「Not Waving」と一致するもの

RIP: Pierre Henry - ele-king

 1927年12月9日にパリで生まれた「テクノの祖父」が、去る7月5日、パリの病院にて亡くなった。89歳だった。今日のサンプリングは、著作権で取り締まられているものの、もはや創造行為としてすっかり定着している。録音物を加工して、音の要素として使用とすることは、最初は具体音楽(ミュジーク・コンクレート)と呼ばれた。
 その創始者はピエール・シェフェールだが、シェフェールとともにこのスタイルを研究し、世に広めたもうひとりの重要人物がピエール・アンリだった。彼の1967年の『現在のためのミサ(Messe pour le temps présent )』に収録された“サイケ・ロック”は、90年代のDJカルチャーにも再発見されて、ヒットしている。『Machine Danse』(1973)も人気だった。
 もっともこの「テクノの祖父」は、コンピュータとサンプラーの文化を決して評価しなかった。
 

戸川純 with Vampillia - ele-king

 昨年末リリースされた戸川純の歌手活動35周年記念作品『わたしが鳴こうホトトギス』。その興奮冷めやらぬなか、年明けに開催されたリキッドでのライヴは胸に迫るものがあった。そんな戸川純 with Vampilliaは今夏、フジ・ロック・フェスティヴァルに出演することが決定しているが、このたび大阪と広島でワンマン・ライヴが開催されることが発表された。会場は、東心斎橋CONPASS (9月2日)と広島CLUB QUATTRO(9月29日)。詳細は下記より。

戸川純 with Vampillia ワンマンライブ開催が大阪、広島で決定。

FUJI ROCK FESTIVAL '17の出演も決定している、戸川純 with Vampillia ワンマンライブが、2017年9月2日、9月29日に、東心斎橋CONPASSと広島CLUB QUATTROで開催される。

戸川純 with Vampilliaは、Vampilliaによるアレンジ&演奏に、戸川純の今の唄声を乗せる編成である。アーティスト画は、『HUNTER×HUNTER』、『幽☆遊☆白書』等で知られる冨樫義博が手がけている。

『戸川純 with Vampillia ワンマン LIVE』

●2017/9/2 (土) @東心斎橋CONPASS
OPEN 18:00 START 19:00
ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 (前売、当日券ともに1drink ¥600 plus)
出演: 戸川純 with Vampillia
チケット発売日未定

●2017/9/29 (金) @広島CLUB QUATTRO
OPEN 18:30 START 19:30
ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 (共にdrink別)
QUATTRO WEB先行: 7/22 (土) 12:00~7/27 (木) 18:00
https://www.club-quattro.com/
チケット一般発売: 7/29 (土)
ぴあ、ローソン、e+、エディオン広島本店プレイガイド、タワーレコード広島店、QUATTRO店頭、通販


■戸川純

女優、歌手。映画、ドラマ、舞台、CMなど出演作多数。CM『TOTOウォシュレット』(1982年から1995年)、映画『釣りバカ日誌』(1作目から7作目)、映画『いかしたベイビー』(1991年。監督・脚本・主演)、二人芝居『ラスト・デイト』(2006年)など。戸川純ソロ名義、ヤプーズとして音楽活動も行っている。作品に『玉姫様』(1984年)、『好き好き大好き』(1985年)、『昭和享年』(1989年)、自選ベスト3枚組『TOGAWA LEGEND』(2008年)など多数。2016年、歌手生活35周年を迎え記念アルバム、戸川純 with Vampillia『わたしが鳴こうホトトギス』、『戸川純全歌詞解説集――疾風怒濤ときどき晴れ』を発表。

■Vampillia

真部脩一(集団行動、進行方向別通行区分)、吉田達也(ruins)、竜巻太郎(turtle island)らも擁する真のジャンル越境音楽。国内では、大阪を中心としたライブ・イベント「いいにおい」シリーズを主催。また、様々な国内外のアーティストと共演している。現在、日本はworld's end girlfriend率いる〈Virgin Babylon Records〉、海外はエンペラー、opethをリリースする〈candlelight records〉と契約。過去エクスペリメンタル音楽の名門〈important records〉からも数作リリースするなど世界中のレーベルから作品を発表。2014年ben frostプロデュースでアイスランドにて制作されたアルバムをリリース。Nadja、The Body、Lustmord,Attila Csihar(Mayhem)、Sunn O)))らとコラボ作品を発表。2015年にはMogwai、The Pop Group、65days of staticと並びアデレード・フェスティヴァルでヘッドライナーをつとめ、2016年のアデレード・フェスティヴァルではGodspeed You! Black Emeperorと2マン。SXSWやヨーロッパ、オーストラリア、アメリカなどで数多くライブを行う他、東京女子流主演映画の音楽や、『Pitchfork』での高得点の獲得、lady gagaの衣装を手掛けるchristian dadaのショー音楽を手掛けることでも知られる。現在Pete Swanson(ex. Yellow Swans)、Extreme Precautions(Mondkopf)らと共にアート・ブラックメタル・テクノ・プロジェクトVMOを結成、1stアルバムがCONVERGEのレーベル〈Deathwish〉傘下の〈Throatruiner〉より発売。また、戸川純歌手生活35周年を迎え、戸川純 with Vampilliaとして記念アルバム『わたしが鳴こうホトトギス』を発表。

shotahirama - ele-king

 先日のインタヴューで音楽に対する情熱を大いに語ってくれたshotahiramaだが、彼の最新アルバム『Maybe Baby』のリリース・パーティが7月16日に中目黒solfaにて開催される。なんと、新作『Maybe Baby』を東京にてフルセットで披露するのは今回が初となるそうだ。それに加え、先日タワレコ渋谷店のインストア・ライヴで繰り広げられた生ドラムを擁するインプロ・セッションも披露される予定とのこと。なお今回のイベントは、実験的な試みを探究するプラットフォーム「nonlinear-nauts」の一環でもあるため、他の出演者たちのパフォーマンスも見逃せない。詳細は下記をチェック。

nonlinear-nauts [exp.011]
shotahirama “Maybe Baby” Release Party

電子音楽/音響~クラブ・サウンドを軸に実験的な取り組みや尖端的なスタイルを追求するアーティストのプラットフォームとなる「nonlinear-nauts(ノンリニアノーツ)」が中目黒solfaにて、ニューヨーク出身の電子音楽家 shotahirama の最新CDアルバム『Maybe Baby』のリリース・パーティとして開催。

日付:2017年7月16日 (日)
時間:open- 16:00 / close- 22:30
場所:中目黒solfa
https://www.nakameguro-solfa.com/schedule/nonlinear-nauts-exp-011-shotahirama-maybe-baby-release-party/
チケット:door- 3,500円(w/f- 3000円)
ゲスト・ライブ:shotahirama band set (Electronics: shotahirama, Drums: Masashi Okamoto)
他出演者:Yaporigami (Detroit Underground / Hz-records / +Mus / Stray Landings), HIRAMATSU TOSHIYUKI (shrine.jp / Hz-records / White), Distra (Electric Pressure), KENTARO HAYASHI, Yoshitaka Shirakura (conflux), Yusuke Takenouchi, STL (nonlinear-nauts), NASAA (nonlinear-nauts)

主催:nonlinear-nauts
https://www.facebook.com/events/464676243902136


■リリース情報
アーティスト: shotahirama
タイトル: Maybe Baby
レーベル: SIGNAL DADA
https://www.amazon.co.jp/dp/B06XY81N1N/
https://tower.jp/item/4485246/
https://www.hmv.co.jp/artist_shotahirama_000000000453324/item_Maybe-Baby_7894375

Mr. Mitch - ele-king

 かつて〈Big Dada〉が編んだコンピ『Grime 2.0』にトラックが収録され、その後〈Planet Mu〉からアルバムをリリースしたMr.ミッチ。やはりマイク・パラディナスの嗅覚は鋭いというべきか……いや、もはやそんな枕詞を添える必要はないのかもしれない。MC主体のグライム・シーンに対し「インスト」というオルタナティヴを呈示したパーティ/レーベル〈BoxedLDN〉をスラックらとともに主宰するこの才能がついに初来日を果たす。今回まわるのは、東京(7月22日)と大阪(7月29日)の2箇所。Double Clapperz(東京)や行松陽介(大阪)など、サポートの面々も強力なラインナップとなっている。いやこれ、行きたいっす……鬼のように溜まっている仕事をほっぽり出して、行きたいっす。


東京・大阪にMr. Mitchが初来日
-Boxedから羽ばたくインスト・グライムの才能-

ロンドンのアーティスト、Mr. Mitchが初来日を果たす。
彼自身はグライム、R&Bといったジャンル・リズムに囚われすぎず、ゲーム・ミュージックを彷彿とさせるメランコリックな音を実験的に拡張してきた。Yamanekoとのコラボ・ユニット、Yaroze Dream Suiteでは珠玉のシンセ・ミュージックをリリースしてきた。

そして、5月にはアルバム『Devout』をリリース。
アルバムのメロディはポップで忘れられないものが多く、いわゆる「クラブ・サウンド」を意識しすぎない世界観も独特である。

Album『Devout』試聴 - https://smarturl.it/devout

-Boxed -
ロンドンのインスト・グライムを代表するレーベル/パーティ〈Boxed〉(ボックスド)から羽ばたいたMr. Mitch。
Boxedは、それまでMCが主体だったグライム・シーンにおいて、Wileyをはじめとするグライム・クラシックの音楽性に注目し、それを拡張する新世代のアーティストとともにインスト・グライムを打ち出した。
いまや、ロンドンで不定期で開催されるパーティ〈Boxed〉は、400人以上を集めるパーティとなっている。

Rinse FMの〈Boxed〉でのレジデント番組

そんなMr. Mitchが初来日!

7/22 (土) - Mr. Mitch Asia Tour in Tokyo @ CIRCUS TOKYO
7/29 (土)- merde feat. Mr. Mitch @ COMPUFUNK RECORDS

初来日パーティはCIRCUS TOKYO、COMPUFUNK RECORDSの2ヶ所で開催。
東京はDouble ClapperzとVOIDからSkyfish、Gyto、Azel、Tumがサポート。
大阪は行松陽介、satinko、YOUNGANIMALらが共演、
Mr. Mitchと各地の色濃いアーティストが繰り広げる。

Cigarettes After Sex - ele-king

 知名度や支持数の多さがバンドの評価に繋がらないタイプの人間にとって、YouTubeで5千万ビュー云々という情報は出会いを遠ざける材料にしかならない。それは『ローリング・ストーン』誌の「2016年知っておくべき10のアーティスト」に選出されようが、全米が泣こうが、変わらない。しかしその「Nothing's Gonna Hurt You Baby」という曲が米テキサスのエル・パソという、行ったこともなければ地図のどの辺りにあるのかも想像がつかない都市で2012年に発信されて、5年という長い時間をかけてじわじわと広まり、日本のラジオの電波に乗って2017年の私の耳にたまたま届いたのだとしたら、その巡り合わせに浪漫を感じてしまう。世界中で毎日のようにありとあらゆる音楽がリリースされていて、タイミングが合わずに掴み損ね、そのまま永遠に交わらないものが無数にあると思うと。

 そのバンドはCigarettes After Sexだという。ドリーム・ポップと紹介されている。たしかに夢みたいな音楽ではあるけれど、他のドリーム・ポップと呼ばれている音楽と比べてみてもポップの要素は少なく、アンビエントと呼んだ方がまだしっくりくるような肌触りをしている。フロントマンのグレッグ・ゴンザレスという男性の歌声は中性的で少しかすれていて、もうそれさえあれば何も要らないというくらいの引力があり、ヴォーカルを際立たせるように後ろに寄り添うサウンドは小さくてスローで、淡い。今年5月の初来日を経て発売されたファースト・アルバムには、そんな静かな曲が延々と起承転結もなく10曲ほど収められている。先に出ていたEP「I.」と2015年にリリースされたシングル「Affection」を聴いた限り、いままで発表されているシガレッツの曲は全てテイストが同じで、「シガレッツのファンが選ぶ名曲ベスト3」という企画がもしもあったとしてもどの曲が入ろうと文句はないし、どの曲も映画のエンドロールで流れていそうな儚さを持っている。

 真夜中に何か好きなアルバムを聴いているとき、刺激的な音の間に挟まれた一番穏やかな曲がすっと胸の隙間に入り込んできて、「ああこれが60分続くようなプレイリストがあればいいのに……」と思うことがよくある。良くも悪くも世のなかの作品の殆どはアルバムの代表曲をより良く聴かせる為に構成されていて、こちらの気分など構わずにそっと持ち上げたり落としたりしてくる。しかし、ただ慌ただしかっただけの1日の終わりのBGMには神も興奮も実験も必要なく、ただ静かに心を奪われながらまどろむ為の音楽を心のどこかで探している。このアルバムはそんな夜との相性がとても良い。始めから終わりまで統一感があり、どこで終わらせても構わないような、いや寧ろ終わらないでいてほしいような、退屈には程遠い、そんな感じの。聴けば聴くほどシガレッツの幻想的な曲はいつまでも耳に残って、暗い夜を僅かに輝かせてくれる。例え顎髭を蓄えたグレッグが歌う姿を見て(何かイメージと違う!)と思ってしまったとしても、この素晴らしいアルバムの評価が下がることはない。

 内側まで黒で統一されたジャケットや写真、丸みのある洒落た歌詞カードなど、アートワークも徹底してしなやかで、パーソナルな恋愛についての歌詞を含め、すべてはバンド名のもとに作られたコンセプチュアルなものなのかもしれない。だとすると、シガレッツ・アフター……何それ、とたじろいで遠ざかってしまっていると、美しい音楽にいつまでも辿り着けずに終わってしまうだろう。

 遠い国で生まれた曲は毎晩隣に来て、耳元で囁くように知らない恋の歌をうたう。それを聴いた人はまた違う誰かのことを思い浮かべているのだ。暗がりのなかの小さなあかりと至福のときのその味を知っていても、知らなくても。

ele-king vol.20 - ele-king

特集1:ザ・XX最新ロング・インタヴュー/UKメランコリック・ポップ
特集2:クラブ・ミュージック大カタログ──アンダーグラウンドの乱泥流を聴け!

 ele-king「vol.20」は、ダンス・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックの大大特集!
 ここ数年のシーンをトピックごとに分けて解説。要チェックの、50枚以上のパワフルなレコードも掲載しています。
 さらに、インターナショナルな活躍が目覚ましい22人の日本人プロデューサーも彼らの主要作品を交えながら紹介します。
 インタヴューでは、注目のメルボルンからハーヴィー・サザーランド、ロンドンからフローティング・ポインツ、デトロイトからマーク・フラッシュ、イタリアからはクラップ!クラップ!、そして日本からはGONNO。パウウェル(ロンドン)とコーヘイ・マツナガ(日本)の対談もあります。
 これを読めば、ここ2~3年の動向がわかる!

 また、フジロックのために来日するザ・XXが表紙&巻頭ロング・インタヴュー。彼らの記事と併せて、ニック・ドレイクからマッシヴ・アタックやベリアルにいたる、UKメランコリア・ポップの系譜を読み解くという試みもあり。


■目次

008 特集1:The XXとUKメランコリック・ポップの輝き
010 インタヴュー:ジェイミー(The XX)
014 インタヴュー:ロミー&オリヴァー(The XX)
018 ブリティッシュ・メランコリック・ミュージックの推移
020 憂鬱な田園──ウィリアム・ブレイクからニック・ドレイクへ
022 メランコリック(クラシック)ディスク 12枚
024 メランコリック(カレント)ディスク 12枚
026 ザ・XXを誰がどうリミックスしてきたのか

028 特集2:クラブ・ミュージック大カタログ──アンダーグラウンドの乱泥流を聴け!
文:飯島直樹、佐藤吉春、高橋勇人、デンシノオト、松原裕海、山崎真、小林拓音、三田格、野田努ほか

030 SUMMER OF NOTHING──この夏は「ラヴ」でもなければ「ジョイ」でもない?
036 Drum’n’Bass 1──〝ジャングル・ウォー〟がきっかけだった
038 Drum’n’Bass 2──ニューロ・ホップと荒野の景色
040 Drum’n’Bass 3──ジャマイカから切り離されたダンスホール
042 Grime 1──南ロンドン・ムーブメント
044 Grime 2──グライムのアウトサイダーたち
046 Afrobeat / Tribal──アフロビートの増大と応用
048 World Music──ワールド・ハイブリッド・サウンド
050 対談:パウウェル×コーヘイ・マツナガ(NHK)
054 Black Electronica──ブラック・エレクトロニカ
056 New Style Electro──ブレイク×エレクトロ×ミニマル・ハウス
058 Body Music Revival──増殖するボディ・ミュージック
060 Neo Trance──ネオ・トランス
062 Post Glitch──ポスト・グリッチ
064 Post Industrial Technoise──インダストリアル・テクノイズ
066 Dub Techno──変容していくダブ・テクノ
068 Post Romanian Minimal──ルーマニアン・ミニマル
070 Hard Minimal Not Dead──次世代ハード・ミニマル
072 Nordic Sound──北欧の現在
074 Deep House 1──欧州辺境におけるディープ・ハウス
076 Deep house 2──「ニューエイジ」と「バレアリック」
078 Deep House 3──メルボルンからディープ・ハウス
080 インタヴュー:ハーヴィー・サザーランド
084 Fusion House──フュージョン・ハウス
086 Raw House──ロウ・ハウス
088 Disco──ブギ・リヴァイヴァル以降
090 インタヴュー:フローティング・ポインツ
094 「レイヴの死」を越えて──ケアテイカーについて
105 インタヴュー:クラップ!クラップ!
113 日本の次世代プロデューサーたち(テクノ+ハウス編)
Gonno / Mori-Ra / Inoue Shirabe / Foodman / Shinichi Atobe /Jun Kamoda / Keita Sano / Yoshinori Hayashi / Sugai Ken / Iori /Katsunori Sawa / Wata Igarashi / Akiko Kiyama / So Inagawa / Ryo Murakami / Stereociti / Kouhei Matsunaga / Takuya Matsumoto / Takashi Himeoka / Cos/Mes / 外神田deepspace /Kuniyuki
114 インタヴュー:ゴンノ
134 インタヴュー:マーク・フラッシュ(UR)
142 DJアゲインスト共謀罪:行松陽介

142 現代アナキズム考──平井玄×森元斎×二木信

149 REGULARS
ブレイディみかこ / 水越真紀 / 戸川純

ele-king vol.20 - ele-king

 いま人類は「グーデンベルグ」ないしは「産業革命」以来のパラダイム・シフトを生きていると、ある識者がそう解説するような時代を生きている。シフトの主要素は金融化とイーターネットだが、ひと昔前なら民主的希望のごとく楽観されたデジタル情報社会の現在の姿──いわく「終わりなきエンターテイメント」、いわく「24時間体制の資本主義への貢ぎ」、いわく「無限に続くポルノ閲覧という究極の個人主義」、いわく「女嫌いの新男根主義(manosphereと呼ばれる)」、いわく『インターネットなんか大嫌い』(←昨年アメリカで話題の現代版ヴォネガットと評された小説)……こうした社会背景も、現在のヴァイナル・レコード回帰に少なからずリンクしているのではないかとぼくは思っている。
 そんなわけで紙エレキングの最新号「vol.20」は、総力特集「クラブ・ミュージック大カタログ」。ダンス・カルチャーは、奪われたものを取り戻そうとする。つまり、「外に出ること」「歩くこと」「待つこと」「踊ること(身体を動かすこと)」「汗かくこと」「ナンパすること」「失敗すること」そして「音楽にどっぷりハマること」──。

 そんなわけで、ele-king「vol.20」は、ダンス・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックの大大特集です。
 ドラムンベース、ブラック・エレクトロニカ、フュージョン・ハウス、ニューロ・ホップに新世代ハード・ミニマル、ポスト・ルーマニアン・ハウス……などなど(下の目次を参照)、ここ数年のシーンをトピックごとに分けて解説。要チェックの50枚以上の“パワフルな”レコードを掲載しています。
 さらに、デジタルをしっかり使いながらインターナショナルな活躍が目覚ましい22人の日本人プロデューサーも彼らの主要作品を交えなが紹介(まあ、これを読めば、ダンス・カルチャーがグローバリズムへの新反動系保守とはほど遠いことがわかりまっせ)。
 インタヴューでは、注目のメルボルンからハーヴィー・サザーランド、ロンドンからフローティング・ポインツ、デトロイトからマーク・フラッシュ、イタリアからはクラップ!クラップ!、そして日本からはGONNO。パウウェル(ロンドン)とコーヘイ・マツナガ(日本)の対談もあります。
 これを読めば、ここ2〜3年の動向がわかる!

 また、フジロックのために来日するザ・xxが表紙&巻頭ロング・インタヴュー。彼らの記事と併せて、ニック・ドレイクからマッシヴ・アタックやベルアルにいたる、UKメランコリア・ポップの系譜を読み解くという小特集もある。

 ちなみにこの号の編集中のぼくのBGMはこれでした。
https://www.youtube.com/watch?v=7l1tbZxcX_Q
 
 ね、わかるでしょ。1964年にモータウンのマーサ&ザ・ヴァンデラスが歌ったように、「夏だ! ストリートで踊るには良い季節」なのです。発売は7月14日(金)です。

>Amazon

■目次

008 特集1:The XXとUKメランコリック・ポップの輝き
010 インタヴュー:ジェイミー(The XX)
014 インタヴュー:ロミー&オリヴァー(The XX)
018 ブリティッシュ・メランコリック・ミュージックの推移
020 憂鬱な田園──ウィリアム・ブレイクからニック・ドレイクへ
022 メランコリック(クラシック)ディスク 12枚
024 メランコリック(カレント)ディスク 12枚
026 ザ・XXを誰がどうリミックスしてきたのか

028 特集2:クラブ・ミュージック大カタログ──アンダーグラウンドの乱泥流を聴け!
文:飯島直樹、佐藤吉春、高橋勇人、デンシノオト、松原裕海、山崎真、小林拓音、三田格、野田努ほか

030 SUMMER OF NOTHING──この夏は「ラヴ」でもなければ「ジョイ」でもない?
036 Drum’n’Bass 1──〝ジャングル・ウォー〟がきっかけだった
038 Drum’n’Bass 2──ニューロ・ホップと荒野の景色
040 Drum’n’Bass 3──ジャマイカから切り離されたダンスホール
042 Grime 1──南ロンドン・ムーブメント
044 Grime 2──グライムのアウトサイダーたち
046 Afrobeat / Tribal──アフロビートの増大と応用
048 World Music──ワールド・ハイブリッド・サウンド
050 対談:パウウェル×コーヘイ・マツナガ(NHK)
054 Black Electronica──ブラック・エレクトロニカ
056 New Style Electro──ブレイク×エレクトロ×ミニマル・ハウス
058 Body Music Revival──増殖するボディ・ミュージック
060 Neo Trance──ネオ・トランス
062 Post Glitch──ポスト・グリッチ
064 Post Industrial Technoise──インダストリアル・テクノイズ
066 Dub Techno──変容していくダブ・テクノ
068 Post Romanian Minimal──ルーマニアン・ミニマル
070 Hard Minimal Not Dead──次世代ハード・ミニマル
072 Nordic Sound──北欧の現在
074 Deep House 1──欧州辺境におけるディープ・ハウス
076 Deep house 2──「ニューエイジ」と「バレアリック」
078 Deep House 3──メルボルンからディープ・ハウス
080 インタヴュー:ハーヴィー・サザーランド
084 Fusion House──フュージョン・ハウス
086 Raw House──ロウ・ハウス
088 Disco──ブギ・リヴァイヴァル以降
090 インタヴュー:フローティング・ポインツ
094 「レイヴの死」を越えて──ケアテイカーについて
105 インタヴュー:クラップ!クラップ!
113 日本の次世代プロデューサーたち(テクノ+ハウス編)
Gonno / Mori-Ra / Inoue Shirabe / Foodman / Shinichi Atobe /Jun Kamoda / Keita Sano / Yoshinori Hayashi / Sugai Ken / Iori /Katsunori Sawa / Wata Igarashi / Akiko Kiyama / So Inagawa / Ryo Murakami / Stereociti / Kouhei Matsunaga / Takuya Matsumoto / Takashi Himeoka / Cos/Mes / 外神田deepspace /Kuniyuki
114 インタヴュー:ゴンノ
134 インタヴュー:マーク・フラッシュ(UR)
142 DJアゲインスト共謀罪:行松陽介

142 現代アナキズム考──平井玄×森元斎×二木信

149 REGULARS
ブレイディみかこ / 水越真紀 / 戸川純

Laurel Halo - ele-king

 ファースト・アルバム『クアランティン』(2012年)は、モダン・アート作家の会田誠による『切腹女子高生』を用いたジャケットで、またボーカロイドの初音ミクを用いたプロジェクトにも参加するなど、日本文化にも何かと縁があるローレル・ヘイロー(インタビューでも細野晴臣や佐藤博から、池田亮司などの話題や影響が語られるなど、かなり日本の音楽にも詳しいようだ)。『クアランティン』はサウンドの面白さもさることながら、彼女の独特の歌が異彩を放っていた。うまいとかヘタという次元を超えた彼女の歌は、通常のポピュラー・ソングの形式とも切り離されたところがあり(そもそも彼女はクラシック音楽をやっていて、そうしたトレーニングの中から独特の唱法を身につけたところもあるようだ)、それがテクノともIDMともつかない形容不能なサウンドと結び付き、ほかに見当たらない独特の個性を生み出していた。

 しかし、それ以降のセカンド・アルバム『チャンス・トゥ・レイン』(2013年)、2枚組EP『イン・サイチュ』(2015年)では、インダストリアルでエクスペリメンタルなダブ・テクノ的インスト作品にフォーカスし、彼女の声は消えてしまった。そもそも『クアランティン』以前のシングルやEPは、むしろこうしたインストものが多く、彼女のライヴを作品化したようなものでもあった。『クアランティン』はトラックやビート以上に、彼女の声を前面にフィーチャーしたという点で、ほかの作品に比べ異色なものだったとも言えるわけだが、新作『ダスト』では再びその声の力を借りている。ただし、今回は必ずしも彼女自身の声ではなく、ゲスト参加したクライン、ラファウンダ、マイケル・サルたちの声のときもあり、歌詞の内容や曲自体のムードによって、それぞれ使い分けているようだ。『クアランティン』での歌は、それ自体の存在感によっていたところもあるわけだが、今回はほかの楽器やサウンドと同様に、イメージを伝える手段や道具という役割が強くなっている。初音ミクとの「コラボ」などを通じ、人間の肉声と非肉声、それぞれの特徴や特色を再認識し、それをより効果的に用いる研究の成果であると言えるかもしれない。

 歌詞や言葉、メッセージを伝えたいというシンプルな理由から、『ダスト』には多くの歌モノが含まれることになったそうだが、同時に副産物として、音楽そのものへのムードや色付けがなされていることも大きい。つまり、歌声が限りなく器楽化されたアルバムでもある。ブラジルの作家のアロルド・デ・カンポスの著書から引用された“サン・トゥ・ソーラー”は、比較的『クアランティン』の頃に近い作風。クラインとのヴォーカルのコンビネーションは、かつてのハーバート作品におけるダニ・シシリアーノの歌を思わせる。クラインとラファウンダが参加する“ジェリー”も同系の作品だが、ここでは同時にマクシミリアン・ダンバーのカウベルや、イーライ・ケスラーのパーカッションも存在感を放つ。特にケスラーのドラムやパーカッションはアルバム全体を通して重要な役割を果たしており、非常にミステリアスな“コイノス”あたりでも顕著だが、『ダスト』にトライバルでプリミティヴな要素を持ち込んでいる。ラファウンダの参加とともに、『ダスト』がワールド・ミュージックからの影響を感じさせるゆえんである。

 一方、“アーシュクリーチャー(ドイツ語でゴマスリという意味らしい)”でのサックス、“ナイト・オーネ・リシコ”でのヴィブラフォンと、随所にフリー・ジャズのイディオムが顔を覗かせるのも『ダスト』の特徴だ。マイケル・サルの詩の朗読のような歌、ダイアモンド・テリファーの虚空を切り裂くようなテナー・サックス、クレイグ・クローズの亡霊のようなエレピによる“フーズ・ウォン?”などは、まるでサン・ラーの世界を彷彿とさせる。“ブー・バイ”でのコズミックなフリー・インプロヴィゼイションも、サン・ラーそのものと言える。そうして聴いてみると、ジュリア・ホルターがチェロを弾く“ドゥ・ユー・エヴァー・ハップン”や“ライク・アン・L”におけるローレルのヴォーカルも、サン・ラー作品におけるジューン・タイソンの歌のように感じられる(ローレル自身がそれを意識したのかはわからないが)。ラファウンダの歌、クローズのキーボード、ケスラーのドラム、ヘイローのヴィブラフォンなどによる“シズィジー(惑星直列)”は、曲名そのものがサン・ラー的でもあり、ジャズを取り入れたハーバートの名作『ボディリー・ファンクションズ』を想起させる作品だ。

 ローレル・ヘイローにとって、『ダスト』は実験性とポップ性を両立させるものであるそうだ。われわれスナーにとっては、それをもっともわかりやすい形で示すのが“ムーントーク”だろう。風変わりな日本語で歌われるこの曲は、アヴァンギャルド、シンセ・ポップ、ニューウェイヴ・ディスコ、アフロ・ポップなどが混然一体となったもので、聴きようによっていろいろなものが見えてくるだろう(私自身はトム・トム・クラブからアーサー・ラッセルあたりを想起した)。ポップ性と前衛性を両立させる女性アーティストと言うと、ローリー・アンダーソンからビョークなどが思い浮かぶのだが、ローレル・ヘイローもそれを体現できるひとりに違いない。

K15 - ele-king

 欧米でのヴァイナル・ブームって、気まぐれな流行かと思っていたらそうでもないらしい。往年の名盤の重量級再発盤、人気アーティストの記念物的なヴァイナル化……もそうだが、ここ数年クラブの現場でヴァイナルをプレイするDJが、アメリカでもヨーロッパでも増えたとURのマーク・フラッシュは紙エレキングの取材のために答えてくれた。そーか、そうなのか。そのためプレス工場への注文がいっきに増えて、URのようなインディペンデント・レーベルのプレスは半年待たされるような事態になってしまったと。こんな状況に対してジャック・ホワイトが地元デトロイトに(デトロイトのインディ・レーベル限定の)新しいプレス工場を建てたといういい話もある。
 ぼくは今年に入ってからAppleからSpotifyに乗り換えたのだが、どうもこの手のストリーミング・サーヴィスは、作品それ自体に金を払っている感覚がないせいか、気に入った曲があっても半年後に繰り返し聴いているということがない。月額制なるシステムに違和感のある人間としては、精神的にも清々としない。便利であることは間違いないし、BGMとして聴く分にはいいのだろうけれど、音楽鑑賞を趣味の第一とする人間にはいまだ物足りないのが正直なところだ。
 もちろん自分が古い人間であることは重々わかっている。が、しかしこの古さはいま現在、新しさ/若さでもある。……なんつって、なんどか書いてきたように、ぼくは今日のインディ・レーベルは、19世紀のアーツ&クラフト運動的なるものだと考えているのだけれど、サウスイースト・ロンドンのペッカムを拠点に盛り上がっているジャズ/ブロークンビーツ/ハウスのシーンからは、魅力的な盤を作ればいまでも人は買ってくれるという信念のようなものを感じる。〈Rhythm Section International〉や〈22s〉(ないしは〈Eglo〉)がシーンの中心となるレーベルで、実際にここらから出ている作品のほとんどがクオリティが高く、まあなんというか、“良きUKらしさ”を継承しているのである。たとえは古いがローリング・ストーンズがそのデビュー曲にチャック・ベリーの当時あまり知られていない曲を選んだような、USブラック・ミュージックに対する研究心、そして模倣ではなく折衷することの面白さ──こうした伝統が確実にある。このシーンはまた90年代初頭のアシッド・ジャズとも似ている。要するに、まずは最初にUSのヒップホップありきなのだ。
 シーンの最重要人物のひとり、ヘンリー・ウー(今年に入って〈Eglo〉から出したEPも最高だった)がカニエ・ウェストを聴いて育ったように、K15も最初はヒップホップ(主にスラム・ヴィレッジやマッドリブ、ピート・ロック)から入り、UKガラージ/ドラムンベースからも入っている。それがやがてグレン・アンダーグラウンドやMAW、そして4ヒーローを知ることになり、あるいはスティーヴ・ライヒにまでその聴覚範囲を拡張している。部屋のレコード棚がひっくり返ったかのような、この雑然としたままの感覚が彼らの音源にはミックスされているわけだが、それはジャズ/フュージョンの響きを持って、(ヒップホップではなく)ディープ・ハウスと呼ばれるスタイルに落とし込まれている。ちなみにこのシーンは、ハウスのファンキーさを引き継ぎながら、直接的ではないがUSのロバート・グラスパーやサンダーキャットとも呼応している。そしてまた、少し前にnewsでも書いたように、東京の〈Soudofspeed〉や札幌のKuniyukiともリンクしている。素晴らしいことに、アンダーグラウンド・クラブ・ミュージックはいまでも風通しが良く、見晴らしがいい。

 長々と書いてそれなりの労力を使ってしまったので、以下、手短にまとめよう
 K15、名前はキーロン・イフィル。別名義はCulross Close(※バンド形態)。ヘンリー・ウーのWU15でも知られる彼の、K15名義の最新12インチ(2枚組)が本作で、リリース元はデトロイトのカイル・ホールのレーベル。K15は2014年にも同レーベルから2枚組を出している。クリスタル・ウォーターズの“ジプシー・ウーマン”をがっつりサンプリングした曲として日本でも話題になったが、この3年のあいだ、シーンはますます音楽的な艶めかしさを増している。
 ディーゴやカイディ・テイタムらが絡んでいることからもわかるように、90年代末の〈2000 Black〉周辺のブロークンビーツを彷彿させるのはたしかだが、この新世代たちには当然ダブステップ以降のビートのセンスが入っている。「Speed of Life」にもリズムの実験があるわけだが、少しでも低域を上げたら音が歪むくらいの低音、じつに硬めのキック音、アフロ・パーカッション、ジャズの香気とハウスのファンクネスは、決して後ろを振り返っていないようにぼくには感じられる。
 そして最後にもういっかい記しておくが、ネットで育った世代が、(全体からみればまだまだ少数だろうけれど)「家で聴くときはレコードだ」となっていることは面白い。だいたい音楽鑑賞の時間までスマホやPCと切り離されないなんて……そもそも健康に良くないし、ま、あと2~3年もすれば現在欧米で起きているヴァイナル・ブームが、遅れて日本にも押し寄せてくると思いますよ。

上野俊哉 - ele-king

 ルフェーヴルにとって「日常生活(everyday life)」とは批判の対象であると同時に、批判と抵抗の拠点でもあった。それは、あくまでも資本主義的な生活様式の反復であるかぎりで、単なる「日々の生活(daily life)」とは区別されている。しかし凡庸、惰性、退屈、反復としての日常生活のなかには、特定の強度と緊張や、活性化につながる瞬間=契機がありうることもまた事実である。批判と変革のカギは日常生活の外部からやってくるのではない。言い換えれば、批判と抵抗の場としての外部を日常生活それ自体の内部に瞬間的/一時的に含みこむことができる。 (本書より)

 『トレインスポッティング』の新しいヤツまだ観ていないんだけど、あの最初の話、まだ映画化される前のこと、90年代半ばの話ですね──、当時ele-king編集部に在籍していた英語力に優れた渡辺健吾は、原書を取り寄せ、その読破にトライしたのであった。アーヴィン・ウェルシュはすでに英ポップ・メディアで騒がれていたし、誌面では、スコティッシュ訛りの見出し(ex: toe ya/Ah'll beなどなど)が踊りはじめた時代だった。『トレインスポッティング』に関しては、当時のスコットランドの悲惨な現実を切り取ったなど定番の論評がいくつもあるが、ひとつ重要なことを忘れてもらっては困る。この本が証明したもうひとつの真実とは、サラ・チャンピオンも書いているように、クラブに夢中になっているようなバカは本など読まないだろうという、それまでの定説/偏見を覆したことだった。あの本はクラブ世代が読みまわし、ベストセラーにした。ゆえにアンダーワールドは(クラブ・カルチャーとは一見なんも関係のないように思える)映画の主題歌を担当しなければならなかった。

 ダンス・カルチャーは、昔はよくこう言われてきた。no lyrics, no messages, no faces, no poltics.....ゆえにロックよりも劣ると。そして『トレインスポッティング』以降、こうも言われるようになった。パンクでさえ取り締まりの対象にならなかったがレイヴ・カルチャーは法的に禁じられるほどのものとなった──と。
 そして“歌詞のない”、“フェイスレスで(スター不在の匿名的で)”“明確な政治的スタンスも持たない”ダンス・カルチャーに関する研究書は、ジャズやロックに劣らぬほど(いや、単体アーティストのファン・ブックを除けば、ヘタしたらそれ以上の研究の書が)刊行されている。まったく頭を使わないと思われた文化が、より知性を刺激する出版物を数多く出しているということは、じつに興味深い。
 レイヴ・カルチャーの歴史に関してはマシュー・コリンによる『Altered State』(1997)が名著として有名だが、サイモン・レイノルズの『Energy Flash』(1998)もよく知られるところで、まあ、後者には小難しい理屈を並べやがってという罵りもあるにはある。しなしながら、レイノルズよりもさらに小難しい理屈の徒=思想系であるKode 9が切り拓いたシーンのことを思えば、意地悪い雑言も小さく見えるだろう。日本ではいっときの流行のごとく誰も言わなくなったカルチュラル・スタディーズだが、ことUKに関して言えば、ポール・ギルロイ影響下のコドゥ・エシュンが『more brilliant than the sun』(1998)を出し、そして2000年代で言えば、カルチュラル・スタディーズ/フランス現代思想の流れを汲む故マーク・フィッシャーがダブステップ世代の哲学を繰り広げている(ベリアルを思想的に解釈したのはこの人である)。ちなみにゼロ年代のUKの大学生にかなりの影響を与えたフィッシャーは、『WIRE』誌の看板ライターとしても活躍し、その後音楽評論でも参照されることになる『Capitalist Realism』を2009年に発表している。上野俊哉の『アーバン・トライバル・スタディーズ』は、レイヴ・カルチャーをこうした思想系/文化研究/社会学のコンテクストにおいて読み解いた、日本では唯一の書物である(とくに日本のトランス・シーンに関しては詳述されている)。

 2005年に出版された同書が、今年の春に増補版として刊行されたのは、著者=上野センセ~がどこまで意識していたのかは不明であるが、タイミングとしては悪くない。2008年のゾンビー『Where Were U In '92?』が象徴的であったように(あるいはele-kingに上がったばかりのダブ・スクワッドのインタヴュー記事を読んでいただければわかるように)、あの時代のあの形態、ダンス・カルチャーから生まれたレイヴと呼ばれる文化運動形態(本書では“パーティ”と記されている)がいま見直されているのは事実だ。90年代を知らない若い世代のなかで、実際に新しいレイヴ・カルチャーが起きているのが現在なのである。(現代思想系を巻き込んでうねりをあげているこのあたりのUKでの展開は、7月14日刊行予定の紙エレキングの20号に掲載される高橋勇人の原稿を参照されたし)
 レイヴ・カルチャーというのは、90年代初頭にたとえばそれがストーンヘンジ・フェスティヴァルのような、60年代型対抗文化の流れと結びついたときに、紋切り型のポップの社会学をもって語られもしたが(ワタクシもそれをやってしまったことがあった)……、しかしこのいかがわしい文化は、そんなナイーヴな面構えをしていない。内面には無垢さばかりでなく、猥雑さも複雑に反射している。匿名的で、草の根的な大衆運動性をもってすれば、さらにまたどこかで爆発しかねないほどのポテンシャルはある。レイヴ経験者にはわかるだろう、何よりもそこにあるのは、圧倒的ないま/現在なのである。「批判と抵抗の場としての外部を」「日常生活それ自体の内部に」「含みこむことができる」、瞬間だ。そこにほのめかされる可能性──

 著者=上野センセ~は、『Altered State』を書いたマシュー・コリン同様に、このシーンへのあきれかえるほどの愛情があり、また、いまだに当事者であり続けている。年齢を考えると恐れ入る話だが、この増補版の長い序文には、匿名的なパーティ・ピープルのひとりであり、ダイナミックなダンサーであり、そして哲学好きの研究者である著者の経験/感覚/思考/感情が、ときにベンヤミンやアドルノ、粉川哲夫に立ち返りながら、ときにユーモアを込めて記述されている。ここ10年ほどの日本の政治運動についての著者の考察についても、ここぞとばかりに言葉を費やしている。もうひとつ。80年代のB級ニューエイジが高値で再発されている今日のニューエイジ・ブームには基本的に否定の立場であるぼくだが、上野センセ~のレイヴにおけるニューエイジ的なるものの再・再解釈には、シーンの細部も見渡せる立場の当事者ならではの大らかさ/注意深さがあり、かのクレオール主義者、今福龍太と共通する感性を見いだすこともできるかもしれない。が、しかしそうそう体よくまとめることができないのは、著者がいまもこのラディカルなレイヴ運動体の確実ないち部であるからだ。サッカーの試合中、選手は走りながら思考を働かせている。
 なんにせよ、本書においてもっとも重要なのは、たったいまもそれが起き続けているという感覚だ。物事をなにかと類型することで自己の論を振りかざすのが人の陥りがちなところだが、むしろ類型化しようにもできないもののなかにこそ契機を見いだすこと、それがこの20年著者が実践していること/ダンスし、思考に思考を重ねていることだと言えよう。本書はその成果であり、日本ではたった1冊の、過去の物語ではなく文字通りの意味で“アクチュアル”な、レイヴ(パーティ)文化研究の書なのである。

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