Home > Interviews > interview with Free Moral Agents(Isaiah "Ikey" Owens,) - ロングビーチの夜の鷹
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フリー・モラル・エージェンツが拠点とするロング・ビーチにはサブライムがいたが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどLAをはじめとして西海岸にホットな拠点を持っていたいわゆる“ミクスチャー・ロック”には、メタルとヒップホップなどジャンル上のミクスチャーという側面とともに、エスニシティやカルチャーにおけるミクスチャーという側面がある。ザ・マーズ・ヴォルタなどをここにストレートに分類するのはためらわれるものの、中心のひとりオマー・ロドリゲス・ロペスがプエルトリカンであり、ラテン・ミュージックを血液としながら、一方でチリ・ペッパーズのフリーやジョン・フルシアンテらを迎え、オルタナのマーケットでシリアスにプログレッシヴ・メタルを展開してきたことを鑑みれば、彼らもまた十分に「ミクスチャー」的な要素のひとつを肥大化させた存在と考えることができるかもしれない。
フリー・モラル・エージェンツは、そのオマーや相方のセドリック・ビクスラー・ザヴァラ、そしてフルシアンテらとともにマーズ・ヴォルタの黄金期を支え、デ・ファクトやロング・ビーチ・ダブ・オールスターズ等でもオマー、セドリックとともに活動してきた鍵盤奏者、アイキー・オーウェンスが率いるセッション・グループだ。彼はメンバーの多くが黒人であることにもプライドを持っていると述べるが、そこにリプリゼントされているのはブラック・ミュージックというよりも、やはりもっと“ミクスチャー”なものである。若く瑞々しい問題提起があるわけではないが、熟達したテクニックとミュージシャンシップによって音楽的な芳香を放つ彼らは、ニュー・メタルやラウド・ロックの筋骨隆々としたイメージとはかけ離れながらも、そうした音の周辺から生まれ、それをダンス・ミュージックやクラブ・カルチャーに結びつける存在としてじつに堂々たる存在感がある。ジャズロックの煙たさと艶やかさ、サイケデリックなセッション、這うようにして迫ってくるグルーヴが、夜の鷹のように鋭く魅了する。アルバム後半にゴシックなシンセ・ポップまで開陳するリーチの長さは、鍵盤奏者としてのオーウェンスの幅でもあるだろう。過去のシングル「ノース・イズ・レッド」(2010年)ではトニー・アレンにリミックスを依頼しているが、本作ではLAビート・シーンの俊英としてその登場がいまだ鮮やかに記憶されるハドソン・モホークが登場し、ミュータントなミックスを生んでもいる。
フル・アルバムとしては4年ぶりとなる本作は、そうしたセッション・バンドが録音物への注意と興味も深めた結果として、とても充実した盤となった。こだわりのアナログ録音も、曲によってはとても意外に感じられるだろう。
LAに住むと、エレクトロニック・ミュージックに囲まれていると感じるよ。LAビート・シーンの大ファンだし、僕らにしてもLAのロック・シーンよりLAビート・シーンで認められている。
■フリー・モラル・エージェンツにおいては、あなたはバンド・マスターのような役割を果たしているのですか? あなたのバンドなのか、それとも独立したミュージシャン同士のセッションがコンセプトなのか、どちらでしょう?
アイキー:俺がフリー・モラル・エージェンツの創立者なんだ。ラインナップが固まってから、本当にバンドになったんだ。いまでも、俺が作品のプロデュースを担当して、全体の作品の美学や方向性を決めているよ。
■ヴォーカルもそうですが、アンサンブルや楽曲自体から、あなたがかつて活動されてきたマーズ・ヴォルタ等のバンドが持つストイシズムとは異なった豊満さを感じます。あなたがフリー・モラル・エージェンツにおいて目指すものはどんなことでしょう?
アイキー:メンディー(・イチカワ)と出会った日から、このバンドのリード・シンガーになってもらいたいと思った。彼女のヴォーカル・サウンドを意識して、このバンドのサウンドを決めているんだ。
■あなたがたにはLAのアンダーグラウンド・カルチャーへの愛を感じますし、地元に根づいた活動をされていると思いますが、それがハドソン・モホークなどのアブストラクトなダンス・ミュージックに結びつくのが素晴らしいと思います。彼にリミックスを依頼したことにはどのような意図があるのでしょうか?
アイキー:俺らは全員、エレクトロニック・ミュージックのファンなんだ。とくにLAに住むと、エレクトロニック・ミュージックに囲まれていると感じるよ。LAビート・シーンの大ファンだし、僕らにしてもLAのロック・シーンよりLAビート・シーンで認められている。
■あなたがたの魅力はライヴやセッションにおいて真価が発揮されるのではないかと思いますが、アルバム制作にはどのような意味がありますか?
アイキー:年齢を重ねるにつれ、レコーディングの重要性が増している。俺がレコーディングした作品こそ、後世に残していく作品なんだ。俺らの作品は、グループそして個人的に俺らの経験を反映しているんだ。最近は、自分がどのようなアートを残していくのかをとても意識している。
■制作する音楽のなかに、あなたの血としてのルーツやアイデンティティはどのくらい意識されているのですか?
アイキー:黒人であることは、フリー・モラル・エージェンツにおける俺のアプローチに多大な影響を与えてる。まず、このメンバーを選んだことが、このバンドにおいて不可欠だった。黒人のインテリジェンス、センス、音楽性の交差点は、俺たちの音楽において極めて重要なんだ。このバンドのメンバーのほとんどが黒人だということだけじゃなくて、黒人男性としての俺たちの生き方も重要なんだ。
■”Requiem”には具体的な対象がありますか? とても印象的なブラス・アンサンブルですが、どこか無国籍的で、よるべない魂に捧げられるかのようなはかなさを感じました。
アイキー:この曲は、バルセロナに住んでいるまだ生きている女性に捧げられた曲なんだよ。
■2010年のシングル「ノース・イズ・レッド」にはトニー・アレンのリミックスが収録されていますが、これはあなたがたがどのような音楽に経緯を払い、意識をしているのかをよく物語っていると思います。どのような経緯でこの話が決まったのでしょうか。また、彼のあなたがたへの反応をどのように感じましたか?
アイキー:トニー・アレンにはまだ実際に会ったことはないんだ。彼のレーベルに連絡をしたら、親切にも彼はリミックスを引き受けてくれた。ライヴをやるとき、俺たちは彼のヴァージョンを演奏しているんだ。彼のヴァージョンの方が熟成したサウンドで、簡潔なんだ。彼はこの曲を次のレヴェルにまで進化させてくれた。
このメンバーを選んだことが、このバンドにおいて不可欠だった。黒人のインテリジェンス、センス、音楽性の交差点は、俺たちの音楽において極めて重要なんだ。このバンドのメンバーのほとんどが黒人だということだけじゃなくて、黒人男性としての俺たちの生き方も重要なんだ。
■「フリー・モラル」を掲げるのはなぜでしょう? 自由を倫理として掲げているのか、倫理からの自由を謳っているのか。また、それはあなたの芸術に対する姿勢ということになりますか?
アイキー:「Free moral agency(自由道徳的選択)」というのは、神学/哲学的な概念であって、人間には自由意志があることを意味している。アーティスト、家族の一員、友だち、恋人、労働者として、自分たちが正しいと思うことに基づいて行動することができる。人間同士の絆を強くしたり、人に親切にしたり、どの音符を使いたいかなどを選択することができる。俺たちは毎日このような決断をしている。成功をすることもあれば、失敗することもあるけど、毎回選択は自分たちがしているんだ。どういう選択をするかによって、優れたアーティスト、息子、兄弟、人間になることができる。
■一方でKORGのファンでもあるそうですね。KORGとあなたの音楽との関わりについておうかがいしてもいいですか?
アイキー:KORG CX3 Organがいちばんのお気に入りだし、メインで使用してるキーボードなんだ。micro KORGとmicro XLも気に入ってる。この作品『チェーン・アンフィニ』では、JUNO60とエフェクトをかけたWurlitzerを多用している。1980年代半ばのYAMAHA PSRや70年代のエレクトロニック・チェンバロも多用してる。
■アートワークについてはこだわりがありますか? マーズ・ヴォルタやロング・ビーチ・ダブ・オールスターズなどには、ヴィジュアル自体が音やそれが体現するカルチャーの一部というようなところがありますが、フリー・モラル・エージェンツのアートワークについてのコンセプトはどんなものなのでしょう?
アイキー:今作のアートワークを手がけたのは、マティース・イバラという地元のミュージシャン兼アーティストなんだ。彼のアートのスタイルは、今作のサウンドを反映しているんだ。この作品のサウンドは、前作に比べると無駄をそぎ落としたミニマルなサウンドなんだ。このアートワークもそうだけど、間近で見ないとクリアに見ることができないんだ。このアートワークが好きなのは、人の反応が好きか嫌いか二手にはっきりわかれるからなんだ。あと、ロングビーチの最近のグラフィティを反映したスタイルでもあるんだ。
■ロング・ビーチでは最近何がおもしろいですか?
アイキー:いまのロングビーチの音楽シーンは本当に最高だよ。ブラインド・ジョン・ポープやデニス・ロビショーのようなアヴァンギャルド・フォーク・アーティストもいるし、ワイルド・パック・オブ・カナリーズみたいにノイズとドゥワップを融合させているバンドもいる。ダフト・パンクをさらにダーティでヘヴィにしたファットバーフのようなアーティストもいれば、素晴らしいソウル・シーンもある。フリー・モラル・エージェンツのベーシストであるデニスは、〈グッドフット〉というクラブ・イヴェントを運営していて、地元の連中はみんな教会のように通っているよ。決まったサウンドがないから素晴らしいシーンなんだ。それぞれのアーティストが個性を持っているんだよ。
取材:橋元優歩(2014年2月10日)