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もうかれこれ1ヶ月以上経ってしまいましたが...... 文:木津 毅
ニュースでは嵐が来ると繰り返していたし、東京へ向かうバスは雨風で揺れまくっていたのでヤな予感しかしなかったが、それでも新木場に向かったら、同様にそれでも新木場に集まったひとたちがいて少しばかり安心する。今年は悪天候に見舞われた<ソナーサウンド・トーキョー>だがどうにか開催され、「アドヴァンスト・ミュージック」の祭典は水浸しの会場で始まった。さすがにひとは少なかったかもしれない、が、アクトレスが登場するフロアの期待をたしかに感じた僕は、すっかり景気のいい気分になり、1杯目のアルコールを口にする。
Actress
ソナーについての放談で斎藤辰也が言っていた、「そのフェスだからいく、と思わせるような何か」が悪天候によって奇しくもテーマになっていたように思う。それでも新木場に集まったひとたちは何を持って帰っただろうか? ただ踊って発散したひともいただろうし、もちろんそれとてじゅうぶんに価値のあることだ。ただ、僕があの2日間を思い出したときにじわりと湧き上がるのは、「これから何かが始まるのかも」という予感のようなものだ。
僕の記憶のなかのこれまでのライヴよりもBPMが落ち着いていたLFOの安定したプレイ、"LFO"が投下された瞬間のフロアの興奮も良かった。カール・ハイドが"ダーティ・エピック"をやったときのアンニュイさも感慨深かった。エイドリアン・シャーウッドのダブはさすがの貫禄で、そのずっしりとした低音に震えた。が、ニコラス・ジャーの思ったよりもヘヴィで迫力のあるバンド・セット(その分、これからの音源であの浮遊感がどうなるのかがちょっと不安でもある)や、ダークスターが何とか後半で辿り着いていたメランコックな高揚感(前半は演奏が噛み合ってなくて危うかった)や、プールサイドのトーフビーツに集まったキッズたちのちょっと遠慮がちなダンスと笑顔......をより鮮明に思い出す。サブマーズは"あげぽよ"どころかスムースでクールなダウンテンポ、ヒップホップだったし、アディソン・グルーヴのベースラインは思っていた以上に折衷的で面白かった。彼らははっきり言って、まだまだ途上中だという印象を残したが、しかしながら、それらが一堂に会することによって、そんな風に世界中に散らばった「アドヴァンスト・ミュージック」の可能性をたしかにフィジカルに感じられたのだ。たくさんのアクトのなかで僕が出会わなかった予感たちと、出会ったひとも当然いただろうと思うとなんとも落ち着かない。
Karl Hyde
ちなみに僕のベスト・アクトは、迷うことなくアクトレスだ。ひどく抽象的なサウンドの隙間で意表をついて大胆に挿入される仕掛けや、断片的なループが出現しかけたかと思うと違うループが気がつくと背後で蠢いている、そんな風にクリシェを軽やかにかわす展開はスリルそのものだった。後半は思っていた以上にダンサブルなテクノへとなだれ込みそれもたまらなかったが、前半の繊細な音の配置と位相こそ、アクトレスがその日披露した「予感」だったように僕には思えた。
ソナーは今年も、現在と、そこから続いていく未来を感じるためのグルーヴが胎動するイヴェントだった。結局丸々2日間大いに楽しんでしまった僕は気がつくと何度も酒を飲んでいたようで、膝に疲労と財布に侘しさを残したが、後悔も反省もとくにしていない。
文:木津 毅