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interview with Danny Brown

interview with Danny Brown

だから、自分としてはヘンじゃないものを作ろうとするんだけど……周りは「いやー、やっぱ妙だよ」って反応で

──〈Warp〉初のデトロイトのラッパー、ダニー・ブラウン

質問・序文:吉田雅史    通訳:坂本麻里子 Photo by Peter Beste   Jan 16,2024 UP

 2023年にリリースされたJPEGMAFIAとの共作『Scaring The Hoes』でのぶっ飛んだ活躍も記憶に新しい我らのダニー・ブラウンが、最新作『Quaranta』をリリースした。

 2012年の出世作『XXX』の衝撃──特徴的な甲高い声、露悪的だがユーモアに溢れるリリック、ヒップホップ然としたブレイクビーツからエレクトリックでアヴァンギャルドなビートまで乗りこなす変幻自在のフロウの渾然一体を耳にして、得体の知れないヤバいブツが現れちまった! と直感したときのあの興奮——から約十年、唯一無二のラップのスタイルやヴィジュアル、そしてそのキャラクターによって、彼はヒップホップのオルタナティヴな可能性を拡張し続けてきた。しかも彼のスタイルがスゴいのは、アヴァンギャルドであると同時にポップさを持ち合わせていることだ。

 ラッパーにとって、キャラクターは非常に重要な要素なのは言うまでもない。いくらリリックが良くて、ライムやフロウのスキルがあっても、キャラクターが薄ければこの世界で生き延びていくことは難しいだろう。

 〈Warp Records〉が一員に迎え入れるほどのジャンルを越境するようなエッジの効いたビートを自身のカラーとしてしまう音楽的な選球眼を持ちながらも、それを乗りこなす彼のユーモアを伴うキャラクターによって、彼というラッパーと彼の音楽は、一層目立った存在感を放ってきた。

 しかしこの最新作を前に、当たり前だが彼もひとりの生身の人間であり、わたしたちと同じように様々な悩みを抱える存在であることを目の当たりにするだろう。セカンド・アルバム『XXX』は遅咲きの彼が30歳のときにリリースされたが、『Quaranta』は40歳を迎えた彼なりのブルースにも聞こえる。感情を失ったような声色で、ストレートな吐露を聞かせる脆い場面さえあるのだから。だがラッパーという存在は、それすらもキャラクターの一部として受け入れられる宿命なのかもしれない。

 そんな今作における表現を、彼はどのように捉えているのだろうか。彼自身の言葉を聞いてみよう。

人びとは相変わらずラップを「若者のゲーム」として眺め、老けるとラッパーは続けていくことができないだろう、みたいに考えているとも思っていて。だから俺は、その新境地を開拓しようとしているし、「歳を取ってもやれるんだよ」と示そうとしている。

誤解を恐れずに言えば、あなたのアルバムを聴いてこんな気持ちになることがあるとは思いませんでした。前半の6曲と後半の5曲でまるで別の顔を持ったアルバムだと感じました。前半はこれまでのあなたの作品群と同様、多種多様なトピックとサウンド、ユーモアや怒りを含め多種多様なフィーリングが封じ込められた楽曲群が並んでいます。一方で後半の流れは、等身大のあなたのリアルなストーリーが描かれていて、あなたの傷心、ドラッグやアルコールへの逃避とその虚しさの表現に、共感する人間も少なくないと思います。私も個人的に、今後長い間繰り返し聴き返す作品になりそうです。曲作りには数年間かけていると思いますが、どのようにしてこのようなアルバムの流れができ上がっていったのでしょうか?

ダニー・ブラウン(以下DB):正直、俺のアルバムのほとんどはそういうふうに構築されてきたと思うけどね。いつだって「ハイ」があり、そして「カムダウン」が待ち構えている。それはきっと、ずっとテープを聴いてきたせいだろうな、テープにはA面/B面があるから。だからその側面、そういった構成を自分のアルバムにつねに含めようとしてきた、というか。そうだね、ずっとそれをやろうとしてきたように思う。あるいはスローにはじまってアップテンポで終わる、だとか。そうは言いつつ、『Atrocity Exhibition』(2016)はそのルールからちょっと外れたんだけど、このアルバム(『Quaranta』)は『XXX』(2011)を再訪しようとする内容だからね。『XXX』も、前半はある意味ハイなノリで、後半はもっとカムダウンっぽい、そういう構成だった。だからまあ、1枚のコインの表と裏のどっちも見せるということ。ドラッグ/アルコールの濫用などなどについて取り上げる際に、それを美化したり、面白おかしい楽しさを描くこともできるわけだけど、そこには別の面があることもちゃんと語る必要があると思う。絶対にアップなノリ一辺倒にしないように心がけてきたし、ストーリーにはいつだってふたつの側面があるものだから。

通訳:人間は誰しも複雑な生き物ですしね。このアルバムで、あなたはご自身の異なる面を表現していると思います。

DB:(うなずいている)

前作『uknowhatimsayin¿』(2019)においては「プロデューサーのQティップの作品で、自分はそれに出演している俳優のようだ」とのコメントもされていましたが、今作は再び自分自身でアルバムの全体像を描いたのでしょうか。もちろんこれは、Qティップのショウ/パーティであなたが踊っていた、という意味ではないんですが、今回はもっと「自作自演、自分で監督も担当」というフィーリング?

DB:うん、そうだね。っていうか、この作品は何よりも「小説」に近いんじゃないかと思う。それこそ回想録を書いている、みたいな? だから映画で役者を演じる、そういう視点から出てきた類いの作品ではないし、もっとこう、ジャーナル(日記/日誌)にすら近い。たまに自分の思いをあれこれ書き綴ってみたりもするわけで、そうやって外ではなく自分の内面に目を向けている、もっと内省的な面が多い作品だ。

通訳:それはやはり、COVID~ロックダウンの影響だったのでしょうか?

DB:そう、確実にある。間違いなくそう。だから、俺たちみんな、家でじっとおとなしくして、大して何もせずに過ごすチャンスを得たわけで、俺にもひたすら内省し、どうして何もかも間違った方向に向かってしまったのかを考える時間がもたらされた。ただまあ、ぶっちゃけあの時期はもっとパーティすることにもなったけどね(笑)! もっとパーティし、おかげでもっと二日酔いになり、そういうフィーリングを抱える羽目になった、と(笑)。

通訳:(爆笑)。振り返ると、私(通訳)自身もあの時期は何もやれなくて退屈で、しょうがないから飲む、ということが多かったです。あなたにとってもきつい時期だったようですね?

DB:ああ、そりゃもちろん。というのも『uknowhatimsayin¿』を出したばかりだったし、ツアーに出るはずだったからね。あの作品をちゃんとプロモートするチャンスに恵まれなかったし、ファンを前にあれらの歌をプレイすることもできなかった。あれには、やや憂鬱な気分にさせられた。

俺の音楽を聴いては毎回「RAWで耳障りな音楽」と評する人は多いし、人によっては「奇妙だ」とも言われるし、その面をやや抑えめにしたかった。もっとラップのインストゥルメンテーションっぽい感じで、より楽に聴けるようにしたかった。

アルバムとして、どのようなリリックやサウンドのカラーにしたいというヴィジョンはありましたか?

DB:まあ、40歳を迎えつつあったし、それでも自分にはモチヴェイションがちゃんとあった。だから、歳を取ったからといって、必ずしも衰える必要はない、と。ラップを「若者のゲーム」みたいに看做す人間は多いけれども、俺はとにかくライミングとラップに関しては、年齢を重ねても、自分がまだ絶頂期にいるように振る舞いたかった。だから、それが作品を作りはじめた当初の動機だったんだけど、作業を続けるうちにやがてもっとこう、俺自身のフィーリングを表現する内容になっていき、過去には取り上げてこなかった、もっとパーソナルな題材を語りはじめるようになっていったんだ。でもまあ、概して言えば、じつはそんなにハードに考え込んだりはしなかった。とにかく歌をレコーディングしていっただけだし、そのうち作品のコンセプトが自ずと形になっていった。俺たちみんな隔離処置でめげて疲れていたし、俺はとにかく音楽作りに忙殺されることで気を紛らわせていた。で、いつの間にかこのレコードがどこを目指しているのか、それを俺も見極めたっていうのかな、で、そこからは、その方向に従って考えていくようになったんだ。

いまの話にあったように、あなたは現在42歳、“Hanami” のリリックで「rap a young man game」「Should I still keep goin' or call it a day?」と歌っています。最近アンドレ3000がジャズ系の新譜『New Blue Sun』リリースに際して「ラップはリアルな生活を歌う音楽だから、歳をとって視力が悪くなったり大腸検査に行くことをラップしても誰も聴きたがらない」と言っていましたが、40代でラップをすることをどう考えていますか? アンドレのようにラップという表現/フォーマット以外で音楽を続ける自分は想像できますか?

DB:ノー! それはないな。ラップ・ミュージックというのは……俺は80年代生まれ、すなわちヒップホップ・ベイビーだしね! つまり俺にとって、生まれてこのかたラップ・ミュージックはずーっと存在してきた、ということ。それにもうひとつ、人びとは相変わらずラップを「若者のゲーム」として眺め、老けるとラッパーは続けていくことができないだろう、みたいに考えているとも思っていて。だから俺は、その新境地を開拓しようとしているし、そうやってみんなに「歳を取ってもやれるんだよ」と示そうとしている。それに俺からすれば、いま現在もベストなラッパーの何人かは、俺より歳上なわけだし(笑)! たとえばジェイ‐Zみたいな人は、歳月とともにまだどんどん良くなっている。だから、うん、人生のこの時点でとにかく俺が感じるのは、できるだけ長く続けていきたいということだね。正直な話、死ぬまでやり続けたい、みたいなところだ。

サウンド面では、あなたのこれまでの楽曲と同じように、他の典型的なヒップホップの曲とは違った一風変わったユニークさのあるビートやサウンドが肝になっていると思います。

DB:(黙って聞いている)

どのような基準でビートを選んでいったのでしょう? 今回のアルバムでは、これまでと選ぶ基準に違いがありましたか?

DB:うん、だから今回はまさにそれをやりたくなかった、という。つまり、俺の音楽を聴いては毎回「RAWで耳障りな音楽」と評する人は多いし、人によっては「奇妙だ」とも言われるし、その面をやや抑えめにしたかった。それよりも、今回はもっとラップのインストゥルメンテーションっぽい感じで、より楽に聴けるようにしたかった──とりわけ、今回のアルバムで取り上げているような題材を歌う場合はね。というのも「風変わりなサウンド」って、奇妙さそれ自体を狙ってやってることが多いって気もたまにするんだ。ほとんどもう「お前に理解するのは無理」、「お前にこれはゲットできない」というか、ヒップホップの通(つう)じゃないとわからない、みたいな。で、俺はとにかくもっとラップのインストゥルメンテーションに近いサウンドにしたかった。ギターを多く使い、かつ、もっとシンセも重用して。だから、バンドが演奏していてもおかしくない、俺の耳にそう響くビートを選んでいったわけ。とは言っても──(苦笑)質問者氏はやっぱりまだ「風変わり」に聞こえるって言ってるんだから、どうなんだろうなぁ、(笑)俺にはまだちゃんとモノにできてないのかも……。

通訳:ははは! 私(通訳)はあなたの音楽はもちろん、トーク番組『Danny’s House』やポッドキャスト『The Danny Brown Show』も好きです。

DB:ああ、うん。

通訳:だから、あなたがこう……天然でエキセントリックな人なのは重々承知というか。

DB:(笑)ヒヒヒヒヒッ!

通訳:ですので、あなたが「奇妙さ」を狙ってやっているわけではないのはわかっているつもりです。

DB:うん。だから、自分としてはヘンじゃないものを作ろうとするんだけど、そのたび、毎回そういう結果になってしまうんじゃないかと(苦笑)。「これ、別に奇妙じゃないだろ」と俺が思っていても、周りは「いやー、やっぱ妙だよ」って反応で。たぶん、それが俺って人間だってことなんだろう(笑)。

通訳:(笑)「普通」をやるのに、あなたは逆に人一倍苦労するってことかもしれませんね。

DB:(笑)いやぁ、これが俺そのものなんだろうし、正体を偽ることはできないよ。

質問・序文:吉田雅史(2024年1月16日)

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Profile

吉田 雅史 吉田 雅史/Masashi Yoshida
1975年、東京生まれ。異形のヒップホップグループ8th wonderを中心にビートメイカー/MCとして活動。2015年、佐々木敦と東浩紀(ゲンロン)が主催の批評再生塾に参加、第1期総代に選出される。音楽批評を中心に文筆活動を展開中。主著に『ラップは何を映しているのか』(大和田俊之氏、磯部涼氏との共著)。Meiso『轆轤』プロデュース。

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