このハイパーな高度情報消費社会において、1カ月以上前の情報をお届けしましょう。日本ではまだあまり知られていないし、なによりも、英国のEU離脱がこの先英国の音楽にどのように反映されるのかは、ele-king読者も興味のあるところでしょう。しかも、EU離脱に対して(下手したら真っ先に)反応したのがビル・ドラモンドであったと知れば、老兵衰えず、いや、さすがドラモンドだと関心するに違いないのです。
大雑把に言えば、話はこんな具合です。投票を終えたビル・ドラモンドは、その日、バーミンガムでロマの一団に出くわしました。彼らは当局によって、大道芸を妨げられていました。ドラモンドは悲しみ嘆き、怒り、そして、「新しくはじめるため」「自らのヨーロッパを取り戻すために」、スパゲティ交差点で彼らと会う約束をしました。そしてその演奏がこれです。(彼にとってベートーヴェンは、『時計仕掛けのオレンジ』にて、最初に聴いた電子音楽だった……、そうです)
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バッドバッドノットグッドほど憎らしくも共感する同世代のバンドはいない。僕が彼らと同世代の人間だからこそ反発を感じるし、同時に彼らの音楽に共感もし、感銘を受けてしまうのだ。
バッドバッドノットグッド(以下BBNG)には、どこか憎みきれないようなキャラクター性があるし、それはジャズという高い演奏技術を必要とする音楽のハードルを、すこし下げてくれたことと関係しているのかもしれない。「自分にもできるかもしれない」と思わせ、我々の音楽に対する意欲を刺激してくるのである。
最初にBBNGを知ったのはたぶん3〜4年くらい前、オッド・フューチャーのタイラー・ザ・クリエイターとのスタジオ・セッション映像を、ユーチューブで偶然見つけたことがきっかけだった。その頃の僕はUCD率いるヒップホップ・バンド、ザ・ブルシットにドラマーとして加入したばかりで、マーク・ジュリアーナやリチャード・スぺイブン、シゲトやクエストラヴといったような、マシン・ビートのグルーヴを人力で再現しようとするようなドラマーを追いかけていた。機械的なビートのニュアンスを取り込み、人力で再現しようとする発想が、当時の僕にとってはとても興味深かったし、同時代の音楽で一番クールに見えたのだ。
そんなようなことをしている人たちを漁っていくうちに見つけたのが、先述した動画であったのだが、初めて見たときには正直言って、いけ好かないヤツらだと思った。タイラー・ザ・クリエイターとのコラボレーションによって一躍知名度を上げたたという経歴や、トロントの音楽大学出身というわりには粗く聴こえてしまう演奏技術、おふざけで豚のマスクを被ってしまうようなセンスがハナについてしまったのだ。ゆえに2014年にリリースされたアルバム『Ⅲ』は軽く聴き流しただけ。彼らに対してのジェラシーを抱きつつ、しかしながら気にはしつつ……、というスタンスであった。
印象が変わりはじめたのが、ゴースト・フェイス・キラーとのコラボ・アルバム『サワー・ソウル』を聴いてからだ。それまでのバンド・サウンドのヒップホップとは一線を画す、言うなればサンプリングの元ネタとなるようなソウルの曲を、スライスしないでそのままループしたようなトラックに驚いた。そしてなにより、ドラムのアレックス・ソウィンスキーが叩くビートの、いわゆるディラ直系の訛ったビートではなく、フィルが走ってつんのめってしまう、ミッチ・ミッチェルを彷彿とさせるグルーヴ感が新鮮だったのだ。とくに新しいことをやっているわけでもないのに、ラップが乗っかることによって、新鮮なヒップホップ・サウンドになることに驚き、彼らに対する印象が変わった。こんなことが出来るようなヤツらなのかと。
そして、新作『Ⅳ』である。これには参った。BBNGの持つ、ロバート・グラスパー系とは違う独特の空気感や演奏のドライヴ感もさることながら、録音物としての完成度も更新されている。クラシック然とした雰囲気も感じとれるが、彼らはジャズ×ヒップホップの枠組みから自由に、既存ジャンルに囚われない音楽を作り上げているのだ。
『Ⅳ』において印象的なのは、卓越した演奏技術を持っていないからこそ引き立つ、アンサンブルの妙である。とくにヴォーカルをフィーチャーしたトラック、“タイム・ムーヴス・スロウ”や“イン・ユア・アイズ”において、それが顕著に表れている。この2曲においてBBNGは決して派手な演奏はしておらず、バッグ・バンドに徹している。あくまでもヴォーカルを引き立てるためのクールな演奏だ。
しかしながら、おそらく本作から新メンバーとして加わった、リーランド・ウッティーによるストリングス・アレンジや、オーヴァー・ダビングされたギター(これもウッティーによる演奏。“イン・ユア・アイズ”においてはマンドリンの音も聴こえる!)やキーボードが絶妙に配置されており、ブラシによって刻まれる16ビートやメロディックなベースラインも合わさって、一聴するとシンプルだが、聴けば聴くほど計算しつくされたアレンジであることがわかるつくりになっている。
リーランド・ウッティーがBBNGに正式加入したことによるサウンドへの影響がかなり大きいことは言うまでもないかもしれないが、サックスだけでなく、ギターやヴァイオリンなども演奏できるという彼のマルチなスキルは、確実に『Ⅳ』の録音物としての完成度を高めているだろう。“チョンピーズ・パラダイス”では、管楽器のオーヴァー・ダビングによって、ジャズの空気感を残しつつも、スタジオ・レコーディングでしか出来ないことをしている。
また、ヤマハのアナログ・シンセサイザー、CS60と管楽器のアンサンブルを聴いているだけで恍惚的な気分になってくる。同曲や“スピーキング・ジェントリー”などで垣間見える、シンセサイザーと管楽器のアンサンブルの絡みはオランダ出身の若手ギタリスト、ライナー・バースの“オフ・ザ・ソース”などでも感じとれるが、これはインディ・ミュージックとジャズとの邂逅による響きとも言えよう。
上記の3曲や、アルバム表題曲である“Ⅳ”などを筆頭に全体的に70年代テイストに仕上がっているように聴こえるのは、楽曲の構造が起因していることはもちろんであるが、録音・ミックスも大きく影響しているのではないだろうか。BBNGの作品全般にも言えることだが、とくにドラムの音においてそれが顕著だ。ヒップホップを通過したバンドとは思えないほどバス・ドラムの音量が控えめだし、スネアのチューニング具合や、ハイハットの音がやけに大きかったりするようなところが、70年代のあの音像を彷彿とさせるのである。
BBNGのドラマー、アレックス・ソウィンスキーがこのような意図をもって演奏していることは、彼のドラムセット遍歴を追えば、おのずと見えてくることでもある。ライヴ映像で確認する限り、初期のBBNG(2012年ごろ)ではタムはフロア・タムのみで、サンプル・パッドを導入している。
このセッティングはおそらく、ダル・ジョーンズ、クエストラヴをはじめとするヒップホップ系ドラマーの流れを汲んでいると思われる。
しかしながら、近年になるにつれ、サンプル・パッドをスネアの横に置き、ハイタムを導入することも多くなってくる。
些細な違いではあるが、ハイタムを導入することによって、よりロック・フィーリングな(つんのめった)タム回しや、よりヴォーカル・バッキング的な軽いフィル・インの演奏を可能にするのである。
このセッティングの遍歴は、『Ⅲ』においてヒップホップ・ドラム的なアプローチを模索していたことと、『Ⅳ』において70年代のジャズ・ロック感を演出するのに一役買っていたことと対応している。
BBNGが『Ⅳ』において提示するのは、ランプやウェザー・リポートらが遺したヒップホップ・トラックの元ネタになるような曲を、あえてやってしまう面白さなんだと思う。ジャズがヒップホップやR&Bと結びついているからこそできる、最先端の回帰的アプローチなのである。近年のジャズ・シーンやヒップホップ・シーンを経験しているからこそ、トラックの元ネタとなる音楽をやってもそのままにはならないし、むしろそれが面白いということをBBNGが証明したのである。
アルバムに収録された曲を1曲ずつ見ていくと、参照元となるジャンルが異なっていたり、統一性がないようにも思えるが、実際アルバムを通して聴いてもみると違和感がないこのセンスは、時代やジャンルを並列的に見ることができる、インターネット世代だからこそ可能な構成の妙なのではないだろうか。
今後、彼らの後を追うようなバンドや音楽が出てくるだろう。僕らの世代が過去を参照しながら新しい音楽を作り上げていく──この感じが最近気持ちよくてしょうがない。いま、そんな同世代の音楽が、バッドバッドノットグッドが、とてもクールだ。
本来なら、現代のニュー・エイジ・ステッパーズになっているはずが、なぜこんなにも遠回りしたのか……ダブ、リディムをルーツに持ちながらも、ハイエイタス・カイヨーテやジ・インターネットなどの、最先端の音を浴びまくっているであろうオルタナティヴ・バンド、TAMTAM。そんな彼らが、前作『Strange Tomorrow』から2年を経て、ニュー・アルバム『NEWPOESY』を9月14日にリリースする。
ヴォーカルのクロは、吉田ヨウヘイgroupや入江陽バンドへのサポートとして参加し、ドラムの髙橋アフィは先日kakululuにて行われた実演型トークイベント【Question!】に出演するなど、各所で名前を耳にする彼らであるが、近年のジャズ、ビート・ミュージックを通過しながらも、自らのルーツに立ち返った本作は、更新し続ける音楽の最先端そのものになるだろう。
アルバム・リリースの決定とともに、クロ氏、アフィ氏が作成したというトレーラーも公開された。こちらも見逃さないように。
TAMTAM / NEWPOESY
PCD-24536
定価:¥2,400+税
★TAMTAM
2008年結成、東京を中心に活動するオルタナティヴ・バンド。メンバーは、クロ(Vocal、Trumpet、Synthesizer)、高橋アフィ(Drums、Programming)、ともみん(Keyboard、Chorus)、ユースケ(Guitar)。紅一点クロの透明感のあるしなやかな歌声を中心に、レゲエ・ダブを土台に培った、ヴァリエーション豊かに刻む骨太なリディムセクション、そして楽曲のテクスチャーを決定づけるキーボード、ソリッドなギター・プレイ。時折現れるブラス・サウンドが祝祭的な響きを以て幅広い音楽性を演出する。
https://tamtam-band.tumblr.com/
今年に入ってアルバム『プリンシペ・デル・ノルテ』を発表してファンを喜ばさせた北欧ノルウェーのコズミック・ディスコの代表格、プリンス・トーマスが来日する。というか、北欧ノルウェーのコズミック・ディスコって何ですか? というあなたはここに行けば良い。
ある意味何でもアリだ。サン・アロウもアクトレスもウォーリー・バドロウ。そしてそこには、上品な、エレガントな、紛うことなきトリップがある!
また、9月にはくだんの『プリンシペ・デル・ノルテ』のリミックス盤もリリースされる。リカルド・ヴィラロボス、ジ・オーブ、サン・アロウなど、とんでもない豪華リミキサー陣。こちらもチェックしよう。
●9.3 (SAT) 東京 @ contact
Studio: Prins Thomas, Gonno (WC | Merkur | mulemusiq | International Feel)
10PM | ¥3500 w/f ¥3000 GH S members ¥2500 Under 23 ¥2000 Before 11PM ¥1000
Info: contact https://www.contacttokyo.com
東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル4号館 B2F TEL 03-6427-8107
* You must be 20 and over with ID.
●9.4 (SUN) 札幌 @ BIG FUN
Info: Precious Hall https://www.precioushall.com
会場: 八剣山果樹園 札幌市南区砥山126番地
Total Tour Info: AHB Production https://ahbproduction.com
Prins Thomas (Full Pupp, Internasjonal / Norway)
北欧ノルウェーのDJ/プロデューサー、プリンス・トーマス。
レーベル、Full PuppとInternasjonalを主宰し、Full Puppがノルウェー国内のアーティストを紹介していき、Internasjonalは国外のアーティストを紹介していく。
2005年、盟友Lindstrømとの共作アルバム『Lindstrøm & Prins Thomas』は世界中の音楽シーンに新しい風を吹きこんだ。
Remixerとして数多くのDiscomiksをてがけ、また、Noise In My Head,『Cosmo Galactic Prism』,『Live At Robert Johnson』,『RA.074』,『FACT MIx 130』, 『Rainbow Disco Club vol.1』,『Paradise Goulash』などのDJ MIXからうかがえるように、DJとしてのその実力とセンスが評価されている。
2014年、ソロアルバムとして3作目となる『Prins Thomas Ⅲ』をリリース、そしてFull Puppのレーベルコンピレーションの監修、『Rainbow Disco Club vol.1』の選曲とミックスを担当、さらには新しいレーベル、Rett I Flettaを始動した。
2015年、Eskimo Recordingsより、3枚組Mix CD大作『Paradise Goulash』をリリース。
今年2月、アンビエントをコンセプトとしたアルバム『Principe Del Norte』をSmalltown Supersoundよりリリース。
また、Full Pupp傘下に新レーベル「Horizontal Mambo」を設立し、リミキサーにノルウェーのジャズピアニスト、Bugge Wesseltoftを起用した。
今秋には、Gerd Janson, Ricardo Villalobos, Hieroglyphic Being, Dungen, Sun Araw, The Orb, I:Cube, Young Marcoが参加した、『Principe Del Norte』のリミックス・アルバム『Principe Del Norte Remixed』をリリースする。
https://www.facebook.com/pages/Prins-Thomas/66565233112
https://twitter.com/prins_thomas

PRINS THOMAS
Principe Del Norte Remixed
calentito
CD2枚組
2016.9月発売
リミックス収録楽曲:
CD 1
1. H (The Orb Orbient Mix)
2. B (Sun Araw Saddle Soap Remix)
3. D (Dungen Version)
4. J (Original Version)*
5. C (I:Cube Remix)
6. D (Hieroglyphic Being Remix)
7. C (Young Marco Remix)
CD 2
1. I (Original Version)*
2. A1 (Gerd Janson Prinspersonation Mix)
3. C (Ricardo Villalobos King Crab Remix)
4. C (Ricardo Villalobos Knödel Prince Dub)
5. H (The Orb Heaven Or Hell Remix)
6. K (Original Version)*
7. C (Prins Thomas Diskomiks)
8. D (Hieroglyphic Being Beat Rework)
昨年病の末に亡くなられた横田進の名作が2枚、リイシューされた。どちらも未発表音源のCD付きだ。
PRISM名義の1995年作『Metronome Melody』、同名義の1997年作『Fallen Angel』。広くはテクノ・プロデューサーとして知られる横田だが、彼の魅力はなんといってもそのメロディにあった。シンプルだが透明で、印象的な旋律。PRISM名義の作品は、テクノ・ビートに乗った彼のメロディがもっとも煌めいた時期のもので、どちらも横田の代表作だ。もし1枚選ぶなら『Metronome Melody』だが、『Fallen Angel』のほうが曲のヴァリエーションは豊かだ。それでも僕は、ダンス・カルチャーのはかなさ/刹那性/ある種の孤独を見事に捉えた『Metronome Melody』を選ぶけどね。まあ、どちらも500枚限定プレスだし、未発表トラックも多く、聴いて好きになった人/とくに思い入れがある人はこの機会を逃さない手はない。
僕の好きなテレビ番組は、カメラが世界各国の街をウロウロするだけの『世界ふれあい街歩き』だ。とくに名所を巡るわけでもなく、その辺の普通のひとたちが普通に生活しているのをダラダラ映している感じがいいのだ。あるとき父親とぼーっとカナダのトロントの回を観ていたら、カメラはゲイ・タウンに入っていって、あるゲイ夫夫の話を聞いていた。僕はちょっと緊張した。僕は両親に17歳のときにゲイだとカミングアウトしているが、だからといって進んでそうした話を親と――とくに父親とは――しないからだ(アメリカ大統領選の話では盛り上がっても、同性婚の話はなんとなく避ける、そんな感じだ)。トロントのゲイ夫夫には4、5歳くらいの男の子の養子がいて、その子ときたらカメラに興奮しているのか「いつもキスしてるんだよね!」と繰り返してパパとパパを苦笑いさせていた。その姿に、僕は思わず泣きそうになったがこらえた……父親は沈黙に気を遣ったのか、「進んでますなあ」と一言だけ口にした。進んでいる……そうなんだろう。外国は。でも、そのときテレビに映っていたのはトロントではきっと「普通」の家族だった。
そのわりとすぐあとに、アイラ・サックスの映画『人生は小説よりも奇なり』(原題:Love is strange)を観た。それは「進んでいる」街ニューヨークで老いていくゲイ夫夫のちょっとした生活とその問題を描いた作品で、僕は隣に父親がいなかったせいか思い切り泣いてしまった。たしかに、進んでいる街では夫夫がいて、日本にはいない……法的に認められていない。だけど、進んでいようがいまいが、そこにあるのはなんら特別でもない普通のゲイたちが重ねていく生活と日々なのではないか?
本書の著者ダン・サヴェージはアメリカでは有名なゲイ・ライターで、僕も海外のゲイ・メディアなどで何度か名前を目にしたことがある。なかでもいじめ問題に悩むLGBTの若者にメッセージを届けたIt Gets Betterプロジェクト(https://youtu.be/Q-9uSExw3ig)の発起人として有名だ。彼は現在法的に認められた結婚をしていて、養子として迎えた子どもがいる……多くのひとが羨ましがるような、進んでいる国の、ゲイ・カップルのひとつの理想的な姿だ。いまやそうした家族も珍しくないのだろう。
が、この本ではそれがまだ珍しかった時代のことが書かれている。僕はまず本国で刊行されたのが1999年だということに驚いた。1999年! 前世紀だ。実際、サヴェージは序盤で同性婚が法的に認められるのは自分が死んだはるかあとだろうというようなことを書いている。僕は、そうだ、外国の「進んでいる」街に憧れるあまり、そこがまだ進んでいなかった時代を忘れていたのだ。社会は勝手に前に進まない、そんな当たり前のことを。サヴェージはそして、その前世紀における、ボーイフレンドのテリーと養子を迎えるまでの奮闘、その日々を詳細に記述していく。普通のゲイのひとりとして……いやもう少し正確に言えば、皮肉まみれのジョークを得意とするゲイ・ライターとして。口がやたら回るゲイの先輩の身の上話を聞いているようで、笑っているうちにあっという間に読めてしまう。本書が読み手のセクシュアリティを限定せずに支持されているのはそのためだろう。
もちろん、ここにはゲイ・カップルが親になるとはどういうことかを巡る問いがある。「生物学的に」親になることはできないふたりが、親になる。何のために? どうやって? ダンとテリーのカップルは考えて、迷って、でもたしかに前に進んでいく。自分たちふたりの未来に向かって。男親と男親を持つ子どもは社会にどう受け止められるのだろうか。どうやって育てていく? 誰に助けを求める? 彼らは産みの母親と直に会って、子どもを迎えてからも関係を保つという「オープン・アダプション(開かれた養子縁組)」を選択するので、当然ふたりだけで親になることはできない。さまざまなひとたちがこの冒険に加わっていく。養子縁組のエージェント、里親となった経験のある友人夫婦、それぞれの家族、いままで交流を取らなかった隣人たち。そして何より、産みの母親。彼女、メリッサはひとつの選択としてホームレス暮らしをする「ガター・パンク」であり、収入に恵まれたカップルでもあるダンとテリーが、金銭を持たない彼女と交流していく様は本書で最大の見どころだ。そこでは交わるはずのなかった人生が重なっていく。……つまりこうだ。ゲイとして生き、考えられる幸福を追求するとき、社会とどう向き合っていくのか――本書はそのドキュメントになっているのだ。
ダンとテリーがここで行っているのは、そうした意味ではゲイが社会と向き合うときに課される訓練のようなものでもある。ゲイ固有の問題や悩みが、ここにはやはりあるからだ。が、そこに対してあくまでふたりは個人として向き合っていくので、次第にセクシュアリティに拠らない普遍的なテーマを帯びてくる。ふたりはユーモアと愛でひとつずつ乗り越えていく。念のため断わっておくが、結婚をし子どもを持つことだけがゲイの幸福のゴールではない。が、ダンとテリーはそれを自分たちの幸福として選んだ、ということ。あくまでひとつのケースだ。ただ、僕はこう思うのだ。これはたしかにまったく個人的な話であるけれども、同時に社会が変わっていく様がはっきりと描かれている、と。誰かが自分の幸福について真剣に想像し、悩み、足を前に出せば、それはまったく知らない誰かの幸福を導いてくるかもしれない。それを社会と呼んでもいいではないか。
いよいよふたりが親になる予感が迸り、たしかに形になっていく後半はとりわけ感動的だ。「遅れている」国に住んでいる僕もまた、そのストーリーに参加できるような生き生きとした描写に満ちている。父親もいる居間で読んでいた僕は、やっぱり少し泣いてしまった。そして、読み終えたあとに自分がこれまでは考えもしなかった未来を想像した。いくつかの可能性を。そのうち、その夢想の話を友人たちや家族としてみようと思う。そうして変わるかもしれない社会について、語り合ってみよう。
そう、いよいよ90年代が始まる。1993年のYMO再生(実質上、テクノポップの終焉)から、そして『テクノボン』を経由して1995年までのおよそ2年間は、「90年代」というディケイドにおける重要なモード・チェンジの時期だったと思う。その象徴のひとつが、1995年の『Dove Loves Dub』だった。「電気グルーヴの石野卓球」ではなく「テクノ・プロデューサー、石野卓球」としての最初の作品である。
大友克洋のアートワークがもたらす相乗効果も大きかった。これは、同年リリースのケンイシイ『Jelly Tones』(当然、森本晃司監督による「EXTRA」MVのCD-ROM付きの初回盤)とともに、アンダーグラウンドなテクノがいままさにポップ・カルチャーの最先端にまで勢いをのばしているのだという、あの頃の高揚感へと繫がった。ジャンルが現在のように細分化される以前の、混沌としているがゆえのテクノの魅力とでもいうべきものがあった。電気のボックスセットからバラ売りするというカタチ(そうでもしなければ、テクノのソロ作品をメジャーで出すことは不可能だった)で同時リリースされた『Dove Loves Dub』と砂原良徳『Crossover』は、ある種の時代精神(!)のなか、聴き狂ったものだった。私は、電気と同じくらい熱心に卓球とまりんのソロを聴いた。
インダストリアルな魅力も兼ね備えたほど多彩な内容の『Dove Loves Dub』以降では、それとは対照的に渋いハード・ミニマル・テクノを打ち鳴らす1998年の『Berlin Trax』が好きだったけれど、それを言ったら2004年の「Title」シリーズ、2010年の『CRUISE』などゼロ年代の諸作品も忘れるわけにはいかなくなる。基本的にポップなイメージで見られる石野卓球だが、しかしソロで見せる音楽性はまったくのアンダーグラウンドで、ある意味ディープで、しかも素晴らしく洗練されているのだ。
そして、『CRUISE』から約6年ぶりに新作『LUNATIQUE』は、たしかな経験とスキルに裏打ちされた、まさに大人のテクノ/ダンス・ミュージックと呼ぶに相応しい仕上がりだ。何回も聴けば聴くほど新たな発見がある。心地良く、ビートも音色もメロディもシーケンスもベースも、すべてのパートがそれぞれ自然と体内に染み入ってくるようだ。あるトーンが持続し、反復し、展開し、グルーヴの低熱のようなものが入ってくる。まさに身体に「効く」音楽!
エロティシズムが主題だと言うが、全編にうごめく柔らかい音色は、たしかに官能的だ。ニュー・オーダーも影響を受けているイタロ・ディスコ的なセンスも伺える。たとえば“Fana-Tekk“や“Crescent Moon”など、かなり中毒性が高いトラックだが、しかし、それにしても、なぜこんなに気持ち良いのだろうか……。
冒頭の“Rapt In Fantasy”からしてそうだが、シーケンス・フレーズとビート、パーカッションとベースなど、ジャスト一歩手前の微妙なズレを伴っている。そのズレが独特のグルーヴを生み、さらにアルバム全編を通して伸縮するような大きなグルーヴを生んでいる。電子音なのにウネウネとして生っぽいのである。
“Fetish”も最高だ。水のような持続音、シルキーなシンセ、断続的に散らばるビートと、伸縮するベースなど、まさに官能と快楽だ。また、“Die Boten Vom Mond”や“Selene”などのアンビエントなシンセとミニマルなリズムとの重なりを聴いていると、ふと90年代のレーベル〈クリア〉の諸作品(モーガン・ガイストなど)を思い出してしまった。要するに、聴く場所を選ばない、ダンスとリスニングとのバランスがじつに良いのだ。
もっとも本作は、マニアだけを相手にするアルバムではない。『LUNATIQUE』はポップでもある。YMOのファーストやセカンドにあったポップ・センスをも彷彿させる。何と言ってもメロディが残る。宇川直宏による官能テクノ雑誌のようなアートワークも、本作のポップ感を見事に象徴している。ぜひ特殊仕様の初回盤を手にとってほしい(完売してしまったかもしれないが……)。『Throbbing Disco Cat』(1999)に匹敵する名ジャケだ。
そう、彼はいつどんなときだってユーモアを込める。つまり6年ぶりのこのアルバムは、粋なのだ。大人テクノの粋! 90年代の自分に教えてあげたいほどの力作である。
ゴンジャスフィが帰ってきた。フラング・ロータスの名作『ロスアンジェルス』で脚光を浴びて、〈WARP〉とソロ契約を交わし、すでに3枚のアルバムをリリースしている。中東文化も混在するサイケデリック・LAビート・ロックとでも言おうか、10年先の世界を歩いていると言おうか、とにかく彼にしか作れない独自の魅力をもった作品でファンを魅了してきている。巷では奇人などとも噂されているが、ヨガのインストラクターでもあり、またヴォーカリストでもありトラックメイカーでもあるという、いまだミステリアスだが多才な人物であることは間違いない。
さて、そんなゴンジャスフィの新作『Callus(カルス)』が8月26日にリリースされる。新作は、まるでトム・ウェイツがスーフィーの寺院で宇宙を語りはじめたかのような作品らしい。ここに彼の最新PVも発表された。期待しよう。
Gonjasufi - Vinaigrette (Official Video)
いい音楽はいつもそうだけど、いかしたブラジル音楽にはいつも見透かされているような気がする。但し、とても暖かい目で。
「ソンゼイラとは、カッコイイ……とか、ヤバイ音って意味。それがすべてだよね!」とは前作『Brasil Bam Bam Bam』の時のジャイルス氏の言葉。「ヤバイ」というと、「最近の若い者は」とか「表現の脆弱化」とか罵声が飛んできそうだし、大半は実際そうなのであろうが、この日本語訳はアリだと思う。たしかになんでもかんでも感動をヤバイと置き換えるのは面白くないが、それは説明するのも野暮な極めて重要なことだとしたら……。そしてそれに気づいていないとしたら……。
僕はリズムになんだか日本で普通に育っただけでは想像も及ばないような何かがあるような気がして、ブラジル音楽やアフリカの音楽に取材してみたけど、まず驚いたのは「リズムに流れる時間」だった。長い時間のなかで無駄が省けていて、どんな複雑に聴こえるリズムにも大きなエンジンを発見することができる。複数の打楽器が絶妙に絡み合って、エンジンを形成しているとも言えるかもしれない。僕は隙間産業と呼んでいるのだが、「俺はここにいるんだから、おまえは違うところにいろよ」みたいな感覚がある気がして、いつも頭に低音がいる音楽にしか触れていなかった自分にとっては目から鱗だった。尊敬というと大袈裟かもしれないが、そんなリズムへのカッコいい共通認識みたいなものがあること、またそれが自国の音楽への愛に自然と繋がっていることを、羨ましく眺めたものです。
なるほど、ロックにしろポップスにしろMPBにしろ、歴史の中で突然現れたものではなくて、大きな土台に支えられえている。先日来日したジスモンチ氏はインタヴューで「ブラジルの音楽にはクラシックとポピュラーやフォルクローレとの区別が存在しない」と言っていた。これもブラジル音楽へのリスペクトが土台となっているからこその話だ。「ソンゼイラ」とは、そんな尊敬すべきであり同時に当たり前のこと、本当にかっこいいことを取り戻そう、大事にしようというジャイルスのメッセージのようにも聞こえる。そんなに堅苦しいことでもないとは思うけど。今リオ・オリンピックのCMでキューバ人のお母さんが「日本人はまだまだ固い」って言って踊っているのをみたけど、あれだと思う。固い、とは言うけど、跳ね除けるわけではなく、柔らかく踊ってみせてくれる。
今作の元になったジョゼ・プラテスの『Tam... Tam... Tam…!(タン・タン・タン)』は、マクンバやカンドンブレなどブラジル由来の儀式的な形式がベーシックにあるにもかかわらず、58年の作品にしてすでにポップスとして昇華されている。民族音楽には聴こえないし、大衆と切り離されているわけではなく、生活の中にある音楽を感じ取ることもできる。オリジナルをしてブラジルの古典ファンと、分け隔てないファンを繋ぐ作品である。保守と進歩の二元論で語る話でもないが、「ソンゼイラ」があればいいじゃんといった意志をこの作品を選んだところに感じる。
最新作『Tam Tam Tam Reimagined』はジャイルス・ピーターソンとアシッド・ジャズ時代からのベテラン、ロブ・ギャラガーを中心に、L.V.(ハイパーダブなどからの作品で知られる)ことウィル・ホロックスほか、モーゼス・ボイドやダニエル・カシミール、ブラジルの比較的若手の部類に入るカシンらの手によって、ときにベース・ミュージックもミックスしているが、根も葉もないものではなく、「ソンゼイラ」を感じた上での編集作業行っている点、そのプロセスにも意味があるということを伝えているようにも思える。なんでもいいわけじゃないけどかっこよければミックスしてもいいんだと。
過去という大きな時間のなかで洗練されてきたものへの尊敬と理解、そしてそれをパロディ化することによって現代を体現することができるし、さらに現代をパロディ化することによって未来が見えてくるのではないか。これが、ジャイルスの意思なような気がするのです。そこで大事になってくるのがソンゼイラ、一種の柔らかさみたいなものだと思うのです。土台なしで現代と真面目に付き合っていたら、すぐに過去に覆われていってしまうのは明らかである。そういった意味では、前作『Brasil Bam Bam Bam』は大きな時間と現代を伝えたのに対して、最新作『Tam Tam Tam Reimagined』は未来へ向いているもののように思える。またその2作の存在は、過去、現代、未来が順番にならない面白さも伝えてくれる。
個人的には、20代のほとんどを大きな時間への取材(同時に他所への取材でもあった)で最近終えてしまったばかりな上に志半ばのままであるが、現代を見詰め未来を見据える勇気を与えてくれる作品であった。
今聴きたいソウルミュージック10選
![]() 1 |
Isley Brothers - Footstep In The Dark - T-Neck - https://www.youtube.com/watch?v=etwIu8-FlGU&feature=youtu.be |
|---|---|
![]() 2 |
Al Green - Lets Stay Together - Hi Records - https://youtu.be/COiIC3A0ROM |
![]() 3 |
Little Sister - Somebody's Watching You - ATCO Records - https://youtu.be/yAPLtixERNs |
![]() 4 |
Labelle - Moon Shadow - Warner Bros. Records - https://youtu.be/aRyINBuZq0k |
![]() 5 |
Smokey Robinson - Quiet Storm - Tamla - https://youtu.be/iCZ22D2SRD0 |
![]() 6 |
Minnie Riperton - Here We Go - Capitol Records - https://youtu.be/cmD95FUFKvI |
![]() 7 |
Rufus & Chaka Khan - Everlasting Love - ABC Records - https://youtu.be/TNtI8LMp0UU |
![]() 8 |
落日飛車(Sunset Rollercoaster) - My Jinji - 落日飛車 - https://youtu.be/Cn4ViNXLm4M |
![]() 9 |
Ströer - Some People - Flame - https://youtu.be/mWO2b6FY77s |
![]() 10 |
Steely Dan - Everything Must Go - Reprise Records - https://youtu.be/iGgtfz5qaaU |
SOUL/FUNK/DISCOを愛する3人組"CAT BOYS"のベース担当。
8/5に3枚目の7インチシングル”Funka de Janeiro"をリリースしました。
こちらはリオ・デ・ジャネイロ・オリンピック非公式応援カーニバルソングとなっています。
■今後のライブ予定
8/29 (MON) @渋谷COCOON
9/2 (FRI) "HALO" @青山蜂
9/5 (MON) "TERMINAL-H" @恵比寿BATICA
9/10 (SAT) "秘境祭” @玉川キャンプ村
9/24 (SAT) "Elements" @青山蜂
10/27 (THU) "MUSIC IS FREE w/Tuff Session" @渋谷CLUB QUATTORO



