〈shrine.jp(シュラインドットジェイピー)〉主宰のPsysEx(サイセクス)こと糸魚健一をはじめて知ったのは、まだ雑誌に勤めていたとき、〈涼音堂茶舗〉の星さんにファースト『Polyrhythm_system exclusive message』をご紹介いただいたときなので、もう10年になるが、PsysExはこの間、一貫してユニット名の由来でもある"ポリリズム - システム"、つまり揺らぎやズレを内包した機構の構築をつきつめてきた。それはIDMの金科玉条というよりシステム自体の自律性であり、そのベクトルに沿いながらPsysExは〈daisyworld〉や〈12k〉〈port〉〈imagined〉などのレーベルとリンクし、アルヴァ・ノトやAtom TMと親交を深めたが、軸は揺らがなかった。まったくブレない。アルバムごとの表情はもちろんちがうし、テクノロジーの変遷を無視するわけにはいかないが、PsysExのビートとノートとサウンドの化合物は、白地図上の国盗りゲームのようだったIDMのトレンドとはハナから距離をとっていた。『x(テン)』はその10年目の経過報告であり、時空間上に音を置いていくやり方に円熟の旨味さえ感じさせる。ストイシズムのなかに滲むものがある。アブストラクトなのにギスギスしていないのは〈shrine.jp〉の諸作にも通じるものであり、PsysExという機構はそれらとの連関のうちに語られるべき何ものかに拡張しつづけている。
ユニークな音階を持つリズムと、視覚的なグルーヴ・センス。
深化し続けるポリリズムの最前線。
shrine.jpのレーベル・オーナーで、関西を代表する電子音楽家糸魚健一によるソロ・プロジェクトPsysEx(サイセクス)通算5枚目となるアルバム。これまでに細野晴臣のdaisyworld discsなど、国内外問わず多くのレーベルから作品をリリース。また京都のMETROを拠点として積極的にライブを行っており、DJ iToy名義や、電子音響インプロヴィゼーション・ユニットplan+eのフロントマンとしても活動している。
本作はリズムがもつユニークな音階、ストイックなグリッジと粒立ちのいいキックに見え隠れする意表を突くウワモノのチョイスなど、PsysExサウンドの特長をクリアに伝えるアルバムとなっている。またミドルテンポの曲を多く収録することで、リズムの軌道が見えるかのような独自の視覚的グルーヴ・センスを引き立たせており、グルーヴのビジュアライズを示唆する効果を生み出している。
ハイライトは国内外で評価され続けるアーティストAoki Takamasaとの共作"841"。当たりの柔らかさとシャープネスを合わせもったAoki Takamasaの個性がバランスよく反映された、ハイセンスなダンスチューンに仕上がっている。
糸魚はplan+eとしてもshrine.jpからアルバムをリリースしている。
(中本真生/UNGLOBAL STUDIO KYOTO)
松村 正人