「W K」と一致するもの

ele-king vol.10 - ele-king

■アンチ・ギーク・ヒーローズ──神にならない神々

 新しいエレキングはすごいよ。何がって、おそらくこれから、この国の音楽シーンを面白いものにするであろう、"未来"を表紙にしているから。そいつらは、このハードな時代のリアリティを直視しながら、自分たちが好きな歌を生き生きと歌っている。いま世のなかが酷いことになっていようがどうだろうが、たったいま、この瞬間、この時代が連中(そして我々)の生きている時代なんだ。
 君も、ライヴハウスやクラブから聴こえる音に耳に傾けてみればわかるよ。20代前半の連中がいまやっていることが、いかに素晴らしい"未来"を感じさせるものなのか。ためしに彼らの言葉を読んで欲しい。若い連中はPCを万能の道具だとは思っていないし、ツイッターにも依存していない。酷い時代なりに、面白いことを探して楽しく生きている。自分の言いたいことを言っている。セシウムや風営法についても、虚無や生き方について。
 紙エレキングの『vol.10』。表紙は、福田哲丸(快速東京)と下津光史(踊ってばかりの国)。特集は「アンチ・ギーク・ヒーローズ──神にならない神々」。
 ◎インタヴュー:福田哲丸、下津光史、ジェイク・バグ、THE OTOGIBANASHI'S、ミツメ、Fla$hBackS、マヒトゥ・ザ・ピーポー、カタコト。

■ベッドルーム・チルアウト──最強の「部屋聴き」スタイル 2013

 小特集もある。今年の前半の洋楽で話題となったインクやライに代表されるチルなサウンド。最高にユルいチルアウト・ミュージック特集。名付けて「ベッドルーム・チルアウト」。世界中が注目する新作を控えたウォッシュト・アウトのロング・インタヴュー、夏がよく似合うニュージーランドのソウル・ジャズ・ダブ・バンド、ファット・フレディーズ・ドロップのインタヴュー。最強の「部屋聴き」をガイドする、部屋聴きディスク・ガイド40!

 ※他にも注目記事があるります!

■Sk8ightThing、ロング・インタヴュー
必読! 我らがヒーロー「スケシン」本紙初登場です!!! UKのゾンビーも虜にする、世界が注目する日本のストリート・ファッション界のカリスマ・デザイナー(生きる伝説級)が、相棒のトビー氏と共に音楽について熱く語る。本誌のための書き下ろしの作品もアリです。

■保坂和志×湯浅学「音楽談義 その1」
同世代人でもあるふたりの巨匠が、ビートルズとローリング・ストーンズの話を皮切りに、邦楽洋楽と音楽話に話を咲かせる! とくに保坂和志がここまで音楽について話したことはいままでなかった。

■これは便利! 購読者限定の電子書籍アクセスキー付き!
アナログ盤に付いているダウンロード・コードみたいなものですが、これがすごい機能。スマホ、PCですべて見れます。検索機能も付いています。通勤/通学中にお気軽にエレキングが読める!
恐縮ながら、今号、価格が100円上がっています。しかし、実際この電子版を見ていただければご理解いただけるはずです。電子版だけでも価値アリです。

■新連載もスタート!
web ele-kingでも大人気、UKカルチャーのご意見番・ブレイディみかこ&BL批評の最強刺客・金田淳子が登場します。

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そういうわけで、今号も、どうぞよろしくお願い申し上げます!!

(ele-king スタッフ一同より)

 今月の24日、結成20周年を祝する編集盤『ReDiscoVer. Best, Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter』のリリースを控えたバッファロー・ドーター、アルバムのなかでもとくに注目曲のひとつ(というか、最大の注目曲)、KAKATO (環ROY×鎮座DOPENESS) のラップを加えた"New Rock"のセッション風景の動画がアップされました。格好いいですよ。
 なにせスタジオは、エンジニアを担当するzAkのホームスタジオ"ST-ROBO"、ドラマーはZAZEN BOYSのメンバーであり、長年バッファロー・ドーターのライヴ・サポートをつとめている松下敦。どうぞ!

「 KAKATO Freestyle 3 with Buffalo Daughter」

interview with Seiho part.2 - ele-king

part.1から続く
interview with Seiho part.1- テクノ新世紀・立志編

Interviews

レコード聴くのとCD聴くのは、明らかに感覚が違うじゃないですか。それは理解してるんですけど、CDをiTunesに入れて聴くのと、CDをコンポで聴くのと、僕のなかでは違うんですよ。まったくおんなじデータのはずやのに。それに近いです。

セイホー君はガキの頃からネットに馴染んで、ナップスターも経験してている。音楽はカネで買うもんじゃないってことを最初に覚えてしまった世代かもしれないじゃない? それなのにレーベルやって、配信ではなく、CDというモノとして売るってさ......

セイホー:僕がお金を出して買っているものは、さっき言ったような〈12K〉とか、どっちかって言うと美術品として買ってるようなCDが多かったんですよね。それと、TSUTAYAに並んでるシングルCDとは明らかに違うじゃないですか。そこですかね。

ああ、そういう感覚って僕らの世代ではあんまりないけど、たしかにセイホー君ぐらいの世代から見たら、その辺の線引きがはっきりしちゃってるのかもな、って感じがするね。

セイホー:レコード聴くのとCD聴くのは、明らかに感覚が違うじゃないですか。それは理解してるんですけど、CDをiTunesに入れて聴くのと、CDをコンポで聴くのと、僕のなかでは違うんですよ。まったくおんなじデータのはずやのに。それに近いです。
 ほんとに感覚だけの話なんですけど。別にiTunesから出そうが、そのPCが繋がってるスピーカーは同じやし、これが読み取ってるだけなんですけど、それをコンポに入れてスピーカーで聴くのと、なんか違うんですよね。わかんないですけど。それと、パッケージを開けて聴く、その行為も含めて。

レーベルとしてとくに意識してること、作り手として意識してることってありますか?

セイホー:大阪も含め地方都市のイヴェントに行って思うのは、まあそれも対東京になっちゃうんですけど、東京は「チャラい」っていうジャンルでも細分化されてイヴェントがあるんですよ。「ひとりでどうにかせなあかん」ぐらいの感じなんですよね(笑)。僕らはどっちかって言うと、全員集めてどうにかせんとパーティとして完結できないっていうのがあって。だから、4つ打ちのビートをやってる子らも、ジュークやってる子らも、ヒップホップから来てビートやってる子らも、同じ場所に来てお披露目っていうかライヴをせんと、パーティとして成立しないっていうのがひとつです。
 もうひとつは、そんなガチャガチャやってるなかでお客さんが「今日はやっぱりジューク良かったなー」ってなると、ダンス・ミュージックをやってる子のBPMが上がっていくんですよね、やっぱり(笑)。そのなかで、135とかで作ってた子が、155ぐらいまで行ったときのジュークっていうのもまた、新しくて。それで違う進化をしていくというか。更新されていくところが楽しいなと。

PCがここまで普及したこんにちでは、家でユースト観たらいいやってやつも逆に増えてきちゃって。べつにクラブに行かなくてもいいや、っていう人もセイホー君の世代では多いじゃない? 

セイホー:うーんと、ひとつは、ユーストリーム観てて楽しいのはほんまにわかります、っていう。やっぱこう、再生数が上がっていく感じのテンションの上がり方っていうのは、ドミューンができる直前ぐらいにオカダダくん(註:関西拠点の、その界隈で人気のDJ)がクリスマスの日に自宅からぽっと放送したら、すごい数の再生になったんですよ。なんかもう、爆発しちゃって。べつに、なんとわなしにDJしてただけなんですけど。「寂しい夜にひとりでDJします」みたいな感じで。ツイッターが盛り上がってきたときと、ユーストリームができ出した頃やったんで、ドミューンができる前にバーンと再生数が増えて。
 ああいうのがあって、やっぱ面白いなっていうところと、けれども、さっき言ったジュークとかハドソン・モホークのトラックとかをヘッドフォンで聴いても面白くないですよね、みたいな。クラブのウーハーが鳴っているところでしか味わえないもの、僕のなかでは「アトラクション音楽」って呼んでるんですけど。

はははははは。

セイホー:アトラクションっぽい音楽ってやっぱあるんですよね、クラブ・ミュージックでは。

音を体感するっていうね。

セイホー:そうですね。だから3D映画は自宅でもいいけど、USJぐらいの規模になるとやっぱ行きたいな、みたいな。

なるほどね。橋元が観たのはゴールド・パンダのときだよね。

橋元:そうですね。

わりと最近、いろんなところに呼ばれてるでしょ? 〈ロウ・エンド・セオリー〉とか、そのゴールド・パンダ、あるいはソナーであるとか。やっぱ意識してるの? 壁を作らないようにというか、小宇宙化しないようにとか。

セイホー:僕はそうですね。僕はけっこう意識してます。

いまはDJが専門家化しているから、それが意外と難しいんだよね。

セイホー:そうですね。だからさっきの大阪の話で言うと、対応力だけはついてるんですよ。場数は踏んでて。たとえば全然知らんバンドの前座に呼ばれてみたいなときにどうするか、ってさんざん悩んだ挙句、編み出した方法とか(笑)。あと4つ打ちのパーティに呼ばれて、「こんなオシャレなとこで俺どうしたらええねん」みたいなときに編み出した手法とか。っていうので積み上げてきたものがあって、それをフルに生かしてる感じですね、いまは。

あと、なんでそんなにカセットが好きなの?

セイホー:カセット好きなのはさっき言ったのといっしょで、フェティッシュな部分っていうか、CDをコンポで聴くのといっしょで、カセット・ウォークマンで聴く行為そのものが好きで。で、〈リーヴィング・レコーズ〉がやっぱ好きやって、マシュー・デイヴィッドから〈リーヴィング〉のカセットを直接こっちに送ってもらったりしてて、カセットが好きやっただけですね。レーベルを立ち上げたちょうどぐらいのときに、〈リーヴィング〉をずっと聴いてたっていうのがありますね。

〈リーヴィング〉やマシューデイヴィッドって、日本ではストイックに受け止められてるフシがあるからさ。もっとイージーというか快楽的というか、いい意味でテキトーだと思うけど。

セイホー:そうなんですよ。雑多な音出すし、それこそカセットテープとかもチャチいしひずんでたりもするんですけど、でもそれが面白いなっていうか。ほかに〈ノン・プロジェクツ〉っていう、もうちょっとマイナーなレーベルなんですけど、そことかは......うちのマジカル・ミステイクがLA出身ニューヨーク育ち、で、いま日本で仕事してるんですよ。で、彼がアメリカ行ったときにカセットのレーベルからカセット買って来てくれたり。

音はめちゃくちゃデジタルなのに、そういうアナログ愛みたいなものがあったり、いろんなところで重層的に矛盾があるんだね。

セイホー:そうなんですよ! その矛盾をずっと話し合ってるんですけど、結果的によしとしようかってなってるんで。いろいろ話し合ってても、「あれ? さっき言ってた美的感覚とちょっとズレてない?」ってことがよくあるんですよ、僕らのなかで。

矛盾がないものなんてつまらないからね、ほんと。

セイホー:それはその瞬間に立ち会ったときに、どっちがカッコいいかを言えればいいか、ぐらいの(笑)。

(笑)じゃあその辺りも話し合うんだ。

セイホー:話し合いますね。それこそ美的感覚をきっちりしたいって言ってる連中もいるし、でもけっこう雑多な人間が集まってくるんで。

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フィジカルで僕がいちばん大事にしてるのは、アーティストの責任というか。バンドキャンプでデータで3枚4枚出してても、「うわーあれダサいなー」と思ったら消せるんですよ。でも、フィジカルで出しちゃうと残るんですよね。

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今回のアルバムのアートワーク。あれは外国人の女性?

セイホー:そうです。

アリエル・ピンク(笑)?

セイホー:(笑)でもあのジャケットは、僕のなかで言うタンブラー感というか。タンブラーであれが流れてきたらファボるな、みたいな。いいね! つけるな、みたいな。ちなみにあの人はフィンランドですね。北欧のほうですね。あの子も、PVを撮ろうって決めてスタジオを押さえてから、クラブいろいろ行って、ナンパしたんですよ(笑)。

ナンパして、「いいよ」って?

セイホー:1日だけ空けてもらって。

あのポーズとかも全部決めて?

セイホー:そうです。僕のなかでは"アイ・フィール・レイヴ"の映像も、断片的なGIF画像の積み重ねのなかのエモーションみたいな部分があって。短く印象的なものが積み重なって1本になってるみたいな。プラス、僕らのジャンルはユーチューブとかでああいう女性の写真とかとくっつけられてアップされまくるんですよ。

へえー。そうなの?

セイホー:僕もこの現象が何なのかよくわかんないんですけど、音源をエロい女の子の画像と合わせてアップされるんですよ。有名なサイトやったら〈マジェスティック〉とか、ユーチューブのサイトで。フォトグラファーの紹介でもあると思うんですよ、あの場所は。向こうのフォトグラファーとモデルといまの音楽っていうのを3つ同時に紹介する場所としてあって。だからまったく知らん女性のちょっとエロい写真と、〈マジェスティック〉のロゴと、自分らの曲がアップされてるんですよ。まあ、そこのサイトはフリー・ダウンロードの曲に限るんですけど。〈マジェスティック〉を運営してるやつらとも、いまはもう知り合いになって、フェイスブックとかでコミュニケーション取ったりするんですけど。向こうではそれはそれで一種のメディアになってるんですよね。〈マジェスティック〉さえ聴いといたら最近の音楽聴けるみたいな感じで、みんな〈マジェスティック〉から聴いてますね。

へえー。全然知らなかったよ。

セイホー:で、海外のアーティストはけっこう〈マジェスティック〉に嫌悪感があるらしくて、「〈マジェスティック〉に発表せんといてほしい」って感じなんですけど、僕は敢えて面白がってああいう感じのジャケットにしてるんですよ。だからタイトルの感じも、見てもらったらわかるんですけどユーチューブの動画まんまなんですよね。

デジタルな世界とリアルな世界を両立させるっていう。

セイホー:くっつけてるというか。とにかく、エロいっていうのが僕のなかでは重要ですね。

セイホー君は大雑把に言えばオタク世代だからさ、エロと言えばアニメじゃない? 日本のアニメって、あれがフランスで受けているのはエロだからだと思うし。

セイホー:そうなんですよ! そこは僕もあんまりわからない。僕はやっぱり、生身の女性が好きなんで。

しかもロリータだしな。

セイホー:そうなんですよ。わかんないですね、そこは。

橋元からはどう?

橋元:わたしが面白いなと思ったのは、お父さんとの関係が大きいのかなって。いまごろ音楽のモチーフで父が出てくることってあんまりないっていうか。

セイホー:でも僕のなかでも、おかんもデカいですよ。服は全部おかんのお下がりなんですよ。

えっ、それも!?

セイホー:これ、おかんのお下がりです。

お母さんすごくいいセンスしてるね! 

セイホー:最近、アルバムを見てたらおかんがこれ着てるの見つけて、「これどうなってるねん」みたいな(笑)。で、「押入れのなかにあるはずや」ってなって、実家帰って押入れのなかから探したら出てきたっていう(笑)。ここに僕を抱っこしたときのヨダレがついてるんですよね(笑)。

そうなんだ! 

セイホー:だからいまだにおかんとふたりで服買いに行きます、僕は。

橋元:なるほど、おかんですか。共有できる服をいっしょに買いにいくとか、母と息子の関係としてはわりと新しいですよね。一種のフェティシズムとして先ほど生身の肉体の女性の話も出てきましたが、そういうおかんからの連続性ってあるんですかね?

セイホー:そうですね。僕のアルバムの1曲目でランス(RHEIMS)って入ってるんですけど、それはベティーナ・ランスのことで。ベティーナ・ランスのマドンナとかを撮ってる写真って、その両面を持ってるんですよね。エロいんですけど、男だけがわかるエロじゃないエロさみたいな。そこにけっこうこだわって作りましたね。

ダンス・ミュージックはそこ重要だよね。セイホー君が赤ちゃんだった頃に比べて、情報社会っていうのはさらにカオティックになってるじゃない? 

セイホー:そうですね。さっき、CDをコンポで聴く話をしたじゃないですか。あれが僕のなかでいちばんやりたいことで。データのなかでももっともフィジカルに近いデータっていうものが僕らのなかであるんですよね。「もの」に近いデータっていうのがあるはずなんですよ(笑)。この感覚は、僕らのなかで話してても誰にも通じないんですけど、iTunesで買ったなかでも大事じゃないデータと大事なデータってあるじゃないですか。でも、おんなじはずなんですけど。でも、それが好きな曲か嫌いな曲かってことだけじゃなくて、フィジカルに近いデータっていうのがあるんじゃないかって僕のなかでは思ってて。

なるほどねー。

セイホー:で、その感覚っていうのを突き詰めたことをしたいなっていうのがいちばんにあります、いまは。難しいんですけどね(笑)。

セイホー君が「レイヴ」っていう言葉を使うときの「レイヴ」っていうのがさ、ダンスの「レイヴ」だけじゃなく、こんにちの情報社会のカオスのなかにおける「レイヴ」って感じだと思うんだよね。

セイホー:それはあります。

セカンド・サマー・オブ・ラヴみたいなああいう60年代ぽいものではなくて。カオスなんだけど、カオスとして受け入れたなかでのある種の祝祭空間みたいなものだから、すごくアッパーになってるのかなって。

セイホー:サンプリングができた頃からそういうような感覚があったのかもしれないですけど、たとえば808のカウベルが鳴るだけで、「はい、80年代っぽい」とか、1音のマイクロ・サンプリングのなかに文脈を感じられるっていうのをみんな持ってて。たとえば「このキックやったら、はい、誰々で」、「このキックやったら○○年代ぽくって」、みたいなものが、すごく複合的に頭のなかで処理できるスピードの勝負みたいなものが――。

すごいところで勝負してるんですね。

セイホー:それと、文脈をどう併せ持つか、というか。

インターネットと、セイホー君や〈デイ・トリッパー・レコード〉がどのようにして付き合っていくか、どんな考えがある?

セイホー:〈デイ・トリッパー〉は、この形態を続けようと思うんですよ。で、もしも変わるとしても、データ配信10本、20本して、10枚組のボックスめちゃくちゃ高いのを出すみたいなものになったりするのかな、って思ってるんですけど。まあでも、〈デイ・トリッパー〉は〈デイ・トリッパー〉で単純に場所なだけなんで。〈デイ・トリッパー〉としては、まあ〈ファクトリー・レコード〉みたいになりたいな、と。装丁がいまみても、やっぱ豪華やし。あんだけカネ使ったフィジカル出せる余裕っていうか......まあそれで潰れるんですけど(笑)。でもそれがおもろい、やっぱあれぐらいやりたいなっていう。
 フィジカルで僕がいちばん大事にしてるのは、アーティストの責任というか。バンドキャンプでデータで3枚4枚出してても、「うわーあれダサいなー」と思ったら消せるんですよ。でも、フィジカルで出しちゃうと残るんですよね。そこのケジメを踏むか踏まんかっていうので、ミュージシャンが進むか進まないかっていうのが僕のなかではけっこう大きくあって。同世代よりも下の世代にそれを踏ませたいっていうか。だからフィジカル・リリースに関しては、対お客さんに関してはどうでもいいことなんですけど、僕のなかではけっこう重要なことで。やっぱそこを踏んだアーティストと踏んでないアーティストは、僕のなかではライヴの質が違うような感じがするんですよ。

いまは、下手したら現在の音楽よりも過去の音楽のほうが売れる時代だと言われていて、新しい音楽をやってる立場としてはさ、いま起きてることにもうちょっと注目してほしいという気持ちはない? 

セイホー:僕のなかのさっきのバランスの話で言うと、僕らが直面してる問題として、1回きりの音楽が大量にあるんですよ。僕らの仲間で言うと。ツイッターで流れてきてサウンドクラウドで聴いて、しかも30秒ぐらいだけ聴いて、一生聴かれない音楽が山ほどあるわけじゃないですか。それと繰り返し聴けるアルバムが両方あったときに、僕らはどっちがいいか決められないんですよ。「明らかにこっちやろ」っていうのはないし、1回きりの音楽も、スリリングで魅力的なんですよ。一生出会えへんけど、ツイッターで流れてきたから聴いた音楽のスリリングさとか、アーティストもそれが誰かの耳に1回きりしか入らんことを前提に作ったスリリングなものへの魅力と、通して聴く作品の魅力と両方あるから、そこは何とも言えないですよね。

音楽が売れなくなった理由として、非合法のフリーダウンロードがあるからだって意見があるわけだけど、それに関してはどう思う?

セイホー:それはまったく関係ないですね、僕のなかでは。フリーダウンロードして良かったら、買うっていう(笑)。

俺も、そう思う。

セイホー:そうですよね。そこはあんま関係ないっていうのと、あと作り手も多くなってるし、聴き手も減ってはないと思うんですよ。だから分散されただけで、危機的な状況じゃ全然ないと思う。だからノイズとかやってる人らからしたら、状況はずっと変わらないんかな、みたいな。

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誰と会っても音楽の話しかしないですからね。まあ僕がかもしれないですけど。立ち呑み屋行って、まあ僕も1杯2杯なら飲むんで、5、600円だけ使って、飲んで出て、あとはファミレスでずっとコーラで音楽の話みたいな。

トーフビーツみたいな人はさ、無料配信した曲が後からパッケージして売れているわけで、ポップスのあり方を更新していると思うんだけど、セイホー君はそういうことは考えない? メインストリームに自分がどう絡んでいくかっていう。

セイホー:僕が相方とやってるシュガーズ・キャンペーン(Sugar's Campaign)は、けっこうメインストリームのバンドなんですよ。そっちはメインストリームに行きたいなと思うんですけど。

バンド?

セイホー:バンドっていうよりは......でもふたりともビート・メイカーなんですけど、ドラムとギターなんですよ。

ニューウェイヴ・ユニット?

セイホー:ふたりとも久保田利伸と山下達郎が好きなんで、そういう感じっす。AORみたいなバンドをやってて、そっちはスキマスイッチになりたいなと(笑)。

(笑)おおー。それは聴かせてほしかったね。

セイホー:ユーチューブで"ネトカノ"っていう曲を1曲だけアップしてます。アヴェック・アヴェックとふたりでやってます。

〈デイ・トリッパー〉としては、音楽的なコンセプトを曲げないまま、もうちょっと大多数にアピールするってことはすごく意識してる?

セイホー:意識はしてます。繰り返しになるけどバランスの話で言うと、僕のなかで譲れる部分は100パーセント譲りたいんですよ。音を作ってる上で譲れない部分はあるじゃないですか、絶対。それもあるけれども、どうでもいい部分もけっこうあって(笑)、たとえばツイッターでの発言とかも管理するレーベルは管理するらしいんですけど、そんなんはどうでもよくて。広がったらいいんちゃう、ぐらいの感じで。譲れる部分を100パーセント譲ることで、どうにかメインストリームに行けへんかな、みたいな。

ははははははは! やっぱ音楽性で行かないと、そこは(笑)。

セイホー:まあ音楽性の部分でも、譲れる部分はあって。「や、これ4つ打ちに変えてください」って言われたときに、その音楽が本質的に4つ打ちじゃないって思ったら譲れないですけど、これ4つ打ちでもいいなと思ったら、そこは譲るみたいな。たぶん音楽のなかで譲れる部分と譲れない部分があって、譲れる部分を多くの人に聴いてもらうっていう目標は確実にあります。自分の音楽性を変えないって目標よりも、多くの人に聴いてもらいたいってほうが優先されます。僕のなかでは。

じゃあ自分たちの上の世代の文化で、これは違和感があるっていうものはある?

セイホー:うわー、これはいっぱいありそうやなー。

はははは。遠慮しないで言っていいよ。

セイホー:でも、いちばん僕のなかで大きかったのはドラッグですね。さっき言ったアルコールお話もそうなんですけど、ものすごくクリーンなんですよね、僕らのまわりって。

橋元と同じだね!

橋元:いやー、ほんとに共感します。

ははははは! いま活動しているレーベルで、すごく気になるレーベルっていうと何になる?

セイホー:〈ラッキー・ミー〉ですかね。レーベルがやってることというより、〈ラッキー・ミー〉に関してはやっぱキャラですね。キャラが全員立ってるっていう。

ああー、そうだよね。

セイホー:あとはディプロの〈マッド・ディセント〉。そのふたつは憧れですね。

音楽以外では遊ばない?

セイホー:誰と会っても音楽の話しかしないですからね。まあ僕がかもしれないですけど。立ち呑み屋行って、まあ僕も1杯2杯なら飲むんで、5、600円だけ使って、飲んで出て、あとはファミレスでずっとコーラで音楽の話みたいな。

いや、素晴らしいですね。それは、うちらの世代も同じですよ。お金ないし、そんなに酒も飲めないしね、若い頃って。友だちと音楽の話してるのがいちばん楽しいもんね。

セイホー:たぶん僕らのなかでは、遊びのフィールドそのものが拡張されてて、「インスタグラム」のおもしろ写真とか、ツイッターのおもしろワードとかがそこに置き換わってるのかもしれないです。より面白い写真撮ってきたもん勝ちのフィールドで、世界を相手に戦うみたいな(笑)。

Day Tripper Records Discography

文:Redcompass
コンピレーション企画"FOGPAK"主宰。 魔術とおばけをキーワードとした選曲で、DJにはiPadを使用する。フリーフォークからはじまり、アブストラクト・ヒップホップやIDMなどを経由、そしてチルウェイヴの海に漕ぎ出す。 その後の消息は不明。曲の買いすぎで瀕死になることもしばしば。 甘いもの全般とコーラが大好き。健康診断は苦手。
https://fogpak.bandcamp.com/ 

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Seiho - MERCURY (DTR-001)
Seihoの第一作目のアルバムであり、〈Day Tripper Records〉の第一弾のリリースでもある本作は、まさに関西のもうひとつの「水星」ともいえよう。マーキュリーという名前の元となったメルクリウスという神は、商業や旅人の守り神であり、まさに「デイトリッパー」の門出に相応しいアルバム名である。収録曲には全体を通して"濡れた"空気感があり、鍾乳洞や湖面などの水辺を連想させる。内側にたたずむ山羊のアートワークも象徴的で、"No Space... No Time..."には今の作風にも通じるものを感じる。

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mfp - Mindful Beats Vol.2 (DTR-002)
前作『Mindful Beats Vol.1』は〈OILWORKS〉より、Ichiro_とのスプリットとして発売されたが、今作のVol.2は〈Day Tripper Records〉からのリリースとなった。サンプリングを駆使した多面鏡のようなきらびやかなビーツが印象的だ。かすれたテープのようなシンセに存在感のあるベースが蛇のようにうごめき、複雑な動きのドラムがそれを刻み、脳をほどよく刺激してくれる。

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And Vice Versa - E.Tender (DTR-003)
一概にどのようなジャンルといえばいいのか難しいが、エレクトロニック寄りのBibioといった印象だ。瞬間瞬間で放たれるマイクログルーブが心地良く、一発一発のキックと後を引いていくベースラインが、水平線上に浮き上がる波のうねりのように視界に現れる。低音の圧や処理が都市のような整然さを持つのに対して、メロディを構成するサンプルにはアコースティックギターや巻き戻したような声が使われており、それらが不思議と調和しているのがなんとも面白く、魅力的に感じられる。たとえるなら、終電の地下鉄の中で故郷の星空を思い出す時のような。

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Leggysalad - Verda Planedeto (DTR-004)
第四弾のリリースとなった「緑の惑星」という名前をもつこのアルバムは、fhánaとしての活動でも知られるkevin mitsunagaによるソロプロジェクト、Leggysaladの作品だ。〈Day Tripper Records〉からのこれまでのリリースの中で、最も強く「昼」を意識させるアルバムである。ギター、ドラム、ヴォーカル、使われているありとあらゆる音とその結びつきが、太陽に照らされた新緑のような爽やかな心地良さを描き出している。metomeとLASTorderによる特典リミックスも素晴らしい。

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Magical Mistakes - Everything Uncertain (DTR-005)
海外から日本に移り住み、大阪のエレクトロニックシーンに立つErik Luebsによるソロ・プロジェクト。ポスト・ロックの影響下にある生音を用いた独特のビートミュージックを奏でる。メロディの音色には「哀愁」のようなものがあり、それは昔のRPGの海沿いの村のような空気を感じさせる。ジャケット光るキノコの灯台だが、パッケージを開くと内側には日没(あるいは日の出)のアートワークが姿を表す。それを踏まえて考えると、輝く盤面がまるで太陽のようにもみえ、まわる1日、そして過ぎていく日々の時間を意識させてくれる。

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Ogiyy - Duality (DTR-006)
第六弾のリリースとなるこのアルバムは、ヒップホップの影響を受けた良質なシティービーツだ。本作においてもっとも注目すべきトラックは2曲目のYadosu Kono Toki (feat. Nadsroic)だろう。NadsroicはHudson Mohawkeにも曲提供を受けている女性ラッパーだが、実は日本に板敷もあるそうだ。街を遠目にながめる川を月のゆりかごがゆっくりとしたBPMで流れていく、その川はやがて海へと繋がりどこか遠くの岸辺にたどり着き、やがて誰かの手に渡る。果てなき旅路への一歩を表す作品だ。

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DEATH FLAMINGO into the Memai - fictional pop (DTR-007)
まず断りを入れさせてもらうと、実はこのアルバムには本人たちによる曲解説があるので、ぜひネットの荒野を探していただきたい。ここでは私が感じたことを書かせていただく。ブロークンなビートにありとあらゆるジャンルから引っ張ってきた要素を絡みつかせており、ピンボールの針という針に片っぱしから色とりどりの紐を巻きつけて遊んでいるような音楽だ。普通の遊び方に飽きた人が、色々と工夫して自分なりのやり方を見つけるような、そういう面白さを感じる。この緻密なアートワークも自作というこだわりである。

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Madegg - Kiko (DTR-009)
彼の音楽が語られるとき、その年齢の若さが引き合いに出されることも多いが、彼が何歳であるかなど関係なく、この作品は本当に素晴らしいと思える。インディー・ロック、フリーク・フォーク、ローファイなどといった音の質感のもっとも良いところを"参考"にして構成されており、サンプリングではなく、音という文字を作るところからはじめ、曲という文を書き連ね、それを綴った本がこのアルバムだ。本作にはFour Tetの影響も感じられるが、私には既にそれを超えているように感じる。青は藍よりいでて藍より青しという言葉があるが、まさにその通りであると。

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Seiho - ABSTRAKTSEX (DTR-01-)
そして、今回リリースされたSeihoの2枚目のアルバム、"ABSTRAKTSEX"は、これまで彼が聴いてきた音楽の道標であり、さらにそれらを吸収して構築した"これから"でもある。同時に、彼が率いるDay Tripper Recordsに所属する全てのアーティストのエッセンスが組み込まれているようにも感じる。特に、4曲目の"Diamond Cloth"には同レーベルからカセットをリリースしているEadomnnの気配がある。このアルバムには「これがDAY TRIPPER RECORDSだ!」という彼からの強いメッセージがあるのではないだろうか。内側のアートワークに書きこまれた"「ヴァーチャル・リアリティと柔らかな肌」という"文面には、彼がこのレーベルを設立した存在意義の全てを象徴している。(そして、この内側の文面は他のリリースと異なり、ネット上では閲覧することができない! まさに、手に取り開封して初めて出会うことのできる体験である!!)そうこれは、リアルとネットを繋ぐ、まさに「アブストラクト・セックス」なのである。

DJ Purple Image - ele-king

 疑う余地もなく今月もっともホットなLAからの2リリースが到着。

 会うたびにいろんな意味で目ツキがヤバくなっている気がしなくもないアレックス・グレイ(Alex Grey)はLAのアンビエント・ハウス(紙ele-king参照)の住人のなかでもっともお調子者キャラを炸裂させている。彼もプレイするサン・アロー・バンド(Sun Araw Band)でお馴染みのキャメロン・スタローンズ(Cameron Stallones)のニタニタ笑い、猫背、マシンガン・トークも強烈だがアレックスのヘラヘラ笑い、常時ハイテンション、マシンガン・トークも強烈である。サン・アローはサウンドのみならずクレイジーなバンドであると断言しよう。
 アレックスほど数々の名義で活動するアーティストも珍しい。三田氏が大絶賛する彼の最新プロジェクト、DJパープル・イメージはフィールド・レコーディング、サンプリング、ソフトウェア・シンセジスをコラージュする実験音楽だ。ディープ・マジック(Deep Magic)のオーガニック・アンビエント、ヒート・ウェーヴ(Heat Wave)での妙チクリンなヒップホップ・トラックにも共通する彼の作風、潔く迷いが無いシンプルな構成はDPIにおいてもっとも輝きを放っている気がしてならないのだ。
 同居人であるショーン・マッカンやマシュー・サリヴァンたちの影響によるミュージック・コンクレートへの傾倒がDPIの動機になったであろうことは明らかであり、ゆえに僕はクリエイティヴ・コミューンの素晴らしさを見いだしてしまうのだ。
 でもエスプレッソ・ディジタルって......。

 そもそもアレックスやキャメロンのサン・アロー、キャメロンとゲドのダピー・ガン、マシューデイヴィッドやディーバたちに強く結ばれる熱きLA愛は地元に広く受け入れられているようだ。〈ダブラブ〉と〈ロー・エンド〉、それからストーンズ・スローも巻き込み、拡大を続けている。僕には彼らの音楽遍歴において何度めかの大きな波が押し寄せていることを確信している。

 マシューデイヴィッドの、彼自身の〈リーヴィング〉からひさびさのリリースとなる(『Disk II』以来?)は43分の長編アンビエント。
 はっきり言おう。これは大作である。同じく完全なアンビエント作品であったエクヘインからのデスティンでのダークな世界観とは真逆の、終始多幸感に満ち満ちたメディカル・ウィード級ストーナビエント。ディーヴァ(元ポカホーンテッド)との昨年の素晴らしいセッションも収録。ビートメイカー、マシューとしても学生時代以来のラップを復活させネクスト・レヴェルに達したと同様、彼のアンビエント・サイドも新たな空間を得たようだ。木陰の下にハンモック、強烈なジョイントの煙の先にかくも遅く、美しい時間が流れてゆく......。

Tungsten fuse - ele-king

 1984年生まれの新進気鋭、三宅唱が監督した35ミリのモノクローム、映画『Playback』と、stillichimiyaのMMMが監督した田我流とEVISBEATSのメロウ・アンセム"ゆれる"のミュージック・ヴィデオが、いずれも2011年の6月ごろに、つまりあの震災の発生からそう間を置かないタイミングで撮影されているというのは、偶然とはいえ興味深い、そして重要な事実だと思う。
 当時、いまだ収まることを知らない余震が、非・被災圏に残された平穏を脅かしつつも、どうしたって心のどこかではその回復を覚悟するほかなかった、あの日常という怪物の足音を遠くに感じながら、しかし彼らは堂々と日常を、そしてその総和である「人生」を描いている。そう、震災のわずか数ヶ月後に。少なくとも、前もって計画されていたそれらの撮影を、彼らはそのまま決行した。あるいは、それを取り戻すために。
 MMMは、「何も起こらない一日」のなかで揺れるひとりのラッパーを。三宅唱は、「ありえたかもしれないもうひとつの人生」という深い溝に落ちたひとりの俳優を、撮った。ラッパーは「揺れる」という深く傷ついた言葉をあえて拾い、俳優は地震で砕かれたアスファルトの上でスケートボードを蹴る。そこには、他者の苦痛へのまなざしが挿入されながらも、いま引き受けなければならない己の人生への普遍的な問いがあった。

 では、2013年、僕らはどんな歌に、音楽に、映像に出会うのだろうか。

 タングステン・ヒューズは、あの震災になにか巨大な影響を受けたことを認めながら、しかし実際的にはなんら致死的な影響を被ることなく続く自らの人生に潜り、さらにはリスナーの人生に――それが言い過ぎなら、何かしらの決断の前のちょっとした感情の揺れに――少しでも音楽の、そして言葉の波紋を届けようとしているように思える(歌詞カードは言葉で溢れ返っている)。
 それがポップの普遍性なのか、はたまたある種の不感症なのかは、聴いた人がそれぞれ判断すればいい。だが例えば、バレアリックな美しい光沢のなかで夢の終わりを歌う"ストレリチア"のような曲が、ともすれば野暮ったくなりそうな過量の言葉を擁しつつも(それはラップとポエトリーリーディングの交差点から発せられる、とてもフラットなフロウで)、シンセを纏ったダンス・ビートがその光沢を失わないとすれば、そこにいま、人生を歌うことの後ろめたさが感じられるからだろう。
 彼ら自身も、おそらくは分かっているのだ。もっと大きな物事にコメントする選択だって、あり得るのだということを。そしてそれが、いま、絶好のフックになるということも。

 タングステン・ヒューズは、しかし、それでも内に向かう。社会の存在は言葉の枠外に留保されたまま。偽悪的に言うなら、随所に登場する「闇」や「光」といったごく一般的で、抽象的な語彙が、リスナーの内にめり込んでいくような暴力的なまでの重量を得ているかと言えば、そこに疑問符を付されるのを完全には免れないだろう。だが、震災そのものではなく、その何かしらの反映を人間のなかに見出そうとするような言葉の捜索は、自身らのキャリアに対する誠実さの賜物なのだと思う。
 ドラスティックな変化を施したのはむしろトラックの方で、これまでのノイジーなミニマル・ロックのプロダクションはほぼ全面的に撤回され、マシン・ビートと電子音で滑らかにシンセサイズドされている。それは何かを我慢するように、整然と鳴っている。(彼ら自身はポスト・ロックを標榜しているようだが、媒体によっては「ラウド/パンク」とか「ブレイクビーツ/テクノ」とか「アンビエント・パンク」などと称されており、すでにその枠は無効だろう。)
 僕は互いに喧嘩し合うような、どうにも相反する複数の立場が混在している表現が好きだが、藤原伸哉の作るトラックと西垣朗太の発する言葉がいい意味で掛け違いになっているところにこのデュオのポテンシャルがある気がする。前述の"ストレリチア"や、"100匹目の猿"といった曲の透明度の高いダンス・トラックは、それらのギャップをさらに広く取ることに成功していると思う。

 だが......いや、だからこそ、先に述べたような語彙の細かい選択が、個人的には惜しい。ストレリチアの花言葉は「輝かしい未来」らしいが、文学的なスペーシングよりは、リスナーの平常心とぶつかり合うような、一線を踏み越えた緊張度の高い言葉を聞きたかった。向光性の精神は頼もしいが、シリアスな物言いがメランコリックな雰囲気のなかで差し出されると、僕はやはり身構えてしまう。きっとこのデュオはもっと美しく壊れられる。

SGROOVE SMOOVE (SPECTA / FLOWER RECORDS) - ele-king

DJスケジュール
7月5日(金) URABANITE @ 頭バー
7月13日(土),音音(NEON) @ CREAM (熊本)
7月20日(土),NOUVEAU @ CLUB BALL
FACEBOOK
https://www.facebook.com/suguru.miyazaki.9

7月に聞きたい雑多な大人HOUSE10曲


1
The Secret Life Of Us - Feat Donna Gardier & Diane Charlemagne(Director's Cut Signature MIx) - The Sunburst Band

2
My Moody Life(Original Mix) - Kerri Chandler - Suss

3
Fantom Finger - Masanori Ikeda - Flower Records

4
Warm(Original Mix) - Loaded Dice - Defected

5
Choice(Original Full Version) - Specta - Flower Records

6
The Ride(Original Mix) - Lovebirds - Knee Deep Recordings

7
Sugar(Joey Negro Mix) - Roy Ayers - Rapster Records

8
Your Body(Louie Vega EOL Mix) - Josh Milan - Honeycomb Music

9
Talia Feat Stering Ensemble(Main Mix) - Sterling Ensemble,Aaron Ross - Restless Soul Music House

10
Love Love Love(Main12) - Those Guys - Basement Boys Records

DJ Yogurt (Upset Recordings) - ele-king

2013年前半に自分がクラブなどで頻繁にDJ PlayしたTechnoやTech House系の12inchレコード収録曲を10曲選びました。ダンスフロアを熱くした記憶が生々しい曲ばかり。毎週レコード店に行き、計100枚前後の新譜を数時間かけて聴き、その中から選んで購入しています。

HP : https://www.djyogurt.com/
Twitter : https://twitter.com/YOGURTFROMUPSET
Facebook : https://www.facebook.com/djyogurtofficial

DJ Schedule
7/5(Fri.) @中目黒・Solfa
7/6(Sat.) @福島・会津Birdland
7/14(Sun.) @渋谷・AMRAX
7/16(Tue.) @腰越海岸・KURA
7/19(Fri.) @渋谷・SECO
7/27(Sat.) @名古屋・VIO
7/28(Sun.) @岡崎・Ragslow

8/9(Fri.) @原宿・Bonobo
8/10(Sat.) @渋谷・AMRAX
8/13(Mon.) @千葉・中滝アートヴィレッジ
8/16(Fri.) @吉祥寺・Cheeky
8/17(Sat.) @青山・Oath
8/23(Fri.) @沖縄・コザ・音洞
8/24(Sat.) @沖縄・那覇・Loveball
8/31(Sat.) @山梨・野外・Sense Of Wonder

9/6(Fri.) @徳島・Barチャラパルタ
9/7(Sat.) @高知
9/14(Fri.) @松本・りんご音楽祭
9/22(Sun.) @長野・東御市・湯ノ丸高原スキー場
9/28(Sat.) @江の島
9/29(Sun.) @渋谷・カフェアプレミディ

2013/06


1
Par Grindvik - Biome - Stockholm:Limited
https://www.youtube.com/watch?v=RLFhA_i5uL8

2
Casbah 73 - Ain't No Sunshine (Casbah 73 Rework) - KAT
https://soundcloud.com/kat-records/casbah-73-edits-low-bit

3
Ben Sims - Love and Hurt (Gary Beck Remix) - Hardgroove

4
Yotam Avni - A Song For Danny (Orlando Voorn Remix) - Soul Research
https://youtu.be/E61YKdJzOw0

5
Sycorax - The Pond - New Jersey
https://youtu.be/JV8PBO1_HQw

6
Teersom - Orb - Keys of Life
https://youtu.be/IM-Q5IaLs0Y

7
Cab Drivers - Beatnight 77 - Cab Drivers

8
Mathy K. & The Funky Punch - Ohh. K! (Live In New York) - 2DIY
https://youtu.be/5sAX2o4i7xg

9
Italoboyz feat. Blind Minded - Sti Drumsy - Superfiction
https://youtu.be/5zvzc1v5dKc

10
YO&KO - Power To The People(126Bpm No Break Version) - Yo&Ko

interview with Savages - ele-king

目を覚ましたとき、男の顔が見えた
誰だかしらないけど、その人には目がなかった
彼の存在は心地の悪いものだった
彼の存在は、なんだか心地が悪かった
"ハズバンズ"


Savages
Silence Yourself

Matador/ホステス

Review Amazon iTunes

 取材した人に、「どんな話が盛り上がった?」と探りを入れたところ、「とにかくジョイ・ディヴィジョンについて訊いちゃダメ」と言われたが、さきほどgoogleに日本語で「サヴェージズ」と入れたら、「ジョイ・ディヴィジョンと比較される」という枕詞がだーーーーーと出てきた。
 サヴェージズに関しては、このreviewを読んで下さい。『サイレンス・ユアセルフ』が今年上半期のベストな1枚なのは間違いないし、以下の取材でも話題に出ている"ハズバンズ"は、最高のパンク・ソングの1曲。
 この勇ましい熱が日本にどこまで伝播するか楽しみだ。答えてくれたのはジェニー・ベス、バンドのヴォーカリストである。

年上の女性が年下の女性を支配しようとしているのよね。それが見ててとても印象的でね。そして"シャット・アップ"っていう曲でも新しい世代の誕生のことにういて歌っていたわけ。それは若い世代が知らず知らずいろんなことから制限されているっていうアイディアが埋め込まれているの。

サヴェージズはどのようにはじまったんですか? みなさんそれ以前から活動していますよね。

ジェニー・べス(JB):そうよ。このバンドを組む前からみんなミュージシャンだったの。私はジョニー・ホスタイルとジョン・アンド・ジェンっていうバンドをやっていたし、ジェマ(サヴェージズのギタリスト)もその頃一緒にプレイしてくれてた。ジェマとアイセ(ベース)はその前から一緒にバンドを組んでいたことがあったの。みんなロンドンでそれぞれのプロジェクトをやっていたってこと。ジェマはまたアイセとバンドをしたいと思っていて、サヴェージズのコンセプトを持っていたの。そこに私が入って、フェイ(ドラム)を見つけたの。すごく自然な感じだったわ。

音楽にのめり込んだ経緯について教えて下さい。最初に夢中になった音楽、バンドをやるきっかけになったようなこととか、音楽に何を感じて、見出して自分でも表現しようと思ったのかなど。

JB:私が真剣に音楽を作り始めたのはジョニー・ホスタイルに会ってから。だから7、8年前かな。その前はあまりシリアスには音楽を作っていなかったの。ジョン・アンド・ジェンをやりはじめていろいろ学んでいったんだと思う。本当にゼロから積み上げていったわ。ロンドンに引っ越して、良いライヴもクソみたいなライヴもやって、アルバムを2枚リリースしたのが私にとってとても貴重な経験になったの。

サヴェージズというバンド名は、ウィリアム・ゴールディングの小説『蝿の王』(Lord of the Flies)に出てくる蛮族(Savage)取ったと聞きました。アイロニカルで、ディストピックなネーミングを選んだのは何故でしょう?

JB:その本だけじゃなく、色んな文学から影響されたんだと思う。バンド名はジェマが思いついたの。あの頃彼女はJG・バラードやフィリップ・ K ・ディックのディストピック(暗黒郷的)なサイ・ファイ小説を読んでいたの。そこで『蝿の王』や、それ以外のさまざまな文学と出会ったんだと思うわ。彼女が求めていた意味合いは、人間はみんな進化を経ても、野蛮な面をいまだ持ち続けているということ。それはふとした瞬間に露になるもの──そういったアイディアを伝えていきかったの。サヴェージズのサウンドが生まれる前に、もう名前とそのコンセプトは生み出されていたわ。

女性だけでバンドを組むことは、サヴェージズにとって重要なコンセプトですか?

JB:もともとそういうアイディアがあったわけじゃなくてね。ガールズ・バンドを組もう、と言ってたわけじゃないの。ジェマははじめ、男のヴォーカルが頭にあったの。でも私がアイサとジェマと曲を書きはじめてから、女性ドラマーでバンド構成を完成させようと決めたんだ。

サウンド面でどんなところに気を遣っているのでしょう? 

JB:正しくは、「集中している」よ。えーと、次の質問。

アンディ・ストットやブラッケスト・エヴァー・ブラックには共感がありますか? "Dead Nature"のような曲からは似た感覚を感じたので。

JB:聴いたことないわ。聴いてみたいわ! その曲はスタジオにつるしてあったギターで書いた曲で、その様子は動画にも収めてあるの。けっこう面白いわよ。だからスタジオにつるしてあるギターがいろんなエフェクトやループをしててね。そしてメンバーがそれぞれ入ってきて、いろんな叩き方をしたりしてね。だから死んだ動物がスタジオにつるされていて、それが変な音を生み出しているイメージが湧いてきたの。だから"デッド・ネイチャー"って名付けたの。

デビュー曲の"Flying To Berlin"はベルリンのどんなことについて歌っているのですか?

JB:それは飛行機でベルリンへ向かっていたとき書いた曲なの。飛ぶことに対しての恐怖、死に対しての恐怖、そういったことについてかな。もし飛行機に乗っているとき何かあったら、即死するわ。最後に思うことは何?その瞬間何を思う? ベルリンに向かっていた時、そんなことを考えていた。ベルリンではもう何回か演奏していて、とても魅力的な場所だと思っているの。観客も最高だし、いつもプレイしにいくのが楽しみなの。

アルバムの冒頭の「How old are you?」という言葉が実に印象的ですが、この言葉からはじめた理由を教えて下さい。

JB:それはジョン・カサヴェテスが監督だした映画、『オープニング・ナイト』から引用したものなの。もともとジョニー・ホスタイルが考え付いたもので、ぴったりだったのね。ジョン・カサベテスには多大なる影響を受けているの。彼の作品はもちろんのこと、彼がハリウッドの端っこでインディペンデントに働き続ける意志を持っていたのはとても尊敬するわ。彼の自由奔放な取り組み方、そして彼の映画がとても意味深いものであることはそれが真実だから。どうでもいいことを言って、くだらないものを作っていないのよ。
 このシーンは特にいいの。年上の女性と年下の女性とのあいだの会話中のもので、年上の女性が年下の女性を支配しようとしているのよね。それが見ててとても印象的でね。そして"シャット・アップ"っていう曲でも新しい世代の誕生のことにういて歌っていたわけ。それは若い世代が知らず知らずいろんなことから制限されているっていうアイディアが埋め込まれているの。そこに繋がるのよね。だから彼女は"How old are you?(あなたはいくつ?)"と尋ねてるの。

『サイレンス・ユアセルフ』という題名が興味深いのですが、なぜ「Silence」という言葉が出てきたのでしょう。

JB:映画からとったセリフなの。タイトルの意味が知りたかったら、アルバムの冒頭にあるイントロダクションを読むことをおすすめするわ。そこに全部記されてるの。

日本の現在を言い当てているような、「街は女々しく可愛い愛でいっぱい(city's full of sissy pretty love)」という言葉は何を指しているんでしょう? 

JB:あまりはっきりとした説明はあげたくないの。個人の思いを持って聴いて欲しいし、そうすることが素敵だと思うから。だけど言うとすれば、自分のことを知ろうとせず、何が自分に合ってるか、自分が何に対して喜びを感じるか、自然に自分がそう感じられるものは何か、そしてそれらをちゃんと選べているか。とくに若い人はそれがわかっていない気がして、残念だわ。愛は簡単じゃないっていうことは残念なこと。

"No Face"で歌われているのは、インターネット社会にへの苛立ちでしょう?

JB:全然関係ないわ。だけどそのアイディアは好きよ。そういう意味合いは含んでいないけど、興味深いと思うわ(笑)。

"Husbands"のような曲を歌うと、やはり女性は喜ぶのでしょうか?

JB:そんなことないわ! 女性に限らずみんなに聴いてもらいたい! ロスで演奏したときに、ゲイのカップルふたりが前列にいて、"Husbands" のコーラスを顔を合わせながら一緒に歌っていて、キスしはじめたの。その瞬間気づいたの。彼らにはこの曲は意味があるものだってね。だって彼らはお互いの"Husband"なんだもの。だからとくに誰かにあてた曲じゃないし、私たちの曲はどれもとくに性別ごとにあてられてるものじゃない。それに意味を感じないから。それは違うでしょ(笑)。

同世代のバンドで共感しているバンドやシンガーがいたら、教えて下さい。

JB:ジョニー・ホスタイルが私たちの7月の米ツアーのサポート・アクトよ。あとは私たちのアルバムのギターを担当してくれたデューク・ガーウッド。彼はとても面白いアヴァンギャルド・ブルース・ミュージシャン。あとは日本のバンド、Bo-Ningen。私たち一緒に曲を書いたの。できれば日本で7月か、年の後半に披露しようと思うわ。曲名は"Words To The Blind"で、ドラマ―ふたり、ギター3人、ベースふたり、そしてヴォーカルふたりで演奏する予定よ。ダダイストのアイディアに基づいているもので、同時に語られる詩とバンド同士の戦いについて書いたの。私たちを成長させてくれた曲だったから、とても面白かったわ。

セックス・ピストルズでいちばん好きな曲はなんですか?

JB:セックス・ピストルズが好きかって? けっこうな歳よね? わからないわ。実はつい最近ジョン・ライドンの自伝を読んで、それは興味深いと思ったけどね。

寺尾紗穂 - ele-king

 寺尾紗穂からは、どこからしら不機嫌さを感じる。僕には、そこが良い。彼女の気高い音楽の背後には、この社会に対するやり切れない思い、憤りが隠れているのだろう。音楽的に言えばピアノ弾き語りの、目新しさのない、オーソドックスな、真っ当なSSWだ。この人の内面にある言葉は、荒れ狂う波のように思えるときがある。わかりやすい音楽スタイルによってある種の制約でも与えない限り、放っておいたら何を言い出すかわからない、だからなんじゃないだろうか。理性的でいるためにも。
 この夜、東京はどしゃぶりの雨だった。靴下が濡れているのもよくわかる。クアトロに到着すると、テニス・コーツがライヴをやっていた。ライヴの最後に寺尾紗穂も加わって、セッションがあった。
 寺尾紗穂のライヴは、新曲が中心だった。吉田美奈子のカヴァーをテニス・コーツと一緒にやった。ステージの上の彼女は堂々としたもので、何かもう風格すら感じられた。曲間の喋りで、ケプラーの楕円宇宙について話した。そして、楕円を美しいと言った、花田清輝についても触れた。ライヴ中の、自己言及的なMCは、たいていは、息抜きかかけ声か、ファンの気持ちを満足させるためのリップ・サーヴィスみたいなものだが、彼女は、大きな謎かけをする。それにしてもこんなところで花田の名前が......と嬉しい驚きだ。
 そればかりではなかった。ライヴの最後には、彼女は、ホームレス支援の『ビッグイシュー』を応援している「りんりんふぇす」なるイヴェントをやっているそうで、『ビッグイシュー』を通じて知り合った4人のおじさんによるダンサー・チーム、ソケリッサを紹介した。80年代のエルヴィス・コステロのように、生活保護のおじさんについて歌い、生活保護のおじさんたちはステージや客席で踊った。フェリーニの映画のようだった。甘く優しい歌声のコンサートの夜は唐突に、大転換される。テニス・コーツのふたりも出てきて、サーカス団のようになった。ホワット・ザ・ファック・イズ・ゴーイング・オオオオオオーン? 
 昨年、クアトロでのライヴを見たときも、寺尾紗穂は井の頭公園で歌っているおじさんを舞台に上げていたが、彼女が何を訴えたいのかは言わずもがなだろう。人はそこにいるのだ、あなたと同じように。日中の渋谷の大通りの交差点でバイクが横転した。人が倒れて動けないでいる。が、信号が変われば何台もの車はその人を通過する。道路のど真ん中だが、目に入ってこない。

 数日後、写真家の小原泰広と会った。「そういえば、寺尾さんのライヴに行ったんですけど......」「え、小原君、いたの!?」「いや、素晴らしかったですね」「いや、ホントにね」、本当に素晴らしかった。寺尾紗穂は次作でどんな楕円を見せるのだろうね。しかし僕はただ、彼女がいままでのように作品を作り、不機嫌さを秘めながら、孤独なピアノの、甘く切ない歌を歌ってくれれば良いのだ。

「ギリシア人は単純な調和を愛したから、円をうつくしいと感じたでもあろうが、矛盾しているにも拘わらず調和している、楕円の複雑な調和のほうが、我々にとっては、いっそう、うつくしい筈ではなかろうか」花田清輝

The Knife - ele-king

 レオス・カラックス監督の13年ぶりとなる長編作品『ホーリー・モーターズ』(2012)で、主人公のオスカー(ドニ・ラヴァン)は厳密な時間管理のもと、リムジンの車内で衣装やメイクによって自身を作り変え、異なる人生を次々と演じていく。この映画の始点には、「自分自身でいることの疲労、自分自身であり続けることの疲れ」と「新たに自分を作り出す必要」というふたつの感情があったことを、カラックスは明らかにしている(https://www.outsideintokyo.jp/j/interview/leoscarax/index.html)。そしてまた、映画監督としての自分、あるいは夫や父としての自分など、相手や置かれた立場によって役割を演じ変えることについても語っている。「それらは人生の演技の一部なのだと思います。しかしそうした演技を止めたとき、いちばん疲労感を持つのではないかと思うのです。映画なのか恋愛なのか分かりませんが、どこかそこに行けば、自分自身が何なのかを見つけることができるとされている場所があるはずです。ですからすべての人々がこのように演技をしているときと、そして自分自身が誰なのかを知ろうと努力をしているときとの間を、旅しつづけているのではないでしょうか」。オスカーが思春期の娘を持つ父を演じるシーンにおいて、彼が娘に言い放つ「お前の罰は、お前がお前自身として生きることだ」という台詞は、カラックスのアイデンティティに対するそういった複雑な感情が書かせたものだろう。そしてこの台詞は、『ホーリー・モーターズ』の核心のひとつに迫っている、非常に重要な言葉でもある。

 スウェーデン、ストックホルム出身のカリン・ドレイヤーとオラフ・ドレイヤーの姉弟からなるエレクトロ・デュオ、ザ・ナイフも、「アイデンティティ」というアイディアに対して慎重な距離を保っている。それが極端に表れているのは、彼/彼女たち自身のヴィジュアル・イメージの扱い方だろう。ザ・ナイフは自分たちのイメージを慎重に取り扱っているようにも、巧妙に取り繕っているようにも、あるいは弄んでいるようにも見える。前作『サイレント・シャウト』(2006)のリリースに伴う取材に際して、2人は真っ黒い仮面(長いくちばしを持った鳥のような形状をしている)を決して外さなかったという。そして、7年ぶりとなるフル・アルバム『シェイキング・ザ・ハビチュアル』のリリースに際しては、対面での取材をまったく行なっていない。代わりにメディアにばらまかれたのは、ふたりの顔が判然としない写真や、体操選手とそのコーチのようなコスプレをしたイメージ、パーカーのフードを被り、京劇の化粧を簡素にしたような白塗りの上に黒いマスクをした写真など、てんでバラバラなイメージばかりである。スカイプを介して行われたガーディアン紙のインタビューで、カリンは「異なる役柄を試してみることは常に楽しいことよ」と語っている。彼女はジュディス・バトラーの「わたしたちは常に女装している」という言葉を引用しながら問いかけている。「それは"真正性"に関係しているわ。自分が本当の自分自身である時間なんて本当にあるのかしら? 私たちはつねにすでに、何かしらの役割を演じているの。ギターを持って自分の感情について歌っている男たちだって、"そういうことをする"人間の役柄を演じているんだわ」。

 ザ・ナイフの試みてきたことは、オロフによればクィア理論の実践であり、人々が「真正」だと感じる音と正反対の音――すなわち、どこから来たのかわからない、出自を知りえないような音の探求であった。そして、その音とはシンセサイズドされた音や声なのではないか、と。ジェンダーやセクシュアリティの問題へと直截に切り込んでいる、多分に政治的なこの『シェイキング・ザ・ハビチュアル』というダブル・アルバムは、彼らの作品のなかでももっともとっちらかった作品であるとともに、ザ・ナイフが試みてきたそういった音の実験のひとつの到達点であるように思える。"ア・トゥース・フォー・アン・アイ"や"ウィズアウト・ユー・マイ・ライフ・ウッド・ビー・ボアリング"、"レイジング・ラング"では、どこのものとも知れぬトライバルなパーカッションが鳴り響く一方で、19分にも及ぶ"オールド・ドリームズ・ウェイティング・フォー・リアライズド"や約10分の"フラッキング・フルーイド・インジェクション"においては、声や電子音による長大でおどろおどろしいドローンが展開される。8分以上の曲が6曲もある一方で、1分にも満たない曲もある。全編にわたってカリンのヴォーカルは奇妙に捻じ曲げられ、ピッチは激しく上下にシフトさせられ、ビートを構成するキックやパーカッション、ベースの音は気味悪く歪んでいる。まるで、『サイレント・シャウト』のゴシックでインダストリアルな感覚が増幅されすぎたために引き起こされたフィードバック・ノイズが通奏低音として鳴っているかのようだ。『シェイキング・ザ・ハビチュアル』の不快とも言えるおどろおどろしく歪んだ電子音に95分間どっぷりと浸かっていると、次第に感覚が麻痺しだし、快い忘我と陶酔に襲われる。そこでは、この音楽が"真性"かどうか、ザ・ナイフのふたりがいったいどんな容姿をしているのかは問題ではなくなってくる。快と不快、美醜、真贋といった価値づけは混乱し、転倒をきたす。

 先のインタヴューでオロフは「音楽の歴史は特権的な白人男性が書いてきた」とまで言っている。ザ・ナイフはそうした音楽の「正史」に対し、はっきりと反旗を翻している(ちなみに、オロフは出演者のうち、男性が半数以上を占める夜間のイヴェントやフェスには出演しない)。男装する老女や緊縛されるクィアが登場するヴィデオが衝撃的な"フル・オブ・ファイア"で、つんのめるようなビートがループするなか、カリンは歪んだ声で問いかける。「ときどき、わたしは解決が困難な問題(problem)を抱える/あなたのストーリーはどんなもの?/それが私の意見/問題(question)と回答には長大な時間がかかりうる/ストーリーはここに/あなたの意見はなに?」「全ての男たちと、男のお偉方は誤ったストーリーを語っている」「さあ、ジェンダーについて話そう、ベイビー/私とあなたについて話そう」と。
 "慣習を揺さぶること"と題されたこの作品においてザ・ナイフは、シンセイサイズドされたダークなエレクトロニック・サウンドによって、"自分が自分自身として生きる罰"を科す運命論者たちに果敢に挑戦し、旧弊な慣習を切り裂いている。それはじつに痛烈な一撃である。

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