Home > Reviews > Nomura Kenji- Folklore
普段こういった音楽をほとんど聴かない小生は、先ほどから頭を内部から爪でカリカリされている気がしてならない。各サウンドのテクスチャーとその間を駆け巡る旋律は驚くほど色鮮やかな展開を見せている。それはあたかもモノクロームの写真作品で構成されるジャケットに写されていない色彩を聴者というそれぞれのパレットを用いて彩色するべくうながされているような感覚である。
水と光が織りなす情景をイメージさせる、
内省的なエレクトロニカ。
Nomura Kenjiは京都出身、大阪在住のアーティスト。これまで関西を中心にイラスト、造形、絵画、写真などの分野で創作活動を行ってきた。2011年よりrace tone tortoise名義で音楽制作を開始、本作がキャリア初リリースとなる。 水面に落ちる水滴のような澄んだピアノのハイトーンが印象的な"Rythmic Canal"、夜の湖に映る街灯りを連想させる"Blue Jay"、波の音と鳥のさえずりがサンプリングされた"Teach"など、水と光が織りなす情景をイメージさせる美しい楽曲が並ぶ。"Teach"ではアフリカン・パーカッション、"Just"ではエチュード風のピアノ、"Rain Drop"では金属打楽器の音が楽曲の最後に配置されているが、環境音、楽器の音色、電子音が調和する中、あえて違和感の残るレイアウトを選択する手法も作曲の特長となっている。 全体を内省的な印象が覆っているが、アルバムを制作する際には室内や、自然を歩きながらのリスニングを想定し、一曲一曲をコンパクトに仕上げたという。また全トラックに共通する独特の間は、京都の街から受けたインスピレーションが反映されているそうだ。 アートワークは野村本人のモノクロ写真作品を採用。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
倉本 諒