Home > Reviews > Album Reviews > Freddie Gibbs & The Alchemist- Alfredo
ギャングスタ・ラップというフィールドにて活躍しながら、Madlibとのコラボレーション(=MadGibbs)によってリリースした2枚のアルバム『Piñata』(2014年)、『Bandana』(2019年)により、アンダーグランド・ヒップホップのファン層からも高い支持を得ているFreddie Gibbs(フレディー・ギブズ)。かたや、Mobb DeepやDilated Peoplesなど様々なアーティストの作品でプロデュースを手がける一方で、エミネムのオフィシャルDJを務めるなどメジャーなフィールドでも活躍し、さらにMadlibの実弟であるOh NoとのGangreneやEvidence(Dilated Peoples)とのStep Brothersなどコラボレーション・プロジェクトも多数展開してきたベテラン・プロデューサーのThe Alchemist(ジ・アルケミスト)。2018年にはラッパーのCurren$yを加えた3人でアルバム『Fetti』をリリースしている彼らであるが、今回、ついに2人でのタッグによるコラボレーション・アルバム『Alfredo』を発表した。
この『Alfredo』というタイトルは、当然、2人の名前("Al"chemist+"Fred"die)からきているわけだが、英語の固有名詞「Alfred」ではなく、あえてイタリア語のスペルにしていることが、本作のコンセプトにも繋がっている。90年代頃から様々なヒップホップ・アーティストが映画『ゴッドファーザー』などに代表される、いわゆるマフィア映画から強い影響を受け、その世界観を反映した曲が多数作られるなど、マフィア映画はヒップホップ・カルチャーを形作るひとつの要素にもなってきた。ギャングスタ・ラッパーとしてのバックグラウンドを持つFreddie Gibbsにとってもマフィアの世界観は当然相性が良く、実際、Madlibのコラボレーション作品などでもドラッグ・ディーリング(取引)をテーマに高度なストーリーテラーっぷりを披露してきた。
LAを拠点にアンダーグランドからメジャーまで様々なアーティストの作品を手がけ、多くの共通項を持つMadlibとThe Alchemistという2人の偉大なプロデューサーであるが、ヒリヒリするような緊張感を持ちながら、2人のアーティストの究極の掛け算による格好良さを追求していたMadGibbsによる2作と比べて、The Alchemistは今回のアルバムをまるで一本の映画を撮るかのように組み立てている。クライム(犯罪)ストーリーがベースにありながらも、非常にドラマティックで優雅な雰囲気が強く出ており、それはまさにマフィア映画の空気感そのもので、エレキギターが悲しく鳴り響くトラックが非常に印象的なオープニング曲“1985”から、2人の描く世界は高いレベルで完成している。
本作の目玉のひとつが、Rick Rossをフィーチャした“Scottie Beam”であるが、同曲のPVにあるような、この2人ならではのギャングスタ・ラップ的なイメージを描きながらも「Black Lives Matter」ムーヴメントとも繋がるようなリリックもあったりと、実に巧みかつ複雑に絡み合っている。かと思えば、“Something to Rap About”では、Freddie Gibbsとはまったく異なるスタイルの流れにあるタイラー・ザ・クリエイターがゲスト参加し、本作にまた別の風を送り込んでおり、この辺りはプロデューサーとしてのThe Alchemistの采配の巧妙さも感じさせる。
Madlibとはまた別のやり方でFreddie Gibbsの魅力をさらに引き出したThe Alchemistとの今回のコラボレーション。MadGibbsと同様に、今後もこの2人の作品がリリースされることを強く望みたい。
大前至