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Floating Points

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2016年10月7日

小林拓音  
写真:岩沢蘭   Oct 21,2016 UP

 フローティング・ポインツことサム・シェパードといえば、ポスト・ダブステップの文脈のなかで頭角を現してきたアーティストのひとりである。2009年に〈Planet Mu〉からリリースされた12インチ「J&W Beat」のB面に収録された“K&G Beat”は、ダブステップのリズムを巧みにズラしてみせることでその「次」を打ち鳴らした佳曲で、個人的にはいまでも彼のベスト・ワークのひとつだと思っている。
 しかし様々な音楽に精通したシェパード青年が、「ダブステップ」というひとつの枠組みのなかに安住することなどできるはずもなく、その後の彼はハウスやジャズなどを縦横無尽に消化・異化して再呈示してみせることで、多様な層から支持を集めていった。一方でファンの期待に応えながら、他方でファンの予想を裏切り続ける彼のディスコグラフィは、ベース・ミュージック好きからハウス好き、クラブ・ジャズ好きまでを巻き込んで、「フローティング・ポインツ」という神話を形成していった。そしてこの夏リリースされたEP「Kuiper」で彼は、ついにロック好きまでをも味方につけたと言っていいだろう。
 昨秋リリースされたあまりに遅すぎるファースト・アルバム『Elaenia』は、非常に繊細なテクスチャーのなかにジャズとアンビエントとクラウトロックを同衾させるという意欲的な作品だったけれど、その『Elaenia』を再現するライヴの過程で生み出されたバンド編成による楽曲“Kuiper”は、『Elaenia』のたたずまいを継承しながらアグレッシヴなロックのダイナミズムを展開してみせるという、フローティング・ポインツの「次」を告げ知らせるトラックであった。実際、「Kuiper」のリリース前におこなわれていたワールド・ツアーは、一部でモグワイやシガー・ロスといったバンドの名前が引き合いに出されるなど、(ポスト・)ロックの要素が壮大に展開されたライヴであったようである。

 そんなフローティング・ポインツの「次」の流れのなかで実現したのが、今回の来日公演である。バンド編成でのパフォーマンスは、日本では初披露。これは嫌でも注目せざるをえない。

 会場は満員。いまこの国で、フローティング・ポインツがどれほど神話的な存在になっているかがうかがえる。

 ライヴは『Elaenia』に収められた楽曲を中心に進行していったが、中盤には“Kuiper”が演奏され、また最後には立て続けに新曲が披露された。セットリストの半分くらいを占める『Elaenia』からの楽曲も、ライヴならではの生々しいヴァージョンへと生まれ変わっており、 ダイナミックな“Kuiper”に引き寄せられた演奏になっていたと思う。
 クライマックスはやはりその“Kuiper”だろう。とにかくギターの主張が激しいことに驚く。ハード・ロックのようなリフが炸裂した後は、ベースが主導権を引き継ぎ、次第に壮大な祝祭空間が生成され、最後には落ち着いたブルージィなムードが紡ぎ出されていく。

 これは新たなジャズだ、と言う人もいるだろう。実際、多くのリズムや音階にはジャズの要素が忍ばせられていたし、エレクトロニクスとの違和感のない融合も近年のフライング・ロータスなどの「新たな」ジャズの潮流と通じる部分があった。他にもアンビエント的な空間の演出があったり、シンプルにダンサブルなビートが挿入される瞬間があったりと、全体的にシェパード青年の折衷主義が大々的に展開されたライヴではあったが、しかし、もし今回のライヴに貼り付けなければならないタグがたった1枚しか選べないのだとしたら、僕は「ジャズ」ではなく「ロック」というタグを選ぶ。
 予想以上に深くベースが響いていた。ロッキンな展開の合間にドラムンベースを想起させるようなリズムが挿し込まれることもあった。そういう「自身の登場してきた文脈を忘れまい」というシェパード青年の固い意思のようなものが感じられる瞬間も何度かありはしたものの、全体として今回のライヴは、「試行錯誤するロック・バンドによる新たなアイデアの発表の場」という印象を強く与えるものであった。要するに今回の来日公演は、サム・シェパード自らが指揮あるいはプロデュースするロック・バンドのライヴだったのである。
 ロックというジャンルが音楽的に厳しい状況に置かれているいま、フローティング・ポインツは、ふつうのロック・バンドにはできないやり方で、なんとかロックを更新し、ぎりぎりまで延命させようとしているのではないか。今回の来日公演は、フローティング・ポインツという神話の「次」の呈示であると同時に、ロックの歴史におけるひとつの画期でもあるようなライヴだったのではないだろうか。


小林拓音