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Sam Kidel

AmbientMusique ConcrèteVaporwave

Sam Kidel

Disruptive Muzak

The Death Of Rave

野田努   Jul 07,2016 UP

 彼・彼女は受話器を取ると途端に声が変わる。感情はない。ただはっきりと明快に「もしもし」は繰り返される。その声の丁寧さ、礼儀正しさ、明朗さ、そして感情の無さは、ぼくたちの生活の一部であり、文明の一部であり、古代にはなかったものである。
 「もしもし」はそして、考えてみれば異様な声だ。当たり前すぎて考えたこともなかったが、ブリストルのヤング・エコー・クルーのひとり、El Kidのソロ・アルバムでは、A面いっぱいに、24分間も「もしもし(hello)」「〜をうけたまわりました」などなど白々しい電話の声が続く。企業のコールセンターに電話する(あるいは一方的にされる)。「もしもし」「のちほどおかけください」「がちゃん」「ピー」「……」。機械よりも機械的な声が続く。そして、この声に、ヴェイパーウェイヴが再利用した使い捨てのBGMがミックスされる。レストランやエレヴェーターなど商用施設のための音楽(ミューザック)が。

 〝分裂するミューザック〟と題された本作の淋しさ、人気の無さは、一聴に値する。通信ネットワークに繋がれた空間の寒々しさ。ぼくたちの生活の一部であり、文明の一部であり、アンビエントなのだ。このコンセプチュアルなアルバムは、明らかに、2年前までがゴシック/インダストリアルなどと括っていたもの、たとえば〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉のようなものとヴェイパーウェイヴとの結合である。そう、吸血鬼によって魂は吸い取られたというわけだが、その場所が丘の上の古城でも夜の墓場でもないことをこのアートワークは教えてくれる。
 B面はその「もしもし」=声を消したミューザックで、このように書くとたったそれだけかよと損した気になるのだが、作者であるSam Kidel は、「もしもし」なしでもこの音楽が面白いことを証明したかったのだろう。たしかに面白い。最後まで聴く気にさせるし、メランコリックであることはたしだが、しかし、この音楽からブリストルという記号は聴こえてこない。

野田努