ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Jlin - Akoma | ジェイリン
  2. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  3. Ben Frost - Scope Neglect | ベン・フロスト
  4. 『成功したオタク』 -
  5. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  6. interview with Mount Kimbie ロック・バンドになったマウント・キンビーが踏み出す新たな一歩
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Jlin - Black Origami
  9. 忌野清志郎 - Memphis
  10. Loraine James / Whatever The Weather ──ロレイン・ジェイムズの再来日が決定、東京2公演をausと蓮沼執太がサポート
  11. interview with Kaoru Sato 甦る、伝説のエレクトロ・ノイズ・インダストリアル  | 佐藤薫
  12. exclusive JEFF MILLS ✖︎ JUN TOGAWA 「スパイラルというものに僕は関心があるんです。地球が回っているように、太陽系も回っているし、銀河系も回っているし……」  | 対談:ジェフ・ミルズ × 戸川純「THE TRIP -Enter The Black Hole- 」
  13. Kim Gordon - The Collective | キム・ゴードン
  14. Savan - Antes del Amanecer | サヴァン
  15. ソルトバーン -
  16. Speed Dealer Moms ──ジョン・フルシアンテとヴェネチアン・スネアズによるコラボ・プロジェクトが再始動
  17. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  18. interview with Chip Wickham いかにも英国的なモダン・ジャズの労作 | サックス/フルート奏者チップ・ウィッカム、インタヴュー
  19. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  20. CAN ──だれもが待ちわびていただろう黄金時代、ダモ鈴木在籍時のライヴ盤がついに登場

Home >  Reviews >  Album Reviews > JPEGMAFIA x Danny Brown- SCARING THE HOES

JPEGMAFIA x Danny Brown

Hip Hop

JPEGMAFIA x Danny Brown

SCARING THE HOES

AWAL

万能初歩 May 17,2023 UP

 アーティスト間のコラボレーションが盛んなヒップホップにおいて、コラボレーション・アルバムは数え切れないほど存在する。特にアンダーグラウンド・ヒップホップでの前例としては、MFドゥームマッドリブが「Madvillain」という名前で発表した傑作『Madvillainy』(2004)が思い浮かぶ。
 現代におけるアンダーグラウンドの奇人たち、Jペグマフィア(a.k.a. ペギー)とダニー・ブラウンがアルバム単位でコラボするというニュースは好奇心を招いた。彼らはあらゆるジャンルを刺激的かつ分裂的に混ぜ合わせ、オルタナティヴなヒップホップ・プロダクションを好んで使用し、しかもなんと4~5枚以上のアルバムを着実に発表してきたことなどを共通点として挙げられるので、ふたりが引き起こす化学反応が楽しみだった。

 本作は近年発表された様々なヒップホップ作品のなかでも、積極的なサンプリングと数々の引用など、メジャーな公式に当てはまらない過激さを打ち出した素晴らしいプロダクションを盛り込んだ作品と言えるだろう。特にペギーが Roland のサンプラー1台で全曲を作曲したと明かすように、サンプルを分割してソースを配置する技量はまさに頂点に達しているように見え、そこに鼻音混じりの声でリズムを自分のものにしてしまうフロウを持つ独創的なラップ・キャラクター=ダニーの参加はちょうど似合う。彼らが引き起こす刺激は終始騒がしいが、意外と「多彩なテクニック」を誇る。
 “Lean Beef Patty” はサンプリングやソース配置の技術、パフォーマンスまで奇抜かつ完璧に仕上がっていて、本作の登場を楽しみにさせるリード・シングルだった。次のシングルの “SCARING THE HOES” は作中で最も奇妙な曲で、ダーティ・ビーチズのフリー・ジャズ系の演奏をサンプルに、ホラー映画のような映像演出で不気味さを増す。上記のシングルは、ふたりに期待される実験的で過激なエネルギーをよく表している。
 サンプルの用例は様々だが、日本の音楽を用いた2曲はそれぞれ異なる魅力を発する。CMのチャントとファミコン・ゲームの効果音を借りた “Garbage Pale Kids” は、荒々しいベース・ドラムを落としたり、途中でファジーなギターを打ち込み、作中で最も刺激的なサウンドを完成させている。一方、某声優のシングルをサンプリングした “Kingdom Hearts Key” は、メロウ・ポップの質感を生かしつつ幻想的でダイナミックな展開を作り出している。
 他にもポップ・ソウル曲をいじったり、オーケストラやゴスペルなどの荘厳な原曲に卑猥な歌詞をばら撒いたりするなど、サンプリングを使った様々な遊戯の試みは聴き手の集中力を持続的に牽引する。
 ペギーのトラックメイキングの技量はまさに頂点に達しているように思われ、敏腕なラッパーのダニー・ブラウンの参加はその価値をさらに高める。プロデュースを手がけ、自分の領域を確実に構築しているJペグマフィア、コラボレーション相手をはるかに凌駕するダニー・ブラウンのパフォーマンス力。その相反するアンバランスがむしろ新しい重心を見いだしたように見える。

 2020年代のヒップホップの風景を眺めると、レイジ(rage)やドリル(drill)、ハイパーポップのようなハードコア化や、ロックやエレクトロニックとの融合が積極的におこなわれてヒップホップのステレオタイプを問い直すオルタナティヴ化などが進み、その形を激しく変貌している。一方、ペギーとダニーが Roland のサンプラーの上で戯れる姿は「新しい」を志すよりむしろ文化レガシーへのノスタルジーに近い。が、彼らの遊戯が、だんだん過激化していくジャンルのなかでも、最も奇妙で刺激的なサウンドで集まった矛盾を見ると、この奇人たちの皮肉は痛烈に通じたようだ。