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〈シュラインドットジェイピー〉の肖像

〈シュラインドットジェイピー〉の肖像

――模索をつづける京都IDMの雄

Feb 27,2013 UP

 97年に設立され、ひとつの哲学のもとに独自のIDMを模索しつづけてきた国内レーベル、〈シュラインドットジェイピー〉。2011年よりほぼ毎月のペースでリリースされてきた21タイトルをele-kingの視点でご紹介しよう。主宰である糸魚健一のブレない音響観やアート・ワーク、繚乱と展開される各アーティストのサウンド・デザインを楽しみたい。国産のエレクトロニカやIDMの水準をしっかりと感じ取ることができるだろう。

 倉本諒、デンシノオト、橋元優歩、野田努、松村正人、三田格によるレヴュー21タイトル掲載ページは、以下からご覧いただけます。
https://www.ele-king.net/special/shrine.php


■Pick Up

intext - fount
SRCD025

言語=フォント=シニフィアンの「美」が、形式=デザインの「美」へと遡行し、そこからサウンド=音響・音楽が生まれること。京都在住の外山央・尾崎祐介・見増勇介らによるこのエレクトロニクス・サウンド・アート・プロジェクトのミッションは、テクスト・フォント・デザイン・サウンドのマッピングを拡張していくことで、電子音響作品における「形式の美」を刷新する試みのように思えた。電子音の清冽な持続、陶器のような質感のクリッキーなリズム、記憶を解凍のようなサウンド・コラージュ。それらが精密に重なりあい、一切の濁りのない清流のようなサウンド・レイヤーを生成していく。そのサウンドのなんという美しさ! (デンシノオト)

plan+e - sound-thinking
SRCD038

レーベルを主催するサイセクス(PsysEx)とアームチェアー・リフレクションによるアティック・プランに萩野真也が加わって名義が短縮され、さらにE(Ekram)こと古舘健をフィーチャーした即興ユニットの1作目。前半はムーヴ・Dのディープ・スペース・ネットワークを思わせつつ、音数を減らしていないラスター・ノートンというか、ドイツ産にはない情感が随所から滲み出してくる。あるいはマッシヴ・アタックをグリッチ化したような泥臭さをそこはかとなく漂わせ、無機質な音だけで構成されているとは思えない豊穣なニュアンスへと導かれるとも(闇のなかを手探りで進んでいるのに、どこか安心感があるというか)。後半は発想の源がさっぱりわからない“cycloid”や、雅楽(?)にジャズを持ち込んだ“bon sens”など意外な展開が目白押し(後者は今西玲子を琴でフィーチャーし、法然院で録音)。全9曲、似たようなパターンはまったくなく、アンビエント係 数の高い“thinking reed”や“cosmology”にしてもなかなか一筋縄ではいかないややこしさに満ちている。つーか、またしてもピッチフォークあたりに「日本人はなんでオウテカばっかり聴いて、自分の国の......」とか嫌味を書かれそうな予感も? (三田格)

Toru Yamanaka - sextant
SRCD027

睦月、如月は例年僕の生体バイオリズムが最も降下を記録するシーズンである。それは自身のなかと外の世界に最も顕著なズレが生じることを意味する。芸術表現における主たるモチヴェーションのひとつはこのズレを補正することだ。この『セクスタント』には彼の内省的事柄を音像とその配置によって丁寧に具現化していく根源的行為が各トラック毎に完遂されていて、それが聴者の心象から新たなるスケッチを描き出す。セクスタント(航海計器)はいかなる聴者の内なる大海原にても正確な航路を導き出してくれるに違いない。〈shrine.jp(シュラインドットジェイピー)〉なる独自のブランディングを施されたリリースをハイペース継続している現代型のレーベルが畑は違えど存在しているということは、いい加減正月ボケから目を醒ますべきだと僕に告げているのかもしれない。(倉本諒)

ieva - il etait une fois
SRCD036

最初にヘッドフォンで聴いて、数分後、このアルバムにすっかり魅せられた。イエバによる『Il Etait Une Fois(昔々)』は、聴覚による想像的景色の万華鏡だ。まどろみを誘い、夢と記憶の茂みをかき分け、日々の生活では忘れている感情の蓋を開ける。アンビエント・ミュージックはこの10年で、より身近な音楽となった。ただ、そう、ただ耳を傾けさせすれば、景色は広がる。そして、フィールド・レコーディングとミュージック・コンクレートも、アンビエントにおいてより効果的な手法として普及している。クリスチャン・フェネスやクリス・ワトソン、グレアム・ラムキン、あるいはドルフィン・イントゥ・ザ・フューチャー......本作もこうした時代の新しい静寂に連なっている。女性ヴォーカルの入った最高に美しい曲が2曲あるが、それらは歌ではなく、あくまで音。フィールド・レコーディング(具体音)の断片たちが奏でる抽象的で想像的な音楽のいち部としてある。まったく、なんて陶酔的な1枚だろう。(野田努)

polar M - the night comes down
SRCD022

エレクトロニカにおけるアンビエント以降の音楽/音響はいかにして成立するのか。京都出身のpolar Mことmuranaka masumが奏でる音のタペストリー/層は、この「難題」に対して柔らかな返答を送っているように思えた。電子音響のクリスタルな響き。ヴォーカル・トラックが醸し出す透明な感情。ロード・ムーヴィのサントラのようなギターの旋律。ガムランでクリッキーなビート。これらの音が緻密にエディットを施され音楽作品として成立するとき、「音楽/音響」の対立は綺麗に無化されていくのだ。まるで氷の密やかに重なり合うような結晶のようなデジタル・サウンド。ずっとずっと浸っていたい。(デンシノオト)

Psysex - x
SRCD030

〈shrine.jp(シュラインドットジェイピー)〉主宰のPsySex(サイセクス)こと糸魚健一をはじめて知ったのは、まだ雑誌に勤めていたとき、〈涼音堂茶舗〉の星さんにファースト『Polyrhythm_system exclusive message』をご紹介いただいたときなので、もう10年になるが、PsySexはこの間、一貫してユニット名の由来でもある“ポリリズム - システム”、つまり揺らぎやズレを内包した機構の構築をつきつめてきた。それはIDMの金科玉条というよりシステム自体の自律性であり、そのベクトルに沿いながらPsySexは〈daisyworld〉や〈12k〉〈port〉〈imagined〉などのレーベルとリンクし、アルヴァ・ノトやAtom TMと親交を深めたが、軸は揺らがなかった。まったくブレない。アルバムごとの表情はもちろんちがうし、テクノロジーの変遷を無視するわけにはいかないが、PsySexのビートとノートとサウンドの化合物は、白地図上の国盗りゲームのようだったIDMのトレンドとはハナから距離をとっていた。『x(テン)』はその10年目の経過報告であり、時空間上に音を置いていくやり方に円熟の旨味さえ感じさせる。ストイシズムのなかに滲むものがある。アブストラクトなのにギスギスしていないのは〈shrine.jp〉の諸作にも通じるものであり、PsySexという機構はそれらとの連関のうちに語られるべき何ものかに拡張しつづけている。(松村正人)

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