Home > Reviews > genseiichi- Hello my friends. It's me
92~93年のベッドルーム・テクノとも似た、いまでは珍しい楽天性と実験生の華麗な結実。思ってもいなかった人に出会ったような嬉しい驚きとでもいうか、温かい電子音は、フワフワと軽く、僕の心に忍び込み、微笑みをもって平穏を醸成する。このレーベルの作品全般に言えることだが、立体的な録音それ自体も心地よく、音のマッサージである。乾いたドラムマシンの音、ノイズ、合成音、すべてが愛おしい。
軽快さと歪みの共存。アヴァンポップに通じるような遊び心溢れる電子音楽作品。
genseiichiは京都在住のミュージシャン、舞台音響家。2006年に5人組インプロヴィゼーション・ユニットa snore.のメンバーとして音楽活動をスタート、2010年からソロ活動を開始した。これまでに京都の劇団夕暮れ社弱男ユニットや、同じく京都を中心に活動するダンサー倉田翠の作品にて音響を務めている。楽曲制作はすべてハードウェアのみで行っており、テープコンプなどのローファイな音響効果も採用している。 ファースト・アルバムとなる本作では、古くは旧西ドイツのNEU、近年ではフランスのJulien Locquet(a.k.a. Gel:)などのサウンドに聴くことのできる、軽快さと歪みの共存がアイデアの主軸となっている。全編を通してアヴァンポップ/トイポップに通じる、おもちゃ箱をひっくり返したようなイメージが渦巻く。 "funny game"や"agony of photographer"ではエフェクトによって極端なまでにトラックを破綻させることで、カオティックなイメージを作り出しており、"confused hop"では、目まぐるしく変化するエフェクトとポリリズムが奔放さを演出する。波の音、鳥の鳴き声など、ジャングルの奥地を想起させる環境音とドローンを組み合わせた"penhaligon's endymion"は、異世界に迷い込んだような不安と懐かしさを同時に感じさせる不思議なヴィジョンをもつ楽曲となっている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
野田 努