東京を拠点に活動するガラージ/グライムのプロデューサー、プリティボーイ(Prettybwoy)が、5月17日にフランスの前衛的なベース・ミュージックのレーベル〈POLAAR〉から「Overflow EP」をリリースすることが発表された。強靭かつミニマルなキックの連打、卓越したメロディ・センス、ワイリーのデビルズ・ミックスを彷彿させる無重力感などなど、聴きどころ満載な力作に仕上がっている。大きな話題となった重要レーベル〈Big Dada〉のコンピレーション『Grime 2.0』への参加から早3年。プリティボーイは決して速度を落とすことなく、確実に前へ進み続けているようだ。
Prettybwoy – Overflow – POLAAR
彼にだけ追い風が吹いているわけではない。この数年の間に現れたパキン(PAKIN)や溺死、ダフ(Duff)といったMCたちの活躍は頼もしい。またダブル・クラッパーズ(Double Clapperz)らに代表される新世代プロデューサーもめきめきと頭角を現し、彼らは日々シーンを活性化させている。「本場のヤツらと共演したらエラい」などと言うつもりは毛頭ないが、シーンのプレイヤーたちが〈バターズ〉のイライジャ&スキリアム(Elijah & Skilliam)や、若手最有力MCのストームジー(Stomzy)といったグライム・アーティストたちと共演するまで、日本のグライムは大きくなった。
シーンが勢いづくこのタイミングでリリースされた作品の裏にある、プリティボーイの意図とは何だろう。また、現在のシーン全体を、彼はどのように見ているのだろうか。今回届いたインタヴューはそれをうかがい知れる興味深いものになっている。『ele-king』に登場するのは実に3年ぶり。ジャパニーズ・ガラージ/グライムのパイオニアに、いまいちど注目しよう。
文:高橋勇人
Prettybwoy(プリティボーイ)
UK GARAGE / GRIME DJ in Tokyo。DJキャリアのスタート時から、独特の視点からガラージ / グライムをプレイし続けるDJ/プロデューサー。 ガラージ、グライム、ダブステップ、ベースライン等、時代と共に細分化していった音楽全てをガラージと捉え、自身のDJセットでそれらを「1時間」に表現する孤高の存在。 国内シーンで定評のあるビッグ・パーティにも度々出演。 自身ではパーティ「GollyGosh」主宰 。 また、「レジェンド オブ UKG!/神」等と称されるDJ EZのラジオ番組KissFMで楽曲“Dam E”が紹介される。 2013年、英〈Ninja Tune〉の傘下レーベル〈Big Dada〉からリリースされたコンピレーション『Grime 2.0』に、グライム・オリジネイター等と共に、唯一の日本人として参加。収録曲“Kissin U”は英雑誌『WIRE』等にも評価され、インスト・グライム DJのスラック(Slackk)らによってRinseFM、NTS、SubFMなどラジオプレイされるなどして、独自のコネクションで活動中。
Artist: Prettybwoy
Title: Overflow EP
Label: POLAAR
Release Date: 2016.05.17
Truck List:
1. Overflow
2. Vivid Colour
3. Humid
4. Flutter
Interview with Prettybwoy
Interviewer:Negatine=■
■EPのリリース、おめでとうございます。まずは今回のリリースまでの経緯、リリース元であるフランスのインディペンデント・レーベル、〈POLAAR〉について教えて下さい。
プリティボーイ(Prettybwoy以下、P):僕が「Golly Gosh」というパーティを久しぶりに開催したときに、期間限定でEPをバンドキャンプに発表したんですが、〈POLAAR〉がその曲をとても気に入ってくれて、SNSでメッセージをくれたんです。その時点で、2015年12月に出たコンピレーション『Territoires』の構想に僕の作品がぴったりだっていう話だったから、すぐ「いいよ、喜んで」って僕が返事したところから関係がはじまりました。EPのリリースも早い段階で決まっていましたね。ちょうど1年前のいまの時期でした。
〈POLAAR〉はフランスのリヨンという都市に拠点を置くレーベルです。設立してから今年で2年目。「シネマティック・ベース・ミュージック」をコンセプトに掲げているとおり、メロディやムードと低音を大切にしていると思う。フロア(FLORE)という女性アーティストが中心になって活動をしています。実際、僕も連絡のほとんどは彼女としていますね。彼女は〈Botchit & Scarper〉などからもリリースしていて、ブレイクス寄りな作風だけど、好きなもの、聴いてきたものは似ているような気がします。レーベルのメンバーのひとりが最近日本に住みはじめました。それ以外はみんなフランスにいます。また、ゼド・バイアスやマムダンス、マーロ、スクラッチャDVA、アイコニカ、ホッジ、ピンチなども過去に出演したことのあるパーティを定期的に開催しています。
■今回のEPの内容についてお尋ねします。とてもタイトで洗練されたラインナップですね。また、聴き手によっても色々な解釈が生まれそうな深みも持ち合わせていて、プリティボーイのスタイルが更に進化しているのが感じ取れます。このEPにはコンセプトみたいな物はありますか?
P:この4曲は作った時期もバラバラなので、明確なコンセプトというものはないんです。けど、いわゆるグライムっていうイメージから逸脱したグライム、みたいな作品群になっていると思います。グライム、ガラージDJっていう僕の経験と蓄積から、作りたい音楽を素直に作った結果がこのEPです。
■自身が描いているそれぞれの曲のイメージなどあれば教えて下さい。
P:・“Overflow”
僕の製作のなかで、グライムっぽくないグライムが1周して、改めてグライムを作ろうって思って作った曲です。DJセットの中に欲しかったものを素直に作りました。
・“Vivid Colour”
僕、田島昭宇さんの絵が昔から好きで、そのなかでもとくに和服的なふわっとした衣服を着ている女性の絵が好きで、『お伽草子』という作品の弓矢を持った女性のイラストを見ながら、何となく作りました。因みにキャラクターで一番好きなのは『MADARA2(BASARA)』のバサラと芙蓉(フヨウ)で、その芙蓉のイラストから出来た曲もあります。僕なりのサイノ・グライム(注:東洋的な旋律をもったグライムのスタイル)です。
・“Humid”
グライムってどこまで拡大解釈していいのかな? そう考えるきっかけを作った曲で、このEPの中では最初に作りました。梅雨の時期に出来たのでタイトルもじめっとしてます。確か、メロディラインをMIDIキーボードで演奏して録音したのもこの曲が初めてだった気がします。いまはけっこうキーボードを弾いていますが。
・“Flutter”
この曲は、地下アイドルのCD-Rの曲をサンプリングしています。地下アイドルやそれに類する女の子に対して、僕がイメージする「儚さ」みたいなものが曲として具現化した気はします(笑)。
■今回のEPの曲はマスタリングまで自身で行っているんですか?
P:いえ、自分で行ったのはミックスダウンまでで、マスタリングはレーベルの方でエンジニアに送っていると思います。誰に頼んでいるのかは定かではないんですが、出来上がりを聴いてとても満足しています。
■使用機材などがあれば詳しく教えて下さい。
P:基本的にPC1台で全ての工程を行っています。ソフトはFL Studio、それにRolandのオーディオインターフェイスと、MIDI鍵盤がAlesis Q49とKORGのnanoKey2、モニターはヘッドフォンで行っていてRoland RH-300を使用しています。ソフトシンセはFL Studio純正のものしか最近は使用していません。
■また作曲の過程など教えて下さい、コンセプトが先にあって組み立てて行くんですか? もしくはインスピレーションに任せて作曲して行くのでしょうか?
P:とくに決まった形はない……、かなぁ? 自分の経済状況だったり、日本や世界で起きているニュースに触発されたり、SNSを見ながら思ったことを音にしたり、お気に入りのまだそんなに売れてないタレントのインスタとかツイッター動画からサンプリングしてループを作ったり……。その時々の身の回りの空気とか自分の気分が要素として大きいと思います。もともと僕はガラージやグライムが音楽の基盤になっているので、今回はどう逸脱しようかとか、どんな要素をプラスしようかっていう思考で音楽を作っています。だから、iPhoneで音楽を聴きながら外を歩いている時とかに、そういうこと考えていますね。それ以外の時間は絶対何かしら他の作業をしているので。
■曲作りの時、好みのルーティン等はありますか?
P:ボーカルもしくはサンプリング・ボイス、主旋律となるループ、キック、パーカッション……という順番が多いですね。ボーカルがないときは主旋律とサンプリング・ボイスの有無、たまにキックのパターンから決めることもあります。サンプリングは先ほど触れたSNS動画の事ですね。最近、かなりの頻度でコレは使っています。iPhoneのマイクで録音された音声、周囲の音、ノイズ、これら全てが面白く使えることもあります。一番面白いのは、それがアップロードされた時にそれを即サンプリングして曲に使うこと。「いま」っていう、妙なリアル感が生まれる気がします。また、何がUPされるのか予想できない面白さもありますね(笑)。
[[SplitPage]]■このEPに先駆けて配信された“Hansei feat. Duff & Dekishi”も素晴らしい曲ですが、こちらはどういった経緯で完成した曲なのでしょうか?
P:ありがとうございます。もともとMCのDuff君と「何か作ろうよ」って話になって、仮のビートを送ったんです。そうしたら、それに仮録りを被せて送ってきてくれて、少ししたら溺死君も参加してくれることになって出来上がりました。トラックはディープにしたかったので、仮トラックより大分変えてしまったのですが、結果的にふたりの声とのハマリ具合も良かったと思います。
■タイトルの「ハンセイ」にはどのような意味が込められていますか?
P: 意味はそのままで、特にひねりも何もないです。この曲のインスト・ヴァージョンを最初のレーベルのコンピレーションに入れるという話になった時に、「反省」を英語、フランス語に翻訳する話もしたんだけど、「『ハンセイ』の響きも字面もとても良いよ」って言ってくれたので、そのまま日本語で行くことにしました。
Prettybwoy - Hansei feat. Duff & Dekishi
■これからグライムやガラージはどうなって行くと思いますか? またどうあるべきだと思いますか?
P:そのふたつを分けるべきではないと思います。その方が音が面白くなると思う。ガラージの時からそうだったんですが、「コレもガラージでいいの?」っていう新発見が一番楽しいんです。その面白さを自分も続けて行きたいし、アグレッシブな部分は残して行きたいと思っています。クールにまとまりすぎないのも大事なのかなと。
■グライムやガラージで影響を受けたアーティストを教えて下さい。
P:多すぎて挙げきれないので、今回はJスウィート(J-Sweet)を選びます。ガラージとグライムの両面から見て良かったです。
■またそれ以外のジャンルから影響を受けたアーティストなどがいましたら教えて下さい。
P:いま80年代の坂本龍一の作品群はだいぶ聴いていますね。
■日本のグライム・シーンも少しずつですが盛り上がってきていますね。それについてどう思いますか? またこれからどうなっていって欲しいですか?
P:そうですね。先日もボイラールームにダブル・クラッパーズやグライムMC勢もスケプタ(Skepta)と一緒に出演していました。シーンの存在を着実に外へアピールできていると思います。僕が以前、〈Big Dada〉の『Grime2.0』に参加したときに比べたら、考えられないくらい前に進んでいると思いますし、良いコミュニティ関係が築けていると感じていますよ。今月5月21日に新宿ドゥースラーで行われる「That's Not Me! 2」がそれをよく表していると思います。楽曲的にもMC的にも、10数年前にグライムが誕生した時のような荒削りでアグレッシブなエネルギーで満ちている気がするんです。これをうまく取りまとめ、リリースやパーティを開催できるような集合体/レーベルのような存在があったらいいな。グライムだけじゃなく、ベース・ミュージックを総合的に扱えるようなものです。正直、いまの僕にはそんなに時間的余裕がないので、アーティスト以外にそういう人材がいたら良いですね。
■日本国内にはグライムのレーベルは少ししかありませんし、活動もまだまだこれからだと思います。海外のインディペンデント・レーベルに見習うべき部分等がありましたら教えて下さい。
P:海外といっても、僕がやり取りしているのはごく限られたレーベルしかないんです。でもそのなかで共通しているのは、レーベルが扱うジャンルがグライムだけじゃないという点。ダブステップだったり、ジューク、テクノ寄りのものだったり様々です。もちろん、グライム一本で真っ向勝負もいいとは思うんですが、もっと幅広い層にアピールできるような作品群があっても良いんじゃないかと思います。
それと、向こうのレーベル・オーナーは、ライターとかを他でやっていたりする人がけっこう多いですよね。だから、基本的なプレゼンの仕方は心得ている。または、そういった形を熟知しているからこそ、プロモーションをあえてしなかったりするレーベルもあるんです。でもこういう音楽をやっているだけでは、金稼げないと思うので、どうやってプラスに持っていくかは難しいのが現状なんです。日本で同じようにやるのはかなり大変です。同じようなプロモーション方法でやっていても、気づいて貰えないですからね。
■Prettybwoy Schedule
5/13 金
OUTLOOK FESTIVAL 2016 JAPAN LAUNCH PARTY @ UNIT + UNICE + SALOON
5/17 火
Overflow EP 発売
5/21 土
THAT'S NOT ME! 2 Prettybwoy “Overflow EP” release party @ 新宿ドゥースラー
Special Guest : MC ShaoDow (from UK/DiY Gang)
6/3 金
MIDNITE∵NOON - KAMIXLO JAPAN TOUR 東京 @ Circus Tokyo










