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〈R&S〉はテクノなどエレクトロニック・ミュージックの老舗レーベルであるが、そうしたなかでポール・ホワイトは異色のヒップホップ系プロデューサー/ビートメイカー/マルチ・ミュージシャンである。南ロンドンのルイシャム出身の彼は、もっとも目立ったところではダニー・ブラウンのプロデューサーとして知られるが、2007年頃から地道に制作活動を続けて数々のソロ作品を出している。ダニー・ブラウンのほかホームボーイ・サンドマン、ギルティ・シンプソン、オープン・マイク・イーグルなどUSのラッパーたちと組んでおり、エリック・ビディンズとのゴールデン・ルールズというユニットではヤシーン・ベイ(モス・デフ)とも共演している。US勢との絡みから〈ストーンズ・スロー〉や〈ナウ・アゲイン〉などで作品をリリースしており、ポスト・DJシャドウ、またはポスト・マッドリブという形容もされてきた。
UKではモー・カラーズなどのリリースで知られる〈ワン・ハンディッド・ミュージック〉でも作品をリリースしているが、彼のサウンドはヒップホップの王道から外れたオルタナティヴなもので、いろいろな音楽的要素が見られる。とくにサイケデリック・ロックの影響が強く、ダブ、ビートダウン、民俗音楽などの要素が色濃いところはモー・カラーズにも共通する。また、2014年の『シェイカー・ノーツ』ではテンダーロニアス、ウェイン・フランシス(ユナイテッド・ヴァイブレーションズ)、ジェイミー・ウーンらを起用して、かなりジャズ寄りのアプローチも見せていた。フライング・ロータスやラスGなどLAのビート・シーンに近い立ち位置のアーティストで、〈ワープ〉におけるフライング・ロータスのような関係性が、ポール・ホワイトと〈R&S〉の間にはあるのだろう。
そうしたポール・ホワイトの新作『リジュヴェネイト』も〈R&S〉からのリリースである。〈R&S〉においては『シェイカー・ノーツ』に続く2作目のアルバムとなり、今回も彼の兄弟でマルチ・ミュージシャン/ビートメイカー/シンガー・ソングライターのサラ・ウィリアムズ・ホワイトが参加している。そのほかの参加者はUKジャマイカン・シンガーのデナイ・ムーア、ジンバブエ出身の詩人/ミュージシャンのシュングドゥゾことアレクサンドラ・ゴアで、彼女たち女性アーティストと共演したアルバムとなる。“ア・チャンス”は変拍子のビートとスペイシーなサウンドスケープによるポール・ホワイトらしいサイケデリックなテイストのナンバーだが、もはやヒップホップ的な文脈からは完全に離れた音作りが『リジュヴェネイト』において行われていることも示している。デナイ・ムーアが歌う“セット・ザ・トーン”は、フォーキーでアコースティックな質感とコズミックな質感が見事に融合したUKらしいダウンテンポ。こうした生音とエレクトロニクスの融合が彼の持ち味でもある。同じくデナイが歌う“シー・スルー”はよりポップ色が強いナンバーだが、こちらはレゲエ/ダブ的なニュアンスが加味されている。
“リターニング”はアンビエント色の強い作品だが、ブリティッシュ・フォークからグナワのようなエスニック・ミュージックのテイストもあり、いろいろな民族音楽にも通じるポール・ホワイトの一面が見える。シュングドゥゾが歌う“スペア・ゴールド”と“アイス・クリーム”はメディテーショナルなサイケデリック・ソウルで、とくにストリングスを交えてシューゲイズ的なアプローチを見せる後者は往年のゼロ7などを彷彿とさせる。“ソウル・リユニオン”もペイル・セインツのようなシューゲイズ・ロックに近い。ジャズ・ロック、ポスト・ロック、ドリーム・ポップなどいろいろな要素が入り混じった“リジュヴェネイト”はステレオラブ的と言えようか。サラ・ウィリアムズ・ホワイトが歌う‟ラフ・ウィズ・ミー“と“オール・アラウンド”は浮遊感のあるドリーム・ポップ。彼ら兄弟の子供の頃の記憶を楽曲にしたもので、随所に実験的な遊びも見られる。この2曲に象徴されるように、いままでのヒップホップのビートメイカー的な立ち位置から脱却し、自身のなかにある音楽を自由に表現していった『リジュヴェネイト』は、新たなポール・ホワイト像を見せるアルバムである。
小川充