ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. 猛暑をやり過ごすためのサウンドトラック -
  2. interview with LEO 箏とエレクトロニック・ミュージックを融合する
  3. Homie Homicide ──これまでライヴやSoundCloudで評判を上げてきた東京の4人組インディ・バンド、ついにデビューEPを発表
  4. Stereolab - Instant Holograms On Metal Film | ステレオラブ
  5. Greil Marcus ——グリール・マーカス『フォーク・ミュージック——ボブ・ディラン、七つの歌でたどるバイオグラフィー』刊行のお知らせ
  6. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  7. Nick León - A Tropical Entropy | ニック・レオン
  8. interview for 『Eno』 (by Gary Hustwit) ブライアン・イーノのドキュメンタリー映画『Eno』を制作した監督へのインタヴュー
  9. Derrick May ——デリック・メイが急遽来日
  10. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  11. Columns LAでジャズとアンビエントが交わるに至った変遷をめぐる座談会 岡田拓郎×原雅明×玉井裕規(dublab.jp)
  12. Columns #14:マーク・スチュワートの遺作、フランクフルト学派、ウィリアム・ブレイクの「虎」
  13. Theo Parrish ──セオ・パリッシュ、9月に東京公演が決定
  14. What's in My Playlist 1
  15. Pulp - More | パルプ
  16. Susumu Yokota ——横田進の没後10年を節目に、超豪華なボックスセットが発売
  17. Columns 「ハウスは、ディスコの復讐なんだよ」 ──フランキー・ナックルズの功績、そしてハウス・ミュージックは文化をいかに変えたか  | R.I.P. Frankie Knuckles
  18. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  19. Ellen Arkbro - Nightclouds | エレン・アークブロ
  20. 別冊ele-king イーノ入門──音楽を変革した非音楽家の頭脳

Home >  Reviews >  Album Reviews > Falty DL- Hardcourage

Falty DL

Falty DL

Hardcourage

Ninja Tune/ビート

Amazon iTunes

北中正和   Dec 28,2012 UP

 このアルバムを聞いて最初に感じたのは懐かしさと明快さと音の強度だった。
 懐かしさについては、時期やアーティストを特定できるほど、ぼくはダンス・ミュージックを聞いてきたわけではないので、CDの野田努さんの解説を参照してほしいが、その中に1992年ごろのエイフェックス・ツインの名前があげられているのを見たとき、自分がなぜこのアルバムにひかれたのか、理由がわかるような気がした。かつてのエイフェックス・ツインの音楽がそうであったように、フォルティDLのこのアルバムの音楽は、ダンスしないでも楽しめる面がある音楽だからだ。

 フロアでの踊りやすさや盛り上がりとは別のところでダンス・ミュージックが消費されていくことに対しては、賛否両論あるだろうと思うが、ポップ・ミュージックの側からすれば、それがポップ・ミュージックの範囲を広げてきたことは否定できない。そして、たとえダンス・ミュージックでも、CDアルバムという容器で作品を発表するなら、踊らない音楽ファンが聴く可能性を拒むことはできないのだから、そうした聴き手も考慮に入れてアルバムを作るアーティストも出てくる。このアルバムはそれを凝縮度の高い音像できわめて明快に、示している。力強いリズムも気持ちいい。

 コアなダンス・ミュージックは、短いフレーズの反復が主役だから、ポップス・ファンからすると、曲展開が乏しく感じられるものが多い。しかしこのアルバムの曲には、AA'BCといったポップスの典型的なフォーマットこそとっていないが、随所に音の物語を追うことができるような仕掛けがある。たとえばハウスやテクノでアイコン的に使われるフレーズを、ロック用語で言うならリフ的に使って、とっかかりやすく感じさせる。5曲目のように、ハーモニーを意識した曲があるかと思えば、6曲目のように徹底して反復的なリズムにある種のヒップホップ的なホコリっぽい音響や雑踏のつぶやきのような声を加えて、リズムに音色的なふくらみを持たせた曲もある。2曲目のヴォーカルは、いまどきのアメリカのインディー・ロックのようだ。

 1曲目を聞いて20年前のエイフェックス・ツインを思い出すだけでなく、キーボードワークではさらにさかのぼってクラフトワークを思い出したり、3曲目にフランキー・ナックルズのこだまを感じるといった聴き方もできなくはないだろう。ポップス・ファンからはアット・ランダムに増殖・拡散するミュータントのように思われてきたダンス・ミュージックの世界だが、先行するアーティストに対する敬意があって、そこにおのずと歴史感覚が発生してくることに変わりはない。ぼくにとってはこれはそんなことも感じさせてくれるアルバムだ。

北中正和