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interview with Danny Brown

interview with Danny Brown

だから、自分としてはヘンじゃないものを作ろうとするんだけど……周りは「いやー、やっぱ妙だよ」って反応で

──〈Warp〉初のデトロイトのラッパー、ダニー・ブラウン

質問・序文:吉田雅史    通訳:坂本麻里子 Photo by Peter Beste   Jan 16,2024 UP

自分の手柄だってふうには思えないんだよね、「神様がゴーストライターをやってくれてる」っていうか。

個別の曲についても聞かせてください。“Tantor” はアルケミストのプロデュースですが、彼のなかでも特別ユニークなネタをサンプリングしたビートに思えます。以前の “White Lines” も非常にユニークなビートでしたが、彼があなたとのコラボ用にチョイスするのでしょうか? それともあなたが複数の選択肢のなかから選ぶのでしょうか?

DB:彼が、5本くらいビートを送ってくるんだ。で、そのなかから気に入ったものを俺が選ぶ。まあ、彼は「かの」プロデューサーっていうのかな、俺が聴きながら育ったお気に入りのプロデューサーのひとり、みたいな存在であって。だから彼と仕事できるチャンスが訪れるのはいつだって、それこそが「自分は成功した!」と感じる瞬間だね。「ああ、やったぜ! 俺も遂に、これだけ長い間尊敬してきた人と仕事できるようになったんだ」と。うん、でもあの歌はほんとまあ、俺が(声色をダミ声に変えてふざけ気味な口調で)「まだイケてるぜ!(still got it!)」ってところを示そうとしている(笑)、そういう曲のひとつ。ほら、『XXX』の頃の俺はああいう曲をしょっちゅう作っていたし、だから自分にはいまもまだああいうことをやれる、そこを証明したかったわけ。

“Tantor” はミュージック・ヴィデオも非常にユニークです。チープなロボットのキャラクターには、あなたのアイディアも反映されたものでしょうか?

DB:いいや。っていうか、俺のビデオのどれひとつ、自分でアイディアを出したことはないよ。そこまでクリエイティヴな人間じゃないし、ビデオに関しては一切、自分の手柄を誇ることはできない。

音楽でなんらかのエモーションを喚起したい。とにかく聴き手をそのライドに乗っけて、単なるBGM以上のものを彼らに感じてもらおうとしている。つい耳をそばだて、「おや?」と注目するような何かを。

また、本作のジャケットのアートワークもあなたの表情が非常に印象的ですが、 これに込められた意図を教えてください。

DB:とにかくまあ……なかに収められた音楽がどんなふうに見えるかを示したかった、みたいな? ほんと、文字を絵で表現するマッチアップ(例:象=elephantの絵はE、など)みたいなものだよ。それにさっきも話したように、このアルバムでは以前よりも自分に人間味をもたせたし、だからよりピュアな己の姿を見せている、と。大体そんなところかな。ああ、しかも古典的な雰囲気もあるポートレートだよな。いまどきはAIが使えるし、それこそ……宇宙ロケットからスカイダイヴィングしているイメージだの、どんなものだってやれるわけだけど、だからこそクラシックなものに留めようとしたんだ。シンプルに。

“Ain’t My Concern” が本アルバムのフェイヴァリットとのことですが、鍵盤の和音がフック部分ではなんとも言えない浮遊感と、ヴァース部分では不協和音による緊張感のコントラストが効いています。これはクリス・キーズによるものですか? 

DB:うん。彼とクェルはいつも一緒に作るから。ふたりはプロダクション・パートナーの仲だ。あれはとにかくまあ、ある種の一般教書めいた歌だね。ヒップホップに対する思いだったり……「俺はいまだにヤバい奴だぜ(I’m still a badass)」って感じているし、要はそうやって自分の威力を誇示しようとしてるっていう。まだ、筋肉はバッチリついているぜ、とね。

はい、もちろん。“Y.B.P” ではブルーザー・ウルフをフィーチャリングして軽快にデトロイトでの日々を振り返っていますが、ブルーザーたちとの〈Bruiser Brigade Records〉の今後の予定や計画を教えてください。

DB:うん、ウルフの作品はもうじき出る。あのアルバムはでき上がっているから、近々出るよ。機会があればいつだって仲間と仕事したいし、それに『XXX』ではデトロイトについて語った歌をたくさん書いたわけで……まあ、自分の出自に関する歌はつねにやってきたんだよな。そうすれば人びとにもいまの俺の立ち位置がわかるだろうし、自分の生い立ちやヒストリーみたいなものを明かす、という。

“Jenn’s Terrific Vacation” におけるカッサ・オーヴァーオールのプロダクションは生ドラムを生かした、大変複雑で作り込まれたものになっています。あなたの囁き声を素材にした後半の作りも見事で、そのような複雑な楽曲のプロダクションとジェントリフィケーションをテーマにしたメッセージ性のあるリリックが両立しているところがスゴい曲だと思います。このリリックのアイディアをどのように思いついたのでしょう?

DB:じつを言うと、あれはもともとジョークとしてはじまった歌だったんだ。

通訳:(笑)そうなんですね。

DB:だから、俺はダウンタウンで暮らしていたし、とにかくああいう言葉が口をついて出て来たし、それであの「Jenn’s Terrific Vacation」というフレーズを思いついたってわけ。で、ある日スタジオであのビートを耳にして、さて、これをどう料理しよう? と悩んでいて。だからまあ、何もかもが一気にクリックして形になった、ガラス瓶で雷電を捕まえるシチュエーションっていうか、そういう曲のひとつだったね。あんまり深く考え過ぎずにやるっていうか、ビートに合わせて長いことえんえんとラップしているうちに、ある日突然「あっ、これだ!」と掴めて、そこから先は何もかもがスムーズに流れていく。自分はそういうふうに、「このビートで何をやればいいだろう?」と考えあぐねながらとりとめなく過ごすことが多いと思う。で、ある日突如としてインスピレーションがパッとひらめいて、となったら即座にそれに飛びつき、双手で掴む。だから、自分の手柄だってふうには思えないんだよね、「神様がゴーストライターをやってくれてる」っていうか、その日の自分はたまたまラッキーだっただけ、みたいな。クハッハッハッハッ!

“Down Wit It” では、ストレートな言葉で元恋人との関係のありのままを伝えるリリックが衝撃的です。盟友のポール・ホワイトのビートは、とてもエモーショナルで1980年代のメランコリーを感じさせます。リリックの構想は先にあって、このビートを選んだのでしょうか。それともこのビートを聴いてありのままを語ることになったのでしょうか。

DB:まず、ビートがあった。でまあ、何かを乗り越えるための最良の方法って、とにかくそれについて語ること、というときだってあると思う。だからほんと、あれはそういう歌だし、そうすることによって胸のつかえを下ろすことができる。それについて話せば、それに対する気分も楽になるっていう。俺はつねに、音楽をひとつのセラピーの形態として使ってきたからね。音楽のなかで何かについて語るとき、普段の会話で話すようなことに触れようとしている。あの曲も、そういうもののひとつだ。

また “Down Wit It” のリリックのなかで「lost my emotion」と歌っているように、あなたの感情を殺しているようなフラットな歌声が非常に印象的で、表面的にエモーショナルな歌い方よりも、あなたが抱えていた空虚さが一層感じられる気がしました。あなたはラップをする際の「エモーション」をどのように考えているか教えてください。ラップをする際の最大のエンジンと言えるでしょうか?

DB:うん、そうだと思う。やっぱり、そこを捉えたいわけでさ。俺の音楽を聴く人びとには、何よりも、「感じて」欲しいんだ。聴いていてつい一緒にラップしたくなるのであれ、なんであれ……音楽でなんらかのエモーションを喚起したい。とにかく聴き手をそのライドに乗っけて、単なるBGM以上のものを彼らに感じてもらおうとしている。つい耳をそばだて、「おや?」と注目するような何かを。それに、今作で取り上げたトピックは誰もが経験するようなものばかりだし。そこもさっき話した、もっと人間らしい面に回帰するって点と関わっているし、要するに「俺も君たちと全然変わらないよ」と。「俺も、みんなと同じようにめちゃめちゃで駄目な奴なんだ」ってね(苦笑)! まあ、そんなところ。

“Hanami” はスヴェン・ワンダーの既存の曲が元になっていますね。彼の “Hamami” のビートにどのように辿り着いて、どんなやり取りがあってこの曲が生まれたのでしょうか?

DB:ポールと盛んに作業をしていて、まだ隔離期間中だった時期に彼がいろいろとビートを送ってきてくれて。あれは本当にDOPEなビートだと思ったし、今回はもっと実験的なスタイルに向かおうと思っていたしね。だからあのビートを耳にしたときは、「マジかよ!」みたいな? あれを聴いたときは、こう……アルバムの1曲目を鏡に映したイメージみたいだな、と思った。だからA面B面それぞれにDOPEなトラックがあるのは良いな、と。あの曲では、作った時点で俺の感じていたことをすべて出している。

「Hanami」とは日本語の「花見」でしょうか。桜の花を愛で祝う宴会のことなんですが。

DB:ああ、知ってる。

通訳:3~4月に、日本人は桜の木の下に集まり、飲んで楽しむんです。その意味合いは曲に影響していますか? それとも、たまたまあのタイトルだった、ということ?

DB:うん、そんなところ。クハハハッ! そこについては、そこまで深く考えていないんだ(苦笑)。

また “Hanami” のフックで「Can't get time back, time after time」と歌っていますが、もし一度だけ過去に戻れるとしたら、いつの時点に戻って、なにをやり直したいですか?

DB:ノー。一切、何も変えない。っていうのも、過去の出来事をやり直してしまったら、いまこうしてここにいる自分は存在しないから。人生は旅路だと思うし、そこで味わった経験を通じてつねに学んでいるわけで。だから、何ひとつ変えないだろうと思う。とにかく、俺の物語の一部を成している要素だしね。現在の自分を形作ってくれたのがあれなんだし、いまの俺は自分自身に満足しているから。過去をやり直して変えることには、乗り気になれない。

『ガーディアン』のインタヴューで、ファンたちの前でライヴをすることが一種のセラピーになっているとの発言がありました。日本にもあなたのライヴで一緒に歌いたいと思っている多くのファンがいます。音楽そのものがパワフルとはいえ、ラップ・ミュージックはやはりリリックがベースですよね。母国語も異なる国にもあなたの音楽のファンがたくさんいることをどのように感じていますか?

DB:めちゃ最高だと思ってる! っていうか、俺がよく聴く音楽にしたって──だから、そこがインターネットの美点だよな。英語以外の歌詞でも、Google翻訳にかけることができるんだし。でも、さっきも話したように、多くの場合俺は音楽を通じてエモーションを掻き立てようとしているし、エモーションは、そのエネルギーをたんに聴く以上に、実際に肌で感じるものへと翻訳/変換してくれるって気がする。というわけで、日本にもファンがいるのはDOPEだし、いつか日本に行って、ライヴをやれる日が来るのが待ち遠しいよ!

通訳:はい。来日を楽しみにしているファンはたくさんいますので。

DB:だよね、うんうん。なんとか日本に行けるよう、トライしているからさ。

最後に、日本のファンにぜひメッセージをもらえると嬉しいです。

DB:うん、もちろん。日本に行けたらいいなと心から思っているし、君たちみんなと楽しい時間を過ごし、日本のカルチャーを体験したくて仕方ない。まだ行ったことのない国のひとつだけど、もう長いこと、日本に行こうと努力はしてきたんだ。ただまあ、じつはいつもビビってたんだけどね、俺のクスリ歴のせいでやばいかも? って(苦笑)。ヒヒヒヒヒ~ッ! だけど、いまの俺はもっとクリーンだし、酒をやめて素面になったから、日本に行けるはず。日本を味わい、最高の体験をしたいな。

通訳:了解です。というわけで、もう時間ですのでこのへんで終わりにします。今朝はお時間をいただき、本当にありがとうございます。

DB:こちらこそ、ありがとう!

通訳:あなたはいま、ロンドン滞在中に取材を受けてらっしゃいますが、今日のロンドンはめっちゃ寒いです。どうぞ、暖かく過ごすようにしてくださいね。

DB:ああ、もちろん。ほんとそうだよな、ありがとう!

質問・序文:吉田雅史(2024年1月16日)

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Profile

吉田 雅史 吉田 雅史/Masashi Yoshida
1975年、東京生まれ。異形のヒップホップグループ8th wonderを中心にビートメイカー/MCとして活動。2015年、佐々木敦と東浩紀(ゲンロン)が主催の批評再生塾に参加、第1期総代に選出される。音楽批評を中心に文筆活動を展開中。主著に『ラップは何を映しているのか』(大和田俊之氏、磯部涼氏との共著)。Meiso『轆轤』プロデュース。

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