「IR」と一致するもの

interview with Kenichi Hasegawa - ele-king


長谷川健一
423

Pヴァイン

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 2010年の『震える牙、震える水』はうたものあるいは弾き語り“群”、といういい方が正しいかはわからないが、在京都のシンガー・ソングライター、長谷川健一は、そろそろそうなりつつあった歌手たちのなかでも異彩を放っていた。静かで美しく透き通った歌の数々に、私はその3年前の〈map/comparenotes〉からの2枚同時リリースのミニアルバム「凍る炎」「星霜」を見過ごしていたのを悔やみつつ、まだこんな歌い手がいるのか、京都という街はまことに底知れぬものよ、と詠嘆調で独りごちたのである。そこから2年、長谷川健一のセカンド『423』は、初期集成的な位置づけの前作からさらに進んだ歌の地平にある。世界観とかいう知った顔の言葉ではない、奥行きのある情景があり、歌のなかに暮らすひとびとの目からそれを描く。目に映る光景は移動していくが、ロード・ムーヴィ的というのではなく、1曲目のタイトルにもなっている“あなたの街”が歌のなかに突如現れるような感じである。音楽は前作よりも、余白をつくり、石橋英子(ピアノ)、山本達久(ドラムス)、波多野敦子(ヴァイオリン)、石橋英子ともう死んだ人たちの面々が色を、しかし淡色の色を添える。プロデュースはジム・オルーク。今回、インタヴューして、長谷川健一の音楽遍歴を知って聴き返すと、前作から今回にかけて、多大な影響を受けたというジェフ・バックリィやフリージャズの要素は完全に声と音と言葉の響き合いに昇華されていることに気づく。そしてやがてそれらさえ歌になってふりそそぐのである。

基本というヘンですが、何かが足りないからひとりというのではなくて、ひとりでつねに100パーセントという感じを、ジェフ・バックリィに感じたので、ひとりでやることに抵抗はなかったです。

長谷川さんの前作『震える牙、震える水』を拝聴しまして、めずらしいタイプのシンガーだと思いました。こと日本においては、といういいかたをしていいかはわかりませんが、昨今のフォーク・ブームには長谷川さんはあまりそぐわない存在なんじゃないか、と思いました。

長谷川:だと思います(笑)。

歌の歌い方にしろ、歌に描かれている世界にしろ、そういうものがどこから来たのか気になりました。歌いはじめたのはいつくらいからだったんですか?

長谷川:大学出るころなので、15年くらい前ですかね。

1976年生まれですよね。

長谷川:そうです。もともと歌謡曲だったり、そういうものは聴いていたんですけど、フリージャズとか即興とか、わりとそういう音楽にのめりこんだ時期があって、それが二十歳すぎとかですかね。

フリージャズというと、ジャズの十月革命とか〈ESP〉とか、そういった感じですか?

長谷川:阿部薫がすごいなと思ったんです。そういうひとたちをたどっていって、現役のフリージャズのミュージシャンを観に行ったりしました。高木元輝さんとか、観に行ったちょっと後に亡くなったり、そういったこともありました。

フリージャズを聴いて弾き語りをはじめるのもめずらしいと思いますが、ちなみにハセケンさんはそのとき楽器をやられていたんですか?

長谷川:オヤジがずっとクラシック・ギターをやっていて、中学2年のころ、ガット・ギターをもらったんです。家にさだまさしの本があって、弾いてみたいんですよ。“秋桜(コスモス)”だったと思うんですが、あんまりおもしろくなかった。それでちょうど高1のころに尾崎豊が死んだんです。それまで知らなかったんですが、聴いてみたら、気に入って、『弾き語り全曲集』を買ってきたら、シンプルにつくっている曲が多かったんですが、なかには本人が歌ったものに、アレンジャーか何かがピアノで合わせたんじゃないかな、という曲もあるんですね。そういった曲のコードを全部ギターに置き換えているものもあるので意外と複雑だったりもする。和音をひと通りそこで覚えて、そうしているうちに曲をつくりたいなと思うようになったんですが、フリージャズも聴いていたので、好きな音楽とやりたい音楽をどう折衷するか、という課題がめばえました。いま思えば、折衷しなくてもいいんですけど(笑)。

たしかに(笑)。

長谷川:若かったのかもしれません(笑)。それまで僕は宅録していたんですね。ベースとかほかの楽器も全部自分で入れていたんですけど、バンドは組んでいませんでした。それで、テープをあげたひとに、ライヴやらないんですか、といわれて、じゃあやろうか、と。消極的に(笑)、はじめたんです。人前で歌ったことがないので、恥ずかしいし、技術もなかったので、ムチャクチャ練習しました。そのころから、ファルセットを使っていたんですね。ジェフ・バックリィはご存知ですか?

もちろんです。

長谷川:僕はジェフ・バックリィが大好きなんですね。他にはブラック・ミュージックとかが好きなので、男の裏声って好きだったんですけど、いざ弾き語りとか、うたものを聴いているひとの前で出て歌ったときに、なんだこれは、という反応があったんです。15年前ですから、平井堅とか森山直太朗とかがラジオで流れる時代でもなかった。そのときから声質は変わりましたが、スタイルはあまり変わっていないんですね。

好きな音楽の影響から自然とそうなった?

長谷川:家で音楽を聴きながら歌ったりしているうちに、わりと普通にそうなりました。自分でも曲をつくっているうちに自然にできたというか。そこはあまり意識してはいなかったです。高いところを歌うから高い声を出すんだ、という単純なものでした。

曲のイメージに身体を合わせていったんですね。

長谷川:身体を改造していくというか(笑)。

ジェフ・バックリィの『グレース』が出たのは90年代前半(1994年)ですよね。

長谷川:はっきり憶えていないんですけど、ジェフ・バックリィがデビューしたとき、テレビで“グレース”が少しだけ流れたんですね。7時54分とか、番組の合間の数分の音楽番組だったと思います。それを聴いて、不思議な音楽だな、と思ったんです。高校生のときは『ロッキング・オン』を読んでいて、そこに情報が載っていたので、CDを買って聴いてみたら、すごかった。彼はバンド・サウンドでもやっていますけど、彼の弾き語りがすごい表現力だと思ったんです。ひとりでこういった世界観がつくれるんだ、と。そういうのが最初にあったので、出発がひとりだったんです。

それが指針になった?

長谷川:基本というヘンですが、何かが足りないからひとりというのではなくて、ひとりでつねに100パーセントという感じを、ジェフ・バックリィに感じたので、ひとりでやることに抵抗はなかったです。

バンドを組む必然性は感じなかったということですね。

長谷川:バンドというよりも、まわりには即興をやっているひとが多かったんですよね。バンドを組んで、歌ものをやっているひととはあまりつきあいがなかったんですよ。

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京都にずっと住んでいるからできた歌だという気はします。空気というかテンポというかリズムというか......ほかの土地に住んだことがないのでわからないですけど、大阪に住んでいたらこの歌はではなかったような気がしますし、東京でもちがったと思います。


長谷川健一
凍る炎

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長谷川健一
星霜

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長谷川健一
震える牙、震える水

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2007年に〈map/comparenotes〉から「凍る炎」「星霜」を出されましたが、これは小田(晶房)さんから声がかかったんですか?

長谷川:その前に船戸(博史)さんとライヴすることが多くなったんです。

船戸さんと知り合われたのは?

長谷川:僕が好きで観に行っていたんです。最初に観たのは、船戸さんと羽野昌二さんとサビア・マティーン(SABIR MATEEN)という黒人のリード奏者のライヴを観に行ったんですね。

「ふちがみとふなと」ではなく。

長谷川:そうなんですよ(笑)。そっちのほうがポピュラーだと思いますが、最初の認識はむしろフリージャズの船戸さんでした。僕はろくでなし(JAZZ IN ろくでなし/京都のジャズ・バー)によく行っていて、そこで船戸さんと登敬三(サックス)との演奏を観たりしていたんですね。そのとき、聴いてみてください、といって自作のCD-R渡したんです。船戸さんのファンだったので、いっしょにできたらいいな、と思ったんですね。CD-Rを渡したら、じゃあ今度いっしょにやる、といってもらったので、そこからですね、船戸さんといっしょに演奏するようになったのは。船戸さん経由で小田さんに伝わったみたいですね。

憧れのミュージシャンといきなり演奏するのも大変じゃなかったですか?

長谷川:誰かといっしょに演奏したのが、船戸さんがはじめてだったんですよ。どうしたらいいかな、と思ったんですが、船戸さんは合わすところは合わせてくれるし、合わさないところは合わさないで、ただまあ(僕の歌は)コード・チェンジが細かいので、合わないと気持ち悪い部分も出てくるんですね。そこは失敗もありましたし、ちょっと練習をして解消した部分もありました。

フリージャズの素養が自由な合奏スタイルに役に立った、と。

長谷川:きっちりしたポップスをやりたいという思いもなかったですからね。それなら、船戸さんにお願いする必要もありませんから。

それから順調にライヴをやるようになっていくんですよね。

長谷川:2002年とか2003年ですかね。そのころ、ライヴは月1回はやっていたんですけど、じっさい仕事もしていたのでいろんな地方に自由に行ける感じではありませんでした。やっぱり前のアルバムが知名度というか、ほかの地方に行くきっかけにもなったとは思います。

前作『震える牙、震える水』はそれまで培ってきたものを見せる集成的なものだったのかと思ったんですが。

長谷川:そうですね。曲も小田さんのところから出したアルバムと重複していてもいいから集大成的にしましょう、という意図はありました。

その次となると、『423』では逆にいえばリセットをしたともいえるわけですよね。『423』をつくるにあたって、最初に考えたのはどういうことなでしょうか?

長谷川:このアルバムは去年の夏に録音して、その前の夏には、バンド・メンバーの(石橋)英子さんたちに渡そうと思って自分でデモを録っていたんですね。曲自体は前のアルバムを録音し終わったときからつくっていて、歌いこむ時間もありました。デモをつくって、その後にジム(・オルーク)さんとやろうかという話になったんで、環境を整えるのに時間がかかったんです。レコーディングをどうするか、どこでするのか、プロデュースをジムさんにほんとうにお願いするかどうか、そういうことを考えるのにすこし時間がかかりました。

『423』には『震える牙、震える水』からひきつづき、石橋英子さんや山本達久さんが参加していますが、彼らと知り合ったのはどういう経緯ですか?

長谷川:〈map〉のアルバムを出したときに、東京でライヴをして、そのときに来てくれたお客さんにディスク・ユニオンで働いている男の子がいるんですけど、彼が突然僕のライヴを企画してくれたんです。その内容というのが、英子さんと(山本)達久くんといっしょに僕の曲を演奏する、というものだったんです。僕はそれまでふたりに面識はなかったので、どうなるのかなと思っていたんですけど、なんとかなるだろう、と。当日東京に行ってリハをしてライヴするみたいな感じだったんです。彼らも合わせるというとなんですけど、なんとでもしてくれるひとたちじゃないですか(笑)。船戸さんもそうですけど。そのときにはアルバム(『震える~』)をつくる話があったので、じゃあいっしょにやってくれませんか、ということになったんですね。

その編成が長谷川さんのなかでしっくりくるものがあった?

長谷川:ピアノが入るというのが初めての経験だったし、ああやっぱりいいな、と思いました。

それは装飾的な音があるといい、ということですか? それとも和声的な意味で?

長谷川:そのときははっきりわからなかったんですけど、ずっとひとりでライヴしているので、完結しているんですよ、やっぱり。弾いている和音もそれで完結しているんです。そこにピアノで同じコードを弾かれても、僕は自分でも、開放弦を多く使ってわりと微妙なコードを弾いているので、合わない部分もあるんですね。英子さんは自分で歌も歌っているし作曲もする方なので、フレーズをその都度作曲しながら入れてくるような感覚でおもしろかったんです。奥行きが生まれるんですよね。

英子さんにしろ達久くんにしろ、歌を咀嚼し即興しますからね。

長谷川:はじめて演奏した曲でいろんなことができましたから。すごい早いなって(笑)。僕がはじめてやっている曲もすぐに合わせてきて、それがかたちになるのがすごいな、と思いました。これでちゃんとリハーサルしたら、もっとすごいものになるな、という手ごたえはありました。前のアルバムはその段階だとしたら、『423』ではアレンジャー、プロデュースするひとがいたほうがいいんじゃないかということで、ジムさんにお願いしたんですね。

ジムさんには事前にどういった話し合いをしたんですか?

長谷川:事前にはとくにはなかったです。レコーディング中にいわれたのは、演奏が呼吸をしていない、といわれたことが二度ほどあって、それはどういう意味なんだろう、と思ったことはありました。漠然とした表現じゃないですか? 自分なりにこういうことかな、と思って、もう一度やったらOKだったので、「ああ、合ってたんだ」と思ったことはありました。ジムさんとしては、個人のもっているリズムが訛っているところを自然と出すようなことなのかな、と自分なりに解釈したんですが。

録音はスムースに進みましたか?

長谷川:準備が1日と録音が3日でした。

収録曲はデモの段階のものがすべてなんですか?

長谷川:全部そうです。

ある程度の期間、ライヴで歌いこまれた曲というわけですね。

長谷川:そうですね。

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ゴスペルとか賛美歌が好きで、賛美歌なんかは日本語のものとかをライヴで歌ったりするんですけど、宗教とか祈りというものと切り離せない音楽というのはいまとちがう高みに連れて行ってくれるような気がするんです。


長谷川健一
423

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いろんなひとに訊かれたと思ったんですが、アルバムのタイトル“423”は由来はどういうところにあるんですか? 同名の楽曲も収録していますが。

長谷川:アルバム・タイトルは曲名からとろうと思っているんです。曲名は曲を書いてから決めるんですけど、なんとなく、ひとが生きることという漠然とそういう意味合いがある歌かなと思って、“人生”とかつけると重苦しい、というか演歌みたいなので(笑)、スフィンクスのナゾナゾってあるじゃないですか?

ああ、ハイハイする赤ん坊から成人になって、杖をつく老人になるというあれですね。

長谷川:その答えが「人間」じゃないですか。そうやって数字で表したら重苦しい意味から逃れられると思ったんですね。

長谷川さんの言語感覚は、私はすごくおもしろいと思うんですね。ハセケンさんの歌は世界というか何かの塊のようなものをもっていて、そのなかに登場人物が複数いて視点が切り替わる、その移動の仕方が自由だし多様だと思うんです。最初にもいいましたが、そこがほかのシンガー・ソングライターとは異質だと思うんです。それはどういったところで培われた、とご自分では思われますか?

長谷川:その質問は今日はじめてですね(笑)。

俗な質問ですが、好きな本や作家などいますか?

長谷川:僕はあまり本は読まないですが、いっとき中上健次は読みました。即興をよく聴いていたときは、哲学とか......間章のライナーノーツとかわけわかんないじゃないですか(笑)。でも何が書いてあるのか知りたいと思ったので、アルトーとかセリーヌとか、あんまりわかんないんでけど(笑)、読んでみたことはありました。まわりに現代詩をやっているひともいて、そういう本に載せてもらったこともあるんですが、いいのかな、とは思っていました(笑)。僕にとっての歌詞は発声してなんぼのものなんです。詩でもあるんですが、完全に意味が通っている必要もないだろうと思っていて、どこかしら余白があって、聴いているひとが意味付けをして、聴くひとの数だけ歌があればいいと思っています。井上陽水さんなんかもそうだと思うんですが、なんのことかはわからないけど、でも強烈なイメージがはっきりある。

井上陽水さんの歌詞はそれでもイメージの像は結びやすいと思うんですね。ハセケンさんの歌詞はもうちょっと散文的だと思います。聴いてみると美しく清澄なものとして通り過ぎるひともいると思うんですね。

長谷川:そうですね。

その言葉を自分のなかで噛みしめていくとナゾが深まる、そういった歌だと思いました。

長谷川:ありがとうございます(笑)。でもそういった意図はあまりないです。でも、なんていうんでしょう、京都にずっと住んでいるんですが、京都にずっと住んでいるからできた歌だという気はします。空気というかテンポというかリズムというか......ほかの土地に住んだことがないのでわからないですけど、大阪に住んでいたらこの歌はではなかったような気がしますし、東京でもちがったと思います。ただ、京都に住んで自然に書いたらこうなった、というだけのものではあるので、どういうふうにしてやろうというのはないですね。

京都への愛着と反対に嫌いな部分はないですか?

長谷川:好きも嫌いもないんですよ(笑)。これからもずっと住むと思うんで。それでも観光客のひとたちが見ない部分は見ているんだろうし、京都市内にもいろいろややこしい地域もありますからね。排他的な部分もありますから。

東京に出てくる、といういいかたは好きではありませんが、そういった気持ちはないんですか?

長谷川:そうですね。

そうするとなにかが変わってしまう?

長谷川:そこまでかたくなに思っているものはないんですけど、このペースで歌を書いてきたので、この先もこういう感じでいくんだろうな、という漠然とした思いです。

土地ということで思いだしたんですが、私は奄美の出ですが、奄美のシマ唄は裏声を多用するんですね。そういったロックとかポップスとか以外の音楽からの影響はありますか?

長谷川:そこまでコアに音楽は聴いていなかったですが(笑)、ゴスペルとか賛美歌が好きで、賛美歌なんかは日本語のものとかをライヴで歌ったりするんですけど、宗教とか祈りというものと切り離せない音楽というのはいまとちがう高みに連れて行ってくれるような気がするんです。そうじゃないひとももちろんいると思うんですけど。そういう部分がやっていてもつくっていても、意識しているのかもしれませんね。

歌詞のなかにも「神」という言葉が出てきますが、それは宗教心なんでしょうか? それとも、ゴスペルや賛美歌からの影響の名残りでしょうか?

長谷川:僕が賛美歌に興味をもったのはあくまでも音楽の形態として、なんですね。でもそこになにかただの音楽じゃないものがくっついている気がして。「神様」という単語はちらほら出てきますが、キリスト教徒でもないですし、神がどうのこうの、という話できる人間でもないんですけど、なにか大きなものがあるんじゃないかな、という気持ちはあります。人間がわからない大きな存在があるかもしれない、それくらいの思いはあります。

歌を歌っているときは、そういうものの存在と向き合っているんでしょうか?

長谷川:歌っていて恍惚とする瞬間はありますが、分析していくと、昨日下北沢のleteというお店でライヴをしたんですが、そこではマイクを使わないんですね。ヴォーカルをどうするか、どうしたらよく聞こえるか、と考えたんです。そこで定期的に2年以上やっているんですが、最初はあまりやり方もわからないんです。ライヴハウスにはかならずマイクがありますし、それに頼ってきているんです、どうしても。でもナマでふとやると、どうしたもんかな、というところを考えたんですよ。で、やっぱりナマなので、出ているものしか聞こえないですし、単純にマイクがないということは音が小さいものだということで、声を張るんですけど、だからといってそれがいいわけでもないし、小さくたって聴かせ方はあると思うんですね。そこでライヴを続けているうちに、声の響かせ方、身体をどういう向きにしたら声が通るかとか、そういうことを考えるようになったんです。

マイクがあるとそういったことをあまり考えないですからね。

長谷川:そうなんですよ。モニターもありますし。出ている音というものも、部屋でやっているのと同じようにしか聞こえません。僕の地声は倍音成分がわりと出ていると思うんですよ。で、何回か感じたんですけど、頭蓋骨がものすごく響いている感覚がありとても恍惚となった瞬間があったんです(笑)。

それはオフ・マイクになったときの歌というのを一度考えないとたどりつかない境地かもしれませんね。

長谷川:そうですね。勉強になるというか。ためになりますね、ナマでやっているのは。ギターも声もナマだし、コンディションがすごく出ますし。

音楽の最先端の技術はごまかす方向にも転用できますからね。

長谷川:波形から変えられますからね(笑)。

さっきのジムさんの話もそうだと思うんですよ。音楽が「呼吸」する感覚。その点について、あらためてどうお考えになりますか?

長谷川:生きている呼吸ってひとそれぞれだと思うんですよ。自分のものは自分のもので、換えられないじゃないですか。ブラック・ミュージックをそのままやったって、それはつくったものだし、借りてきたスタイルだし。自分なりのテンポだったり訛りだったり呼吸でしかできないことはありますよね。借りてきたものだとおもしろくないし、自分を出さないと意味がない、と思うんです。そこは隠す、というか、直さなくていいんだな、ということはコーディングで感じました。

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呼吸ってひとそれぞれだと思うんですよ。自分のものは自分のもので、換えられないじゃないですか。ブラック・ミュージックをそのままやったって、それはつくったものだし、借りてきたスタイルだし。自分なりのテンポだったり訛りだったり呼吸でしかできないことはありますよね。


長谷川健一
423

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立ち入った質問になりますが、『423』に“子供の国”という曲があります。お子さんはいらっしゃいますか?

長谷川:(しばし沈黙し)はい。(子どもが)いるといないとでは視点がちがうと思うんです。自分と世界があるという関係から、さらにもうひとつちがう視点が生まれて、そこから見ると、この広い世界を僕を通じて見ているように感じるんですよ。それは自分の世界が広がることだと思うんですよね。そうすると言葉もやっぱり変わってきますし、震災以降、現実的な問題として、食べ物ひとつとってもどうしたらいいんだろうということがありますし、それをそのまま歌ってもしょうがないので、自分なりにそれまでやってきたスタイルでなにかできないかな、と思って、いちばん出ているのがそれだと思います。

まだできたばかりで恐縮ですが、今度こういうものをつくっていきたいというのはありますか?

長谷川:これ以降も曲は書いているんですけど、次は自分でもアレンジをやってみたいと思います。ジムさんにお願いして、アレンジしてこんなに曲が変わるんだ、奥行きやふくらみがあるんだということがすごく勉強になったので、自分でもやってみたいなと思います。歌は大きくは変わらないと思いますけどね。

それは楽しみですね。

長谷川:失敗するかもしれませんけど(笑)。

フリージャズとフォークを合体させて、三上寛+山下洋輔みたいになったりしませんかね(笑)?

長谷川:(笑)そのへん、浅川マキさんなんかすごく上手にやっていたと思いますけどね。フリージャズと歌謡曲というか歌唱というか。

浅川マキさんはそうなんですよね。浅川マキさんは情念深いイメージですがーー

長谷川:そこをみんな好きで聴いていると思うんですよ。

でもすごく洒脱なんですよね。本多俊之さんとかとやっていたときとか。

長谷川:船戸さんとやったときも、そういうのは頭にあったんですよ。歌とジャズでかっこいい音楽として。

わかります(笑)。ちなみに、いまは弾き語りをやっているミュージシャンは多いですが、ハセケンさんがそのなかで共感をもてるひとは誰かいますか?

長谷川:大阪にASAYAKE 01というひとがいて、このひとは弾き語りでブラック・ミュージック的な音楽をやるんですけど、オリジナリティがあって、すごいと思います。歌もすごい上手だしブレないし、ヒップホップみたいなものをギターで演奏して歌も歌うんですが、キワモノで終わっていなくて、うたものとしてものすごくいいんですよ。メロディもいいし。でも全然評価されていなくて、もったないと思いました。

ハセケンさんのギターのスタイルの影響はーー

長谷川:それもジェフ・バックリィが大きいですね。チューニングだったり、カポの位置とか。でも弾き方は我流なんですよ。わりと3、4弦が鳴らないような弾き方をすることが多いんです。歌と即興をやっていたときは、ギターの弦を5、6弦だけにして、演奏していたことが一時期あったんです。ギターの2弦とヴォーカルがあるので、いちおう三和音ができますよね。メジャーもマイナーもできる。それで聴くに堪える曲を書けているだろうか、と自分を試すつもりだったんですけど、あまりにストイックすぎておもしろくなくなってきて(笑)、結局また弦を6本張ったんですけど、その経験から必要な音、そうじゃない音がわかるようになったんです。ベースがこれだからこれを鳴らしてとか。ギターの弦が6本あるから、つねにそれを全部鳴らさないといけないわけでもない。弾き語りってムダな音が意外と多いと思うんです。ジャガジャガやっているだけといいますか。そこから必要な音だけ鳴らせばいいというので、なんとなく、1、2、5、6弦を弾くスタイルができたんです。むかしの古いブルースで同じ弾き方をしているものがありました。あとポール・マッカートニーと同じ弾き方だといわれたことがありました。

ティムよりジェフ・バックリィなんですね。

長谷川:僕はわりとそうですね。わかりやすさではジェフのほうが上だと思いますね。お父さんのほうは新しいサウンドをめざしたひとなんじゃないかな、と思います。息子は完全にギター一本で歌ってどうだ、というわかりやすさが魅力ですね。

ご自分のなかでは新しいサウンドより、自分の歌を追求していきたい?

長谷川:そうですね。いい曲を書きたい欲求のほうが高いです。

いい曲とはどういう曲ですか?

長谷川:ひとそれぞれだと思うんですが、自分がいちばん好きで美しいと思っている曲で、ライヴをやるので、何度歌っても飽きない歌ですね。

われわれはアルバムの取材だと、よくコンセプトといいますが、ハセケンさんの場合、それよりも1曲1曲を大切にしていきたいということですね?

長谷川:そうですね。自分がいいと思った曲をまとめて出したい、聴いてほしい、という感じです。

★本作発売を記念したリリースツアースケジュールも一挙発表!
チケット詳細や各出演者情報等、随時更新予定!是非チェック!

423 Release Tour
3.10(日) 京都 UrBANGUILD
3.23(土) 京都 タワーレコード京都店(インストアライブ)
3.24(日) 豊橋 grand space quark
3.30(土) 東京 タワーレコード新宿店(インストアライブ)
4.7(日) 名古屋 K.D ハポン
4.13(土) 広島 眠り猫
4.19(金) 富山  nowhere
4.20(土) 福井 gecko cafe
4.21(日) 松本 瓦レコード
5.2(木) 東京 青山CAY
5.11(土) 山形
5.12(日) 青森
and more...

 マン・マンというバンドをご存じだろうか? 日本ではあまり知名度はないかもしれないが、アメリカではけっこう有名だ。彼らはフィラデルフィア出身、中年男5人組のエクスペリメンタル・ロック・バンド、結成は2003年だ。
 ドラマーのパウ・パウは、インディ好きにはたまらない、ニード・ニュー・ボディアイシー・デモンズなどのバンド他、ボアドラム、チボマットの羽鳥美保氏とも共演している歴の長い凄腕のドラマーである。
 長年追いかけているパウ・パウを通じてマン・マンを知った。彼が参加するバンドなら間違いないと軽く見に行くと、メイン・プロジェクトかと勘違いするほどの人気の高さと、インディ・ロック・ファンだけでなく、一般の人もすんなり入ることのできる許容範囲の広さに驚く。
 ブルックリンを歩くとそこかしこの壁やお店のトイレなどにタグ付けされているし、大手スポンサーのフェスティヴァルやショーにも頻繁に出演している、お茶の間でも人気のあるバンドなのである。詳しい経歴はこちらを参照
 最近、ネコ・ケースも所属する〈アンタイ〉から作品を出している。

 マーク・デマルコ、シャウト・アウト・ラウド、スターズ、ジェイミー・リデル、マーニー・ステーン、ジョニー・マー(!)級のバンドがプレイする、ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグという、東京で言えば、フィーヴァーぐらいの規模の会場はソールドアウト。マン・マンは、すでに10数回見ているが、いち度たりとも「今回はまあまあだったな」というときがない。
 1回1回全力疾走である。そういう意味ではオブ・モントリオールとかぶるところがあるが、マン・マンはもっと男臭い。オーディエンスは80%男だ。以前、〈ブルックリン・ボウル〉という会場にマン・マンを見に行き、別の日に同じ会場にヤング・フレッシュ・フェロウズ(80年代、シアトルで結成されたオルタナティブ・バンド)を見に行ったらお客さんが、かなりかぶっていた。マン・マンは数あるUSインディ・バンドのなかでも実力派なのだ。

 メンバー全員がさまざまな楽器(ピアノ、クラリネット、ムーグ、サックス、トランペット、フレンチホーン、ドラム、フレンチホーン・ジャズベース、バリトンギター、鉄琴、マリンバ、メロディカなど)を演奏し、曲により楽器を変えるフレキシブルさ。鍋やヤカン(やお客さんの頭)が打楽器として演奏されるときもある。

 キーボードとドラムが前、後ろにギター、ベース、キーボード(やその他)という形態。ヴォーカルのライアンはキーボードを弾いたり、スタンド・アップ・マイクでドラムの上に立って歌ったり、船長さんになったり、エイリアンのマスクを被ったり、エンターテイメントに決して手を抜かない。さらにドラムセットのアートペイント、ドラムやマイクにつけられたクリスマス・ライト、ステージの装飾、歌も演奏もとてもマン・マンらしく個性的で、ショーを見たあとは、運動会を見に行った後のような、心地良い疲労感がある。

 アメリカで人気のあるバンドは、大抵がライヴの良いバンドだと思う。こちらのオーディエンスはライヴが悪かったら即座に反応する(悪ければすぐに帰ったり、演奏は無視してしゃべりだす)、ライヴが良いバンドは演奏力はもちろん、エンターテイメント性、ユーモアのセンス、そしてコマーシャル的でなく、心から「良い!」と思えるのが共通点である。
 言葉で説明しても、ヴィデオで少し見ても、そのバンドを実際見たことにはならない。百聞は一見にしかず。日本で人気があるインディ・バンド、たとえばダーティー・プロジェクターズ、アニマル・コレクティヴ、ディアフーフ、この並びにマン・マンも入ることは間違いないのだが、やっぱり中年男5人ではダメなのだろうか......。

Chart - JET SET 2013.03.04 - ele-king

Shop Chart


1

Autechre - Exai (Warp)
ご存じ名門Warpを代表する重鎮デュオAutechre。'10年リリースの前作『Oversteps』以来となる待望の新作が遂に登場です。なんとAutechre流トラップやジュークも搭載っ!!

2

Jamie Lidell - S/T (Warp)
名門Warpが誇る説明不要のエレクトロ・ファンク天才Ssw Jamie Lidellが、Beckをプロデューサーに迎えた傑作『Compass』以来3年振りとなる5th.アルバムを完成

3

Blue Hawaii - Untogether (Arbutus)
ご存じGrimsらのリリースでお馴染み、カナダはモントリオールを代表するレーベルArbutusから、美麗ハーモニーを得意とする男女デュオBlue Hawaiiによる強力2nd.アルバムが登場です!!

4

New York Ska-jazz Ensemble - Step Forward (Brixton)
ニューヨークのジャズ・スカ・バンドNysjeの人気盤が嬉しすぎるアナログ化。"Take Five"等のジャズ名曲カヴァーからヴォーカル曲まで、全11曲を収録!

5

Carmen Villain - Lifeissin (Smalltown Supersound)
Smalltown Supersound発のニューリリースは、一流モデルとしても知られるCarmen Villainのデビュー作!B面にPrins Thomasリミックスを収録。

6

Bell Towers - Tonight I'm Flying (Internasjonal)
Roman Warfers名義での活動でも知られるメルボルンを拠点に活動を繰り広げるBell Towersによる久々となる最新作が、Prins Thomas主宰"Internasjonal"より待望のリリース!

7

Spirit Of The Black 808 - Dirty Jointz (Eargasmic)
現行シカゴ・ディープハウス・シーンを代表する人気レーベル"Eargasmic Recordings"からの最新作17番、地元シカゴで暗躍してきたというSpirit Of The Black 808なるミステリアス・アクトによる'97年制作楽曲を12"リリース!

8

V.a. - Movin 2 Fast (Whiskey Disco)
Sleazy Mcqueenが指揮するニューディスコ/リエディット~ビートダウン系人気レーベル"Whiskey Disco"の2013年第一弾リリースは、リエディット・シーン新旧気鋭4組によるワイルドなディスコ・ロック~ビートダウン・ハウスを主体とした即戦力リエディッツ!

9

K-def - One Man Band (Redefinition)
11年発表のアルバム『Night Shift』や、Slice Of Spiceからの蔵出し音源3部作も話題となったJuice Crew出身のビートメイカー・K-defが、またしても素晴らしいインスト作を届けてくれました!

10

Mayer Hawthorne - How Do You Do?-12x7" Box Set (Universal Republic / Fat Beats)
傑作アルバム『How Do You Do』の限定7インチBoxセットが登場。12枚の7インチにアルバム収録曲12曲、B面にはそのインスト・ヴァージョンを収録。さらに並べると1枚の写真になるピクチャー・スリーヴ仕様で、ディスプレイ用のシートも付属という豪華仕様!!完全限定盤です。

ふたたび浮かび上がる巨影 - ele-king

 明日はいよいよアンディ・ストット東京公演を目撃することができるわけだが、マンチェスターのアンダーグラウンド・ヒーロー、デムダイク・ステアの再来日もまた外すわけにはいかない。〈ファンダーズ・キーパーズ〉の一員でもあるショーン・キャンティ、ドーター・オブ・ザ・インダストリアル・レヴォリューションとしても知られるペンドル・コーヴンの片割れMLZによる同ユニット。行き過ぎた音の発掘屋と絶対零度なドローンの使い手が、われわれに見せてくれる風景とは......。
 紙ele-kingも絶賛準備中の次号は「新工業主義(ニュー・インダストリアル)」特集。ちょうど1年前にも本誌ではきっちりと記事を組んでいるが、ひきつづき彼らの活躍やその意義を次号の特集内にてもキャプチャーしていきたい。シーンに横たわる黒々とした巨影、デムダイク・ステアふたたびの公演を見逃すな!

2013.03.19 TUE
root&branch/UNIT presents DEMDIKE STARE

<UNIT>
DEMDIKE STARE (MODERN LOVE, UK) LIVE A/V
DJ NOBU (BITTA/FUTURE TERROR)
MLZ (MODERN LOVE, UK)
STEVEN PORTER (10LABEL/SEMANTICA RECORDS/ WEEVIL NEIGHBOURHOOD) LIVE

<SALOON>
COMPUMA
Shhhhh

OPEN/START : 23:00
CHARGE : ADV 3,000yen / DOOR 3,500yen(TIL 24:00 3,000yen)
※未成年者の入場不可・要顔写真付きID

TICKET : 【一般発売】3/3(SUN) on sale
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INFO : 代官山UNIT 03-5459-8630

Andy Stott、DeepChird等と並びUK、Modern Loveレーベル所属の代表アーティストとしてマニアから絶大なる指示を得るDemdike Stare。2011年末からリリースを開始した1000枚限定のアナログ4部作をコンパイルしたダブル・アルバム『Elemental』も話題のダーク・エクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックの最先鋒の再来日が決定。
当日はDemdike Stareのライブに加え、Demdike Stare、Pendle Covenのメンバーでありソロでも数多くの作品をリリースしているMLZがDJとしてもプレイ。日本からはFuture Terror、Bittaを主宰し現在最もその動向が注目されるDJ NOBUのDJとSuvrecaの主宰するSemantica Recordsのカタログにも名を連ねるSteven Porterが貴重なLive Setで参加。更に階下のSaloonではワールド・ミュージックから現代音楽までを網羅するCompumaとShhhhhが特異な空間を演出する。





Autechre - ele-king

 さすがにこの新作でオウテカにはじめて出会うというひとは少ないとは思う。だが、『エクサイ』はすべてのリスナーに、はじめて彼らの音と出会ったときのことを思い出させるだろう。

 僕の場合、リアルタイムでの出会いが01年の『コンフィールド』であり、ただ面食らった、そんな印象を覚えている。決定的だったのは翌年の『ガンツ・グラフ』で、そこで奔放に暴れまわる金属音の生み出す躍動を「ファンク」と呼ぶのなら、サウンドの実験は何かしかめ面のものではない、決まった枠組みからはみ出そうとする獰猛な力のためにこそあるのだと......気づかされ、そして勇気づけられた気分だった。
 もちろんその後の作品も順に追ってはいたのだが、僕が惹かれたのはむしろ、遡って聴いていった過去の作品群であった。『LP5』から『キアスティック・スライド』へ、『トライ・レペテー』から『アンバー』へ、そして『インキュナブラ』......そこにあった(そしてゼロ年代にはあまりなかった)アンビエンスや美が、オウテカの進歩への欲求によって姿を変えていった道程が逆算的に浮かび上がるようでスリリングだったし、何よりも時間を忘れて聴覚をすべて預けたくなるような快感がたまらなかった。そして、彼らが影響を公言するマントロニクスにも、その後ようやく出会うこととなった。
 当たり前の話だが、音の歴史はリスナーに対して不平等である。オウテカのように20年のキャリアを通してつねに前に進み続けてきたようなアーティストとは、いつ、どこで出会うかによって聴こえ方が変わってくることも大いにあるだろう。だが、それが少し覆されたように思えたのが前作『オーヴァーステップス』で、そこでは初期の彼らの美しい和音やメロディ、アンビエンスが、オウテカが長い時間をかけて歩んできた音を踏まえた上で合流しているように聞こえた。それまでの数作では頭ひとつ出た出来だったといまも感じるし、そこには何か、時間の蓄積がオウテカという究極の進歩主義者にも及ぼすものがあったのではないか......と勘ぐってみたくもなった。

 『エクサイ』は2枚組の2時間を超える超大作で、結果として、ここではリスナーにかなり平等に近い立場がはじめて与えられているのではないだろうか。ここには初期を思わせる美しいメロディがあり、あるいはアシッド・ハウスめいたトリップ感があり、インダストリアルなランダム・ビートがあり、エレクトロへの忠誠がある。図式的に大作イコール集大成、と言いたいわけではない。それらオウテカを象ってきた要素たちが順列組み合わせではなく接続されミックスされ、実に複雑な混合体として生み出されている。1枚目の2曲目"irlite(get 0)"に端的に表れているが、10分に及ぶ組曲めいた構成のなかでインダストリアルとアンビエントとノイズとファンクが重なり合いすれ違い、混淆する。それはまるで、時系列を無視してオウテカのディスコグラフィを行き来するかのような、そしてオウテカの持つ多面性と複雑さをさらに推し進めた形で味わうような体験だ。明言できる統一されたムードはない。BPMもムードも音色もバラバラ、非常に振れ幅の広いアルバムだ。比較的1枚目は曲ごとのカラーがはっきりとしているが、不穏なダウンテンポ・エレクトロ "bladelores"における余韻たっぷりの長音で1枚目が幕を閉じても、『エクサイ』は終わらない。そこから2枚目へと突入し、さらなるオウテカの深淵へと入り込んでいく。かなり進んだところで出くわす、通して13曲目の"spl9"などは『ガンツ・グラフ』を容赦なく鋭利にしたようなメタリックかつカオティックなファンクで、長旅を気楽に楽しむことなど出来やしない。
 さらに言えば『エクサイ』は、オウテカの歴史だけに留まる作品ではない。"T ess xi"のスペイシーな電子音にはデトロイト・テクノが遠景に見えるようだし、"jatevee C"にはたしかにかつてのレイヴのようなアシッディな感覚がある。もちろん、オールドスクールのエレクトロはもはや切り離せないほど深く根を張っている。新しい音好きのB-Boyだった彼らの出自の、その過去まで時空はワープする。いったい何度聴けば全貌を掴めるのだろうか。オウテカが交錯させてきた聴覚体験の道のり、その記憶と出会い直し続けるような濃密さがここにはある。

 けっして気楽に聴けるアルバムではないし、オウテカで2枚組という時点で尻込みしてしまう人間も少ないないだろう。けれども、これはアーティストがエゴによって理性を失った結果の作品ではない。2枚組にした理由を訊けば、ロブ・ブラウンははっきりとこう答えてくれた。「今の時代、どの音楽も短いものばかりだ。それとは対極にあるものを作った」
 その意味では、頑固なショーン・ブースとロブ・ブラウンのふたりはその精神性においてまったく変わっていない。『エクサイ』は、リスナーの音への探究心を挑発し、そして信頼してきた彼らの20年の結実である。険しい道のりを経てようやくたどり着く(ボーナス・トラックを除く)ラスト・トラックの"YJY UX"がはじまった瞬間の慄然とするほど美しさは『LP5』の幕を閉じる名曲"Drane2"を想起させ、しかしそこにノイズとファットなビートが合流することで、わたしたちがまだ知らない領域へと連れて行ってくれる。『エクサイ』は、消費主義を徹底的に拒絶する大がかりなトリップだ。膨大な過去が2時間のなかで行き交い、そしてオウテカは、さらなる音の冒険を進めることを迷わない。

Toru Yamanaka - ele-king

 睦月、如月は例年僕の生体バイオリズムが最も降下を記録するシーズンである。それは自身のなかと外の世界に最も顕著なズレが生じることを意味する。芸術表現における主たるモチヴェーションのひとつはこのズレを補正することだ。この『セクスタント』には彼の内省的事柄を音像とその配置によって丁寧に具現化していく根源的行為が各トラック毎に完遂されていて、それが聴者の心象から新たなるスケッチを描き出す。セクスタント(航海計器)はいかなる聴者の内なる大海原にても正確な航路を導き出してくれるに違いない。〈shrine.jp(シュラインドットジェイピー)〉なる独自のブランディングを施されたリリースをハイペース継続している現代型のレーベルが畑は違えど存在しているということは、いい加減正月ボケから目を醒ますべきだと僕に告げているのかもしれない。

猥雑さと崇高さの融合。京都の地下シーンをリードし続ける山中透が、コンポーザーとしての魅力を余すところなく発揮した傑作。

山中透は80年代より活動する作曲家、レコーディング・エンジニア、プロデューサー、DJ。Foil Records主宰。ダムタイプに結成当初から2000年まで音楽監督として参加し、代表作『S/N』をはじめ多くの作品で音楽・音響を手掛ける。また1989年より続くドラァグクイーン・イベントDiamonds Are Foreverを主催するなど、常に京都の地下シーンをリードしてきた。 本アルバムはクラブ・ミュージックとフィルム・ミュージックを組み合わせたような、独自のバランス感覚で構成されており、山中がコンポーザーとしての魅力を余すところなく発揮した作品となっている。
抑えのきいたグルーヴからジャジーなシンコペーションへと変化するリズムが印象的な"Birdy"、ヴァイブとオルガンのフレーズがクールなファンクネスを作り出す"Slide Show"など、随所に散りばめられたブラック・ミュージック特有の律動は極めてフィジカル。また荘厳なパイプオルガンの旋律が、強烈なエモーションを生み出す"Barnard 68 Part 2"に代表される、猥雑さと崇高さの融合も作品の重要なファクターとなっている。 リミックスにAUTORAやSPDILLなどでも活躍するspeedometerことJun Takayama、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの石川智久が参加。マスタリングはMAGIC BUS Recording Studioの沢村光が手掛けている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

polar M - ele-king

 エレクトロニカにおけるアンビエント以降の音楽/音響はいかにして成立するのか。京都出身のpolar Mことmuranaka masumが奏でる音のタペストリー/層は、この「難題」に対して柔らかな返答を送っているように思えた。電子音響のクリスタルな響き。ヴォーカル・トラックが醸し出す透明な感情。ロード・ムーヴィのサントラのようなギターの旋律。ガムランでクリッキーなビート。これらの音が緻密にエディットを施され音楽作品として成立するとき、「音楽/音響」の対立は綺麗に無化されていくのだ。まるで氷の密やかに重なり合うような結晶のようなデジタル・サウンド。ずっとずっと浸っていたい。

ギターを中心に奏でられる情感溢れるメロディーと、深いアンビエンスが静かな夜にいざなう。

polar M(ポーラ・エム)こと村中真澄は京都を拠点に活動するミュージシャン、ギタリスト。関西屈指の電子音楽イベントnight cruisingを中心にライブを行い、これまでにHome Normalのサブ・レーベルNomadic Kids Republicよりアルバム『northern birds』をリリースしている。ソロ以外にダンスとの共演、映像作品への楽曲提供など幅広い範囲でコラボレーションをしており、京都の様々な分野のアーティストから信頼を寄せている。
セカンド・アルバムとなる本作では、ギターを中心に奏でられる情感溢れるメロディーと深いアンビエンス、卓越した編集センスで静かな夜に沈み込んでいくようなサウンドスケープを描き出している。また前作や、自主制作CD-R作品『Headlight to Midnight』などを通して確立してきた音質・音圧のクオリティーと、アルバム全体で1つのストーリーを描き出すような構成力が一つの達成をみせている。 ゲスト・ミュージシャンとして"the night comes down"にMille Plateauxのコンピレーション『Clicks & Cuts 5.0』に参加するなど、国内外で評価される京都のユニットrimaconaの柳本奈都子がヴォーカルで参加。polar M初の歌ものとなっている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

armchair reflection - ele-king

 ポップ&ファニーなサウンドが幾層も重ねられ、聴き手を人形アニメのような世界に連れて行ってくれる作品だ。しかしその可愛らしい音響の奥深くに耳を澄ますと、その音のウラにある音のザワメキを感じ取ることができる。まるでドローンやノイズのような世界を裏返すような音。それもそのはず、本作は、curtain of cards名義で多数の作品をリリースしている大堀秀一の作品なのだ。大堀秀一といえばPsysExとのplan+e(リリースされたばかりのアルバムも最高!)も参加している、幅広い音楽性に裏打ちされた音へのこだわりは本作のサウンドの隅々にも感じられる。

テクノ・ポップとトライバルなサウンドを取り入れたファンタジックなエレクトロニカ。

curtain of cards名義で活動する京都在住のアーティスト大堀秀一による別名義ソロ・プロジェクトarmchair reflection(アームチェア・リフレクション)。これまでにcurtain of cards名義で東京の音響レーベルCommune Discから多数リリースしており、電子音響インプロヴィゼーション・ユニットplan+eのメンバーとしても活動している。 本作は2002年にshrine.jpからリリースした同名CD-R作品(SRCDR007)の再発盤。ロボットヴォイスと、拍子はずれなオルガンの音色が無垢なサウンドを作り出す"the paratrooper"、東南アジアの民族音楽をポップに消化したようなリズムが楽しい"small speaker"と"sculpture"など、アルバム内に様々な音楽性が混在。ドローンやノイズを用いたミニマムな音作りを得意とするcurtain of cardsのサウンドとは一線を画す、テクノ・ポップとトライバルなサウンドの要素を多分に取り入れたファンタジックなエレクトロニカ作品となっている。 当時の関西には東京中心のメジャー・シーンや、ストイック過ぎる前衛シーンへの反動によって、童心に立ち返るようなイメージの音楽を制作するアーティストが多数存在していた。本作はそういった時代の空気を捉えた一枚となっている。
大堀はplan+eとしてもshrine.jpからアルバムをリリースしている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

Rexikom - ele-king

 立体的に構築された音響、そこに人と人のたてる物音のようなノイズがゴーストのように貼り付いている。ヘッドホンで聴くと何度か後ろを振り向くことになるだろう。プライヴェートな生活音ではなく、どこかしら公共空間からのサンプリングを思わせるそれは、硬質なサウンド・デザインとも相俟って、本作のインスピレーションの根源ともなったというゲオルグ・トラークルの欝や「世界苦」を現代的に解釈しているのではないかと想像させる。

電子音楽が内包する本来的な文学性をまとった フロア仕様のテクノ・サウンド。

Masahiko Takeda、Naohiro Tomisawa(Pain For Girls)、Takashi Himeoka(Etwas)の3人で構成される、京都の電子音響ユニットRexikom(レキシコン)初のCD作品。2011年の活動開始以降、電子音楽レーベルIl y a Records(イリヤ・レコード)を主宰したり、ライブ・インスタレーションを中心とするイベントIl y aを主催するなど幅広い活動を展開。それぞれがソロ・アーティストとしても活動している。 タイトルのGeläute der Stille(ドイツ語で静寂の響き) は、ハイデガーが詩人ゲオルグ・トラークルの詩を評した際に用いた言葉。アルバムはドイツ表現主義を代表するトラークルの詩世界を媒介として制作されたという。 "Grodek"や"Alton"は、テクノ・ビートに神秘的で不穏なシンセ音がのる、いわゆる黎明期のテクノ・サウンドを彷彿とさせる楽曲だ。テクノとSFの関係性など、電子音楽と20世紀の文学が切り離せない関係にあることは周知の事実だが、回帰的であるが故に、デトロイト・ディープ・サイドのアイコンDrexciyaに通底するようなテクノ特有の文学性を獲得することに成功。それがそのまま同世代のアーティストにないオリジナリティーとなっている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

HIRAMATSU TOSHIYUKI - ele-king

 『CHASM』はグリッチを基調にしているが、本作のノイズはかならずしも制御不能なエラーを志向するのではなく、マッシヴなビートやアンビエントな電子音、サブリミナルな効果を生むヴォイス・サンプルといったいくつかのエレメントのなかにそれを配置し、多面的に構成(コンポーズ)することで、HIRAMATSU TOSHIYUKIは古典的なIDMの方法論(というより、IDMそのもの)のアップデイトをはかるかのようである。ビートの波間をノイズがただよう点描的な"Chasm"、グリッチ・アンビエントの"Old Soil"とそれを反転させたかのような不定形のビートと音響による"Mass"、つづく"N_V_H"のコラージュ感覚、さらにビートメイカーとしての非凡さをうかがわせる "Let's Dance"、そのベースにはヒップホップからなにから、同時代のエレクトロニック・ミュージックを血肉化した身体が見え隠れするので、私は次作はもっと長尺の作品にじっくり浸りたいと思った。

オブスキュアな音像、 卓越した展開力で聴かせる上質なエレクトロニカ。

HIRAMATSU TOSHIYUKIは滋賀出身、京都在住のアーティスト。関西を拠点としており、音響だけでなく、映像を含めたライブやVJも行う。また滋賀の山中や、琵琶湖に浮かぶ離島にて音楽イベントを共同開催するなど、地域に根差した活動も展開している。楽曲制作の軸にはMax/MSPによるプログラミングがあり、パッチ式のシンセNord Modularを外部音源で使用している。 本アルバムはCDフォーマットではキャリア初リリースとなる。光る霧に包まれる中ゆっくりと歩いていくような、淡い音像を持つタイトル曲"CHASM"、William Basinskiの『The Disintegration Loops』を思わせるシンセの不安定なループとグリッジ・ノイズの重なりが、オブスキュアな空間性を作り出す"Old soil"と、冒頭アンビエント・マナーの2曲が続く。
リズムとノイズの境界線を破壊するカオティックな"Mass"以降は、一転してダンスフロア仕様のエレクトロニカへシフト。デジタル・ノイズとアンビエントを基軸としながら、巧みに変転する展開力が素晴らしい。最後にテープ・コラージュ的なループ音とダビーなエフェクトが幻想的な"Walk"でアルバムが終わる余韻も心地良い。 アートワークは関西を中心に活躍するフォトグラファーの久田元太が手掛けた。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

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