「R」と一致するもの

James Ferraro - ele-king

 ダーク・アメリカ。超高層ビル。喧騒。ビジネス。エリート。キャデラック。金。路上。貧困。犯罪。夜。喧騒。人工的な光。広告。サイレン。孤独。インターネット。不穏。ジェイムス・フェラーロの前作『NYC, Hell 3:00 AM』(2013)は、監視カメラで捉えたような現代の状況/現実を、富裕層から略奪したかのごときフェイクなR&Bスタイルによってアルバムに封じ込めた傑作であった。新作『スキッド・ロウ』もまた同系列の作品といえるのだが、圧縮された音楽情報は世界そのもののように、よりいっそう錯綜している。デジタル・エディットされるヴォイス、アタックの強いシンセ・ベース、ストレンジな電子音、人工的なシンセストリングス、硬いビートと、現代アメリカの断片を切り取るような環境音が、まるで映画のサウンド・トラックのように交錯する。その情報量は前作を軽く超えている。音楽であると同時に、ディストピアなムードを放つ社会的ポップ・アートといった趣だ(※1)。

 高層ビルがひしめく都市空間。地上から虚栄の光の塔を見上げるような彼のフェイクR&Bトラックは、陶酔感や浮遊感がまるでない。フェラーロの音楽は重力に引っ張れるように下へ下へと下降する。オープニング的なサウンド・コラージュ・トラックである1曲め“バーニング・プラス”からシームレスに繋がる2曲め“ホワイト・ブランコなどに象徴的だが、R&B的なトラックは、突如、挿入されるユーチューブの動画から聞こえてくるような環境音のコラージュ・トラックによって断片化され、虚飾を剥がされていく。ボーカルはデジタル加工・劣化・圧縮され、スマートフォンのスピーカーから流れる声のように聴こえるだろう。繰り返すが、セレブリティな拝金主義などR&B的な記号はない。むしろ、手に入らないであろうそれらを嘲笑すらしている。ここにあるのは24 時間体制で監視されるようなポスト・インターネット社会の嫌悪と嘲笑に充ちた寒々しいリアリティなのである。虚飾を剥ぎ取ったミニマルなメタR&Bと電子音は、そんな私たちの現実=世界を鏡のように映し出している。たとえば“1992”で展開されるクラシカルな弦と会話のモンタージュは、21世紀の都市における空虚そのものだ(モニターのホワイト・ノイズのようなアートワークは、24時間監視世界の空白を表象しているのか)。そう、ジェイムス・フェラーロの音楽もまたOPNやアルカと同じく、ポスト・インターネット的世界における環境音楽であり実存的な哲学でありアートなのである(そこにおいて音楽の形式上の新しさ/古さなど宙吊りにされる)。不平と不安。一瞬と快楽。孤独と嘲笑。監視と不眠。本作には、21世紀特有のディストピア社会をめぐる鋭い考察が、その音楽の中に内包されているのだ。

 私はこのアルバムを聴くと、ジャン・ボードリヤールの1976年の書物『象徴交換と死』を思い出してしまう。 同書には「クール・キラー、または記号による反乱」というグラフティを扱った論文が収録されているのだが、これを39年後の現在「ジェームス・フェラーロ論」として「読み変える」ことは可能だろう。最後にボードリヤールの言葉を引用しよう。「……匿名性をひっくりかえすこの呪文、白人社会の首都の只中で象徴的爆発をくりかえすこの変容の響きに、今こそ耳を傾ける必要があるのだ。」。

※1 ジェイムス・フェラーロは、現在、東京都現代美術館で開催中の「東京アートミーティングⅥ "TOKYO"-見えない都市を見せる。」において作品が「展示」されている。キュレーターはインターネット上でポスト・インターネット・アートを「展示」するというサイト「EBM(T)」(=ナイル・ケティング&松本望睦)による。1989年生まれと1990年生まれの彼らの感覚と感性は時代の今を鋭く切り取っている。現在、注目のユニット、人物。https://ebm-t.org/)。

MONK.T (Well-def Lab.) - ele-king

SWEET SOUL45 10選

第35回:花と血の時代 - ele-king

 テロルである。
 またもや欧州でテロル勃発。今回は規模が大きいぞってんで、すわ戦争か。とゴリラのように拳で胸を連打しているマッチョな人たちがあんまり多いもんだから、なんだか息苦しいわ。と思って、ちょっとまじめな記事を書いたらとんでもないことになり、いやネットのニュースサイトってのは半端ない。間違ってトップページにでも出ようもんなら、違う考え方を持つネット政治運動家の方々から、文体は硬質なのに内容な粘質。みたいな抗議、嫌がらせのメールがわらわらと殺到し、布団を被ってぶるぶる震えていたのですが、実はあの日は同じサイトのエンタメ欄のほうでも、「チャーリー・シーン、ゴムを使わずにセックスしたのは2人だけ」という当方の記事がアクセス1位を達成していたのですが、その辺りを突いてきたメールは1通もなかったので、ちっ。と思いました。
 まあ、そんな話はどうでもいいか。

               *******

 翌日、いつものように子を学校に送り、バス停に立っているとイラン人の友人が歩いて来るのが見えた。
 「ハーーイ!」と言ってひしっと固くハグ。って別にそんなことをしなくとも、彼女とは緊縮託児所(eg昔の底辺託児所)で一緒に働いている仲なのだが、ネットの暗がりの後には生身の人間の感触がうれしい。そのまま峠の茶屋に直行することになった(いやそれが本当に坂の頂上にあるのだ。グリーンティーも出してるし)。
 彼女に思わずバス停で抱き着いてしまった理由を話すと、友人はぎゃははっと笑った。
「テロはテロを呼ぶからね」と彼女は言う。
「……ああ」
「やる方もやられる方も傍観する方も、みんなアグレッシヴになる」
「なんかそういう世の中になったよね。やけに暴力的だもん。ここんとこ目にするものが」
「そう? ニュースの見すぎじゃない?」
「ああ……。やっぱ見ないほうがいいの?」
「いや、そういうのが好きなら見ればいいと思うけど、こっちのが可愛くない?」
と言って、彼女は自分の携帯の待ち受け画像を見せた。イランにいる親戚の赤ん坊の写真だという。何か昭和の頃の日本の写真館で撮られた写真のようなアナクロさがあり、座っている赤子の周囲に花々が美しく咲いていて、ボリウッド映画のスティルまたはピエール&ジルの作品さえ髣髴とさせるクオリティーだ。
「ああ、花だ」と思わずわたしは言った。
「ははは。私の国ではプロが写真撮るとこうなるの。家族写真でも何でも」
「キュート」
と言いながらわたしは別のことを考えていた。
 なんか最近、やけに花なのである。
 硬質ぶっても粘質な数々のメールが来る原因となった記事もバンクシーの「Flower Thrower」という作品についてのものだし、「パンと薔薇」だの「米と薔薇」だの、われながら最近は花についてばかり書いている。なんかそうなってしまうのだ。

              ******

 モリッシーがジーンズの尻ポケットからグラジオラスの花を垂らして登場した「トップ・オブ・ザ・ポップス」のザ・スミスの演奏シーンは、UKポップ・カルチャー史のアイコン的シーンと言われる。ザ・スミスには、「花の時代」と呼ばれる時期があった。それは1983年から1984年春までで( Mozipediaより)、ギグでもステージを花で覆ったりしていた。最初にザ・スミスのステージに花が登場したのは、1983年2月4日のハシエンダでのステージだったそうだが、花を使った意図は、マンチェスターの音楽シーンとハシエンダを取り巻く「殺菌されたようで非人間的な」環境に対する抗議だったという。「誰もが非人間的で冷たかった。花はとても人間的なものを象徴する。それは自然との調和でもある」「花は僕たちのツアーではPAシステムより重要」とモリッシーは当時語っていた。

 当時のUKのおもな出来事を振り返ってみると、非常に暴力的な時代だったことに驚く。炭鉱ストライキにおける労働者と警察の衝突。IRAの爆破テロ。航空機ハイジャック。フーリガン、レイシズム、相次ぐ暴動。人間と人間のグループが常にぶつかって負傷したり死んだりしていた時代だったのだ。そして、その世の騒乱を押さえ付け、締め付けることによってさらなる衝突と暴力を生んだ指導者がマーガレット・サッチャーだった。
 あの時代もニュースはさぞ物騒で血なまぐさい絵のオンパレードだったろう。花が見たくなる気持ちはわかる。ザ・スミスはステージ全体を花で覆うことで、その渇望をカウンター的ステートメントに変えたのだ。
 だが、すぐにファンも花を持ち寄ってステージに投げるようになり、そのうちモリッシーが花々に足を取られて転ぶようになって、ザ・スミスの「花の時代」は終わる。
 花もけっこう危険なのである。

              ******

 緑茶をすすりながらイラン人の友人は言った。
「花って言えば、最近、センターであったポピー事件って知ってる?」
「何それ」
「いや、それが大変だったのよ」
と彼女は解説を始めた。センターというのは、わたしと彼女が働いている託児所の本体にあたる場所であり、無職者と低額所得者、移民・難民やホームレスの方々を支援している慈善施設である。
 彼女の話を聞くと、こういうことであった。英国では11月11日の第一次世界大戦休戦記念日は戦没者記念日でもある。日本は戦没者というと第二次世界大戦を思い浮かべることが多いが、英国は断然、第一次世界大戦だ。第一次世界大戦の激戦地だったフランダース地方に咲く赤いポピーの描写で始まるカナダの詩人ジョン・マクレーの詩が英誌に発表されて大反響を呼び、以降赤いポピーは戦没者たちのシンボルとなった。11月になると多くの英国人が胸にポピーのバッジをつけて歩いている所以である。
 で、あるムスリムの家族が11月の初めに全員胸にポピーのバッジを付けてわたしたちが働く慈善センターにやって来たのだという。
 彼らはパキスタンからの移民で、一家を支えていたお父さんは市役所に勤めていたそうだが、勤務していた部署がこの緊縮のご時世でリストラされ、4人の子供を抱える彼の家庭は我々の施設に相談に来たらしい。
 地方の街では、ムスリムが11月にポピーのバッジを付けているというのは見たことがなかった。が、ここ数年で変わって来ている。ISが世間を騒がせたり、社会の右傾化が進むにつれ、ムスリム・コミュニティーの一部の若者の間で「ポピーを胸につけよう」運動が広まっているのだ。特に若い女性は、赤いポピー柄のヒジャブを頭に巻いたりしているし、アナキスト団体経営のカフェなどに行くと、その運動をサポートする英国人女性もポピー柄のヒジャブを頭に巻いてカウンターで働いている。
 くだんのパキスタン人家庭の長女もポピー柄のヒジャブを巻いていたそうで、両親も弟たちもポピーを胸につけてセンターの食堂に現れたという。
 すると、食堂の隅に座っていた英国人のおっさんが唐突に激怒して暴れ出し、そのポピーを外せと彼らに怒鳴りつけ、止めに入ったヴォランティアの大学生がおっさんに殴られて軽傷を負うという騒ぎがあったらしい。
「そのおっさんって誰? わたしも知ってる人?」と聞くと友人は言った。
「M」
「ああMかあ…」
とわたしは放心してため息をついた。
 Mというのは元パンク&アナキストの60代の爺さんなんだが、鬱を認知症でこじらせているという噂があり、言動がここのところ不安定だ。
「で、その一家はどうなったの?」と尋ねると友人は言った。
「いやさすがに、それっきり来てない」

 ポピー問題は、今年は特に悩ましかった。女優のシエナ・ミラーが英霊追悼週間にポピーのバッジをつけずにテレビに出たというのでバッシングされ、英霊記念日式典に労働党首として出席したジェレミー・コービンのお辞儀の角度が足りなかったとかで、彼の頭部と胴体の角度を測って10度だ15度だと分析していたメディアもあった。こうしたムードを受け、キャメロン首相も自分の写真にフォトショップ加工でポピーバッジを貼らせていたという疑惑が浮上していたし、一番びっくりしたのは、ブライトン市内のある公立小学校のフェンスに直径2メートルはあろうかという真っ赤なプラスティックのポピーが複数出現し、校庭上空に英国旗が、ってそれも1本や2本じゃないのである。『幸福の黄色いハンカチ』状態でユニオンジャックがびっしりはためている様(先週からこれはフランス国旗に変わっている)をバスの窓から見たときには「まじかよー」と思った。あんなにキッチュ(ミラン・クンデラが言う意味での)な追悼の場をわたしは見たことがない。

 「ポピー問題は気が重いね。あれも一応、花なんだけど」
とわたしが言うと、十代の頃に国が戦時中だった友人は表情ひとつ変えずに言った。
「あれは花じゃなくて、血でしょう」
 一面に咲いた赤いポピーの中を歩きながら戦没者を追悼する女王の写真が頭に浮かんだ。
 欧州は花と血の時代に突入したのかもしれない。
 

St Germain - ele-king

 このレヴュー本編を書いたのは11月13日のパリ同時多発テロ前のことなので、意識的に取り上げたわけではないことを最初に断っておく。今回の事件については、さまざまな植民地を作るとともに多くの移民を受け入れてきた多民族国家としてのフランス共和国の背景、フランスとイスラム教徒やイスラム国家との関係などさまざまな要素が関わってくるのだが、政治だけでなくフランスの文化や芸術には多様な民族性が存在している。本作そのものは事件とはまったく無関係だが、イスラム圏の音楽を融合したフランスの作品ということで、結果的には何とも複雑な想いを抱かずにはいられない。その後、フランス政府はISとの戦争を始め、予断を許さない状況へ突入している。事件は終わったわけではないのでここでのコメントは差し控えるが、そのかわりにサンダーキャットが事件直後に発した「パリ」という追悼曲のリンクを以下に貼ることにした。
https://www.youtube.com/watch?v=GIMHOM2VSz8
https://ja.musicplayon.com/play?v=361659
https://soundcloud.com/brainfeeder/thundercat-paris

 1990年代からダンス・ミュージックを聴く人にとって、サン・ジェルマン(ルドウィック・ナヴァーレ)と言えばフレンチ・ディープ・ハウスの雄という答えが返ってくるだろう。ローラン・ガルニエ主宰の〈Fコミュニケーションズ〉、及びその前身の〈FNAC〉から、「アラバマ・ブルース」はじめ良質な作品を次々とリリースする90年代半ば。『ブールヴァール』シリーズに顕著なように、ジャズやラテンからの影響が強く、中にはDJカムに通じるようなジャジーなダウンテンポ作品もあった。当時のイギリスやドイツを筆頭としたヨーロッパでは、ジャズをキーワードにアブストラクト・ヒップホップやトリップ・ホップ、ドラムンベースからディープ・ハウス、デトロイト・テクノなどまでもが結び付いた時代だった。フランスでそうしたクロスオーヴァーな役割を担ったのが〈イエロー・プロダクションズ〉〈ヴァーサタイル〉〈Fコミュニケーションズ〉〈ディスク・ソリッド〉などで、それらを総称してフレンチ・タッチとも呼んでいた。

 そうした中、サン・ジェルマンはジャズ・ハウス・スタイルの洗練化にどんどん磨きを掛け、2000年には〈ブルーノート・フランス〉と契約し、名曲“ローズ・ルージュ”を含むアルバム『ツーリスト』を発表する。いまもジャズ・ハウスの傑作として語り継がれる1枚だ。しかしながら、『ツーリスト』は世界的にヒットしたものの、その印象があまりにも大きく、それからの活動では必ず引き合いに出されることになってしまう。2003年に〈ワーナー・フランス〉からトランペット奏者のソエルとのコラボ作『メメント』を出すものの、内容としてはラウンジ調のアシッド・ジャズというようなもので、音楽的には『ツーリスト』から後退したとも酷評された。そうした長いスランプの時代を経て、『ツーリスト』から早や15年という今年、サン・ジェルマンが復活作をリリースした。自身のユニット名をアルバム・タイトルとしたところに、改めて初心に帰るとともに、新生サン・ジェルマンという意思の表れが強く見える。

 新生サン・ジェルマンという点で、本作の大きな特徴としてアフリカのマリ共和国の音楽からの影響が挙げられる。ベルベル人系のトゥアレグ族に伝わるタカンバなどの伝統音楽をルーツに、現代性を取り入れていったのがソンガイ・ブルースで(砂漠のブルースとも形容される)、アリ・ファルカ・トゥーレ、アガリ・アグ・アーミン、ティナリウェイン、シディ・トゥーレなどの活躍で、近年は世界中から注目を集めている。ロバート・プラントからデーモン・アルバーン、フォー・テットやハイエイタス・カイヨーテなど注目するアーティストも多いのだが、フランスには昔からアフリカ移民が多く、アフリカ音楽が栄えてきた土壌がある。フランスとマリのアーティストがコラボしたドンソというユニットもあり、サン・ジェルマンの本作もその線上に位置する作品と言える。ナハワ・ドゥンビアはじめアフリカ出身のミュージシャンが多数参加し、生半可ではない本物のマリ音楽を自身の中に取り込んでいる。「シッティン・ヒア」や「リアル・ブルース」など、自身のルーツであるディープ・ハウスとソンガイ・ブルースの融合が基本にあるが、「ハンキー・パンキー」のように単なるハウス・ビートではないより自由なリズム・アプローチがあり、「ヴォイラ」や「ハウ・デア・ユー」のように密にブルースに根差した作品もある。タカンバを掘り下げることによって、「ファミリー・トゥリー」のようにジャズへの取り組みもより深いところで行われるようになった。もはや、『ツーリスト』の憑き物は完全に剥がれ落ちたと言っていいだろう。

Khalife Schumacher Tristano - ele-king

 ルクセンブルグの旗手にして、エレクトロニック、クラシックとジャズの音楽界で旋風を巻き起こし、カール・クレイグやモリッツィオとの共 演で世界にその名を知らしめた若き天才ピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ。ヨーロッパ・ジャズ界の代表選 手の一人であるヴィブラフォン奏者、パスカル・シューマッハ。そして、この二人の演奏に補完するリズム の礎を築き、このトリオの斬新なライヴを新たな音楽領域に導かすレバノン出身のパーカッションの最高峰、バシャール・カリフェ。このトリ オのライヴには魅惑的な音楽オーラが満ち溢れ、歓喜の静穏が浮かび上がり、円熟さが感じられる。彼等の新スタンダード・ミュージックの真骨頂を遂げようとする、壮絶なライヴが、 遂に日本初上陸! 今回のトリオのライヴで手厚いDJサポートするのは、何と松浦俊夫と、フランチェスコ・トリスターノと海外で共演したHIROSHI WATANABEだ!

2015年12月4日(金)
Dec. 4th, 2015 (FRI)
At CAY

開場:19:00時/開演:20:00時
Open: 19:00pm / Start: 20:00pm

前売:¥4、500 当日:¥5、500
Advance: 4,500 Yen Door: 5,500 Yen

〒107-0062 東京都港区南青山5丁目6-23 SPIRAL B1
Address: Spiral B1F, 5-6-23, Minami-Aoyama, Minato-Ku, Tokyo

For More Info: 03-3498-7840
https://www.spiral.co.jp/shop_restaurant/cay/
https://www.giginjapan.jp

Andrés - ele-king

 デトロイトを代表するデープ・ハウス・プレイヤーのアンドレスが来日する。東京公演は11月22日、今年20周年を迎えた青山蜂のアニヴァーサリー・イベントの3日目に出演し、翌日23日には名古屋のクラブ・マゴでプレイ。自身のレーベル〈ラ・ヴィーダ〉のリリースからも伝わるように、彼のセンスはいまだにずば抜けている。先日、待望のニュー・アルバムの発売も発表された。もうすぐデビュー20年を迎えるアンドレスがどんなセットを披露するのかチェックしたい。

Andrés aka DJ Dez ( Mahogani Music, LA VIDA/ from Detroit, California )
Andrés(アンドレス)は、Moodymann主宰のレーベル、KDJ Recordsから1997年デビュー。ムーディーマン率いるMahogani Musicに所属し、マホガニー・ミュージックからアルバム『Andrés』(2003年)、『Andrés Ⅱ 』(2009年)、『Andrés Ⅲ』(2011年) を発表している。DJ Dezという名前でも活動し、デトロイトのHip Hopチーム、Slum Villageのアルバム『Trinity』や『Dirty District』ではスクラッチを担当し、Slum VillageのツアーDJとしても活動歴あり。Underground Resistance傘下のレーベル、Hipnotechからも作品を発表しており、その才能は今だ未知数である。2014年、DJ Butterとの共作ラップ・アルバム、DJ Dez & DJ Butter‎ 『A Piece Of The Action』をリリース。2012年、 Andrés自身のレコードレーベル、LA VIDAを始動。レーベル第1弾リリース『New For U』は、Resident Advisor Top 50 tracks of 2012の第1位に選ばれた。パーカッショニストである父、Humberto ”Nengue” Hernandezからアフロキューバンリズムを継承し、Moodymann Live Bandツアーに参加したり、Erykah Baduの “Didn’t Cha Know”(produced by Jay Dilla)の録音では密かにパーカッションで参加している。デトロイトローカルの配給会社が運営するレーベル、Fitから作品を残すA Drummer From Detroitとは、彼である。アンドレス本人のInstagramでも公開していたが、現在new album『Andrés Ⅳ』を制作中との事であり、そのリリースを間近にひかえての緊急来日が決定した。

11.22(SUN)
Tokyo @青山蜂 Aoyama Hachi
- AOYAMA HACHI 20TH ANNIVERSARY - <DAY3>

Open 22:00
Door 2000yen with 1Drink

DJ
Andrés aka DJ Dez
THA ZORO
DJ SAGARAXX
Kacchi Nasty
DJ MAS a.k.a. SENJU-FRESH!
DJ TOKI
ADAPTOR
FLAG
FORCE OF NATURE
KOJIRO a.k.a. MELT
TATTI
G.O.N.
RYOTA O.P.P
TheMaSA
HOLY
ARITA

■SPACE DESIGN
VIDEOGRAM
■PHOTO
Nampei Akaki
■FOOD
虎子食堂

Supported by TOKYO MILD FOUNDATION

Info: 青山蜂 Aoyama Hachi https://aoyama-hachi.net
東京都渋谷区渋谷4丁目5−9 TEL 03-5766-4887

11.23(MON/勤労感謝の日)
Nagoya @Club Mago
- AUDI. -

Guest DJ: Andrés aka DJ Dez
DJ: Sonic Weapon & Jaguar P
Lighting: Kool Kat

Open 17:00
ADM 2500yen

Info: Club Mago https://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


特殊音楽、とは - ele-king

 来たる11月21日(土)、22日(日)の両日にわたって、六本木〈スーパー・デラックス〉にてFTARRI FESTIVAL 2015が開催される。今回で第3回めを迎えるFTARRI FESTIVALは、おもに00年代以降の日本の即興音楽を海外へと(そして国内に向けても)発信してきたウェブサイト「Improvised Music from Japan」を運営する鈴木美幸が、2006年にレコード・レーベル及びネットショップ部門の移行先として〈FTARRI〉を立ち上げ、その発足を記念して2008年に開かれた第1回と、こちらも即興音楽を世に送り出し続けてきた稀有なレーベル〈DOUBTMUSIC〉との共催によって2010年に開かれた第2回(正確にはこちらはFTARRI DOUBTMUSIC FESTIVAL)が過去に開催されている。前2回のフェスティバルの模様は一部の演奏が『FTARRI COLLECTION』(meenna-111-117)として7枚組のセットとなってCD化されているので、ライヴを体験できなかった方々はこちらでその様子を窺い知ることもできるだろう。〈FTARRI〉は2012年には水道橋に実店舗を構えており、レコード・ショップのみならずイベント・スペースとしても国内外の先鋭的なアーティストが集う貴重な場となっている。

 前回も前々回も〈FTARRI〉レーベルに馴染みの深い顔ぶれが並ぶラインナップだったことからは意外にも、というよりは、当然のことと言うべきなのかもしれないが、今回を含めたどのフェスティバルにおいても、繰り返しとなるようなプログラムはない。正確を期すならばFEN (Far East Network)だけは今回が2度めの出演となるものの、大友良英が主導するアンサンブルズ・アジアの活動がはじまる前と後とではこのグループの意味も大幅に変わってくることだろう。他にたとえば中村としまるや杉本拓ら幾人かは全3回に出演しているが、どれも同じプロジェクトあるいは演奏形態にはなっていない。それは出来事の一回性を重視する即興音楽にあらかじめ組み込まれた、西洋近代主義的な同一性への回帰を逃れようとする運動であるだけでなく、出演者のそれぞれが常に新たなる試みへと挑み続けていること、そしてそれを的確に見つけ出す鈴木美幸の慧眼の証左だとも言えるだろう。

 (余談だが、「大友良英のJAMJAMラジオ」において準レギュラーを務めているF.M.N.Sound Factoryの石橋正二郎に対する「特殊音楽紹介家」という呼称における「特殊」を、「変わりもの」といった意味に解するのではなく、西洋的=普遍的なるものに対する「特殊音楽」とするならば、多様化を極める現代の即興音楽が、その試行を推し進めるためにときには作曲をも試み――今回のフェスティバルにおいても作曲作品が演奏される――、すでにたんなる手段として即興を用いるだけではなくなっていることを鑑みるとき、漠然と「即興音楽」と呼んでいるそれらをゆるやかに包括する言葉として「特殊音楽」というのはより当を得た表現であるように思われる)。

 今回のフェスティバルでも、昨年〈FTARRI〉レーベルよりアルバムをリリースしたジョン・ブッチャーとロードリ・デイヴィスのデュオをはじめとして、海外から多数のミュージシャンが参加する。とりわけ注目に値するのは、これが初来日となる、近年のイギリスにおける即興音楽シーンの新しい世代を代表するひとり、パトリック・ファーマーの公演だろうか。日本からも、サウンド・アートの先駆者として著名な鈴木昭男が参加する一方で、10年代に入ってから目覚ましい活躍を続ける歌ものデュオju seiや、現在進行形の日本のマイナー音楽を紹介するプロジェクト「MultipleTap」を主宰する康勝栄、吉田ヨウヘイgroupやインプロ・トリオの發展でも活躍する池田若菜など、新しい世代の参加が目立つ。音楽フェス戦国時代といわれるいま、それをスポーツにもたとえられる交流の場とすることとは一線を画しながら、あくまで音楽の質にこだわり、いままさに起こりつつある「特殊音楽」の世界に存分に浸かることのできるまたとない機会になるだろう。出演者の一人ひとりが場の一回性に賭けるように、このフェスティバルもまた、ただ一度きりの出来事に賭けている。それを逃したあとで手に入れる術はない。 (細田成嗣)


Ron Morelli - ele-king

 2010年代のNY地下ハウス・シーンにおける異能にして先端、そしていまやロウハウス(生ハウス!?)なんて界隈を牽引し、ある種のダンス・シーンの核心として世界中の注目を集め続けるレーベル〈L.I.E.S.〉。そんなレーベルのボスであるロン・モレリのサード・アルバムがリリースされた。

 リリースは前2作と同じく、プリュリエントやヴァチカン・シャドウ名義でお馴染みのドミニク・フェルノウが主宰する〈ホスピタル・プロダクションズ〉から。ということで、古き良きノイズ/インダストリアルを父に持つ、近しい親戚同士ともいえるロン・モレリと〈ホスピタル・プロダクションズ〉の「まぜるな! 危険!」印のついたイケナイ化学反応は本作でも並はずれ。トンデモナク深刻でアブナイ事態になっている。

 ファーストの『スピット』(2013)が、トレードマークのロウなマシンハウス・ビートを多様した、ポストパンク的で色気のある光沢ブラックだとすれば、つづくセカンド『ペリスコープ・ブルース』(2014)は、ビートを減退させて不吉な音響を増殖させるも、ところどころにアシッド臭とトレンドの香りを残した半光沢ブラック。そして本作『ア・ギャザリング・トゥギャザー』は、暴力的な切れ味といぶし銀な煙たさを主成分に、なめす前の皮のごとくむき出しの音の質感に身命を捧げるロン・モレリの騒音性癖がいよいよたけなわに突入。それが闇とともにどろり落ちてきて、すこぶるべっとり厚塗りされたツヤ消しブラックといったところか。

 壊れた重機が低いうめき声を発しているような地を這う屍ドローン“クロス・ウォーターズ”からはじまる9つの楽曲は、前2作品で耳にすることができたマシンビートの輪郭を削ぎ落とし、それと引きかえに内臓破りの鋭利な振動をたっぷり与えてくれる。こいつはいつになくノイジーだ! 分厚く重なるもっこりとしたロウファイ具体音が耳をまさぐる“ニュー・ダイアレクト”。ストレンジでリズミカルなハンドクラップがざわざわ耳をはやし立てるタイトル曲“ア・ギャザリング・トゥギャザー”。脈打つ軋みがギシギシと頭蓋骨まで到達したかと思えば、無為に鳴り響くクラクションが空虚極まりない“デザート・オーシャン”。デヴィッド・ジャックマン(オルガナム)ばりの穏やかでないマシンガン・ノイズがズバババババババ〜ンと炸裂する“ヴォイシズ・ライズ”。伝説のフリージャズ集団=ムジカ・エレットロニカ・ヴィヴァの乱痴気からサイケ色を払拭して、暗黒エレクトロニクス・ノイズ化したような“トゥ・セレブレイト・スルー・ザ・ストーム”など、重々しく生々しい鋼鉄エレクトロニクスが加熱と冷却を繰り返し、そこから生じるひずみと亀裂が世にも美しい断面をさらす。

 インダストリアル・ミュージックがずいぶんと手に取りやすくなり、明るくカジュアルに聴かれるようになったいま。そんな秩序の裂けめから産まれた—──なんとも掴みづらい陰鬱さを湛え、いわく言いがたい高揚を誘う—──不良の夜のためのインダストリアル・ミュージックに、両手両足のひらを交互にフルに使って拍手(とっちゃん叩き)を送りたい。

 風邪をひいたのかどうも喉が痛いです。そんなとき口ずさむのは破裂音が比較的少ない、フレッチポップあたりが喉に優しいのかもしれません(適当)。
 と言ったところで……、本日ご紹介するのはこちら!


注:手書きポップに書かれているイニシャル「W.A」とは僕のこと。このポップを書いた2012年当時は33歳だったが現在はもう少し歳をとっている。以後すべて同。

 このCDは、90年代以降のフレンチ・ポップを代表するミュージシャン、マチュー・ボガートの1998年のアルバム。端的にめちゃくちゃ小気味良くて超オサレサウンド。それだけでなくアンサンブルも重層感溢れる作り込みなのでかなり聴き込める内容です。最近では、齢を重ね小太りになったご本人が全裸でオルガン弾いているPVが、Youtubeで話題になったこともありましたね。

 まず、のっけから「おいおい、ジャケないじゃねぇか!」って感じなのですが、これは僕がなくしたのではなく、「CDだけ」を借りパクしてしまったパターンなのですよ。


ジャケはどんな感じだったかな……
Mathieu Boogaerts / J'En Ai Marre D'Être Deux / Island / 1998

 どういうことかと申しますと、たしか2000年代のはじめだったと思いますが、当時新婚ホヤホヤだった姉貴とその旦那(つまり僕の義兄)であるまっちゃんといっしょに車に乗っていたとき、運転しながら彼がこのアルバムをかけてくれたんですよね。まっちゃんは音楽好きで、学生時代にベースも演っていたらしく、ちょくちょく音楽の話もすることがあったんだけど、彼の口から出てくるミュージシャンはELLEGARDENとかマキシマムザホルモンとかまぁざっくりエモ系ロック(まずその2つをいっしょにすんなよって感じですよね……、でも音楽ジャンルの詳細は本コラムではひとまず置いておいて……)だったんですよ。そんな彼が突然、超クルーナー・ヴォイス(つぶやき系)バリバリのフレンチ・ポップをかけてきたもんだから、車中で思わずびっくりしちゃいまして。しかも、それが良かった。そして「ねぇ、これなに?」って訊いたら、彼も「ええっと、マシュー、いやいやマチュー……えー、ボガ、ヴォガ……」みたいになってしまって要領を得なかったので、自分であらためてネットで調べてみたのでした。まずは自分でマチューのCDを買う「参考までに」ですね、彼からこのCDを拝借。家にあるPCでCD-Rに焼いてその日中に返すつもりだったからジャケもケースも借りず、CDだけを裸で頂いた記憶があるんだけど、でもなぜ返さなかったのかが未だに思い出せず……。

 この「家族・親族ネタ」っていうのは、「いつでも会えるしね……」という謎の余裕感のもと、結局、お盆も、年末年始も、返すことはないのですよ。まだまだありますよ。親父からはあれを、姉貴からはあれを……。それはおいおい紹介していくとして、まずはまっちゃん、ごめんなさい。お仕事頑張ってますか? 改まって訊きますが、そもそもなんでこのCD、持ってたんですか?


Illust:うまの


パクラーのみなさまからのお便り

お名前:賭博食事録ヒマンジ
性別: 男性
年齢:23

借りパクした作品:
LIBRO / 雨降りの月曜(12インチ限定アナログ盤)(2007)

借りパクした背景、その作品にまつわる思い出など:

 高校生の頃の私は家が貧乏で小遣いも少なく、そこから部活動に必要な道具を買っていました。そして余ったお金を少しずつ必死に貯めて、中古とはいえ念願のターンテーブルを手に入れたところで貯金が尽きてしましました。田舎に住んでいたのでネットでしか物が買えず、送料等を考えると貧乏高校生にはとても買えるものではありませんでした。そこで、遠くに住んでいる音楽が好きな従兄に電話をしました。「何でもいいから、一枚でいいからレコードを貸して! 送って! ちょっとしたら返すから!」と。従兄は笑いながら承諾をしてくれて、数日後にこのレコードが送られてきました。うれしかったですよ。初めての生のレコード。興奮したのをいまでも覚えています。返さなきゃと思いながらも、もったいなくて返せずにいました。もう返すこともできません。従兄は事故にあって他界してしまいました。返してくれと一言も言わず、ずっと貸してくれていました。長くなってしまいましたし、本来の意向とはちがうものかもしれませんが、こんなことを思い出し投稿してしまいました。これが私がいまのところ人生で一度だけしてしまった借りパクです。

借りパク相手への一言メッセージ:
いまでも大事に持ってるよ。音楽が、日本語ラップが好きになったきっかけだよ。おかげで音楽に携わる仕事に就くことができています。ありがとう。

※文字表記等は一部編集部にて変更させていただいております


LIBRO / 雨降りの月曜


アサダからのエール

 賭博食事録ヒマンジさん、お手紙ありがとうございます!!
 じつはヒマンジさんはいちばん最初にお便りをくださった方なんです。あらためて御礼を申し上げつつ、僕なりにエールを送らせてください。

 まず返そうと思っても返す相手がもうこの世の中に存在しないという空虚さについては、正直僕はまだ経験したことがないので、軽はずみなことは言えないなと思っています。
 でも、この従兄さんの一枚のレコードがとにかくヒマンジさんの人生を確実に変えたこと、それ自体は僕はとっても素晴らしいことだと思います。

 そのレコードがLIBROの「再発盤」だったということがとても気になりました。
 LIBROの“雨降りの月曜”が収録されているアルバム『胎動』はたしか1998年リリースで、まさに僕にとっては10代後半のもっとも音楽に多感な時期に聴いたものでした。
 そしてこの頃聴いていた音楽というのは30才を越えてからなぜだか再び聴きたくなるもので、いまでもそういった音楽が僕のまわりにはたくさんあって心の中で「リサイクル」されています。
 従兄さんの世代はお手紙ではわかりませんが、ひょっとしたら1998年やそのあたりにこの“雨降りの月曜”をリアルタイムに聴かれていたのではないでしょうか?
 それを「懐かしい」と感じて2007年に再発された限定アナログ盤を再び聴き、その音楽をヒマンジさんのようなさらに若い世代に引き継ぐ責任(もちろん直感に近いものだと思いますが)のようなものを持ちながら、あなたにこのレコードを貸したのではないかと、勝手に妄想してしまうのです。

 そう、あくまで僕の妄想です。でももしそうだとしたら、まさに、いまヒマンジさんがJ-HIPHOPに目覚め、そして、音楽に携わる道へと導かれたことは、月並みな言い方なのは覚悟の上ですが、きっと従兄さんは空の上からそのことをとても喜んでいるのではないかと思うのです。なんだか勝手なことを申してごめんなさい。

 とにかく、僕も久しぶりに『胎動』をApple Music‎で堪能しながら、この返答を書いています。この曲、ほんといいですね。
 まとまりがありませんが、どうぞ、これからも音楽のお仕事頑張ってくださいね。


■借りパク音楽大募集!

この連載では、ぜひ皆さまの「借りパク音楽」をご紹介いただき、ともにその記憶を旅し、音を偲び、前を向いて反省していきたいと思っております。
 ぜひ下記フォームよりあなたの一枚をお寄せください。限りはございますが、連載内にてご紹介し、ささやかながらコメントとともにその供養をさせていただきます。

P-FUNK ALL-STARS - ele-king

 オリジナルは90年に発売され、近年は廃盤になったままだったが、先ごろ知らないうちにリイシューされていた。タイトルの中に記載はないが、83年の「Atomic Dog Tour」の終盤のLA公演を収録したものだ。“Atomic Dog”と言えば、スヌープ・ドッグでもおなじみのフレーズ「Bow-wow-wow-yippie-yo-yippie-ay」を含むオリジナル曲。82年にジョージ・クリントンのソロ名義で発表された『Computer Games』から大ヒットした曲で、サンプリングに使われることの多いPファンクの曲の中でも、アイス・キューブ、ビッグ・ダディ・ケイン、デジタル・アンダーグラウンド、2パック、レッドマン、NASを含め、もっとも多くサンプリングされているのではと言われる有名曲だ。80年代に入って、Pファンクは様々な事情から急激に失速し、81年には一派離散の状態にまで追い込まれたが、この曲の大ヒットによって、しばし休止されていたツアーを再開できる状態に持ち直した。そして本作は、久々のツアーを楽しむメンバーたちの最高のパフォーマンスが収められた名盤だ。

 だからいつ聴いても、こうやって固唾をのんで聴き入ってしまう。ヒップホップ世代が好むあらゆる音色を70年代にすでに作り出していたと言っても過言ではないキーボード奏者のバーニー・ウォーレルのソロによる“Chocolate City”が流れる中、JBのバンドでサックスをブロウしまくっていたメイシオ・パーカーが、ほどよい緊張感を伴う煽り効果抜群のMCをはじめ、演奏が“P-Funk”に切り替わると、待ちきれないオーディエンスが歌い出す。バーニーの演奏がバッキング風に移行し、“Do That Stuff”と“Joyful Process”を調子よく挟みながら進行すると、ドラムスのデニス・チェンバースとベースのロドニー・スキート・カーティスの鉄壁のリズム・セクションが加わり、気が付くとギターも加わっている。メイシオの紹介に導かれてPファンク・ホーンズの3人も元気よく加わり、ここでも“Do That Stuff”のフレーズが挟まる。
 そしてジミ・ヘンドリックスに勝るとも劣らない天性のギタリストのエディー・ヘイゼル、高校卒業と同時にPファンク入りしたマイケル・ハンプトン、ジャズからロックに至るまで高度に対応できるブラックバード・マックナイトらのギタリストが紹介され、ドラムスの合図で全員での演奏が一丸となって最高潮に達する。その後、すっと音量を控えると、ロン・フォード、ピーナット・ジョンソン、マイケル・クリップ・ペイン、ゲイリー・マッドボーン・クーパー、ライジ・カリーのヴォーカル陣によるタイトなコーラスが加わり、次いで再度、演奏が爆発するとギター・ソロが絡み合い、トドメはオムツのゲイリー・シャイダーの強力なシャウト! このメリハリ効きまくりのオープニングの高揚感には、聴くたびに同じだけワクワクする。その後のすべての曲も、3本のリード・ギターの大音量の絡み合い、パーカッション奏者が別にいるのかと思うほど千手千足観音のドラムス、メロディアスにグルーヴするベース、解き放たれた奔放なキーボード、やたらに勢いのあるホーン隊、息の合った美しいハーモニー、ナスティな大声の瞬発力のあるリード・ヴォーカル。これらがひとかたまりになって、ぐわんぐわん転がり抜けていくスリリングな演奏の連続だ。

 でも、このライヴはみなさんが思い描いているPファンクのライヴとは、ちょっと様子が違うかもしれない。通常、Pファンクのライヴは、実際はきちんとオーガナイズされているにせよ、もっとルーズでごちゃごちゃした猥雑な楽しさが前面に出ることが多い。だがこの時は、60年代終盤からの“Go crazy!”(クレイジーにいこう!)という方針はそのままに、高度な音楽性との融合が実現された奇跡的なライヴなのだ。それゆえ、あまりPファンクらしくないと言われることもあるが、何と言われようと私はこのライヴ盤が大好きだ。

 中でも特に好きなのは、Disc 2 の2曲目の“One Nation Under A Groove”だ。ゲイリーの“Is this one natiooooooon?”という渾身のシャウトに続き、序盤こそオリジナル通りだが、中盤以降は小刻みに跳ねるリズミックなブリッジを挟んで、ぐっとジャジーで柔らかく幻想的な彩りのアレンジとなる。このPファンクらしからぬ美しいアレンジは、メイシオのMCにも聴き取れる「ボルティモア・コネクション」というバンドが鍵。Pファンクのツアー休止中に、スキート、デニス、Pファンク・ホーンズを含むボルティモア周辺のメンバーたちが組んでいたバンドだが、彼らが自分たちのショーで同曲を演奏していた時のアレンジが、ここにそのまま持ち込まれたのだ。こんな名演奏にも関わらず、アナログ(2枚組)では収録時間の制約のため未収録、そのためCDではボーナス扱いになっているのが泣ける。そしてこの曲に限らず、このライヴでのボルティモア・コネクションが果たした役割はとても大きい。

 ところでこのライヴには3つの特徴がある。まずはPファンク名物のひとつである女性コーラス隊の不在、つまりバンドは完全なる男の世界であること。その理由は未確認だが、みんなが待ち望んだツアーの再開にあたって、惚れた腫れた的な余計なことで集中力が削がれないように、ジョージがあらかじめその可能性を排除したのでは、というのが私の推測だ。ふたつめは、このツアーの音楽監督でもあったメイシオがサックスを吹かずMCに専念し、演奏は唯一、“Maggot Brain”のイントロのフルートだけであること。これはたぶん先のボルティモア・コネクションとも関係があり、すでにまとまっているPファンク・ホーンズに先輩格のメイシオが加わって調和を乱すより、MC役に徹したということではないかと思う。最後のひとつは、久々の晴れ舞台のわりに、ジョージの出番が思いの外、少ないこと。いつのショーでもオープニングから登場までや、ギター中心のインスト“Maggot Brain”をはじめ、ジョージが袖に引っ込んでいる時間は結構あるが、本作の音を聴く限り、“Knee Deep”と“One Nation Under A Groove”も、ほとんどゲイリーに任せっきりで、いつも以上に存在感が薄いように感じる。でもこれは逆に言えば、ジョージの存在感に頼る必要がないほど、この時のバンドは充実していたということでもあるのだろう。

 そういうわけで、いろいろな意味で珍しくも素晴らしいPファンクのライヴを、何度でも聴いて、ひとりひとりの演奏の隅々に至るまで存分に味わってほしい。何度、繰り返して聴いても飽きないどころか、そのたびに新発見があって楽しさが増すことは、本作が発売された90年から四半世紀、いまだにその体験を継続中の私が保証する。

 最後に、冒頭のMCでブーツィーの名前が聞かれるので不思議に思った人もいるかもしれないが、ブーツィーは兄のキャットフィッシュとともにこのツアーに同行しており、本作には未収録ながら、ショーの後半で“Body Slum”を披露していたことを付記しておこう。

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