「Nothing」と一致するもの

COM.A - ele-king

 絶妙なタイミングというべきか、あるいはこれこそが素晴らしき未来への道筋なのかもしれない。1999年にジョセフ・ナッシングとの ROM=PARI の1人として登場、00年代を通じて〈Fat Cat〉や〈ROMZ〉などから精力的にソロ名義でのリリースを重ね、キッド606 の〈Tigerbeat6〉ともリンク、エイフェックス・ツイン不在の時代に強烈なブレイクビーツで世界を震撼させたIDMの異端児、パンクの精神でこよなくメタルを愛する COM.A が、じつに13年ぶりの新作を発表する。
 夢なんかくそくらえ、希望を殺せ──もちろん2001年の『Dream and Hope』を踏まえているわけだが、昨今の世の状況を考えるとなんともタイムリーな(??)タイトルだ。あの痙攣したビートがさらなる進化を遂げているだろうことは想像にかたくない。とあるシュルレアリストによれば、美とは痙攣である。すなわち COM.A こそ美である。発売は6月3日。打ち震えよ。

パンク・ミーツ・IDM! 日本におけるオウテカやエイフェックス・ツインへの反応として一世を風靡した “COM.A (コーマ)” 13年振りの最新作リリース決定!

2000年、UKの名門〈FAT CAT〉からデビューしてブレイクコア・ブームを先導、その後のデ・デ・マウスらの登場をうながした奇才、“COM.A (コーマ)”。前作『Coming of Age』から13年、1st アルバム『Dream and Hope』から早20年、長らく昏睡状態に陥っていたコーマが導き出したのが、アンビエントやジャジーなセンスも注入しながらも、しかし、あの痙攣したビートと遊び心はさらに進化、そして混迷する現代への痛烈なメッセージも含んだ怪作『Fuck Dream and Kill Hope』だ!

気がつけば、自分の脳内も把握できず、コントロールすることすら怪しいこの時代、相も変わらず出口の見えない状態が続いている。コーマも多分に漏れず、自分を制御できずに混乱と迷走を繰り返している、そうした日々の集大成が今回のアルバムとなった。あなたはこの楽曲をどう受け取るか、判断するか。2020年、新しいディケイドのはじまりに、夢と希望を壊された頭で、是非ご確認いただきたい。

COM.A『Fuck Dream and Kill Hope』Teaser
https://youtu.be/UXCLqG1Iv28

COM.Aが復活した!
なんとも言い難い復活タイミングですね。
普段は人がゴミのような街でもゴミないと寂しいもんだから、
イヤホンでこれ爆音で歩くとかつて見た未来のようで楽しくなる。
夢の国も休業中。だったら頭に中に夢の国作っちゃおう。

あの頃からお互い変わらない部分と進化した部分、歳食った部分あるよね。
と50年後も同じこと言ってロボットスーツでハグし合い酒を酌み交わし、
酔っ払ってステージから飛び、また骨折りたいね。
まあ、お互い生き残ってたらね。 ──world’s end girlfriend (Virgin Babylon Records)

新型コロナウィルスに東京オリンピック延期、日々更新され加速してゆくディストピアな状況。COM.A くんからもらったニューアルバムを聴きながら夜の首都高を走る。街はいつも通り動いている。2000年代に『dream and hope』を初めて聴いた時に感じたチープな終末感とそれを笑い飛ばすジョークのようなクライマックスな気分。そしてこんな混沌とした2020年にこのアルバムが聴けるなんてね、めちゃくちゃ最高。 ──Have a Nice Day! 浅見北斗

沈んだ日本。暗い世界。先のない地球。こんな時に COM.A が昏睡状態から覚めるとは。玉手箱を開けると次から次へとパワフルな音楽が。ぜんぜん空気、読めてません草。 ──三田格

みごとなパラドックス。夢と希望の電子音楽のオンパレード。 ──野田努(ele-king)

十年どころか三年前がひと昔前のさっこん、干支がひとまわりしておつりがくる十三年ぶりの新作とは、開いた口も耳もふさがらないが、そこに流れこむ音響はかつての異形の美から美の異形へ、軽やかに翻っている。タイトルからは想像もつかない楽想のポップさと印象深いメロディ、それらが重なる縦の線の動かし方がとても秀逸。二〇二〇年のサウンドトラックとでももうしましょうか。 ──松村正人(『前衛音楽入門』の著者)

[アルバム情報]
タイトル: Fuck Dream and Kill Hope / ファック・ドリーム・アンド・キル・ホープ
アーティスト: COM.A / コーマ
レーベル: P-VINE
品番: PCD-24941
定価: ¥2,400+税
発売日: 2020年6月3日(水)

[収録曲]
01. Unintelligent Life Forms
02. Another D
03. Signs
04. Fortuitous Blood
05. Rife
06. Liar’s hand
07. Let us be thankful and be happy
08. You know who you are
09. False Repentance
10. Vanished Sprout
11. Centillionaire

COM.A (コーマ)
イギリス生まれ、香港、アメリカ、日本育ち。メタル、テクノ、エレクトロニカ、ブレイクコア等の要素をタイトで強烈なダンス・トラックに仕立て上げるスキルとセンスは、国内外問わず大きな評価を獲得し、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリア、ベルギー、中国などからアルバム、シングル、リミックスをリリース。00年に〈fatcat〉からのスプリットシリーズを皮切りに、Shiro The Goodman とともに主催の〈ROMZ〉から4枚のアルバムをリリース。同アルバムは kid606 主催の〈tigerbeat6〉、ブレイクコアレーベルの〈zod〉、中国の〈Shanshui〉からライセンスされた。00~10年まで国内外のライブ、フェスに参加後、10年間ライブ活動を休止し、CM音楽や映画、アニメ音楽等、作家業をメインに活動。2020年、新しいディケイドの始まりに 5th album 『Fuck Dream and Kill Hope』をリリース。

-Official Website-
https://geeky2200.wixsite.com/com-a

Moment Joon - ele-king

大前至

他人事として聞き流すのか、共鳴することはできるのか?

 韓国出身で現在、大阪を拠点に活動しているラッパー、Moment Joon。これまで日本人の親を持ちながら海外で生まれ育った、いわゆる帰国子女のラッパーや、あるいは国籍としては日本人ではないものの、幼少から日本で育ってネイティヴな日本語でラップするラッパーというのは少なからず存在している。しかし、大学への進学を機に韓国から日本へ移住したという Moment Joon の場合はそのどちらにも属しておらず、(本人曰く)「移民者」ラッパーという非常に稀な立ち位置で、日本のヒップホップ・シーンにてその存在感を強烈に示している。日本では留学生という立場ではあるものの、ビザ取得の面など自由に平穏に滞在すること自体も容易なことではなく、また、日本での日常生活の中で直接的な人種差別も受け、その一方で韓国の成人男性にとっては国民の義務である兵役中には自殺を考えるほどの苦しい思いをするなど、彼がこれまでの人生で経験してきた様々な苦労は、大半の日本人にとっては想像することすら難しいことかもしれない。しかし、そんな彼だからこそ表現できるトピックを、日本語ラップという手法の中で見事なエンターテイメントとして昇華させているのが、彼の 1st アルバムである『Passport & Garcon』だ。

 アルバムの幕開けとなる “KIX” ではタイトルが示す通り、関西国際空港(=KIX)での Moment Joon 自身の実体験が再現されており、彼にとっては入国審査ひとつ取っても、通常の日本人とは全く異なることがよく判る。この曲に限らず、本作で重要なのは、彼の体験やメッセージを他人事として聞き流してしまうのか、あるいは何らかの共鳴をすることができるのか? それは彼の存在や言葉を「外」からものとして捉えるか、あるいは「内」として捉えるかと言い換えてもよいかもしれない。もし前者であるならば、本作を聴く資格はないとまでは言わないが、しかし、作品が持つ意味が全く違うものになってしまうだろう。

 また、Moment Joon は韓国語、日本語、英語のトライリンガルであるが、本作のリリックはそのほとんどが日本語であり、韓国語と英語はごく少量のみ(そして実に効果的に)使われているのみだ。彼の日本語はほぼネイティヴスピーカー並みであるが、僅かな発音のクセが彼の放つ言葉に個性という輝きを与え、一つの魅力にもなっている。その上で、彼が移民者としての立場から、日本という国や社会、日本人に対して発するストレートなメッセージは、痛いくらいに辛辣であったり、時には挑発するような過激な表現が含まれていたりもする。それこそ、ここまでコンシャスなアルバムは昨今の日本語ラップでは珍しいくらいだ。そして、その先にあるのは、彼が現在住んでいる日本への愛と希望であり、さらに彼自身が属する日本のヒップホップ・シーンへの強い思いも感じとることができる。ラストに収録されている先行シングル曲 “TENO HIRA” はその集大成とも言える一曲であり、ぜひ、リリックを一つ一つ噛み締めながら聞いて欲しいが、個人的にも、日本語ラップでこんなに心が揺さぶられた経験は久しぶりだ。

 最後に、作品としてこのアルバムをより豊かなものにしているのが、一つは Hunger (Gagle)と Justhis という日韓二人のゲスト・ラッパーであり、もう一つは全てのトラックを手がけているプロデューサー、NOAH の存在だ。美しく透明感もあり、そして様々な感情を引き出す NOAH が作り出すトラックによって、アルバムとしての統一したカラーが見事に作り上げられ、Moment Joon の伝えたいメッセージに一つの明確な道筋を与えているようにも感じる。澁谷忠臣氏がデザインを手がけたカバーも含めて、必要最小限のミニマルな構成で作り上げたからこその、見事なアート作品と言えよう。

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高島鈴

この曲を聴いて手のひらを掲げたなら、それはもう約束だ。

 その島は沈黙している。よく耳を澄ませば、何事かをごにょごにょと話している風ではあるのだが、「何かありますか?」と聞くとみなお互いに顔を見合わせて口を閉じるのだ。いじめが常態化した教室のように、誰も責任を負おうとしない。ただあいまいな内輪の空気が満ちている。列島社会は長らくそのようなムードを擁してきた。
 この糾弾すべき沈黙のなかで、Moment Joon は手を上げている。賞賛の両手ではない。異議申し立ての片手である。

 ソウル出身大阪在住の「移民者ラッパー」 Moment Joon。前作「Immigration EP」のレヴューでも書いたように、社会変革のために戦うファイターであり、同時に「生存以上生活未満」の営みを必死に回す弱い生活者である。
 3月13日にリリースされた Moment Joon の新譜『Passport & Garcon』は、間違いなく2020年の年間チャートを席巻するだろう。しかしこの作品が本当に評価されたと感じるためには、年間チャート1位では到底足りない。この公共を持たないゴミカス列島社会が変わって初めて、Moment Joon は自作の評価を確信できるに違いない。社会に変化を望むなら、いや望んでいない人こそ、Moment Joon の声を聞くべきだ。

 本作は痛みと苦悩、恐怖と怯えに満ちている。
 入管職員から韓国への出国を「帰国」と言い換えられる(“KIX/Limo”)。税金を払っているかどうか執拗に尋ねられ、曲を「日本の悪口」と切り捨てられる(“Home/CHON”)。自分に浴びせられた無数の差別言説を自分の口から取り出して見せる(“KIMUCHI DE BINTA”)。リスナーに人生を見世物扱いされ、自分の愛が敗れる気配を悟る(“losing My Love”)。自分が口にした変革の意思を、当の自分が信じられなくなっていることを明かす(“Hunting Season”)。被差別の経験を持つファンの子どもたちを見て、苦しみながら守られる側から守る側へ立ち上がることを決意する(“Garcon in the Mirror”)。

 Moment Joon は、他人の痛みを俯瞰することに慣れきった列島社会(a.k.a. いじめの蔓延した教室)の中で傷を晒し、どうにかこの場に対面性を持ち込もうと試みている。考えてもみてほしい、これらの曲を歌って、痛みがないわけがない。作って終わり、ではなくて、ステージの上でこの曲を歌うたびに、Moment Joon の身体は繰り返し削り取られるはずだ。受けた傷を何度も自分の身体の上で反復して見せるような楽曲を、Moment Joon は他ならぬその傷を見せるために発表し、歌っている。
 この痛みを耳にして、Moment Joon の傷の反復を終わらせなければならないと思わないなら、そのリスナーはいじめ教室の住人のまま一生を終えることだろう。Moment Joon に「もう傷を負わなくていい」と言える状況を作りだすにはどうしたらいいか考え、全員が動かねばならない。マジョリティとお金と男根的権力を主人とする政治家ではなく、弱い人の生存を一番に考える政治家を探し出して投票したのかどうか、身近な場所で行われている差別に「それダメですよ」と声を上げたかどうか、そういう選択の瞬間にこそ、Moment Joon の声を聞いたことへの責任がある。一瞬でも人の痛みに対面したなら、その責任は絶対に重い。

 本作の最後は、「feat. Japan」と付け加えられた楽曲 “TENOHIRA” で締められる。この曲だけが、明確に連帯への希望を見出している。

この島のどこかで君が手を上げるまで
寂しくて怖いけどずっと歌うよ
見せて手のひら(ひら、ひら)
見せて手のひら(ひら、ひら)
Moment Joon “TENOHIRA”

 この曲を聴いて手のひらを掲げたなら、それはもう約束だ。あなたと協働する、あなたの痛みを受け止める、という Moment Joon との約束である。そして「約束を守る」というごくささやかな公共を繋いだ先に、列島社会を覆う空気は晴れるのではないか。楽観ではなく戦略として、私は希望を信じたいと思う。

ele-king臨時増刊号 山本太郎から見える日本 - ele-king

今こそ政治が問われるとき

彼の掲げた問題は
現在さらに深刻になっていないだろうか?

2020年、知っておきたい日本の政治・経済・社会・文化

インタヴュー:
山本太郎
内田樹
宇都宮健児
松尾匡
宮台真司
望月衣塑子
渡辺照子

目次

◆INTERVIEW

山本太郎
 政治家・山本太郎はどこから来て、どこへと向かうのか

内田樹
 みんなが正しいことを言うけれど、そこには笑顔がない。もっとふざけた人がいていい。
宇都宮健児
 「人にやさしい政治」を実現するには?
宮台真司
 社会がつまらないんじゃない、お前がつまらないんだ!
望月衣塑子
 一人ひとりの記者が声を上げていけば、いつかその声は連鎖を生み「社会変革」につながる
松尾匡
 「生きているだけで価値がある」に行き着くための経済学
渡辺照子
 諦めて生きるには人生は長い。でも諦めないでなんとかしなきゃと思うと、人生の時間は限られている。

◆COLUMN / TALK

斎藤幸平
 山本太郎はポピュリストなのか?
高島鈴
 TikTok的、あまりにTikTok的な──「若者の政治的無関心」をひらく
白石嘉治
 山本太郎と「知性」の再開のために
松本哉
 昔ながらの民衆の生き方をすることが、カネばかりの資本主義社会へのいちばんの抵抗になる。
Mars89
 ぼくらはバンクシーが描いたネズミかもしれない。社会にいるのに無視された存在かもしれない。それを可視化すること。
沖野修也
 311以降の日本は現実を直視できないでいる。山本太郎が嫌がられるのはその現実を言うからでしょう。
マシュー・チョジック
 どうか日本はアメリカを真似しないでほしい。アメリカ式で進めていったら、日本も大変なことになります。 

表紙写真:岩沢蘭


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Tokyo Black Star - ele-king

 90年代から00年代前半にかけて、東京のハウス/テクノのシーンで活躍し、その後NY~ベルリンと移住しているDJ/プロデューサーのAlex from Tokyoとサウンドエンジニア熊野功によるTokyo Black Starの久しぶりの音源リリースです。タイトルは「Blade Dancer EP」。
 今回は、2015年よりメンバーに加わったアナログ機器オタクの高木健一との3人体制による新作で、彼らのヒット曲“Blade Dancer”の未発表のオリジナル。ヴァージョンと新ヴァージョンを収録。また〈Innervisions〉の2008年のアンビエント・コンピレーション『Muting The Noise 01』に収録された“Kagura”も再録。どれもアナログの音響が気持ちいいdeepなハウス&アンビエントです。
 アートワークはいつものようにNY在住の画家、松山智和の絵画をフィーチャーしながら、ベルリンのTa-Trungがデザイン。リリースはAlexの自主レーベル〈world famous〉から。日本の流通はDisk Unionなので、ハウスを扱っているレコ店のオンラインでチェックしてね。

吉田アミ - ele-king

 長らく廃盤となっていたヴォイス・パフォーマーの吉田アミによる代表作のひとつ『虎鶫(とらつぐみ)』が、2003年のリリースから17年の時を経て、このたび FTARRI のソロ専門レーベル〈Hitorri〉からリイシュー盤として再発されることとなった。自身の名義による作品であるものの実質的にはベーシストの tamaru とのデュオ作であった『Spiritual Voice』(1997)を除くと、本盤は吉田の最初のソロ・アルバムであり、また、ヴォイスを用いたフリー・ミュージックの歴史に革新をもたらした画期的作品でもある。

 あらためて振り返るなら、吉田アミによるハウリング・ヴォイスと呼ばれるそのサウンドは、ほとんど即物的に響く物音と化すことによって、声から意味や記号、人間的な内面性などを徹底的に剥ぎ取ることを成し遂げた。肉声という言葉に見られるように、人間によるあらゆる発音行為のなかでも声はもっとも深く身体に根差した表現である。ある声が発されるとき、その声はまずもって「誰かの声」という属人性とともに認識される。こうした属人性は声から身体を手繰り寄せ、音響以外のさまざまな意味/記号を聴き手に想起させることとなる。そしてこのことは、通常の音楽における歌声に限らず、声を器楽的に使用するパフォーマンスの歴史においても逃れ難く纏わりついてきた。たとえばキャシー・バーベリアンやファティマ・ミランダ、シェリー・ハーシュ、デヴィッド・モス、巻上公一らに見られるように、声による表現手法を開発/拡張し、それらの素材を自在に使いこなすことによって、いわゆる超絶技巧的なスペクタクルを聴かせるヴォイスからは、圧倒的な個性とともに声の持ち主の具体的な姿を思い浮かべることができる。しかし吉田の声はこうした意味性から離れ、あたかも電子音響のように、あるいは環境から聴こえるノイズのように即物的に響く。そこにはもはや「誰かの声」という属人的な個性はなく、ただ耳に聴こえるものとしての音響があるのみである──ただし、むろんこうしたハウリング・ヴォイスを使用するという点では、他の誰とも異なる吉田アミという作家性が刻印されているものの。

 『虎鶫』はそうした吉田のヴォイス・パターンを99トラックに収めた、本人の言を借りるならば「いま自分が出せる音を素材別に整理した図鑑のようなもの」とでも言うべき作品となっている。喉を振り絞り、あるいは口腔と口唇を駆使することによって生み出されるサウンドは、一聴しただけではとても人間の声とは思えないような驚きに満ち溢れている。多くの楽曲は10秒前後または1分以内に終わる短い作品であり、音楽的な構成よりも音色パターンの提示に主眼が置かれていると言えるものの、なかには録音後に編集を施すことで同一の声が左右のステレオ・スピーカーからパンニングする楽曲や、短いフレーズを何度も繰り返し反復することでサウンドの即物性をより増していくもの、あるいはハーシュなノイズののちにほとんど何も聴こえない時間が非周期的に反復されるものなどもあり、楽曲ごとにユニークな趣向が凝らされている。さらにこれまでの説明に反するかもしれないものの、明らかに人間の声だとわかるサウンドや、不意に声帯がそのまま震えてしまったことで聴こえる身体的/官能的なサウンドも収録されている。いずれにしても本盤の「図鑑」的性格は、単にヴォイス・パターンだけではなく、その音響を録音作品として提示する際のプロダクションとしての側面も含まれていると言ってよいだろう。そのことを裏付けるように最終トラックとなる99曲めでは、あたかもフィールド・レコーディングのように、秒針が淡々と時を刻む響きと学校のチャイムのような鐘の音、そして子供の遊び声のようなざわめきが聞こえてくる。ここに至ってわたしたちは、声がもたらす記号的な意味にありありと遭遇することとなるのである。

 本盤のリイシューは、作品にあらためてアクセスできるようになったということに加えて、音響系/音響的即興がすでに復刻の対象となる歴史に組み入れられているという事実を示してもいる。20年近い時間が経過するなかで、吉田アミ自身も、朗読をテーマに据えた「吉田アミ、か、大谷能生」や、立川貴一とともに舞台空間の演出を手がけるユニット「ミニスキュル・シングス」など、時を追うごとにあらたな試みへと踏み出してきた。それは単に活動が変遷したということではなく、音響系/音響的即興の成果をどのように継承し、あるいは発展させることができるのかということの実験の軌跡でもあるように思う──たとえば現在の彼女はハウリング・ヴォイスを即物的な音響の提示ではなく、舞台上のパフォーマンスにおけるひとつの手段として使用している側面がある。それは意味/記号を剥ぎ取った声になおもつきまとう作家性を、特定の舞台空間との関係性からあらためて更新しようとする試みであるようにも見える。いずれにしてもこのことは彼女のみならず、音響系/音響的即興以降の地平に立つあらゆる作り手と受け手に関わる問題であり、その意味でも本盤は、これからも繰り返し参照されるべきヴォイスの特異点としてアクチュアルな価値を帯びていると言えるだろう。

ISSUGI - ele-king

 暗いニュースばかりの毎日ですが、ひとつ朗報です。新型コロナウイルスの影響により中止・延期となっていた ISSUGI のリリース・ライヴの振替公演が決定しました。8月9日です。新作『GEMZ』は大胆にバンド・スタイルに挑戦したアルバムだっただけに、とにかくライヴが楽しみです。
 また、今回の発表に合わせて DJ Scratch Nice のプロデュースによる新曲 “Now or Never” の配信がスタート、当初会場にて限定販売予定だったCD「UNRELEASE 4 JOINTS」の配信も開始しています。あわせてチェック!

「ISSUGI GEMZ RELEASE LIVE IN TOKYO」の振替公演とチケット払い戻しの詳細が確定。また DJ Scratch Nice のプロデュースによる新曲 “Now or Never” の配信がスタート。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止・延期いたしました「ISSUGI GEMZ RELEASE LIVE」の東京公演の振替公演日程が決定しました。合わせてチケットの払い戻しについても詳細が確定しましたので下記をご参照ください。
 また「GEMZ RELEASE LIVE TOUR 3DAYS」で販売予定だった ISSUGI の新曲4曲を収録している完全限定プレスのCD『UNRELEASE 4 JOINTS』を、ISSUGI のショップサイトにて販売しております。同作から DJ Scratch Nice のプロデュースによる “Now or Never” が各配信サイトにて配信開始されておりますので、そちらも是非チェックしてみてください。

《振替公演》
ISSUGI- GEMZ RELEASE LIVE IN TOKYO
日程:2020年8月9日(SUN)
会場:渋谷 WWW X

《チケット払い戻し》
●振替公演にお越しのお客様
お手持ちの3月27日(金)渋谷 WWW X のチケットを振替公演当日にご持参ください。
●振替公演にお越しになれないお客様
振替公演にお越しになれないお客様には、チケットの払戻しをさせていただきます。
ご購入先によって払い戻し方法等異なりますので、詳しくはお買い求めのプレイガイドのホームページにてご確認の上、お手続き頂けますようお願い致します。
【払戻し期間】 4月10日(金)10:00 ~ 4月26日(日) 23:59

各SHOP: ご購入いただいた店舗で払い戻しをお願い致します。払い戻しにはご購入いただいたチケットが必要となります。紛失されないようご注意ください。
TREES SHOP: ご購入いただいたお客様に返金方法のメールをお送りさせていただきます。

この度は公演を楽しみにお待ちいただいていた皆さまにご迷惑をお掛けしましたこと、改めてお詫び申し上げます。ぜひ振替公演に遊びに来てください、よろしくお願いします!

《ISSUGI GEMZ RELEASE LIVE 東京公演に関するお問い合わせ》
info@issugi.tokyo

* ISSUGI 『UNRELEASE 4 JOINTS』
1. Now or Never prod DJ Scratch Nice
2. Soul on Ice prod JJJ & DJ Scratch Nice
3. Run and Learn prod Budamunk (Scratch by DJ K-Flash)
4. Ying Yang prod 16FLIP (sampled from motif alumni)
https://7tree.shop/items/5e736fa2e20b04343256656d

* ISSUGI / Now or Never (prod. DJ Scratch Nice)
配信サイト:https://linkco.re/RdNYFuNT

Marihiko Hara - ele-king

 インスタレーションから映画音楽まで、さまざまな領域で活躍する作曲家/ピアニストの原摩利彦がニュー・アルバムをリリースする。「情熱」とともに「受難」を意味することば、『PASSION』と題された同作は、深く心に沁み入るような叙情と、他方で力強さも兼ね備えた作品に仕上がっている模様。発売は6月5日。この苦難の時代だからこそ、その感性豊かな響きに耳を傾けたい。

原 摩利彦
坂本龍一、野田秀樹、森山未來……国内外のアーティスト達から愛され
ピアノ、フィールドレコーディング、電子音響、サウンド・スケープなど
幅広い表現で活躍する音楽家、原 摩利彦の最新作
『PASSION』6月5日リリース決定!

京都を拠点に国内外問わず現代アートや舞台芸術、インスタレーションから映画音楽まで幅広く活躍する音楽家、原 摩利彦。
ヨハン・ヨハンソンにも通じる音響派的側面を持ちながら、久石譲やチリー・ゴンザレスらが奏でるような、親しみやすいピアノのメロディがそこに重なり、一聴しただけで原の音とわかるような独自のサウンドを持つ。寄せては返す波の泡や草木を踏みしめる音などの自然音や、街の喧騒、ちょっとした生活音なども楽曲に組み込むフィールドレコーディングの手法も取り入れた作風には、日々の生活の中の微かな音の聴こえ方まで変えてしまう不思議な力があり、実験性と叙情性を持ち合わせた希有な才能を証明している。

そんな原 摩利彦の3年ぶりとなる待望のソロ作品『PASSION』が6月5日にリリース決定!! 心に沁みる叙情的な響きの中に地下水脈のように流れる「強さ」を感じさせる原の音世界がぎゅっと詰まった全15曲収録。マスタリングエンジニアに原も敬愛する故ヨハン・ヨハンソンが残した名盤『オルフェ』を手がけた名手フランチェスコ・ドナデッロを迎え、作品の音にさらなる深みを与えている。

アルバム表題曲であり、原自身がこの作品の方向性の決め手となったと語る楽曲 “Passion” が解禁。一つの主題が音域や和音を変えながら繰り返され展開していくこの楽曲からは、心の底に静かに眠る「情熱」や、あらゆる事象を粛々と「受け入れる」ような静かなる強さが感じられ、最新アルバムへの期待を高める。

‘Passion (Official Audio)’
https://youtu.be/myRfeSYHFkg

最近では松たか子、上川隆也、広瀬すず、志尊淳ら豪華俳優陣が出演、読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞し話題となった野田秀樹演出の舞台作『Q:A Night At The Kabuki』でサウンドデザインを担当し、日本を代表するアートコレクティブ『ダムタイプ』のメンバーとしても活動。世界ツアーも大盛況となり森山未來もダンサーとして参加している世界的振付師ダミアン・ジャレと彫刻家名和晃平によるプロジェクト『Vessel』では坂本龍一と共に劇伴を手がけるなど、次から次へと活動の場を広げている。

原 摩利彦 『PASSION』についてのコメント

「Passion」という言葉は「情熱」や「熱情」翻訳されているが、元々は「受け入れること」、キリスト教では「受難」とされている。
中世で「情熱」という意味が加わったようだが、「受け入れる」強い気持ちと考えると、二つの意味は繋がる。
十代の頃に音楽家になることを決意したとき、音楽が好きという気持ちとともに、これから自分の人生で起こることに対する苦難──当時はまだ悩み、苦しむ音楽家に憧れがあっただけにすぎないかもしれないが──を受け入れることを覚悟したのを覚えている。
本アルバムには十六歳のときに作曲したピアノ曲もほぼそのまま収録している(Tr7 “Inscape”)。
二十年経って、今一度音楽家としての覚悟を決める。これから訪れるであろう幸せも苦難も、すべてを受け入れる強い気持ち(=PASSION)を込めてこのタイトルをアルバムにつけた。
また何年か前に、マドリード在住の写真家イザベル・ムニョス(Isabel Munôs)が別れ際に「A lot of Happiness. Good Luck and Passion!」と言った。
そのとき彼女の口から出た「Passion」という言葉が強く胸に響いた。
音楽的な挑戦としては、前作『Landscape in Portrait』よりもピアノの音域を広げること、他者が録音したフィールドレコーディングを使ってみること、非西洋楽器を電子音とともに「音響的に」共存させることである。
音楽的な西洋と東洋、中東の融合や統合を目指しているのではない。
それぞれの地域に住む人々が同じく朝を迎え、太陽の恩恵を受け、食事をし、夜になると月や星を見ること。
人間としての共通の出来事を経験しながらも、それぞれの文化(=音)が現れ、それが同じ地球上で鳴っているように、限られた時間の中で音響的に配置、共存させてみたいと思った。
原 摩利彦

label: Beat Records
artist: 原 摩利彦
title: PASSION
国内盤CD BRC-619 ¥2,400+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10963

TRACKLISTING:
01. Passion
02. Fontana
03. Midi
04. Desierto
05. Nocturne
06. After Rain
07. Inscape
08. Desire
09. 65290
10. Vibe
11. Landkarte
12. Stella
13. Meridian
14. Confession
15. Via Muzio Clementi

Michinori Toyota - ele-king

 00年代における日本のフォーク・リヴァイヴァルの先駆者、パラダイス・ガラージ名義でも知られるシンガーソングライターの豊田道倫が、去る3月26日、急遽路上ライヴの映像を公開している。96年に上京した豊田は50歳という区切りを迎え、同日地元・大阪へと帰郷したそうで、その区切りとなるパフォーマンスを収めたものだ。演奏されているのは新曲の “tokyo” で、撮影・編集はカンパニー松尾が、音調整は宇波拓が担当している。「ようやく歌をちゃんとやろうという気になった」とのことなので、今後の豊田の活躍に期待しよう。

地元大阪に帰ることを決めた、変幻自在のシンガーソングライター豊田道倫の珍しい路上ライブを緊急公開!

新宿のとある公園、別れ際、サプライズで歌い出す豊田道倫。
グッバイ東京。
多くの思い出と共に。
行ってらっしゃい大阪へ。
けど、歌があるかぎり、また会える。

豊田道倫 「tokyo」2020年3月 公園にて
https://www.youtube.com/watch?v=NH--YnpMeP8

撮影・編集:カンパニー松尾
音調整:宇波拓

1995年、パラダイス・ガラージと名乗り、地元大阪でCDデビューし、96年に上京して以降、
変幻自在の音楽活動を続けて来たシンガーソングライター豊田道倫が、
約25年に渡る東京での生活に区切りを付け、2020年3月26日、大阪に帰る。
18時台の新幹線に乗って東京を発つという豊田道倫へのはなむけとして、
過日、サプライズで披露された路上での弾き語りライブを公開します。
「これからのことはまだ何も決まってない」と豊田道倫は言うが、
「ようやく歌をちゃんとやろうという気になった」とも言う。
今まで残したたくさんの歌やライブを破り捨てるような、こてこてのおっさんになるのかな。
いってらっしゃい、気をつけて。
そしてまた、新しい歌を聴かせてください。
そんな気持ちを込めて作りました。

2020年3月 ハマジムレコーズ カンパニー松尾

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「tokyo」

幻のようなパン屋
妖精のようなおじいさん
しけた都会の片隅
夜中に開いて朝しめる

クリームパンは美味しかった
もう食べることは出来ない
君に昔 話したっけ
勘違いだったらごめんね

どっちに行こう あっちに行こう
こっちに行こう どこにも行かない
たった一つの道 見つけるまで
 
雪のようなビルディング
虹のようなスーサイド
しけた弁当かきこんで
男は今日も働いてる

恋とか愛は嫌いだった
映画や本も見なかった
ただ 信じていたかった
女と子どもと 友達

どっちに行こう あっちに行こう
こっちに行こう ゆっくり歩いて
たった一つの道 見つけたから

幻のようなパン屋
妖精のようなおじいさん
しけた都会の片隅
夜中に開いて朝しめる

長い話しは終わり
お茶がさめたから帰ろう
君住む街を想う
ずっとずっと想う

Rond - ele-king

 エレクトロニクスを導入したドイツのポスト・パンクは〈ノイエ・ドイチェ・ヴェレ(ドイツの新しい波)〉として広く知られているが、より生々しいパンク・シーンに関してはあまり知られていない。しかし、ギターサウンドが主体で、ロックンロールやレゲエやダブの影響を受けているようなシーンがドイツにもあった。そのひとつがデュッセルドルフのライヴハウス〈ラーティンガー・ホフ〉を拠点に生まれたシーンで、レーベルでいえば〈ロンド〉が代表的な存在だった。
 この度、その〈ロンド〉レーベルのコンピレーションが新潟の〈Suezan Studio〉からリイシューされる。ここにはドイツで最初のパンク・バンドと言われるメイル、ドイツで2番目のパンク・バンドといわれるミッタークスパウゼなど、1979年から1981年までのシーンの重要な音源が2枚のCDに33曲収録されている。
 パンクと言っても初期のワイヤーからの影響が強く、サウンドにはドイツらしいデザイン感覚が反映されている。また、意外なほどダブからの影響が反映されており、感覚的にはラフトレードの最初のコンピレーションと近い。知らない曲ばかりだが、どの曲にもユニークなアイデアがあるし、そのからっとした響きは小気味よく、部屋で流しっぱなしにしていると料理や掃除がはかどります。当時のシーンを詳しく解説した日本語訳のブックレットも面白い。4月10日発売ですが、レーベルのサイトでは先行で買えます。



VA/ ロンド・シングルズ&セッションズ 1979-82 (2CD)
(Höre - Staune - Gute Laune: Rondo Singles + Sessions 1979-82)
SSZ3060 / RONDO flip 1
https://suezan.com/newrelease#3060

Яejoicer - ele-king

 近年はオーストラリアや南アフリカなど、アメリカやヨーロッパではない国や地域から面白い音楽が発信されるケースが増えている。イスラエルもそうした国のひとつで、以前紹介したセフィ・ジスリング(https://www.ele-king.net/review/album/007371/)などのジャズから、J・ラモッタ・スズメのようなネオ・ソウル~R&B系などが生まれている。そうしたイスラエルの新しい音楽シーンのキー・パーソンがリジョイサーことユヴァル・ハヴキンである。
 キーボード奏者及びマルチ・ミュージシャン/プロデューサー/ビートメイカーである彼の名前が最初に知られるようになったのは、ベーシストのベノ・ヘンドラー、サックス奏者/ヴォーカリストのケレン・ダンと組んだバターリング・トリオというバンドでの活動だろう。ジャズと民族音楽、ソウルとビート・ミュージック、フォークとエレクトロニカを融合した音楽性を持ったこのグループは、例えるならハイエイタス・カイヨーテ、ムーンチャイルド、フライング・ロータスが一緒にやったかのような不思議な個性を放っていて、2017年にリリースした3枚目のアルバム『スリーサム』は高い評価を得て、その後に日本ツアーも行っている。

 ユヴァル・ハヴキンはロンドン生まれのテル・アヴィヴ育ちで、テルマ・イェリン芸術学校を出ているが、ここで後に一緒に活動するいろいろなミュージシャンと出会い、そうした仲間を世に出すべく〈ロウ・テープス〉というレーベルを立ち上げた。バターリング・トリオも〈ロウ・テープス〉から出たバンドで、先述のセフィ・ジスリングや彼も参加するリキッド・サルーン、ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツ、ドラマーのソル・モンクことアヴィ・コーエンのアルバムなどもリリースしている。ユヴァル自身はバターリング・トリオのほかにも、ニタイ・ハーシュコヴィッツ、ソル・モンクらと組んだタイム・グローヴというグループや、〈ロウ・テープス〉周辺のジャズ・ミュージシャンやヒップホップ・プロデューサーらが集まったL.B.Tなどでもアルバムをリリースするなど、多面的な活動を行なってきた。
 そうしたなかでリジョイサーは彼の個人的なプロジェクトと言えるもので、2010年頃からビート・アルバムやミックス・テープなどを作りはじめ、2018年にUSの〈ストーンズ・スロー〉から『エナジー・ドリームズ』というアルバムを発表している。このアルバムにはニタイ・ハーシュコヴィッツ、ソル・モンク、セフィ・ジスリング、ノアム・ハヴキン、アミール・ブレスラーらイスラエル勢に加え、ロサンゼルスのMndsgn(マインド・デザイン)も参加するなどワールドワイドな活動も視野に入れたものとなっていた。その後もイスラエルとロサンゼスルを結んだ活動を続け、2019年のEP『ヘヴィー・スモーク』を挟んでニュー・アルバムの『スピリチュアル・スリーズ』が完成した。

 『スピリチュアル・スリーズ』はこれまでのユヴァルが関わった作品同様に、ニタイ・ハーシュコヴィッツ、ノモック、ケレン・ダン、ヨナタン・アルバラック、ジェニー・ペンキン、イオギ(ヨゲヴ・グラスマン)など彼の周辺のイスラエルのミュージシャンから、ロサンゼルス勢ではルイス・コールらと仕事をするサム・ウィルカーズなどまで参加している。ユヴァルが全てのサウンド・プロデュースを行う一方、ニタイがほとんどの楽曲でシンセなどを演奏し、本作における彼の働きも大きい。
 全体的にユヴァルの作るビートやキーボードなどを軸に、ニタイのシンセなどで味付けをフォローし、そこにケレン・ダンやジェニー・ペンキンらのヴォーカルがフィーチャーされるという構成になっている。また“ムーン・ハイク”や“ハート・ウェイ(シャポー)”のように、ヴァイオリンを用いてクラシカルなムードを演出している曲がある。ヴァイオリンを演奏するのはイオギのほか、BBC・スコティッシュ・シンフォニー、ボストン・シンフォニー、ニューヨーク・フィル、アイスランド・シンフォニーなどの指揮者も務めたイラン・ヴォルコフで、ユヴァルのコネクションの幅広さが伺える。

 “イーグル・イン・ザ・ロッジ”に見られるように、ニタイのシンセはハープシコードのようなレトロなムードを醸し出し、“ゼア・イズ・タイム”のシンセもメロトロンのようなどこかレトロな響きである。こうした鍵盤使いがアルバム全体に幻想的でアンビエントな雰囲気をもたらしており、ジャズにしろ、ヒップホップにしろ、R&Bにしろ、他の音楽とは異なる独特の空気感を生み出している。方向性としてはジェイムスズーあたりの作品に近いテイストだが、小鳥のさえずりのような音像を交えた“プレ・メモリー・サークル”、ウーリッツァー・ピアノの暖かみのある音色を交えた“ノー・ベルズ・ラング・ザット・デイ”などに見られるように、全体的にオーガニックなテイストの強いアルバムと言えるだろう。ヴォーカル曲にもミステリアスな雰囲気が溢れており、ケレン・ダンをフィーチャーした“ソング・フォー・スピリット・フライト”や“マイ・ビーンズ”は、どちらも浮世離れしたフェアリーな歌声が魅力である。ジェニー・ペンキンが歌う“レモンズ”や“アース・トーク”、イオギの歌とベース、ヴァイオリンをフィーチャーした“アップ・イン・フレームズ”も、ネオ・ソウルやR&Bをベースとした楽曲ながら、スペイシーでサイケデリックな独特のムードを醸し出している。まさにコズミック・ジャズ、コズミック・ソウルという言葉がふさわしい楽曲だ。

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