派手だと思いますけどね。そういうジャケってなくないですか(笑)?
JUJU:YUSHIの絵にするアイデアは元からあったと思います。
IO:MIKIと話していてジャケットを絵にしようということになって、YUSHIの家に行ったときに絵を見ていて、ほかにもいっぱいあるんですけど、とりあえずこの絵のインパクトが強くて。アルバムが出来たら、結局それになってました。
IO:たしかレコーディングが終わったくらいかな。
Ryohu:レコーディングが終わってすぐくらいですね。ミックスしている合間に同時進行でアートワークも決めました。
レイジ:通常版はペラペラの紙一枚で、メジャーから出てるのにストリート・アルバム感がハンパないっすよね(笑)。
■今回は豪華版、通常版ともに歌詞カードが入ってません。これはポリシーというか、明確な意志があるんですか?
JUJU:そこはポリシーですね。
レイジ:なんて言ってるんだろうなというワクワクがあるもんね。
Ryohu:聴いてもらえばいいかなと。
Neetz:別に読んでもらえなくてもね。
■YUSHIさんの存在を意識して聴いてみると“GOOD DIE YOUNG”や“THE MAN WHO KEW TOO MUCH”などドキッとするようなタイトルもある。でも別にシャウトアウトしているわけでもないし、このバランスも自然にこうなったんですか?
Ryohu:自然にですね。こういう曲を書こうということも決めていないので、1人が書いてきて「じゃあ俺も(書く)」という感じでしたね。あとはトラックが上がってきてこの曲はこういう風に書こうというのも、例えばNeetzが作ってきたトラックに“Dejavu”と書いてあったら、なんでそう名づけたかはわからないですけどみんな“Dejavu”について書こうみたいな感じでしたね。いままでそういう風に作ってきたのでいままで通りですね。
■YUSHIさんを連想させるといえば、Ryohuさんのソロでいえば“Forever”という曲もありますね。
Ryohu:あれは一応YUSHIについてだけではないですけど、(YUSHIの)命日の日に書いたんですよね。直接的に言うのは嫌だったんで含めながら書きましたけど、(YUSHIが)中心にはいましたね。KANDYTOWNのそれぞれのメンバーにとっても、YUSHIはデカい存在だということですね。絶対出したくないでしょうけど、メンバー全員がそれぞれ思うYUSHIを書く曲があったら面白そうですよね。
■豪華版のほうの写真はレイジくんが撮影したもので…最初のほうの扉に「PLAY LIKE 80’S」という言葉があって。リリックにもよく出てくる印象的で謎めいたワードですが、誰の言葉ですか?
Neetz:これはIOくんじゃない?
IO:これは俺がたまに言ってたやつですね。
■その心は?
IO: PLAY LIKE 80’S。
レイジ:バブリーなギラギラ感だね。
IO:わかんないけど、なんか調子いい。
■みんな90年代生まれですよね?
IO:はい。本当は「Like 80’sのように弾くシティ」と言っていて……。
Ryohu:それもおのおの感じ取ってもらってほしいですね。
KIKUMARU:結局自分たちがカッコいいと思うことをやっているので、別にどう解釈されてもいいんですね。リリックにも出てくるんですけど「ホント気にしない」って感じですね。
■90年代生まれだったら物心ついたときは00年代だったと思うんですが、ようはあまり明るい時代じゃないというか、10年代の始まりは震災もあったし、いまは若者の貧困がどうこうとか言われちゃう時代じゃないですか。だけど、そんな中でも自分たちの楽しみ方というか、遊び方を持って、最高にカッコつけて、きらびやかに歌舞いてみせる。その感じが東京ネイティヴのクールネスの2016年の最新形なのかなと思います。ああ、俺の意見言っちゃった(笑)。なにかあればどうぞ(笑)。
Neetz:ありがとうございます(笑)
Ryohu:でもまたいまからアルバムを作ることになったら、同じものは出来上がらないだろうなと思います。
■みんなスタイルが変わっていく?
IO:それはわかんないっす。そのときカッコいいと思ったものをやるし、もしかしたらいきなりトラップを始めるかもしれないし(笑)
Neetz:俺は(アルバムが)もっと続いている感覚があるんですよね。
■70分でもまだ足りなかったということですか?
Neetz:いや、気持ち的にはもっとこのアルバムは続くと思っていて、今回のはそのなかの一部というか、最初の部分がファースト・アルバムになっている感覚ですね。これがKANDYTOWNのすべてというわけではないですね。
Ryohu:みんなソロでは違う感じで出すんじゃないの?
KIKUMARU:良くも悪くも変わりはすると思います。
Ryohu:きっといい方向に変化するんじゃないですか。
KIKUMARU:でもみんなまだあんまりソロを出してないから変化がわかんないっすよ。
IO:俺はキャンディでやっているときもソロでやっているときも、あまり意識は変わらないんですよ。
■今後はソロ作に集中する感じですか? たとえばセカンドについて考えたりはしますか?
IO:キャンディのセカンドがどうなるかはタイミングですね。
JUJU:キャンディのセカンドは10年後くらいでいいんじゃな~い。
IO:とりあえずDONYやMUDもみんなソロ出しますね。
レイジ:MUDのソロも作るの?
JUJU:これから。
IO:俺らみたいなのを「ちゃんと出せよ」と言って動かしてくれる人がいないとちゃんとした形では出さないと思うけど、いつも通りみんなで遊んでいるときに曲を作るとは思いますね。あとはなにを出すにしろ、音の色は変わるかもしれないですけどKANDYTOWNのままだと思う。コンセプトを決めてこういうアルバムを作ろうということはないと思いますね。
■最後に一言ずつもらってもよろしいですか?
Ryohu:最初で最後かもしれないのでお聴き頂ければと思います。
Neetz:本当にドープなアルバムができたと思うので(笑)、チェックしてほしいです。
IO:よかったら聴いてください。
KIKUMARU:いま作ったものが俺たちのいまなんで次出せるかわかんないですけど、おのおののソロやミックスCDがこれから出ると思うので、KANDYTOWN全体をチェックしてもらえたらと思います。
Ryohu:はい、頂きました~。
一同:(笑)
GOTTZ:アルバムのテーマは「KANDYTOWNのファースト・アルバム」です。
JUJU:ヤバい、俺まで早かった。よかったら聴いてください、っすね(笑)。
レイジ:ええ!? それだけ?
Ryohu:これが公開される頃には自分のアルバムも出るんじゃないの?
JUJU:11月23日にも俺のソロ・アルバムが出るから、そっちも聴いてください。このメンバーで作れて本当によかったなと思うんで、いまの若いキッズたちはこれからそういうのを目指して頑張ってほしいし、ラップを続ければいいことがあるよというのがアルバムのテーマじゃないですけど、俺はいまラップ続けていてよかったと思いますね。
GOTTZ:「間違いないヤツらと仲間になれ」ってDONY JOINTが言っていたけどまさにそれですね。
レイジ:俺は携われてよかったですよ。
■今回レイジくんが音楽的にもディレクションに関わるのかと思ったのですが、そうではなく、あくまでまとめ役だったそうで。
レイジ:まとめ役というか、簡単に説明するとKANDYTOWN側のスポークスマンという感じなんですよ。レーベルと細かいことをやりとりしていただけなんで。
■制作で一番印象深かったのは遅刻がとにかく多かったこと聞きましたが(笑)。
レイジ:遅刻はつきものですけど、こないだのワンマン見てて、ラップがカッコよければなんでもいいやと思いましたね(笑)
一同:(笑)
レイジ:どんどん遅刻していいよ! と思いました。遅刻しないでラップがカッコよくなくなるくらいだったら、遅刻しまくってラップカッコいいほうがいいですよ。
■なるほど。ありがとうございました。
キャンディタウン:ありがとうございました!
ダンサブルでソウルフルなクラブ・トラックを詰め込んだ6年ぶりの新作『Popp』が好評のオヴァル。「ポストR&B」なんて言葉が囁かれたり、「ポップに旋回した?」なんて指摘が飛びかったり、リリース後も色々と波紋を呼んでいる同作ですが、そんなオヴァルがこの12月に、2年ぶりの来日を果たします。
それにあわせて、なんともスペシャルなイベントが開催決定! 12月21日(水)、タワレコ新宿店にて、畠中実氏と松村正人氏によるマーカス・ポップへの公開インタヴューがおこなわれます。それと同時に、オヴァル自身によるサイン会も開催。いずれも滅多にないイベントです。この貴重な機会に、あなたもトーク&サイン会に参加しちゃいましょうー!
OVAL『popp』発売記念トーク&サイン会
内容:トーク&サイン会
出演:Markus Popp(OVAL) + 畠中実 + 松村正人
開催日時:2016年12月21日(水) 20:00 start
場所:タワーレコード新宿店10F
'90年代中盤、CDスキップを使用したエポック・メイキングな実験電子音響作品を世に送り出し、エレクトロニック・ミュージックの新たな可能性を提示し続け、世界中にフォロワーを拡散させた独ベルリン在住の音楽家、オヴァルことマーカス・ポップ。
ファンキーでダンサブル、ハウシーでソウルフル、万華鏡のようにカラフルな、オヴァル流クラブ・トラックを全編に配した最新アルバム『popp』を携えて、12月20日(火)より約2年ぶりの来日公演が開催されます。
この来日公演にあわせて、インストア・イベントが急遽決定。
前半は、聞き手にICCの主任学芸員の畠中実氏と元『STUDIO VOICE』編集長の松村正人氏を迎え、公開インタヴューをおこないます。
後半は、オヴァルのキャリア的にも珍しい、マーカス・ポップのサイン会となります。
『popp』はタワーレコード渋谷店・新宿店スタッフが選ぶ年間ベスト「渋谷・新宿アワード2016」にも選出されており、この2店舗で購入した方がサイン会に参加していただけます。
この貴重な機会に、ぜひご参加ください。
参加方法:観覧フリー。
タワーレコード新宿店または渋谷店にて、10月19日(水)発売の新譜『popp』(HEADZ 214)、または旧譜『o』(HEADZ 143)、『OvalDNA』(HEADZ 157)をお買い上げいただいた方に、先着でサイン会参加券を差し上げます。
サインは、対象商品のジャケットにいたしますので、イベント当日忘れずにお持ちください。
対象商品:
OVAL 『popp』(HEADZ 214)
OVAL 『o』(HEADZ 143)
OVAL 『OvalDNA』(HEADZ 157)
対象店舗:タワーレコード新宿店、渋谷店
問い合わせ先:タワーレコード 新宿店 03-5360-7811
now available
OVAL(オヴァル)『popp』(ポップ)
oval 2 / HEADZ 214
価格:¥2,200 + 税
マーカス・ポップはポップをアップデートする
佐々木敦
軽やかで鮮やか、圧倒的に心地よく、オヴァル史上最も「ポップ」な作品でありながらも、非常に刺激的なサウンドが満載の革新的な最新作。
日本盤のみボーナス・トラック2曲収録。
OVAL Live in Japan 2016
2016.12.20 Tue
at TOKYO TSUTAYA O-nest
open 19:00 / start 20:00
advance ¥3,500(+1D) / door ¥4,000(+1D)
2016.12.22 Thu
at KYOTO METRO
open 18:30 / start 19:30
advance ¥3,500(+1D) / door ¥4,000(+1D)
more information:HEADZ(tel. 03-3770-5721 - https://www.faderbyheadz.com)
2016年に注目を集めた音楽の特徴のひとつが折衷性だったすれば、ボン・イヴェールの新作、『22、ア・ミリオン』はまさにその象徴だ。いまだ世間的には山小屋の弾き語りフォークのイメージが残っているようだが、そのアルバムでは、何よりも音がそれに反証する。ヒップホップ、ジャズ、エレクトロニカ、ドローン、アンビエント……などが次々と現れ、ぶつかり合い、フォークとゴスペルのもとで融和しようとしている。なぜジャスティン・ヴァーノンはそのようなサウンドに辿りついたのか? それは彼が優れたシンガーソングライターだっただけでなく、プレイヤーでありプロデューサーでもあったことが関係している。
ヴァーノンによるヴォーカルやギターでの他ミュージシャンの作品へのゲスト参加、プロデュース・ワークを振り返れば、その人脈、音楽性がじつに多岐に渡ることが見えてくる。それは閉じていく世界に対する音楽のせめてもの理想主義である……と結論づけるのはいささか大げさかもしれないが、実際、彼のキャリアは超メインストリームからアンダーグラウンドまでをごく自然に行き来し、膨大なジャンルをやすやすと横断する、他に類を見ない非常にユニークなものである。ここでは自身の作品、ゲストやプロデュースで参加した作品のなかから重要作をピックアップし、彼の「良い冬」がどのように生み出されていったかを振り返りたい。
選・文:木津 毅
ボン・イヴェールのはじまりを説明するときに必ず触れられる「ダメになった前身バンド」がこのデヤーモンド・エディソンである。本作は比較的いまも手に入りやすいその代表作だ。歌心溢れる素朴なフォーク・ロックで、すでにアンビエントの音響への興味も随所に覗かせてはいるが、まだ善良で大らかなアメリカン・ロックの枠を超えているとは言い難い。ヴァーノンのキャリアを考えたとき、このデヤーモンド・エディソンとボン・イヴェールとの共通点よりもむしろ違いが重要なのではと思われる。すなわち、黒人のフィメール・シンガーからの影響としてのファルセット・ヴォイス、ブラック・ミュージックへの接近だ。元メンバーは現在、メガファウンやフィールド・レポートとして活動しており、デヤーモンド・エディソンとしてもライヴやコンピレーションで再結成もしている。
オープニング「フルーム」の歌いだしの、よく伸びるファルセット。パーソナルだが、匿名性と抽象性の高い歌詞。アコースティック・ギターの弦の最後の震えも記録するような、アンビエントを意識した録音。繊細だが芯の通った歌……。アルバムの背景にあった冬の孤独の物語があまりにもキャッチーだったのはたしかだが、ヴァーノンはここでたしかにそれを音と歌にする才能を開花させた。この時点ですでに多重コーラスで意識されているのは明らかにゴスペルであり、ボン・イヴェールというコンセプトがヴァーノンのブラック・ミュージック解釈ではないかと考えられる。自主制作のリリースの翌年に流通盤がリリース。森の奥で無名の青年が歌った愛の歌は、やがて〈ジャグジャグウォー〉にとってもっとも売れたアルバムとなった。
『フォー・エマ~』のアウトテイク的なポジションの4曲入りEP。アルバムよりはややリラックスした内容になっているが、特筆すべきは表題曲と“ウッズ”だろう。“ブラッド・バンク”は珍しくかなり明確なストーリーラインがあるラヴ・ソングで、これがアルバムから外されたというのは逆に言えば、それはボン・イヴェールの本流とは少し異なるということだ。そして、オートチューンで加工した声をループで繰り返し重ねた異色のア・カペラ・ゴスペル・ナンバー“ウッズ”。それはジェイムス・ブレイクよりも早く、しかも爆発的にエモーショナルだった。そしてこの1曲こそが、のちのヴァーノンのキャリアを大きく動かしていくことになる。
ポストロック・バンドのペレを前身とするインストゥルメンタル・バンド、コレクションズ・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズとヴァーノンが合流。すでにドローン・プロジェクトを始動していたジョン・ミューラーがいたこともあり、ゴスペルとフォークとポストロックとドローンが混淆する不思議な感触の演奏と音響が聴ける。はじめはレコーディング・プロジェクトの予定だったが、のちに日本でライヴが実現。そのエモーショナルなバンド・アンサンブルの経験から、ボン・イヴェールののちの方向性が決まっていく。また、音響的な感覚としてはヴァーノンが2000年前後のポストロックやエレクトロニカの強い影響下にあることもよくわかる。
世界中からクールな才能を見つけて貪欲に取り込んでしまうカニエ・ウェストが、それでもボン・イヴェールに目をつけるとは誰も想像できなかったのではないか。はじめは例の“ウッズ”のサンプリング程度を想定していたかもしれないが、折衷的なゴスペルという要素でわかり合ったのか、ゲスト・ヴォーカルだけでなく音楽的な部分でもヴァーノンはここで関わっている。のちにヴァーノンがエレクトロニック・ミュージックに接近していくのは本作や次作『イーザス』の影響だとよく言われるが、自分はどちらかと言えば「俺が必要なのはプッシーと宗教だけだ」とライヴで歌わされた経験のほうがカニエとのコラボでは大きかったのではないかと邪推している。
まあ正直、カニエといるときよりもこっちのほうが生き生きしているというか……とにかくリラックスしている。ライアン・オルセンをリーダーとし、メガファウン、ソリッド・ゴールド、ドゥームトゥリーのメンバー、そしてハー・マー・スーパースターらが集まったスーパーグループ……なのだが、地元の仲間連中がふざけて激甘ソフトロックをやってみたら、というようなユニークなアルバムだ。BPMを10ccの“アイム・ノット・イン・ラヴ”と同じ69に全編固定するなど芸が細かく、その上でひたすら甘ったるくラウンジーな時間が過ぎていく。なかでもゴドレイ&クリームのカヴァー“クライ”がキラー。ヴァーノンのファルセット・ヴォイスもギターもボン・イヴェールのときとは聞こえ方がまるで違い、このプロジェクトはぜひまたやってほしいところ。
この当時、インディ・ロック・シーンの顔役であったザ・ナショナルのアルバムに、スフィアン・スティーンヴンスとともにヴァーノンが参加した意義は大きい。やはりザ・ナショナルが監修した2000年代のインディ・ロックの隆盛を記録したコンピレーション『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』(2009)と並んで、ここでボン・イヴェールが現在のインディ・ロック・シーンの柱のひとつであることがはっきりと示されたのだ。ザ・ナショナルがアメリカで絶大な人気を誇るのはその文学性の高さによるが、ヴァーノンはそうしたアメリカの知的なインディ・ロック・バンドの系譜をたしかにここで引き継ぎつつ、ヒップホップ・シーンやエレクトロニック・ミュージックともアクセスできるというかなり独自のポジションをすでに獲得していた。
ある意味で、ボン・イヴェールというプロジェクトが覚醒した瞬間である。フォークとゴスペルという基本は押さえつつもフル・バンドによるアレンジメントは複雑さとスケールを増し、より描く感情の幅を広げている。それはジャスティン・ヴァーノンひとりの感傷や孤独が分かち合われることで、音楽的なコミュニティが築かれているということだ。そこで歌は切なさを伴いながらも、勇壮なドラムによく表れているようにタフで力強いものとして鳴らされているのである。だから本作はセルフ・タイトルなのだろう……これこそが「ボン・イヴェールだ」と。ヴァーノンはここで音楽的な欲求に誠実に向き合っただけだが、本作でグラミー賞という名声を得ることによってかえって孤独を深めていくのは皮肉な話だ。結果、ここからボン・イヴェールの次作まで5年のブランクが開く。
“フォール・クリーク・ボーイズ・クワイア”で参加、これは納得のコラボレーション。というか、シンガーソングライター/プロデューサーとしてヴァーノンともっとも感覚が近いのがジェイムス・ブレイクではないかと僕は考えている。アウトプットが個に向かうか公に向かうかでその姿勢は異なるものの、自らのゴスペルが「本物」にならないことをよく分かっていて、声を加工したり他のジャンルと組み合わせることによってオリジナルなものにしようとしている、と言えばいいだろうか。じじつ、ヴァーノンの情熱的な歌声がどこかゴーストリーなコーラスのなかで繰り返されるこの曲は、両者の特色がちょうど中間地点で見事に融合していると言える。
1930年代のアラバマの盲学校で結成されたゴスペル・グループの新作を、インディ・ロックの現在を代表するミュージシャンがプロデュースしたら……。ヴァーノンにとって、キャリアのなかでも悲願叶った1枚なのではないだろうか。たしかな歴史がある、いわば「本物」のゴスペルをエレクトロニカやアンビエントの感性を通過した自分のフィールドに取り込みつつ、モダナイズすること。それは彼にとって大いなる挑戦であり、喜びであったにちがいない。チューン・ヤーズやマイ・ブライテスト・ダイアモンドなどインディ・ロック界隈のゲストも参加、ヴァーノンのプロデュースによってここでも理想主義的な音楽コミュニティが作られている。
ボン・イヴェールにも参加しているサックス奏者、コリン・ステットソンのソロ作。ドゥーム・ジャズともミニマル・ドローンとも言われるコリン・ステットソンのサックスの咆哮は肉感的でおどろおどろしく、あっけらかんと狂気じみている。ヴァーノンは3曲で参加しているが、その声が聞こえてくるだけでこのアヴァンギャルド・ジャズがホーリーな感触になるのはおもしろい。ヴァーノンにとってはボン・イヴェールのもっともアンダーグラウンドな回路と言え、新作には明らかにその人脈の活躍の跡が見える。隠れたキーパーソンである。ところで、ホーリーな感触と書いたが、カオティックな“ブルート”ではヴァーノンの珍しいデス声(?)が聴ける。
ニューヨーク拠点のシンガー/プロデューサーによるR&B/シンセ・ポップ/ヒップホップ・プロジェクト、ヴァーノンはプロデュースやゲスト・ヴォーカルで数曲参加している。フランシス自身が開発したというヴォーカル・エフェクトであるプリズマイザーを駆使した、ユーモラスでチャーミングなR&Bといった感じだ。カニエ……はともかくカシミア・キャットなども参加しているこのアルバムはいまのヒップホップ、ビート・ミュージックのある部分をプレゼントする1枚だと言えるだろう。フランシスはチャンス・ザ・ラッパーのアルバムにも参加しているが、結果、ヴァーノンがその辺りまで繋がっているのは2016年のポップ・ミュージック・シーンのひとつのトピックだった。
この取材は、10月7日におこなわれている。つまり、大統領選のおよそ1カ月前。なんで、そのときにこの記事をアップしなかったんだよ〜と言うのはもっともな意見である。
いや、アップしたかった。本当に! しかし訳あってアップできなかったのであるが、なにはともあれ、ぼくはトランプが勝利したとき、というか投票結果で最後にミシガン州が残っていたとき、デリック・メイの憂いを思い出していた。彼は、アメリカに広がるエクストリームな感情について知っていたのである。以下のインタヴューは、名目上は、〈トランスマット〉からリリースされたフランチェスコ・トリスターノの新作『サーフェイス・テンション』の取材で、本作によってデリック・メイは20年ぶりにスタジオに入ったらしい。20年前と言えば1996年だが、それってなんの作品だったんだろう、あ、訊くのを忘れた。
忘れたというより、このときはそれ以上にデリックに訊かねばならないことが多く、そして、読んでいただければわかるように、ひじょうにショッキングが事実を彼は述べている。トランプのことじゃない。ダンス・カルチャーも、いまとなっては娯楽産業であるから、リバタリアンが身近にいても驚くほどのことではないのかもしれない。しかしよりによって……。(僕がここで何を言いたいか、各自探索すれば面白い事実を知るだろう)
![]() Francesco Tristano Surface Tension Transmat/U/M/A/A Inc. |
気を取り直そう。ファランチェスコ・トリスターノの『サーフェス・テンション』がリリースされた。坂本龍一の“戦場のメリー・クリスマス”のフレーズからはじまるこのアルバムは、デリック・メイが参加しているのでぼくは聴いたわけだが、聴いて良かったと思った。オリジナル収録曲の8曲あるうちの4曲に参加し、ボーナストラックの1曲ではライヴ演奏に参加したときの模様が披露されている。栄えある〈トランスマット〉レーベルの30周年イヤーの最後を飾るのは、このコラボレーションなのだ。
うん、プリンスも死んだし……悪い年だな……悪い年だ。
■デリック、いったいアメリカで何が起きているんだよ!?
デリック:うん、プリンスも死んだし……悪い年だな……悪い年だ。
■日本でニュースを見ていても、ブラック・ピープルのコミュニティにただならぬことが起きているのがわかるよ。
デリック:それは、おまえが繫がっているからね。俺が311のとき日本に来たときみたいなものだ。(放射能が漏れているから)みんな「来るな」と言ったけど、俺は、来た。ヒロも20年の仲間だし、おまえも、ヨウコも……日本にいる俺の女たち全員も(笑)。来るしかなかった。
■それほど酷いと。しかし、いまのアメリカを覆っている暗さは、さらにまた、より政治的なことだけど。
デリック:うん、とくにドナルド・トランプが大統領選挙に参加してるから。アメリカで国内戦争になってもおかしくないと思うよ、マジで。本当にヤバい時代だ。デトロイトもだいぶ変わった。デトロイト市が倒産したとかみんな貧乏だとか、そういうニュースとかドキュメンタリーのせいで、デトロイトに"悪い要素"の人たちを引きよせたと思う。金持ちで悪い人たち。わかるだろ。(いわゆるニュー・リッチと呼ばれる)あいつらが全部買い上げた。みんなを家から追い出して。だからいまデトロイトに来たら、全然違うよ。
■デトロイトが再開発の対象になるなんて、よほどの……、たとえばメジャーなポップ・ミュージックを聴いても、ビヨンセやケンドリック・ラマーとかね……政治色が強まっている。かたや“Black Lives Matter" というムーヴメントもあるし……
デリック:(遮るように)ちょっと、待った待った。おまえが何を訊きたいのかもうわかるよ。ムーヴメント・フェスティヴァルをやってる奴らとか、そういう考え方から完全にかけ離れてるしね。全然わかってないよ。ウルトラ共和党、コンサヴァーティヴ、右翼のやつら。
■え、Movementって……あのフェスティヴァルの?
デリック:そう、オーガナイザーたち。俺は(ネーミング・ライツを)売ったからね。俺が売ったやつ、トランプのサポーターだよ。
■ホント?
デリック:Yes....
■Unbelievable.
デリック:Unbelievable…
■しかし、デトロイトみたいな、白人ではない人たちが多い街でなぜトランプみたいな人が支持されるのか……まったくよくわからないんだけど。
デリック:なぜだかわかるか? 俺は思う……トランプを理解しないと……自分から何か大事なものが取られたと思って怒ってる人たちに、彼はアピールしてるから……
■Black Lives Matterに関してはどういうふうに思っているのよ?
デリック:俺は、それほど多くは知らないんだ。俺が知っていることは、そうだな、いまより必要なのは、よりもっと、さらにもっと、all peopleに大事なものじゃないのかな、black peopleだけじゃなく。
■そうか。
デリック:いまは話さなきゃならないことがたくさんあるな。
■重要なことだね。
デリック:俺にとって“Black Lives"とは、俺の娘、俺の母、俺の家族だ。
■まさか、ブラック・パンサーやあの時代のようなことが起きるなんて、信じられなかった。ちょっと本当に……
デリック:ああ、なんて恐ろしい時代だろう。たとえば中東の人たちは、これが彼らにも影響する問題だと理解してないんじゃないかと思うよ。(実際はそうじゃないけど)何か大切なものを取られていると思い込んでるたくさんのアメリカの白人の怒りを理解してないんだよね。
■この話、別の機会にしよう。あまり時間がないし、今日は、フランチェスコ・トリスターノの新作の話をしなくちゃね。良いアルバムだし、そう、1曲目と2曲目が本当にすごい……すばらしい。しかも2曲目のリズムを聴いたときに、デリック・メイの腕がまださびてないとわかって嬉しかったです。
デリック:どの曲のこと?
■2曲目の"The Mentor"ね。
デリック:まぁ……ちょっと待ってくれよ。美味しいワインに、チル、いい場所で、夜遅くに、ストレスもなく、焦ることもなく、オーディエンスもいない……そして最高のプロデューサーが居るわけだ!
■といってますが、フランチェスコさん、どうでしょう?
フランチェスコ:ほぼバルセロナの自分のスタジオで……それと一部デトロイトで。“サカモト”のピアノはパリで。一部のリズム・シーケンスはローマで。“Esotheric Thing”の鳥はモーリシャス島で。
■いろんなところでじゃあ……
フランチェスコ:フィールド・レコーディングだ。
デリック:坂本(龍一)さんに“サカモト”を聴いて欲しいな。
■“サカモト”、いい曲だよね、インプロヴィゼーションなっていくところが格好いいんだよね。デリックは参加してるの?
デリック:いやいや、他の曲だね。サカモトの曲は完全にフランチェスコだ。
フランチェスコ:じつはアルバムに入れる予定じゃなかったんだけど、デリックに曲を聞かせながら喋ってたら、「これ聴こうとしてるんだからちょっと静かにっ!」って怒られて。で、「これ〈トランスマット〉にもらえない?」と言われて。そもそもDeccaのコンピレーション用だったので、サブライセンスもする必要があったけど、最終的にはアルバムに入れたし、みんな知ってる曲だからポールポジション(トラック1)にするしかなかったね。
デリックからたくさん学んだし、デトロイトという町からも。マジで……みんな俺を受け入れてくれた気がした。──フランチェスコ
大好きだよ、おまえ! ──デリック
「養子」にしてくれたような……俺はただの白人ユーロ・トラッシュ野郎なのに(笑)。 ──フランチェスコ
でもおまえは白人じゃないよ(笑)。 ──デリック
■デリックはフランチェスコのどんなところを評価しているんですか?
デリック:そりゃおまえ、何度も言うけど彼のプロ意識だ。クラシックの人生とエレクトロニック・ミュージックの人生のちょうど間をたどれること。クラシックのミュージシャンでは珍しいよ。
■フランチェスコはよくぞ、デリックをスタジオに閉じ込めて録音させましたね。いったいどんな手を使ったんですか?
フランチェスコ:なんていうかその……『不思議の国のアリス』だよ、デリックを巻き込む方法は。キャンディーとかをシンセサイザーに入れ替えて、デリックが現れる前に全部機材を接続しておいて、しかも彼が気づかないようすでに録音も初めておいて……そうやってやるんだよ(笑)。
デリック:ハッハッハ……俺をハメやがったな、このクソ野郎め!
フランチェスコ:「まだ録音するなよ!」と言われても「大丈夫、気にしないで!」と言いながら、でも既に録音してるという(笑)。
デリック:おまえ、あのとき俺を騙したのか! 騙したんだな!?
■え、デリックはこれがリリースされるということを知らないで一緒にセッションしていたってわけ?
デリック:イヤイヤイヤイヤ、彼が言ってるのは……俺が最初に少し練習しようとしてたことを知ってて……俺はまだ録音しはじめてないと思ってたのに……でも録音してたんだ。俺もそれは結局わかったし、彼も教えてくれたからその時点ではサプライズじゃなかったけど。
フランチェスコ:でも、君は……
デリック:うん、ちょっと(録音のために)遊んでた……常に。
■さっき言った2曲目("The Mentor")なんかは、クレジットを見なくてもデリック・メイだってわかるんだけど、初期のビートを思い出したな。あれどうやって作ったの? 機材は?
デリック:これはフランチェスコを評価しないと。だって……スタジオの写真はあるか?

フランチェスコ:"The Mentor"のリズム・シーケンスには、生ドラムのサンプルを使った。もちろん少しプロデュースされてるけど、キックと一部のハイハット以外は生のドラムサウンドだ。で……やっぱり、デリックがいつも言うように、全部ミックス次第なんだよね。レベルの割合と音楽がどう噛み合うか。音楽といえば……メロディとかベースとか。その音楽の大切な部分をどうするかわからなくなってしまうから、やはりリズムはあまり出すぎないようにしないと。
デリック:非常に良いコラボレーションだったよ。彼は俺の考えをよく理解してくれ、それを評価してくれながらも、自分の視点、自分の考え方もうまく表現した。これはみんなに理解してほしい……これは「おまえ(フランチェスコ)のプロジェクト」だということ。それに俺はインバイトされたんだということを。
フランチェスコ:でも、僕もあなたのレーベルにインバイトされたんですよ。それをお返しできるのは光栄ですよ
デリック:いや、これはおまえのプロジェクトだよ!
フランチェスコ:いや……
デリック:おまえのプロジェクト!
■フランチェスコは〈トランスマット〉のことをどう思っているの? またデリック・メイというDJについてもコメントして欲しいですね。
デリック:いい質問だな。
フランチェスコ:(笑)
デリック:ほら、おまえの質問が彼にプレッシャー与えてるぜ(笑)。
フランチェスコ:〈トランスマット〉といえば、僕にとって伝説のレーベルだし、デトロイトのサウンドを生み出した唯一のレーベルだと思う。もちろんメトロプレックスとかそのあとプラネットEとかもあるけど……でもやっぱり〈トランスマット〉なんだよ。しかも僕がアナログを買いはじめた当時、デトロイト・テクノにしか興味がなかった。たくさん持ってるよ……〈トランスマット〉のバックカタログをぜんぶ試聴した……たくさん持ってるんだ。
それから、デリックはナンバーワンのDJだけど、この作品ではDJしていない。僕は彼を快適な場所から引っ張り出したかったんだ。とくにライヴに関しては。彼にDJしてもらいながら僕がその上からプレイすることもできたけど、それはやりたくなかった。デリックに何か違うことをして欲しかった。彼はもうずっとDJしてるし、誰よりもそれは上手……これからはライヴに挑戦するタイミングだ(笑)!
デリック:進化していくのもね。
■もう、飽きてきたろうから最後の質問にするね。この作品にはメッセージがありますか?
フランチェスコ:まず、このアルバムは別々として考えるのではなく、全部連動した、流れ的な作品として考えて欲しいんだ。それからタイトルのSurface Tension(表面張力)とは、生化学、地質学における現象だ。液体の表面にある分子を引き寄せる力のこと。だから水の上を歩ける虫もいるよね。海とか、水じゃなくても、音も……その表面は非常にタイトで綺麗に磨かれたものだ。もちろん好きに解釈してもらっても構わないけど。だがその下には巨大な海がある。それがデリックが別の場所でも話していた、デトロイトの歴史、音楽の歴史、シンセの歴史であり、それが全部「海」でその上に存在する表面張力が僕たちを引き寄せてコラボさせてくれた。僕はこの考えがとても気に入っているんだ。それで僕が〈トランスマット〉からアルバムをリリースすることになるとは……ていうか、トランズマットからフルアルバムをリリースしたことはあるのかな?
デリック:うん、アリル・ブリカとか、『The Art of Vengeance』、Microworld……でもこれは全部日本独自規格で、シスコとやったものだけど。
フランチェスコ:だから、〈トランスマット〉で出すアルバムは特別だよ
デリック:数少ないよ。そこは気をつけてる。
フランチェスコ:本当に少数だよね。僕にはすごく大事。
デリック:俺たちにも大事だよ
フランチェスコ:本当に光栄だよ。しかも イノヴェーターに参加してもらうなんて……ある意味オマージュでもあるね。で、僕がそれのお返しをしたというか。
デリック:Wow、ありがとう。
フランチェスコ:デリックからたくさん学んだし、デトロイトという町からも。マジで……みんな俺を受け入れてくれた気がした。
デリック:大好きだよ、おまえ!
フランチェスコ:「養子」にしてくれたような……俺はただの白人ユーロ・トラッシュ野郎なのに(笑)。
デリック:でもおまえは白人じゃないよ(笑)。
フランチェスコ:でも、僕はデトロイトを感じる。だから〈トランスマット〉は……でかい存在だ。
デリック:ひとつだけ言いたいんだけど、今回のことはまた自分でも音楽作りにチャレンジしたいという気持ちのインスピレーション、モチベーションにもなったよ。それはフランチェスコのおかげだ。俺のオーケストラのコンセプト、それからフランチェスコとオーケストラの仕事をしたから、今回彼の作品にスタジオ参加することにもつながった。そしてそれを僕は受けた。
俺は音楽をリリースするけど、1989年のデリック・メイにはなりたくない……前の自分になろうとしてるんじゃない。音楽的にどこか別のところに行きたいし、自分にチャレンジするのが大事だ。だから彼とこのプロジェクトに参加することにしたんだ。
フランチェスコ:光栄です。喜んで。
デリック:そう! (俺の)スイッチをオンにした!
フランチェスコ:残念ながら、みんな最近集中力がないからね。でもそう考えちゃダメだし、フェードアウトはしてはならない。
■OK、ありがとう。
FRANCESCO TRISTANO P:ANORIG Feat. DERRICK MAY Live in Berlin
だからなんども言っているように、ぼくはトラップは嫌いじゃない。デトロイト・テクノの根っこが同じくエレクトロ・ファンクであるから、マイアミベース経由の現在形とはいえ、むしろサウンド的には親しみを覚える。ただ、それは、おそらくは「考えるな、感じるんだ」であり、決して「考えろ、考えろ、それはイリーガルではない」(byジョージ・クリントンの名言)ではないように思う。ぼくが間違っていたら指摘してくださいね。「考えるな、感じるんだ」は、たしかに説得力がある。妄想が膨らむ。しかし、ぼくは「考えろ、考えろ」のほうに惹かれてきた。デトロイトは、「考えろ、考えろ」の音楽の街である。「考えるな、感じるんだ」は、初期衝動は良いが、すぐに行き詰まる。サッカーも同じだ。レヴェルが高いところでは、運動神経だけでは通用しない。いや、まあ、運動神経だけでもある程度のところまではいけるんだけど、そう、ある程度までは。
ジェイ・ダニエルは、なんども言っているように、ナオミ・ダニエルの息子である。ナオミ・ダニエルは歌手で、90年代にカール・クレイグのレーベルから2枚の12インチ(うち1枚は2枚組)をリリースして、そしてその2枚、いや、正確にいえば2曲なのだが(つまり、ヴァージョン違いが多数あるだけ)、その2曲は、いまでもうっとりする素晴らしい歌モノのハウスで、名曲で、クラシックで、中古で見つけたら絶対買いで、ぼくは彼のお母さんの曲の大ファンなのだが(正直、ナオミ・ダニエルがなぜアルバムを残さなかったのか不思議でならない)、息子のジェイは母がやったことをなぞろうとはしなかった。
アフロ・フューチャリズムとは、黒人の宇宙観/SF趣味のことだけではない。アフリカ系アメリカ人の文化において、若い世代は必ず親の世代のやったこととは別のことをやること、新しいことに集中すること、つまり、ソウルで育った親の子供がテクノをやること、その更新力のことも意味する。
白人や日本人の黒人音楽ファンは、つねに古きよきブラック・ミュージックを求めたがる。エイミー・ワインハウスでもアデルでもノラ・ジョーンズでも、拍手される彼女たちの音楽は、基本、ひと昔前のソウルである。黒人音楽はこうであって欲しいという願望が、そこには見え隠れする。しかし、たとえば、今年最高のダンス・アルバムを発表したジャマイカのイキノックスは、ルーツ・ミュージックから離れて、むしろベース・ミュージックとシンクロしている。手に負えない新しいモノ好き。ブラック・カルチャーのその本質の一部を、懐かしむべき過去を持たないための未来志向と解釈したのが、アフロ・フューチャリズムとも言えるのだ。
とはいえ、ことはそう単純ではない。すでに懐かしむべき過去がブラック・カルチャーにあることは、URやムーディマンのリスナーでも知っている。トラップやドリルのような音楽のほうが、現時点では、過去を懐かしまないアフロ・フューチャリズムだと言えよう。しかしそこには、かつての、いち部のハウスやテクノのように、刹那主義以上のものはない。刹那的だからこその美しさもあるし、まあ逆に言えば、いまさえ良ければもうどうでもいいというくらいに、逼迫しているのだろうけれど。
ジェイ・ダニエルは、カイル・ホールもそうだが、親の世代を否定せずに新しいことをやろうとしている。そのとき彼らは、まずはリズムから入る。というか、リズムしかない。リズム・イズ・リズム。本作『Broken Knowz』において、ジェイはリズムを更新するためすべてを機械まかせにせずに、ドラムスティックを握って、叩き、試行錯誤したという。要するに、古きを重んじながら新しきを追い求めた結実が、これだ。このリズム。反射神経だけに頼らず、「考えろ、考えろ」の街で生まれた、リズムである。それは……ある種コスモポリタン的な、と同時に生粋のアフリカンなのだろう。2曲目の(アルバム中のベスト・トラック)“Paradise Valley”とは、1920年代から50年代にかけて、デトロイトが北部の工業都市として賑わっていた時代の、アフリカ系の人たちの華やかな商業/娯楽エリアのこと。白も黒もジャズを楽しんだ場所であり、しかし43年の暴動以降、白と黒の溝は空き、そして重なる再開発に打撃を受け廃れていったエリアだという。それからジェイは5曲目の“Squeaky Maya”では中米の先住民をたずね、クロージングの "Yemaya"では西アフリカの生みの女神をテーマにする。それらの曲でも強調するのは、リズムだ。
ジェイは、決して認めないだろうが、ぼくなりに彼の最初のアルバムを言い表すなら──リズム・イズ・リズムの「ザ・ビギニング」の続きを見たと。25年経ったいま、なんて素晴らしいことだろう。
先日リリースされたアルバム『A 1000 Keys』はもうお聴きになりましたか? どうでしたか? 凄かったでしょう? ピアノという楽器をあんな風にミニマル~テクノの文脈に落とし込むことのできるアーティストを、僕は他に知りません。
もはやベテランと言ってもいいトーマス・ブリンクマンですが、この冬、代官山のUNITにてライヴをおこないます。なんと5年ぶりの来日です。しかも、エクスペリメンタルなセットとフロア・オリエンテッドなセットの両方を披露してくれるそうです。となれば見逃すわけにはいかないでしょう。詳細は以下を。
ミニマル~エクスペリメンタルの先駆者・鬼才Thomas Brinkmann
5年振りの来日が緊急決定!
〈Editions Mego〉からリリースした直近2作品をベースとした「Editions Mego Set」、ナイフでレコードの溝を切り変化させたサウンドやノイズで生成したループを重ねる実験的な「KLICK」とフロア・ライクな「ERST / SOUL CENTER」のハイブリッド・セット、の計2セット(実質3セット!)を披露してくれます。代官山ユニット一夜のみのプレミア公演となります。お見逃しのないように!
さらに、今年9月に自身が主宰する〈sludge-tapes〉からファースト・アルバム『Transmutation』をリリースしたmiclodietと、テクノ・リスナーまで支持を得る東京屈指のインダストリアル・ミュージック・デュオCARREも出演!
ノイズ~ドローン~インダストリアル~ミニマル~テクノまで縦横無尽に踏破するエクスペリメンタルな一夜をご堪能下さい!
*本公演では、各アーティストのライヴは客席フロア中央でおこなわれます。ご来場者にはアーティストの間近で臨場感溢れる特別な体験をしていただくため、限定200枚のチケット販売とさせていただきます。また、本公演はオールナイト公演ではございません。
UNIT / root & branch presents
THOMAS BRINKMANN : LIVE
12.2 fri @ 東京 代官山 UNIT
Open 19:00 / Start 19:30
¥3,000 (Advance), ¥3,500 (Door) 別途1ドリンク
Live: Thomas Brinkmann - Editions Mego Set (What You Hear (Is What You Hear) / A 1000 Keys) & Hybrid Set (Klick / Ernst / Soul Center)
miclodiet (sludge-tapes)
CARRE
Information: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com
Ticket Outlets: LAWSON, e+ (eplus.jp), diskunion CLUB MUSIC SHOP (渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, TECHNIQUE, JET SET TOKYO, clubberia, RA Japan, UNIT
THOMAS BRINKMANN (Max.Ernst, Soul Center, Editions Mego - DE)
ミニマル・テクノ~エクスペリメンタルを自在に横断する鬼才THOMAS BRINKMANNは、1990年代からMIKE INKやBASIC CHANNELなどとミニマル・テクノの礎を築いた先駆者である。主宰するレーベル〈Max.Ernst〉からはLUCIANOやVLADISLAV DELAYを筆頭に数多の才能溢れるアーティストを輩出している。カルト・クラシック「ISCH」、RICHIE HAWTINの『CONCEPT』を自作のデュアルトーン・アーム・ターンテーブルを駆使してエクスペリメンタルな手法で再構築した『CONCEPT1 - 96:VR』、よりフロアにフォーカスしたファンクネス溢れるデトロイト・ハウスにも通じるSOUL CENTER名義の作品群、最も実験的とされる「KLICK」など革新的手法でミニマル・テクノの重要作品を生み出し常に新しい時代を切り開いてきた。直近では、昨年オーストリアの〈Editions Mego〉から11曲の永続的なリズムから構成されたというコンセプチュアルな『WHAT YOU HEAR (IS WHAT YOU HEAR)』、そして本年9月にはグランド・ピアノの音をバイナリー・コード化してミニマリズムに対する破壊的なオマージュを意図したという『A 100 KEYS』、間髪入れず10月にはザラザラとしたノイズと蜃気楼のようなアンビエンスが密度のある抽象空間を描き出すドローン作品『A CERTAIN DEGREEOF STASIS』をフィンランドの〈Frozen Reeds〉からリリース。その止まることを知らぬクリエイティヴィティは熟練の黄金期を迎えていると言っていいだろう。
miclodiet (sludge-tapes)
東京都新宿出身。〈sludge-tapes〉主宰。2007年よりワールドワイドなエクスペリメンタル・ ミュージック・シーンと関わりながら、テクノイズ・ミーツ・インダストリアルなサウンドをダンス・ミュージックに落とし込み、幾多のライヴ・パフォーマンスを重ねてきた。2011年自身のレーベル〈sludge-tapes〉の立ち上げと同時に数々の作品をリリースしている。2014年~2016年にかけて東欧〈Genesa Records〉より「Reversed Polarity EP」、「Fat Man EP」、「Psychic EP」をヴァイナル+デジタルにてリリース。2016年9月には 〈sludge-tapes〉よ りファースト・アルバム『Transmutation』をリリース。
https://sludge-tapes.com
CARRE
インダストリアル・ミュージック・デュオ。
NAG : RHYTHM MACHINE, BASS MACHINE, SYNTHESIZER
MTR : BOX, OSCILLATOR, GUITAR
https://mindgainminddepth.blogspot.jp/
Rider Shafique - I-Dentity / Freedom Cry (Young Echo Records - YE001)
〈ノー・コーナー〉、〈ホットライン〉、〈ペン・サウンド〉といったレーベルを運営しながら、ブリストル新世代の音楽を世に送り出してきたヤング・エコー。ゴーゴン・サウンドとしても知られるふたり、カーンとニークの他、ヴェッスル、エル・キッド、ジャブ、アイシャン・サウンドなど、個々の活動においても注目を集めるプロデューサーたちが参加しているコレクティヴだ。彼らがカバーする音楽範囲はグライム、ダブ、パンク、エレクトロニカと幅広く、これまでに発表されてきた作品では、いずれにおいても過去の焼き直しに終わることのないエッジの効いたサウンドを聞くことができる。そんな彼らが多岐にわたる活動を集約することを目的に、コレクティヴ名を冠した〈ヤング・エコー・レコーズ〉を始動した。
コレクティヴの運営面を主に手掛けているオシア曰く、「ダンスフロア向きではないリリースが増えていきそうだから、できるだけ多くの人に届けられるようにしたい。これまでのレーベル運営で得た経験を活かしてコレクティヴの音源から特別なものを作っていければと思っている」とのことで、〈ヤング・エコー・レコーズ〉では以前よりも広義の意味でのエレクトロニック・ミュージックが対象とされていくようだ。そしてレーベルの第1作を担当するのはコレクティヴに所属するMC、ライダー・シャフィーク。「I-Dentity / Freedom Cry」は、彼の個人体験に根付いた葛藤を深く掘り下げたメッセージ性の強い作品となっている。
「もともと、どこからやってきた?」という問いに対し、「俺は母親の子宮からやってきた。多くの人と同じように。みんなと何も違わない」と坦々とした声で自らの出自を表明するライダー・シャフィーク。幼少期に自分はブラックなのだと母親から告げられたものの、ベージュに近い肌を持つ彼はその言葉に違和感を覚える。魂を映し出すのは肌だけではない、ブラックとは肌の色よりも深く、表面的なものではないと教え、社会が彼をどのように見るのかを説明する母親。白人ではない人々が受ける扱いは、かつてとは幾分変わってきたのかもしれないが、それでもなお、先述の質問のように差別的な言葉使いとは違うかたちで日常のちょっとした場面に表出する。アイデンティティは誰に証明するためにあるのか。その問いに対し、彼の思いを綴った“I-Dentity”。独白しているような声の向こう側で金属摩擦のような甲高く不穏に起伏するドローンを鳴らすのは、今年、ミューザックをテーマに作品を発表したサム・キーデルことエル・キッドだ。
一方“Freedom Cry”では、アイシャン・サウンドとのプロジェクトであるゾウとしても活動するジャブが厳かな雰囲気のホーンセクションに合わせてジャズのドラムブレイクをループさせ、そこへライダー・シャフィークが人種差別撤廃運動を繰り広げた人物を挙げていきながら、ブラック・パワーの詩を読み上げる。「俺の使命は人間が人間として繁栄している姿を見ること。もともとシンプルなものを俺たちはなぜ複雑にしてしまうんだ? とてもシンプルなのに」と彼は説く。本作では、気付かぬうちに意識へ根付いている先入観や境界がライダー・シャフィークの個人体験を通じて浮き彫りにされている。
数ある才能を抱えるヤング・エコーから、なぜライダー・シャフィークをレーベル1作目としてフィーチャーすることにしたのかをオシアに尋ねてみたところ、「現在の世界情勢を考えたとき、今、聞かれるべき重要なメッセージになるんじゃないかって思ったんだ」という答えが返ってきた。以前からポリティカルな姿勢を取っている彼らしい回答だが、レーベルは必ずしも本作のようにメッセージ性の強いものになるとは限らないようだ。ブリストルの次世代を牽引してきたコレクティヴによる、これからの展開には今後も注視したいところ。
目と目を合わせるだけでチカラが湧いてきて元気をくれる人というのが稀にいます。最初に会ったときからDavid Mancusoは自分にとってそういう人でした。深く誠実な眼差し。そして握手を交わしたときの優しい笑顔と伝わってくるポジティヴなエネルギーは一生忘れられません。
2016年11月14日。そのDavid Mancusoが亡くなったと聞いて、とても残念で、悲しく、寂しい気持ちです。
私は仲間とはじめたパーティ、Sunday Afternoon Session “gallery”をやっていくなかで、札幌の“Precious Hall / Filmore North”の力を借りて、1999年~2011年まで年に1回くらいのペースでDavidを東京に招き“Music is Love”というパーティを開催してきました。David Mancusoが長年かけて積み上げて来たものをなるべくアウトプットできるように心がけて。

Davidは常にパーティに来てくれる人のために生きていたように思います。音楽が好きなすべての私たちのために。そしてそれはおなじように音楽そのもののために私たちにパーティを開いていたとも言えるでしょう。
音楽のために。私たちのために。常に音響を追求し、皆がベストな状況で音楽を感じられるようにと優しく細やかな配慮がパーティーには溢れてました。彼はアナログ・レコードにこだわり、ターンテーブル、カートリッジ、アンプ、スピーカーを選び抜き、サウンドシステムのセッテングに注力していました。
ドライヴ感のある締まった低音。抜けの良い中高音域。そして特筆すべきはフロアの天井の辺りで、その音楽と皆の発するヴァイブレーションとがミックスされて、常に反復され響いているマジカルでものすごく心地よい倍音。それはまさにミュージック・マジックでした。
彼の音楽に対する深いリスペクト。そして音楽を愛する人たちへのホスピタリティー。これが何よりあの素晴らしいミュージック・マジックを創り出していたのでしょう。音楽の持つメッセージとその気持ち良い音で最高の瞬間を何度もシェアしてくれました! そして私たちにポジティヴなエネルギーを与えてくれました。
45年以上に渡りパーティ本来の在り方を実践し続け、音楽をプレイし続けてくれた彼の愛とスピリットに感謝します。
そして、彼が伝えてくれたこれらの大切なものを未来に繋げていきたいと思います。
Thank you David.
Rest in Peace.
Music is Love.
2016.11.19
Kenji Hasegawa (gallery)














