「AY」と一致するもの

Marii (S・THERME) - ele-king

フロアでだれかに話しかけたくなるような、いいにおいが漂う90'sよりのハウスを選んでみました。
音攻めパーティ「S」をオーガナイズしたり、THERME GALLERYというギャラリーの運営をしていたりします。
6月はSクルーみんなでHOUSE OF LIQUIDに出張します。
6/15 @ KATA (Liquid Room) 【HOUSE OF LIQUID】

THERME GALLERY https://thermegallery.com/
SOUND CLOUD https://soundcloud.com/mariiabe
BLOG https://cawgirl.exblog.jp/

いいにおいのするハウス10曲 2013.5.10


1
Enrico Mantini - The maze(What you like) - Smooth sounds

2
Jump Cutz - Meditate on this - Luxury service

3
The visionary - Free my soul (duke's deep skool mix) - Music for your ears

4
Pierre lx - Gabita - Initial cuts

5
Aly-us - Go on (club mix) - Strictly rhythm

6
Vapourspace - Vista humana - Ffrr

7
Cazuma & Hiroaki OBA - Alphonse - TBA

8
Raiders of the lost arp - Stealing my love - Snuff trax

9
Reese&Santonio - Truth of self evidence - KMS

10
Kornel Kovacs - Baby Step - Studio Barnhus

Heavy Hawaii - ele-king

 ここはタブーのない世界ですよ、というところに連れて行かれたら、われわれは、じゃあ思い切りタブーを犯してやろうと考えるだろうか? そう考えられる人はむしろ大物というか、将来何か偉業を成し遂げるかもしれない。多くの人は、たぶん、ただ弛緩するのではないかと思う。「やってはいけないことがない」→「よかったあ」である。タブーのない世界はただちに「無法地帯」を意味しない。......ヘヴィ・ハワイとはそんな場所のことであるように感じられる。このサンディエゴのデュオは、奇妙なリヴァーブを用いながら安心して弛緩できる空間を立ち上げてくる。

 あまりにもキャンディ・クロウズな"ウォッシング・マシーン"からはじまるこの『グースバンプス』は、彼らの初のフル・アルバム。最初のEP『HH』がリリースされたのが2010年で、キャンディ・クロウズの『ヒドゥン・ランド』も同年だから、なんとなく髪の色のちがう双子のように感じられる。ドリーム・ポップというマジック・ワードが、まさに多彩な方向へと実をつけた時期だ。これまでも散々書いてきたところなので詳細は割愛するが、それはベッドルームが舞台となり主戦場となった数年でもある。三田格が『アンビエント・ミュージック 1969-2009』に1年遅れで収録できなかったことを悔やんだキャンディ・クロウズが、おとぎ話のようにフィフティーズの映画音楽を参照したのに対し、ヘヴィ・ハワイはビーチ・ポップからネジを抜き去る。前者を浮遊と呼ぶなら、後者は弛緩。ふわふわとぐにゃぐにゃ。どちらも似たプロダクションを持っているが、音色は対照的だ。

 もともとは4人ほどの編成で活動していた彼らは、ウェイヴスのネイサン・ウィリアムスらとともにファンタスティック・マジックというバンドを結成していたこともあり、〈アート・ファグ〉からリリースしている背景にはそうした人脈図も浮かび上がる。ガールズ・ネームズとスプリットをリリースしたりもしている。レトロなサーフ・ロックをシューゲイジンなローファイ・サウンドで翻案し、ときにはポスト・パンク的な感性もひらめかせながら2000年代末を彩った一派のことだ。そのときもっとも新しく感じられたサイケデリック・ムードである。シットゲイズと呼ばれた音も彼らと共通するところが大きい。ヘヴィー・ハワイの弛緩の感覚は、ただしくこの系譜に連なるものであることを証している。
 ただし、いかなる様式化も拒みたいというようにぐにゃぐにゃしている。"ファック・ユー、アイム・ムーヴィング・トゥ・サンフランシスコ"や、"ボーン・トゥ・ライド"のように軽快な2ミニット・ポップをスクリューもどきに変換してみたり、ボーイ・リーストリー・ライク・トゥの皮をかぶったパンクス・オン・マーズといった感じの"ボーイ・シーズン"、幻覚のなかで出会うペイヴメントと呼びたい"フィジー・クッキング"などをはじめ、隙間の多いアリエル・ピンク、ピントの合わないユース・ラグーン、ちゃんとしてないザ・ドラムス、ザ・モーニング・ベンダース......いくらでも形容を思いつくけれども、とにかくユルんでいるからそのどれでもないという、ある意味で強靭なボディだ。

「あんまりマジにビーチ・ボーイズ・リスペクトとか言うなよ」という、2010年当時のビーチ・ポップ・モードに対するひとつの回答であるかもしれない。カユカス(Cayucas)のような、ザ・ドラムスやザ・モーニング・ベンダースらからほとんど更新のない音を聴いていると、彼らの骨を一本一本抜いていくようなヘヴィ・ハワイの音の方が間違いなくリアルだ。少し90年代のハーモニー・コリンを思わせるジャケットは、ぼんやりとしたエフェクトや図像を好むドリーミー・サイケのアートワークとは対照的に、クリアな視界のまま夢を見るという矜持があるようにも感じられる。そう思って眺めれば、ここでエフェクトではなく消化器でモヤを張って作られているバリアには、ここ最近というよりはナインティーズ的なフィーリングが顔をのぞかせているとも思われてくる。まあ、ぜんぶ筆者の妄想の域だけれども。

 「なんかさー、あのチアリーダーみたいなルックスの子、20代にして認知症なのかなって」
 スタッフ休憩室で新人の娘がVのことをそう評すと、ペンギン組責任者Dは紅茶を吹きそうになって笑った。
 30歳のDは、ペンギン組に配置されているわたしの上司でもあるわけだが、彼女は部下である23歳のVが大嫌いである。

 ブルネットの髪に顎の尖った理知的な顔立ちをしたD(実際に、キレキレで仕事もできる)と、ブロンドに水色の瞳をしたプリティ&おっとりしているV(実際に、よくいろんなことを忘れる)は、見た目からして正反対なのだが、生まれ育った環境も正反対だという。
 Dは3人の子供を育てあげた公営住宅のシングルマザーの娘だ。父親は無職のアル中だったそうで、1年の半分は家におらず、ちょっと帰って来ては、すぐ何処かに消えていたらしい(路上生活やシェルター生活を好んでする癖があったようだ)。こういう父親のいる家庭はアンダー・クラスに多いものだが、Dの家庭はあくまでも労働者階級だったらしい。
 忘年会で泥酔した帰り、彼女はタクシーの中で言った。
 「私の母親は、いつも働いていた。昼は工場で働き、夜は他人の子供を預かっていた。週末は映画館でポップコーンを売っていた。それでも家にはお金がなかったから、学校の制服なんか、お下がりのまたお下がりで、破れて穴が開いていた。アンダー・クラスの子のほうが、よっぽど裕福な家の子に見えた」

 そんなDは、何かにつけてVに辛くあたる。というか、いじめる。というのも、Vはミドルクラスのお嬢さんだからだ。
 通常、良家の子女は、限りなく最低保証賃金に近い報酬で働く保育士などの職には就かないものだが、英国版ハンナ・モンタナみたいな外見のVはディスレクシアであり、職場で読み書きするのに、わたしのような外国人の助けすら必要とする。彼女の兄たちはケンブリッジ大卒のエリートだそうで、裕福な両親や兄たちに守られて育ってきたのだろうVは、気持ちの優しい娘だ。ディズニーのプリンセスみたいなので子供たちに人気もある。ぼんやりしているので失敗は多いが、それにしたってご愛嬌と思える性格の良さがある。が、Dは許せないらしい。
 「ファッキン・ポッシュな糞バカ」と陰でVを呼び、彼女が失敗する度に、何もそこまで言わなくとも。と思うほど叱るので、Vはよく泣く。
 と書くと、Dはまったく嫌な女のようだが、実際には情に厚く、知的な姐御肌だ。しかし、Vのこととなると、人が変わる。
 英国は階級社会だといわれるが、その階級は法的なものでもなければ、制度的なものでもない。それは人びとの意識のなかにあり(ソウルのなかにあると言った人もいた)、人びとはその意識と共に育ち、育つ過程でその意識も大きく、逞しく、成長して行く。
 「人間の最大の不幸は、自分で生まれて来る地域や家庭を選べないことだ」
 が口癖の英国人を知っているが、保育園などというキュートな(筈の)職場での、若いお嬢さんたちの階級闘争一つを見ても、この国の人々にとり、階級というのがどれほど根深い概念なのかというがわかる。
 もはや、業といっても良い。Dにしたって、自分がやっていることがいじめであることがわからないようなアホな人間ではない。わかっている。わかっているのにやめられないのだ。ヘイトレッド(憎悪)というのは、業のことだ。一時的なセンチメントではない。

 だからこそ、音楽であれ、映画であれ、書物であれ、この国の文化芸術には、階級という業から解き離れているものは一つもないように思う。階級は、ヘイトレッドを生み、コミュニティを生み、闘争と愛を生む。人種、性的指向、宗教、障害などはヘイトレッドを生む人間同士の差異として万国共通のものだが、この国には、それらに加え、階級意識。という宿業のエレメントがある。
 このエレメントは、実は最もパワフルで根深いものかもしれない。しかも、「金持ちの足を引っ掛けて転ばせる貧乏人はクール」みたいな、ワーキング・クラス・ヒーロー賛美の伝統もあるので、貧者から富者への攻撃は許される。特に、保守党が政権を握り、貧乏人がいよいよ貧乏になってから、この風潮は強くなっている。ネオ・ワーキング・クラス意識の盛り上がり。とでも呼ぶべきだろうか。低賃金で働く若い労働者の層が、被害者意識をやたらと肥大させ、妙に頑なになっている。
 貧者が貧者であることを高らかに叫ぶことのできる社会は素晴らしい(わたしが育った時代の日本では、貧者は「いない」ことにされていたから)が、時折、どうしてそこまで階級に拘泥して生きるのか。と思う若い子に出会うのだ。
 思えば、わたしがペンギン組に配置された当初、Dが最初に確認してきたのは
 「あなたの氏育ちはわからないけど、私は本当に貧乏な家庭で育ったの」
 だった。
 「わたしの親も、相当な貧乏人ですよ」
 と答えたが、もしわたしがミドルクラス出身で、しかも外国人という場合、いったいわたしはDにどんだけのいびりを受けていたのだろう。

 「なんでそんなにVのこといじめるの」
 忘年会の帰り、タクシーをシェアしたDに、わたしは尋ねた。その日のDは、わたしが尻を押さなければタクシーにも乗れないぐらい泥酔していた。
 「いじめてないでしょ」
 「ありゃいじめだよ。虐待と言ってもいい」
 わたしが言うと、Dはのけぞって大笑いした。
 「ははははは。下層の人間には、上層の人間を虐待する資格がある」
 「ないよ、んなもん」
 「あるの。この国では」
 愉快そうに笑うDを見ていると、まあ、わたしも人のことは言えないか。と思う。わたしも、むかし、「わたしは金持ちは嫌いである。なぜなら、彼らは金持ちだからだ」と書き放ったことがあったからだ。
 まあ、要するにその程度の、バカなことなのだ。
 そしてそれだからこそ、呪いのように変わらないのだ。

              ************

 そんなDが、先日、保育園をやめた。
 海辺の豪邸に住む金持ちに、現在の2倍の報酬でお抱えナニーとして雇われたという。
 「こんなこと言うのはナイスじゃないとわかってるけど、でも、嬉しい」
Dがやめると知った時、Vはそう言ってロッカー室でそっと涙ぐんだ。
 ようやく、ペンギン組の階級闘争に幕がおりるのである。

 Dが園を去る日、ピザ屋で送別会が行われた。来ないかな。と思ったが、Vはやって来た。敢えて「行きません」という勇気はなかったのだろう。
 送別会の席上でさえ、Dは、労働者階級の人間特有のあけすけなブラック・ユーモアで、本人が目の前にいるのにVの失敗談をジョークにしてげらげら笑い続けた。
 酒が飲めないVは二次会には来ないと言い、先に帰ったが、帰る間際にバッグから花柄のプリティな箱を出してDに渡した。
 「また、最後までこんなポッシュなもん買って来て!」
 Dは笑う。地元では有名なフランス人ショコラティエのいる高級チョコレート店の箱である。
 「Good Luck.」「Take care of yourself」「You too」などと社交辞令を言い合い、ふたりはハグを交わし、Vは店を出て行った。終わり良ければ全て良し。か。なんやかんや言っても。と思いながら見ていると、Dが、箱と一緒に渡された小さな封筒を開けた。
 可愛らしい水玉のGood Luckカードが入っている。Dがカードを開くと、中にはこう書かれていた。
 「Thanks for nothing」

 Dの顔は、見る見る真っ赤になった。その晩、またもやわたしが尻を押さねばタクシーに乗れぬほど彼女が泥酔したのは言うまでもない。
 「あの女、やっぱりムカつくっ!」
帰りのタクシーの中でもDは荒れていた。
 「親が金持ってるってことはね。行きたきゃ上の学校にも行けるし、将来できる仕事だって無限にあるってことなんだ。それを彼女はあたら無駄にして、ぼんやり生きて」
 Dが、大学のファンデーション・コースの通信講座を受けたがっていたことを思い出した。
 「だけど、それは個人のチョイスだからね」
 「あんなに恵まれてるくせに」
 「それぞれが、自分で選ぶことだからね」
 「これだからミドルクラスの奴らは」
 彼女が脇を向いて静かになったので、寝たのかな。と思って顔を覗き込む。BBCラジオ2からオアシスの曲が流れていた。
 Dは虚空を睨みながら、小声でリアム・ギャラガーと一緒に歌っている。

 Because maybe
 You're gonna be the one that saVes me
 And after all
 You're my wonderwall

 彼女にとってのワンダーウォールとは、階級意識なのだろうか。とふと思った。
 それは、生きるバネとなり、慰安となり、回帰する場所にもなるものだから。
 それは、冷たく厳然としているのにどこか暖かい、不思議な壁である。
 人間が先へ進むことを阻む壁であり、人と人とをディヴァイドする腐った壁であることには、変わりないとしても。

Mark Ernestus presents JERI-JERI - ele-king

 ときにケオティックに、厳密に、それ自身が生き物のように動めき、しかし、あたかも機械のように展開するポリリズムの醍醐味、情け容赦ないリズムの反復、多彩なドラミング──アフロ、ラテン、ファンク、そしてダブとテクノ。
 録音が素晴らしい。この気持ちよさは、ヘッドフォンよりもスピーカーで聴いたほうが良い。ベーシック・チャンネル級の低周波が出ている。とはいえ、ここはベースをやや引き締めて、中音をクリアにしたほうが、この打楽器協奏曲の陶酔は伝わる。13人もの打楽器奏者によるアンサンブル、打ち鳴らされるビートが心地よい雨粒のようにスピーカーから空間に広がる。
 芸術的な録音──昔から耳の肥えたドイツ人は、こういう仕事を精密にやる。という印象がますます焼き付くだろう。いや、ドイツ人だからこれができるわけではないのだが......セネガルの民族音楽そのものは、いまさら珍しくはないにせよ、欧州のミニマル・ダブの音響がそれと出会ったときに奇跡的な音楽が生まれた、としか言いようがない。

 ベルリンのマーク・エルネストゥスと、そして、セネガルの音楽、ンバラ(Mbalax)との出会いは偶然だった。デンマークを旅行中、とあるガンビア人のDJがその大衆音楽をプレイしたのをエルネストゥスは耳にした。衝撃を受けたドイツ人は、パリのレコード店で売っているアフリカ音楽のレコードを漁った。それからエルネストゥスは、より多くを知るためにセネガルへと向かった。ンバラの打楽器奏者、Bakane Seckとは、思ったよりもすぐに出会えたと、レーベルの資料には記されている。
 ンバラの面白いところは、キューバ音楽の影響を思い切り受けている点にある。70年代に定義されたという西アフリカのダンス・ミュージック=ンバラは、セネガルにおいて根強く人気のあったというラテン音楽にインスパイアされている。当時のラジオ局やクラブはサルサばかりをかけていたのだ。
 かくして、スペイン語とコンガがサバール・ドラム(セネガルの打楽器)に変換されるのは時間の問題だった。それはパーティ・ミュージックであり、悪魔払いにもなった。植民地主義への抵抗ともなって、酒飲みのBGMにもなった。
 ンバラは、もともとはサバール・ドラムによるリズム・パターンの名称だった。レーベルの説明によれば、それが多彩な打楽器演奏によって、「セネガンビア」なる大衆音楽へと発展したという話だが、「セネガンビア」とは、同じ民族でありながらイギリス領とフランス領に分断されたセネガルとガンビアの連合名でもある。レーベルが言うには、「セネガンビア」の音楽的発展のプロセスに大きく関与していたのが、Aziz Seck、Thio Mbaye、Bada Seckといったジェリ・ジェリ家の人たちだった。エルネストゥスが出会ったBakane Seckは、高名なサバール・ドラム奏者であり、先生であり、広範囲における影響の源だった。
 そしてある日、首都ダカールのスタジオには、ジェリ・ジェリ家から紹介された現地のミュージシャンが集まった──Bakane、Bada Seck、Doudou Ndiaye Rose、Babacar Seck、Moussa Traore、Laye Lo、Assane Ndoye Cisse、Yatma Thiam、あるいは歌手のMbene Diatta Seckなどなど。13人の打楽器奏者もやって来た。そして、トーキング・ドラムは叩かれ、ベース・ギターが弾かれ、DX-7もミックスされた。(ミュージシャンは、その筋では有名な人たちだそうで、メンツの解説は専門家に委ねたい)

 『800% ダガ(Ndagga)』、そのダブ・ヴァージョン『ダガ・ヴァージョン』との2枚同時リリース。レーベル〈ダガ〉は、エルネストゥス自身が主宰する(そのくらい気合いが入っているのでしょう)。昨年から今年の春にかけて、12インチ・シングルがすでに4枚切られている。アフロであり、ファンクであり、ダブであり、テクノとしても楽しめる音楽である。「ウェイリング・ソウル(レゲエのコーラス・グループ)の歌メロのようじゃないか」とはレーベルの弁だが、たしかに言われてみれば、それもあながち的外れな喩えではない。『ダガ・ヴァージョン』には、はっきりとレゲエ色が出ている。
 このところの休日、布団から出たらまずかけるのがこの2枚。台所に立ちながら、サバール・ドラムのポリリズムを浴びている。

Charles Bradley - ele-king

 1948年生まれ、少年期をニュー・ヨーク/ブルックリンで過ごしたチャールズ・ブラッドリーは、14歳のとき(1962年)にアポロ劇場でジェイムズ・ブラウンを見て衝撃を受け、その歌真似をしはじめ、自分も歌手になることを心に決めた。しかし、その道に順調に敷石は並べられなかった。若くして野宿生活を余儀なくされ、職業訓練でコック職を得てからはヒッチハイクで全米を転々とする。その間の音楽活動も実を結ばず、1990年代半ばまでの約20年間は、カリフォルニアでアルバイトで食いつないでは、歌手として小さな仕事を取る暮らしを送っていたという。
 90年代の後半には、ブルックリンのクラブでジェイムズ・ブラウンの物まねパフォーマンスの仕事をするようになるが、およそ50歳になってもまだ"自分の歌"を聴いてもらえる機会をつかめなかったばかりか、それ以降もペニシリン・アレルギーで命を落としそうになったり、ガンショットによって弟を失ったり、芽の出ない下積み生活に深刻な不幸が追い討ちをかけるという、話に聞くに散々な日々を送りながらも、とにかく歌うことは止めなかった。
 そしてJBなりきり芸人と化していたチャールズ・ブラッドリーは、遂にそのブルックリンのクラブで、〈ダップトーン(Daptone)・レコーズ〉の主宰者、エンジニア兼レーベルの中心バンド:ダップ=キングス(Dap-Kings)のバンマス/ベイシストでもあるゲイブリエル・ロスの目に止まるのだ。

 ブルックリンに拠点を置き、ファンク、ソウル、アフロ・ビートを主な守備範囲とする〈ダップトーン・レコーズ〉は、今世紀創業の新興ながら、当初からディジタル録音を一切行わず、アナログ・レコードをリリースの基本メディアとしていることで知られているインディ・レコード会社/レーベルだ。音楽の種類とサウンドの質に硬派な職人気質のこだわりを示す同プロダクションは、チャールズ・ブラッドリーのよく言えばヴィンテージ・スタイルの、悪く言えば堅物の唱法/個性を丸ごと評価し、この歌手を、そこから大切に"育てはじめる"。
 そしてレーベル最初期の2002年から、ブラッドリーの7インチ・シングルが定期的にリリースされはじめ、その計8枚のドーナツ盤によってじっくりと仕上げられた長い長い下積みの努力が、ダップトーン内のダナム(Dunham)・レコーズからのファースト・アルバム『No Time For Dreaming』に結実したのは2011年、ブラッドリー62歳のことだった。

 歴史上のA級ソウル・シンガーたち(O.V. ライト、ジェイムズ・ブラウン、シル・ジョンソン、ジョニー・テイラー、ボビー・ウォマック......)の面影がちらつくブラッドリーの歌のなかには、むしろそれゆえに、彼のそうした偉人たちには及ばない部分が浮き彫りになる。率直に言えば、それは"華"と呼ばれる類のものだろう。だけど一方でこの男の"歌"とは、そこを補って余りある誠実さと熱量なのだということ、この質実剛健を絵に描いたようなたたずまいと生命力それ自体が歌い、メッセージと化しているような存在感なのだということもまた、聴けばすぐにわかる。歌唱力ばかりか、"華"にも運にも恵まれたスターたちの圧倒的な輝きのなかには望むべくもない、古いソウル名盤には刻まれていない種の"ソウル"が、62歳の"新人"シンガーにはあった。それでこの男に日の目はようやく、しかし当たるべくして当たり、人びとはこの素敵な、同時にほろ苦い美談を愛でては、"あきらめずにやっていれば、いつかはものになる"、という教訓をそこから汲み取った。そしてジャケットで寝っ転がっている当人が、「夢を見てる時間はないのさ。起きて仕事しねえとナ(gotta get on up an'do my thing)」と歌うのに感じ入った。

 そして、その初作で広く賞賛され、ここにきていよいよ仕事期の本番を迎えたブラッドリーが、"たった2年しか"インターバルを置かずにこの4月に放った2作目『Victim of Love』がとにかくみずみずしいのだ。苦み走り、枯れ味も立つ、還暦を越えて久しいシャウターが、このフレッシュでエネルギッシュな歌い飛ばし方一発ですべてを魅惑的に潤していくカッコよさは、実力派歌手の技巧的成熟とは全く質の違うものだ。長い潜伏期の果てに、"はらわた"からマグマのように噴出する歌だ。

 サウンドの面では、自己紹介盤にふさわしくファンキー~ディープ・スタイルを重視したファースト作よりも、少し曲調が多彩な広がりを見せた。歌メロには60~70年代ポップスの薫りもするし、サイケ・ロック/70'sモータウン・サイケ風のアレンジもある。総じてダークでスモーキーな前作から明るくカラフルな方向へ歩みを進めた印象を受けるのは、この間に彼が浴びたスポットライトの光量も反映している気がするし、今作のリード・チューン"Strictly Reserved for You"のPVの彩度も関係していると思う。

 それにしても、都会に疲れた男がベイビーを愛の逃避行に誘うそのPVの、絶妙に制御されたダサあか抜け具合が素晴らしい。苦労人の背中に染みついた陰影も、人としてのチャーミングさも殺がずに映し出しながら、現代的な色彩感やカットと、わざと古臭いPV風に演出したゆるい絵づらとを繋ぎ合わせている。このセンス、バランス感覚に、〈ダップトーン/ダナム・レコーズ〉と、ブラッドリーの専属バンド:メナハン・ストリート・バンド(Menahan Street Band)に特徴的な"ネオクラシック哲学"が見て取れる。

 ダップ=キングスや、人気アフロ=ビート・バンドのアンティバラス(Antibalas)にブドーズ・バンド(Budos Band)などから精鋭たちが集い、ブルックリンの通り名を冠したメナハン・ストリート・バンドの演奏は、一聴するとかなりオーソドックスな70's南部サウンドのようでいて、細部にはソウル・マニアの白人ならではの美感とイマジネイションがさりげなく補われている。言わば21世紀のスティーヴ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンたちが、60~70年代サウンドの洗練の一段先で、今の耳が望む痒いところにさらに手を延ばしたような音作りだ。メナハン・ストリート・バンド名義で洒脱な(ジャケットからして!)インスト・アルバムを2作出していること、そしてその1枚目『Make the Road by Walking』(Dunham)のタイトル曲を、ジェイ=Zが2007年の"Roc Boys (And the Winner Is)"で効果的にサンプリングしていたことを記憶している人も多いだろう。

 さらにチャールズ・ブラッドリーの2枚目が今年4月にリリースされたのと同じタイミングでジェイ=Zが発表したニュー・シングル「Open Letter」(内政問題に発展した、ビヨンセとのキューバ渡航について言及した内容が話題を呼んだ)では、ブラッドリーの1枚目に入っていた"I Believe in Your Love"をサンプリングしている。ブルックリンの話題の新多目的スタジアム《バークレイズ・センター》の昨年のこけら落としに抜擢され、8公演を全ソールド・アウトにした地元愛に篤いブルックリン・ボーンの超スーパー・セレブが、地元インディ・レーベルの〈ダップトーン〉の作品をバックアップし、さらには62歳でデビューしたブラッドリーのセカンド作のリリースに、前作からのサンプリングで花を贈るなんていうのは、なかなかにいい話である。

 しかし、何にも増していい話だと思うのは、ブラッドリーがこの5月、遂に、彼が50年前にあのJBを見たアポロ・シアターに、齢60代半ばにしてデビューすることだ。夢は叶うものなのだ......。ブラッドリーの歌が、しみじみ、生きる歓びの歌に聴こえてくる。

Sonarsound Tokyo - ele-king

もうかれこれ1ヶ月以上経ってしまいましたが...... 文:木津 毅

 ニュースでは嵐が来ると繰り返していたし、東京へ向かうバスは雨風で揺れまくっていたのでヤな予感しかしなかったが、それでも新木場に向かったら、同様にそれでも新木場に集まったひとたちがいて少しばかり安心する。今年は悪天候に見舞われた<ソナーサウンド・トーキョー>だがどうにか開催され、「アドヴァンスト・ミュージック」の祭典は水浸しの会場で始まった。さすがにひとは少なかったかもしれない、が、アクトレスが登場するフロアの期待をたしかに感じた僕は、すっかり景気のいい気分になり、1杯目のアルコールを口にする。


Actress

 ソナーについての放談で斎藤辰也が言っていた、「そのフェスだからいく、と思わせるような何か」が悪天候によって奇しくもテーマになっていたように思う。それでも新木場に集まったひとたちは何を持って帰っただろうか? ただ踊って発散したひともいただろうし、もちろんそれとてじゅうぶんに価値のあることだ。ただ、僕があの2日間を思い出したときにじわりと湧き上がるのは、「これから何かが始まるのかも」という予感のようなものだ。
 僕の記憶のなかのこれまでのライヴよりもBPMが落ち着いていたLFOの安定したプレイ、"LFO"が投下された瞬間のフロアの興奮も良かった。カール・ハイドが"ダーティ・エピック"をやったときのアンニュイさも感慨深かった。エイドリアン・シャーウッドのダブはさすがの貫禄で、そのずっしりとした低音に震えた。が、ニコラス・ジャーの思ったよりもヘヴィで迫力のあるバンド・セット(その分、これからの音源であの浮遊感がどうなるのかがちょっと不安でもある)や、ダークスターが何とか後半で辿り着いていたメランコックな高揚感(前半は演奏が噛み合ってなくて危うかった)や、プールサイドのトーフビーツに集まったキッズたちのちょっと遠慮がちなダンスと笑顔......をより鮮明に思い出す。サブマーズは"あげぽよ"どころかスムースでクールなダウンテンポ、ヒップホップだったし、アディソン・グルーヴのベースラインは思っていた以上に折衷的で面白かった。彼らははっきり言って、まだまだ途上中だという印象を残したが、しかしながら、それらが一堂に会することによって、そんな風に世界中に散らばった「アドヴァンスト・ミュージック」の可能性をたしかにフィジカルに感じられたのだ。たくさんのアクトのなかで僕が出会わなかった予感たちと、出会ったひとも当然いただろうと思うとなんとも落ち着かない。


Karl Hyde

 ちなみに僕のベスト・アクトは、迷うことなくアクトレスだ。ひどく抽象的なサウンドの隙間で意表をついて大胆に挿入される仕掛けや、断片的なループが出現しかけたかと思うと違うループが気がつくと背後で蠢いている、そんな風にクリシェを軽やかにかわす展開はスリルそのものだった。後半は思っていた以上にダンサブルなテクノへとなだれ込みそれもたまらなかったが、前半の繊細な音の配置と位相こそ、アクトレスがその日披露した「予感」だったように僕には思えた。

 ソナーは今年も、現在と、そこから続いていく未来を感じるためのグルーヴが胎動するイヴェントだった。結局丸々2日間大いに楽しんでしまった僕は気がつくと何度も酒を飲んでいたようで、膝に疲労と財布に侘しさを残したが、後悔も反省もとくにしていない。

文:木津 毅

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ずぶ濡れダンス 文:斎藤辰也

 初日の夜は大雨が会場に降り注がれたので、プールのあるテラス・ステージでは踊りながら天然シャワーで汗を流すことができた。屋内のバー・スペースからテラスをはさんで対岸の小屋でプレイするサファイア・スローズを観たとき、ロッカーにしまわないでおいたマウンテン・パーカーに鼓舞され、僕は天然シャワーのなかに文字どおり踊り出た。音量は控えめだったものの湿ったハウスのリズムがたしかに胸に響き、やわらかいシンセサイザーと深いリヴァーブにつつまれたサファイアの声が夜空を満たしてゆく。円柱型のストーブの火が消えてしまうたびに、暖まるつもりもないけども見知らぬひとと協力して火をつけた。プールは妖しく緑色にライトアップされており、泉をかこむ妖精のような気分のなか数人のオーディエンスとともに雨のなかを漂いながら踊った。
 僕はもっとみんなにテラスに出て踊ってほしかった。たしかに、終わったあとはずぶ濡れすぎて人にぶつからないように歩かなければならなかったが、踊っていれば服は乾くのだ。事実、そのあとも友人たちに遭遇しLFOやシャーウッド&ピンチで踊り明かしたので、ずぶ濡れだったズボンもさっぱり乾いた。

 ひとつ言わせてほしい。好き勝手に踊るのは、とても快いことだ。かつてゾンビーは言った――「1992年に、きみはどこにいた?」。当時まだ幼稚園にもいなかった僕にはいまになってレイヴがとても羨ましい。アンディ・ストットのライヴもその気持ちを強くさせるものだった。音楽の鳴るところで好き勝手に踊ること。それは音楽から「作品」としての額縁を外す(あるいは、額縁をつけない)楽しみ方でもあり、そこにいる他者おのおのの存在の発露を認めながらそのなかのひとりでいる自分をも同時に認める遊びであるように僕には感じられる。最近はそんなことを強く感じながら音楽の鳴る場所で踊っている。鳴っていなくても鳴らして踊っている。

 2日目の真昼。昨夜は大雨に見舞われていたテラス・ステージで、頭上には嵐と雨後のしらじらしい青空が拡がり、足元には飛びこみ禁止のプールが堂々と日光を浴びている。すっきりしないエセ・リゾート気分をトーフビーツ情報デスクVIRTUALのオープニング・ナンバーで解放させ(空には航空機が飛んでいた!)、以降もスクリューとトラップのビートで客の脚をふらつかせた。田中宗一郎にバトン・タッチする頃にはテラスも笑顔で溢れかえっていた。
 テント風の会場が似合うエキゾチックなングズングズ(Nguzunguzu)は、ラウンジ程度の音量の低さを考慮してか前半は4つ打ちの堅実なプレイに徹していたが、後半になると、ミステリアスなメロディに彩られた自作曲をはじめR&Bやサウス・スタイルのヒップホップでようやく弾けてくれた。しかし別の機会に体感した彼らのDJプレイは、レゲトンをプッシュしまくり、観衆をダンスへと積極的に鼓舞する爆発力があったし、それこそが彼らの本領といえるものだろう。ぜひこんどは音響の豊かなヴェニューでプレイしてほしい。

 そして、なにより僕が待ち望んだ時間がやってきた。夕焼けもどこかに潜み、あたりも暗くなった18時すぎ、ダークスター(Darkstar)がメイン・ステージに登壇し夜の帳を降ろした。ロンドンでの出会いから待つことちょうど2年。まさかほんとうに日本でしかもこんな大舞台で観れるとは思っていなかったので、おおきな拍手で迎えられる彼ら3人の姿に、胸と目頭があからさまに熱くなってしまう。ショーの間はずっと3人の黒い影だけが青い逆光のなか浮かぶ美しい演出が施され、ただ3人がそこにいること/そして音楽が演奏されていること――そのシンプルな情景が暗闇のなかにはっきりと立ち現れていた。
 新譜同様にきめ細かくたゆたうシンセ・ドローンでショーははじまったが、歪んだベース音やノイズが重ねられ、これがライヴであることが宣言された。すこしの静寂をおいて、調子の外れたギターがフェイドインし、"アルモニカ"のビートがフロアに響きわたる。つづいて、ジェイムス・バッタリーのすこしおどけた甘いヴォーカルがは歌いだす。ため息がでるほど美しい瞬間だった。
 前作『ノース』からは歌の目立つ3曲"ゴールド""デッドネス""ノース"が演奏されたものの、そのほかはすべて新譜『ニュース・フローム・ノーウェア』からの選曲で、しかし"タイムアウェイ"と"ア・デイズ・ペイ・フォー・ア・デイズ・ワーク"というプロモーションされた2曲は演奏されず、逆に"ヤング・ハーツ""ホールド・ミー・ダウン""ユー・ドント・ニード・ア・ウェザーマン"などアルバム後半のエレクトロニカ/インストゥルメンタルのテイストの深い、意外な展開を見せた。

 といっても、思い返せば意外だったというだけで、じっさいショーは滑らかに運ばれたし、途中ジェームス・バッタリーが「メイク・サム・ノ~イズ」と囁いておどけてみせたが、曲と曲のあいだの静寂さえ彼らの演奏だ。『ノース』と『ニュース・フローム・ノーウェア』はいま並べてみてもそのサウンドの違いに驚かされるが、ライヴではどちらの楽曲も違和感もなく自然につながれていて、それは静寂となによりジェイムス・バッタリーがもたらした成果であろう。歌うことは演じることだとバッタリーは本誌に語ってくれたが、彼の歌声は抒情的な脚色もなければエゴも感じさせない。白くてまっさらな役者である。バッタリーをダークスターというキャンパスの真ん中に据える(メンバーとして迎えた)ことで、ジェイムス・ヤングとエイデンは好きなように色(サウンド)を塗り変えて楽しむことができているというわけだ。そのことがよくわかる繊細だが力強いライヴだった。たのしそうに歌うバッタリーは愛らしくもあり魅力的で、歌唱力も以前よりレベル・アップしていた。なんの嫌みもない彼の存在は、バンドや会場の緊張をほどよくほぐしてくれる。ルックスも格好いい。
 音響が不十分だったこともあってかアンサンブルがちぐはぐになりかける場面も少なくなかったが、バンドの佇まいは2年前よりも堂々としたし、3人が各々で携えたサンプラーやキーボードやエフェクターの数も増え、ライヴをつよく意識した姿勢が印象的で、そのふくよかなサウンドの裏にバンドとしての意欲が燃えているのが感じられる熱い演奏だった。これまでライヴでの試行錯誤をつづけていたことをユーチューブなどで追いかけていたが、彼らはたしかに逞しく成長しているし、これからそのサウンドを塗りかえ続け、僕たちを驚かせる便りをくれるに違いない。〈フジロック〉に行かれるひとにはぜひダークスターを観てほしい。


Darkstar

 そして、〈ビートインク〉のスタッフさんのご厚意で、開演前の彼らにサウンドについて補足の質問をできました。以前のインタヴューではどこかぶっきらぼうな印象もあったかもしれませんが、対面した彼らの気さくさが伝わればこれ幸いです。エイデンはわざわざビールを運んできてくれました。通訳は岩崎香さんです。

ジェイムス・ヤング:ここに座りなよ。

ジェイムス・バッタリー:そうだよ、座ってリラックスしなよ。

ありがとうございます。(ビールを開けて)では、チアーズ。

全員:チアーズ。

J.バタッリー:日本語でなんていうの?

KANPAI(乾杯)と言います。

J.バタッリーんー! もういちど、乾杯!

ふふふ(笑)。『ele-king』にはすでに編集長によるインタヴューが載っているので、今回は補足的な質問をさせてください。ダークスターははじめ、ヤングとエイデンのふたりのユニットで、すこし風変りだったとはいえどダブステップのトラックを制作していましたね。もしダブステップを通っていなかったら、どんな音楽でデビューしていましたか?

J.ヤング:ダブステップという言葉は嫌いで、認めてはいないんだけど......、そうだね、はじめは、きっとヒップホップかな?

エイデン:グライムを作ってたよ。

J.ヤング:そうだね、MCたちのためにグライムのトラックを作っていたと思う。

その面影もないくらいにスタイルを刷新した新作『ニュース・フローム・ノーウェア』では、ハープシコードやチェロのようなトラディショナルな楽器が使われていますが、初めからそういう構想があったのですか?

エイデン:ハープシコードじゃなくて、アーモニウム(Armonium)なんだよ。

あ、ハーモニウムだったんですか(聞き間違える)。

J.バタッリー:ちがうちがう、アーモニウムだよ。ペダル・オルガン(ハーモニウム)じゃなくて。

J.ヤング:そうそう、アーモニウムっていうのは、プルルルルルルルルっていうやつ(手で筒が回るジェスチャーをしながら、唇を高速で震わせる)。

え(笑)?

エイデン:そうそうそう。

なるほど......、え、なんなんですか(笑)?

J.ヤング:(自分で堪えきれず失笑)ふふふふ......!

(一同、10秒爆笑)

J.バタッリー:本当は「テン、テンテン、テンテンテン」って弾く楽器だよ(笑)。

エイデン:そうそう。ペダル・オルガンもプルルルルルルルルっていうんだよ(笑)!

はい、よくわかりました(笑)。"アルモニカ"という曲名も楽器からなんですね。

※筆者註:英語/日本語圏での一般的な呼称はアルモニカ(Armonica)。

エイデン:真面目に答えると、たくさんの楽器がリチャード・フォンビーのスタジオにあったから、あるものすべてで遊んだんだ。クールなシンセサイザーに、オルガンとか、サーズ(saz)っていうトルコの楽器も使ったね。

もしそういった楽器がなかったら、どんなサウンドを作っていたのでしょうか?

J.ヤング:とてもシンセティックなものになっていたと思う。

J.バタッリー:リチャード・フォンビーと組むことにした理由のひとつには、彼が楽器をたくさん持ってるからというのもあるんだ。僕たちはすこしだけピアノやギターを持ってはいるけども。あと、レコーディングした邸宅にあったたくさんの家具も使ったよ。グラスの音もあれば、ドラムサウンドとして椅子をバンバン叩いたりもしてね。

ビーチ・ボーイズは『スマイル』で野菜をかじる音をパーカッションとして用いましたし、ビートルズの『サージェント・ペパーズ』ではトイレット・ペーパーの芯の音も入っているらしいんですけど、そういうことを思い出すエピソードですね。そこで質問です。好きなビートルズのアルバムはなんですか?

J.バタッリー:『サージェント・ペパーズ』(即答)。それか『ホワイト・アルバム』。それと...『ア・ハード・デイズ・ナイト』が......(ずっと呟いている)。

エイデン:『リヴォルヴァー』も好きだな。

J.ヤング:"エリナー・リグビー"って『リヴォルヴァー』だっけ? たぶん『リヴォルヴァー』がいちばん好きだな。それか『アビー・ロード』。

なるほど。『ニュース~』では古いテープ・エコーの機材も使われているとのことですが、クラシカルな楽器の使用もふくめ、まさしく1967年頃のロック・バンドの実験的なレコーディングと似た感触がサウンドにあらわれています。やはりというか、初期よりも後期のビートルズのほうがお好きなんですね。

J.ヤング:お父さんは熱心なファンなんだけど、僕はそこまでファンじゃないんだ。でも、もちろんビートルズはことはとても評価しているよ。ずば抜けて実験的だから。

J.バタッリー:僕はファンだよ(服につけた『サージェントペパーズ』の色褪せた缶バッジを見せてくれる)。ビートルズのなによりも好きなところは、新しくて他とは違うものになるよう努めていたことだよ。だからこそ、彼らのようなサウンドを作る必要はないんだ。それが彼らの哲学でもあるわけだしね。

エイデン:『マジカル・ミステリー・ツアー』の映像はとても面白いよね。

みなさんは、おなじく熱心なビートルズ・ファンでジョージ・ハリスン推しであるゾンビーと仲が良いですよね。そこで質問です。「Where Were U in '92」?

J.ヤング:うん......、あ、僕がどこにいたかってことかな? ハイスクールがはじまったばかりだったよ。

J.バタッリー:フットボールをしたり、自転車をこいだり、軍隊みたいな秘密基地のようなものを樹のあいだに作ったりして遊んでいたよ。

レイヴには参加してなかったんですね。

エイデン:僕はレイヴしてたよ! 9才で、レイヴしてたんだ。

(一同爆笑)

えー、それは本当ですか!?

エイデン:ジョークだよ。煙草を吸ったり酒を飲んでたね。いや、これもジョーク(笑)。煙草を吸いだしたのは12才のときだね。

J.ヤング:12才......!

不良ですね。不良すぎる......(笑)。

(一同笑)

エイデン:だからもう禁煙したよ。煙草は吸わない(煙草を吸いながら)。

J.バタッリー:僕はいつでも吸ってるよ。毎日だ。よくないよね(笑)。いつの日かやめようと思うよ。癌で死んだときにやめるかな。

どうか死なないでくださいね。新作のタイトルは「どこでもないところからの便り」という意味ですが、じっさいみなさんは定住する家をきめていないと聞きました。それはなにか理由や目的があってのことなのでしょうか?

J.ヤング:そう、スーツ・ケースのなかに住んでるんだ。理由はすこしだけあって、基本的にツアーの事情とお金の事情だ。たとえばいまはこうして日本にいるけども、月末にはロンドンへ戻らなくてはいけかったりするから。

ということは、ロンドンが一応のホームではあるのですか?

J.ヤング:いや、僕にとってはそうでもないよ。

J.バタッリー:ロンドンは2番めのホームだな。僕にとってのホームは、ヨークシャー地方にあるリーズだよ。とはいえ、多くの友だちがいるし、ロンドンもホームのようなものだね。10年も住んだし。

エイデン:人生のほとんどをロンドンですごしたけどね。

J.バタッリー:いまはこうして日本にいる。東京で生活できるなんてナイスなことだよ。

それはなによりです。今回はわざわざ日本にきてくれてありがとうございました。

文:斎藤辰也

Chart - JET SET 2013.05.13 - ele-king

Shop Chart


1

!!! - Thr!!!er (Warp)
2010年の『Strange weather, isn't it?』に続く約3年ぶり通算5枚目のフル・アルバム。これまでになくタイトでポップな仕上がりとなった会心作!!

2

J Dilla - Lost Tapes, Reels + More (Mahogani Music)
ローカル・レベルでMoodymannやAndres、Amp Fiddlerあたりとも強く結び付いていた事は周知の事実ですが、その関係もあってか今回もMahoganiからのリリース。今回もアナログ・オンリーとの事!

3

Vampire Weekend - Modern Vampires Of The City (Xl)
2010年の『Contra』に続く3枚目のフル・アルバム!!Us/Xl盤アナログ、ダウンロード・コード封入!!

4

Factory Floor & Peter Gordon - Beachcombing / C Side (Optimo Music)
70年代後期のNy地下シーンで活躍、DfaからのEpリリースも記憶に新しい御大Peter Gordonとのコラボレートを展開したUk気鋭トリオFactory Floorによる話題の最新Ep!!

5

Bibio - Silver Wilkinson (Warp)
2011年の『Mind Bokeh』以来となる4枚目のフル・アルバム!!今回もUk/Warpからのリリース。ダウンロード・コード封入です。

6

Yatha Bhuta Jazz Combo - S.t. (All City)
ごぞんじ大人気クリエイターOnraと、その友人で、Roy Ayersのカヴァーでその名を広めたBuddy Sativaが組んだ話題必至のユニットがアルバム・リリース!!

7

Rsd - Perfect Timing (Zamzam Sounds)
Ukダブ・マスターたちとエレクトロニック・ニューダブ勢の音源を並列にリリースするUs重要レーベルZamzam Soundsから、Smith & Mightyの片割れRob Smithが登場です!!

8

Coyote Clean Up - 2 Hot 2 Wait (100% Silk)
デトロイト在住のクリエイター、Christian Jay Sienkiewiczによるソロ・プロジェクト、Coyote Clean Upのファースト・フル・アルバム!!

9

Roger Eno / Plumbline - Endless City / Concrete Garden (Hydrogen Dukebox)
ごぞんじBrian Enoの弟Roger EnoとPlumblineによる、2006年以来となる久々のコラボ作が限定アナログ・リリース

10

Phoenix - Bankrupt! (Glassnote)
説明不要のフレンチ・ロック最高峰4ピース。グラミーを獲得した2009年の『Wolfgang Amadeus Phoenix』以来となる、全世界注目のニュー・アルバム!!

ackky (journal) - ele-king

チャートは順不同で。最近レコードバッグに常に入ってる方々。もち全部アナログです。レートが最近厳しくてレコード値上がりがリアルに痛い...

NEW MIX
https://www.mixcloud.com/akimotohideyuki/sunday-mix-2013/


1
Black Rox - Filaw - Black Rox

2
Michel De Hey vs Grooveyard - Compound(Shinedoe Remix) - EC Records

3
Tornado Wallace - Thinking Allowed - ESP Institute

4
Sevensol & Bender - How Not To Lose Things - Kann Records

5
The Candle Family - Love Theme From Two Hearts - Unforgettable Music

6
Jazzanova feat. Paul Randolph - I Human (Mike Huckaby Remixes) - Sonar Kollektiv

7
Motor City Drum Ensemble - Send A Prayer (Part 2) - MCDE

8
RAY OKPARA - Druid Hills - Soweso

9
Livio & Roby - Garaghivirap - Desolat

10
Spencer Parker - Romantic (D'julz Remix) - Rekids

DJ KAZUSHI (DUB FRONTIER) - ele-king

blog : https://djkazushi.blogspot.jp
Twitter : https://twitter.com/DJ_KAZUSHI
Face Book : https://www.facebook.com/kazushi.minakawa

DJ Schedule
13.6.8(sat) DUB FRONTIER@仙台CLUB ADD
13.6.5(wed) Light my fire 1st anniversary@仙台CLUB ADD
13.5.31(fri) ZOO DISCO@米沢ARB
13.5.25(sat) まともがわからない満月夜@盛岡MOTHER
13.5.24(fri) @三軒茶屋天狗食堂
13.5.23(thu) @高円寺GRASSROOTS
13.5.19(sun) Sunday chill-out@仙台壱弐参横町 和音
13.5.17(fri) @vinyl diz
13.5.12(sun) Gnu@仙台CLUB ADD
13.5.12(sun) Sunday chill out@仙台壱弐参横町 和音
13.5.5(sun) ZUNDOKO DISCO@仙台CLUB SHAFT
13.5.5(sun) Sunday chill out@仙台壱弐参横町 和音

dilute colord thinly


1
Dub Diablo - A LESSON IN STYLE - JOINT RECORDS

2
NIGHTMARES ON WAX - PRETTY DARK - WARP RECORDS

3
THE IRRESISTIBLE FORCE - POWER - Ninja Tune

4
Lemon jelly - Ramblin' Man - Xl Recordings

5
pizzicato five - 愛餓を - HEAT WAVE

6
Little Tempo - 無能の人 - cutting edge

7
WILD RUMPUS - ROCK THE JOINT - Bitches Brew

8
U2 - LEMON(Bad Yard Club) - island Records

9
HERE COMES THE SUNBURST BAND - Monte Carlo - Z Records

10
atlantic conveyor feat. Habibur Romman - Open Your Soul(Music Box mix) - untracked recordings

 4月29日から5月5日までの1週間は、〈ぺン・ワールド・ヴォイシィズ・フェスティバル・オブ・インターナショナル・リタラチャーズ〉というフェスティバルがあった。今年で9回めを迎え、この期間は、ハイチ、ビルマ、パレスチナ、南アフリカ、ヨーロッパなど、世界各地からジャーナリストや関係者が集まる。著者がよく行く〈SXSW〉や〈CMJ〉などの音楽コンベンションや〈トライベッカ・フィルム・フェスティバル〉のライター版とも言えるが、アメリカ人とインターナショナル・ライターとの社交イベント、政治や個人生活、アートについてのトーク、フィクション講義、出版や翻訳の細部、図書館ツアー、キャバレー&ミュージック・ショー他、さまざまな視点からジャーナリズムの世界をショーケースしている。

 筆者は、柴田元幸が指揮を執る、日本の新しい文学を紹介する雑誌『モンキー・ビジネス』に参加させていただくことになり、このフェスティバルを知った。


イヴェントのポスター

主催するのは世界的に有名なライター、民主主義、表現の自由などの問題を掲げるサルマン・ラシュディー。彼のパネルは早くにソールド・アウト。オープニング・パーティーでも「ラシュディがいる!」と彼と話したい人でまわりに列が出できていた。4月28日付けNYタイムスに、精神的勇気(whither moral courage)に関する彼の記事が載っているので参考までに。
https://www.nytimes.com/2013/04/28/opinion/sunday/whither-moral-courage.html?smid=tw-share&_r=1&

スポンサーには、スタンダード・ホテル、コスモポリタン、アマゾンなどのメディアの他、さまざまな公共機関の名前が並び、平均的なチケットは$15~35だが、なかには$1000(3コース・ディナーとワイン付き)というパネルもあった。実際払って行く人がいるのだろうか。

ザ・スーザン
ザ・スーザン

『モンキー・ビジネス』のメイン・ショーケース(キャバレーw/パブリック・スペース)は、歌人の石川美南、『さよならギャングスター』で知られる作家の高橋源一郎、リトルロック出身の作家、ケヴィン・ブロックメイヤーらによるリーディング。主宰の柴田は、新しく出版された村上春樹の作品の最初の部分を読んでいた(このショーケースには、村上春樹が来ると噂されていた)。オープニングに、ニューヨーク・ベースの日本人バンド、ネオブルース巻き、ラストにザ・スーザンが出演した。

テッド・ゴスマンと柴田元幸
テッド・ゴスマンと柴田元幸

『モンキー・ビジネス』週末のトーク・イヴェントは、アジア・ソサエティで。ポエトリーのチャールス・シュミックと石川美南、作家のポール・オースターと高橋源一郎、この2組に加え、モデレーターとしてテッド・ゴスマンと柴田元幸。

チャールス・シュミックと石川美南は、お互いの詩に対して質問。石川美南は、「ウラシマ」という短歌シリーズの説明(ベースは日本のおとぎ話の浦島太郎)、チャールス・シュミックは、彼の作品に何度も登場する出てくるコフィン(棺)について、お互い「箱」をテーマに語りあった。

高橋源一郎
高橋源一郎

ポール・オースターと高橋源一郎のコンビでは、スタートから、Kindleでリーディングする高橋氏を見てオースターが「電子リーディングを見るのははじめて」だとびっくりしたり、高橋氏が、オースターの作品『シティ・オブ・グラス』を読んで感動し、翻訳話を出版社にしたら、すでに柴田元幸さんに決まっていると言われた、など、笑いをいれながら進んでいった。オースターが、何をリーディングするのか期待していると、「自分の昔の作品に飽き飽きしているんだ。妻以外は誰も読んだことないんだけど」と前置きし、なんと、現在書いている新しい作品(『フィガソン』)を初リーディングした。柴田氏とオースターの関係だからあり得るのだろうが、またもや新作が待ち遠しい。オーディエンスからの質問も入れ、予定を30分ほど越え終了。いつまででも聞いていられるトークで、会場にいた人も、名残惜しいのか、なかなか帰らなかった。

『モンキー・ビジネス』週末のトーク・イヴェントの模様
『モンキー・ビジネス』週末のトーク・イヴェントの模様

最後の夜は、ペン主催のパーティへ。各国からさまざまな人が来ているので、お互いの文化や状況について質問しあい、自身を再確認し、ライティングという共通点での夢や希望、ビジネスなどを交換しあった中身の濃い国際交流週間となった。17日にはもう一本、『モンキービジネス』関連イヴェントがブルックリンであります(@dassara 7 pm)。お近くの方はぜひ。

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