「Not Waving」と一致するもの

Pan Daijing - ele-king

 今年1月、注目すべきエクスペリメンタル・ミュージックのアルバムがベルリンの〈PAN〉からリリースされた。
 中国出身で現在はベルリンを拠点とするサウンド・アーティスト、パン・ダイジンの新作『Tissues』である。このアルバムは圧倒的ですらあった。人間というものの実存を問いつめるようなエクスペリメンタル・ミュージックとでも称すべきか。これぞダイジンが希求したオペラ=総合芸術ではないか。声とノイズを用いたノイズ・オペラ。そこには人の実存への極限的な思考がある。

 パン・ダイジンはこれまで〈PAN〉からアルバムを二作リリースしてきた。2017年の『Lack』と2021年の『Jade』の二作である。二作とも鮮烈なアルバムだが、こと『Jade』は冷徹な音響によるインダストリアル・アンビエント・ノイズと声が全編にわたって混じり合うように展開し、「ノイズ・オペラ」とでも形容したいほどの強烈な作品である。むろん『Lack』もまた「精神のオペラ」と自ら称していたようにオペラを希求し実現したアルバムだ。
 私はこれら二作品をエクスペリメンタル・ミュージックから生まれた「新しいオペラ」と考える。ダイジンは正式な音楽教育を受けているわけではない。だがオペラを作りたいと渇望し、「新しいオペラ」を作り上げた。オペラとは総合芸術である。つまりパン・ダイジンは総合作品としての音響音楽を希求している。
 2019年10月にロンドンの国立近代美術館「テート・モダン」で上演された実験的な演劇『Tissues』もまたパン・ダイジンが追求しきた声とノイズによる「新しいオペラ」の結晶といえよう(https://www.youtube.com/watch?v=PF2aGaRA-40)。
 この上演では13人のダンサー、オペラ歌手、俳優らと共に、構成、演出、デザイン、脚本を手がけたダンジンも演じていたという。地下空間の混乱のようにカオスな音響空間が生まれ、この世界の「恐怖」と直面する人間の感情が、言葉、声、ノイズによって表現されていったらしい。
 ここで気になるのは、2019年にリリースされた『Jade』との関係だ。上演と発表時期が重なっているからである。『Jade』は、2017年に『Lack』をリリースして以降の3年のあいだに制作された。ということは2019年テート・モダンで上演された『Tissues』と重なっている。となれば『Jade』と『Tissues』は、ノイズと声のオペラという意味でもコインの裏表のようなアルバムではないか。
 『Jade』では個の内面に沈み込むようなノイズ・オペラを展開し、『Tissues』では上演という形式のなか複数の演者たちとコラボレーションし、肉体と世界が拮抗するようなノイズ・オペラを生成する。この二作は対照的だ。個の内面と他者との関係性の差異とでもいうべきか。

 アルバム『Tissues』は、その上演を1時間ほどに抜粋・編集した音響作品である(いや音響劇とでもいうべきか)。
 全体の構成は4つのブロックに分けられている。音響版においては、当然ながら彼らは映像/イメージを剥ぎ取られ、それぞれが気配と声だけの存在になってしまう。われわれは音のむこうにある気配と声とノイズを聴取することになる。
 アルバム『Tissues』においては「声の存在」がノイズと共に大きな意味を果たしている。複数の「声」が交錯し、ときには反発し、やがて混じり合っていく。そうして個の存在を使い捨てにするような残酷な世界のありようが浮き彫りになるのだ。
 涙を拭うために使い捨てられる「テッシュ」と、人間を残酷に使い捨てる「世界」の「残酷さ」の問題を重ね合わせること。本作の狙いはそこだ。ここからパン・ダイジンたち自身の実存と「世界」に対する抵抗の意志がより浮き彫りになる。音響だけになった演者たちは肉体を剥ぎ取られていくことで、世界の残酷さを体現するだろう。そしてそこに無慈悲な世界の象徴のようにノイズが声に、個に、神経に、聴覚に、肉体に侵食をしようとする。
 アルバム『Tissues』は、この無慈悲な世界に、個の抗いと個の存在を突きつけ、同時に深い喪失感をも結晶させていく、その過程のような音響作品だ。闘争の音響劇である。そしてダイジンがこれまで追求してきた「世界に疎外され続ける肉体の存在」と「時間と孤独」に対する思索の結晶のようなアルバムともいえる。『Lack』と『Jade』を経てついに実現したパン・ダイジンの「新しいオペラ」が完成した。ノイズ/インダストリアル・アンビエントの完成形、それが『Tissues』だ。

 最後に記しておきたいことがある。『Tissues』は、エンプティセットのジェームズ・ギンズバーグによって録音され、ラシャド・ベッカーによってマスタリングされた。いわば10年代「尖端音楽」の覇者たちがパン・ダイジンをサポートしているという事実は重要だ。それだけでも彼女の才能がどれほど重要なものかわかるのだから。

Godspeed You! Black Emperor - ele-king

 幻の作品とされてきたゴッドスピード・ユー!ブラックエンペラーが1993年に録音したカセットテープ作品『all lights fucked on the hairy amp drooling』、すなわち彼らのもっとも初期の録音物が先日インターネット上に流出したことを受けて、バンドはbandcampにて正式にリリースすることにした。
 なお、この売り上げはCanadians for Justice and Peace in the Middle Eastという慈善団体を通じて、ガザ地区への医療用酸素提供のために寄付される。
 

石橋英子 - ele-king

 素晴らしい音楽や映画、あるいは書物というのは、思いも寄らなかったところに入り込み、硬直した視野を押し広げてくれるものだ。石橋英子の『The Dream My Bones Dream』には、いち個人が日本史の靄のかかった奥に潜り込んでいくという点において、村上春樹の『ねじまき島クロニクル』を彷彿させるところがあった。だからといって、彼女が濱口竜介監督の、傑出したこの映画のサウンドトラックを引き受けることになったわけではないだろう。ようやく時間が持てたので、ぼくは『ドライブ・マイ・カー』を観た。そして3時間後には、しばらく席から立てないほど打ちのめされた。エンドロールでかかる石橋英子の曲は、車がギアチェンジしたことさえわからない滑らさをもって、しかし映画の深い余韻をしっかりと引き受けている。
 
 石橋英子は、このサウンドトラックを2曲に集約させている。表題曲“Drive My Car”、映画においてもっとも印象的なチェーホフからの引用を曲名とした“We'll Live Through The Long, Long Days, And Through The Long Nights(長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう)”。アルバムには、この2曲をもとにした合計10ヴァージョンが収録されている(*)。とはいえ、10曲といっても差し支えないくらいに、個々それぞれ違っている10作品でもあるのだが、日々ひっきりなしに往復する車と同じように、それぞれの楽曲にもアルバム全体にも反復性がある。また、劇中でかかっている多くは、おそらく楽曲の断片で(まだ一度しか観ていないので、正確なところはわからない)、石橋英子のサウンドトラックは映画の音をそのまま再現しているわけではなく、それらをもとにひとつの独立したアルバム作品として再構成しているようだ。
 映画は静かにゆっくりと、一見なんの変哲もない日常のなかで、登場人物たちそれぞれが個々の悲しみを打ち明けていく。自分に何が起こっているのか理解することそのものが困難な、いつ日常がひっくり返っても不思議ではない不安定な(村上ワールドでたびたび描かれている)日々において、安定しているのは登場人物みさきの運転ぐらいなものとなっている。変わりない時間軸といっしょに、残酷なまでに変わっていく時間軸が併走し、ドライブする車がいつの間にか車線変更するように映画はそのどちらかを走っている。こうした微妙なニュアンス、さりげない場面の意味的な移り変わりを、石橋英子(そしてジム・オルークと山本達久をはじめとする演奏者たち)は、ゆったりとスウィングするリズムとさまざまな表情の小さなメロディ、効果的なサウンドコラージュと起伏に富んだストリングス、そして電子音による音数少ないテクスチュアによってじつに巧妙に表現したと思う。主人公の家福が演劇の稽古で、役者たちに台詞を(下手に感情を込めずに)棒読みにするよう徹底させるシーンがある。感情は自分が勝手に与えるものではなく、言葉のほうから与えられるものだということなのだろうけれど、この音楽も似ている。情緒を押しつけるのではなく、それは聴き手のうちなるところから生まれるべきだと、それが主張を控えたこの音楽の主張だろう。
 
 石橋英子は特定のジャンル作家ではない。いろんなスタイルでたくさんの音楽を作っている。先鋭的な実験音楽から親しみやすいポップス、ジャズからアンビエントまで。そうした彼女の多彩なところも、本作ではうまくまとまっているんじゃないだろうか。優雅で美しいピアノが旋回する“Drive My Car”の(Misaki)、サウンドコラージュとサティ風のピアノによる同曲の(Cassette)。山本達久の趣あるドラムと茫洋とした電子ドローンをフィーチャーする“We'll Live Through 〜”の(SAAB 900)ヴァージョンは、実験音楽家としての石橋英子の面目躍如で、さらにドローンに徹した(Oto)ヴァージョンの寂しげな静寂もぼくには面白いし、ミニマルな“Drive My Car”の(The Truth, No Matter What It Is, Isn't That Frightening/真実はそれがどんなものであれ、それほど恐ろしいものではない)などはクラスター&イーノによるプロト・アンビエントを彷彿させる。
 こうした抽象的な楽曲があるいっぽうで、小気味よいリズムとメロディを主体とした“Drive My Car”の(The Important Thing Is To Work/大切なのは仕事をすること)、そしてストリングスの音色を活かした“We'll Live Through 〜”のオリジナル・ヴァージョンは、ギリギリのところである種ロマンティックな雰囲気を引き起こしている。曲の後方でジム・オルークのギターがざわついている“We'll Live Through 〜”の(And When Our Last Hour Comes We'll Go Quietly/そしていつかその時が来たら、おとなしく死んでいきましょう)は、アルバムのクローザーに相応しい。昼も夜も休まることなく、クライマックスに向けて走り抜けていくようだ。が、しかし走っても走っても、カフカの『城』のように終着点はない。いや、ここはサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』のように、と書くべきか。
 
 本作は、2021年の夏に出たアルバムだが、ぼくが聴いたのはわりと最近で、レヴューを書くために映画を観に行こうと思い、ようやくそれが叶ったことでいまこうして書いている。映画を観た人と観ていない人では、このサウンドトラックの受け止め方が違うのは当たり前だ。これは観た人の感想文であって、観ていない人がこの音楽をどう聴くのかはわからない。ぼくはこのアルバムが気に入っているし、ここ最近は、ぼくが移動するときのサウンドトラックにもなっている。まあ、ぼくはもっぱら歩く人ですけど。
 
 
(*)つい先日発売されたCD版にはボーナストラックとして新たに2曲が追加されている。1曲は“Drive My Car”の(Hiroshima)、もう1曲は“We'll Live Through 〜”の(different ways)。前者はミニマルなピアノ演奏による曲で、後者は『ミュージック・フォー・エアポーツ』寄りの、複数の電子ドローンがそれぞれ循環する美しいアンビエント・ミュージックになっている。

Yard Act - ele-king

 デビュー・アルバムをリリースするポストパンク・バンド、もしかしたらみんなもうこの言葉を聞くのは飽き飽きしているかもしれない。しかしヤード・アクトは思い浮かぶそれらのバンドのどれよりも、はるかにポップだ。そして、それこそがきっとすべての違いなのだ。

 早口でまくし立てられるヴォーカル、せき立てられて気持ちがせいで否が応にも事態に巻き込まれていく……。ヤード・アクトのアルバムのタイトル・トラックであり1曲目 “The Overload” ほどこのデビュー・アルバムの最初の曲にふさわしいものはない、そう思わせる程にキレがある。イングランド、リーズのバンド ヤード・アクト、サウス・ロンドン・シーンを尻目にリーズで結成されたこのバンドはポップなギャング・オブ・フォーのようでもありギャング映画とフォールにかぶれたフランツ・フェルディナンドのようでもあり、スタジアムのフットボール・プレイヤーではなくTVに映るフットボール解説者にキレるスリーフォード・モッズのようでもある。ギターは尖り、ベースは太くドラムはタイト、流行している例の喋るようなヴォーカルに圧倒的に足りなかったのはこのポップさだったのではないかという言葉がこのアルバムを聞く度に頭をよぎる(そしてそれらが出そろった2022年のこのタイミングでヤード・アクトのアルバムが出たことにも意味があるようにも思える。まったく違うものではないが、組み合わせるやり方が違う。それはショートカウンターとしてソリッドに機能する)。

 僕が最初にヤード・アクトを知ったのは2020年の4月、イギリスの音楽誌 Dork がデビュー・シングル “The Trapper’s Pelts” をリリースするバンドを紹介する記事だった。Twitter のタイムラインにガレージの中にある薄汚れた車と共に写真に写る4人の男の姿が表示される。眼鏡をかけた3人の男とニット帽をかぶった2人の男(つまり一人はニット帽をかぶり眼鏡をかけている)の冴えないがしかし何やら雰囲気がある写真とビル・ライダー・ジョーンズがプロデュースしているという情報に惹かれて記事を開き、そしてその中の YouTube のリンクを踏むと「YARD ACT」の文字(つまりジャケットに描かれている例のマークだ)が回りはじめる。それで他の情報は全ていらなくなった。百聞は一見にしかず、音がなりはじめた瞬間に一発でわかるような種類の音楽というものがあって、ヤード・アクトは完全にそれだった。当然のようにあっという間に話題になり最初の7インチが出る前にはレコードを入手することが困難なバンドになっていた。もう誰もプロデューサーが誰なのか気にしなくなり、ただヤード・アクトがどんな音楽をリリースするかだけに関心が集まった(しかしちゃんと書いておく。アルバムのプロデューサーはドゥ・ナッシングやケイティ・J・ピアソンをプロデュースしたアリ・チャントだ。付け加えるなら8曲目の “Quarantine the Sticks” にはビリー・ノーメイツも参加している)。

 そしてこのデビュー・アルバムもまさにそういう種類のアルバムだ。再生ボタンを押した瞬間に始まるタイトル・トラックの “The Overload” 「イェーイェーイェー」というジェームス・スミスの声がやる気なく聞こえてきたと思えば心構えも何もなく気がつけばもうヤード・アクトが巻き起こすこの事態の中に引き込まれている。“Dead Horse” はフランツ・フェルディナンドの最初の方のアルバムに入っていてもおかしくないほどムーディーで、“Witness (Can I Get A?)” はハードコアの曲を作ろうとしたがうまくいかず、スーサイドのドラムを試したらスロウタイムラ・マサみたいな曲になったと彼らは言う(しかし1分と少しのこの曲はギターを効かしたスリーフォード・モッズのようにも聞こえる)。

 このアルバムで白眉なのが9曲目の “Tall Poppoeis” で、この曲は同時代の他のポストパンク・バンドにはちょっとみられない曲だろう。イラついていないときのマーク・E・スミスみたいな語り口で語られる物語、クラスでいちばんハンサムだった男、村でいちばんフットボールが上手かった奴、クルー・アレクサンドラのスカウトが見にきて関心があるとかなんとか言う(クルー・アレクサンドラはイングランドの3部にあたるリーグ1に所属しているクラブだ)。だが彼はフットボールの道に進まなかった。16歳の時に決断し、村で不動産の仕事について、結婚して、犬を飼って、子供が生まれ、そうして年を取り死んでいく。彼は夢を追うことをしなかった。グレート・マンチェスターにはもっとハンサムな男がいて、信じられないくらいフットボールが上手い奴がいる、だから彼は村を出ずに平凡な幸せな中に死んでいくことを選んだ。そんな男の一生が音楽に乗せた説話として描かれ、そのあとにこの話を受けて現代を生きる人間の思いが語られる。この国では16歳になるまでにどんな大人になるのか決めなければならない。そうやってみな選択した自分の人生を生きる。そのことに精一杯で、どこかの国で爆弾が落とされ子供が死んでいくことを知っていたとしても、その利益を受けて生きていくしかない。この曲ではそうした人生の選択や不条理さ、無常観が描かれている。体制にただ牙をむくのでもなく、怒りをぶつけるのでもない。誰かを諭そうともせず意見を押しつけず、ヤード・アクトは自分の見た世界の現状を提示して、どう思う? と笑顔を浮かべ皮肉じみた質問を投げかけるのだ。

「近頃のガキは自分が苦労しているって思っている / 俺みたいに鉄の肺を味わったわけでもないだろうに」 “The Overload” でそう唄われているようにヤード・アクトはいわゆるサウス・ロンドン・シーンのバンドとは違う世代に属している。ヴォーカルのジェームス・スミスは31歳で結婚していて子供がいて、その相棒、ベースのライアン・ニーダムは彼より10歳年上で、メンバーチェンジを経て加入したギタリストのサム・シップストーンやドラムのジェイ・ラッセル(この二人は地元リーズのバンド、ツリーボーイ&アークのメンバーと交代で入った二人だ)にしてもヤード・アクトの前に違うバンドで活動しており、メンバー全員がこれまでに他のバンドで音楽活動をしていた。ジョン・クーパー・クラークからその名がとられたであろうジェームス・スミスのバンド、ポスト・ウォー・グラマラス・ガールズはゴシックの香りが漂う陰鬱なギターバンドで、ライアン・ニーダムのメネス・ビーチも『Black Rainbow Sound』というアルバム・タイトル通りの暗さがある。そうした時代を経てのヤード・アクトだ。ヤード・アクトはこれまでのバンドと同じようなエッジを持ちながら、それよりもずっとポップで親しみやすく、そしておそらく大きな場所で響きやすい。

 ソー・ヤング・マガジンのサム・フォードが言うように、いまのロンドンで音楽をしようと思うのならば学生時代の3年間を有効活用するしかないのだろう(つまりジェントリフィケーションの問題だ)。サウス・ロンドンの多くのバンドはそれを利用し連帯しシーンを形作っていった。だがそれらのバンドの大半は成功し売れるということにあまり興味を示さなかった。情熱を持って活動し自分たちの音楽を気に入ってくれる誰かに届けば良い。そうしてお互いに刺激を受けて、それがまた音楽を作る原動力になる。それは素晴らしいものなのだが、もしかしたらそれが少なからず頭でっかちの音楽になってしまった原因なのかもしれない(あるいは “Tall Poppoeis” で描かれたフットボールの話はこうした状況にもかかっているのかもしれない)。しかしヤード・アクトは違う。生活のための音楽、もしくは音楽のための生活を経験している彼らは目標をしっかりと掲げはっきりと大きなステージを目指した(この点でもフランツ・フェルディナンドを彷彿とさせる)。
 その上で彼らは同時に信念を持ち続けている。人気を集めた “Fixer Upper” や “Dark Days” などアルバム以前に発表された曲を1曲も収録しなかったというのがおそらくその証拠になるだろう。ただ売れればいいというものではなく波風が立つようなエッジがなければ意味がない、この姿勢がヤード・アクトをヤード・アクトたらしめる。切れ味鋭いポップな楽曲に乗せた社会風刺、人気ゲーム「FIFA22」のサウンドトラックに収録された “The Overload” がジェントリフィケーションの問題を取り扱った曲であるように、“Dead Horse” ではBrexit時代の政治の現状が嘆かれ、“The Incident” ではキャンセル・カルチャー世界の健全さが、そして “Rich” や “Payday” では社会格差や資本主義のねじれがユーモアと皮肉を交えて描かれている。こうしたメッセージが込められた曲を大きな場所で響かせようとしているのがヤード・アクトなのだ。サウス・ロンドン・シーンのバンドとの共通点と差異、エッジを持ちつつポップでもあるということ、ヤード・アクトのこのアルバムはやはり巻き起こったシーンに対してカウンターとして機能するのだ。

 そして物事にはタイミングというものがある。おそらくこの 1st アルバムは10年前では同じように作れなかっただろうし、同様に響くこともなかっただろう。時代と場所と流れ、様々なものが噛み合って音楽は生まれ、受け入れられていく。だからこそヤード・アクトのアルバムがいまこのタイミングで出たことに意味があるとこのアルバムを聞いてそんなことを考えてしまう。

Maarja Nuut - ele-king

 2021年の嬉しい発見のひとつにマーヤ・ヌートのアルバム『hinged』があった。アナログ盤と配信のみだったこの傑作のCD盤がこの度〈PLANCHA〉からリリースされる。ボーナス・トラック1曲収録の、歌詞・対訳付きという仕様。これは嬉しい。ちょっと部屋のなかが明るくなる本当に良い音楽です。あらためて推薦します。
 

Maarja Nuut
hinged

PLANCHA
2022年3月18日発売
2,200 円+ 税

 Madegg名義で作品を発表していた小松千倫による、Kazumichi Komatsu名義のアルバム『Emboss Star』のリミックス盤が先週リリースされた。リミックス担当は、堀池ゆめぁ、Takao、荒井優作、土井樹といった若手注目の面々。アナログ盤と配信のリリースとなる。

Kazumichi Komatsu
Emboss Star Remixes
FLAU
https://smarturl.it/EmbossStarRemixes
https://flau.bandcamp.com/album/emboss-star-remixes

tracklist:
1. Umi Ga Kikoeru (feat. Dove & Le Makeup) (Extremely Raw Version)
2. Lipsynch (堀池ゆめぁ Remix)
3. Followers (feat. Cristel Bere) (Takao Remix)
4. Umi Ga Kikoeru (feat. Dove & Le Makeup) (荒井優作 Remix)
5. Emory (土井樹 Remix)

 なお、『Emboss Star』のアナログ盤も絶賛発売中。
こちらは収録曲“Followers feat. Cristel Bere“のMV(shot by Maho Nakanishi)。

以下、レーベル資料から。

Madeggとして活動を行なっていた小松千倫がKazumichi Komatsu名義で昨年リリース、Visible Cloaksがミックステープに楽曲をフィーチャー、柴田聡子が昨年のベストアルバムの1枚に選ぶなど、多方面で注目を浴びたアルバム「Emboss Star」が1年越しにLP化。本作は、過去4年の間に作業されたEP、インスタレーション作品、映像作品、ファッションショー、パーティー、レイヴ等の実験の中から、将棋の棋譜を読み返すようにして見つけ出されたものを基礎としている。全体で30分にも満たない本作は、再生とともに現象してしまう音源のファンダメンタルな側面を強調しつつ、情報やイメージのヴェイピングに対する様々な反応を、身体において再構成することが意図されている。ハウスやアンビエントが誘き寄せる半意識的な状態への契機とともに、抵抗が意図されており、インプットへのある種の免疫を作り出そうとする。コミュニケーションの戯図のなかで、フィクションはハッシュタグやジャーゴンといった冗長に圧縮されていく。それらはフォークロアの話素にもなる。ルドンダンスを組み合わせたフォークソング集。シングル「海がきこえる」にはアルバム「微熱」が注目を集めるDove & Le Makeup、「Followers」ではPure VoyageからCristel Bereをフィーチャー。マスタリングは注目のレーベルRecitalを主宰するSean McCannが担当。

Kazumichi Komatsu

小松千倫は1992年生まれ、トラックメイカー Madeggとしても知られる。これまでにFLAU、Angoisseなど様々な国のレーベルよりアルバム、 EPをリリースするが、その表現領域は音楽、映像、インスタレーションと多岐にわたる。原初的な経験的感覚やイメージを基点としながら、ジャンルによる規定性を迂回するように街や自然、メディアや記憶の内外にある微細な現象や変化を重ね合わせることで、抽象的なイメージが固有のシーケンスへと転化していくかのような作品制作を行っている。

FEBB - ele-king

 4年前に急逝した Fla$hBackS のラッパー/プロデューサー、FEBB。生前手がけていたという幻のサード・アルバム『SUPREME SEASON』がなんと陽の目を見ることになった。残されたPCから発見された全16曲を収録、アナログ2枚組とCDのフィジカル限定で、デジタルでのリリースは予定されていない。これは要チェックです。

FEBBが生前に最後まで手がけていた幻の3rdアルバム『SUPREME SEASON』が完全限定プレスの2枚組アナログ盤、CDのフィジカル限定でリリース。

2018年2月15日に急逝したFEBBが生前に最後まで手がけていた幻の3rdアルバム『SUPREME SEASON』がリリース。デジタルでリリース済みの“SKINNY”や“THE TEST”の7インチにカップリングされた"FOR YOU”など一部既出の楽曲やGRADIS NICEとの『SUPREME SEASON 1.5』でリミックス・ヴァージョンが収録されたりしているものの、これが本人が纏めていたオリジナル音源での3rdアルバム。
 FEBB自身のパソコンから発見された全16曲のオリジナルデータにマスタリングを施し、ご家族と協議の上リリースすることとなりました。客演としてMUD(KANDYTOWN)が唯一参加となっています。(本来は全17曲ですが"DROUGHT"はMANTLE as MANDRILLのアルバムに収録されたため本作には未収録)
 アートワークは名盤『THE SEASON』と同じくGUESS(CHANCE LORD)、マスタリングはNAOYA TOKUNOUが担当。
 本作はアルバムとしてのデジタル・リリースは予定しておらずフィジカル限定となり、アナログ盤は帯付き見開きジャケット/完全限定プレスで一般販売。同じく完全限定プレスのCDやTシャツ等のマーチャンダイズはP-VINE
SHOP限定での販売となり、詳細は追ってアナウンスになります。
(Photo: Shunsuke Shiga)

[商品情報]
アーティスト: FEBB
タイトル:  SUPREME SEASON
レーベル: WDsounds / P-VINE, Inc.
発売日: 2022年5月25日(水)
仕様: 2枚組LP(帯付き見開きジャケット仕様/完全限定生産)
品番: PLP-7778/9
定価: 4.950円(税抜4.500円)

[TRACKLIST]
A-1 SUPREME INTRO
A-2 DRUG CARTEL
A-3 THUNDER
A-4 FOR YOU
B-1 CITY
B-2 DANCE
B-3 RUSH OUT
B-4 $AVAGE
C-1 F TURBO
C-2 FOR REAL THO
C-3 ELOTIC
C-4 NUMB feat. MUD
D-1 REALNESS
D-2 LIFE 4 THE MOMENT ( SKIT )
D-3 MOTHAFUCK
D-4 SKINNY

 現代の日本のダークサイドを風刺しているともっぱら評判の遊佐春菜のアルバム『Another Story Of Dystopia Romance』、1曲目の“everything, everything, everything”が配信を開始した。彼女の〝ディストピア・ロマン〟をぜひ聴いてみてください。
 
Apple Music | Spotify

 アルバムはCD2枚組で、1枚はオリジナル・ミックス盤、もう1枚はリミックス盤になる。リミキサー陣は、DJ善福寺、SUGIURUMN、Yoshi Horino、Eccyといった〈kilikilivilla〉レーベルでお馴染みのベテラン勢が担当。アルバムは4月20日に発売予定。


 

遊佐春菜 / Another Story Of Dystopia Romance
KKV-120
4月20日発売予定
CD2枚組
税込3,300円
https://store.kilikilivilla.com/product/receivesitem/KKV-120

Disc 1 : Another Story Of Dystopia Romance
1. everything, everything, everything
2. ミッドナイトタイムライン
3. Faust
4. Night Rainbow
5. Escape
6. 巨大なパーティー
7. everything, everything, everything (beat reprise)

Disc 2 : Another Story Of Dystopia Romance Remixes
1. everything, everything, everything (beat reprise)(SUGIURUMN Remix)
2. 巨大なパーティー(DJ善福寺from井の頭レンジャーズ Remix)
3. Escape(ReminiscenceForest Remix)
4. Night Rainbow(House Violence & Yoshi Horino remix )
5. Faust(Satoshi Fumi Remix)
6. ミッドナイトタイムライン(XTAL Remix)
7. everything, everything, everything(Eccy Remix)

以下、レーベル資料から。

Remixerについて by 与田太郎

このアルバムが伝えようとする物語はクラブやパーティーが重要な舞台となっている。野外レイヴやパーティーで踊ることはこの行き詰まる日常からの解放だ、そして様々な場所からそこに集まる人々とのオープン・マインドなコミュニケーションは人生に大きな出会いをもたらしてくれる。

Have a Nice Day!のライブでフロアがモッシュピットだったことは偶然ではなく、そこに集まった人々による1時間にも満たない熱狂は彼らにとって日々を生きる糧だったはずだ。2020年以降消えてしまったパーティーやフロアの熱気がようやく今年取り戻せるかもしれない。

今作のプロデューサーである僕は90年代からパーティー・オーガナイザーとして、またDJとしてその熱気を求め続けてきた。Another Story Of Dystopia Romanceが90年代以降のダンス・カルチャーが生み出したサウンドから作られているのはそういう理由による。ならばそれぞれの楽曲のフロア向けのリミックスを作る必要があるだろう、というアイデアはすぐに実行された。

everything, everything, everything (beat reprise)(Sugiurumn Remix)
数々のパーティーを20年以上共に駆け抜けてきた盟友であり、変化の激しいシーンを生き抜いたベテランらしくないベテランSUGIURUMNは静かな熱気をきらめくようなエレクトロ・ビートの結晶に封じ込めた。

巨大なパーティー(DJ善福寺from井の頭レンジャーズ Remix)
90年代のワイルド・ライフを共に過ごした高木壮太は普段なら引き受けないリミックス、ダブの制作を2021年8月に亡くなったリー・ペリーの追悼ということで特別に引き受けてくれた。そのDJ善福寺from井の頭レンジャーズ名義のダブ・リミックスからは彼がいかに深く音楽に精通しているかを物語る。

Night Rainbow(House Violence & Yoshi Horino remix )
東京のハウス・シーンのライジング・スターHouse Violenceとワールド・ワイドなレーベルUNKNOWN SEASONをオーガナイズするYoshi Horinoがタッグを組んだリミックス、パーティーの現場に即した構成とシカゴ・テイストなビートとニューヨーク・マナーな展開は彼らが日々のパーティーで培ってきたダンス・ミュージックそのもの。

FAUST(Satoshi Fumi Remix)
90年代からプログレッシヴ・ハウスを追いかけてた僕にとってジョン・ディグウィードにフックアップされたSatoshi Fumiは特別な存在と言っていい。2022年現在、リアルタイムでワールド・クラスのプロデューサーが織りなす展開は見事としか言いようがない。彼の最新アルバムはディグウィードのBEDROCKからリリースされた。

ミッドナイトタイムライン(XTAL Remix)
Traks Boysとしても活躍するXTAL、近年の作品同様に流れで聴かせるのではなく瞬間を切り取るようなスタイルは歪み成分がまるで音の粒子のように広がるって聞こえてくる。バレアリックかつシューゲイズなタッチは彼ならではの作品となった。

everything, everything, everything(Eccy Remix)
かつてSLYE RECORDSを共に率いたトラック・メイカーは今またコンスタントに作品を発表している。オリジナル・アルバムのオープニング・ナンバーは現代の日本を見つめるインターネットの視点から歌われているがEccyのビートはそのディストピアのダークサイドを見つめている。

R.I.P. Betty Davis - ele-king

私はあなたを愛したくない
なぜなら私はあなたを知っているから
ベティ・デイヴィス“反ラヴソング”

 時代の先を走りすぎたという人がたまにいるが、ベティ・デイヴィスはそのひとりだ。彼女については、かつてのパートナーだったマイルス・デイヴィスが自伝で語っている言葉が的確に彼女を説明している。「もしベティがいまも歌っていたらマドンナみたいになっていただろう。女性版プリンスになっていたかもしれない。彼女は彼らの先駆者だった。時代の少し先を行っていた」(*)
 ベティ・デイヴィスは女ファンクの先駆者というだけではない。彼女は、セックスについての歌をしかもなかば攻撃的に、鼓膜をつんざくヴォーカリゼーションと強靱なファンクによって表現した。公民権運動時代のアメリカには、ローザ・パークスやアンジェラ・デイヴィスをはじめとする何人もの革命的な女性がいた。音楽の世界においてもアレサ・フランクリンやニーナ・シモンらがいたが、ベティ・デイヴィスは彼女たちがやらなかったことをやった、それはセクシャリティの解放であり、家父長社会に対する性的な挑発だ。男性が伝統的に当然としてきた性的自由を享受する権利を声高く主張すること。だが、そのあまりにも放埒でラディカルな性表現は、1970年代当時、公民権運動の主体の一部であった全米黒人向上協会(NAACP)からもボイコットされたほどだった。
 
 1944年7月16日、ノースカロライナ州ダーラムで生まれたベティ・デイヴィスが、2月9日に77年の生涯を終えたことを先週欧米のメディアはいっせいに報じ、彼女にレガシーに言葉を費やしている。
 16歳のとき、ファッション・デザインを学ぶためにニューヨークにやってきた彼女は、その街の文化——グリニッジヴィレッジやフォークなど——を思い切り吸収した。モデルとしても働くようになったが、モデル業よりも音楽への情熱が勝り、1967年にはザ・チェンバース・ブラザーズのために曲を書いている。それが昨年ヒットした映画『サマー・オブ・ソウル』でも聴くことができる“Uptown (To Harlem)”だ。そして、マイルス・デイヴィスが、おそらくはほとんど一目惚れして、1969年のアルバム『キリマンジェロの娘(Filles De Kilimanjaro)』のジャケットになり、収録曲の1曲(Miss Mabry)にもなった。マイルスにスライ&ザ・ファミリー・ストーンとジミ・ヘンドリックスを教えたベティは、彼の二番目のパートナーとなり、かの『ビッチェズ・ブリュー』へと導いたことでも知られている。「音楽においても、これから俺が進むべき道を切り拓いてくれることになった」とマイルスは語っている(*)。
 そしてベディ・デイヴィスはマイルスとの短い結婚生活を終えると、わずか3枚の、しかし強烈なファンク・アルバムを残した。ぼくが所有しているのは『They Say I'm Different』(1974)の1枚だが、このジャケット写真を見れば、どれだけ彼女がぶっ飛んでいたかがわかるだろう。彼女はグラム・ロッカーであり、サン・ラーやジョージ・クリントンと肩を並べることができるアフロ・フユーチャリストでもあった。

 しかしながら、1970年代前半のアメリカで、黒人女性がファンクのリズムに乗って、自分の性欲や別れた男=マイルスのことを面白おかしく歌うこと(He Was A Big Freak)は、あまり歓迎されなかった。だがいまあらためて聴けば、先述の『They Say I'm Different』はもちろんのこと、ファースト・アルバム『Betty Davis』(1973)もサード・アルバム『Nasty Gal』(1975)も、その素晴らしいファンクのエネルギーに圧倒される。ベティの散弾銃のようなヴォーカリゼーションは、因習打破の塊で、まだまだ保守的だった時代においては恐れられてしまったのだろう。彼女の前では、ジェイムズ・ブラウンの“セックス・マシーン”でさえもお上品に聴こえると書いたのは、ガーディアンやクワイエタスに寄稿するジョン・ドーランだ。「彼女は、揺るぎない勇気とリビドーをストレートに感じさせる強さをもっていた」

 ベティは結局、早々と音楽業界から身を引かざるえなかった。ドーランは、ベティが無名性に甘んじたのは、明らかな性差別だったと断言しているが、21世紀の現在では、エリカ・バドゥやジャネール・モネイのように、彼女からの影響を公言するアーティストは少なくない。カーディBやニッキー・ミナージュだってその恩恵を受けているだろうし、もっと前には、それこそマイルスが言ったように、マドンナとプリンスにもインスピレーションを与えているという。テキサスのサイケ・パンク・バンドのバットホール・サーファーズだってベティへの賞賛を表明しているし、彼女はいま、ようやく時代が自分に追いついたことに安堵していることだろう。

人は私が変わってるって言うけれど
だって私はサトウキビで芯まで甘い
だからリズムがある
曾祖母は社交ダンスなんて好きじゃなかった
そのかわり
エルモア・ジェイムズを鼻歌で歌いながらブギったものさ

人は私が私は変わってるって言うけれど
だってチットリンを食べるから
生まれも育ちもそうなんだから仕方がない
毎朝、豚を屠殺しなければ
ジョン・リー・フッカーの歌を聴いて帰るんだ

人は私が私は変わってるって言うけれど
だって私はサトウキビで
足で蹴ればリズムが出る
曾祖父はブルース好きだった
B.B.キングやジミー・リードの曲で
密造酒をロックしていたのさ
“They Say I’m Different”
※サトウキビは長い円筒形の管のなかに甘い液体が入っていて、その管を口に入れて汁を吸う。


(*)『マイルス・デイヴィス自叙伝』(中山康樹 訳)。原書は1989年刊行

WDsounds発、2021年いろんなベスト - ele-king

 どの年もどの日も特別な時間であると思う。コロナ禍が続くなかでもそれが変わらないことを私たちは知っている。2021年を振り返りそのTHE BESTを自らの言葉で綴ることはその時間を少しだけ自分のものにしてくれると思う。そんな「THE BEST 2021」。

・RIVERSIDE READING CLUB

* 保坂和志『残響』
 去年いちばん繰り返し読んだ一冊。これは世界を小説にしか出来ないやり方で描いた作品だ。という考えに2回目の途中くらいでたどり着いたのだけど、その後に読んだ作者の“創作ノート”には全然そんなことは書かれていなくて、ぶちあがると同時に、別の文脈で書かれていた「だって、世界ってそういうものだからだ」という一文に完全に納得した。そこまで含めて、Best読書2021。 ( ikm )

* CHIYORI × YAMAAN “MYSTIC HIGH”
 2021年。前年に続きとにかく大変な1年だったけれど、どんな状況下でも『パーティー』はそこにあり続けた。決して楽な環境ではなかった中で「それを今やる意味」。その意味は各々で消化され、細胞となり、それはどんなウィルスにも侵食することはできない精神の強力な抗体となった。
 そして、個人的にはそれを象徴するかのような曲が「Mystic High」収録の「I'm So High」。第五波で緊急事態宣言真っ只中の夏、BUSHBASHで行った自主企画でCHIYORIが「新曲です!」と言ってYAMAANとの共作を披露したときからすでにアンセムだった。透明感のあるボーカル、柔らかな上音に浮かび上がるハットの軽快さ、さまざまな音の重なりがゆらゆらと波が起こし体全体を包んでいくような感覚。あぁ、ここはもうすでに水の中なのかもしれない。母のお腹で眠る赤ちゃんはこんなあたたかくてきもちいいのだろうか。重力から解放されてふわふわと永遠に踊っていられるような、そんな感じだった。
そして、パーティー明けに惨劇の森から大絶賛され、瞬速でBushmindはremixを製作。心地よいゆるやかな波はremixによって化け物のような大波に進化した。どちらも良さがありまくる。それからremixがパーティーで流れようになると、どこの場所でもその日一番の盛り上がりとなり、キラキラと魔法がかかったように輝き出した。フロアは一瞬で波に飲み込まれ、引き込まれていく感覚にゾワゾワと鳥肌が立つ。このような感覚は今まで味わったことがなく、やはりこの曲こそ2021年の私が体験したダンスフロアの象徴に他ならなかった。
※一曲についてしか書けませんでしたが「Mystic High」は全編を通して衝撃的に素晴らしいアルバムです ( Mau Sniggler )

* rowbai “Dukkha”
 HYDRO BRAIN MC’s加入以降、ほんの幾つかのバースとほんの数回のライブで一躍チームのエース格に躍り出た我らがKuroyagiによる客演が圧倒的に素晴らしい。
 取り分け事態を本邦だけに限定するとたかだかスキルの話にしても、ほとんどのラッパーが彼のちょっとしたおふざけにすら足元にも及ばない状況の中、本作で繰り広げられるゴン攻めに至り、俺も含めてここに展開されたラップアートを正確に理解できている人が果たしてどれだけいるのか? 取り分け2曲目の「Gōma」に於ける今更初期のLil Yachty的バブルガム感を引用しつつ、その背後に1977年のSuicideの幻影さえもがチラつく白昼の落雷のようなすっとぼけた覚醒感で"ぶっ殺死!!"(© 冨樫義博先生)をパフォームする、このコロナ禍のディストピアにこそ相応しい破格のエンターテイメントにとりあえず一回全員蹴散らされたらいい。また、本作のオーナーrowbaiが自身で手がける、透過性と不透過性とその裂け目を縫うようにして這い進むヒビ割れた磨りガラスのようなbeatとあくまで静謐なボキャブラリーの中に"激痛"("激情"ではなく)を宿したwordは、"ポスト〇〇"的なタームでは解析しきれない明らかなる切断面を開陳し、現在、SSWという言葉が置かれた位置座標を立体的に浮かび上がらせている。同二人のコンビネーションによる前作、rowbai & Kuroyagi / "nothing"と併せて普通に必聴。
 まるで逆境を跳ね返すかのように友人たちが傑作を量産した2021年の中でもBESTの一つ。この作品の所為で暫く他のが聴けなくなって超迷惑でした! ( Phonehead )

・.daydreamnation.( iiirecordings )

1. SPECTRE “THE LAST SHALL BE FIRST (CD)”
 SPECTREをBGMに自分が好きなことをする。有限の時間の中で聴く音楽、最高のものをききたい。2021年この音楽に乗りながら色々なことをやりました。ヒップホップでありながら完全にそれを超えていて、説明不可能な領域まで振り切ったビートにしびれました。WORDSOUNDはミュータント。ミックスがSCOTTY HARDさん、マスタリングはTURTLE TONE STUDIO NYC.で音最高。ぜひCDで。 DJKATAWAからの贈物。ZOZNT PROBLEMDUBBERS CLASSIC. ありがとうございます。

2. NECESSARY (Necessary Intergalactic Cooperation) “VOLDSLOKKA (CD)”
 夜に何か作業をする時に聴いていました。NICはバンドサウンドの枠をこえたリズム・演奏・ダブすべてがかっこよくてミックスもキレキレです。SWANS/PRONG/teledubgnosisのTed Parsonsさんのドラムビートがくらいます。大好きなグルーブ感。ミックスはGodflesh/JesuのJustin K. Broadricさん、マスタリングがTURTLE TONE STUDIO NYC.で音質最高です。ぜひCDで。

3. 吉村弘 “PIER & LOFT (VINYL)”
 再生して終わるまでの間に、今までの自分ぜんぶを包み込んで許されたような気持ちになりました。やわらかくて、やさしくて。聴く度にたいせつなことを思い出しています。シンセサイザーのやさしい音と演奏。この作品に出会えてうれしいです。レコードのマスタリングをしたSinkichi君(KOZA BC STREET STUDIO)からの贈物。ありがとうございます。

・HANKYOVAIN

1. J.COLUMBUS feat.ERA “BEST COAT”
本作の最後でPHONEHEADが登場した事は私にとって2021年最大の衝撃であり、目白と守口が確実に繋がっていると実感した特別な出来事となった。
楽曲の素晴らしさについては、リリース時に添えられたikm君の愛を感じる解説文を読んでみてほしい。

2. SATO “トワノアス”
本作の7インチ・レコード化計画に携われたことは私にとって2021年の貴重な経験となった。京都で音楽活動を続けるSATOが「高瀬川」と「永遠の二人」について歌う本作は、瑞々しく輝く普遍性と、それと相反するような愛の儚さや危うさを感じさせる名曲である。

3. HIRANO TAICHI “BLINDING LIGHTS”
今1番アルバムの発表を待ち焦がれているシンガーソングライターの名曲。
この曲を初めて聴いた時、演奏が始まって歌声が入ってきた瞬間に「この人本物や」と感動してすっかり心を打ち抜かれてしまった。

・BUSHBASH

柿沼実(BUSHBASH)

*  MEJIRO ST. BOYZ “BLOWING BUBBLE FOREVER”
 J.COLUMBUS,Phonehead,HANKYOVAINで構成される"MEJIRO ST. BOYZ"が11月にリリースしたBLOWING BUBBLE FOREVER。
この曲によってBUSHBASHの行ってきた事を新しいフェーズに移動させる事ができたと思う。悩みや存在し続ける問題や壁のようなもの、それらがなんでありどう向かっていくかという事。希望や一時的な逃避ではない確実な揺るぎない"現実"が歌われる事で足元を再確認し、抽象的でない"未来"を生み出す一端になる広がり続ける大気の様な、そして果てしない強靭さを兼ね備える音楽。
時代が変わり続けても何処かに射し続ける光みたいに在り続けるCLASSIC。一音目からの音、聴こえるリリック、そして結成の経緯と皆の佇まいや会話、存在。全てがMSBでとてつもなくEMPOWERしてもらってます。LIFETIME BEST。シャボン玉を吹き続けよう。

* RAMZA ”Pure Daaag” AIWABEATZ ”pearl light - Rain”
 BUSHBASHのレーベルからリリースさせて頂いたRAMZA君のMIX CDとAIWABEATZ君の7inch。リリースという行為の中にある一つひとつのやりとり、多くの人の協力などが積み重なってできた素晴らしい作品。
2020年3月からの出来事や交差していく人や物事の中で自然/必然というような流れでスタートできたBUSHBASH LABELは狭くなっていた視野を壊してくれるものでした。その中でもこの2作品はなるべくしてなったというか極自然な流れで形作られていったものであり、どちらもこの時代性を反映しつつも左右されない芯が通った内容で、BUSHBASHとして考える大切な物事を忘れず、地に足をつけるという意志を紡いでくれているような気がしています。
この2作品から生みでたイメージが繋がって今後もリリースしていく予定の最高の作品がありますので楽しみにしていてください。
喉元を過ぎて熱さを忘れた後は熱さを感じる喉元すらなくなると思います。

* 惨劇の森 "緊急事態新年会 + 歳末大感謝無礼講大祭"
 2021年の始まりと暮れに執り行って頂いた2大祭。期せずしてこちらもずっと考え続けた場所としての在り方や考えを体現してもらえた夜。どらちも悪化の一途を辿る世の中の状況の中で行われましたがプリミティブであり美しい、笑顔が絶えない時間で、"音楽"ってものを考えた時に最初に受けた衝撃からこれから朽ち果てるまでの間に何がしたい/できるか、という疑問の答えに身をもって提示してくれたような惨劇の森(DJ Abraxas / Bushmind / Ko Umehara / Phonehead)とACID EXILE、そして集まって頂いた皆さんに敬意を表します。
物凄くシンプルに音楽の最高さ/カッコよさを感じさせてくれて新しい楽しみ方やワクワクする事が増えて行くと共に、惨劇の森による大祭で挟み込まれた2021年という年に感じた希望や手応えは身体に刻み込まれて突き動かしていく。
 2022年も多くの人が集まりそれぞれの尊厳を奪われず、自由な楽しみ方で過ごせる場所と時間を創っていきたいと思います。
 新たな変化と少しずつ明けていく夜の確信として此処に記します。

・DISCIPLINE

* Scowl “How Flowers Grow”(SHV(KLONNS))
* Team Rockit “Bahamut Zero”(LSTNGT )
* Ellen Arkbro ”Sounds while waiting”(Keigo Kurematsu)
* Sozorie “Paper Ruins”(1797071 (Ms.Machine))
* OPERANT “Traumkörper”(Golpe Mortal)
* セーラーかんな子 “Kanna-chan/Hachi-chan”(CVLTSL4VE (#SKI7))
* Sega Bodega “Romeo”(Ray Uninog (#SKI7))
* George Crumb - Music For a Summer Evening :The Advent(TIDEPOOL (IN THE SUN))
* Telematic Visions 2 “watch?v=7QklmysU_o4Ku”(富烈)

 こういう機会を頂いて改めて振り返ってみると、2021年もコロナ禍によって生活の色々を縛られ続けた1年だったけど、そんな中でも各地で新しい物語が絶え間なく紡がれていたと思う。バラバラに散らばっていた点と点が邂逅を果たし、そして同時に永遠に捨て去るべきものが何なのかも分かった。
 Disciplineは根底にHARDCORE PUNKの精神を持ちつつも特定のジャンルや言説に依拠しない(或いは出来ない)個人の集合体。それぞれがそれぞれの視座を持ちつつも、同じMOODと怒りを共有していると思う。メンバーのみんながそれぞれ選んだ曲たちはジャンルも世代も国籍も異なるけど、それぞれの「2021年」を映し出す鏡。大きな潮流としての「時代」ではなく、引き裂かれながらも「今」という切断面まで持続させてきた個人史。全部通して聴いてみると、世界がどんなに酷くなってもまだ少し明日を楽しみに出来る、ような気がする。( tSHV )

・CHIYORI × YAMAAN

YAMAAN

* Hegira Moya audio visual set at Curiosity Shop “Hidden Meadow” 29th May 2021
 5月の明け方5時くらいにライヴ配信されていたHegira Moyaさんの映像作品。
Hegiraさんが旅先や日常の中で撮りためた映像と音を夜明け前の時間帯に配信で見るのは、不思議で印象的な体験でした。

* CHAMO TEU VULGO MALVADÃO “MC Jhenny (Love Funk) feat MC GW, DJ KOSTA22”
 偶然聴いたこの曲をきっかけに現行のバイレファンキにはまりました。
「ンチャチャ」の基本的なリズムを変わった音で置き換えていたり、音数が極限まで少なかったり、斬新な音遊びをしている曲が多くて面白いです。
この曲はどことなくDJ FUNKなどに通ずる感じもします

* Mio Fou ”Mio Fou”
 ムーンライダーズの鈴木博文さんと美尾洋乃さんのアンビエント感あるポップスのユニット。
84年の盤なのですが、昨年の夏頃にとてもはまって繰り返し聴いていました。素晴らしい作品です。

CHIYORI

 2021年は旦那との初アルバム、CHIYORI × YAMAAN「Mystic High」のリリースができました。多くの時間を制作に費やしましたが、その間に起きた熱い思い出やハマったものを選りすぐりました。きっと間接的に制作にも活かされていたと思います。

* ポータブルスピーカーレイヴ
 コロナ禍による時短営業で行くあてが無くなった時用に、ポータブルスピーカーをいつでも持ち歩いておいて、広場、川辺や海岸などでスピーカーを鳴らして友達と踊りまくったり、曲について語り合う、という遊び方にハマりました。スピーカーがボロかったので友人が誕生日に新しいのをプレゼントしてくれたのも嬉しかったな。また暖かくなったら始めよう。

* ドキュメンタリー映画「寛解の連続」ツアー
 スタッフとして東京や関西3館の映画館上映を光永惇監督や主人公の小林勝行、他スタッフや配給さんたちと回りました。皆んな快楽主義な所があるのでノリが合うし、その反面、社会福祉への高い意識や強い想いに、とても影響を受けました。人間味溢れるこの映画と、幅広い文脈でのトークショーや様々な出会いによって、随分心が自由になれたし視野が広がったと思います。その小林勝行の3rdアルバムも2021年マストな衝撃作でした。

* OGGYWEST
 2021年1番ハマったラップグループは、西荻を拠点とし2016年結成後コンスタントに作品を発表し続けているOGGYWEST。
オギーの魅力に気付いてしまった日から、全作品隈なく聴き込みました。クオリティの高い心地良いトラップな上、よく歌詞を聴くと生活感や妄想癖に溢れた絶妙なユーモアセンスがツボ過ぎて中毒になりました。ファンが高じてリリパでDJさせもらえたのはとても光栄でした。粗悪ビーツさんとの新作「永遠」も最高!

・MASS-HOLE

2021年よく聞いたアルバム。

* Benny The Butcher×Harry Fraud “The Plugs I Met 2”

 すごく聞きました。佐井さんのクリアランス話を聞いて、地球が丸いことを知りました。salute WDsounds、P-VINE!!


* All Hail YT×Cedar Law$  “Player Made”
 let me rideのカヴァーから気になってて、cedar君とつながってんだーってびっくりした。
albumはなんていうかラグジュアリーな感じが最高に気持ち良い。誰か全曲翻訳頼みます。dj shoe曰く、次はVICASSOがクルらしい。

* Issugi×Dj shoe “Both Banks”
 82s屈指のhardest mcとgroove mixing masterのalbum。
近くにこういう音楽があるってことは幸せなことだ。これからも曲を作って遊んで行きたい。

2022年はまずbeat tapeを。そして、自分のepを仕込んでます。dirtrainとしてはbomb walker,mac ass tigerの作品とrandy young savageというコンピalbumを出します。あと、松本に店開きます。

・今里 ( STRUGGLE FOR PRIDE / 不死身亭一門 / LPS )

敷居を高くしていないとご飯が食べられない人達のお茶碗を、夜な夜な割っていく作業に従事しています。

1. NAKATANI “HUNGRY&ANGRY ”
どのような状況下でも、人は学べるという事を教わった。

2. LRF “THE ANTI-VAX PUNK SONGS E.P “
LRFは常に、「説得力」という言葉の意味と強さを体現してくれている。

3. “IT LOOKS TO A LIFE FORWRD 12/4 “
修正ペン界の巨匠による名言と、悪意に満ちたセレクトの出演者の紹介写真を用いたフライヤーで知られる、毎年末に行われる好企画。a.k.a. 大阪大忘年会。
みんなが口を揃えて「RIGIDが素晴らしかった」と言っていた。定期的に開催されている “ JUICYちゃん “ と併せて、機会があったら是非、足を運んでみるべきだと思う。

 2021年が始まって間も無く、金山さんに呼んで頂いてSOCORE FACTORY でレコードをかけた。たくさんの英雄達にお会いして、多くの逸話とずっと知りたかった問い(大洞さんWORKSについてや、当時どうやってSTA-PRESTを入試していたのかetc. ) の答えを手に入れて、様々な最高級の音楽を耳にして完璧な時間を過ごした。だから2021はとても良い年。昨年お世話になった皆様、本当にどうもありがとうございました。2022も毎日レゲイの話しようぜ!!

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