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Darkstar

Darkstar

North

Hyperdub

Amazon Apple Music

野田 努 Oct 29,2010 UP
E王

 思いもよらなかった内容に、最初聴いたときは間違えて別のCDをセットしてしまったのかと思ったほどだ。いやいや、間違っていない、これだ、ダークスターだ。確認してからもういちど聴いてみる。ピアノが鳴り、霊妙なストリングスが聴こえる。彼らは美しいハーモニーを歌っているが、声は悲しみに耽っている。昨年の秋、〈ハイパーダブ〉からリリースした「エイディーズ・ガール・イズ・ア・コンピュータ」でダブステップ・シーンの外側からも惜しみない賛辞をもらったジェームス・ヤングとアイデン・ホエイリーのふたりによるダークスターは、実に思い切ったデビュー・アルバムを完成させた。『ノース』はロンドンのダブステップの激しいビートに背を向けて、北に広がる冷たい蜃気楼を向いている。

 『ノース』というタイトル、そして冷たく人間味を徹底的に欠いた工場の写真をあしらったスリーヴアートが暗示するもの――それはイングランド北部の灰色の工業都市とヒューマン・リーグやOMDといったシンセ・ポップ・バンドである。そして、ダークスターのデビュー・アルバムをジャンル分けするならば、シンセ・ポップとなる。だが、それはあまたに溢れる80年代リヴァイヴァルの最新ヴァージョンというわけではない。ブリアルの真夜中の美学を継承するエレクトロ・ポップであり、ある意味ではイギリスらしいダーク・ミュージックと言える。ダブステップから離れたとはいえダブステップを通過しなければなかったであろう暗い予感に満ちた音楽なのだ。

 それにしても......僕がここで念を押しておかなくてはならないのは、『ノース』は"エイディーズ~"のクラフトワーキッシュな響きに魅了されたリスナーでさえ困惑するかもしれないということだ。メランコリックで陶酔的な"ゴールド"や柔らかい"アンダー・ワン・ルーフ"のようなポップスとしての完成度が高い曲、あるいはザ・XXめいたギター・サウンドの暗い光沢が魅了する"デッドネス"のような曲ならまだしも、ポーティスヘッドの"マシン・ガン"にも似た"トゥ・コーズ"の軍隊めいたビートによる恐怖症的な息苦しさや、トム・ヨークやロバート・ワイアットにも似た"ディア・ハートビート"の悲しみの沼地をゆっくりと歩いていくようなやりきれなさは、誰にとっても親しみやすいものだとは言い難い。最後の曲"ホエン・イッツ・ゴーン"を聴き終えると、リスナーは真っ暗で冷たい地下室に置き去りにされたような気持ちにさせられる。
 アルバムにおいてもっとも明るく輝くのは4曲目に配置された"エイディーズ~"で、僕はこの曲名をある種のジョークであると疑っていなかったのだけれど、しかしアルバムを聴いた後ではそれが洒落ではなかったことを知る。"エイディーの彼女はコンピュータ"とは、真夜中に何時間もパソコンに向かい合っている男の孤独である(それは......言うまでもないことだが、まったく僕自身でもある)。ダークスターはそれを絶妙な切なさでリリカルに描いている。

 『ノース』はブリアルとコード9、あるいはキング・ミダス・サウンドといった〈ハイパーダブ〉のディストピア・ミュージックのリストに載った新たな1枚である。当たり障りのない音楽ではなく、何か突出した感情を秘めた音楽を探している人であるならば、決して悪い気にはならないと思う。

野田 努