ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Jane Remover - Revengeseekerz | ジェーン・リムーヴァー
  2. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催
  3. Columns Electronica Classics ──いま聴き返したいエレクトロニカ・クラシックス10枚  | Alva noto、Fennesz、Jim O'Rourke
  4. caroline ──まもなく2枚目のリリースを控えるキャロライン、ついに初来日が決定
  5. Columns ♯13:声に羽が生えたなら——ジュリー・クルーズとコクトー・ツインズ、ドリーム・ポップの故郷
  6. Ami Taf Ra ──新たに〈Brainfeeder〉に加わったアミ・タフ・ラ、新曲はカマシ・ワシントンがプロデュース
  7. 別冊ele-king 渡辺信一郎のめくるめく世界
  8. interview with aya 口のなかのミミズの意味 | 新作を発表したアヤに話を訊く
  9. Hüma Utku - Dracones | フーマ・ウツク
  10. Shuta Hasunuma ──蓮沼執太フィルがブルーノート東京での2年ぶりとなるコンサートを発表
  11. interview with IR::Indigenous Resistance 「ダブ」とは、タフなこの世界の美しきB面 | ウガンダのインディジェナス・レジスタンス(IR)、本邦初インタヴュー
  12. Mark Stewart ——マーク・スチュワートの遺作がリリースされる
  13. interview with Louis Cole お待たせ、今度のルイス・コールはファンクなオーケストラ作品
  14. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか
  15. Stereolab ——日本でもっとも誤解され続けてきたインディ・ロック・バンド、ステレオラブが15年ぶりに復活
  16. Mark Turner - We Raise Them To Lift Their Heads | マーク・ターナー
  17. 野田 努
  18. DREAMING IN THE NIGHTMARE 第2回 ずっと夜でいたいのに――Boiler Roomをめぐるあれこれ
  19. interview with Mark Pritchard トム・ヨークとの共作を完成させたマーク・プリチャードに話を聞く
  20. 青葉市子 - Luminescent Creatures

Home >  Reviews > HIRAMATSU TOSHIYUKI- CHASM

HIRAMATSU TOSHIYUKI

HIRAMATSU TOSHIYUKI

CHASM

SRCD033 / shrine.jp

Amazon

松村 正人 Feb 26,2013 UP

 『CHASM』はグリッチを基調にしているが、本作のノイズはかならずしも制御不能なエラーを志向するのではなく、マッシヴなビートやアンビエントな電子音、サブリミナルな効果を生むヴォイス・サンプルといったいくつかのエレメントのなかにそれを配置し、多面的に構成(コンポーズ)することで、HIRAMATSU TOSHIYUKIは古典的なIDMの方法論(というより、IDMそのもの)のアップデイトをはかるかのようである。ビートの波間をノイズがただよう点描的な"Chasm"、グリッチ・アンビエントの"Old Soil"とそれを反転させたかのような不定形のビートと音響による"Mass"、つづく"N_V_H"のコラージュ感覚、さらにビートメイカーとしての非凡さをうかがわせる "Let's Dance"、そのベースにはヒップホップからなにから、同時代のエレクトロニック・ミュージックを血肉化した身体が見え隠れするので、私は次作はもっと長尺の作品にじっくり浸りたいと思った。

オブスキュアな音像、 卓越した展開力で聴かせる上質なエレクトロニカ。

HIRAMATSU TOSHIYUKIは滋賀出身、京都在住のアーティスト。関西を拠点としており、音響だけでなく、映像を含めたライブやVJも行う。また滋賀の山中や、琵琶湖に浮かぶ離島にて音楽イベントを共同開催するなど、地域に根差した活動も展開している。楽曲制作の軸にはMax/MSPによるプログラミングがあり、パッチ式のシンセNord Modularを外部音源で使用している。 本アルバムはCDフォーマットではキャリア初リリースとなる。光る霧に包まれる中ゆっくりと歩いていくような、淡い音像を持つタイトル曲"CHASM"、William Basinskiの『The Disintegration Loops』を思わせるシンセの不安定なループとグリッジ・ノイズの重なりが、オブスキュアな空間性を作り出す"Old soil"と、冒頭アンビエント・マナーの2曲が続く。
リズムとノイズの境界線を破壊するカオティックな"Mass"以降は、一転してダンスフロア仕様のエレクトロニカへシフト。デジタル・ノイズとアンビエントを基軸としながら、巧みに変転する展開力が素晴らしい。最後にテープ・コラージュ的なループ音とダビーなエフェクトが幻想的な"Walk"でアルバムが終わる余韻も心地良い。 アートワークは関西を中心に活躍するフォトグラファーの久田元太が手掛けた。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)

松村 正人