「W K」と一致するもの

カフカ鼾 - ele-king

(1) ジム・オルークにとって音楽は、大きく3つのタームに分けられる。1.実験音楽、2.即興音楽、3.ポップ音楽である。オルークはこの3つの領域を横断しながら、ときにミックスするように、ときに全く別の次元で演奏するように作品を生みだしてきた。この3つはそれぞれオルークのアルターエゴを形成するものでありながら、同時に彼そのものであった。「ジム・オルークの考える音楽のすべて」だ。

(2) そして、ジム・オルークにとって音楽の歴史はすでに終わったものである。それが彼の強烈な批評性であり、音楽への愛の証といえよう。過去にこれほどまでに厖大で素晴らしい音楽がある以上、新しい音楽など作る意味はあるのか。ジョン・フェイヒーもデレク・ベイリーも、レッド・ツェッペリンもヴァン・ダイク・パークスも、高柳昌行も小杉武久も、武満徹もメルツバウもすでに存在するのに、いまさらどんな音楽を作れというのか。

(3) 同時にジム・オルークは音楽家である。彼は批評家ではない。新しい作品を作り、演奏をする人間だ。先の批評性は、強烈な自己批評性へと転化し、その矛盾を乗り越えようとする動きが彼に音楽を作らせる。どんな楽曲を作るべきか。どんな音を奏でるべきか。ソロ名義のアルバムが00年代以降、急速に減っていくのも、自己批評性・自己吟味の表れであり、00年代以降、インプロヴィゼーションやコラボレーションが増えてくるのも、即興や共闘こそが新しい音楽が生まれ出る可能のひとつとジム・オルークが認識しているからだろう。たしかに、出会いと即興は同じことを繰り返してはいけない。そこでは反復すら反復ではない。

 2014年早々、カフカ鼾のアルバム『Okite』が発表された。カフカ鼾は、ジム・オルーク(シンセ・ギター)、石橋英子(ピアノ)、山本達久(ドラム)ら3人によるインプロヴィゼーション・バンドである。彼らはカフカ鼾結成以前から別バンドやユニットなどでレコーディングを繰り返していたが、その活動のなかで自然発生的にカフカ鼾として録音するようになったという。バンドキャンプに2012年頃の音源も上がっているので必聴である。また、オルークと石橋、山本に、須藤俊明、波多野敦子、千葉広樹を加えたマエバリ・ヴァレンタイン(!)も活動中だ。

 本アルバム『Okite』は、2013年6月にジム・オルークが自身の音楽歴を総括する連続コンサート〈ジムO 六デイズ〉におけるカフカ鼾のライヴ録音である。同コンサートは初期の実験音楽から名作『ユリイカ』なども含めたオルークの音楽活動を総括したもの。そのコンサートのなかでカフカ鼾はオルークの新バンドとして登場し話題を呼んだ。オルーク自身も6日間に渡るコンサートのなかで最も思い入れが強い演奏と語っている。その後、彼自身がミックスを手がけ、アルバムとして完成した。

 言うまでもなく本作は、先の3つのタームでいえば即興音楽の部類に入る。事実、石橋英子の硬質なピアノ、微分的にリズムを刻む山本達久のドラムに、ジム・オルークの微かなギターとシンセが絡み合う38分間の濃密なインプロ演奏を記録した盤である。石橋のミニマル/リリカルにして鋭利なピアノはその都度、新しい音楽を生成し、山本の常人には絶対不可能なリズムの分割感は、他にはない圧倒的なグルーヴを演奏に与えている。そんな超絶インプロヴィゼーションの横溢のなかで、まるでスティーヴ・ライヒとシャルルマーニュ・パレスタインが衝突しあうような驚異的な音楽が生まれているのだ。

 そして、ジム・オルークの演奏は、彼らの演奏のあいだに、もしくは違う層に存在しているように思われる。だがそれは演奏に介入する異物というわけではない。そうではなく二人の圧倒的なプレイとは違う場所で、でもたしかに、同じ時間に鳴っている音という印象なのだ。これはどういうことか。これまでのオルークのインプロヴィゼーションにおいて、そのような音の質感や運動はあまりなかったと私は思う。

 オルークは、即興と作曲を同時にしているように私には思えるのだ。即興と作曲の同時生成。実際、本盤でのジム・オルークのシンセやギターの音は、彼の初期の電子音楽を思わせる。たとえば傑作『ディスエンゲージ』(92)や、近年発掘リリースされた初期音源集『ロング・ナイト』、そしてクリストフ・ヒーマンとの発掘コラボレーション作品『プラスティック・パルス・ピープル』シリーズ(1991年)を思わせる響きと構成、電子音の緩やかで乾いた持続、まるで水の底に沈むような音の質感、次第に盛り上がっていく物語的な構成力など共通点は多い(オルーク作品には「水」のモチーフが出てくるのだが、本作のジャケットもまたそれを感じさせるものだ)。

 先に上げたバンドキャンプの演奏よりも、その傾向は強まっているとも思う。もちろん自身の総括コンサート〈ジムO 六デイズ〉での演奏という作用もあるだろう。そして同じ人が演奏しているのだから、かつての作品と似たトーンがあるのは当然という意見もわかる。だが重要なのは、本作『Okite』において重要なのはジム・オルークの即興演奏と実験音楽の境界が少しずつ無化されてきた、という点ではないか。そもそも、コンポジションとインプロヴィゼーションはその根源においてじつは同じものではないか。

 あるインタヴューで「あの人と即興をやると、新しい音楽が浮かんでくるっていうのが成功」とジム・オルークは語っていた。石橋英子と山本達久が生み出す音が、ジム・オルークにそのような変化を与えたのは明白だ。そしてそんな彼らが、この演奏を正式なアルバムとしてリリースしたのも、何か特別なものが宿っているからではないか。それは何か。私見だが、ここには実験音楽と即興音楽が安易な融合ではなく、その二つが同時に生成しているような、非常に高度な音楽のように思えてしまうのだ。オルークは次のようにも語っていた。「私たちが作ったのは即興音楽じゃなくて、カフカ鼾の音楽。別のドラマーやピアニストだとできない、この3人だけの音楽」と。3人によって作曲と即興の差異が高密度に無化されること。ジム・オルークの音楽の現在は、このような領域へと至っているのかもしれない。実験音楽と即興音楽の新たな領域への「移動」。ジム・オルークという稀有な音楽家は、昨年の〈ジムO 六デイズ〉以降、「総括と包括」から、それらの「超克の時代」へと移行しているのではないか(オルークがバンドキャンプで過去の発掘音源をリリースしはじめたのも示唆的だ。)。

 そして、このカフカ鼾の最初のアルバムには、そんな「総括以降」の音楽がたしかに鳴っている。実験音楽・即興音楽、ポップ音楽の総括と超克。このカフカ鼾の最初のアルバムには、そんな空想すら確信に近いと思わせるだけの力があるのだ。微音から爆音まで、音楽が自在に生成し変化する。その自由さ、その豊穣さ。音楽の生成と即興と作曲。その音の気持ち良さ、演奏者のテンションの高さ。それらが高いレヴェルで絡み合うことで、誰も聴いたことのないようなインプロヴィゼーション/コンポジションが生まれているのだ。終盤、演奏はロック的かつダイナミックなミニマリズムへと至る。そう、ここからポップ音楽への距離は、そう遠くない。

 いつの日か、ジム・オルークという厖大な音楽記憶装置という存在は、実験音楽と即興音楽とポップ音楽という3つのテーゼを包括し、音楽史そのものを超克するような作品を作るだろう。その最初の「鼾」のような兆候が本作とはいえないか(ちなみにフランツ・カフカには「掟の門前」という短編作品もある)。そして、そのような大切な音楽=演奏が、ジムひとりだけではなく、3人の才能に溢れた音楽家とのコンビネーションによって生まれたという事実を私は何より嬉しく思う。3人だからこそ生まれた音楽、そのジョイフルな共闘。本作もまたアワー・ミュージックなのだ。1から3へ……。つまりは3のOkite!

Stephen Malkmus & The Jicks - ele-king

 スティーヴン・マルクマスと初めて会ったのはペイヴメントの1回めのUKツアーのときだった。僕は彼らのデビュー・アルバム『スランテッド・アンド・エンチャンテッド』の“サマー・ベイブ”にやられていたので、彼らに会うのが楽しみだった。  “サマー・ベイブ”はバンド名に相応しい道の端に落ちたゴミのような音だった。でも、夜道を歩いているとき、たまにそのゴミが落ちた道が綺麗に感じられることがある。“サマー・ベイブ”はまさにそんな音だった。ドイツの写真家、現代アーティストのアンドレアス・グルスキーの作品で、ゴミが散乱した川を美しく撮っているシリーズがあるけど、“サマー・ベイブ”の魅力はまさにそんな感じだった。
 ルー・リードの歌もまさにそういう感じなのだが、スティーヴン・マルクスの歌はルー・リードみたいにドラッグ、ゲイ、性倒錯者みたいなセンセーショナルな素材を探すこともなく、普通に日常にいる変な人、たとえばペイヴメントのドラマーみたいな人や風景を若々しい目線で歌っている感じがした。それはまさに90年代の感じがした。  当時のアメリカからはいろんな面白い人たちがどんどん出てきていたから、こんな歌を歌っている人はどんな人だろうと期待していた。  カート・コバーンは完全にレッドネックなのに、本当に素晴らしい目線を持っていた。レッドネックがどんなドラッグをやれば、あんな新鮮な目線を見せてくれるんだろうと僕は思っていた。バットホール・サーファーズは本当に気がふれているようだった。で、ペイヴメントのスティーヴン・マルクマスはどんな人だったかというと、ブダペストのTシャツを着ていて、その姿は「何でブダペストのTシャツやねん」とつっこむ感じじゃなく、あっ、この若い青年はブタペストの歴史とかそういうものに興味があって、ブダペストに2週間ほど、旅行に行ってきたのね。と思わせてくれる風貌だった。悪くいえば金持ちの坊ちゃんという感じ。アメリカの若者でブダペストなんかに行くやつは金持ちしかいないよ。  スティーヴン・マルクマスの顔を見てもらえばわかるけど、ロスの青年弁護士みたいな雰囲気を出してますよね。彼のソロ1作めのジャケットなんて完全にそれですよね。なんで、音楽なんかやっているのという感じです。
 でも、そんな彼の作品はじつはどれも素晴らしいんです。とくにペイヴメントの後では『リアル・エモーショナル・トラッシュ』が素晴らしい。イギリスの67年くらいのあの音なんですよ。デヴィッド・ボウイなんかがやろうとしていた音、ヒッピー前夜の混沌としていたあの感じをうまく現代にあった感じでよみがえらせています。XTCのアンディ・パートリッジなんかが好きなサイケ感ですよね。アンディ・パートリッジよりもその感じを上手く再現していると思うのですが、日本のその筋の人たちから評価されないのが不思議です。その次のアルバム『ミラー・トラフィック』はその感じにペイヴメントのあの感じを足したというか。僕はちょっと安易じゃないかと思ったんですけど、イギリスではチャートに入り、アメリカでも3万枚売れたみたいです。スティーヴンもレコード会社からペイヴメントみたいなのやってと言われているんでしょう。
 で、今作『ウィグ・アウト・アット・ジャグバッグズ』なんですけど、『リアル・エモーショナル・トラッシュ』をもっとよくした感じなんです。ペイヴメントよりな『ミラー・トラフィック』があったから、ペイヴメントっぽいものから離れようとしていた不自然さが完全になくなって、『リアル・エモーショナル・トラッシュ』以上にプログレみたいな曲やアシッド・フォークなどのいろんなジャンルの曲を完全に自分のものとしてやっているのです。その上にスティーヴン・マルクマスのあの独特なメロディがしっかりとのっているのです。『ウィグ・アウト・アット・ジャグバッグズ』を聴いて思うのは、ルー・リードを受け継ぐのはスティーヴン・マルクマスしかいないということです。トム・ヴァーレイン、リチャード・ヘル、ショーン・ライダーでもピート・ドハーティーでもなく、ロスの弁護士のようなスティーヴン・マルクマスが彼を受け継ぐというのもどうかなと思うけど、正しいんでしょうね。やっぱ、ジャンキーはダメなんですよ、現代は。

NHK yx koyxeи - ele-king

 電子音楽の創造的なダンスホールにようこそ。コーヘイ・マツナガ(aka NHK yx koyxeи)が、マーク・フェルを引き連れて日本ツアーをやります。かつてはSND名義の作品でエレクトロニカを追い求める玄人なリスナーからさんざん支持されたフェルですが、ここ3~4年はエディションズ・メゴからのソロ作品によって、(感覚派の多い今日の電子音楽界にあって、良い意味で)理屈っぽく、どう考えても頭でっかちで、ロジカルに、そしてユニークなミニマル・サウンドを創出している。彼の最新のプロジェクト、Sensate Focusも好調なようで、今回のライヴPAは見逃せない。
 コーヘイ・マツナガも、PAN(ベルリンのもっともいけてるレーベル)からのダンス3部作の3枚目『Dance Classics Vol. III』も無事リリースされ、好評を博している。また、関西のほうでは、MadeggやAOKI takamasaも出演する! 


●2月25日@Dommune (web stream 21pm~midnight)
NHK Special.8
Mark Fell
Christophe Charles
Interviewer
Minoru Hatanaka (ICC)
live: Miclodiet、 Yuki Aoe
dj: Susumu Kakuda、 NHK fm

●3月1日@Soup 東京
-soup 7th anniversary "wasted"-
Sensate Focus
NHK yx Koyxen
CoH
Miclodiet
Nobuki Nishiyama
DJ Spinkles (aka Terre Thaemlitz)

https://ochiaisoup.tumblr.com
https://sludge-tapes.com

●3月2日@ACDC gallery 大阪
Sensate Focus
NHK yx Koyxen
shotahirama
lycoriscoris
DUCEREY ADA NEXINO
Madegg
And Vice Versa
hyAhar
Eadonmm

https://www.acdc-japan.com
https://idlemoments-jp.com

●3月5日@Metro 京都
-"night cruising" Red Bull Music Academy-
Mark Fell
NHK yx Koyxen
Sub-tle
Marihiro Hara
AOKI takamasa
Tatsuya Shimada(night cruising)
https://www.metro.ne.jp
https://www.nightcruising.jp

●3月7日@CMVC 大分
Mark Fell
NHK yx Koyxen
in
AOKI takamasa

https://twitter.com/cmvc_hita

●3月8日@DEF 金沢
Sensate Focus
NHK yx Koyxen
DJ NOBU (Future Terror/Bitta)
DJ Susumu Kakuda
Haruka Nitta

(石川県金沢市片町2-5-6 AYAビル2F)

●3月9日@Soup 東京
-soup 7th anniversary "wasted"-
Mark Fell
Kouhei Matsunaga
Painjerk
Christophe Charles
AOKI takamasa
NHK fm

https://ochiaisoup.tumblr.com
https://sludge-tapes.com


Julie Byrne - ele-king

 ジュリー・バーンの鈍く立ち上がる歌い起こしにつられて、一日が質量を持ちはじめる。彼女の歌を聴くなら朝がいい。朝から元気いっぱいならアッパーな音楽で加速するのも楽しいだろうけれど、そうでもない身体を起こすべくテンションの高い音楽をかけたり、目覚ましの音をマックスでセットしたりするのは、冷や水を浴びるようなもので、むしろストレスを増すだけだ。バーンは重たい。遅い。起伏が少ない。しかし心地よい温かみがある。チルアウトではなくてウォームアウト。そんな言葉はないけれど、彼女のギターと歌は、どちらかといえば後ろ向きな寝起きの思考と身体を、あったかく落ちつけて覚ましてくれる。

 ジュリー・バーンは現在はシアトルで活動するシンガー・ソングライターで、本作は彼女のカセットテープ・リリース2作をコンパイルしたデビュー・アルバムだ。冒頭のように書くとさぞオーガニックでスローな価値観やテクスチャーを持った音楽だと思われるだろうが、たとえばグルーパーをオーガニックでスローだと考えるのならばその意味ではそうだと言える。シンプルな弾き語りをリヴァービーな音像に仕上げる、『ドラッギング・ア・デッド・ディア・アップ・ア・ヒル』のようなプロダクションを持ったサイケ・フォークの逸盤だ。アシッド・フォークと言い切らないのは、たとえば木でできた家具ばかり商っていたりするオーガニック系の店などでもぎりぎりかけられるようなクリーンな明るさがあるから。グルーパーがより彼岸に振れる音なら、バーンは此岸にとどまる音である。

 というのは印象だけの問題でもなくて、実際に歌われている内容もドメスティックなものが多いようだ。部屋の描写、いっしょに暮らしていた男性のこと。ちょっと変わっているのは、彼女が長くイヴェント・ホールに住んでいたということだろう。それは自身にとっても人生を大きく変えるような経験だったと彼女は語っている。大きな規模のハコではなくて、おそらくはささやかな場所なのだろうけど、つねに人がなにかをしていて、プライヴェートを分け合うような生活だったというその述懐のなかには、若い女性の日常というにはもう少し大きい、ホールを舞台として交錯する無名的な人々の時間、そこに生まれる悲喜交々といったものが影絵のように動いている。

 おもしろいことに、2本のテープのうちの1本はそうした暮らしのなかで生まれた作品だそうだが、もう1本はその後小さなアパートメントに引き移ってからできたものだという。仕事場と部屋を行き来し、部屋ではずっとラジオを聴いて過ごしていた時期があった、その、ホールとは対照的な空間や時間の流れがパッケージされた作品だと推測するが、時期的にはどちらだろうか、『ジュリー・バーン』『ユー・ウッド・ラヴ・イット・ヒア』はともに2012年作である。音からすると『ジュリー・バーン』のほうによりウォーミーな感触がある。けっして飛翔することはないけれど、“キープ・オン・レイジング”のアルペジオなどには、ジュリアナ・バーウィックの光の束から1本の光を抜いてきて、フォーク・ソングに鍛えたというような静かな輝きが感じられる。“アタッチト・トゥ・アス・ライク・ブッチャー・ラップ”などの物哀しくミニマルな曲調を持った前半の方が、「アパートメント・ソング」なのかもしれない。しかし互いが互いの尾をつかむように、音の流れは円になってめぐる。底に流れるバーンの声のゆったりとした幅、印象的な低音が一貫しているから、両者は何周かするうちに入れ替わり、両方の生活の色をつないでいく。“ピアノ・ミュージック・フォー・ルーシー”が終曲となっているのは素敵な偶然だろう。にぶいオルガンがほぼ単音で紡ぎ出すこのアンビエント・トラックは、その境界があいまいになったふたつの場所を、ともに彼女の人生として撚り合わせ、聴く者の心へと流し込む。心が起きはじめるのを感じるのは、ひとりの生が流れ込んでくるからだ。そしてそれは、多くの人が拒絶の必要を感じない、なにかおおらかな力を持ったものだということを強調したい。ジャケットの近影もなにかそうしたことを裏付けるに十分な表情を浮かべていると思わないだろうか。

OF MONTREAL - ele-king

 オブモンってったら「オブ・モンスターズ・アンド・メン?」、オブモンってったら「ああ~あのエレファント6系の?」。そんな声が結構耳に入って来ましたっけ、来日前には。
 オブ・モントリオールに対する日本の状況。ここ何年かは明らかに本国やヨーロッパなどとの評価&人気の差がついてましたから、主催者としてちょっと……いやかなり心配だったんです。12月に来日したアクロン/ファミリーが「次は誰を呼ぶの?」「うん、オブモン」「おお! それは日本中がディスコ・ナイトになるネ!」なんて言われてもスカスカ・ディスコだったらオエ~だなァとかとか。

 実際オブ・モントリオールは作品を出す度に進化、そして成功を収めて来ました。とくに2010年の『ファルス・プリースト』はまさかのビルボード34位を記録。ライヴでの圧巻パフォーマンスもあってフロントマンのケヴィン・バーンズは確実にインディー界のスターになったわけです。そのグングン上がっていったオブモンの状況がとにかく日本ではぽっかりと空いてしまっていた。ほとんど伝わっていなかった。ああ~もったいないってことで、新作『ロウジー・ウィズ・シルヴィアンブライアー』も出たしってことで、5年ぶりの単独公演を本当にドキドキしながら開催したのですが……あ~良かった! ディスコになりましたよ。お客さんってば本当に素敵!

 ケヴィン以外のメンバーはボブ・パーリンズ(ベース)、ベネット・ルイス(ギター)、ジョジョ・グライドウェル(キーボード)、クレイトン・ライクリク(ドラム)、そして紅一点レベッカ・キャッシュ(ヴォーカル、キーボード)の5人。ちなみに昨年のTAICOCLUB出演時のメンバーとは誰ひとりかぶっておらず、『ロウジー・ウィズ・シルヴィアンブライアー』のレコーディング参加メンバーを揃って連れて来たかたち。
 ただ、ここ数年のオブモン作品はほとんどケヴィンひとりで制作しており、ライヴとレコーディングは別物にしていたので、この両方が同じメンバーで構成されていることはオブモン史に取ってすんごいトピックなのです。そんな新生オブモンのステージはレベッカ嬢のデタラメ英語からファンキー・チューン“Girl Named Hero”でスタート! キラキラフリフリのテトリスみたいな柄のジャケットを着こなしたケヴィンの登場に会場は一気に色めきトキメキー。もうすでにディスコ。そしてケヴィンが本当にかっちょいい。デヴィッド・ボウイかプリンスかヒデキ・サイジョーか岡村ちゃんか。グラマラスにソウルフルに、踊りながら、ピョンピョン跳ねながら、お客さんを煽る煽る。そしてこんなに歌がうまいのかと。声量があるのかとビックリさせられる。かと思えばセクシーなブラコン・ナンバー“Faberge Falls for Shuggie”では目の前のお客さん(もち女性)に耳元で囁いたり抱擁したりでキャー。そしてケヴィン、レベッカ、クレイトンの三人でのザ・コーデッツのカバーを挟み、新作から“Colossus”、レベッカがメイン・ヴォーカルを務める“Raindrop in My Skull”と。レベッカがまたいいんです。まだ23歳、普段はキャッキャッ言いながら辛いモンばっか食ってる小娘なんすが、この曲ではエレガンスにエモーショナルにいたいけな小娘になりやがる。可愛い!そして人気曲 “Plastis Wafers”。こんなにライヴでは激しいのか!って、会場はドッカンドッカン。ディスコ・ロックですよ。ディスコ・フレディ・マーキュリー。そして一転してミラーボールがこれほどまでに似合う“St. Exquisite’s Confessions”では、ハイ来ましたー。ケヴィンの脱ぎ脱ぎコーナー。その鍛えられた贅肉全く無し腹筋ムキムキの身体にまたまたキャー。イギー・ポップの100倍輝いている。そして激・志茂田景樹な衣装替えを挟んで“Oslo in the Summertime”もこれまたビックリのへヴィー・アレンジ、で、大名曲“Heimdalsgate Like a Promethean Curse”を爆発させて本編終了。お客さんの笑顔が乾かない内にアンコールは“Gronlandic Edit”と“She’s a Rejecter”。いや~もう完璧でしょ。こんなに幸せになれるとは私も思わなかったし、お客さんも思わなかったはずです。


 で、ツアー中ずっと一緒にいて本当に思ったのは、ケヴィンがこのメンバーと一緒にやっていることが心から楽しいのだろうなぁってこと。全員が彼より年下なもんで、ケヴィンがお父さんみたいに世話してるんですよ。でもそれが本当に嬉しそうで。実際ツアー前のやりとりもエージェントを通さずにケヴィンとやりとりしていたので、彼がメンバー全員のビザ書類を集めたり、機材リストを作ったり、ホテルの部屋割りをしたり。地元アセンズに「ケヴィン御殿」を建てたスターが、今回は敢えてすべてをやってくれたんです。それ位このメンバーに思い入れがあるようだし、新しいオブ・モントリオールのあり方みたいなものを彼自身が発見したんじゃないかな。そのタイミングに日本に来てくれたこと、そして体験出来たことを心から嬉しく思います。冒頭に「日本ではぽっかりと空いてしまっていた」と書きましたが、いやいやそれ以上のものだったと。白馬に乗ったケヴィンとか、紙吹雪とか風船も無かったけど、さらに輝きはじめたいまのオブ・モントリオールがやっぱ最高! だって何回もケヴィンは言ってくれましたよ。「また日本に来るよ。もちろんこのメンバーでね!!」

Dum Dum Girls - ele-king

 ダム・ダムという言葉を聞くと僕はINUの「ダムダム弾」を思い出してしまいますが、ダム・ダム・ガールズはイギー・ポップの“ダム・ダム・ボーイズ”よりもヴァセリンズの“ダム・ダム”ですよね。
 2010年リリースのダム・ダム・ガールズの『アイ・ウィル・ビー』を初めて聴いたときはびっくりしました。こんなにもイギリスのあの音をやれるアメリカのバンドが出てくるとは。「あの音」とはプライマル・スクリームの“ヴェロシティ・ガール”のことです。もう何十年もぼくたちの胸をジーンとさせてくれる謎の音は、すべてここからはじまったと言っていいでしょう。ダム・ダム・ガールズの原点もこれですよ。
 もともとはアメリカの音なんですけどね。ヴェルヴェッド・アンダーグラウンドの音、デヴィッド・ボウイが“ジーン・ジニー”とかでパクった方じゃなく、捨てられた部分、いなたい部分、でも切ない部分。それをイギリスの公団住宅に住んでいるニキビ面の少年たち、ドラッグも買えず、シンナーしかできないような子どもたちが拾って、新しいポップの歴史を作っていったのです。

 この永遠の音は、永遠ですけど、永遠すぎて、前進できないんです。みんな成長していかなければ──プライマルはガレージになったり、アシッドハウスになったり、ビッグなドラム・サウンドを入れたりしないとダメなんです。そして、青春はどこかに消えていくのです。ストロヴェリー・スイッチブレイドがそうであったように。それでなければ、ヴァセリンズのように清くありつづけて、どこにも行かないと宣言するかです。

 ダム・ダム・ガールズのセカンド『オンリー・イン・ドリームス』(2011年)は中途半端でした。行きたくないのか、行きたいのか、どっちやねんという感じです。でも、この3作め『トゥー・トルー』はふっきれてますね。この手のバンドのふっきれるときの常套手段、ビッグなドラム・サウンドが入ってます。でも、セル・アウトしてないんですよね。ビッグなドラム・サウンドも、ゴスっぽい展開もどこか冗談ぽいんです。彼女たちはちゃんとわかっているという感じです。こういうところ、アメリカ人はイギリス人よりも強いのかもしれません。クランプスが一度もセル・アウトせずに生き延びることができたように。
『トゥー・トルー』はビッグなドラム・サウンドになってますが、あの青春的なイナタさは失っていません。どっちつかずだったセカンドより輝いています。
 僕はダム・ダム・ガールズを応援します。

 ああ、なんてこった。とんでもないコンピレーション・アルバムがリリースされた──インターネット・ミュージック・ディガーのみんなにはおなじみのブログ、Hi-Hi-Whoopeeがコンパイルした『Meili Xueshan I&II』だ。


 参加ミュージシャンには、『ele-king vol. 12』でもたびたび名前の挙がっていた奇天烈実験音楽家アレックス・グレイことD/P/Iを筆頭に、これまで3作の傑作ミックステープをリリースしているエクスペリメンタルR&Bの急先鋒デュオ18+、〈Beer On The Rug〉からの『TIMETIMETIME&TIME』で知られるYYU、その〈Beer On The Rug〉の主催C V L T S、〈Exo Tapes〉主宰のSofa Pits(=Mediafired=JCCG)、〈AMDISCS〉からの『Fools』も記憶にあたらしいAyGeeTee等々。
 日本からはジュークとエクスペリメンタルを接合する食品まつり a.k.a footman、axion117 + Lidly + canooooopyによるGANGHOUSE FUNGI、ele-kingのDJチャートでもおなじみのあらべぇ(先日、パーティー〈ELMER〉で超限定リリースされたイルビエントな『Bootleg CDR Vol One』も最高だった!)などなど。
 他にもM. Sage、Ahnnu、E+E、susan balmar、James Matthew、Constellation Botsu、Real Clothes、Angel 1、Ñaka Ñaka、Rhucleらも要注目――っていうか、すごいぞ、みんな。

 Hi-Hi-Whoopeeの記事には親切にも各アーティスト(39名!)について詳しい紹介とリンクがついているから、そちらをぜひ読んでほしい。

 とにかくとにかく。これはナカコーも絶賛する、とんでもない、恐ろしいコンピレーションだ。すでに海外では「Tiny Mix Tapes」や「Ad Hoc」が紹介し、反響を広げている。

 インターネットの奥の奥、あるいは裏の裏をかきわけ、立ちのぼる蒸気のその向こう側にそそり立っていたものは、前人未踏のエクスペリメンタルな音が視界いっぱいに広がる美しき秘峰だった! ってな感じなのでダウンロード&リッスン!

ダウンロードはこちらから

Meili Xueshan I

Meili Xueshan II


The Trilogy Tapes、次の動向は? - ele-king

 UKのレーベル〈ザ・トリロジー・テープス(The Trilogy Tapes)〉。その主宰ウィル・バンクヘッド(Will Bankhead)は、古くは〈モ・ワックス〉のデザイン、最近ではアクトレスのアートワーク、また、日本でも人気に火がついたスケボー・ブランド〈パレス(PALACE)〉のアート・ディレクションを手がけつづけていることもあって、多くのカルチャー・ディガーから熱い視線とリスペクトを向けられている存在だ。昨年3月に渋谷ヒカリエでのファッション・ショーとそのアフター・パーティーのために〈フェイド・トゥ・マインド〉のトータル・フリーダムらとともにDJを披露してから早1年。あのレイヴ感を忘れられない人たちも多いと思うけれど、なんと、今年の3月に〈C.E〉のためにカッセム・モッセとともに再来日することをブログでほのめかしている!

「TTT – Tokyo in March for C.E. crew with Kassem Mosse.」
https://www.thetrilogytapes.com/blog/2014/02/14550/

 〈C.E〉については、先日もANYWHERE STOREにて完売となったキャブスTシャツをドロップしたことでも皆さんもご存じでしょう。スケートシングによるグラフィックと凝ったデザインが目を惹きつつ、絶妙なフェミニンさで女性にも人気のファッション・ブランドだ。2014年春・夏向けのルック・ヴィデオでは、なんとアクトレスをモデルとして抜擢! もちろん音楽もアクトレス。ウィルとおなじく〈モ・ワックス〉のグラフィックなどで知られるベテラン・デザイナー:ベン・ドゥルーリーと、ホット・チップのMVやジャングルの海賊ラジオのドキュメンタリーまで手掛けるロロ・ジャックソンがタッグを組んだ映像も美しい。息をのむ緊張感だ。

 とにもかくにも、今年も3月は熱くなりそうだ。続報を待ちましょう。


C.E SS14 from c.e on Vimeo.


CHAINE INFINIE PLUS

Tower HMV Amazon

 フリー・モラル・エージェンツが拠点とするロング・ビーチにはサブライムがいたが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどLAをはじめとして西海岸にホットな拠点を持っていたいわゆる“ミクスチャー・ロック”には、メタルとヒップホップなどジャンル上のミクスチャーという側面とともに、エスニシティやカルチャーにおけるミクスチャーという側面がある。ザ・マーズ・ヴォルタなどをここにストレートに分類するのはためらわれるものの、中心のひとりオマー・ロドリゲス・ロペスがプエルトリカンであり、ラテン・ミュージックを血液としながら、一方でチリ・ペッパーズのフリーやジョン・フルシアンテらを迎え、オルタナのマーケットでシリアスにプログレッシヴ・メタルを展開してきたことを鑑みれば、彼らもまた十分に「ミクスチャー」的な要素のひとつを肥大化させた存在と考えることができるかもしれない。

 フリー・モラル・エージェンツは、そのオマーや相方のセドリック・ビクスラー・ザヴァラ、そしてフルシアンテらとともにマーズ・ヴォルタの黄金期を支え、デ・ファクトやロング・ビーチ・ダブ・オールスターズ等でもオマー、セドリックとともに活動してきた鍵盤奏者、アイキー・オーウェンスが率いるセッション・グループだ。彼はメンバーの多くが黒人であることにもプライドを持っていると述べるが、そこにリプリゼントされているのはブラック・ミュージックというよりも、やはりもっと“ミクスチャー”なものである。若く瑞々しい問題提起があるわけではないが、熟達したテクニックとミュージシャンシップによって音楽的な芳香を放つ彼らは、ニュー・メタルやラウド・ロックの筋骨隆々としたイメージとはかけ離れながらも、そうした音の周辺から生まれ、それをダンス・ミュージックやクラブ・カルチャーに結びつける存在としてじつに堂々たる存在感がある。ジャズロックの煙たさと艶やかさ、サイケデリックなセッション、這うようにして迫ってくるグルーヴが、夜の鷹のように鋭く魅了する。アルバム後半にゴシックなシンセ・ポップまで開陳するリーチの長さは、鍵盤奏者としてのオーウェンスの幅でもあるだろう。過去のシングル「ノース・イズ・レッド」(2010年)ではトニー・アレンにリミックスを依頼しているが、本作ではLAビート・シーンの俊英としてその登場がいまだ鮮やかに記憶されるハドソン・モホークが登場し、ミュータントなミックスを生んでもいる。
フル・アルバムとしては4年ぶりとなる本作は、そうしたセッション・バンドが録音物への注意と興味も深めた結果として、とても充実した盤となった。こだわりのアナログ録音も、曲によってはとても意外に感じられるだろう。

LAに住むと、エレクトロニック・ミュージックに囲まれていると感じるよ。LAビート・シーンの大ファンだし、僕らにしてもLAのロック・シーンよりLAビート・シーンで認められている。

フリー・モラル・エージェンツにおいては、あなたはバンド・マスターのような役割を果たしているのですか? あなたのバンドなのか、それとも独立したミュージシャン同士のセッションがコンセプトなのか、どちらでしょう?

アイキー:俺がフリー・モラル・エージェンツの創立者なんだ。ラインナップが固まってから、本当にバンドになったんだ。いまでも、俺が作品のプロデュースを担当して、全体の作品の美学や方向性を決めているよ。

ヴォーカルもそうですが、アンサンブルや楽曲自体から、あなたがかつて活動されてきたマーズ・ヴォルタ等のバンドが持つストイシズムとは異なった豊満さを感じます。あなたがフリー・モラル・エージェンツにおいて目指すものはどんなことでしょう?

アイキー:メンディー(・イチカワ)と出会った日から、このバンドのリード・シンガーになってもらいたいと思った。彼女のヴォーカル・サウンドを意識して、このバンドのサウンドを決めているんだ。

あなたがたにはLAのアンダーグラウンド・カルチャーへの愛を感じますし、地元に根づいた活動をされていると思いますが、それがハドソン・モホークなどのアブストラクトなダンス・ミュージックに結びつくのが素晴らしいと思います。彼にリミックスを依頼したことにはどのような意図があるのでしょうか?

アイキー:俺らは全員、エレクトロニック・ミュージックのファンなんだ。とくにLAに住むと、エレクトロニック・ミュージックに囲まれていると感じるよ。LAビート・シーンの大ファンだし、僕らにしてもLAのロック・シーンよりLAビート・シーンで認められている。

あなたがたの魅力はライヴやセッションにおいて真価が発揮されるのではないかと思いますが、アルバム制作にはどのような意味がありますか?

アイキー:年齢を重ねるにつれ、レコーディングの重要性が増している。俺がレコーディングした作品こそ、後世に残していく作品なんだ。俺らの作品は、グループそして個人的に俺らの経験を反映しているんだ。最近は、自分がどのようなアートを残していくのかをとても意識している。

制作する音楽のなかに、あなたの血としてのルーツやアイデンティティはどのくらい意識されているのですか?

アイキー:黒人であることは、フリー・モラル・エージェンツにおける俺のアプローチに多大な影響を与えてる。まず、このメンバーを選んだことが、このバンドにおいて不可欠だった。黒人のインテリジェンス、センス、音楽性の交差点は、俺たちの音楽において極めて重要なんだ。このバンドのメンバーのほとんどが黒人だということだけじゃなくて、黒人男性としての俺たちの生き方も重要なんだ。

”Requiem”には具体的な対象がありますか? とても印象的なブラス・アンサンブルですが、どこか無国籍的で、よるべない魂に捧げられるかのようなはかなさを感じました。

アイキー:この曲は、バルセロナに住んでいるまだ生きている女性に捧げられた曲なんだよ。

2010年のシングル「ノース・イズ・レッド」にはトニー・アレンのリミックスが収録されていますが、これはあなたがたがどのような音楽に経緯を払い、意識をしているのかをよく物語っていると思います。どのような経緯でこの話が決まったのでしょうか。また、彼のあなたがたへの反応をどのように感じましたか?

アイキー:トニー・アレンにはまだ実際に会ったことはないんだ。彼のレーベルに連絡をしたら、親切にも彼はリミックスを引き受けてくれた。ライヴをやるとき、俺たちは彼のヴァージョンを演奏しているんだ。彼のヴァージョンの方が熟成したサウンドで、簡潔なんだ。彼はこの曲を次のレヴェルにまで進化させてくれた。

このメンバーを選んだことが、このバンドにおいて不可欠だった。黒人のインテリジェンス、センス、音楽性の交差点は、俺たちの音楽において極めて重要なんだ。このバンドのメンバーのほとんどが黒人だということだけじゃなくて、黒人男性としての俺たちの生き方も重要なんだ。

「フリー・モラル」を掲げるのはなぜでしょう? 自由を倫理として掲げているのか、倫理からの自由を謳っているのか。また、それはあなたの芸術に対する姿勢ということになりますか?

アイキー:「Free moral agency(自由道徳的選択)」というのは、神学/哲学的な概念であって、人間には自由意志があることを意味している。アーティスト、家族の一員、友だち、恋人、労働者として、自分たちが正しいと思うことに基づいて行動することができる。人間同士の絆を強くしたり、人に親切にしたり、どの音符を使いたいかなどを選択することができる。俺たちは毎日このような決断をしている。成功をすることもあれば、失敗することもあるけど、毎回選択は自分たちがしているんだ。どういう選択をするかによって、優れたアーティスト、息子、兄弟、人間になることができる。

一方でKORGのファンでもあるそうですね。KORGとあなたの音楽との関わりについておうかがいしてもいいですか?

アイキー:KORG CX3 Organがいちばんのお気に入りだし、メインで使用してるキーボードなんだ。micro KORGとmicro XLも気に入ってる。この作品『チェーン・アンフィニ』では、JUNO60とエフェクトをかけたWurlitzerを多用している。1980年代半ばのYAMAHA PSRや70年代のエレクトロニック・チェンバロも多用してる。

アートワークについてはこだわりがありますか? マーズ・ヴォルタやロング・ビーチ・ダブ・オールスターズなどには、ヴィジュアル自体が音やそれが体現するカルチャーの一部というようなところがありますが、フリー・モラル・エージェンツのアートワークについてのコンセプトはどんなものなのでしょう?

アイキー:今作のアートワークを手がけたのは、マティース・イバラという地元のミュージシャン兼アーティストなんだ。彼のアートのスタイルは、今作のサウンドを反映しているんだ。この作品のサウンドは、前作に比べると無駄をそぎ落としたミニマルなサウンドなんだ。このアートワークもそうだけど、間近で見ないとクリアに見ることができないんだ。このアートワークが好きなのは、人の反応が好きか嫌いか二手にはっきりわかれるからなんだ。あと、ロングビーチの最近のグラフィティを反映したスタイルでもあるんだ。

ロング・ビーチでは最近何がおもしろいですか?

アイキー:いまのロングビーチの音楽シーンは本当に最高だよ。ブラインド・ジョン・ポープやデニス・ロビショーのようなアヴァンギャルド・フォーク・アーティストもいるし、ワイルド・パック・オブ・カナリーズみたいにノイズとドゥワップを融合させているバンドもいる。ダフト・パンクをさらにダーティでヘヴィにしたファットバーフのようなアーティストもいれば、素晴らしいソウル・シーンもある。フリー・モラル・エージェンツのベーシストであるデニスは、〈グッドフット〉というクラブ・イヴェントを運営していて、地元の連中はみんな教会のように通っているよ。決まったサウンドがないから素晴らしいシーンなんだ。それぞれのアーティストが個性を持っているんだよ。

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