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interview with Darkstar

interview with Darkstar

北部の若者たちのドキュメンタリー

──ダークスター(ジェイムス・ヤング)、インタヴュー

橋元優歩    通訳:宇田川さち
photo by James Medcraft 2015  
Oct 02,2015 UP

Darkstar
Foam Island

WARP / BEAT

ElectronicPsychdelicAmbient

Tower HMV Amazon

 いったい、ダークスターは今回どれほど重く峻厳なテーマに向いあったというのだろうか……? 何も知らずに今作の詞に向かいあうと、「運命」「誓い」「多数決では少数派に刑が」「引きずる前科」「運命が姿を偽っている」といった、ひとつひとつの言葉の負荷の大きさに驚く。音自体は、むしろキャリアの中でもっともミニマルな印象を受けるアルバムだから、なおさら面喰らってしまう。

 それでおぼつかない質問を投げかけてしまったが、答えは明瞭だった。これは「政治的な意味合いがこめられたレコード」──今年5月に行われた英総選挙とその結果に大きく影響され、また、それへのひとつのレスポンスとして提示されたアルバムなのだ。実際に“カッツ”では地元自治体の予算縮小アナウンスが用いられたり、“デイズ・バーン・ブルー”など保守党の公式カラーを引いた皮肉が加えられたりと、事情に明るいひとには明瞭に察せられたことだろう。ちょっと反則だけれども、そのあたりの補足として先に公式インタヴューから少し引用させていただきたい。

レコードの中で聞こえるいろんな声、さまざまな人々の発言は、基本的に僕が3ヶ月にわたってハダースフィールドの地元住民を相手に行った、一連のインタヴューから生まれたものなんだ。

 「今回の僕たちは、ロンドンとヨークシャーのカントリー・サイドを行き来していたね。かなり何度も往復したし……レコードの中で聞こえるいろんな声、さまざまな人々の発言は、基本的に僕が3ヶ月にわたってハダースフィールドの地元住民を相手に行った、一連のインタヴューから生まれたものなんだ。その取材を通じて彼らの持つ視点や人生観を知ることができたし、そこからこのレコードの屋台骨、背骨みたいなものができていった。だから僕たちは、ある意味彼らとのインタヴューをこの作品のコンセプチュアルなガイドラインとして使ったんだ」

 この発言の主であるジェイムス・ヤングは、前作を発表した後、Youtubeで視聴したドキュメンタリー番組からインスピレーションを得て、実際に生きている人びとの人生の断片をレコードに挿入していくことを思いついたと言う。そして、「他の人間達の持つ視点、首都ロンドンを生活基盤にしていないような、イギリスの他のローカルなエリアで暮らす人たちの声に耳を傾けてほしいんだよ」……インタヴューというかたちでそれを採音し、そのプラットフォームとしてアルバムを利用したのだ、と。

彼らのインタヴューでの質問は、「英国の現状をどう思いますか?」というような大上段に構えたものではない。「あなたの夢は何ですか?」「くつろいでリラックスしたい時にあなたはどんなことをしますか?」「誰か好きな人はいますか?」といった、とてもささやかなものだった。人がどんなふうにそれぞれの生活と人生に向いあっているのか、その営みについてインタヴューし、アルバムに反映させる。それがいまのダークスターにとってよりリアルな方法だったのだろう。そして『フォーム・アイランド(Foam Island)』というタイトルが生まれた背景には、こんな思考の過程がある。

首都ロンドンを生活基盤にしていないような、イギリスの他のローカルなエリアで暮らす人たちの声に耳を傾けてほしいんだよ。

「それは僕達が孤立した空間、社会のさまざまな場所にちらばっている空間に眼を向けたことから生まれたアイデアで。だから、人々、あるいはいろんなコミュニティが、いかに自分たち以外の人間や他のコミュニティのことをいっさい知らないままで生存していくことができるのか……そしてどれだけコミュニティ群が互いに孤立した状況になることがあり得るのか、そうした事柄を考えていたんだ。で、僕たちはそうした意味合いを包括するような何か、定義するような言葉を探していて、そこで『Foam(泡)』という言葉と、泡がどんなふうに生まれるかに思い当たった」

それぞれの色やサイズを持って、まさに「かつ消えかつ結」(芭蕉)ぶうたかたの泡。同じものはなく、そしてそれは、くっついたり離れたり、増幅したり消滅したり、つねにかたちを変えつづける──「とにかく、うん、このタイトルは基本的に、『この国は何千・何万もの泡から成り立っている』ということ、それを表現したものなんだよ」。

人びとの生活や思いをたくさんの泡になぞらえる、大らかでロマンチックな視点から、英国のいまにアプローチしようとしたアルバムだ。政治的なメッセージを直接歌うという方法ではなく、むしろアルバム自体がドキュメンタリー・プロジェクトのいちアウトプットとして機能しているように見えるところなどは、彼らなりに誠実に状況と向かいあう方法が模索されていることが感じられる。

このタイトルは基本的に、『この国は何千・何万もの泡から成り立っている』ということ、それを表現したものなんだよ。

 それにしても、今作ではあらためてダークスターというバンド(今作では、コア・メンバーの二人体制に戻っているので、ユニットというべきだろうか)の幅を感じさせられた。そもそもベース・ミュージックのシーンから登場したように言われるが、彼ら自身はそうしたシーンになじみが深いわけではない。現場での流行や空気の変化を把握しているわけでもなく、むしろエレクトロニックな方法を用いるサイケ・バンドとさえ形容してしまってもいいかもしれない。弊誌の前作レヴューなどは、比較対象がビートルズだ。その意味では非常にマイペースに自分たちの表現方法を模索し、広げてきたアーティストたちであり、クラブ寄りなのかロック寄りなのかといったような線引きや人脈・樹形図をあたうかぎり無視してきた存在でもある。

もちろん、デビュー・アルバムをリリースした〈ハイパーダブ〉も、前作と今作をリリースする〈ワープ〉も、自由で大らかな実験精神を持ったレーベルであって、これまでもこうした境界において多くの才能をピックアップしてきた。なんとなく流れで作らねばならなかったセカンド、サード、といったものとはほど遠く、一作ごとに確実に何か自分たちにとって新しいことを掴もうとするダークスターは、今作ではかくも強靭なコンセプト性を手にしている。OPNからは何の影響も受けていないというが、ジャンルのモードにおいて先鋭性を競うのではなく、コンセプチュアルな軸を立てて、それに沿って自由にフォームを獲得していくあり方は、彼やコ・ラなど〈ソフトウェア〉の周辺とも大いに共鳴するものだ。そして、今回はブライアン・イーノが彼らなりに、愛らしく参照されている。そのあたりも彼らの一作ごとの前進だ。デビュー作からのもっとも大きな変化として「向上」「過程」「コンセプト」の3つを挙げるその矜持は本当によくわかる。

ただし、「レコードを聴く前に作品の前情報を知ってしまうと、インフォ欄には『政治的な意味合いを込めた作品云々』なんて書かれるわけだよね」「『労働党に投票すべき』とか『保守党なんて蹴散らせ』みたいな感じの、そういう意味で過度に政治的なレコードじゃないんだよ」など、本人たちにはおおっぴらにテーマを打ち出す意向はない。なのでこのインタヴューはあくまで副読本、聴いたあとの付録ということでひとつ、お読みください。

■Darkstar / ダークスター
UKを拠点に活動する、エイデン・ウォーリー、ジェイムス・ヤングによるエレクトロニック・ユニット。初期のグライムやダブステップなどからの影響を感じさせる折衷的なサウンドが特徴であり、〈ハイパーダブ〉からリリースされたシングルで注目を集める。デビュー・アルバム『ノース』(2010)と〈ワープ〉移籍後にリリースされた『ニューズ・フロム・ノーウェア』(2013)の2作は国内外の各誌年間ベスト・アルバムに名を連ね、日本においても〈SonarSound Tokyo〉や〈フジロック・フェスティバル〉へ出演するなど存在感を高めている。2015年9月、サード・フル・アルバム『フォーム・アイランド』をリリースした。

音楽シーンのトレンドをほぼ鑑みない作品になっていますね。音楽以上にメッセージ性を優先するような印象さえあります。歌詞からの類推になりますが、何か具体的な状況に危機を感じているのですか? それとも人類の業や罪ともいうべき壮大なテーマに向き合っているのでしょうか?

ジェイムス・ヤング(以下JY):そうだね、今回はかなり歌詞を大事にしているんだ。世の中で起こっているチャンスの減少、若い人への理解の無さ、政府への失望、型にはまったもの以外受け付けないこの世の中の流れに憤りを感じていることを表現したつもりさ。

たとえば冒頭の“ベーシック・シングス(Basic Things)”“ア・ディファレント・カインド・オブ・ストラグル(A Different Kind Of Struggle)”などで、ときどき挟まれるリーディングは何かの引用かサンプリングですか?

JY:これはウェストヨークシャーで若者をインタヴューしたときの言葉をAbletonに落とし込んだんだ。サンプリングでもなんでもないよ。僕たちが録音したものさ。

“ピン・セキュア(Pin Secure)”などに用いられている「You」とは誰(または何)を示しているのでしょう?

JY:う~ん……。メタフォースだったり、世代だったり、若さとか間違った判断とか、特定のものではなく漠然としたものを指しているかな。

“ベーシック・シングス”のようなサウンド・コラージュは、どこかモンタージュ的な、かすかな歪みや違和感を残すようにつくられていますね。この感触自体はアルバム全体にもこれまでの作品にも感じることですが、何かバンドの精神構造と関係があるのでしょうか。それとも何かしらの啓発の意図がある?

JY:君が言うとおりたしかにサウンド・コラージュのような作品だとは思う。この曲もウェストヨークシャーで若い人とたくさん話したことを録音して、彼らの感じていることや思っていることを反映させた結果サウンド・コラージュ的な感じになったんだと思うんだ。

冒頭をひとつの導入として“インヒアレント・イン・ザ・ファイバー(Inherent in the Fibre)”へとつながる流れが非常に美しいですね。ある意味ではこの曲がアルバムの1曲めとなると思いますが、それが6/8拍子だというのは象徴的で、しかも挑戦的だと思います──直線的なビート構築を避けたり、ポップ・ソングとしてのストレートさをいったん脇に措いているという意味で。これはどのように生まれた作品なのですか?

JY:これはスタジオで最初にデモができ上がったんだ。シンプルでいいアイディアが元にあって、そこにストリングスとかコーラスを乗せて完成させていった感じだったかな。

今作で最初にビートやダンス性を感じるのは“ストーク・ザ・ファイア(Stoke The Fire)”になるかと思います。その次は“ゴー・ナチュラル(Go Natural)”。ですが、“ストーク~”ではサイケデリックでアンビエントなブレイクが入ったり、“ゴー~”ではピッチカートによるコミカルな演出があったりと、リスニング性においてリッチな作品になっています。曲のアイディアは誰が持ってきて、どう肉付けしているのですか?

JY:とてもダンサブルで情熱的かつビートの利いた曲を作りたいと思ってでき上がった曲だね。ファンク要素も乗せてかなりダンサブルな仕上がりになって満足しているんだ。

最近のお気に入りはディアンジェロだね。『ブラック・メサイア』は本当に最高の作品だと思うよ。

ベース・ミュージック的な性格もあったりなど、あなたがたはダンス・ミュージックのフォームを持ちながらも、とくにダンスを意識しているバンドではないと思います。〈ハイパーダブ〉や〈ワープ〉と自分たちとの接点をどのように考えていますか?

JY:〈ハイパーダブ〉〈ワープ〉には感謝しているんだ。彼らとはとても興味深い関係性だと自分たちでも思うよ。君が言ったように僕たちはダンス・ミュージックだけじゃなくいろんなジャンルの音楽をやるからね。でもそんな僕たちの音楽性を理解してくれて、尊重してくれる彼らには本当に感謝しているし、今後もいい関係性を続けられると思っているよ。

“スルー・ザ・モーションズ(Through the Motions)”などには、〈Morr Music〉などのエレクトロニカ・ポップを想起させられました。奇妙なサイケデリアの中に温もりある電子音が感じられますね。音声というレベルで機材やソフトなどにこだわりがあれば教えてください。

JY:うーん、とにかくいろいろ使っていて……。Abletonをはじめ、モジュラー・シンセとかかな。

R&B的な要素も感じられますが、いわゆる「Alt-R&B」と呼ばれるような音楽で興味を持って聴いておられるものがありましたらお教えください。

JY:いっぱいいるよ。最近のお気に入りはディアンジェロだね。『ブラック・メサイア』は本当に最高の作品だと思うよ。結構US系のを聴いていたけど名前がぜんぜん思い出せないなぁ。

“ティリーズ・テーマ(Tilly's Theme)”の楽曲構築にはなにか特別な計算やコンセプトがあるのでしょうか? どのように作っていった曲なのか教えてください。

JY:この曲はウェストヨークシャーで出会った16歳の女の子をモデルにして書いた曲なんだけど、ストリングスを使ってオーケストラの要素を盛り込んだ曲だね。

OPNの音楽はどう思いますか? 影響を受ける部分がありますか?

JY:ないね。何も言うことはないよ。

この曲(“Tilly's Theme”)を作るときはブライアン・イーノみたいなものを作りたかったんだ。他にもアクトレスとかオーケストラものとかいろいろ聴いていてそこから影響されている部分もあると思う。

ストラヴィンスキーなど20世紀黎明の音楽からの影響はありますか? また、オーケストラのアレンジや音源を取り入れることについて、なにかきっかけがあったのでしたらお教えください。

JY:うーん、まぁそうだね。この曲を作るときはブライアン・イーノみたいなものを作りたかったんだ。他にもアクトレスとかオーケストラものとかいろいろ聴いていてそこから影響されている部分もあると思う。

あなた方は何年生まれですか? 未来よりも20世紀という時代に憧れる思いが強いですか?

JY:未来とか過去とかに憧れることは何もないよ。僕はいまがいちばんいいと思ってるし。

ラストの曲も独特のリズム感で、少しバルカン風の異国情緒も感じられます。詞の内容とのリンクはありますか? また、今回こうした異国的な音楽性がとりいれられているのはどうしてなのでしょう?

JY:どうだろう。アートっぽい仕上がりにしたいと思って作った曲なんだけど、ストリングスのアレンジがもしかしたら異国的な雰囲気をかもし出しているかもね。

自分たちを無理やり何かのジャンルに押しこめて説明するとすれば、何と答えますか?

JY:この質問には答えたくないね。

デビューから5年になりますね。最初のアルバムから環境としてもっとも大きく変わったことはどんなことでしょうか?

JY:僕は3つあると思ってて、「向上」「過程」「コンセプト」、この3つにおいてとても変わったと思ってるよ。


【Darkstar来日公演】
2015/10/11(日)@WWW渋谷
前売¥4,000(スタンディング・税込・1 ドリンク別)
OPEN/START 24:00~
info:SMASH 03-3444-6751 http://smash-jpn.com

質問作成・文:橋元優歩(2015年10月02日)

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