ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Various - Funk.BR: São Paulo
  2. interview with tofubeats 自分のことはハウスDJだと思っている  | トーフビーツ、インタヴュー
  3. Columns 5月のジャズ Jazz in May 2024
  4. Schoolboy Q - BLUE LIPS | スクールボーイ・Q
  5. Bianca Scout - Pattern Damage | ビアンカ・スカウト
  6. Iglooghost - Tidal Memory Exo | イグルーゴースト
  7. R.I.P. Steve Albini 追悼:スティーヴ・アルビニ
  8. Columns E-JIMAと訪れたブリストル記 2024
  9. Sisso - Singeli Ya Maajabu | シッソ
  10. Claire Rousay - Sentiment | クレア・ラウジー
  11. bar italia ──いまもっとも見ておきたいバンド、バー・イタリアが初めて日本にやってくる
  12. Adrian Sherwood presents Dub Sessions 2024 いつまでも見れると思うな、御大ホレス・アンディと偉大なるクリエイション・レベル、エイドリアン・シャーウッドが集結するダブの最強ナイト
  13. Tomeka Reid Quartet Japan Tour ──シカゴとNYの前衛ジャズ・シーンで活動してきたトミーカ・リードが、メアリー・ハルヴォーソンらと来日
  14. みんなのきもち ――アンビエントに特化したデイタイム・レイヴ〈Sommer Edition Vol.3〉が年始に開催
  15. Pet Shop Boys - Nonetheless | ペット・ショップ・ボーイズ
  16. Gastr del Sol ──デヴィッド・グラブスとジム・オルークから成るガスター・デル・ソル、アーカイヴ音源集がリリース
  17. Cornelius ──コーネリアスがアンビエント・アルバムをリリース、活動30周年記念ライヴも
  18. Overmono ──オーヴァーモノによる単独来日公演、東京と大阪で開催
  19. interview with Yui Togashi (downt) 心地よい孤独感に満ちたdowntのオルタナティヴ・ロック・サウンド | 富樫ユイを突き動かすものとは
  20. interview with I.JORDAN ポスト・パンデミック時代の恍惚 | 7歳でトランスを聴いていたアイ・ジョーダンが完成させたファースト・アルバム

Home >  Reviews >  Album Reviews > Julie Byrne- Rooms With Walls and Windows

Julie Byrne

ElectronicFolkPsychedelic

Julie Byrne

Rooms With Walls and Windows

Orindal

Amazon iTunes

橋元優歩   Feb 17,2014 UP

 ジュリー・バーンの鈍く立ち上がる歌い起こしにつられて、一日が質量を持ちはじめる。彼女の歌を聴くなら朝がいい。朝から元気いっぱいならアッパーな音楽で加速するのも楽しいだろうけれど、そうでもない身体を起こすべくテンションの高い音楽をかけたり、目覚ましの音をマックスでセットしたりするのは、冷や水を浴びるようなもので、むしろストレスを増すだけだ。バーンは重たい。遅い。起伏が少ない。しかし心地よい温かみがある。チルアウトではなくてウォームアウト。そんな言葉はないけれど、彼女のギターと歌は、どちらかといえば後ろ向きな寝起きの思考と身体を、あったかく落ちつけて覚ましてくれる。

 ジュリー・バーンは現在はシアトルで活動するシンガー・ソングライターで、本作は彼女のカセットテープ・リリース2作をコンパイルしたデビュー・アルバムだ。冒頭のように書くとさぞオーガニックでスローな価値観やテクスチャーを持った音楽だと思われるだろうが、たとえばグルーパーをオーガニックでスローだと考えるのならばその意味ではそうだと言える。シンプルな弾き語りをリヴァービーな音像に仕上げる、『ドラッギング・ア・デッド・ディア・アップ・ア・ヒル』のようなプロダクションを持ったサイケ・フォークの逸盤だ。アシッド・フォークと言い切らないのは、たとえば木でできた家具ばかり商っていたりするオーガニック系の店などでもぎりぎりかけられるようなクリーンな明るさがあるから。グルーパーがより彼岸に振れる音なら、バーンは此岸にとどまる音である。

 というのは印象だけの問題でもなくて、実際に歌われている内容もドメスティックなものが多いようだ。部屋の描写、いっしょに暮らしていた男性のこと。ちょっと変わっているのは、彼女が長くイヴェント・ホールに住んでいたということだろう。それは自身にとっても人生を大きく変えるような経験だったと彼女は語っている。大きな規模のハコではなくて、おそらくはささやかな場所なのだろうけど、つねに人がなにかをしていて、プライヴェートを分け合うような生活だったというその述懐のなかには、若い女性の日常というにはもう少し大きい、ホールを舞台として交錯する無名的な人々の時間、そこに生まれる悲喜交々といったものが影絵のように動いている。

 おもしろいことに、2本のテープのうちの1本はそうした暮らしのなかで生まれた作品だそうだが、もう1本はその後小さなアパートメントに引き移ってからできたものだという。仕事場と部屋を行き来し、部屋ではずっとラジオを聴いて過ごしていた時期があった、その、ホールとは対照的な空間や時間の流れがパッケージされた作品だと推測するが、時期的にはどちらだろうか、『ジュリー・バーン』『ユー・ウッド・ラヴ・イット・ヒア』はともに2012年作である。音からすると『ジュリー・バーン』のほうによりウォーミーな感触がある。けっして飛翔することはないけれど、“キープ・オン・レイジング”のアルペジオなどには、ジュリアナ・バーウィックの光の束から1本の光を抜いてきて、フォーク・ソングに鍛えたというような静かな輝きが感じられる。“アタッチト・トゥ・アス・ライク・ブッチャー・ラップ”などの物哀しくミニマルな曲調を持った前半の方が、「アパートメント・ソング」なのかもしれない。しかし互いが互いの尾をつかむように、音の流れは円になってめぐる。底に流れるバーンの声のゆったりとした幅、印象的な低音が一貫しているから、両者は何周かするうちに入れ替わり、両方の生活の色をつないでいく。“ピアノ・ミュージック・フォー・ルーシー”が終曲となっているのは素敵な偶然だろう。にぶいオルガンがほぼ単音で紡ぎ出すこのアンビエント・トラックは、その境界があいまいになったふたつの場所を、ともに彼女の人生として撚り合わせ、聴く者の心へと流し込む。心が起きはじめるのを感じるのは、ひとりの生が流れ込んでくるからだ。そしてそれは、多くの人が拒絶の必要を感じない、なにかおおらかな力を持ったものだということを強調したい。ジャケットの近影もなにかそうしたことを裏付けるに十分な表情を浮かべていると思わないだろうか。

橋元優歩