「R」と一致するもの

「僕だけじゃなくて、誰も全部は見られないというのが、やっぱりいいな」

 大友良英は小田原・江之浦測候所で開催したイベント「MUSICS あるいは複数の音楽たち」を振り返ってそのように呟いた。普通、できることなら、全体を見渡したいと思うものである。木を見て森を見ず、と言うように、全体が把握できないと物事の本質が見極められないような気がしてしまう。何か大事なことを見逃してしまっているのではないかと不安に駆られる。それでも誰も全体を把握することができないことにポジティヴな意味合いを見出すとしたら、それはどのようなことなのだろう。


11月3日(月)、江之浦測候所。撮影:田村武

 去る2025年11月初旬、アジアン・ミーティング20周年記念スペシャルが各地で開催された。大友良英が2005年に立ち上げ、その後dj sniffとユエン・チーワイがキュレーターとなって継続してきたアジアン・ミーティング・フェスティバルの詳細については、これまで様々な場所で書いてきたので、ここでは繰り返さない。一言だけ説明しておくならば、アジアン・ミーティング・フェスティバルとは、アジア諸地域で活動する様々なタイプの実験的ミュージシャンたちを集め、即興を一つの鍵となる手法として用いながら、音楽的交流を行うプロジェクトのことだ。開催を経るにつれて規模が拡大し交流も広がりと深まりを見せていったプロジェクトだったものの、コロナ禍も相俟ってニーゼロ年代に入るとともに休止状態となっていた。そうした状況にあるアジアン・ミーティングを再起動するべく、20周年の節目を迎えた年に大友があらためて狼煙を上げた。このうちわたしは11月3日の江之浦測候所と11月6日の新宿ピットインでの公演へと足を運んだ。

 江之浦測候所での公演は、2022年から大友が同地で開催してきた「MUSICS あるいは複数の音楽たち」と題したイベントの第3弾を兼ねておこなわれた。江之浦測候所は現代美術作家・杉本博司が手掛けた、それ自体がアート作品でもあるような特異な施設である。100メートルの長大な廊下状のギャラリー、冒険心を擽るトンネルのような空間、石舞台、光学ガラス板を木琴のように敷いた舞台などがあるほか、海に面した斜面を下ると蜜柑畑や竹林が広がる。歩くだけでも景色の移ろいが楽しめ、鳥の囀りやカラスの鳴き声、航空機が過ぎる音、遠くを行く列車の走行音など、開けた空間ならではの豊かなサウンドスケープがある。パフォーマンスする演奏家にとっては、普段のライヴハウスとは勝手が異なり様々な制約がある一方、アプローチ次第ではこの場所ならではの表現ができる可能性を秘めた挑戦的な環境だと言えるだろう。

 わたし自身はこれまで2022年、2024年と「MUSICS あるいは複数の音楽たち」を観てきたため、3度目となる今回は、場所そのものに対して新鮮な驚きを期待していたわけではなかった。むしろ、どこへ行けばどんな響きが得られるのか、ある程度把握しているつもりでもあった。加えて11月3日は、公演前に竹林エリアでスズメバチが発生する不測の事態があり、限られた安全なエリアでのみパフォーマンスがおこなわれることになった。ギャラリーやトンネル、屋外のいくつかの舞台といった比較的行き来しやすい施設に限定されたことから——それでも一望できない広さはあるものの——、なおさら「面白そうな空間」を狙って観て回ろう、などと考えていた。だが開始早々、そのような邪な考えは打ち砕かれることになる。


11月3日(月)、江之浦測候所。撮影:田村武

 パフォーマンスはまず石舞台周辺で始まった。気づけば始まっていた、と言った方が正確かもしれない。打楽器を微かに鳴らす石原雄治、敷砂を足で擦る松本一哉、ゴングを引き摺る大友良英。樹下でスツールに腰掛けたイェン・ジュンは虚ろな表情で砂を拾ってはステンレスボトルのようなもの目掛けて投げ続けている。石舞台には吉増剛造が鎮座しており、Sachiko Mは四角錐のピラミッド型チャイムを鳴らして歩く。リュウ・ハンキルはショルダーバッグよろしく抱えたスピーカーから猛獣の唸り声のような音を発している。ふとフィードバック音のようなものが聴こえてくる。細井美裕と岩田拓朗によるインスタレーションのようだ。しばらくするとパフォーマーたちは思い思いの場所へと散らばっていった。

 何箇所か、ミュージシャンが好みそうな空間があった。たとえば鋼板で作られた全長70メートルのトンネル。まるで管楽器の内部のようでもあり、実際、ここで発された音は独特の反響を生み、トンネル自体が楽器となって壮大なドローン・ミュージックを聴かせる。そのトンネルへ向かったミュージシャンがいた。わたしは後を追った。だがすぐに音を出すわけではなかった。ただ佇んでいるだけのミュージシャンの姿をしばらく眺めていた。すると全く別の場所から、耳を惹く奇妙な音が聴こえてきた。誰かがセッションしているのだろうか。トンネルの中からは見えない。すぐに音の鳴る方へと向かった。だが着いたときにはすでにパフォーマンスが終わっていたようで、それらしき姿は確認できなかった。それどころか今度はトンネルの中から興味深い響きが聴こえてきた。

 しまった、と思った。同時に、やはり、面白そうな出来事だけを狙い撃ちして追いかけることは不可能だと悟った。野外フェスのように目当てのステージを効率よく観て回ることなどできないのだ。そう思った瞬間、いまここにいることがとても自由であるような気がした。多くの見落としがあるかもしれない。大層盛り上がった場面をいくつも聴き逃しているかもしれない。だが誰もがそうであるならば、どこへ行こうとも自由なのだ。足を運んだ先で偶然起きた出来事を受け入れればいい。その積み重ねがこの日のイベントの個々別々な体験を形成する。来場者の数だけあるそうした個別の体験を集めたところで、おそらく、それは全体を構成することにもならないだろう。


11月3日(月)、江之浦測候所。撮影:田村武

 開演から2時間半ほど経ち、パフォーマーたちは光学硝子舞台に集まってきた。初めはダンサーの小暮香帆が舞台にひとりで立ち、相模湾を臨む絶景をバックに踊りを披露していた。次第にひとりまたひとりとパフォーマーが舞台に上がり、集団での緩やかな即興演奏を行なった。ほぼ全ての観客がこの舞台を眺めていたことだろう。広大な江之浦測候所の様々な場所で繰り広げられていたパフォーマンスを個々別々に体験してきた観客は、最後、この舞台上での集団即興の光景を共有する。バラバラだった景色が束の間の重なりを見せる。石舞台で始まり光学硝子舞台で終わる、まるでテーマで始まりテーマで終わるジャズのような構成。ただしその中間部はどこまでも自由で誰も把握し切れないほどの広がりを持つようなものとしての。

 誰も全体を把握できないイベント。だがそもそも全体を把握するとはどういうことなのか。大友はそれを「録音」的な思考として説明する。たしかにそうだ。「面白そうな出来事」だけを追いかけようとしていたわたしは、どこかでそれを特定の視点——すなわち集音するマイク——によって捉えられる記録可能なイベントとして考えていた節がある。大友は「いまの音楽って、基本的には皆の頭の中では録音できる前提になっているでしょう。コンサートも録音できるようなものが前提になっているけど、そうじゃないものをやりたい」と「MUSICS あるいは複数の音楽たち」について語る。

「録音も否定しないよ。もちろん大好きなんだけど、でも、録音って音楽の中のごく一部でしかない。いま、録音しないと音楽って評価されないというか、評価軸に乗りにくいと思うんです。けれどもそれは、昔の西洋音楽で言えば、譜面じゃないと評価軸に乗らないのと同じぐらい、録音が不自由なものになっているということでもある。別にそれへのアンチで作ってるわけじゃないけど、少なくとも『MUSICS あるいは複数の音楽たち』に関しては、そういう視点では一切評価軸には乗らないというか。録音してもいいけど、全然違うものになっちゃう」(大友良英)

 こうした全貌が把握し難い非記録的なアプローチは、新宿ピットインでのアジアン・ミーティング20周年記念の公演でも試みられた。11月6日、ピットインの会場は通常のようにステージと客席が一方通行的に分かれたセッティングではなく、会場内の至るところに楽器が置かれ、それらミュージシャンの持ち場を取り囲むようにステージの上にも下にも客席が設置されていた。座る場所によって目の前で演奏が見えるミュージシャンもいれば、音しか聴こえてこないミュージシャンもいる。1stセットではデュオ〜トリオの小編成による短いセッションを4つ行い、2ndセットでは全員が参加した集団即興をおこなった。むろん江之浦測候所に比べれば、ひとまずは全員の音を聴くことができるという意味で「全体」が把握できはする。

 だがたとえばわたしが座った場所からはトランペットの類家心平とターンテーブルのdj sniffがよく見え、このふたりの演奏が特に強烈だったのだが、それは手元まで見える位置で体験したから印象が強かったとも言えるかもしれない。座る場所が異なればライヴの印象はまた違っていたことだろう。視覚的な体験としてもそうだし、聴覚的にも——いわば異なるミキシングで聴くように——それぞれの観客にとって別様の体験をもたらしたと思われる。先ほど「全体」と書いたが、それは出来事の総体ということではなく、ピットインという空間を来場者同士で「共有」していたと言った方が正確だろう。2ndセットは映像が配信されていたが、映像では記録し切れない要素が現場には多々あった。


11月6日(木)、新宿ピットイン。撮影:横井一江

 こうも言い換えることができるだろう。演奏者や観客それぞれに出来事の中心があったのだと。ただし単にバラバラな体験がもたらされたのではなく、全体としてひとつの同じイベントを共有していた。何かひとつのことを全体で描いているが中心はひとつではない、そのような試みは、アジアン・ミーティング・フェスティバルがテン年代を通じて磨き上げてきたひとつの音楽実践のフォーマットであった。以前、2017年に札幌で開催されたアジアン・ミーティング・フェスティバルを評して松渕彩子が「中心を持たない円を描く」と記していたが、これは言い得て妙だと思う。全体としては円を描いている。だがそうでありながら中心を持っていない。むしろ多数の中心がある。多数の中心があり、誰も全体を掴めない中で、しかしながら全員で何がしかを共有しつつ、全体として何かを作り上げていくこと。

 そもそも人間社会とはそのようにできている、とも言える。というより音楽とは、ある種の人間社会を反映するものである。とりわけ集団即興はプリミティヴな形でそうした社会のありようを映し出す。アジアン・ミーティング・フェスティバルにあっては、国籍もジャンルも違えた、異なる背景を持つ人びとが集まり、時と場に応じて音を介した共同作業をおこなう。あらかじめ用意された再現すべき設計図があるわけではなく、交流を通じてその場で何がしかを設計していかなければならない。中心が多数あることは、こうした共同作業を必ずしも円滑に進めるとは限らない。むしろ衝突や破綻のリスクと隣り合わせである。だがそれこそが人間社会の豊かさでもあるのではないか。

 むろん中心を設けないという大友の試みはいまに始まったわけではない。それどころか大友の活動に一貫した音楽思想であるとも思う。「MUSICS あるいは複数の音楽たち」において録音を前提としない音楽を考えていたことも、生のパフォーマンスに真実が宿るといった現場主義的な発想ではなく、それ以前に、録音偏重の時代に評価軸の中心をズラそうとしたからであるはずだ。そしてそのような複眼的思考はわたしたちがいま生きていくうえであらためて見つめ直すべきことでもある。ひとつの中心、ひとつの価値観、ひとつの原理に大勢が偏りつつある時代においてこそ。

音楽には世界を変える力がある──

混迷きわまる現代日本において、声をあげつづける音楽家たち

[インタヴュー]
マヒトゥ・ザ・ピーポー
寺尾紗穂
Mars89+Miru Shinoda
津田大介
ダースレイダー
春ねむり
DANNY JIN
毛利嘉孝

[特別インタヴュー]
ニーキャップ

菊判220×148/208頁
装丁:大倉真一郎+安藤紫野
表紙写真:野田祐一郎

目次

世界を変える音楽の力(野田努)

[インタヴュー]
Mars89Miru Shinoda 低音で空間を制圧する──Protest Raveのこれまでとこれから(小林拓音/野田祐一郎)
寺尾紗穂 ガラッと変わってしまった世界で、それでも歌いつづける(二木信/川島悠輝)
津田大介 社会全体が不感症になっているいまこそ音楽の力が必要だ(二木信/河西遼)
マヒトゥ・ザ・ピーポー 俺はすごく面白いですね、この流れはすべて、試されてるなと思う(野田努+小林拓音/野田祐一郎)
ダースレイダー 乱世にこそ輝くヒップホップ(二木信/河西遼)
毛利嘉孝 『ストリートの思想』の著者が俯瞰するここ20年の日本の変化(二木信+小林拓音/小原泰広)
春ねむり 沈黙しない音楽(野中モモ)
DANNY JIN そのラップは多くの人びとに勇気を与える(二木信/河西遼)

[コラム]
一声二節三臓のちから──日本の大衆歌が育んできた豊かな想像力(中西レモン)
橋の下でうごめく、新たな自治空間──「橋の下世界音楽祭」の挑戦(大石始)
ECDの軌跡──『失点 in the park』に刻まれた選択と孤独(高久大輝)
2003年、反戦サウンドデモの思い出(水越真紀)
いま台湾から世界が変わりはじめている──台北レイヴ・カルチャーの一側面、〈Urban Legend 1.0〉とSssound Without Borders(二木信)

[特別インタヴュー]
ニーキャップ 彼らがアイルランド語でラップする理由 (イアン・F・マーティン/竹澤彩子)

プロフィール

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Loraine James - ele-king

 ロレイン・ジェイムズが4枚目となるニュー・アルバム『Detached From the Rest of You』を5月8日に〈Hyperdub〉よりリリースする。本名名義としては2023年の『Gentle Confrontation』以来のアルバムだ。今回の新作について本人は「IDMポップ・スター・アルバム」と形容しており、〈Mille Plateaux〉の『Clicks & Cuts』や青木孝允(AOKI takamasa)池田亮司などから影響を受けているという。ゲストとしてミネソタのヴェテラン・バンド、ロウのアラン・スパーホーク、ティルザ、チボ・マットの羽鳥美保、NYのドラマー、アニシア・キムなどが参加している模様。現在、シドニー・スパンをヴォーカルに招いた新曲 “In a Rut” が公開中だ。


https://hyperdub.net/products/loraine-james-detached-from-the-rest-of-you-cd-vinyl-digital?srsltid=AfmBOorvRhWr4bzGqmdmso3vntBqGyHMnVTeuOKZQSDZoeVIfqOHTO-2

Milledenials - ele-king

 目隠しで聴かされたら、バリ島出身のバンドによる2020年代の新作とは気づかないのではないだろうか。粗削りなファズで歪んだテンション・コードとノイズの奔流はソニック・ユースやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを思わせる。甘くてほろ苦いメロディは往年のラッシュ(Lush)やペイル・セインツ、ヴェルヴェット・クラッシュのようだ。深くかけられたリヴァーブは90年代の残響なのだろうか。
 ありとあらゆる音楽が聴けるようになったこの時代に、彼(彼女)たちは、なぜこのスタイルを選び、何をつかみ取ったのか?
 インドネシア・バリ島のデンパサールで2020年に結成されたバンド、ミレディナイアルズ(Milledenials)の日本デビュー作『Youth, Romance, Shame』を聴きながら、そんなことを考えた。

 ヴォーカル/ギターのナディヤ・ナリタを中心に、マデ・クリスタナ(ギター)、バグス・アディティヤ(ベース)、ダリン(ドラム)の4人で活動するミレディナイアルズは、自分たちの音楽を、シューゲイザーとエモを融合した「エモゲイズ(Emogaze)」と呼んでいる。「Millennials(ミレニアル世代)」を「milled(すり減らされる)」と「denial(拒絶)」にかけたバンド名には、ティーンエイジャーを過ぎて20代半ばで青春のピークを失い、メンタル・恋愛・キャリアの消耗にさいなまれる彼らの心情が込められている。
 2010年代に普及したSpotifyやApple Musicといったサブスクリプションの影響下で育ったデジタル・ネイティヴ世代の彼らは、90年代のインディ/オルタナティヴ・ロックの文法を、自分たちのアンニュイな痛みに引き寄せてつかみ取った。そのリアリティと切実さが、全14曲・約42分のアルバム『Youth, Romance, Shame』に込められている。

 25歳で人生のピークは終わった。家族からは結婚しろと圧力をかけられる。そんな疲労感と憂鬱が歌われる “Youth LiFe”、うまくいかない人生のなかで見失った自分を取り戻そうともがく “Precious Me”。ツアーから帰ってひとり家にいると瓶のなかに閉じ込められている気持ちになるというバーンアウト感覚を歌った “Feel Any Pain”。
 楽しかった夜の翌朝に襲ってくる後悔と自己嫌悪、くすぶり続ける青春の蹉跌。“You Know That Youth Never Left” で歌われる、自分はもう若くないのに、青春が自分から去らない、若さが延命されるという感覚。
 “Nothing” はタイトルどおり、何もない空っぽの自分、夢のなかへの逃避、消えてしまいたい願望、虚無と絶望を、轟音ギターの甘い響きで麻痺させ絶叫で吹き飛ばす。
 アルバム・タイトル『Youth, Romance, Shame』とは、もとになった3枚のEPのタイトルからとられたものだと思われるが、過ぎ去った青春(Youth)、破綻した恋愛(Romance)、それでも歌い続けることへの自己嫌悪=恥(Shame)とも深読みできる。

 SNSのライヴ映像でバンドとオーディエンスが一体になって歓喜に満ちた表情でモッシュする光景を見ると、かの地の同世代にとってミレディナイアルズがどんな存在なのか、どのように受け入れられているのかが伝わってくる。もみくちゃになりながら合唱する姿には、彼らがどれほど愛されているか、大事に思われているかという熱い共感が伝わってくる。
 疲労感と絶望、みじめな現実への拒絶が、見失ったセルフイメージと尊厳の回復をドライブする。ミレディナイアルズの音楽は、打ちひしがれた者たちの祝祭なのだ。

 高級リゾートホテルが立ち並び、訪れる富裕層が華やかな暮らしを満喫する世界でも有数の観光地、バリ島(インドネシア共和国・バリ州)。芸能・芸術の島として知られ、観光収入が全体の3分の2を占めているが、近年はリゾート開発の過剰化とグローバル化が伝統文化を脅かしている。
 中世東南アジアの大国・マジャパヒト王国からインドネシア全域に伝播した伝統音楽ガムランはバリでも発展・定着しており、土着信仰とヒンドゥー教が習合した「バリ・ヒンドゥー」と結びついた信仰と儀式の文化のなかで受け継がれ、色彩豊かな建築物や民芸とともに現地における共同体の精神を育んできた。

 ミレディナイアルズの拠点であるバリ最大の都市デンパサールの音楽シーンでは、サーフ・ロック、パンク、オルタナティヴ、レゲエ、DJミュージックが盛んで、インドネシアの首都ジャカルタほど規模が大きくないぶん、さまざまなジャンルのアーティストが雑居し、DIY精神をもって活動している。地方都市によく見られる構造だが、そのなかでもとりわけミレディナイアルズのようなバンドはかなり少数派のようだ。
 ちなみにバリのインディーズ・シーンはベノア湾埋め立て反対運動のような社会運動と結びついており、伝統と開発圧力のはざまでアイデンティティの危機を抱える若者たちが、平和的・創造的抵抗を生み出している。

 伝統的な共同体のなかで孤立する個人の喪失感と虚無感。ミレディナイアルズはこのコントラストを蠱惑的に奏で、時代の気分と集合無意識を形にしている。この叫びには、観光地バリ島の華やかなイメージの陰画のような、鮮烈なリアリティがある。

KMRU - ele-king

 エモーショナルでありながら静謐。サイレンス/エモーショナルなアンビエンス。アンビエント音楽における人と社会の関係性の再構築。

 そのような音の痕跡と感触が、KMRUの音楽を特徴づけている。彼の粒子状のアンビエンスは、われわれの意識を「ふたつの状態」へと分けていく。そこにこそ聴取の「創造的進化」があるとでもいうように。
 2017年頃から活動・リリースをはじめ、コロナウイルスが猛威を振るった2020年代初頭に活動を本格化させた彼にとって、「個人と社会」の関係性の再構築は重要なテーマなのだろう。

 ケニア・ナイロビ出身、現在はベルリンを拠点に活動するKMRU(Joseph Kamaru)は、フィールド・レコーディングと電子音響を横断するアンビエント作家として国際的な評価を確立してきた。KMRUは幼少期にギターやフルートなどを手にし、独自のサウンド感覚を培ったという。2018年にはレジデント・アドヴァイザー(RA)で「いま聴くべき東アフリカのアーティスト」のひとりとして紹介された。
 2020年にリリースされた『Peel』は、彼の名を新世代アンビエント・アーティストとして世界に知らしめた重要作である。このアルバムはコロナ禍で制作された。本作『Kin』は〈Editions Mego〉から発表されたアルバムであり、同レーベルからは2作目となる。以降、彼は各地のフェスティヴァルに出演し、アルバムを制作し、ナイロビとベルリンというふたつの拠点を往復してきた。その「身体性」の経験は、彼のアンビエントに漂う「移動と記憶」の感覚を裏打ちしているともいえる。
 2026年の『Kin』と2020年の『Peel』とのあいだには明確な連続性がある。都市の環境音を緻密に織り込み、個と空間の関係をエモーショナルで静謐なアンビエンスによって浮かび上がらせた『Peel』に対し、『Kin』はさらにその主題を深化=進化させている。『Kin』で焦点化されるのは、音と音、人と場所、記憶と時間といった複数のレイヤーが織りなす「関係性」そのものだ。タイトルの「Kin」は英語で血縁や近縁を意味する。だが本作が示すのは、人間関係だけではない。身体と空間、過去と現在、不在と残響。それらが相互に浸透し合うサウンドスケープを構成・生成しているのだ。

 『Kin』の制作はナイロビで開始されたが、レーベル創設者であるピーター・レーバーグ(ピタ)の急逝によってプロジェクトは一時中断を余儀なくされる。1994年に〈Mego〉を設立し、後に〈Editions Mego〉へと再編、実験電子音楽の拠点を築いたレーバーグの存在は、KMRUにとってレーベル主宰者以上の意味を持っていた。その彼の不在は、本作全体に通底する静かな緊張と陰影へと転化しているといえよう。とはいえ『Kin』は喪失を直接語る作品ではない。不在を構造として引き受けつつ、その「震え」を持続させる音楽なのだ。個人的な経験とレーベルの歴史、共同作業の痕跡が深層に沈み込みながら、静かな強度を保つ。
 音響面では、広がりのあるドローン、環境音、微細なノイズ、断片的な旋律が層を成す。だがそれはたんなる空間装飾ではない。冒頭曲 “With Trees Where We Can See” は柔らかな音色で聴き手を包み込むが、内部では絶えず微細な揺れが持続する。音は決して安定しきらず、わずかな歪みを抱えたまま漂う。その不確かさが、本作の感情的リアリティを支えている。
 2曲目 “Blurred” には、フェネスが参加。〈Editions Mego〉の歴史と深く結びつく彼のギターは、ここでは繊細に分解され、グリッチ状のドローンと溶け合う。煌めきは前景に出ることなく、音響組織の内部で淡く光る。世代や地理を超えた対話が、音場のなかに刻まれている。続く3曲目 “They Are Here” は濃密な陰影を帯び、4曲目 “Maybe” では電子的な高まりが波のように押し寄せる。
 さらに5曲目 “We Are” では抽象的なリズムの断片が浮上するが、決定的なカタルシスは提示されないまま、一種の断片性を保ち続ける。楽曲はつねに「途中」にあり、完結を拒む。この姿勢は、音楽を結論ではなく思考と感覚を開くプロセスとして捉えるKMRUの美学を体現しているといえる。ラスト6曲目 “By Absence” は20分を超える長尺曲だ。ここでは「空虚」が「欠如」ではなく、音を受け止める能動的な場として機能する。聴き手は音を「鑑賞する」というより、時間とともにサウンドスケープへ「棲み込む」感覚を得るだろう。
 以上、全6曲。『Kin』を繰り返し聴き込むほどに思うのは、KMRUの時間処理の精緻さである。明確な起承転結を排し、持続のなかで緩やかに変容する。その繊細かつダイナミックな音響生成と時間処理は、本作でもさらに研ぎ澄まされている。その抑制された変化の内部に、濃密な情感が封じ込められているとでもいうべきか。存在と不在が交錯する瞬間、微細な振動が記憶を揺さぶるのだ。

 特筆すべきは、空間設計の巧みさだ。KMRUは音を前景と背景に単純に分割するのではなく、複数の層を半透明の膜のように重ね合わせる。その結果、聴き手は定位のはっきりしない音の「あわい」に身を置くことになる。音像は明確な輪郭を持たず、遠近感も固定されない。まるで都市の残響がゆっくりと拡散し、再び収束する過程を俯瞰しているかのように。この両義的な曖昧さは、移動と離散を経験してきた作家の身体感覚とも共鳴するのではないか。
 『Kin』は過度にドラマティックな展開を避けることで、リスニング体験の質を問い直す。強いフックや明確な旋律に依存せず、聴取者の集中力と想像力に委ねる構造は、ストリーミング時代の消費速度とは対極にある。音は即時的な快楽を与えるのではなく、時間をかけて聴き手の耳に、身体に、心にゆっくりと浸透する。そうした態度は、実験電子音楽の系譜を継承しつつも、内省的で開かれたアンビエントの新たな局面を提示している。その意味では2024年に〈Touch〉からリリースされた『Natur』の作風の延長線上にあるが、本作にはそこにエモーショナルな要素も加わっているように思う。『Natur』が都市論とすれば、『Kin』は個人と都市(街)との関わりを示す都市エッセイとでもいうべきか。
 また、グローバルな電子音楽の地図においても象徴的な位置を占めている点も忘れてはならない。アフリカ出身アーティストの実践が、たんなる地域的エキゾティシズムとしてではなく、批評的かつ構造的な音響探究として提示される点において、『Kin』は決定的だ。ここには単純な自己表象はなく、むしろ音そのものの運動を通して出自や歴史がにじみ出ていく。その控えめでありながら揺るぎない態度は、ポスト・インターネット以降の匿名的な音楽状況に対する応答とも読める。
 このような複雑な文脈のなかで網の目のように鳴り響く20年代のアンビエントである『Kin』(のみならずKMRUの音楽全体)が示しているのは、「アンビエント・ミュージック」の(さらなる/何度目かの)再定義ではないかと思う。
 環境音楽がしばしば「背景」として機能する音楽と理解されてきたのに対し、『Kin』は聴き手の知覚を静かに撹乱する。音は空間認識そのものを揺さぶる媒介として作用し、聴くという行為が受動的な受容から能動的な参与へと転換する。
 そう、『Kin』が提示するのは、関係性の持続可能性への再編成だ。人と人、都市と身体、過去と未来の交錯。それらは断絶ではなく、微細な振動によって結び直されること。音は記憶の容器であり、同時に未来への回路でもある。静寂と共振のあいだで揺れ続けるこの作品は、「聴取」という行為そのものを再編成する力を秘めている。

 静謐さとエモーショナル。都市と個人。この二つを往復するように鳴り響く、美しい粒子のような電子音響。それが『Kin』だ。本作はKMRUのキャリアにおける成熟を示すと同時に、現代実験電子音楽の現在地を示す重要作と位置づけられるだろう。

Free Soul × P-VINE - ele-king

 90年代からつづく名物コンピレーション・シリーズ「Free Soul」が、現在創立50周年を迎えているPヴァインとコラボレーション。新作Tシャツの販売がはじまることになった。「Free Soul」32周年にちなんで各3,200円、Pヴァイン50周年にちなんで全50種という驚異のラインナップ。完全受注生産とのことなので、ご予約はお早めに。

Free Soul × P-VINE presents
50th Anniversary "Free Soul" T-Shirts
In 50 color variations
PRE-ORDER START !

90年代以降、世界中の音楽ファンを魅了してきたコンピレーション・シリーズ “Free Soul” と、Pヴァイン創立50周年を記念したコラボレーション企画として、新作Tシャツの受注販売を開始します。

Pヴァイン内でレコードカルチャーを応援し続けてきた VINYL GOES AROUND が手がけた 2023〜2024年の本企画は、異例のヒットを記録。20代の若い世代から、90年代に青春を過ごした世代まで、幅広い層から高い評価を受けました。

当時は30ヴァリエーションでの展開でしたが、今回は50周年のアニヴァーサリーにちなんだ全50ヴァリエーションをラインナップ。

“Free Soul”の世界観と、Pヴァインが歩んできた50年の歴史を重ね合わせた、特別なコレクションとなっています。また、昨年末逝去された小野英作さん(Free Soul のロゴを手がけたデザイナー)への哀悼の意を込め、襟元に特別なイラストをプリントしました。

本商品は完全受注生産。ボディの在庫にも限りがございますため、数量に達し次第、受付を終了する場合がございます。 この特別な機会を、どうぞお見逃しなく。

ANVRGD-5002
Free Soul × P-VINE Official T-Shirts

サイズ: S / M / L / XL / XXL
販売価格: 3,200yen (With Tax 3,520yen)

受注期間:2026年3月4日(水)10:00〜3月29日(日)23:59
発送時期:4月下旬以降

https://anywherestore.p-vine.jp/collections/50th-anniversary-freesoul-tshirts

■橋本徹さんからのコメント

P-VINEの50周年記念で、三たび企画をいただいたVINYL GOES AROUND制作によるFree SoulロゴTシャツ。今回のオファーと前後して、Free Soulコンピのジャケット・デザインを手がけてくれた、僕の友人で恩人でもあるアート・ディレクター、小野英作が2025年12月21日に亡くなってしまいましたので、ご遺族の承諾を得て急遽、彼のSNSアイコンをタグ下にあしらい、R.I.P.メッセージをプリントさせていただきました。

P-VINE 50周年を祝して50種、Free Soul32周年にちなんで各3,200円。Free SoulもCafe Apres-midiもSuburbiaも今の自分があるのも、小野英作のおかげです。感謝と追悼の思いをこめて。
橋本徹(Suburbia)

Deadletter - ele-king

「ちいかわの逆張り」なんて書いたらアーティストに怒られてしまいそうだが、図らずも、私のなかでデッドレターとちいかわの二項対立ができ上がってしまった。

 のっけから何を言い出しているのかという感じだが、どうかお許しいただきたい。UKはノース・ヨークシャーを出身として現在はロンドンを拠点に活動するポスト・パンク・バンド、デッドレターの2ndアルバム『Existence is Bliss』のレヴューを書くこととなり、まずは公開されている本作品のプロモーション文章を読むことにした。なるほど、彼らはこの作品について以下のように語っている。

(前略)この現実のなかで、たんに「存在する」のではなく、あえて「生きる」ことを選択するのは──ある偉大な哲学者の言葉を借りれば──英雄的な行為である。ただ存在するだけであることを選ぼうとする誘惑は、あまりに強力で、馴染み深い感覚だ。しかし、自らの目をまっすぐに見つめ、人生の葛藤を引き受け、世界の酸素をたんなる呼吸のためではなく、「行動」し「耽溺」するために使うこと。それこそが、我々を人間たらしめるのだ。ただ在ることは至福かもしれない。だが、「生きる」ということは大きな混乱であっても、その先に待つ報いは計り知れない。

 私は冷や汗が出てくる。おいおい、ここは、なにも考えず、食べて、働いて、怖い目に遭いながらも「生き延びる」ことが何より肯定され、無力であることも、立ち止まることも等しく祝福される世界観を持つ「ちいかわ」さまが絶大な指示を得ている日本である。「ただ存在するだけ」を拒絶し、「生きること」を英雄的行為として言及するこの一文は、この国のマジョリティが縋り付く安寧の空気に対し、あまりにも鋭利なクエスチョンを投げかけているように思えたのだ。

 まずはデッドレターについて説明すると、2010年代後半のUKサウス・ロンドンを端にしたポスト・パンク・リヴァイヴァル以降に出現したこの6人組は、その大所帯ゆえの厚みと、ストイックなまでの緊張感を武器に頭角を現してきた。タイトに刻まれるドラムはダンス・フレンドリーな推進力を持ちながら、つねに楽曲に抜き差しならない緊迫感を走らせる。ビートを導火線として機能させる切れ味鋭い2本のギターと、感情を煽り立てるサックス。ダンスフロアに直結するようなテンポの良さのなかで、フロントマンのザック・ローレンスは、ビートの上にしかめっつらに言葉を叩きつける。
 その手法において、彼らはヤード・アクトらと地続きに見えるかもしれないが、ヤード・アクトが皮肉とユーモアで現代社会の滑稽さをなぞるのに対し、相当な読書家として知られるザックのヴォーカルは、もっと剥き出しで、哲学的な問いの「豪速球」を投げ込んでくる。ストイックなサウンドがもたらす肉体的な快楽性と、リリックに現れる文学的・形而上学的なアプローチ。このコントラストこそがデッドレターの面白さだと感じている。個人的には、初期の代表曲 “Fit For Work” や “Line The Cows” はDJでも大変お世話になった楽曲なので、未聴の方はぜひチェックしてみて欲しい。

 今作のリード・トラック “To The Brim” は、バンドの洗練された進化を端的に示す一曲だ。BPM132の太く踊れるビートが刻まれながらも、アコースティック・ギターのスローモーションな旋律が並走し、カオスと美しさの両面に立ち上がる二重構造が浮かび上がる。パンクの衝動を超えた計算されたアンサンブルが叙情的な輪郭を描き出しているのは、“What the World Missed” や “Focal Point” といった楽曲でも明らかで、彼らがたんなる「怒れる若者」から「思考する表現者」へと脱皮したことを物語っている。

 さて、今作のテーマ、そしてタイトルである『Existence is Bliss(存在は至福だ)』についてもう一度考えよう。本作を通して聴こえてくるのは、「ただ存在する」ことの危うさを、社会構造・テクノロジー・自己欺瞞・トラウマ・承認欲求・アイデンティティの喪失といった複数のレイヤーから解体していくプロセスである。

 例えば、“It Comes Creeping” における「それ(It)」とは、あらゆる依存や観念に読み替え可能な寄生体だ。それは私たちの意識の隙間に忍び込み、人格を乗っ取っていく。「Before it skins you / hangs you out / And wears you like a sweater(お前を剥ぎ取る前に/吊るし上げ/セーターのように着る)」というラインは、現代ホラー的な生々しさで、主体性を失った人間が無残な「器」へと成り下がる恐怖を突きつける。また、“Among Us” では、私たちの欲望と一体化したテクノロジーが、監視する側とされる側の主客を逆転させるディストピアを描き出す。

 こうした冷徹な観察眼は、たんなる社会批判に留まらない。アルバム中盤の “Cheers!” では、「Cheers! Cheers for waking up!(乾杯! 目覚めに乾杯!)」という叫びが響く。字面にすれば素朴な一言だが、ザックの切迫したヴォーカルで放たれるとき、それは自分自身と向き合うことを決意した者への、血の通った祝杯へと変貌し、奇妙な清々しさを残す。“Focal Point” で示される、人生の混乱を拒絶せず、かといって悲観主義にも陥らない強かな態度は、本作の底流にある「意志」の強さを象徴している。

 クロージング・ソング “Meanwhile, In A Parallel” で放たれる「the opposite of living isn’t death, it is existing(生きることの反対は死ではない、存在することだ)」という一節。これに触れたとき、本作のタイトルがたんなる皮肉ではなく、切実な「存在の再定義」であることに気づかされる。

 情報の濁流に呑まれ、思考を停止して「ただ存在する」ことで嵐をやり過ごす。それは、ちいかわたちが過酷な世界で「生き延びる」ために選択する切実な生存戦略と似ている。その倫理を否定することは誰にもできない。しかし、デッドレターはそこから「もう一歩」を踏み出すことを促す。彼らにとっての「Bliss(至福)」とは、平穏な静止状態ではない。葛藤し、傷つきながらも、自らの意志で世界の酸素を使い切る瞬間に火花が散る、爆発的な生の実感を指すのだ。存在は至福かもしれないが、放置されたままでは腐るのだと。

 ちいかわ的な「生き延びる」倫理と、デッドレターが提示する「生きる」倫理。実際のところその狭間で揺れ続けることこそが、現代を生きる私たちの正直な姿であり、どちらも否定はできないだろう。だが、その揺れすらも引き受け、混乱の渦中へ能動的に飛び込んだとき、私たちの目に映る『Existence is Bliss』の景色は、少し違ったものに見えてくるのかもしれない。

Laraaji × Oneohtrix Point Never - ele-king

 4月に大阪と東京での来日公演が決定しているワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。そのスペシャル・ゲストとして、なんと、巨匠ララージの出演が決定した。
 ダニエル・ロパティンといえば、彼が音楽を手がけた映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のサウンドトラックが2月27日にリリースされたばかりだけれど、ララージは同サウンドトラックにも参加しており、なんとも絶妙なタイミング、組み合わせと言えそうだ。
 来日公演の詳細は、こちらから

Dolphin Hyperspace - ele-king

 サンダーキャットルイス・コール、あるいは近年のドミ&JD・ベックなどなど、カリフォルニアには凄腕プレイヤーたちによるジャズ/フュージョン文化が息づいている。そうした系譜に新たに連なることになりそうなのが、ドルフィン・ハイパースペースと名乗る彼らだ。サックス奏者のニコール・マッケイブと、ベース奏者のローガン・ケインからなるこのLAのデュオは、すでに2枚のアルバムを発表しているのだけれど、来る5月1日、3枚目のアルバム『Echolocation』がリリースされることになっている(ルイス・コール、ジャスティン・ブラウンらも参加)。このアルバムでいよいよブレイクしそうな予感がひしひし。チェックしておきたい。

先行シングルのヴィジュアライザー

ルイス・コールとのライヴの様子

LAビートシーンを切り裂くブっ飛びエレクトリック・ジャズ、ドルフィン・ハイパースペース最新作!ベースとサックスのバカテクデュオに超絶ドラマー、ルイス・コールも参加した摩訶不思議奇天烈ダンスビートとエレクトリック・ジャズの融合!

ニコール・マッケイブ(Sax)とローガン・ケイン(Bass)によるバカテクデュオに超絶ドラマー、ルイス・コールも参加した、摩訶不思議奇天烈ダンスビートとエレクトリック・ジャズを融合したドルフィン・ハイパースペース最新作がリリース決定!

現代ジャズの先進性と電子音楽の拡張性を取り入れたジャズの複雑なハーモニーや即興的なアプローチとシンセサイザーやビートシーンから生み出されたエレクトロニックな要素をクロスオーヴァーしたサウンドはLAビートの新たなスタイルと言っても過言ではないでしょう。

同じくLA拠点に活動する超絶ドラマー、ルイス・コール、ジャスティン・ブラウンに加えて、グラミー賞ノミネートのピアニスト、ジェラルド・クレイトンもゲスト参加し、前作でも話題となったイルカをフィーチャーしたビジュアルは健在!

現在進行形のLAジャズ/ビートシーンを体現するサウンドを聴き逃しなく!!

The Life of a Bee (official visualizer)
https://youtu.be/UyKaLedYRmA

【Streaming/Download/Pre-Order(CD/LP)】
p-vine.lnk.to/kaBy6J

【リリース情報】
アーティスト:DOLPHIN HYPERSPACE / ドルフィン・ハイパースペース
タイトル:ECHOLOCATION / エコロケーション
フォーマット:CD/LP/DIGITAL
発売日:2026.5.1
定価:CD ¥2,750(税込) / LP ¥5,060(税込)
品番:CD PCD-25524 / LP PLP-8334CP
レーベル:P-VINE

【Track List】
01.Vacation
02.BIG FISHY feat. Louis Cole
03.The Life of a Bee feat. Louis Cole
04.Kyoto feat. Louis Cole & Bad Snacks
05.Dolphins are Cute feat. Jon Hatamiya & Justin Brown
06.Biological Sonar
07.Dolphin Samba feat. Aaron Serfaty
08.Green Chimneys feat. Gerald Clayton
09.The One Evil Dolphin (About Which We Can Make No Conclusions)
10.Cool Star feat. Justin Brown
11.Sardine Jam Session feat. Louis Cole
12.Dolphin Mode feat. Bad Snacks & Justin Brown
13.Never Give Up on Cephalopods
14.My Big Break feat. Louis Cole
15.Memories of the Deep Blue Sea feat. Justin Brown
LP SIDE A:M1-M7 / SIDE B:M8-M15

【DOLPHIN HYPERSPACE (ドルフィン・ハイパースペース)】
USロスアンゼルスを拠点に活動するエレクトロ・ジャズ・デュオ。サックス奏者のニコラ・マッケイブとベーシスト/プロデューサーのローガン・ケインの2人により結成され、現代ジャズの先進性と電子音楽の拡張性を取り入れジャズの複雑なハーモニーや即興的なアプローチとシンセサイザーやビートシーンから生み出されたエレクトロニックな要素をクロスオーヴァーしたスタイルが特徴的なアーティストである。2020年に1st EP『Dolphin Hyperspace』、翌2021年に1stアルバム『Mini Giraffe』を発表するとともにLAビートシーンで頭角を現していくと、2024年に発表した2ndアルバム『What is my Propoise?』ではルイス・コールやジャスティン・ブラウンといった同じくLAを拠点とし世界的にも高い評価を得ているドラマーをゲストに迎え、そのサウンドの先進性と奇妙奇天烈なグルーヴから生み出させる絶妙なポップネス、そしてイルカのイラストをカヴァーに採用した独特なアートワークで日本国内でも話題となり世界的にリスナーを獲得している。2026年5月にリリースされる『ECHOLOCATION』には前作から活動を共にしているルイス・コール、ジャスティン・ブラウンに加えて、同じくLAを拠点に活動するグラミー賞ノミネートのピアニスト、ジェラルド・クレイトンも参加するなど現在進行形のLAジャズ/ビートシーンを体現する作品へと仕上がっている。
https://www.instagram.com/dolphinhyperspace/

Cardinals - ele-king

 目の前にはパソコンがあってDAWがあって配信するプラットフォームがある。ひとりで完結できる時代においてバンドを組む理由はなんだろう? そんなことを3人のソロ・アーティストが組んだバンド、ボーイジーニアスの曲を聞きながら考えたことがあったけれど、その理由のひとつには自分の形を保ったまま離れた場所にいけるというのがあるのかもしれない。ジュリアン・ベイカーが『Loud And Quiet』の18年のインタヴューで「バンドを組むのはコントロールを放棄できるから最高」というようなことを語っていたが、まさにそうなのではないかと26年のいま再び思う。楽曲だけではなく、SNSを通しプロモーションやその曲が生まれた背景についてまで直接的に自身の言葉を届けられ、それが特殊なことだとは思わなくなったいまは様々なことがコントロール可能になった時代と言ってもいいだろう。だがそれを続けた結果少しばかりインターネット疲れのようなことが起こってしまっているかもしれない。演者にしても観客にしても(現代のネットの世界ではみなが演者で観客だ)言葉と選択の全てに意味が求められ、リスクとリターンを天秤にかけたやり取りをおこない眺め続けている。みんながみんなスマートに生きることを目標に力いっぱい舵を握りしめているような状態だ。そんななかで僕らは純粋な刺激を求めコントロールできないなにかをバンドのなかに見つけようとする。いまさらロックンロールがカウンターカルチャーだなんて思うことはないけれど、そうだとしても少しくらいは違うものを求めてもいいじゃないか、とそんな心が顔を出す(だってどこにバツ印があるかわからない広告だらけの世界なんてくだらないのだから)。完璧にコントロールできないもの、どんなふうに転がっていくのかわからない、価値の定まっていない未知なるものに僕らインディ・ミュージックのファンは夢を見、ロマンを感じるのだ。

 そしていまとびきりにロマンを感じるバンドがある。そう赤黒く燃え続けるカーディナルズのことだ。若く、生意気で、繊細で憂いがありそれでいて野心も持ち合わせるアイルランドのギター・バンド。この特徴はもちろんデビュー当時のフォンテインズD.C.が持っていたものであり、実際にカーディナルズはフォンテインズD.C.のフィンズベリー・パーク公演のオープニング・アクトを務めている。しかしそうした共通の特徴を持っていながら決定的な違いがある。初期のフォンテインズD.C.の詩的な美しさは外に向かい自身と社会との間のいら立ちを攻撃的に描いていたが、カーディナルズのそれはより繊細に内的な思考へと向かうのだ。ギター・ヴォーカルのユーアン・マニング、その兄弟でアコーディオン奏者のフィン、ドラムを叩くイトコのダラ、子ども時代からの友人オスカー・グディノヴィックがギター、アーロン・ハーレーがベースを弾く5人組はバンドという小さなコミュニティのなかに思考を漂わせ、それを形にして外の世界に提示する。個人の頭に浮かんだ考えが、空気に触れ温度を持ってバンドのなかで解釈されていく。それは完璧にはコントロールできないもので、転がり跳ねていくものだからこそ美しい。セルフタイトルのEPに収録された “Twist And Turn” の「砕けて燃えるロック・アンド・ロール」というのはいささかストレート過ぎる気もするのだが、それもバンド、そして歴史のフィルターを通れば未成熟の青さと消費されていく情熱の「消えない光」へと変換されていくといった具合に。

 そしてこの1stアルバム『Masquerade』はカーディナルズのその姿勢を見事に提示する。これまでの楽曲よりもよりアコーディオンを前面に出すことでバンドの持つ憂鬱なロマンティックさを加速させているのだ。“St. Agnes” でのそれは直線的なギターの躍動に重ねられ、曇り空の街に差し込む光ような表情を見せ、タイトル・トラック “Masquerade” ではささくれ立った陰鬱な心を現すバンド・サウンドのなかに影のように伸びた憂いをプラスする。それは優しく慈しむような響きを持って、カーディナルズをありふれた若手インディ・バンド以上の存在にする。これがシンセサイザーだったらどうだっただろうか? それではきっとここまでではなかった。風を送り込むことによって音を出すアコーディオンは人の持つ感情のニュアンスを伝えてくる。“Masquerade” や “I Like You” での柔らかな息遣いは誰かの視線を感じさせ、この曲の風景を眺める視点を提示する。それが曲の温度や色味を決めるのだ。思考のなかに温度はないが、外に出た物語のなかには温度がある。ロマンティックなカーディナルズの音楽はその解釈のなかに特別な景色を生み出している。人そのものではなく、人がいるという気配。アルバム最後の曲 “As I Breathe” はその最たるもので、物言わぬアコーディオンのその気配が後ろで見守るように付いてくる。自身と対話をするように呟くユアンのヴォーカルと合わさったそれは夕暮れの景色のように憂いを帯びて、訪れる別れの予兆を感じさせもする。
 ザ・リバティーンズのラインに連なるようなガレージ・ロックとアイリッシュ・パンクを混ぜたような “Anhedonia”、心をかきむしるヘヴィーなギター・サウンドのバンガー “Big Empty Heart”、ひとつひとつの楽曲も不器用で粗削りだか確かな強度を感じさせる。あるいはアルバム全体として見ると、まとまりに欠けるという面はあるかもしれないがその乱雑さもデビュー・アルバムのこの段階では魅力に映る(それはやはりいつか失われる青さだといういうふうに頭のなかで変質していくのだ)。

 『NME』のインタヴューでユアンはアートにとって脆さこそ価値あるものだと語っていたが、それが音となりこのアルバムのなかに現れている。キラキラとした輝きではないカーディナルズの音楽はある意味で解釈の音楽なのかもしれない。ストレートな言葉だがはっきりとしたものではないニュアンスが意味を決めるような。僕にはこの1stアルバムが夕暮れの音楽に聞こえる。夕暮れの風景は人の表情をわからなくし、漂う気配から想像する必要が出てくる。そう、感じ取ろうと解釈する曖昧さのなかに実体のない快感が生まれるのだ。あらゆるものが最適化されていこうとする時代のなかで、そうではない音楽を生み出そうとするバンドの魅力というものをここに感じる。

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