「Nothing」と一致するもの

Seefeel - ele-king

 またその話かよ! ってなるかもしれないんだが……シーフィールのセカンド・アルバムにして〈WARP〉からの最初のアルバムとなった『Succour』(1995年)に関しては、当時の同レーベルの日本での発売権を持っていたソニーがその年出したリリースでもっとも売り上げが低かった1枚だったらしいよとele-king編集長の野田努に言われたことが、当時本作のライナーノーツを担当した僕にとっては未だにトラウマとなっていることはまあ僕以外には関係のない話かもしれない。が、当時のテクノ・シーンに興味を持っていたリスナーなら、このアルバムは話題になる! と確信を持って長文のライナーノーツをしたためた僕の気持ちをわかってくれるじゃないだろうか。そう、ステレオラブやPJハーヴェイを産んだUKインディ・レーベル、〈Too Pure〉から1993年にデビューしたシーフィールは、未だアルバムをリリースしていない時点ですでにかのエイフェックス・ツインとの交流を持っていたのだから。
 「リミックスを頼まれる曲の大半はクソみたいなもの」などと発言して、ほとんど原曲を使わず、まんま自作になってるんじゃないかと思わせるようなリミックスすら堂々と発表したりしていたエイフェックス・ツインがシーフィールとのダブルネームで1993年7月に〈Too Pure〉からリリースしたシングル「Time to Find Me」——原曲はシーフィールのデビュー・シングル「More Like Space EP」(1993年3月)に収録——では、曲の良さを損ねることなくAFX Fast MixとAFX Slow Mixというふたつのリミックス(ちなみにこれはこのシングルより数ヶ月先に発表されたニュー・オーダーのシングル「Regret」の、Sabres of Paradiseによるふたつの——Sabres Fast 'N' ThrobとSabres Slow 'N' Lo——リミックスと呼応しているようにも感じる)を披瀝していたことがおおいに注目を集めたのを今でもよく覚えている。じっさいこのコラボレーションはその後、エイフェックス・ツインからのラヴコールによって彼が共同運営するレーベルRephlexからのリリースとなったシーフィールのサード・アルバム『(Ch-Vox) 』に結実する。
 この「Time to Find Me」のリミックス盤、そして「Plainsong EP」の2枚の12インチと、それを1枚にしたCD「Pure, Impure」が同時に発売され(1993年7月)、これを受けて同年10月に満を持して発売されたのがファースト・アルバム『Quique』である。
 アルバムにはデビュー・シングルの曲はひとつも収録されず、続く2枚のシングルからも「Plainsong」のみが選ばれ、リミックスされた「Time to Find Me」も含まれなかったこのファースト・アルバムはしかしむしろ好意的に受け入れられ、同時にライヴ・アクトとしても人気を集めた彼らはわかりやすい例えで言えば「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとエイフェックス・ツインを繋ぐ」ものとしてその存在感を強めたし、アルバム発売後のツアーの一環としておこなわれたコクトー・ツインズとのヨーロッパ・ツアーは、シーフィールの名をいっそう高みへと押し上げるのに十分な役割を果たしたのだった。
 こうして舞台が完全に整ったと言える時期に、彼らは電子音楽の牙城とも言えるシェフィールドの名門レーベル、〈WARP〉への移籍を発表。WARPには盟友、エイフェックス・ツインも、のちにシーフィールのリミックスを手がけることになるオウテカもいた。〈WARP〉初のギタリストを擁するロックバンド!と喧伝されたシーフィールは1994年4月にWARPからの初プロダクトとしてシングル「Starethrough EP」を発表。ここに収録された「Spangle」は、その翌月に発売されたWARPのリスニング・テクノ・コンピレーション『Artificial Intelligence 2』に、オウテカやエイフェックス・ツイン(Polygon Window名義)とともに収録され、彼らの代表曲のひとつとなった。9月には続くシングル「Fracture / Tied」をリリースし、そして翌1995年3月にはセカンド・アルバム『Succour』が日の目を見る。

 シーフィールはデビュー当時からことほどさようにいつもなにかしら話題があり、注目されていたのである。なのに、日本では売れなかった。壊滅的に、と言ってもいいほどに。
 だが、今になって振り返れば……たとえばエイフェックス・ツイン。テクノ好きを中心としたファンベースは確かにあった。けれど、今では名作として語られる『Selected Ambient Works Vol. II』(1994年3月)ですら、リアルタイムで国内盤は発売されていない。エイフェックス・ツインのアルバムが本国と同時に発売されたのは「Girl / Boy Song」で注目された『Richard D. James Album』(1996年)からなのだ。『Vol. II』は、初出から5年を経てようやく1999年に国内盤化された。オウテカだって似たようなものだし、初期のシーフィールをエンジニア的側面から支えてきた盟友マーク・ヴァン・ホーエン(Locust名義も)に至ってはもっと未知の存在にすぎなかっただろう。だから、彼らの名前でこのシーフィールというバンドを知る人はかなりいるはず……というのはかなり甘い期待だったと認めざるを得ない。まあ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインだってあの時代はまだそれほど人口に膾炙する存在とは言えなかった。
 加えて『Succour』期の彼らが、加工されているとはいえまだギターやヴォーカルの肌理が温かみを保っていた〈Too Pure〉時代よりもよりアブストラクトで鉱物的な音響工作を推し進めていたことも要因としてある。〈WARP〉が契約した初のギター・バンドってどんなの? と思って聴いてみた人にしてみたら、これってどこがロック? ギターはどこ? となるのはある意味当然かもしれない。入口としてはちょっと敷居が高かったのだろうか。
 だから、そういう人が先に『Quique』期の彼らを耳にしていたら、もしかしたらこの『Succour』の日本での受容はもう少し変わっていたのかもしれないと、今にして思うのである。

 この『Quique』のRedux(戻ってきた、よみがえったの意)版は、オリジナル『Quique』の拡大版としてシングル曲や未発表曲が加えられて〈Too Pure〉から2007年にリリースされたものである。この拡大版を作るために集ったメンバーは、これを機に活動休止状態になっていたバンドを再始動する意思を固め、それは2011年の4作目となるセルフ・タイトルのアルバムへと結実する。しかしそのいっぽうで彼らの生みの親とも言えるレーベル、〈Too Pure〉はこの拡大版をリリースした翌年に事実上消滅した(それゆえ、今回取り上げた本作は現在の原盤権を持つBeggars Arkiveからのリイシュー盤である。内容は2007年版と変わらないが、あらたにリマスターが施されている)。そういう意味ではこのアルバムは、〈Too Pure〉の「白鳥の歌」でもある。『Quique』は、この2時間におよぶ拡大版でいっそう際立って甘美な音楽を披瀝する。この甘美さは、WARP期以降の彼らからはいくぶん失われた。もちろんそのかわりに彼らが獲得した精緻な彫刻めいたアーキテクチャもまた魅力的であることは間違いないし、2024年にリリースされた最新の2部作も素晴らしい作品であったから、この先の彼らのあらたな展開はやはり楽しみではあるのだが、しかしときにはこの白昼夢のような世界にどっぷりと浸かりたくなることもあるのだ。

Jane Remover - ele-king

 「過剰」「極度」といったニュアンスで捉えればよいのだろうか、ともかくパンデミック前夜に幕を開けた、いわゆる「ハイパーポップ」とされる新たなムーヴメントは、隔離の時代を終えたいまもたしかな存在感を発揮しつづけている。

 その一端を担う2003年生まれのアメリカ人アーティスト、ジェーン・リムーヴァーが最新作『Revengeseekerz』を4月4日に(ポスト・ハイパー的ムーヴメントの一端を担うレーベル)〈deadAir〉よりリリース。

 パンデミック期には「leroy」名義で過剰にマキシマイズされ、多量のサンプル・ソースで構成されたサウンドデザインを特徴とするマイクロジャンル「ダリアコア」(ハイパーフリップとも)の提唱者として世界中のキッズを熱狂させつつ、本名義ではインディ・ロックやエモとEDM、デジコア──ハイパーポップのなかでもよりヒップホップに近接したサブジャンル──をミキサーにかけたような作品を次々と披露するなど、ハイパー以降のシーンにおいて特異な才能を発揮しつづけている。

 そんな彼女(*ジェーンはトランス女性であることをカミングアウトしている)の新作には、デトロイトのラッパー・ダニー・ブラウンが参加するなどのサプライズも。実験的でマキシマイズされた作風はそのままに、ラップでもポップでもない未知の地平に向けて日々邁進しつづけているようだ。

 ともかく、2020年代以降に水面下で起きている新しい動向についての興味の有無は別として、まずはぜひ一聴を。耳馴染みがなくとも、案外好みに合うかもしれません。

Artist: Jane Remover
Title: Revengeseekerz
Label: deadAir
Format: Digital
Release Date: 2025.04.04

Tracklist:
1. TWICE REMOVED
2. Psychoboost ft danny brown
3. Star people
4. Experimental Skin
5. angels in camo
6. Dreamflasher
7. TURN UP OR DIE
8. Dancing with your eyes closed
9. Fadeoutz
10. Professional Vengeance
11. Dark night castle
12. JRJRJR

https://janeremover.bandcamp.com/album/revengeseekerz
https://stem.ffm.to/revengeseekerz

Shintaro Sakamoto - ele-king

 もうご存じのことと思われますが、LIVEフィルム作品「坂本慎太郎LIVE2022@キャバレー·ニュー白馬」、Netflixにて5月1日より配信されことが決定した。監督は、ピエール瀧をフィーチャーした大ヒット作「地面師たち」を手がけた大根仁。16mmを使っての気合いの撮影だったようです。期間限定なので見逃さないようにね。

 2022年、坂本慎太郎は4thアルバム「物語のように」を発表し、全国リリースツアー「LIVE2022 LIKE A FABLE TOUR」を行いました。ツアー全日程発表後、特にSNS等で話題になっていたのが、12月5日(月)熊本県八代市キャバレー・ニュー白馬での公演でした。日本に現存する希少なキャバレーであり、地元出身の八代亜紀を生んだ場所としても知られるキャバレー・ニュー白馬。
 この特別な夜を記録するために映像ディレクター・大根仁が、スタッフ総勢30名を引き連れ、16mmフィルムカメラ6台での撮影を決行。結果まるでタイムスリップしたかのような現役キャバレー会場の雰囲気と観客、演奏をフィルムの質感で見事に記録した貴重なライブ映像が完成しました。国外でも評価の高い坂本慎太郎の初LIVE映像作品になります。 


坂本慎太郎LIVE2022@キャバレー·ニュー白馬
(英題: Shintaro Sakamoto LIVE2022@CABARET NEW HAKUBA )

出演: 坂本慎太郎、AYA、菅沼雄太、西内徹 
監督: 大根仁 
2025年5月1日(木)Netflixにて配信開始。 
*期間限定での配信になります。 


坂本慎太郎
1989年、ロックバンド、ゆらゆら帝国のボーカル&ギターとして活動を始める。
2010年バンド解散後、2011年に自身のレーベル“zelone records”にてソロ活動をスタート。
2017年、ドイツのケルンでライブ活動を再開。2022年、4thソロアルバム「物語のように (Like A Fable)」を発表。
2024年、2度目のUSツアー、インドネシア、タイ、韓国、台湾など、国内外でLIVE公演を展開している。
2025年、7月に行われるFRF’25に出演。
また、様々なアーティストへの楽曲提供、アートワーク提供他、活動は多岐に渡る。 
HP: https://linktr.ee/shintarosakamoto_official

大根仁
テレビドラマ「モテキ」「まほろ駅前番外地」「エルピス–希望、あるいは災い–」や、映画・MV・CMを手掛ける映像ディレクター。
2010年、ゆらゆら帝国ライブDVD「YURAYURATEIKOKU2009.04.26LIVE@日比谷野外大音楽堂」をディレクション。
2011年、劇場版『モテキ』で映画監督デビュー。その他の映画作品に『バクマン。』『SCOOP!』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』など。
2012年、『モテキ』で第35回日本アカデミー賞話題賞 作品部門
2016年、『バクマン。』で第39回日本アカデミー賞優秀監督賞
2022年、「エルピス–希望、あるいは災い–」で第60回ギャラクシー賞テレビ部門 大賞を受賞。
監督・脚本を手がけたNetflixシリーズ「地面師たち」が世界独占配信中。

HP: http://www.crescendo.co.jp/creators/one.html

Cosey Fanni Tutti - ele-king

 コージー・ファニ・トッティの小女時代からTG結成にいたるまでの人生が映画化されるというニュースが話題になったのは、彼女の自伝『アート セックス ミュージック』(2017)が出版され、それが大いに話題になってから数年後のことだった。それは、暗闇のなかでラジオに耳を澄ませながら空想の友だちを作っていた少女の話であり、大学を中退し、ポルノ産業で働きながら芸術集団COUM Transmissionsのメンバーとして活動、やがてThrobbing Gristleでベースを弾くにことになる女性の物語になるらしい。
 また、コージー・ファニ・トッティはあれからソロ・アルバム『Tutti』(2019)、『Re Sisters』(2022)という本を出版した。それは三人の女性——彼女自身、電子音楽家のデリア・ダービシャー、そして15世紀の神秘家で作家のマーガリー・ケンプ——の「記録」を通してその人生を探るものだった。
 そして来たるべく6月、コージー・ファニ・トッティは9曲入りの新作『2t2』をリリースする。
彼女はいう。「“Stound”というトラックでの私の倍音唱法は、内なる自己に触れるもので、感情的にも身体的にも、存在の核にまで入り込み、音が浸透して癒やしをもたらすとともに、私たちが直面するものに対する力強さ、抵抗、回復力を生み出すもの」 。よりメランコリックな瞬間でも、彼女は「悲しむことは大丈夫、それは人生の一部だ」と説明する。「人生の一部であるが、失った人びととの思い出や互いに共有する瞬間には喜びもたくさんある。喜びは私たちの抵抗だ」
 現在は、そのポジティヴなヴァイブが詰まった曲“Stound”が公開中。
 https://thequietus.com/news/cosey-fanni-tutti-details-new-album-2t2/

 コージー・ファニ・トッティの新作『2t2』は〈Conspiracy International〉より2025年6月13日にリリースされる。

Colloboh - ele-king

 2作のEPをリリースしたのみながら、Beach Houseのサポート・アクトやSuzanne Cianiとの共演ライヴを果たすなど注目を集める逸材Colloboh。Leaving Records所属の彼の初の日本ツアーがこのGWにはじまる。
 CIRCUS Tokyo公演ではハイ・エナジーなアップビート・セットでDaisuke Tanabe、Sakura Tsurutaと共演、落合のSoup公演ではアンビエント寄りのセットでYosi Horikawa、Albino Soundと共演する。
 また、新宿のWPÜ SHINJUKUと京都のAce Hotel内のPIOPIKOでDJセットも披露。こうご期待。

COLLOBOH JAPAN TOUR 2025

5/2 (Fri) @CIRCUS TOKYO (LIVE: UPBEAT SET)
w/ Daisuke Tanabe, Sakura Tsuruta
5/3 (Sat) @WPÜ SHINJUKU (DJ SET)
5/4 (Sun) @OCHIAI SOUP (LIVE: AMBIENT SET)
w/ Yosi Horikawa, Albino Sound
5/5 (Mon) @KYOTO PIOPIKO (DJ SET)


Colloboh

 ナイジェリアで生まれ、メリーランド州ボルチモアを経て現在はLAを拠点に活動するエクスペリメンタル・プロデューサー/コンポーザーで、過去数年間、ジャンルを超えたモジュラー・シンセの妙技を培ってきた。独学でシンセシスを学んだCollobohのDIYレコーディング日記(Instagramにアーカイブされている)は、すぐに熱心なオンライン・フォロワーを集め、最終的にLeaving Recordsの創設者Matthewdavidの目に留まった。彼はすぐに当時26歳だったCollobohを、Leavingの月例ショーケース「Listen to Music Outside In The Daylight Under a Tree」でのパフォーマンスに起用。そして2021年、Collobohはボルチモアからロサンゼルスに移住し、フルタイムで音楽に専念し、すぐにこの街の活気あるエクスペリメンタル・シーンに定着した。同年リリースしたデビューEP『Entity Relation』がIDM〜エレクトロニカ的な要素も垣間見せるクラブ・ビートに真っ向から取り組んだのに対し、2023年のセカンドEP『Saana Sahel』では、新進気鋭の作曲家の野望の広さを示す作品となった。EPのタイトル「Saana Sahel」は、Collobohの純粋な想像力の地、つまり緑豊かな海岸線と広大な砂漠に広がる手つかずのユートピアを指している。荘厳な「Acid Sunrise」(フィリップ・グラスを想起させる)で始まるこのEPは、この地域の多様な環境とムードをマッピングする一種の地図帳のような役割を果たしている。そして実に多彩で、この6曲には、恍惚としたジャズのフリークアウト、サンバのシャッフル、神秘的なゲスト・オーカル、そしてドビュッシーやガブリエル・フォーレの挿入が散りばめられた実に幅広いサウンドをみせている。
 EPを2作リリースしたのみながら、Beach Houseのサポート・アクトやSuzanne Cianiとの共演ライヴを果たすなど、注目の逸材。
https://www.instagram.com/colloboh/

Black Country, New Road - ele-king

 ぼくはこの音楽を昔聴いたような気がする。もちろん気のせいだ。いや、たしかに聴いた。
 あれは、そう、1998年の秋のことだった。イングランド中部の農園地帯。日本人にしてみたらいかにも英国的な、つまり、山のない、どんよりした空の下、ひたすら平地が続くあの英国的な風景だ。午前7時かそのくらいだったと思う、薄明かりのなか、ぼくたちはレイヴ会場(売店などない、完璧なレイヴ)を後に車に乗って帰ろうとした……そのとき、おお、なんてことか、目の前の道路が10人以上の警察に封鎖されている。ビビってしまうには、車中はすでにへとへとだった。ええい、かまうものか、いってしまえ……。
 そうしたら何故かしらないが、警察の壁は道を空けてくれたのである。ひゅ〜。しばらくして、一緒に乗っていたハウスDJが叫んだ。「ロックンロール!」
 なるほど、こういう絶体絶命のピンチを乗り越えたときのことを英語では「ロックンロール!」と言うのかなどと感心し納得した、ふとそのときである。曇り空の下、道路の両脇に広がる霧のかかった農園地帯からぼくは聴いた。優しい天使のような音楽だった。
 みなさんよくご存じのように、レイヴ帰りの人間の言うことなどもっとも信用ならない。頭がいかれていたのだ。

 70年代初頭のジェネシスとヴァン・ダー・グラフ・ジェネレーター、あるいはカンタベリー系……ポスト・サイケデリック期におけるクラシック(もしくはジャズ)の素養を持った連中の音楽から漂う英国的な風味。『Forever Howlong』にもそれを感じる、それもかなり強烈に。本人たちが意識してなかろうが、匂うぞ、匂う。ジョアンナ・ニューサムより、そっちのほうが。しかしそれは、BC, NRが以前とは別物のバンドとして完璧に再生したということだ。

 考えてもみてほしい。この牧歌的な響き。アイザック・ウッド時代のBC, NRが、ポスト・パンクなどとタグ付けされていたことが冗談のようじゃないか。
 訳詞は読んでいない。以下、サウンドのみを楽しみつつ、書いてみる。

 さて、ぼくたちはすでに新生BC, NRのライヴを観ている。このバンドには物語がある。評価の高かった、あのエキセントリックなフロントマンを失ったバンドは、集まったファンの誰もが期待したウッド時代の曲をいっさい演奏しなかった。すべてを残ったメンバーによる新曲でやり通したのだ(フィッシュマンズは見習うべきだろう)。
 スター不在のBC, NRは、清々しさをもって生まれ変わった。中心を欠いても、バンドに残った3人の女性陣がかわりばんこに歌を歌えばいいという発想は、売れることに頓着した商業音楽からしたらプロ意識を欠いた態度に見えたかもしれない。新作にもポップソングは、ない。複雑さを感じさせない軽やかな躍動感がある。繊細で美しい響きがあり、心地よいそよ風がある。“Socks”(タイラー・ハイドが歌)などで聴けるケイト・ブッシュを彷彿させる創造力もある。20年後にはさらに評価を高めている可能性も大いにある。スリーフォード・モッズ的な英国が好きなぼくには上品すぎるけどね。

 リコーダー、ピアノ、フィドル、アコースティック・ギターによるフォーキーなアルペジオに変拍子、そして転調……“Salem Sisters”(タイラー・ハイド)やクローザーの“Goodbye”(ジョックストラップのジョージアが歌)には、このバンドのポップな展開の兆しが見えるものの、全体的に言えばクラシカルな変拍子と転調を特徴とするがゆえに1970年代の日本のレコード店ではほぼ間違いなくプログレ・コーナーに分類されたことだろう。
 だが、信じがたいほどに毒を欠いたその最新型は、潔癖さゆえかほのぼのとした佇まいゆえか、本質的に過去のプログレと異なっている。信じがたいほどに毒を吐いているのがアメリカの大統領だったりするこの時代において、これが力強い声明ではないとどうして言えようか。たとえまだ実験段階だとしても、みんなで助け合っていまを乗り切っているこのバンドを貶める理由などないのだ。

 それで、そう、ぼくが1998年に聴いたのは、“For The Cold Country”(メイ・カーショウが歌)という曲だったと思う。もちろん、そんなわけはないよ。 “Nancy Tries To Take The Night”(タイラー・ハイド)だったかもしれないな。いい曲だ。素晴らしい、27年後のいま聴いても素晴らしい曲だよ。ありがとう、あのときぼくたちを見守ってくれて。でなければ、明日はなかったのだから。

GEZAN - ele-king

 GEZANがまたしても新たな挑戦をおこなうようだ。かれらのホームである大阪・難波ベアーズにはじまり、日本武道館での単独公演に終わるという全50公演のツアーを本日4月11日よりスタート。全国47都道府県すべてを周るばかりか、中国・上海での海外公演も控えているとのこと。

 また、発表に際して、日比谷野外大音楽堂にて先日開催された踊ってばかりの国とのツーマンライヴ〈of Emerald〉でのマヒトゥ・ザ・ピーポーのMCをノーカットで収めた映像も公開。かれらの並々ならぬ思いが、生々しさとともに伝わる内容だ。

 なお、ツアーのDAY3 : 千葉LOOKとDAY4 : 栃木HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2には「SUPERNICEBOYS」を標榜する日本のオルタナティヴ・ロックバンドANORAK!とジャパニーズ・サイケデリック・ロック・バンドTō Yōもゲスト出演。ハードコアに、ダビーに、エモーショナルに、と姿を日々変容させつづける、無二のバンドの来し方行く末を見届けよう。

▽47+TOUR『集炎』日程

4月11日(金) 大阪・難波BEARS
5月5日(月)  中国・上海 MAO Livehouse
5月30日(金) 千葉・LOOK
5月31日(土) 栃木・HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
6月7日(土)  北海道・札幌PENNY LANE24
6月12日(木) 広島・4.14
6月14日(土) 山口・BAR印度洋
6月15日(日) 香川・TOONICE
7月12日(土) 東京・Spotify O-EAST
7月15日(火) 埼玉・HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
7月17日(木) 群馬・前橋DYVER
7月19日(土) 愛知・名古屋CLUB QUATTRO
7月20日(日) 山梨・甲府KAZOO HALL
7月23日(水) 長野・松本ALECX
7月29日(火) 茨城・club SONIC mito
7月31日(木) 神奈川・F.A.D YOKOHAMA
8月2日(土)  島根・出雲APOLLO
8月3日(日) 鳥取・米子AZTiC laughs
8月9日(土)  福島・club SONIC iwaki
8月10日(日) 山形・酒田市 港座大劇場
8月11日(月祝) 宮城・仙台MACANA
8月19日(火)  宮崎・LAZARUS
8月20日(水) 鹿児島・SR HALL
8月21日(木)  熊本・NAVARO
8月23日(土) 福岡・BEAT STATION
8月24日(日) 長崎・STUDIO DO!
8月26日(火) 佐賀・RAG.G
8月27日(水)  大分・club SPOT
8月30日(土)  静岡・磐田 FMSTAGE
8月31日(日)  愛知・CLUB UPSET
9月14日(日) 沖縄・Output
9月18日(木)  福井・CHOP
9月20日(土)  富山・Soul Power
9月21日(日)  石川・金沢vanvanv4
9月23日(火祝) 新潟・GOLDEN PIGS RED STAGE
9月25日(木)  岩手・the five morioka
9月27日(土) 青森・ 八戸 6かく珈琲
9月28日(日) 秋田・Club SWINDLE
10月3日(金)  兵庫・太陽と虎
10月5日(日)  大阪・GORILLA HALL OSAKA
10月7日(火)  滋賀・B-FLAT
10月9日(木) 京都・磔磔
10月11日(土) 和歌山・CLUB GATE
10月12日(日) 奈良・NEVER LAND
10月13日(月祝)三重・LIVE SPACE BARRET
10月15日(水) 岐阜・柳ヶ瀬ANTS
10月21日(火) 高知・X-pt.
10月23日(木) 徳島・CROWBAR
10月25日(土) 愛媛・W studio RED
10月26日(日) 岡山・YEBISU YA PRO

47+TOUR FINAL
2026年3月14日(土)日本武道館 単独公演 『独炎』


▽47+TOUR『集炎』千葉LOOK公演詳細

公演タイトル:GEZAN 47+ TOUR『集炎』DAY3
出演:GEZAN/ANORAK!
日時:2025年5月30日(金曜日)開場/開演 18:30/19:00
会場:千葉LOOK
前売券(2025年4月23日(水曜日)21:00発売):4,000円(税込)
前売券取扱箇所:イープラス< https://eplus.jp/gezan/
===
※チケット先行(抽選)
受付URL : https://eplus.jp/gezan/
受付期間:2025年4月5日(土曜日)19:00 ~ 4月13日(日曜日)23:59
===
問い合わせ先:シブヤテレビジョン : 03-6300-5238 〈平日12:00~18:00〉


▽47+TOUR『集炎』栃木HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2公演詳細

公演タイトル:GEZAN 47+ TOUR『集炎』DAY4
出演:GEZAN/Tō Yō
日時:2025年5月31日(土曜日)開場/開演 17:15/18:00
会場:HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
前売券(2025年4月23日(水曜日)21:00発売):4,000円(税込)
前売券取扱箇所:イープラス<https://eplus.jp/gezan/
===
※チケット先行(抽選)
受付URL : https://eplus.jp/gezan/
受付期間:2025年4月5日(土曜日)19:00 ~ 4月13日(日曜日)23:59
===
問い合わせ先:シブヤテレビジョン : 03-6300-5238 〈平日12:00~18:00〉

Conrad Pack - ele-king

 ここ1~2年ほどで、大阪のnaminohana recordsの品揃えや『DUB入門』掲載の、鼎談時のelement(Riddim Chango)の話などなど、勝手に信頼のおける情報筋だと思っているところから、どうやらUKのアンダーグラウンドにてジャー・シャカ由来のデジタル・ニュー・ルーツ・ダブのステッパーと、ハード・ミニマル・テクノが交わり新たなダブ・テクノの領域を作り出しているという話がちらほらと。しかもジョン・T・ガスト(先日の来日ライヴがすばらしかった)やロード・タスク(ベイビーファーダーズのポエット、ジェームス・マッシアとのシングルも良かった)周辺の動きも影響を与えていて、という。カルトなニュー・ルーツ・ダブのプロデューサーだったTNTルーツの、ジョン・T・ガストのレーベル〈5ゲート・テンプル〉やレフトフィールド・ダブの牙城〈ボッケ・ヴァージョン〉からのリイシューがあったのもこうした動きの周辺事情だという話で……(詳しくは上記『DUB入門』の鼎談を参照のこと)。これはつまり、2010年代のダブステップ/ベース・ミュージック勃興のUKニュー・ルーツ・レゲエの再評価とはまた違った流れにて起きている(もちろんその影響は少なからずあるものの)、ジャー・シャカらのサウンドシステム由来のニュー・ルーツ・ダブのUKステッパーの再評価とUKアンダーグラウンドなテクノの交点から発する新たな高速ダブ・テクノが勃興しつつあるということなのだろう(いやむしろもはや、そこにある)。

 こうした流れの代表的なアーティストとも言えそうなのがコンラッド・パックで、そのファースト・アルバム『Commandments』がこの春リリースされた。たしかに往年の〈ダウンワーズ〉あたりのサウンド(実際に彼は過去にリージスにリミックスを依頼している)を彷彿とさせるBPM140台後半のダークかつインダストリアルなハード・ミニマル・テクノと、よりミニマルにそぎ落とされたUKのデジタル・ステッパーの意匠──ダブ処理や不穏なシンセ・リフ、跳ねたステッパー・リズムの高速イーヴン・キック、そこに絡むワンドロップのアクセント、そしてなによりもサウンドシステムで鍛えられた轟音のサブ・ベース──を持ち合わせている。リリースは〈Blackest Ever Black〉を主宰していたキラン・サンデのレーベル〈lost domain〉からのリリース。それこそ、このレーベルからのリリースであること自体が、なにかが起こりつつあることの証左ではなかろうか。本レーベルはコンラッド・パック周辺のアーティストなどを集めたVA『Dear Ghod』など、ほぼこの周辺だけをリリースするレーベルになっている。以前の〈Blackest Ever Black〉の、そのレーベルとしての存在感を考えれば、見方を変えて、モダン・エレクトロニック・ミュージックのインダストリアル・サイドの刺激的な新たな一手が生まれつつあるとも言えるのかもしれない。

 コンラッド・パックは、本作に名前を連ねるDJゴンズ(ゴンサロ・ネト)とともにレーベル〈SELN Recordings〉(もともとサウス・ロンドンの廃棄物焼却発電施設を示す〈SELCHP〉を屋号としていたが施設からクレームで改名)を共同主宰している。昨年、ゴンズも待望のアルバム『Messenger』をリリースしている(ゴンズの方がよりニュールーツ色が強いと言えるかもしれない)。また〈SELN Recordings〉からは、コンラッドとLEAFなるユニットでも活動するイヴァン・ロビローザや上記の〈lost domain〉でもリリース、レーベル〈Jolly Discs〉も運営するリーウェイ(ガイ・ゴームリー)(トーマス・ブッシュなるアーティストとのRAPもやはりこの筋の高速ダブ・テクノ)なども、その作品に名を連ね、このステッパーな高速テクノの一派のコレクティヴを形成している模様だ。

 タイトルの『Commandments』とは「戒律」、「Ten Commandments」でいわゆる聖書に出てくる「モーゼの十戒」を意味する。おそらくUKニュー・ルーツ・ダブに親しんだ者ならこのタイトルを見てジャー・シャカの存在を思い出すはずだ。ブラック・ナショナリズム的な聖書の解釈という側面を持つラスタファリアニズムに即したルーツ・レゲエのモチーフにおいては比較的よく出てくる言葉であり、ルーツ・リヴァイヴァルを象徴する1982年にはじまるシャカのダブ・アルバム・シリーズは『Commandments Of Dub』と名付けられていた。1991年まで同シリーズで10作品がリリースされ、シングルを除けば彼の代表的な作品群でもあり、ある意味でUKニュー・ルーツ・ダブの正典とも言える。本作もこの音楽性で、この名前ということを考えれば、ジャー・シャカへのなんからの憧憬を感ぜずにはいられない。

 トライバルなパーカッションによるイントロ“Exile”にはじまり、タイトル・トラックの2曲目から一気に加速、トップ・スピードに乗っていく。ニュー・ルーツ・ステッパーの跳ねたグルーヴをループさせ、ダークで退廃的なフィーリングでテクノとダブのミニマリズムの迷宮へ高速で引きずり込む“Commandments”にはじまる。ミリタントなスネアと“ハメ”のリフが不穏なヘヴィー・サブ・ベースの上で前後不覚になる朋友ゴンズとの“Riget”、ダブ・ミックスで拡張していく空間がトランシーなサイケデリック・モードを呼び込む“Deep Distrust (Emotive Mix)”や“Mixer Test 9 v6”といった中盤を経て、グライム的なリフがキラーな“Downward”、そしてアルバムのなかでは一番正調な轟音デジタル・ステッパー的とも言える“Prophecy”、そしてリージス~サージョン・ラインなダビーなインダストリアル・ハード・ミニマル・テクノ“Passage”までアルバムは150前後のBPMで一気に走り抜けていく。アルバムのラスト・トラックは、ジョン・T・ガストの影響も感じさせるダークかつフリーク・アウトしたアブストラクトなダブ・トラックを、前述のリーウェイとともに奏でてアルバムは終わりを迎える。

 ダブ・テクノと言えば、ベーシック・チャンネル~リズム&サウンドをリモデルしたような作品が主流だったのが、コンラッド・パックらのサウンドは、あったとしてもべーチャン最初期のハード・ミニマルで、いやむしろそれよりも1990年代中ごろのUKハード・テクノのバンドゥルが、ステッパーをサンプリングしていたダビーなトラック群をちょっと思い出す(アルバムで言うと1994年『Antimatters』~1996年『Cornerstone』、そういえば最近復活してた)。が、やはり圧倒的な違いは、あの轟音のサウンドシステムで体験する、むき出しになったステッパー・トラックの高速に駆け抜けるグルーヴと地鳴りのような低音の霊感をそのサウンドに宿していることだろう。ある種の現地でのサウンドシステム体験と空気感、そのものをサンプリングし、ニュールーツのシンフォニックな意匠をそぎ落とし、高速テクノのミニマリズムがもたらす高揚感へと接続している。そんな音響感覚が全体を貫いている。

Eyed Jay - ele-king

 3年前、ニュージーランドでロックダウンが長引いていた頃、反ワクを中心とした市民たちがたまりかねて国会議事堂に押し寄せ、騒ぎを鎮めようと政府は議会のスピーカーからバリー・マニロウや『アナと雪の女王』の主題歌などを流し始めた。デモ隊も最初はツイステッド・シスターの “We Are Not Gonna Take It(受け入れない!)” などをかけて対抗していたものの、あまりに何度も流されるので日が暮れる頃にはデモ隊もジェームス・ブラントの “Your Beautiful” を合唱し始めたという。

 6日前、セルビアで先月起きた10万人規模の反政府デモで群衆を鎮圧するために音響兵器が使われたのではないかという報道があり、ブチッチ大統領はこれを強く否定した。日本では合法とされている音響兵器はセルビアでは違法で、しかし、映像で確認すると不気味な大音響に襲われたデモ隊がパニックを起こし、大通りから逃げ出していく様子が確認できる(Serbia Used A Sonic Weapon On A Crowd of Protesters)。

 9時間前、アイド・ジェイことイアン・ジックリングの『Strangeland』を聴き始めると、最初はコーネリアスみたいだなとのんびりかまえていたら、少しずつ背後の音が不穏な空気に包まれ、歌と演奏は変わらないのに背景の音はどんどん凶暴になっていった。1曲目を聴き終わる頃には2種類の高揚感が入り混じり、自分が何を聴いていたのか完全に見失う始末。しばらくしてニュージーランドとセルビアのデモのことを思い出した。 “Your Beautiful” と音響兵器。この2つを同時に経験したらこんな曲が生まれたりするのかなと。それにしても曲の後半は『2001年宇宙の旅』もかくやと思うほど背景が高速でぶっ飛んでいく。

 イアン・ジックリングの父はフェア兄弟と共にハーフ・ジャパニーズというオルタナテォヴ・ロック・バンドを結成したオリジナル・メンバーのマーク・ジックリングで、イアン・ジックリングの兄もワシントンDCでパンク・バンドか何かをやっているらしい。イアン・ジックリングも若い頃には同じくDCパンクをやっていたものの、活動は長く続かず、その後はコロラドでギターの先生になり、15世紀のフランドル多声音楽(どんな音楽だ?)の研究に没頭していたという。これがコロナによって人生設計が狂い、精神的な危機を迎えたことで広く人に聞かれる音楽を目指そうと考え方が変わり、『Strangeland』の製作へとつながっていく。その結果が広く人に聞かれる音楽かどうかはともかくとして、ある種のフィールドにおいてはとんでもない傑作であることは確か。オープニングのタイトル曲でもある「Strangeland」はアメリカで98年に制作されたホラー映画及びそのゲームのことらしく、映画もゲームも未見なので、具体的にはわからないけれど、解説文を読むとサイコ・ホラーの作品だと書いてあり、曲の背後で様々な音響が渦巻いているのはひとつの曲を意識と無意識に分けて表現しているということに帰結したのかなとは思う。それこそスキゾフレニアックの極みが全9曲、コーネリアスのアンビエント展開を思わせる “Sunflower Eyes” やあまりに情報過多な “Summer” など様々なヴァージョンが展開されていく。それらを雑にまとめるとサイケデリック・フォークという言い方になるとプレス・キットには書いてある。まあ、確かにそれが一番わかりやすいセールス・トークかもしれない。アニマル・コレクティヴのパンク・ヴァージョンという表現も悪くない。

 曲の前面に出ている演奏と背後で渦巻いている音響は同じ素材からつくられているそうで、いわば、元の曲をアブストラクトに構築し直したリミックスと同時に重ねて聞かせているのである。まったく整合性がなく、あまりに雰囲気が違う演奏なのにどこか異次元でしっくりくるのはそのせいなのかもしれない。現在のアメリカ人にとって正気を保っている自分と無意識に危機感を感じ取っている自分を同時に表現した音楽だとこじつけることも可能かもしれない。プライドの回復と大恐慌の予感。音のレイヤーは感情のレイヤーであり、前半はどこか甘酸っぱい感じが突出し、ストレートに悲しみを伝える “Heartbeat” を経て、後半は曲全体の内省度が高まり出しす。とくに “Earthbound” 3部作では声を使ったコラージュが増え、おそらく15世紀のフランドル多声音楽の研究がここに生かされているのだろう。

 ちなみにアメリカの貧困問題は国内問題であり、90%の富を上位10%が独占している状態を変えずに維持するには「原因は外国にある」と国外問題にすり替えたのがトランプ関税なのだろう。これまでトランスジェンダーについて語ってきたケイトリン・ジェンナーや#MeTooについて強く訴えたマドンナが相次いで受賞してきたスピーチ・オブ・ジ・イヤーは今年、オカシオ・コルテスに贈られている。彼女は現在、バーニー・サンダーズと共に演説のツアーを続け、2人が掲げたテーマは「オリガルヒと戦え」。オリガルヒというのはプーチン政権を支えてきたロシアの富裕層のことだけれど、どうやらこの概念はロシアに限定せず、政治に影響力を持ち始めた富裕層全般を指す言葉に応用範囲が拡大し、2人の照準は明らかにイーロン・マスク。カザフスタン移民の子孫がオリガルヒに振り回されるという構図の『アノーラ』も徹底的にオリガルヒをバカにした内容で、これが今年のアカデミー賞作品賞というのも非常に図式的ながら納得がいく。アメリカが分断されているというなら分断されたアメリカを1曲に合わせてそのまま聴くというのが『Strangeland』なのかもしれない。

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka - ele-king

 アンビエント作家、畠山地平とジャズ・ドラマー、石若駿による共作『Magnificent Little Dudues』は昨年の注目すべきコラボレーションのひとつだった。「Vol.1」と「Vol.2」に分けられて発表されていた、その「Vol.2」のほうがついにフィジカル化される。CDは4月23日、LPは5月7日に発売。また、4月24日には新宿ピットインでリリース記念ライヴが開催、特別ゲストとして角銅真実も出演するという。これは駆けつけるしかない。

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka
Magnificent Little Dudues Vol.2

フィジカル・アルバム発売決定!

アンビエント/ドローン・ミュージシャンChihei Hatakeyama(畠山地平)とジャズ・ドラマーの石若駿とのコラボレーション・アルバムの第二弾『Magnificent Little Dudes Vol.2』のフィジカルCD/LPがついに発売される。リリース翌日となる4月24日(木)には新宿ピットインにて"リリース記念Live"の開催も決定した。

昨年10月にデジタルのみで先行リリースとなった『Magnificent Little Dudes Vol.2』。4月23日(水)にCDが、5月7日(水)にLPが、いずれもボーナス・コンテンツとして3曲のリミックスを追加収録してリリースされる。また、そのリミックス3曲を収録したデジタルEP『Magnificent Little Dudes (The Remixes)』も4月25日(金)に配信リリースとなる。

今回、リミックスを手がけたChihei Hatakeyamaから次のコメントが届いた。
「元々のミックスはレコーディング現場の雰囲気を強く再現したものだった。それはとても良かった。レコーディングから時間が経過すると、他の可能性に気付く時がある。今回もある日違うミックスを作ったら面白いんじゃないかと思った。以前はドローン・サウンドの海に沈んだドラムという感じだったが、今回はより空間を作り、音と音の間の空気感を大事にした」。

なお、4月24日(木)の新宿ピットイン公演会場では来場者限定に一足先に『Magnificent Little Dudes Vol.2』のLPを販売するので、ぜひお見逃しなく!

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka(畠山地平&石若駿)
Magnificent Little Dudes Vol.2(マグニィフィセント・リトル・デューズ・ヴォリューム 2)
発売日:CD:4/23(水) / LP:5/7(水)
レーベル:Gearbox Records
品番:CD: GB1595CD / 2LP (140g盤): GB1595
※日本特別仕様盤特典:日本先行発売、帯付き

<トラックリスト>
(CD)
1. M3 (feat. Cecilia Bignall)
2. M2
3. M5
4. M6
5. M1_Space Age Mix
6. M4 (feat. Hatis Noit)_Future Days Mix
7. M3 (feat. Cecilia Bignall)_Unreliable Angel Mix

(LP)
Side-A
1. M3 (feat. Cecilia Bignall)
2. M1_Space Age Mix

Side-B
2. M2
3. M4 (feat. Hatis Noit)_Future Days Mix

Side-C
1. M5

Side-D
1. M6
2. M3 (feat. Cecilia Bignall)_Unreliable Angel Mix

<クレジット>
Chihei Hatakeyama: electric guitar and sound effects
Shun Ishiwaka: drums and percussion, piano on ‘M6’
Cecilia Bignall: Cello on ‘M3’
Hatis Noit: voice on ‘M4_Future Days Mix’

Composed by Chihei Hatakeyama and Shun Ishiwaka
‘M3’ composed by Chihei Hatakeyama, Shun Ishiwaka and Cecilia Bignall
‘M4_Future Days Mix' Composed by Chihei Hatakeyama, Shun Ishiwaka and Hatis Noit

Produced by Darrel Sheinman

Recorded at Aobadai Studio
Engineered by Masato Hara

‘M3’, ‘M2’, ‘M5’ mixed by Caspar Sutton-Jones
‘M6’, ‘M1_Space Age Mix’, ‘M4_Future Days Mix’, ‘M3_Unreliable Angel Mix’ mixed by Chihei Hatakeyama
Mastered by Caspar Sutton-Jones

EP『Magnificent Little Dudes (The Remixes)』4/25(金)配信スタート!
<トラックリスト>
1. M1_Space Age Mix
2. M4 (feat. Hatis Noit)_Future Days Mix
3. M3 (feat. Cecilia Bignall)_Unreliable Angel Mix
https://bfan.link/magniificent-little-dudes

アルバム『Magnificent Little Dudes Vol.2』配信中!
https://bfan.link/magnificent-little-dudes-volume-02


●ライヴ情報

『Magnificent Little Dudes vol.2』 リリース記念Live
2025年4月24日(木)
Open19:00 / Start19:30
前売り:¥3,850税込 ¥3,500+税(1DRINK付)
当日:¥4,400税込 ¥4,000+税(1DRINK付)
出演:畠山地平(G)石若 駿(Ds)スペシャルゲスト:角銅真実
http://pit-inn.com/artist_live_info/250424hatake/

※『Magnificent Little Dudes Vol.2』のLPを会場にて先行販売予定!!
Magnificent Little Dudues Vol.1発売中!

<トラックリスト>
(CD)
1. M0
2. M1.1
3. M1.2
4. M4 (feat. Hatis Noit)
5. M7

(LP)
Side-A

1. M0

Side-B

1. M1.1

Side-C
1. M1.2

Side-D
1. M4 (feat. Hatis Noit)
2. M7

Chihei Hatakeyama & Shun Ishiwaka(畠山地平&石若駿)
Magnificent Little Dudes Vol.1(マグニィフィセント・リトル・デューズ・ヴォリューム 1)
発売日:発売中!
レーベル:Gearbox Records
品番:CD: GB1594CD / 2LP: GB1594

※日本特別仕様盤特典:日本先行発売、帯付き

『Magnificent Little Dudes Vol.1』配信中:
https://bfan.link/magnificent-little-dudes-volume-01


バイオグラフィー

<Chihei Hatakeyama / 畠山地平>

Photo Credit: Makoto Ebi

2006年に前衛音楽専門レーベルとして定評のあるアメリカのより、ファースト・アルバムをリリース。以後、オーストラリア、ルクセンブルク、イギリス、日本など、国内外のレーベルから現在にいたるまで多数の作品を発表している。デジタルとアナログの機材を駆使したサウンドが構築する、美しいアンビエント・ドローン作品を特徴としており、主に海外での人気が高く、Spotifyの2017年「海外で最も再生された国内アーティスト」ではトップ10にランクインした。2021年4月、イギリス

<Shun Ishiwaka / 石若駿>

Photo Credit: Makoto Ebi

1992年北海道生まれ。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校打楽器専攻を経て、同大学を卒業。卒業時にアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞。2006年、日野皓正special quintetのメンバーとして札幌にてライヴを行なう。2012年、アニメ『坂道のアポロン』 の川渕千太郎役ドラム演奏、モーションを担当。2015年には初のリーダー作となるアルバム「Cleanup」を発表した。また同世代の仲間である小西遼、小田朋美らとCRCK/LCKSも結成。さらに2016年からは「うた」をテーマにしたプロジェクト「Songbook」も始動させている。近年はゲスト・ミュージシャンとしても評価が高く、くるりやKID FRESINOなど幅広いジャンルの作品やライヴに参加している。2019年には新たなプロジェクトAnswer To Rememberをスタートさせた。2023年公開の劇場アニメ『BLUE GIANT』では、登場人物の玉田俊二が作中で担当するドラムパートの実演奏を手がけた。2024年5月、日本を代表するアンビエント/ドローン·ミュージシャン、畠山地平とのコラボレーション作品『Magnificent Little Dudes Vol.1』をリリース。その後同作のVol.2も発売した。

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