「R」と一致するもの

interview with Jun Togawa - ele-king


戸川階段

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 戸川純、非常階段、ともにいま、外国の人からよく名前を聴くミュージシャンである。この組み合わせは意外なのか。意外ではないのか。80年代の日本で彼らの活動に気を留めた人でも意見は分かれるところだろう。アルバムに付けられたライナーでは非常階段のリーダー、JOJO広重がいかに当時から戸川純にシンパシーを抱いていたかということが切々と書かれている。昭和歌謡の趣味が同じだということから実際にコラボレイションをはじめた経緯など。では、一方の戸川純にとって非常階段というのはどういう存在だったのか。毎年恒例となっている3月31日のバースデイ・ライヴ@新宿ロフトを前に戸川純に話を聞いた。

戸川純 / Jun Togawa
1961年、東京生まれ。82年、ゲルニカ『改造への躍動』でデビュー。個性的なキャラクターでテレビ、映画、CMなどで活躍。84年にソロ・アルバム『玉姫様』、戸川 純&ヤプーズとして『裏玉姫』をリリース。85年には戸川純ユニットとして『極東慰安唱歌』発表。ヤプーズ・ゲルニカで活動後、1989年、再びソロで芸能生活10周年記念盤『昭和享年』(テイチク)を発表。ノイズ・バンド「非常階段」とのコラボレートがスタジオ録音のアルバムにまとめられ、2016年、『戸川階段』としてリリースされた。

非常階段
1979年、京都でJOJO広重を中心として結成。『蔵六の奇病』等の作品や、過激と評されるライヴ・パフォーマンス、自身らが立ち上げた〈アルケミーレコード〉の存在によって、日本のインディーズ史にカリスマ的な存在感を残している。近年はTHE原爆オナニーズ、ザ・スターリンとの合体ユニット「原爆スター階段」としてのイヴェント出演や、『初音階段』(初音ミク×非常階段)『BiS階段』(BiS×非常階段)『私をノイズに連れてって!』(ゆるめるモ!×非常階段)『Nois Join Inn』(大友良英×非常階段)などコラボ作品に意欲的であり、2016年にその最新作として戸川純とのアルバム『戸川階段』を発売した。

JOJOさんが言ってくださっているとおり、わたしの声も非常階段さんとのコラボにおいてはノイズなのだな、と思いました。


戸川さん、こんにちは。久しぶりのインタヴューですが、今日はよろしくお願いします。戸川さんが初めて聴いたノイズ・ミュージックは何でしたか?

戸川純(以下戸川):わたしが初めて歌をやることになった、ゲルニカというユニットが昔ありまして、そのゲルニカの前に付いていたユニット名が「イントナルモーリ」 という、昔の未来派の騒音楽器でした。そのイントナルモーリの音楽(音?)も、カセットで、もちろん古いレコーディングだったけども聴くことができまして、それがノイズを聴いた初めてだと思います。人も飲み込むような、野外にしか置けないすごいデカさなのに、ボー……!! しか鳴らなかったのを憶えています。ちなみに、わたしがなかなかイントナルモーリという単語を憶えられなくて、バンド名も変わりました。その後、歌詞に入っていたので、やっと憶えられました。

普段、ノイズ・ミュージックを聴くことはありますか?

戸川:ないですね。でも関わることはけっこうあったんですよ。羅生門というお芝居のとき、それはドイツで初演されて、ドイツでは、ノイバウテンが音楽 (音?)を担当していて、1幕では演じる役者がその音を出させられてたり、ね。

では、非常階段のことはいつ頃、どのようにして知りましたか?

戸川:80年代半ばか、初期だったと思います。申し訳ないのだけど、音楽もお聴かせいただいたことはなく、あの頃特有の、いわゆる過激なパフォーマンスのバンド、と人からきいてたくらいでした。ごめんなさい。

戸川さんにはメジャーとマイナーで線引きをするという感覚があまりないと思いますけど、そういった線引きを超えて非常階段に惹かれる部分があるとしたら、それはどの部分になりますか?

戸川:やっぱり、BiS階段さんのときのアルバムを聴かせていただいて、非常階段さんが、一歩も譲ってないと感じたところとかですね。とにかくノイズでグチャグチャにしてもらう、というのをレコード会社の人は望んでたのかもしれないけど、それだけでなく、すごく音楽的に仕上げてもいらっしゃるなあ、とほんとに思ったんです。あと、お人柄とのギャップも大切ですね。ノイズとかパンクをやってらっしゃるから、普段もそういう方々、というのでは、ミーティングできませんし。とくに大人同士だから、昔とは違うしね。

なるほど。非常階段とは四谷〈アウトブレイク〉でも穏やかに対談もやってましたものね。ちなみに非常階段にちがう名前をつけるとしたら何がいいですか?

戸川:他にまったく浮かばないですね! 非常階段ってネーミング、危機感はあるし、キャッチーだし! 私事ながら、ゲルニカがイントナルモーリじゃなくてよかった、みたいな、ね!


同じ80年代という時期を生きていまなお活動しつづけているという点で、このコラボの音にもそのことが如実に表れているのでは、と思います。


(笑)BiS階段から“好き好き大好き”をカヴァーしたいというオファーがあったとき、最初はどう思いましたか? ふだん、自分のライヴでは取り上げていなかった曲ですよね。

戸川:若い女の子たちが、とか、非常階段さんが、とか。お話をいただいたとき、とにかくびっくりしました。でもグチャグチャになるんだろうなとは思っていました。だけど、それにアイドルさんがどうやって歌うのかが、ぜんぜんわかりませんでした。それでも、可愛いいんだろうなと思ってうれしかったです。音源をいただいたとき、非常階段さんとBiSさんとの対比がおもしろくて、「アンバランスがとれてる」という印象でした。あの曲は、それまでもよく歌詞についてファンの人の支持があったものなのですが、曲がテクノ歌謡っぽいから(ピコピコな編曲)。そして、ファルセット部分以外の歌唱法……。あのときは、「戸川純アイドル路線」なアルバムを1枚作りたかったのです。でもどうしても、切った貼ったが出てきちゃったものでした。で、自分のところでは、その中では歌詞だけアイドル路線じゃなくてなんだかイタイ、とか思って、ずーっとやらなかったのですが、BiS階段さんみたいにノイズなものでなくても、 もっと生のバンド感を生かしたロックなアレンジや歌い方にすれば、できるなあ、と、思いました。それで、たまにうちでもロックっぽくやってます。だけど、どうしてもサビからのファルセットな歌い方だけは浮くから、サビ少し前から、パンキッシュな歌い方になってしまうけど、編曲との兼ね合いを考えてます。

実際に、非常階段と四谷〈アウトブレイク〉を皮切りに共演してみて、「思っていた通りだったこと」と、「思っていたことと違ったこと」はありましたか?

戸川:思っていたこととちがうのは、やはり非常階段さんとわたしの相性の良さです。こんなに相性良いって意外でした。わたしはずっと歌ものをやってきましたから。もちろん、非常階段さんはかなり合わせてくださってるのだと思うのですが、それにしても、JUNKOさんの声とはまたちがう意味で、JOJOさんが言ってくださっているとおり、わたしの声も非常階段さんとのコラボにおいてはノイズなのだな、と思いましたし。
 思っていたこととわりと近いかな、と思うのは、やはり同じ80年代という時期を生きていまなお活動しつづけているという点で、このコラボの音にもそのことが如実に表れているのでは、というところです。

『戸川階段』の選曲の基準は何でしょう?

戸川:選曲は非常階段さん側です。たぶんJOJOさんだと思います。先日また、戸川階段でライヴをやったのですが、2曲増えてまして、それも JOJOさんのセレクトだと思います。わたしからは、選曲の基準は考えたこともなくて、非常階段さんにとって、やりやすいとか、面白いことができそう、とか、そういうことかなぐらいにしか思ってなくて、お恥ずかしいかぎりです。でも、JOJOさんが“ヒステリヤ”を泣ける曲と言ってくださっていたり、“肉屋のように”の出来をなかなかエグいですよと言ってたりしたから、激しい曲と静かめな曲を選んだんじゃないかな。でも、 どっちも、わたしの中では感情がすごく渦巻いてる曲たちなので、そういうところをわかってくださって、選んでくださった感じがしちゃいます。 意外と非常階段にもある、接点と思ってくださったというか。


“ヒステリヤ”も“肉屋のように”も、わたしの中では感情がすごく渦巻いてる曲たちなので、そういうところをわかってくださって、選んでくださった感じがしちゃいます。


Vampilliaのような若い世代とコラボレーションするのと、非常階段のような同世代とコラボレイトするのでは何が違いますか?

戸川:若い世代でも、Vampilliaはちょっと特別で、すでに風格があるんです。でもライヴは「はいー! どーもー! バンピリアですー、今夜も頑張っていきたいと思いますー!」みたいな軽ーいMCではじまって、お笑い劇場?! みたいなんです。それでも曲とのギャップがおもしろくて、爆音にデスヴォイスに派手なファルセット、と地獄のようでもあり、ときおり天使のようでもあり、で、お笑い劇場と真逆の、どシリアスぶりで、たぶん本拠地が大阪だから、照れ屋でバランスとってるんじゃないかな。それに、ツインドラムにわたしの大好きな吉田達也さんもいるし、同学年の方もいらっしゃったりもするんですよ。それでも、わたしと同世代だけで作られていまも活動してるバンドさんとちがうところははっきりしてますよ。そんな明るく楽しいMCでありながら、デスヴォイスでありながら、生バンドという点でありながら、とにかく元気があるバンドさんでらっしゃるんです。体力がとにかくすごい。音楽性はもちろんのこと、体力が、ね。それが、若さじゃないかな。
 一方、非常階段はというと、これも同世代では変わっていて(まず、同世代のバンドはほとんどが解散しちゃってて、もう活動してなかったりね。あるいは最近なぜか再結成するバンドもけっこういるみたいに見えるけど)、長いキャリアを感じますし。やっぱり落ち着いてるんですよ。ノイズとはいえ。長年やってきた安定感というか。若いバンドさんにも、同世代のバンドさんにもピンキリあると思うけど、わたしは贅沢に、これは、と思うふたつのバンドさんとコラボさせていただいてます。対照的だけど、両バンドさん共に、音の洪水の中、わたしの歌を立ててくださってますし。それに、両バンドさん共に、いまロフトで定期的にやってるわたしのソロ名義のバンドとも、ヤプーズとも、ちがいますからね。

“肉屋のように”や“ヒステリヤ”などライヴで頻繁に取り上げている曲を、あらためてレコーディングし直したことで、なにか感じたことはありますか?

戸川:感じたことというより、レコーディングにあたり、本当に考えこみましたね。全体的には、非常階段さんとのコラボだからオリジナルとはちがうようになるとは思っていましたが、個人的に“ヒステリヤ”も“肉屋のように”も、他に歌い方が見つからなくて、同じ歌い方になってしまいそうで。 結局どの曲も、普段と同じような歌い方になってしまうから、歌はエフェクト頼りにしかなれませんでした。そういう意味では、まずヴォーカルは チャンネルを部分的に2本いただいたり、あと、肉屋は声を割ってもらったり、なんといってもヴォーカル全体を、非常階段さんの演奏に埋もれた感じにしていただきました。わたしの声のヴォリュームを小さくしていただいてね。選曲はお任せしたけど、ミックスには立ち合わせていただきました。
 そんな、歌入れやミックスのことばかり客観的に考えていたから、もともとの曲自体を客観視、ということは、あまりできなかったので、あらためて感じることができなかった、というのが正直なところです。

後編に続く

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 今年の初めにリリースされた、非常階段と戸川純とのコラボレーション・スタジオ・アルバム『戸川階段』。本作をめぐる戸川純へのインタヴュー後編を公開! 7月20日には、その『戸川階段』発売記念ライヴ(2016年2月21日)の実況録音盤もリリースされる。詳細は記事の最後にて。前半部分は「1」よりどうぞ。

コラボしたら、もれなく「ナントカ階段」というネーミングになる、と思いこんでいたんです。

レコーディングは具体的にどのように進められたんでしょうか?


戸川階段

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戸川純(以下、戸川)::まだ、レコーディングすると決まってなくて、非常階段さんのライヴにゲストで出て数曲歌ったときの、その感じをベースに、非常階段さんがノイズが全部入る前のオケを作って、それを聴いてからわたしが歌入れして、そのあとギターその他のノイズをさらに足した、と記憶しています。もしかしたら、ギターその他のノイズは全部入ってたのかな? ミックス前だったから、オケを若干下げてくださってて、ノイズが本チャンより少なかったという印象だったのかもしれません。あとはミックスに立ちあって、大まかなところや細かいところ(ヴォーカルをけっこう埋もれさせてもらったり、エフェクトかけたり)を調整した、という感じですね。

ちなみに「戸川階段」というネーミングはどうやって決まったんでしょう?

戸川:わたしは友だちから数年前に、the原爆オナニーズとスターリンと非常階段で「原爆スター階段」というのがあると聞いたことがあって、その後初音ミクとの「初音階段」というネーミングも知って、「BiS階段」はもちろん知らされまして、コラボしたら、もれなく「ナントカ階段」というネーミングになる、と思いこんでいたんです。そうでないのもある、と後から知ったのですが。そういう訳で、ゲストに呼んでいただいたわたしが非常階段さんのライヴで数曲歌ったときMCで、冗談のように、JOJOさんに「今度やる? 戸川階段(笑)」と言って、それが本当に実現してしまったのでした。戸川階段て語呂もいいし、ほんとに冗談のつもりで言ったのですが、あのとき、ポロッとそう言ってよかっなあ、といまはしみじみ思います。本気ととられてたら、わたしってすごく生意気! って感じがしたと思います。だけど時として、他愛ない冗談が、幸せな現実を呼ぶこともあるのだなあ、という感じがして、JOJOさんには感謝の気持ちでいっぱいです。

一か所だけやり直すとしたらどこを変えますか?

戸川:歌ものですが、ライヴ感というか、インプロヴィゼーション感が強いので、直すところはあまり浮かびませんね。もちろんパーフェクトでは、ぜんぜんないのですが、直したいところはとくにないですね。戸川階段は、全体を引きで見るというか聴く感じなので、そうなるのかもしれません。それに、非常階段さんの演奏の、インプロヴィゼーションの要素を多分に含んだ感じに合わせると、ヴォーカルも、スタジオ録音であってもライヴ感があったほうがマッチングがいいとも思うし、多少荒削りでも流れを大事にしたいから、ヴォーカルで直したいところはとくにはないです。

わたしは、ヤプーズの演奏をクールだと思ったこと、ないんですよ。曲によりますが。基本、わたしとともに感情が渦巻いてる、と思ってて、だからいっしょにやっててほんとに相性良い、って続けてられてきたし。

ヤプーズは演奏がクールで歌がエモーショナルという対比があったと思いますけど、戸川階段は演奏も歌もエモーショナルで、歌いにくくはなかったですか? 戦いながら歌ってしまうとか?

戸川:わたしは、ヤプーズの演奏をクールだと思ったこと、ないんですよ。曲によりますが。基本、わたしとともに感情が渦巻いてる、と思ってて、だからいっしょにやっててほんとに相性良い、って続けてられてきたし。とくに90年代のヤプーズは、インダストリアル系のガシガシの音デカい系で、それでわたしも、イヤモニして、デカい声で、ほとんど全編叫んでました。おのずとパンク色が強いヴォーカルになって、お客もわいてくれてたので、喜んでいてくれてると勘違いしてて──やっぱりヤプーズのヴォーカルはこれがいちばん合ってる、と思っていて、きれいな声がもう出なくてもいいや、みたいにも思ってたんですが、ネットで「もはやデスヴォイスしか出なくなった戸川に、未来はない」って、けっこう書かれて、あれっ? なんて思いました。ネットのカキコミなんかで芸風を変えるなんて愚かなことはしませんが、あれから数年、ブランクもあって、声のリハビリをしてるので、わたしの歌手生命の基本に戻ろう! と思い、いまは、デス・ヴォイス(パンキッシュながなり声)はライヴの終盤に持ってって、なるべくきれいな声で歌うようにしてます。
ヤプーズの曲は“肉屋のように”にしても“ヴィールス”にしても“赤い戦車”にしても、曲先で、この曲につりあう歌詞なんて、わたしに書けるだろうか? そして、そんな曲をわたしが歌えるだろうか? と不安になったくらい、ヤプーズの曲や演奏も、エモーショナルなものもたくさんあるんですよ。わたしがどうしても派手に見えるから、ヤプーズがクール、って思われちゃうんじゃないかな。まあ、演奏は、たしかにカッチリしてるかもしれませんね。クールというのとは ちょっと違うとは思いますが。
非常階段さんは、ノイズなのでかなりグチャグチャにするから、パンク色が強いので、闘うどころか、わたしの声はかき消される感じなので、JOJOさんの言うように、非常階段さんといっしょだと、声もノイズなんだなあ、とやっぱり、ここでも思いますね。戦いといえば、火花を散らしながら演ってて、結果成功! というのは、かつてのゲルニカが、むしろそうだったんじゃないかな。

わたしは、流行りを追うとそのあと絶対古くなる、と思ってたから、追わないできたので、いまの若い方々にも聴いてもらえるのかな、と思います。

“好き好き大好き”がカヴァーされたこともそうなのかもしれないですけれど、新しいファンも増えていると思います。以前とは歌詞の受け止められ方が変わってきたと感じますか?

戸川:ぜんぜん変わりましたよ、お客さんもファンの方全体も。若いお客が、ほんとに増えましたね。ありがたいことです。わたしは、流行りを追うとそのあと絶対古くなる、と思ってたから、追わないできたので、いまの若い方々にも聴いてもらえるのかな、と思います。
わたしと同じくらいの歳の方々ばかりだと、青春のメロディとか青春の懐メロみたいなライヴになっちゃうから、若いお客が聴いてくださるのは、ほんとにありがたいことです。もちろんわたしと同じくらいの歳のお客も大事にしなきゃ、とは思ってはいるんですよ。ここまでわたしを育ててくださったのだから。
でもね、昔は酷かったですよ。ファンクラブで、日本戸川党というのがあったのですが、当時わたしは曲に合わせた衣装を一生懸命考えて、巫女さんやランドセルの小学生やトンボのかっこをしてたんですが、戸川党に寄せられるファンレターの多くが、とにかく奇抜な衣装を、と、純ちゃん次は大魔神の扮装やってーとか、もうめちゃくちゃでしたね。曲なんて聴いてくれてないんだなーという感じが、ライヴでもしてましたし。スタッフからしてそうでしたしね。広いキャパでやってたとき、アンコールの“レーダーマン”で、まったくきいてなかったのですが、色とりどりの風船がほんとにたくさん落ちてきて、その広いステージの床を埋めつくしまして、社会派な曲なのに、こんなファンシーな演出して!! と、悔しくて悔しくて、風船を一生懸命割りながら踏んづけて歌いました。それはそれで絵になっちゃったみたいで、でも踏んづけないと、可愛い感じになっちゃうし、手の施しようがなかったんです。まだバック・バンド的扱いになってたヤプーズが、本番前に、舞台監督たちがたくさんの風船を膨らませてるのを見て、純ちゃんには内緒だよ! と楽しそうに口止めしてたそうで、風船が降ってきてステージを埋め尽くすことを、間違いなくわたしが喜ぶ、とニコニコしてたという様子だったそうです。お客はその演出を喜んだにしても、ばっかじゃねーの! と思ったにしても、どっちに転んでも哀しくなりました。他にもたくさんたくさん、いまと違うところはありますよ!
あとは、わたしはいまヤンデレとかマジ基地とか言われることが多いのですが、昔より、ライヴ・パフォーマンス的にまともになったと思うのですけどねえ。歌うことを主体に精進していて、新しい曲はまだ少ないから、昔は興味深いと言われた曲が、いまは病んでると言われてしまったり。でも、大魔神のかっこしてーとかばっかり言われてたときより、いまのお客さんは、ちゃんと曲を聴いてくださってるみたいで、暖かみを感じますね。

不思議少女、というのは皮肉にもわたしの造語なんですよ。80年代前半に書いた本の中に出てきます。苦手な女の子のタイプとして。まさか自分が不思議少女とか不思議ちゃんとか言われるとは、思ってもみませんでした。

戸川さんが自分のことを「不思議ちゃん」ではなく「説明ちゃん」だというのは、自分や自分が考えていることをわかってもらいたいという気持ちから出ていると考えていいでしょうか。

戸川:わかってほしいと思うというより、わたしやわたしの歌の内容は本当にわかりやすいものだ、と思ってるんです。「不思議ちゃんではなく、むしろ説明ちゃんと言われたほうが、人はなるほどーと思う」というか。不思議なところは、ひとつもないんじゃないかな、という自覚から、わたしは自分のことを不思議ちゃんとはどうしても思えないもので。それでもわたしを不思議ちゃん、と呼ぶ人は、わたしとは「不思議ちゃん」の定義が違うのかもしれませんね。そういう人が言う不思議ちゃんて、どういう意味の類いなんだろう。わかりませんねえ。ただ、わたしにも定義するところがあって、自我が肥大してて、でも逆にそれを表に出さず、意味不明な言動で神秘的に見せてる女の子、って感じかなあ。とにかく関わりたくないタイプです。ちなみに、不思議少女、というのは皮肉にもわたしの造語なんですよ。80年代前半に書いた本の中に出てきます。苦手な女の子のタイプとして。まさか自分が不思議少女とか不思議ちゃんとか言われるとは、思ってもみませんでした。

(笑)今回、再レコーディングされた“ヴィールス”の歌詞は、「説明ちゃん」というよりまるで小説のようですが、これは自分を客体視した表現と考えていいでしょうか(「拒否感や嫌悪感を/ひとが私にいだいたとき/驚異的な感度で察知しそれをエネルギーに/吸収して増殖する/人忌み嫌うべき私に巣食うヴィールス」)。

戸川:書いた当時は客体視とは思ってなかったのですが、そういうフシはあるなあ、という感じだったし、わたしの歌詞は、自分にその要素がまるっきりないとどれも書けないので、少なくとも当時は、嫌だけど自分の中にもあった要素で書いたのだと思います。“ヴィールス”は、発表した当時、病んでいて苦しんでいた方々から、励まされた、というお手紙をずいぶんいろいろいただいて、わたしのほうがそれで励ましていただいたという思い出があります。そのお手紙の中のけっこうな数の方々が、“ヴィールス”のように境界例で苦しんでいる、と書いてて、病名があるのかあ、と思いました。

本当に必然性を持って、それがいちばん届く、と思って書いているんですよ。逆に、シュールに感性だけで書くことは、これまで、そしてこれからも、絶対ないです。

戸川さんの歌詞にはそれまで誰も使わなかったような単語がよく出てきますが、これは意識的にやったんでしょうか?

戸川:それでしか表現できない、という必然性を持って書いてると、そういう印象にとられる言葉になるのです。本当に、言葉を選んで、いちばん合う言葉を使っているのです。ペダンチックととられても、もういい、という覚悟でして。たとえば、“諦念プシガンガ”という曲の歌詞に「我一介の肉塊なり」というフレーズがありますが、これが「わたしはただの肉の塊よ」という言葉では、重い覚悟とか、そのいさぎよさとか、いろいろなことが表現できないのです。この歌詞はずっと、難しい言葉の歌詞、と言われてきて、でもいちばん難解なのはタイトルではないであろうか、と書かれたことがあります(笑)。
これも、諦めの念、じゃ長いから諦念、にしたにすぎませんし、プシガンガはアンデスの言葉で、お酒を飲んで歌い踊る、という意味で、わたしの中では、ほんとにただ、まっすぐに必然性を持って、というだけなのです。ちなみに、古語でも、自分でわかっていながら間違いのままの歌詞もあります。“蛹化の女”の、「木の根掘れば蝉の蛹の、いくつも出てきし」の最後は「いくつも出てきぬ」にしたかったのですがそれだと、たぶんいくつも出てこない、と、とるリスナーがいるのでは、と思い、あえて間違った言葉を使いました。“夏は来ぬ”(なつはきぬ)という唱歌をそんなにご存知な世代ではない方々が聴いてくださるのではと思いまして。あとは、字数の問題の場合も、たまにあります。ね? 本当に必然性を持って、それがいちばん届く、と思って書いているんですよ。逆に、シュールに感性だけで書くことは、これまで、そしてこれからも、絶対ないです。でも、そういう歌が歌いたいときは、人様に歌詞を書いてもらうよう、お願いすると思います。

最近だと“ライラック”は人が書いた歌詞でしたよね?

戸川:“ライラック”については、ほんとにラッキーでした! 人様に、書いてとお願いしたわけでなく、先方から歌うオファーが来て、デモもできていて、曲も歌詞も編曲も大好きになり、お引き受けしたのです。そこから、Vampilliaさんとのつながりができました。MVも大好きです。東京や大阪で、ゲストに何度か呼んでいただきました。“ライラック”は、元相対性理論の真部(脩一)さんが作詞作曲で、たぶん編曲もやられてたと思います。違ったらごめんなさい。というのも、ライヴでは スタジオ・レコーディングの「ライラック」や、他のわたしの持ち歌の編曲が、ぜんぜん違うものになり、10人くらいの人数のメンバーで、すごい爆音での生音の編曲にもなるもので。地獄のようだったり、天使のようだったり、というのは、わたしの歌うコーナーに限らず、楽屋のモニターやステージの袖で聴いているわたしの、いちリスナーとしての印象でもあるんですよ。わたしの歌うコーナーは、それに比べむしろメチャ、ポップに聴こえるんじゃないかな? それでも、Vampilliaさん色に塗り替えられてる感じです。すごくうれしいですね。全体的に若いのに、アレンジの力がすごくあるから、今後とも、お付き合いしたいバンドさんです。

“蛹化の女”の「ああ」と、“パンク蛹の女”の「あ~!!」かなあ。

最近、歌っているときに、発音するといちばん気持ちいい歌詞、もしくは単語はなんでしょう?

戸川:最近歌ってていちばん気持ちがいい、というより、感情がいちばん乗っかってるんじゃないかな、と思うのは、“蛹化の女”の「ああ」と、“パンク蛹の女”の「あ~!!」かなあ。前者は、言葉では伝えきれないので むしろ 「ああ」のほうがいさぎよいのかな? 後者は、もうほんとに、自分の中の、感情の渦巻いてるいちばんのところだからかな。両方とも、歌詞ではないのがお恥ずかしいですが(笑)。
あとは、蜷川さんのこともあって、“諦念プシガンガ”が、自分の中で新鮮ですね、こんなに歌ってきてるのに。まあ、曲は生き物ですからね。

最後にタイトルの文字はどうして戸川さんが書くことになったのですか?

戸川:タイトルの文字は、普通に、書いてください、みたいに言われて、非常階段さんとコラボした人はけっこう書く人がいると聞かされてたので、疑問も持たずスンナリ書きました。戸川が草書で、階段が楷書みたいで、邪道ですが!(笑)

リリース情報

非常階段×戸川純『戸川階段ライヴ!』
7月20日発売(テイチク)

*1月にリリースされたスタジオ・アルバム『戸川階段』がフランスでカラー・ヴァイナルでもリリースされることに!

Tower HMV Amazon

ライヴ情報
10/5 札幌KRAPS HALL(ワンマン)
10/14 新宿ロフト(ワンマン)
10/21 福岡BeatStation(ワンマン)
10/27 渋谷 TSUTAYA O-EAST(イベントのゲスト)
11/16 大阪AKASO(ワンマン)

yahyel(ヤイエル)を聴いたか? - ele-king

窓の外まで何かが来ている。
風景を歪め、一変させるような何かが──。


yahyel - Once
ビート

iTunes Apple Music

 ジェイムス・ブレイクを方法的に消化しながら、持ち味ともいえるブルージーな節回しで“日本人離れ”したヴォーカル・スタイルを聴かせるこの強烈な個性は、ぜひポップ・フィールドでこそ鳴り響いてほしい。よくも悪くも天然鎖国状態の国内ポップ・シーンだが、まあそれはそれでいいじゃないかと思いかけていたアタマに、彼らは、しかしポップのスタンダードもまたけっしてここにあるわけでないということを思い出させる。ヤイエル(yahyel)の音楽はわたしたちを我に返らせる。

 ベース・ミュージックやR&Bのワールド・スタンダードとして自然に鳴っているヤイエルは、だから、世界進出したJポップでもなければヨウガクでもなく、そういうストレスフルな国境性を感じさせないところから聴こえてくる力強いオルタナティヴだ。しかも音がいい。欧州ツアーが好評だったようだが、国内のテレビなどで普通に流れたときに空気は一変するだろう。今週末に迫った〈フジロック〉にも出演予定だ。

 それでは最新MVの情報を。この“Once”のマスタリングは、ジェイムス・ブレイクはじめ、エイフェックス・ツインにアルカにブラッド・オレンジにFKAツイッグスなど、まさにオルタナにしてスタンダードな第一級の前線アーティストたちを手掛けるマット・コルトンが担当している。



Björk Digital - ele-king

 会期が残り一週間を切ってしまったのだが、このタイミングで、改めて未見の方は日本科学未来館で開催中のVR展示プロジェクト「Björk Digital―音楽のVR・18日間の実験」に足を運んでみることをお勧めしたい。タイトルに「18日」とある通り、そもそもこの展示は6月29日から7月18日(月・祝)と会期が極めて短い。それだけにこれは貴重な機会である。

  6月の頭に日本科学未来館の案内があり、気になっていたものの、なんとなく取材を申し込むのを先送りにしてしまっていた展示だった。私事で恐縮だがフリーランスの身の上なので、媒体が先に決まっているものではない、純粋に自分の興味からの取材はどうしても後回しにしてしまいがちなのである。ようやく時間が取れそうだとなったのが、プレス向け展示体験会の3日ほど前。日本科学未来館に問い合わせると、前日28日には「Making of BjörkDigital-公開収録&トーク-」というBjörkが出演するイベントもあるとのこと。Björk本人の質疑に参加できる機会があるなら是非と思ったが、そもそもその時まで、その情報を知らなかったわけで、現実はそんなに甘くない。こちらは担当がDentsu Lab Tokyoだったのだが、丁寧に対応してくれたのものの、キャパシティの限界で取材は叶わなかった。取材が殺到していたようだ。Björkだから仕方ない。
 そういった事情もあり、なんとなく残念な気持ちがあったものの、今回の展示の目玉であるBjörk Digitalの『Vulnicura VR』をいざ体験してみると、力強い感動でそんな残念な気持ちはまったく消え失せてしまった。『Vulnicura(ヴァルニキュラ)』 はBjörkのアルバムで、「VR」はヴァーチャル・リアリティのことだ。

「もしかしたら人類の一つの感覚を変えるかもしれないVRという技術を、非常にエモーショナルな体験をもたらす音楽に取り入れる実験。(VRは)日本ではほとんどゲームコンテンツが中心ですが、音楽にどれだけ可能性があるのか体験して頂くとわかると思います」
 日本科学未来館・展示企画開発課長の中野まほろさんは、今回の展示のVR作品についてそう説明した上で、また今回の展示のVR作品のコンセプトを伝えるBjörkの言葉を混じえて紹介してくれた。
「プロモーションビデオなら四角い画面で1対1、ライヴは同時環境を共有できるが、例えば武道館ではアーティストが小さく豆みたいになって、繋がるという感覚はなかなか得られない。VRはどんな仮想現実環境も作ることができて、インターナルな思いや、あるいは表現したいもの、リスナーと繋がりたいという気持ちを実現できるメディアであるという可能性を(Björkは)感じている。もうひとつ、技術的な話ですが、365度の空間を再現するという意味では、VRは昔のコロッセウムみたいなシアター空間を再現できるメディアだと考えている。そういった新しい表現空間を、現在の世界に新しく創り出すことができる」
 筆者はゲームについてはまったく疎く、いざ展示に触れるまで、前の中野さんの説明であり、ここでのBjörkの言葉にも、その時点で正直まだピンときていなかった。ヴァーチャルリアリティという、いつの間にか聞き覚えのある言葉の語感と、「リスナーと繋がりたい」というBjörkの思いの部分を、頭の中で上手くリンクさせることができずにいたのである。
 いざヘッドセットとヘッドフォンを着用し、『Vulnicura VR』の世界に入り込んだ1曲目、アルバムの1曲目でもある「Stonemilker」(Andrew Thomas Huang監督)。この一瞬で、ぶっ飛んだ。そしてBjörkの言葉や意図を十全に理解することができた。ああ、こういうことだったんだ! という感じである。VRとは「どんな仮想現実環境も作ることができる」というBjörkの言葉通り、視界(というか我が身?)はいきなり360度荒涼としたアイスランドに移される。

  端的に言えば、いわゆるミュージック・ビデオの世界の中に自分が入り込み、視界はすべて仮想現実のその世界になる。唯一目に入る人間は、目の前で、時にこちらを向いて歌いかけてくるBjörkだけである。
 『Vulnicura』は長年の連れ合いとの別れを歌ったアルバムで、内容は非常にパーソナルなものだ。その象徴なのか、荒涼としたアイスランドの風景、足元にはタイガとかツンドラとか、そんな単語を連想させる(本当は何なのかわからない)ひび割れた大地が広がり、Björkが怖いぐらいの美しさで、すぐそこで歌っている。つながりという意味では、本当にBjörkと手を取り合えそうである。

2曲目「Mouthmantrar」を手掛けた監督はJesse Kanda。Jesse Kandaがベネズエラ出身のアレシャンドロ・ゲルシことArcaのハウスメイカーで、長年のコラボレーターだというのは、他ならぬele-kingで知ったことだった。そう言った詳細はここでは触れない。

『Vulnicura』というアルバムの世界観を作っているのが、このArcaだ。Arcaと云えば筆者にはKanye Westの『Yeezus』というイメージが強く、やはりKanye Westの目の付け所に今更ながら感服してしまうのだが、それはさておき、「Mouthmantrar」の世界はBjörkの口の中である。私たちはBjörkの口の中にいる。

  そして、ラストの「Not Get」。これは日本初公開で、ざっと上のように説明したところで返って、興ざめだろうから、世界観の心もとない描写は割愛する。


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 VRの展示に入る前に、CINEMA(VR以外の展示のひとつ。本展のためにキュレーションされたBjörkのミュージックビデオのセレクション。映像音響は本展のためにリマスターされている)を見て、改めてBjörkが提示してきた世界の新しさに目を見開かれた矢先だった。リリースされて何年も経つミュージックビデオを四角いフレームで見てさえ目新しさを感じる、そのBjörkの世界観を描きだした仮想現実世界である。そこに入り込む意味を具体的に想像してみれば、ある程度とんでもないものが出てくるだろうことは予想できるだろう。だが、どんなに予測を立てても、Björkの世界観には追いつかない。

 最後の「Not Get」は2人づつに区切られ、そこで並んでヘッドセットとヘッドフォンを装着する。みんな同時に曲は始まる。つまり、着脱のタイミングがほぼみんな一緒になるわけだが、「Not Get」が終わって装備を外すと、隣の女性記者と目が合い、お互い呆然と「なんか、すごいものを見てしまいましたね」と言い合うほどだった。

  Björkは、今後も『Vulnicura』の他の曲についても、VRの制作をしていくということで、まずはそれらの楽曲の到来が楽しみで仕方がない。
 手塚治虫やブラッドベリが描いた世界が今こうして現実に到来し、VRについて検索していると、すぐ目についたのがプレイステーションVRが今年の10月に日本で発売するというニュースだった(蛇足だが、筆者はこの手のニュースを知るのは超遅い)。これから仮想現実空間は恐らく驚くべき速さで一般的なものになり、やがてそう遠くはない未来に映画館で楽しめるようになるだろう。「Björk Digital―音楽のVR・18日間の実験」で展示しているのは、来るべき世界そのものだ。

https://www.miraikan.jst.go.jp/exhibition/bjorkdigital.html

 ドリーミーでポップ・センスあふれるIDMを展開するプロデューサー/音楽家、Serph(サーフ)のベスト・アルバムが今週リリースされるようだ。これまでに4枚のフル・アルバムと数枚のミニ・アルバムをリリースしているSerphが、自身の代表作を再構築したものとなる。

 特設サイトにいろんなミュージシャンがコメントを寄せているが、スピッツの草野マサムネ氏の「たまたま入ったお店でかかってたのがSerphとの出会いです。“なんて素敵な音楽なんだ!”とボーッと聴き入ってしまいました。(後略)」という言葉がずばりで、Serphには「ふと店頭で聴いて驚く」という出会い方をした方が多いのではないだろうか。

 メディア露出ではなく、レコ屋スタッフさんの渾身の推しや、ふと耳にした人への強烈なインパクト、そしてそうした体験を持つ人々の熱心な口コミによって広がっていったという印象がある。しかしながらセカンド『vent』のセールスはすでに2万枚を超しているとか。音はかならずしも販売数によって保証されないが、それは、こうした種類の音楽が、大きな広告なしに、しかも“いちげんさん”を熱烈に惹きつけた地道な結果としてじつに驚くべきものだ。

 Serph本人は、他名義による積極的な作曲活動を途切れさせることもなく、また、舞台上の演出も凝らされたコンセプチュアルなライヴ(2014年)によってもそのミステリアスな存在感をさらに高次に上げ、イラストレーター河野愛とのコラボレーションもますます深まりを見せている。このベスト盤も、自身の手によって各曲がブラッシュアップされているということで、楽しみであると同時に、失速せずに発信をつづける勢いが感じとられるだろう。

 さらにたくさんの人へと驚きを広げる本盤は、7月15日のリリースに先がけ、7月13日の20時より7月19日23時59分まで、全曲フル尺公開される。

Serphベスト盤『PLUS ULTRA』特設サイトURL:
https://www.noble-label.net/serph-pu/



夏を前に聴くPunPunCircle『Pun!』 - ele-king


PunPunCircle
Pun!

SPACE SHOWER NETWORK

Tower

 「下北沢のパンダ・ベア」ことPunPunCircleが、夏の陽光をおだやかに遮るひさしをつくってくれるだろう。爪弾かれるギターから心地よく立ちあがっていく、ユーフォリックなサイケデリア──それはたとえば、アニマル・コレクティヴの『キャンプファイア・ソングス』や『サング・トングス』が、アンドリュー・ヨークのような卓越した演奏性やアレハンドロ・フラノフなどの音響的アプローチとすれ違いながら、無国籍的かつ土着的なポップ・ソングとして、いいしれぬ郷愁を誘いにくるようでもある。New Houseのギタリストとしても知られるPun Punは、バンドが表していたようなドリーミーなサイケ感覚をアシッド・フォーク的に展開しているとも言えるのかもしれない。それはとても小さく親密な空間をあたためる音であると同時に、たくさんの世界に向かって開いている音でもある。

先月はそのPunPunCircleによる待望のファースト・アルバム『Pun!』がリリースされ、今月末にはmitsumeも出演するライヴ・イヴェントが予定されている。心地よくリラックスした時間になるに違いない。理屈を書いてしまいましたが、理屈を抜きに楽しみましょう!

ele-king vol.18 - ele-king

音楽を聴かない人でも感じている──
いまおもしろいのはラップだと。

今年に入って、一般誌やサブカル誌もこぞって取り上げているラップ/ヒップホップの盛り上がり。そこでは何が起こっているのか?

ひときわ鮮烈に輝くオルタナティヴ、KOHHを表紙&巻頭にフィーチャーし、
NORIKIYO×PUNPEE、ISSUGI、仙人掌、Mr.PUG、ECD、UCD、OLIVE OIL、WDsounds、BUN、Moe and Ghosts、MARIA、KANDYTOWN、オカモトレイジ、tofubeats、磯部涼、二木信、「3.11以降の日本語RAP 30枚」、「USヒップホップを知るための30枚」ほか充実の誌面。

懐古趣味に彩られる音楽の中で、ヒップホップのほとんどはアクチュアルであり、
現在と未来を見つめている。

どこよりも早く企画を立て、どこよりも遅く仕上がった、
ele-king渾身のラップ/ヒップホップ特集。
 

目次

特集:いまヒップホップに何が起きているのか?

010 interview KOHH、ロング・インタヴュー 取材:山田文大
028 「いまヒップホップに何が起きているのか?」文:磯部涼
032 talking PUNPEE×NORIKIYO+ふたりが選ぶ日本語RAP名盤
043 columns RHYMESTERについて今一度考えてもらいたい 文:宮崎敬太
044 story 日本にラップは根付いたのか?――川崎・BAD HOPに始まる 文:磯部涼
048 interview MONJU(仙人掌、ISSUGI、Mrパグ)、ロング・インタヴュー 取材・文:二木信
062 columns いまなぜTwiGyなのか──『十六小節』刊行について 文:山田文大
064 interview WD sounds(澤田政嗣 a.k.a Lil MERCY)──ハードコア×ヒップホップ
067 interview Fumitake Tamura (Bun)──研磨されるビート/拓かれる聴覚
070 interview 荒井優作──トラップから路上の弾き語りまで
072 interview YungGucchiMane──未来の大器 取材:山田文大
074 interview Olive Oil──南の楽園設計を夢見つづける
078 story 酩酊は国境をも溶かす──「It G Ma」から見る日韓ラップ・シーン 文:磯部涼
080 columns トラップとはなにか? 文:泉智
081 talking オカモトレイジ×泉智「KANDYTWONを語る」
090 interview Moe and ghosts──新「ラップ現象」 取材:デンシノオト
097 talking 二木信×UCD「肯定する力とゆるさ──オレらが好きな日本語ラップ」
106 interview tofubeats──フロウとサウンド重視、発明がなければ面白くない
112 interview MARIA──KOHH、BAD HOPから高校生ラップまで語る
116 talking ECD×水越真紀 つまり「生きてるぜ」ってこと──ECDと考える貧困問題
126 3・11以降の日本語RAP 30枚 二木信+宮崎敬太+泉智
128 columns Beat goes on&on──あれから30年 文:高木完
129 いまUSヒップホップに何が起きているのか? 文:三田格
138 USヒップホップを知るための30枚 選・文:三田格

連載

146 アナキズム・イン・ザ・UK外伝 第9回 わたしたちはもっと遡ったほうがいい ブレイディみかこ
148 乱暴日記 第三回 KOHHとボリス・ヴィアン ~あれもありこれもあり、あれがあるからこれがある~ 水越真紀
150 音楽と政治 第8回 磯部涼
152 ハテナ・フランセ 第5回 配達人に乾杯! 山田容子
154 初音ミクの現在・過去・未来(後編) 佐々木渉
156 ピーポー&メー 第9回 故ロリータ順子(後編) 戸川純

表紙写真:菊池良助

 10日にダラスで警官5人を銃撃して死なせた犯人、マイカ・グザビエ・ジョンソンとパブリック・エナミーのプロフェッサー・グリフに交流があったとされる報道があり、グリフに対する非難の声が巻き起こっている。グリフ自身は即座に否定しているものの、グリフとジョンソンががっちりと腕を組み合う写真も広く出回り、無駄に騒ぎたくなる人たちの気持ちもわからないではない。リンクが切れていなければ、以下で写真と文章が確認できます→https://twitter.com/GRIFFTHENME/status/751503674795491328

 スマホなどで有名人と一緒に写真を撮ることは簡単になっている。どこかで偶然、グリフを認めた犯人が一緒に写真を撮って下さいと頼めば、グリフがそれに応じた可能性は高い。プロフェッサー・グリフとマイカ・ジョンソンがそのような経過によって一枚の写真に収まっていれば、グリフが覚えていないというのは当然である。現時点ではそれ以上のことはわからない。

 マイカ・ジョンソンのフェイスブックにはまた、プロフェッサー・グリフが提唱するアフロセントリズムを訴える文章がコピペして載せられていたらしい(あくまで警察発表)。ジョンソンがグリフの思想に傾倒していたことは確かのようで、しかし、ジョンソンが支持を表明していた黒人過激派組織は複数に及び、そのなかにはヘイト集団に指定されている組織もあったという。立てこもっていた現場で爆弾ロボットによって殺害されたジョンソンは自らの血で「RB」と読めるダイイング・メーッセージを残しており、今後はこの文字が犯人の動機を解く鍵とされている。

 プロフェッサー・グリフは、80年代後半、白人社会と黒人社会の分離、いわゆるセパレーティズムを主張していたパブリック・エナミーに在籍していた。そして、サード・ベースというヒップホップ・ユニットと揉め、ユダヤ人を攻撃するような言動をとったとして同グループからの脱退を余儀なくされている(現在は復帰)。グリフは、シオニズム(イスラエルへの回帰運動)を批判しただけでユダヤ人を人種として攻撃した意図はなかったと主張したものの、戦闘的なブラックパワー運動を展開するS1W(Security of the First World)のリーダーを務めていたこともあって、過激な思想の持ち主だというイメージが付いてしまったことは否めない。グリフは、そもそもダラスでデモが起きるきっかけとなったバトン・ルージュの事件についてもすぐに意見を表明するなど、現在でも発言回数は多く、2年前にカニエ・ウエストが「人種差別がヒドいから海外移住を考えている」とツイートした際も、「大富豪は紛いものの妻を連れてアフリカへ引っ越してしまえ」などと毒舌度合いはかなり高い。ほかにもプリンスやビヨンセなど、彼の発言はユーチューブに多数あがっているので興味のある方は探してみて下さい(英語です。長いです)。

 ちなみにダラスの銃撃事件を受けて#BlackLivesMatter(https://www.ele-king.net/review/album/004601/)も困惑の度合いを高めているものの、LAでは大人数による人間の鎖でピース・マークをつくるなど、抗議の方法に多少変化が見られるようになっていることは留意しておきたい(ミネソタでは100人が逮捕され警官27人が重軽傷と基本はかわらない)。また、パブリック・エナミーが多数の支持を集めた80年代後半は、黒人同士が銃で撃ち合って死ぬセルフ・ディストラクションが大きな問題点として挙げられていた。これに対して目下の問題は黒人対警官であって、僕個人は黒人同士が撃ち合って死んでいた頃よりは救いがある面もあるのではないかと思っている。それはほんとに小さな「良い面」としか言えないけれど(エレキング次号に関連記事あり)。

 警官の残虐行為についてジェイ・Zが7日にアップした「Spiritual」。


(三田格)

Duenn - ele-king

 京都の電子音楽レーベル〈シュラインドットジェイピー〉から、福岡のカセット・レーベル〈ダエン〉主宰ダエンの新作ソロ・アルバム『ア・メッセージ』がリリースされた。

 このリリースは必然であろう。なぜなら近年の〈シュラインドットジェイピー〉と〈ダエン〉は協働関係を深めているように思えるからだ。たとえば〈ダエン〉から発表されていた〈シュラインドットジェイピー〉主宰、糸魚健一のサイセクス『アペックス』のカセット・ヴァージョンや、ショータ・ヒラマのカセット作品『モダン・ラヴァーズ』(2014)も本年になり〈シュラインドットジェイピー〉から単独CDとしてリリースされた。また、6月27日にドミューンにて放送された「duenn "A message" Release SPECIAL!!!「HARD CORE AMBIENCE 5HOURS」に糸魚が出演したことも記憶に新しい。この電子音楽の新しい潮流を生み出す活発な協働関係には、今後も注目していきたい。

 さらには、東京の〈サッド rec〉から、ダエン・中村弘二(ニャントラ)・中原昌也(ヘア・スタイリスティックス)らが山口のYCAMで慣行したライブ盤『ワイカム・ライブ』(2016)がリリースされたことも忘れてはならない。そう、この2016年は、まるで西と東(国外と国外も)を貫通するように日本電子音楽の「新しい協働と実践」が頻繁に行われているような印象を強く持ってしまうのだが、いかがだろうか。そして、そのシーンにおいて「ダエン」という名の才能豊かなアンビエント・アーティストの名が刻印されていることに、私は何より注目したい。本年、彼の作品を続けてレヴューしている理由はそこにある。

 じじつ、〈シュラインドットジェイピー〉からリリースされた彼の新作『ア・メッセージ』は、アンビエント作品として出色の完成度を示していた。写真家、横田大輔の「untitled」という作品にインスピレーションを受けたという本作は、いまや飽和気味となった西欧的なアンビエント/ドローン・シーンを更新させてしまう作品ですらあると思う。私は、ダエン作品の魅力は繊細な音量設定とサウンドのレイヤー/コンポジションの絶妙な交錯にあると考えているのだが、本作『ア・メッセージ』は、まさに、その「音量の美学」が極まっているように感じられた。急いで付け加えておくが、彼は、いわゆるマイクロ・スコピックな「弱音響」ではない。かといって音の大きさを誇示するものでも、それによって快楽を与えるものでもない。そうではなく、「音が空気を変える」ために、もっとも適切な音量を追求しているように思える。その音響が時間と空間のなかに融解するかのごときアンビエンスの聴取効果は絶大だ。流しておくと部屋の空気を変えてしまうような、美しい香水のような音響作品に仕上がっているのだ。あきらかにアンビエント/ドローンやインダストリアル以降のサウンドなのである。
 
 本アルバムは、“ア・メッセージ(サイドA)”と“ア・メッセージ(サイドB)”の長尺2曲から構成されている。各トラックの印象をひとことでまとめるならば、1曲め“ア・メッセージ(サイドA)”は「硬質でやわらかい時間の横溢」、2曲め“ア・メッセージ(サイドB)”は、「鋭さとやわらかさの生成変化」となるだろうか。それらの楽曲は、それぞれの「世界」が反転するような音響を展開しており、「同じ場所の、違う時間で流れていた空気」のような関係のようにも聴こえてくるのだ。この『ア・メッセージ』のアンビエンスは、霧のように、雲のように、空気のように音のカタチを変えていく作品である。澄んだ「大気」のような音響だ。本作を聴いていると、朝の空気の中にいるような、清冽で、時の流れが変わっていく感覚を覚えてしまう。聴覚は研ぎ澄まされつつも、心身がリラックスしていくような、もしくは、まるで朝方の神社の空気のように、非日常的な時間の手前に立っているような音響的生成変化の持続。このような「神社」的な感覚こそ、ロマンティックに音楽化していった西欧アンビエント/ドローンとは違う、新しい「アジア」的なアンビエント音響のように思えてならない。清冽な空気や水を摂取するように聴くことで「浄化」されるアンビエント。まさに本作は「心と体に作用するアンビエント」である。音楽/音響による聴覚と身体のリセット/クリーニングはたしかに可能なのだ。

 それにしても〈シュラインドットジェイピー〉は充実のリリースが続いている。先に書いたように糸魚健一のサイセクスの2015年作品『アペックス』カセット・ヴァージョンのCD化『アペックス ~マグネティズム・アンド・アングラー-モーメンタム』(これは一種のダブ・ミックスだろう)やショータ・ヒラマの『モダン・ラヴァーズ』のCD化、日本を代表するアンビエント・アーティスト、ハコブネがこれまでリリースした膨大な楽曲をまとめるヒストリカルCD『2007-2008』『2009-2010』『2011』(計6枚が予告されている)に加えて、アイ・チューンズ限定リリースであるカフカ『ポリヘドロン』、 Ingern『スモール・ユニヴァース』、ジュンヤ・トクダ『ア・ディ・イン・ザ・アレイ』など、どれもエレクトロニカ/電子音楽の「現在」の魅力が横溢している素晴らしい作品ばかりである。未聴の方は、ぜひとも聴いていただきたい。

ele-king vol.18 - ele-king

 昔からよく言われることだが、Jポップからは背景が見えない。見えないのが日本の風景だと言われてしまえばそれまでだが、風景らしい風景がないかわりに内面ばかりが語られる音楽を聴き続けるというのは、どこか息苦しい。セックス・ピストルズにはロンドンの下町の匂いがあったし、ザ・スミスからはマンチェスター郊外の街並みが幻視できた。レゲエからはキングストンの熱気が伝播し、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノは街の知られる1面をレポートした。ブリアルのダブステップからもブレア以降の寂しい郊外が一緒に聴こえた。ヒップホップやグライムにいたっては、それが見えない作品を探す方が困難だろう。(ここで言う背景/背後とは、東京や湘南や札幌など、ただ地名を言うことではない。社会や歴史的背後という言葉に置換しうるものの意味で使っている)
 今日の日本の新しいヒップホップ、KOHHやBAD HOPからは背景も一緒に聴こえる。KOHHは内面的でもあるが、同時に彼が生まれ育ったところ、その背後も見えてくる(見えた気になる)のだ。KANDYTOWNのような、必ずしも経済的に厳しい出自ではない人たちも、その背後を隠さない。自分がどこからやって来たのかということに自覚的だ。要するに、本当の意味でのストリート感覚を内包した音楽ジャンルである。(しかも、言いたいことを言いたい言葉で言えるジャンルだし、そのほとんどがインディペンデントだ)
 ヒップホップは10年以上前から日本の地方都市にも根付いているので、ここで紹介するのはほんのその一場面に過ぎない。しかし、注目して欲しい、たとえば表紙に写っている(キャップを被ってもいなければスポーツシューズを履いているわけでもない)青年が、いまもっとも脚光を浴びているラッパーなのだ。紙エレキングの最新号──いまヒップホップに何が起きているのか?

■vol.18 contents

特集:いまヒップホップに何が起きているのか?

010 interview KOHH、ロング・インタヴュー 取材:山田文大
028 「いまヒップホップに何が起きているのか?」文:磯部涼
032 talking PUNPEE×NORIKIYO+ふたりが選ぶ日本語RAP名盤
043 columns RHYMESTERについて今一度考えてもらいたい 文:宮崎敬太
044 story 日本にラップは根付いたのか?――川崎・BAD HOPに始まる 文:磯部涼
048 interview MONJU(仙人掌、ISSUGI、Mrパグ)、ロング・インタヴュー 取材・文:二木信
062 columns いまなぜTwiGyなのか──『十六小節』刊行について 文:山田文大
064 interview WD sounds(澤田政嗣 a.k.a Lil MERCY)──ハードコア×ヒップホップ
067 interview Fumitake Tamura (Bun)──研磨されるビート/拓かれる聴覚
070 interview 荒井優作──トラップから路上の弾き語りまで
072 interview YungGucchiMane──未来の大器 取材:山田文大
074 interview Olive Oil──南の楽園設計を夢見つづける
078 story 酩酊は国境をも溶かす──「It G Ma」から見る日韓ラップ・シーン 文:磯部涼
080 columns トラップとはなにか? 文:泉智
081 talking オカモトレイジ×泉智「KANDYTWONを語る」
090 interview Moe and ghosts──新「ラップ現象」 取材:デンシノオト
097 talking 二木信×UCD「肯定する力とゆるさ──オレらが好きな日本語ラップ」
106 interview tofubeats──フロウとサウンド重視、発明がなければ面白くない
112 interview MARIA──KOHH、BAD HOPから高校生ラップまで語る
116 talking ECD×水越真紀 つまり「生きてるぜ」ってこと──ECDと考える貧困問題
126 3・11以降の日本語RAP 30枚 二木信+宮崎敬太+泉智
128 columns Beat goes on&on──あれから30年 文:高木完
129 いまUSヒップホップに何が起きているのか? 文:三田格
138 USヒップホップを知るための30枚 選・文:三田格

■連載
146 アナキズム・イン・ザ・UK外伝 第9回 わたしたちはもっと遡ったほうがいい ブレイディみかこ
148 乱暴日記 第三回 KOHHとボリス・ヴィアン ~あれもありこれもあり、あれがあるからこれがある~ 水越真紀
150 音楽と政治 第8回 磯部涼
152 ハテナ・フランセ 第5回 配達人に乾杯! 山田容子
154 初音ミクの現在・過去・未来(後編) 佐々木渉
156 ピーポー&メー 第9回 故ロリータ順子(後編) 戸川純

表紙写真:菊池良助

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LSDXOXO - ele-king

 初めてシカゴのハウス・ミュージックを聴いたときに誰もが感じたのは、そのいかがわしい光沢である。ときに露骨なまでの性欲、避けがたい淫靡さを前にするとドナ・サマーでさえも清純に思えたものだった。スエーニョ・ラティーノにいたっては貴婦人だ。
 ところが、こうしたセックス文化に関しては、日本のほうが寛大だという意見を外国の方から言われたことがある人も少なくないだろう。いくら浄化されたといっても歌舞伎町は歌舞伎町だ。コンビニでエロ本は堂々と売られているし、アイドルが幼児ポルノに見えてしまう外国の方も当たり前のようにいる。ドラッグには厳しく、セックスにはゆるい。だからなのか、リアーナ良いよね、と軽く言える。この調子で、ぼくは数年前にリアーナって良いよねと、あるアメリカ人に言ったら、口を聞いてもらえないほど軽蔑されたという経験がある。広いアメリカのいち部の人たちにとって、彼女はビッチのなかのビッチなのだ。大人の男を怒らせるのに充分なほどの。
 ゲットー・ハウス/ゲットー・エレクトロ、ゲットー・ダンス・ミュージックにも、大人の男を怒らせるほどの猥褻なものがある。本作は、ブルックリンのDJ、LSDの2014年のアルバム『w h o r e c o r e』に続く、セカンド・フル・レングスのミックステープ。基本はもちろんサンプリングで(ゲットーが生演奏であるはずがない!)、カニエ・ウェストの曲も餌食にされている。
 この音楽は、まあLSDという名前からもわかると思うが、まずはどれほどアホをやってられるかという、ゲットー・ハウス(ヒップ・ハウスの極端な展開)や、かつてディプロが引用して世界中にばらまいたボルチモア・ブレイクという淫らなダンスのスタイルの延長線上にあり、近年話題のジャージー・クラブやボールルームの系譜にある。ゲットーであり、ゲイ・カルチャーであり、手法はヒップホップであり、BPMはハウスである。
 〈Fade To Mind〉が昨年出した MikeQ & DJ Sliinkの「Mind To Mind」もニュージャージー発のそのトレンドをキャッチしたもので、聴けばわかるが、細かく、ときに不規則な現代的チョップによるゲットー・ハウス/エレクトロだと説明できる。ダーティーな言葉が飛び交うものの、なんともクリエイティヴで、間違いなくパワフルで、しかもファッショナブルな〈Fade To Mind〉からリリースされたことからも察することができるように、いまはこれがクールなスタイルであり(かつてモ・ワックスがDJアサルトを出したようなもの)、同時にこのスタイルが音楽的にさらに面白くなる可能性も感じないわけにはいかない。
 だが、高尚なゲットー・ミュージックなどはそもそもゲットー・ミュージックではないという矛盾があるように、むしろ生々しいから魅力があると言える。本作『Fuck Marry Kill』はただ淫らなだけではない。微妙な緊張感がある。それはきっとストリートの緊張感なのだ。(この原稿は先週書いたものだが、その数日後、ダラスでの銃撃事件が起きた。大統領選前のアメリカのなんたる殺気。こうした黒人vs警察の模様については、次号の紙ele-king vol.18で三田格が書いている)

 本作と違って、ほとんど年齢的な理由から、実生活のぼくはストイックである。このレヴューは現代のトレンドを紹介してるだけであって、決してぼくが好きな音楽ではない。しかし、オバマ大統領の最大の功績と言われるLGBTへの取り組み(アメリカというマッチョな国の、しかも経済危機のなかで、ゲイの結婚を認めさせることがどれほどのことか……)がアンダーグラウンドの祝祭ムードを盛り上げたことは間違いないだろう。ストーンウォールは観光名所になり、ヴォーグは流行、ボールルームは栄える。そして音楽も熱気を帯びる。これがいまクールなんだよ。

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