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Conrad Pack

New Wave of Dub Techno

Conrad Pack

Commandments

lost domain

Bandcamp

河村祐介 Apr 11,2025 UP

 ここ1~2年ほどで、大阪のnaminohana recordsの品揃えや『DUB入門』掲載の、鼎談時のelement(Riddim Chango)の話などなど、勝手に信頼のおける情報筋だと思っているところから、どうやらUKのアンダーグラウンドにてジャー・シャカ由来のデジタル・ニュー・ルーツ・ダブのステッパーと、ハード・ミニマル・テクノが交わり新たなダブ・テクノの領域を作り出しているという話がちらほらと。しかもジョン・T・ガスト(先日の来日ライヴがすばらしかった)やロード・タスク(ベイビーファーダーズのポエット、ジェームス・マッシアとのシングルも良かった)周辺の動きも影響を与えていて、という。カルトなニュー・ルーツ・ダブのプロデューサーだったTNTルーツの、ジョン・T・ガストのレーベル〈5ゲート・テンプル〉やレフトフィールド・ダブの牙城〈ボッケ・ヴァージョン〉からのリイシューがあったのもこうした動きの周辺事情だという話で……(詳しくは上記『DUB入門』の鼎談を参照のこと)。これはつまり、2010年代のダブステップ/ベース・ミュージック勃興のUKニュー・ルーツ・レゲエの再評価とはまた違った流れにて起きている(もちろんその影響は少なからずあるものの)、ジャー・シャカらのサウンドシステム由来のニュー・ルーツ・ダブのUKステッパーの再評価とUKアンダーグラウンドなテクノの交点から発する新たな高速ダブ・テクノが勃興しつつあるということなのだろう(いやむしろもはや、そこにある)。

 こうした流れの代表的なアーティストとも言えそうなのがコンラッド・パックで、そのファースト・アルバム『Commandments』がこの春リリースされた。たしかに往年の〈ダウンワーズ〉あたりのサウンド(実際に彼は過去にリージスにリミックスを依頼している)を彷彿とさせるBPM140台後半のダークかつインダストリアルなハード・ミニマル・テクノと、よりミニマルにそぎ落とされたUKのデジタル・ステッパーの意匠──ダブ処理や不穏なシンセ・リフ、跳ねたステッパー・リズムの高速イーヴン・キック、そこに絡むワンドロップのアクセント、そしてなによりもサウンドシステムで鍛えられた轟音のサブ・ベース──を持ち合わせている。リリースは〈Blackest Ever Black〉を主宰していたキラン・サンデのレーベル〈lost domain〉からのリリース。それこそ、このレーベルからのリリースであること自体が、なにかが起こりつつあることの証左ではなかろうか。本レーベルはコンラッド・パック周辺のアーティストなどを集めたVA『Dear Ghod』など、ほぼこの周辺だけをリリースするレーベルになっている。以前の〈Blackest Ever Black〉の、そのレーベルとしての存在感を考えれば、見方を変えて、モダン・エレクトロニック・ミュージックのインダストリアル・サイドの刺激的な新たな一手が生まれつつあるとも言えるのかもしれない。

 コンラッド・パックは、本作に名前を連ねるDJゴンズ(ゴンサロ・ネト)とともにレーベル〈SELN Recordings〉(もともとサウス・ロンドンの廃棄物焼却発電施設を示す〈SELCHP〉を屋号としていたが施設からクレームで改名)を共同主宰している。昨年、ゴンズも待望のアルバム『Messenger』をリリースしている(ゴンズの方がよりニュールーツ色が強いと言えるかもしれない)。また〈SELN Recordings〉からは、コンラッドとLEAFなるユニットでも活動するイヴァン・ロビローザや上記の〈lost domain〉でもリリース、レーベル〈Jolly Discs〉も運営するリーウェイ(ガイ・ゴームリー)(トーマス・ブッシュなるアーティストとのRAPもやはりこの筋の高速ダブ・テクノ)なども、その作品に名を連ね、このステッパーな高速テクノの一派のコレクティヴを形成している模様だ。

 タイトルの『Commandments』とは「戒律」、「Ten Commandments」でいわゆる聖書に出てくる「モーゼの十戒」を意味する。おそらくUKニュー・ルーツ・ダブに親しんだ者ならこのタイトルを見てジャー・シャカの存在を思い出すはずだ。ブラック・ナショナリズム的な聖書の解釈という側面を持つラスタファリアニズムに即したルーツ・レゲエのモチーフにおいては比較的よく出てくる言葉であり、ルーツ・リヴァイヴァルを象徴する1982年にはじまるシャカのダブ・アルバム・シリーズは『Commandments Of Dub』と名付けられていた。1991年まで同シリーズで10作品がリリースされ、シングルを除けば彼の代表的な作品群でもあり、ある意味でUKニュー・ルーツ・ダブの正典とも言える。本作もこの音楽性で、この名前ということを考えれば、ジャー・シャカへのなんからの憧憬を感ぜずにはいられない。

 トライバルなパーカッションによるイントロ“Exile”にはじまり、タイトル・トラックの2曲目から一気に加速、トップ・スピードに乗っていく。ニュー・ルーツ・ステッパーの跳ねたグルーヴをループさせ、ダークで退廃的なフィーリングでテクノとダブのミニマリズムの迷宮へ高速で引きずり込む“Commandments”にはじまる。ミリタントなスネアと“ハメ”のリフが不穏なヘヴィー・サブ・ベースの上で前後不覚になる朋友ゴンズとの“Riget”、ダブ・ミックスで拡張していく空間がトランシーなサイケデリック・モードを呼び込む“Deep Distrust (Emotive Mix)”や“Mixer Test 9 v6”といった中盤を経て、グライム的なリフがキラーな“Downward”、そしてアルバムのなかでは一番正調な轟音デジタル・ステッパー的とも言える“Prophecy”、そしてリージス~サージョン・ラインなダビーなインダストリアル・ハード・ミニマル・テクノ“Passage”までアルバムは150前後のBPMで一気に走り抜けていく。アルバムのラスト・トラックは、ジョン・T・ガストの影響も感じさせるダークかつフリーク・アウトしたアブストラクトなダブ・トラックを、前述のリーウェイとともに奏でてアルバムは終わりを迎える。

 ダブ・テクノと言えば、ベーシック・チャンネル~リズム&サウンドをリモデルしたような作品が主流だったのが、コンラッド・パックらのサウンドは、あったとしてもべーチャン最初期のハード・ミニマルで、いやむしろそれよりも1990年代中ごろのUKハード・テクノのバンドゥルが、ステッパーをサンプリングしていたダビーなトラック群をちょっと思い出す(アルバムで言うと1994年『Antimatters』~1996年『Cornerstone』、そういえば最近復活してた)。が、やはり圧倒的な違いは、あの轟音のサウンドシステムで体験する、むき出しになったステッパー・トラックの高速に駆け抜けるグルーヴと地鳴りのような低音の霊感をそのサウンドに宿していることだろう。ある種の現地でのサウンドシステム体験と空気感、そのものをサンプリングし、ニュールーツのシンフォニックな意匠をそぎ落とし、高速テクノのミニマリズムがもたらす高揚感へと接続している。そんな音響感覚が全体を貫いている。

河村祐介